分かたぬ衣と往く先は   作:白縫綾

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 ──本を、探していました。


 そう云うと、『先生』は何か興味をそそられる要素をそこに感じたのか、そんな表情で此方に向き直った。
 お茶請けの菓子をつつき咀嚼している。その合間に顎をくい、と動かして、続きを促されたらしい、と察した。

 …………、とはいえ。
 それが頭の片隅に留める程度の、現実味のない願いであるのも一因ではあるが、私が、何も識らない、存在するかも定かではない何か(・・)を探しているのだと──そう云うのは、仔細をぼやかす様にしたにしてもそれなりに勇気を必要とするのだ。
 触れる社会の裏側が如何に混沌を混ぜた闇であろうとも、それが一際異質な私の輪廻の巡りの一端を記憶していることを許容してくれるとは思わなかった。


 ──何も為し得ずに死んだ(ひと)の、未完の作品(ものがたり)を、或いはその人の人生を綴ったものを。


 呟いたそれが少女にとって何を意味するのかは、矢張り少女のみ識ることである。



第二七話 ただしくないひと(後編)

 獣と人として、ではなく、二人の人として──大人一人と子供一人が初めて互いにその顔を認めた時、彼らを繋ぐであろうそもそもの発端であった男は居合わせていなかった。

 

 仕事を手にしている者ならば大抵はそうすべきだという当たり前に従って働くような、そんな時間帯である。

 その壮年のことを『先生』と、養い親と然程変わらないような名称で呼び掛けることになったのは、きっとそれが相応しい──自然であるように思えたからだ。

 

 人の姿で初めて対面した場所は、広い、邸と云っても善いくらいの家の、庭に面している縁側であった。

 雑草が無差別に端から庭を侵略しつつある中、その時は未だ、一人の男の、昔の未練を焼いた跡が土に焦げ付いたまま残っていた。少女が持て余した暇を潰すべく、少しずつ整え始めていた庭だが、如何せんゆっくりな進行で、まだまだ荒れていると云っても善い様相だった。

 

 丁当陽当たりの善い時間帯である為か、三毛が縁側で既に丸まっているのを見かけて、少女がいそいそと動き始めたのは、茶請けの準備をする為だ。

 茶を注いだ湯呑みに、皿に載せた萩餅を各々二人ぶん準備して盆に置く。そのまま、猫の隣にすとんと座り込んで皿をそっと差し出した。

 

 手を伸ばして、その頭を一撫ですると、矢張りそこに感じるものが間違いで無いと思わされて、撫でていた自分の指先を暫し見詰めた。

 少女の異能──異能力名は未だ決まっていなかった──は基本生きている者には影響を及ぼさない、詰まり『もの』にしか作用しない代物である。

 

 然し何故か、例外だとでも云うように──特異なる人間共、異能者の持ち得る異能という『もの』に対しては、生きている人間であっても、彼らが異能者である限り正しく作用するのだ。

 少女が触れる物はその際に、対象が果して異能を施せる『もの』であるか否かを違和感のようなものとして察知することが出来る。

 そして、──その特性を鑑みたならば、違和感を感じた生き物の正体にも多少見当がつくものだ。

 養い親が少女に()を触らせた時、きっと彼はそれを彼女に気付かせたかったに違いないのだと、少女はそう思っている。

 

 自分のぶんの湯呑みを持って、やや熱く淹れすぎた茶に息を吹き掛けて冷ます。そっと息を吹き掛けながら、唇を水面に近付けて、横目で隣の様子を伺った。

 当の本人は──今ばかりは、本猫の方が善いのだろうか──ぱたり、と床を尻尾で叩きながら素知らぬ顔、とでもいうような風にしている。

 

 視線を逸らして、──多分見ているから遠慮されるのだと思って──そうすれば予想の通りに、少しの間をおいて空気が揺れるのを感じた。

 

 

「…………初めまして?」

 

 

 足を組み、脇には杖を置いてある。その時に、朧は漸くまじまじとその男を眺めることを許された。

 

 

 

 

 

 **

 

 

 

 

 

