俺とクーデレ幼馴染の日常   作:ラギアz

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俺と幼馴染と最終日

 男子の殺気が膨れ上がり、桜は若干たじろぎながらもマイクをしっかりと握り、ダンス会の詳しい説明を続ける。キャンプファイアーの中に薪を放り込んでいる先生は此方に興味も無いようだ。それでいいのか担任。

 ざわめく男子、その中には勿論俺――――平均平凡、言わずと知れた暁結城も居た。

「えっと……ダンス、というので相手が必要です。今から十分間程、皆さんにはダンスの相手を探してもらいます。相手は男女どちらでも構いませんが、交流を深めるということなので別クラスの人と踊ってもいいでしょう。寧ろそれをお勧めします。まだまだ高校生活も始まったばかりです。全クラス親睦を深めて、楽しんで一年を過ごすためにもこういったチャンスを有効活用して下さいね!」

 それでは、と桜が言ったところで男子は全員走り始める準備を整える。

「では、十分間……どうぞ!」

 その一言ともに、男子は全員地面を蹴り飛ばした!

 砂利が舞い上がる。それを跳ね返しつつ、スライディングもかましつつ男子は殆ど全員マイクを持ったままの桜の前に並んだ。唖然としつつ、やっぱりこうなるかーと疲れたような表情を浮かべるのは、何を隠そう俺の幼馴染である。

 名前は雪柳桜。綺麗で艶やかな黒髪ロングストレートに、真夏の空のように蒼い目。抜群のスタイルに端正な顔立ち――――およそ言葉では表現できないような、見る人全てが釘付けになるレベルの美少女だ。

 世界中を探しても、桜を超える美少女は発見できそうにない。

 次元が違う。人形の様な、とかそんなレベルを通り越しているのだ。

 くびれもあるし、しっかりと胸は膨らんでいる。性格も良いし、何よりも運動勉強家事何でもできるのが強みだろうか。桜は優秀だ。出来ないことは、殆ど無いと思う。

 さて、そんな人物がクラスに居たら男子は全員食らいつくのが当然だろう。彼女持ちとかは別だし、同性愛者は論外である。瞬く間に桜の前へ並んだのは、全クラスの男子。ちらほらと並んでいないのも見える。が、しかしそれは長蛇の列。十分間の短い間に桜はこの人数をさばけるのだろうか。

 時折見えるイケメン達に殺気を込めた視線を向けつつ、冷静に無表情で全てを切り捨てていく桜を眺める。可愛い。

「……暁、どうだね」

「永大か。お前並ばないの?」

「ふっ、俺は実を言うと桜さんよりも凛さん押しなのさ……。桜さんも可愛いけど、もう彼氏居るようなもんだしな。という事で俺は凛さんにアタックしてくるぜ」

「まって、彼氏いる様なもんってどういう事だおい待てえい!!」

 言うだけ言って、女子と話していた凛の処へ行く永大。大げさに跪き、右手を伸ばし……。

 何と!凛はその手を取った!!永大がダンスの相手を捕まえるのに成功した瞬間に、永大が一番驚いていたのはあいつの名誉の為に言わないでおこう。

 さて、その間にも桜待ちの列はどんどん進んでいく。それも、桜は大体を一言で切り捨てているからだ。女子人気も高いであろうイケメンもばっさり切るその姿勢に、時々だが「ありがとうございます!」という言葉が聞こえるのは気のせいだろうか。

 ……気のせいという事に「ごめん無理」「ありがとうございます!」……出来ねえじゃねえか!

 だが、如何せん列は長い。進んではいるが全く減らない状況で、残り時間はそろそろ五分に差し掛かろうとしている。まだ俺から桜へは遠すぎるといっても過言ではなく、徐々に焦り始めてくる。藻部が俺のほうを見てイケメンと何か話しているのを見て嫌な予感がするが、敢えて気にしない。気にしたら負けだ。

 マイクを持ったまま直立不動の姿勢を見せる桜。ここで諦める人も居そうだが、誰も列から抜けない。

 幼稚園、小学校、中学校と絶大な人気を見せている桜だが、やはり高校でもそれは変わらなかった。自慢の幼馴染である。

 あっちが俺の事をどう思っているかだけど……取りあえず脈は無いな。泣きそう。

 永遠の片思いですよ。ええ。……この合宿終わったら急に転入生とか来ないかな……。勿論美少女に限る。最後の所が一番重要だ。

 ……残り三分。時間はもう無い。ウルトラマンは桜に声を掛ける事すら出来ない。

 そろそろ俺の番である。身だしなみを整えつつ、深呼吸して暴れている鼓動を押さえつける。キャンプファイアー時のお楽しみはダンス会だとは聞いていなかった為ダンスなんてまともに出来ないが何とかなるだろう。桜に玉砕されたイケメンや男子たちが他の女子に声を掛ける中で、残り時間は後一分。

 俺の前にはあと五人くらいが並んでいる。

 間に合うかどうかの、微妙なところ。しかし、そこで桜が俺を一瞥すると―――

「前から五人、全員無理」

「「「「「ええっ!?」」」」」

 全員切り捨てた。

 その五人の中には結構なイケメンも居たが、それも切り捨てられる悲しい采配。

 そして、遂に俺が一番前に出る。

 急に心臓がばくばくと鳴り出すが、しかし俺はこの合宿で告白(演習です)もした男。

 こんな所で止まるような俺じゃないぜ!!

