とある屋敷の一室、慌ただしく、けれど静かに動きまわるメイドらしき女性達の中に一人、今しがた産まれたばかりであろう赤子を抱えた妙齢のメイドが、ベッドに息絶え絶え横たわる女性にその赤子を手渡しながら静かに囁いた。
「お、奥様、ご子息は無事にお産まれになりましたのですが………」
申し訳なさそうにそう言うメイド、先程まで半ば放心状態で呼吸を整えていた女性は手渡された赤子を受け取ると、初めて見るその姿に驚いたように少し目を見開いた。
目に映る我が子は明らかに異常だった。
色素が抜け落ちたような病的なまでに白い肌に、まるで作り物のような真っ白な髪、うっすらと開けられている瞼から覗く血のような赤色をしたルビーのような瞳。
そのどれをとっても日本人である両親から産まれたとは思えないような容姿をしていたのだ。
そして抱いていて気付く更なる異常。
赤子を抱いたその手には、本来の赤子らしい柔らかい肌の感触がなく、手に感じるのは赤子らしからぬ引き締まった筋肉の堅さとその大きさに見合ぬ重さだった。
「こ、この子は大丈夫なの?」
母親であろう女性は心配そうに周りにいるメイド達に問い掛ける、しかしその誰もが彼女が求めるような明確な答えを出せなかった。
「この子は、この子は……うっ…うぅぅ、ぅぐぅ…」
しかし周りの反応に不安を隠せない母親の表情は一変、急に自身の胸を抑え苦しみに表情を歪ませた。
「お、奥様!!?あ、あ貴方は、早く仕事場の旦那様にこの事を!貴方は病院に連絡を!早くっ!」
一気に場が騒然となり、メイド達が慌てて部屋から駆け出す。
指示を終えた妙齢の女性は母親から泣き喚いてる赤子を受け取ると隣に用意されてたベビーベッドに寝かせ、苦しむ女性に懸命に声を掛け続けた。
妙齢の女性の掛け声、赤子の泣き声、女性の苦しそうな呻き声が部屋に響く中、唐突にその中の一つ、苦しそうな呻き声だけが聞こえなくなった。
「お、おくさまっ!!おくさま!?誰か!お願い、誰か早く!!」
「うおぉぉぅ…なんでだ、なんでお前が死ななければいけなかったんだ……うぅぅぅ………お前が、お前なんか生まれてこなければ……!この疫病神が!この悪魔が!!」
「だ、旦那様、お止めくださいっ!奥様の、奥様が最後に残されたお命なのです、だから!」
「うぐぅ…わたしは、私はどうすれば…どうすればこの気持ちを…どうすればいいのだ…!」
その日、一つの命が産まれ、幸せになるはずだった家庭。
だがその母親の心臓発作による予期せぬ死が、残された男を、そして産まれた赤子の運命を壊してしまう。
これから始まるのは普通に産まれなかった、普通に育てられなかった、普通になれなかった赤子の物語。