 しっとりと互いに濡れてしまった後に傘に入るというのは、何とも不毛なことだった。

 ちらり、と半歩後ろに立つようにしている彼……猫だったもの、院長先生の知り合いであろう人、そして少女から云わせれば支援者(スポンサー)であり、養い親とは別の意味を含めた『先生』、というのが正しい。

 

 朧を構成しているものが、覚えてもいない前世とやらを基盤とし今世の人々との関係によるのだとするならば。そんな私の歩く、無明の中に与えられた導きの灯こそが、養い親が本心かも判らぬ気紛れさで放り投げた機会……この壮年の存在だ。

 新たに増えた知り合いがまた(・・)異能者であることには最早驚く必要は無いのだろうと思う。

 まあ、抑も、異能に頼ってしまうような場面には未だあまり出くわしてはいないので、限りなく平和ではあったのだけれど。

 

 

 ──朧の中の大人というのは、裏で生きている人々だった。院長であり、広津でもあり、数歳しか離れていない白木()であった。

 

 きっとその無明の眠りの中で、手探りだけで一層厳しい道程を歩いている。なまじっかある人生という経験が、苦境の中に立ったとして簡単に諦める(死ぬ)ことを許さない。

 馴れればそれも苦にはならなくなるのだろう、そう思わせるような老熟した空気を特に感じるのが『先生』という人だった。

 

 

 

 

 

 数分間、特に喋ることは無かった。

 

 道を二人、付かず離れず程度の距離を保ったまま家を目指す。

 しっとりと湿り気を帯び濡れた髪の先から水滴が首筋を濡らし、着ている服の襟が張り付くようで少々不快だ。……それを考えれば、傘をさしかけられるのも無駄では無かったのだろうか。

 少女の丁度隣に位置するように、その手だけが視界に入っている。

 そこから腕が伸びて、体自体は少女の後ろだ。背後を取られていて、しかもそれが大人の男であるという事実は、敵意をこの身が感じていないとはいっても少しの緊張は拭えない。

 けれども実際、彼女には人に対してあまり、苛烈ともいうような嫌悪の類の感情を抱いたことが無いのだから、出逢って間もない人間に対する心情としては正しいのかもしれない。

 

 

「…………」

 

 

 気まずさもあるが、実際彼に対する感情を占めているのは気後れだ、とした方が正しかった。

 背後を取られていて、しかも敵意が無いということが──それを感じていないからこそ、逆に朧を落ち着かなくさせた。まるっきり別物ではあったのだが、何となく養い親に相対した時に感じるものとよく似ているようにも思えた。

 

 

 

 

 がさり、と買い物袋を揺らすように身じろぎして、朧は足を動かす。無言が苦にならなく成るには、二人は未だそこまで関係を築けていない。

 少女が歩み寄ることに躊躇しているというのと、壮年がその現状をただ静かに眺めていて、それは端から見たら膠着状態、というのが適切だ。だって何となく背後の男は無口には思えない、そんな先入観があった。

 

 あまり、周囲では見ないような様子のひとは、その後ろで少女の内心を見透かしたようなにこやかさであったのを彼女は識らない。

 だから、──少女の歩く端からぴたぴたと水を踏みつける音だけが濁って響いて、それに少し眉を下げたのも、背後に居る男が識る由もない。

 

 

 

 

 

「空を飛べたら善いのに、と思うこと、ありませんか」

 

 

 唐突にそんなことを口にした少女が、態々振り返って男を見ることは無かった。

 それは偶然周りに聞かれてしまった独り言のようでもあり、また単にもう一人への純粋なる問いかけのようでもあった。

 友人の少年──安吾から『蛍石の瞳』と称された翠の眼は、薄暗く空を覆う雲のせいか、やや陰ったように伏せられて地面の方を見詰めていた。

 

 

「さて、そういう(・・・・)乗り物がある、と聞きたい訳では無さそうだな」

 

 

 後ろからでも判る、こっくりとした首肯は、流石の男にもそれしか返せなかったのだろう。

 

 

「きっと自由に飛べたのなら、さぞかし楽しいのだろう、と」

「……だがこんな天気の日には、寒くてかなわんだろうな」

「さぁ。──変な質問でしたか」

「そうだな、会話に困った時にする話題としては珍しかろう」

 

