俺とクーデレ幼馴染の日常   作:ラギアz

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俺と幼馴染と山登り

 合宿、二日目。

 今日は朝から登山だ。朝食後、弁当を貰ってバスで山まで行き、班に分かれて山を登る。目的の一つには勿論登頂、そして簡単なレポートを書くのだ。内容は植物や山の気候など、登る山に関係のあるものならばどんな物でも良いらしい。

 リュックを背負って、水筒と貰った弁当、筆記用具などを中に入れ。

 幾つもある登山道をくじ引きで決まった場所と順番で登頂する。因みに俺たちの班は一番難しいルートの、真ん中当たりでのスタートだ。

 桜と永大、凛に続いて俺もバスを降りる。同じクラスの他の奴らもぞろぞろと降り、先生のお話し。

 それが終わって、遂に一組目が山へと入っていく。永大と雑談をしつつ時間を潰していると、結構直ぐに俺たちの班の出発時間が来た。先生に出発することを告げ、ぞろぞろと山道へ入る。鬱蒼と生い茂る緑の中に、散りかけの花があるのは春の終わりを俺たちに知らせてくれる。澄んだ空気を胸一杯に吸い込みつつ、スニーカーの裏ででこぼこの山道をしっかりと踏みしめて行く。

 この山はそんなに高くは無い。とはいえ、二時間は掛かる。

 ハイテンションな永大は体力のペースも考えずにガンガン飛ばしていき、悪乗りした凛はそれを追いかけていった。

 後に残された俺と桜は、お互いに無言で歩き続ける。

 というのも、体力が少なめな俺はぜーはーぜーはーしており、到底話せない。

 そしてそれを理解しているから、桜も話しかけはしない。時折ちらりと此方を見るものの、直ぐに前を向く。

 水筒に入っている冷たいお茶をこまめに飲みつつ、ごつごつしている岩を全力で乗り越える。滅茶苦茶グロッキーになっている俺は、永大と凛が遠くに行くのを呆然と見つめていた。

「……足が速いのと体力があるのは……別だぜえ……」

「急に何を言ってるんだか。遂にぶっ壊れたかな?」

「ふっへっへ、ぐらんぐらんしてやがるぜ」

「相当な重症だね。精神科に行くことをお勧めするよ」

 俺のちょっと先を行く桜は顔色一つ変えずにそう呟く。こいつなら全力疾走でこのくらいの山なら登れるんじゃないか……?

 平坦な道ならまだ何とかなる。

 しかし山は坂道で、ごつごつしている!この所為で体力がごりゅごりゅっと削られるのだ。

 絶対山岳部とかには入らない。そう決意したのは小学生の頃だったか。

 

 

 二時間後。

 丁度太陽が真上に出て来た辺りで、俺と桜は頂上へ着いた。

 班ごとに山頂での記念写真を撮って、皆揃ってからの昼食になる。山頂からの景色は圧巻で、青空と壮大に広がる緑、吹き抜ける暖かくて爽やかな風が心地いい。体力が回復するまで岩に座って景色を眺め続けた俺は、やることも無いのでリュックからしおりを取り出し、読み始めた。

 こう見ると、結構自由時間が多い。今日もお昼を食べてから下山し、予定は三時ごろ。そこからバスに乗って宿泊施設へ帰り、およそ二時間の自由時間があった後に班別バーベキューだ。

 その後もキャンプファイアーとかあるものの、その内容は未だに知らされていない。

 チェックしてる間にも、どんどん登頂者は増えていく。桜はイケメンと係の仕事をこなし、その後ろには藻部が居た。今日は青いバンダナだ。

 岩の上に座っていると、色んな人が見える。

 そしてだからこそ、どこか皆の輪に入り切れていないような不思議な孤独感を感じる。それは嫌いではなかったが、好きでもない感覚。

 遠くで騒いでいる永大や、桜に話しかけている藻部を見ていると段々眠くなってきてしまう。

 今日は天気も良いし、温かい。何よりもこの皆の話声で安心できるのが一番大きい気がするのは気のせいか。

 うつらうつらとしていると、どうやら全部の班が登頂しきったらしい。先生がそれを告げて号令すると、そこからはお昼ご飯の時間。永大と凛もどこからか帰ってきて、桜も纏わりつく男子どもを一掃してここまで来た。迷惑そうに息をついて、宿泊施設の人に作って貰ったお弁当を桜は開くと、お握りを手に取ってかぶりついた。

「いやあ、良い天気ですなあ!ご飯も美味しいぜ」

「そうだねー。晴れてよかったね」

 永大が大げさに言うと、凛もニコニコと同意する。

 黙々と食べ続ける俺と桜に比べて、奴らは元気である。羨ましい。

 年寄みたいなことを言っているが、俺は一応高校一年生だ。食べ盛りに育ち盛り、人生で一番青春に憧れている時期でもある。ソースは俺。

「山で食べるってのも良いもんだよなあ」

「今度お弁当を作って二人でピクニックしても良いかもね」

「桜と二人でか。良いな、今度二人で行こうか」

「うん。約束だからね」

 簡単な約束を交わすと、桜は少し微笑んでから機嫌よさそうにたくあんを齧った。俺も周りの男子の刺す様な視線をなるべく気にしないで、串に刺さっている焼き鳥を口に入れる。