「さ、ささ桜っさん」

「うん、落ち着け」

 その心意気も空しく、寧ろ桜に宥められる。

 もう俺と桜の仲の良さを知っている一年二組は他の可愛い女子にダンスを誘いに行っているが、他のクラスの人は平均平凡な俺をどうせ蹴落とされるのだろうとニヤニヤしながら見ていた。

 一組、三組のイケメンは俺を見て取り巻きと一緒に笑っている。

 桜と俺が釣り合わない?悪いな、そんな事は数十年前に悟ってるんだ。

 

「……桜ひゃん、俺とダンスしてくらさい!!」

「噛まなければ良かったね。うん。お願いします」

 

 盛大に噛んだ。

 苦笑しつつも、桜はマイクを置いて俺へと歩み寄ってきてくれる。

 その光景に、唖然とするイケメン達。崩れ落ちる長蛇の列。

 そしてそこで、タイムアップだった。

 余っている人たちは自分に一番近い人と強制的に組まされる。因みに実行委員のイケメンは藻部とダンスする事になった。ドンマイ。

 ペア同士で、俺たちは全員キャンプファイアーを囲んで向き合う。やがて先生同士でペアを組んでいた校長先生が音楽を流し始め、皆一斉にペアの人と手を取り合った。

 俺も桜と向き合って、桜は右手の指を、俺は左手の指を絡ませあう。

 右手を恐る恐る腰に回して、俺は顔を真っ赤にしつつゆっくりと動き始めた。

 

 普段は無表情な桜も、今ばかりは笑みを浮かべている。

 左右に揺れたり、その場で少し進んだり。映画などで見たことのあるステップを、桜に所々教えて貰いながら頑張って踊る。

 まるで舞踏会で踊っているかのように、キャンプファイアーの温かい明かりだけを頼りに踊っている俺達は幻想的な雰囲気に包まれていた。夜空には都会では見れないであろう無数の星が瞬き、三日月が青白い光を湛えている。

 その中を、俺と桜はどのペアよりも綺麗に、誰よりも優雅に踊っていく。

 ゆっくりと、ゆっくりと。一瞬が長く感じられる中で、俺は桜と二人だけの時間を楽しんでいた。

 

「覚えてる?昔、砂場で踊ったの」

 

 突然、桜が呟いた。

 それに俺は驚く。なぜなら、今俺が思い出していたのもその砂場で踊っていた記憶だからだ。

「あの時はどうやったら良いかも分からなくて、ただ手を取り合ってたな」

 俺も答える。

 覚えていたことが意外だったのか、桜は少し目を見開いて、次いで細めた。

「そうだね。……ねえ、結城」

「ん?」

「バスの中では告白予行演習だったけど」

「お、おう」

 突然黒歴史を引っ張り出した桜。

 思い出して顔を覆いたくなるような気持になっていると、桜は俺の顔に自身の顔を近づけた。

 そして、ギリギリ聞き取れるか聞き取れないかの音量で桜は言葉を発する。

 

「ボクは、キミが大好きだよ」

 

 放たれた言葉に、一瞬俺は呆然とした。

 そして、ステップを間違えるくらいに動揺する。脳がオーバーヒートしそうな程に熱を発して、思わず桜と握り合っている左手の力が緩んだ。

 突然の告白。

 笑みを浮かべている桜は、力が入らなくなってするりと抜けた右手の人差し指を唇にそっと当てて、悪戯っぽく微笑んだ。

「まあ、これは一夜の夢だからね。次の日には、きっと皆忘れてるよ」

 そう言って桜は、離れてしまった右手を俺の左手にではなく、背中に回した。

 俺の腰に回していた左手もその位置をずらして背中まで上げて、少し背伸びをする。桜よりも身長の高い俺へ桜が抱き着いている様な状況になって、俺は恐る恐る桜を抱き返した。

 すると桜は満足げに笑みを浮かべて、背伸びをして至近距離で俺と真っすぐに目線を合わせた。

 

「うん。抱き返すのが正解だよ。だから――――ご褒美」

 

 そう言った桜は、そのまま俺に顔を近づけてくる。

 薄紅色の唇がやけに近くて、吐息が触れ合うほどにお互いが近くなって―――――――

 

 悪いが、俺の記憶はそこで途切れている。気づいたら部屋のベッドの上で、永大とルームメイト二人に殴られていたのだ。

 あ、勿論やり返しました。……永大に30発、ルームメイトに2発ずつ。

 

☆★☆

 

 翌日。

 宿泊施設の人に挨拶をして、午前中に俺たちはバスに乗って出発した。

 途中、体験施設にもよってそこでお昼を食べてから高速で一気に俺たちの学校まで帰る。

 勿論俺は桜と隣同士になって、そしてお互いに顔を背けていた。

 滑らかで流麗な腰まで届きそうな黒髪の隙間から、ほんのりと紅潮している耳と頬が見える。絶対にその顔は見せてくれないけど、無理やり見る気もなかった。

 窓際になった俺は、頬杖を突きつつ流れていく景色をぼんやりと眺めている。

 席の手すりに左手を置いた俺は、そのまま欠伸を噛み殺しつつ次の体験施設までの道のりを眠って過ごそうかとして、突然手すりに置いていた左手に何かが乗ってびっくりする。

 慌てて見れば、その席と席の中心にある俺の左手の上に、桜の小さな右手が乗っていた。

 それはとても温かくて、心地よい。手の甲に伝わる柔らかい温もりに、俺は思わず笑みをこぼした。

 

 ……こりゃあ、次の体験施設まで寝るわけにもいかなそうだ。

 

 そう思い、俺は再び窓の外を眺める。

 

 青い空が、どこまでも広がっている。天気は、快晴だった。




次回から、新キャラ入れようか迷ってるんです。

それで実は、もう一回アンケートを取りたくて!!すみません、お願いしても良いでしょうか?
詳しくは活動報告に載せます。
何回もアンケートをすみません。
もし宜しければ、お願いします!!

これにて「入学記念合宿」は終了です!

今までありがとうございました!
次の話もご期待ください!!

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