 

 今度こそ振り返った少女の、表情の解りにくい貌に少しばかり、苦笑いの如き感情を男は読み取った。

 少女の養い親に似ている処はあるが、けれどどうにも別の箇所で妙に内向的な性格の少女である。

 

 

「嗚呼、そう困った貌をされると此方も困る────その辺は『彼』には似なかったのだな」

「…………」

 

 

 ふと、思ったことを口にしただけだ。

 そして、その口に出したことが意外にも少女の核心に触れるようなものだった、それだけのことだった。

 

 

 水溜まりに靴の先が少し入り込んで波を立てた。

 ──雨はあまり好かない。

 だって飛べない生き物というのは、只管に泥濘に足を沈ませて歩くしかないから。自分の矮小さを理解し受け入れていても、思い知らされることが平気に思える訳ではない。……何処か憂鬱な気分に襲われるものだった。

 生き物は、もし例えるとしたならば──そこから如何に抵抗無く移動できるか考えるのが少女の養い親で、ずぶずぶと突っ込んだ足を引き抜くのを躊躇うのが少女だ。

 

 何か意味が有るのかと聞かれれば確実に無いと云うような、そんな内容の話、の筈だ。

 愚痴紛いの、大して意味の無いような──けれどもある瞬間に少女の心を僅かに揺さぶっただけの内容。

 

 大体を聞き手に徹している少女は沈黙が苦手ではない。けれどもそれは、彼女の周囲に、少女自身が関わろうと決めた者、そうでなくとも大抵が物心つく時には居たからこそだ。

 気心知れた間柄ではない、辛うじて知り合い以上と出来る程度の人が殆どで、ならばあの郊外にぽつりとある孤児院は、そういう(・・・・)見方をすれば確かに恵まれているだろう場所だった。

 ……もっとも、少女はそういう捉え方をする自身が少数派であろうとは、よくよく理解している心算(つもり)ではあるのだが。

 

 

 

 

 

 きぃ、と家の門扉を押し開けて玄関の中へ入り、玄関口に入ってから漸く頭上の傘が退けられる。

 

 畳んでから、傘立てへと無造作に濡れそぼったそれを入れた。纏わりつく湿気に、お互い止まない霧のような細い雨を降らす空を眺めていると、ぼそりと「身体を拭くものを持ってきます」と云った少女が片手で胸元に荷物を抱えたまま器用に靴を脱いで廊下へと上がった。

 

 

「少し待ってて下さいね」

 

 

 暗に上がってくるなとの含みを持たせ──濡れ具合は彼の方が少女よりも遥かに酷いと云えたので──足の裏に張りついた靴下は剥がさなければならなくて、少し眉を顰め内履きに履き替えた。

 

 とすとす、と軽く足音を立てながら、衣嚢(ポケット)から取り出すのは携帯式の電話だ。あまり扱いが上手くない少女にも出来る程度の操作で、知り合いから連絡が無いことを確認する。

 一軒家にしてはそこそこ長い長さの廊下を渡りきってから居間の電気をぱちり、と点けた。

 浴室の外に備え付けてある棚からタオルを数枚取り出してから、一つは頭に被り、他は玄関へと持っていった。

 また(・・)猫に戻っているのは、廊下が必要以上に濡れないので正直ありがたかった。玄関へと引き返し、タオルに猫を包み抱き上げた少女はそのまま移動する。

 途中で足を拭い、背中をタオルで擦って水気を軽く取り除いた。腹の辺りは男の尊厳とか──異能とそれなりの付き合いがあるだろう彼にとっては割と今更な話かもしれないが──少女の精神的に色々とくる(・・)ものがあるので遠慮させて頂いた。

 

 縁側にタオルごと置いて、しとしとという雨音を背後に聞きながら台所へと向かう。急いで風呂に入る程気にする必要は無い。それよりも、身体を芯から温めるような熱い茶の方が好ましい。

 

 

 熱い茶と茶請けを二人ぶん。何度か繰り返した作業は、少女には最早お手の物だった。

 養い親風に云うなら、『お供え物』という奴だ。かの()はどうやら甘い物に目がないらしい、ということだったので。

 