 お握りと言うのは不思議で、何にでもあってしまう。喉が渇きやすいのが欠点だろうか。

 そんな事を考えつつ、俺は水筒に手を伸ばして、それが空であることに気付く。やはり上って居る時に飲み過ぎてしまったか、失敗したと思っていると。

「……はい、これ」

 突然、俺の右隣から水筒が差し出された。

 ピンクの可愛らしい、小さな水筒の持ち主は桜である。180°向こうを向いて、水筒を持った手だけを俺に突き出している。

「ありがとー……!」

 胸の奥につっかえてる物の隙間から声を絞り出し、俺は水筒の中身を飲み込む。

 何とか飲み込み、つっかえていた物を流す事が出来た。水筒の蓋を閉めて、まだそっぽを向いている桜に手渡すと、俺は食べ終えた弁当の蓋を絞めた。

「ごちそうさまでした」

 きちんと手を合わせて告げると、目の前で凛と永大がニヤニヤしつつ此方を見ていた。

「どうした?」

「いやいや、別に何も無いぜ?」

 聞くと、わざとらしく永大は肩をすくめる。

 そしてその後を、凛が大声で引き継いだ。

「まさかこんな処で間接キス(、、、、)するなんてね!何とも無いよね!!」

「んなっ!?」

「……っ!」

 言葉を詰まらせると、桜も肩を跳ね上げた。

 永大と凛はまだニヤニヤとしており、二人は桜へと言葉を放つ。

「結構大胆だったね。いやはや、あんなに桜さんに勢いがあるとはな!」

「そうだねー!にゃふふ、初めてのキスのお味は!?」

「は、初めてじゃないし……ッッ!!」

「嘘だろ桜!?お前どこで誰とキスしやがった!?」

「キミとだよ小さい頃にしただろ馬鹿野郎!!」

「「ひゅーひゅー!」」

「うっそ覚えてねえんだけど!!」

「んなっ……!ばーかばーか!山頂から落ちて死ね!」 

 正直に言うと、桜は涙目になりつつ俺に向けて叫んだ。その瞬間に色んな方面から殺気が溢れ出したが、俺はそれを全力で無視して唇を手の甲で拭う。

 そうか、俺ってファーストキスを済ませてたのか……!

 知らなかった!やべえ、しかも覚えてないんだけど!何一つ!

 落ち着け、そして思い出せ。そう、あれは(多分)夏の日(だった様な気がする)だ……。

 あの日、俺はかくれんぼをしていたんだ。家の中で。外に出たくないから、ベランダ越しに居る桜を呼んで、家の中で二人っきりで。桜はその頃から天才で、鬼になれば絶対俺を捕まえ、隠れる側になれば捕まることは殆どない。

 その日も俺が負け続けていて、そして桜が唐突に言ったんだ……。

『負けたら勝ったほうの言うことを何でも一つ聞くって言うルールを追加しよう』

『良いだろう……。この世界の終焉を告げる者(ワールドブレイカー)が相手してやろう!!』

 俺は早くも厨二病を開花させていた。

 黒歴史である。因みに開花するのが早かったからか、今はもう二つ名は名乗っていない。精々ラノベとアニメにはまったくらいだ。

 ……んで、その勝負で俺は瞬殺されたんだよな。

 あの時の桜は強かった。本当に鬼みたいだったのを覚えている。

 それから、そのままの流れで……桜は、えっと……。

『言うことを聞いてもらうよ』

『ふっ……。我が負けるとはな。良かろう、なんでもいうがいい!』←俺です。

 

『ボクとキスしろ』

『ふぁっ?』

 

 ……………………。

 

「キスしてって頼んできたの桜じゃんっっ!!」

「ああああ!なんで言うのさこの低能!!」

「「桜ちゃん大胆ー☆」」

「「「「「「「「「暁結城死ねよマジでええええええ!!!!!」」」」」」」」」

「何で俺だけなんだよおおおおおおおお!!!!」

 

 最早恒例となりつつある叫び声に、恒例となりつつある叫びを返す。

 その後追いかけてきた藻部を桜が昇竜拳でぶちのめすや否や、俺たちはさっさと下山して行った。

 

☆★☆

 

 帰って、その後の行事は班別バーベキューである。食材は準備されるものの、調理は全て自分たちで行う。交友を深めるやらなんやら言っていたけど、肉を焼くだけである。ぶっちゃけ。

「エバラ黄金のタレは無い……だと……!?」

「嘘だろ……!!そんな、暁、俺たちはいったいどうすれば良いんだ!肉にかけるのなんてそれくらいしか思い浮かばねえよ!」

「落ち着け永大!まだ希望はあるだろう。そう、塩だっ!!」

「塩……!?」

「ああ。しかし奴は肉の味を楽しむためのもの。この明らかに特売でした的なお肉には合わない……。だが、背に腹は代えられない!!俺たちに残されてるのはそう!ソルトのみ!」

「うおおおお!!ソルト!塩!」

「行くぞ永大!塩を求めて調味料現場まで行くんだ!!」

「ソルトおおおお!!」

 下ごしらえを一瞬で済ました桜と、その手伝いで意外に高い料理スキルを見せつけた凛。

 やはり凛は女子力が高い。大きいし。大きいし!それにポニテが良い。

 ……まあ、ガン見してたら突然デスソースが桜の方面から飛んできたんだけどね!!

 男子どもはその間何してたかというと、ずっとエバラ黄金のタレを探していました。見つかりませんでした。なのでお肉を焼いて、それを皿に載せて、叫んでいました。今ここ!

 とまあ、塩を持ってきた俺と永大は凛と桜にそれを渡しつつ、二人で女子たちに向けて90°の礼をする。

「ど、どうしたの?」

 流石の凛も戸惑ったように尋ねてくる中で、もきゅもきゅとピーマン(苦い)を食べながら桜は呟いた。

「……どうせ、タレを作ってくださいとかでしょ?」

「「イエス!!」」

「うん、そこまで潔いとは思わなかったね。……作っておいたから、好きなだけ食え。その代わりに肉を焼け」

「「あざーっす!!」」

 ピーマン(苦い)をどんどん食べつつ、桜は鍋を指さす。そこには黒い、魅力的な匂いのするタレがあった。俺と永大はそれを紙皿に入れて、肉を漬けて食べる。テンションが一気に上がる。美味い。桜の料理スキルは素晴らしいという事が全身で感じられる。

 男子は肉のタレだけでテンションがMAXになれるのだ。美味しい物は美味しいしね!

「野菜も食え」

「ちょっ!?何で俺だけ!!永大は!?」

「彼は別に良い。不健康でも関係ないし……」

「桜さん酷いっす!!野菜食うし!!」

「それに、結城には健康で居てもらわなきゃ。ボクより先に死ぬのは許さないからね」

「お、おう。……やめて!ピーマン(苦い)はやめてくれ!!」

「人参もトマトもピーマン(苦い)もナスもゴーヤもダメって味覚がお子様すぎるよ!!」

「グリーンピースもズッキーニもだし!!なめんな!」

「加速させるな!!増やすな!ほら、食え!食わなければ直々に口に突っ込んでやる!」

「や、やめ――――ふごもっ!に、苦ふがもっっ」

 拒否をしていると、自身の箸でピーマンを掴んだ桜が俺を取り押さえ口に無理やり突っ込んでくる。

 せめて俺の箸を使ってほしかった。桜は結構抜けているところがあるのだ。

 勿論それに気づいた永大と凛はニヤニヤしている。相変わらずこいつらは仲がいい。

「さ、桜!間接キスですよ!」

「っ!――――知らないね!!良いから食べろぉ~!!」

「食べるから!!食べるから離して!!」

 結局、それはバーベキューの時間が終わるまで続いたのだった。

 

 さて、俺の体力がゼロを通り越してマイナスにぶち込んだところで、遂にキャンプファイアーのお時間だ。

 二日目の夜、これが終われば俺たちは家に戻り、土日を挟んで再び学校生活が始まる。それを喜ぶ人も、嘆く人もいるだろう。

 しかしそれは忘れて、目の前の事を楽しむのが俺のポリシーである。

 決して現実逃避ではない。断じて。

 バーベキューの匂いがまだ少しする中で、桜がイケメンと共に前へ出る。マイクを手に持った桜は、しおりを片手に俺たちへと話し始めた。

「えー、では今からキャンプファイアーを始めます。入学記念合宿の二日目を締めくくる行事です。みなさん、大いに楽しんで下さい。それでは――――着火をお願いします!」

 桜の綺麗な声が響くと同時に、俺たちの前にあった大きなキャンプファイアーが紅蓮の炎を揺らめかせる。瞬く間に大きくなった炎は暖かく、そして日が沈みかけている藍色の空に映えている。

 その幻想的な光景を背景にして、数秒無言のままその光景を楽しんでいた桜は再び話し始めた。

「キャンプファイアーが、無事に付きましたね。それでは今からメインの行事である、」

 桜は言葉をそこで切り、そして俺と視線を合わせて微笑んだ。

 その動作で、ぶわっと男子どもが盛り上がる。俺も例外ではない。

 微笑みを絶やさず、マイクへと口を近づけて、桜はキャンプファイアーをバックに最後まで言い切った。

 

「――――――――キャンプファイアーを囲んでのダンス会を、開始します」

 

 そして。

 男子共(俺含む)にも、炎が燃え上がった。


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