 朧は、湿っているだろう背広を脱いだ人型に背後から近づいた。横には杖と、無造作に畳まれた服がある。当人は気にするでもなく胡座で座っていた。

 一瞥する──見た目だけなら、結構な速さで乾いているのではないだろうか。なにぶん、大分濡れていたにしても、猫の毛並みは水気に強かったのだろう、それが人型に反映されたならば、こうなるのも頷けるというものだ。

 ……今更、猫だとか人だとかの不可思議な云々を異能者(私たち)が気にしたとして、その事実は動かぬものである。

 

 手近にあった衣紋掛け(ハンガー)にその背広を吊るし、壮年の横に陣取って、「猫、と云うからには猫舌なんでしょうか」と問い掛けた。

 湯呑みを一度持ち上げた姿は、その熱さを掌で感じたらしく、口をつける前に下ろされた。

 

 

「うん? 熱いのは苦手だな。嫌いでは無いが」

「先生のは(ぬる)くすれば善かったですね……因みに今日のお菓子は、先生の好きなお店の羊羹ですよ?」

「頂こう」

 

 

 くるりと向き直って、素直に差し出した皿へと楊枝を突き出した壮年の隣で、朧は舌が痺れるような熱さの茶を飲み込んだ。

 少女はやや火が苦手ではあるが、だとしても、熱いのが苦手な理由にはならなかった──寧ろこれ位の温度であれば、熱に割と強い少女からすれば臓腑にじんわりと伝わる熱は好ましい。

 料理の際にしていた茶を淹れる練習が成果を出したようで、朧にはお菓子作りの適正に見合う位には茶淹れが上手く成っていたようだった。

 こと萩餅に関しては隣の壮年からも「美味いな、姫よ」と満足げな一言を聞いている。

 

 

 

 

 

 ……少しばかりの交流から始まった関係ではあったが、時間が、彼らを一緒に外に出る位に近づいた間柄へと変化させるのは容易だったのだろう、と少しばかり振り返る。

 少女が一方的に近寄りがたいと感じているとしても、それは実際に危害を加えられているのではなく、恐怖とは別のものだ。

 夏目が『人を動かす側の人間』であり、朧が『人に動かされる側の人間』であること。そして朧が

 、男を彼女の養い親のような身内であるとは認識していない、未だあくまでも他人に過ぎないということ。

 引け目を感じてしまうのは自然なことで、けれども、無意識の境界線を知らずのうちに知覚し、適度な距離感を保ってくれているのは隣人のようにも感じさせる。

 

 出来たばかりの奇妙な関係は、それでも互いに『先生』『姫』と呼ぶようにさせるには十分な繋がりであったと思う──正直その呼称は朧からしたらまるで柄では無いものではあったのだが。

 ただ、その呼称にすら慣れて違和感が消えてしまった後、ふと思い出したように尋ねたところ……子供をあまり好かない彼女の養い親が一歩でも踏み入れることを許し、結果的にはその庇護に大事に(とは彼らの性格的に云いきれないものではあったが)包まれて此処までやって来た少女に向ける呼び名としては正しかっただろう、と笑われるのは未だ先の、彼女には識り得ない話だ。

 

 

 

 

 

 未だ整っていない、見るようなものもない庭に雨が地面を打ち付けるのを黙って隣り合わせになりながら眺めていて、先に口火を切ったのは、夏目の方だった。

 皿をつついていた手をふと止めて、「先程の話のことだが」と朧に話題を振ってきた。

 先程とは、と今少しばかり振り返る。

 

 

 ──空を飛べたら善いのに、と思うこと、ありませんか。

 

 

 …………自分が云ったことは、何か意図があって口に出したのではない。

 けれども、ぽろっとそう口に出していた少女の詞を、どうやら壮年は完全に聞き流した訳でなかったらしい。

 

 話の内容に簡単に当たりをつけてから──話はあれで終わっていたのだ──首を傾げ、朧もまた、そっと皿を取り上げた。

 いい店の羊羹は貧乏舌の彼女からすれば勿体ないようにも思える代物で、壮年よりも小さめに切り分けてしまったのは仕方ないことだと思うのだ。

 

 しとしとと音を響かせている空は見上げずとも、その曇っている様を思い浮かべられる。よく見えない、何か飛んでいても目視できないことがしばしばの、特筆するものもない薄墨色の空だ。

 

 

「飛びたい、まぁ、思ったことはあるな」と、空になった自分の皿に詞のないお代わりを要求しつつ男は云う。

 

「だがなぁ、姫──朧よ。自由を希求する(飛ぶのを願う)ことは、即ち、一人でもあるのだ。御前とて、一人は寂しかろう?」

「…………」

「願いは、それが手に届かない範囲にある無茶である限り、どんなものとて正当化されぬものだ」

 

 

 そう、云われる詞に少女は少し考え込んで、暫くしてから何の捻りも出来ないことを諦めたように一口、切り分けた羊羹をもそもそと咀嚼した。

 時折湯呑みで、冷えた指先を温めながら、一息吐いて「大丈夫ですよ」と云った。

 

 

「叶わない類の願いだということは、私も流石に判ります」

 

 

 その結果の最たるものが、弟たちと離れてしまったというそのことであったので。それに、逆にそうしなければ叶わない願いだって幾つもあったのだから……ただ、矢張り詞にしてみると少し考えてしまうところがあるのは仕方の無いことであろう。

 うっすらと微笑みのような曖昧な表情を浮かべた隣では、ふむ、と何か思案するような声音がする。

 

 

「……こんな詞を云った人が居た。

『──生きながらえるためには服従すべきであり、存在しつづけるためには戦うべきである』と。さて、姫の現状(いま)は果してどうなのだろうな?」

 

 

 養い親の言に諾々と従うのが前者で、けれども、本来自由であるべき自身の主張は、確かに彼の意見と同じであるのだから。

 彼との話は、正しく『先生』と生徒の関係のようで、彼女はどうあってもその問に自分なりの答えを述べなければならなかった。……微妙に話をすり替えられて、切っ掛け自体は彼からすれば何でも善かったのかもしれぬ、とはちょっと思いもしたけれど。

 朧は暫し目を伏せ、「……少なくとも」と唇を動かす。

 

 

「少なくとも今、庇護の下にある私は──その人風に云うなら『生きながらえ』ているのでしょうけど。今は、ほら。『戦う』為の下準備のようなものでしょう?」

 

「大丈夫だと、勝手に思ってるんです」と、その養い親よりかは幾分柔らかく頬を緩める。

 

「これでも状況判断が善い方だ、と褒められてるんですよ? 院長先生が云い出したことであっても、結局のところ、その決断は私の意思に委ねられたものには違いありませんから」

「だから、大丈夫だと」

「後悔はもう、しない心算(つもり)です」

 

 

 大体、養い親が──院長先生が、今になって少女の不利益と成り得ることをしろと云う筈がないのだ。

 その上、もし万一にでも逼迫した状況に自分が至ったとして、それを自身のみで解決しなければならないのはきっと、少女が大人の女性になる未来の話だ。

 まあ、この壮年の詰まるところの真意は──……その場面が来たとして、果して直面する覚悟をしているのか、という話であるのだろう。

 

 

「すまんな」と夏目はからからと笑った。雨音に紛れ笑いながら、

 

「裏の世界とはなぁ、姫よ。どんな形であろうとも、どの程度であったとしても、大体は自身で戦い抗うことを選ぶ者こそが生き残るものよ」

 

 

 そんなことを云った。

 自身の進退に自分自身を賭けるには、未だ幼い自分は恵まれ過ぎている、と。

 

 

 ……もし波風立たない人生であったならばそもそもそんな事など起こり得ないとしても、私はきっと、それを不幸だとは思わない。

 思考停止でも何でもなく、 そう確信している以上、それは少女が選んだことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




お待たせ致しました。
夏目先生のキャラが分からずに奮闘することすること……(´・ω・`)
書き直した回数は五回目以降は数えていません。


後々書き直しするかもしれません。

夏目先生の簡単なキャラ付け設定(独自)
・羊羹を好む。
・猫舌
・朧ちゃんを『姫』と呼ぶ。
・何か食えない性格の人
・朧曰く、『導き手』である。  etc……






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