もし、同盟軍士官学校戦史研究科が、廃止されなかったら 作:ポポイ
原作:銀河英雄伝説
タグ:銀河英雄伝説 田中芳樹 銀英伝 スペースオペラ スぺオペ SF 軍事 戦争 ヤン・ウェンリー 歴史改変 独自設定あり 原作購読推奨 アニメ非参考 IF オリ主不在 ハッピーエンド 平行世界 独自解釈有
ヤン・ウェンリーの詰将棋。
彼がもし、参謀畑から前線の司令官ではなく、情報関連に居たら。
作中の状況を、戦略面で動かせていたら。
戦争の天才さんは早々に退場。扇動政治家も同様。その他、敵と味方を整理整頓。
等々、妄想してみました。
SF・FT・ホラー板“【勝手に】銀河英雄伝説IF物語【妄想】”
https://book3.5ch.net/test/read.cgi/sf/1090338131/
なお、田中芳樹先生による原作小説のみを踏まえており、アニメ版・漫画版(道原かつみ氏・藤崎竜氏の各々)・舞台・ゲーム等々の公式メディアミックス作品(二次著作物)は、参考にしておりません。
所謂、マルチ投稿に成ります(2ちゃんねるからの転載は、ルール上、微妙な様ですが……)。
元々のスレッドには、既に書き込み出来ません。
なので、本人確認(私が書いたという証明)的にも、微妙。
運営さんにダメ出しされるかも知れませんが、試しに投稿してみます。
2ちゃん投稿版より、少々手直ししてあります。
誤記や、表現が冗長と思われる所、言葉・説明が足りない点等々の是正や、或いは2ちゃん投稿終了後に受けた質問への回答・内容補足や、更にその後に新しく思い付いた小ネタの追加、段落の入れ替え、などです(今後も、何か思いつくと手を加えます)。
◆らいとすたっふ所属作家の著作物の二次利用に関する規定(2015年改訂版)に準拠。
http://www.wrightstaff.co.jp/free.php?fId=3
ヤン・ウェンリーとジャン・ロベール・ラップ、
在校中、有害図書として排除され掛かった本を、図書委員として学校図書館・戦史研究科分館に収蔵し閲覧に供する活動で、風紀委員会と抗争。
また2人は、軍属として図書館司書補を勤めていたジェシカ・エドワーズと交友を結んだ。
ヤンとラップ、少尉任官。
各々、希望通り、後方勤務本部 戦史編纂室に配属される。
そこは軍事機密を扱う関係上、名の呑気さとは裏腹に、権限が強い、危険な任務にも関わる情報機関と化していた。
2人は情報分析官として頭角を現していった。
ヤン、大尉昇進後、対帝国の最前線エル・ファシル星系に出張。
同星系付近へ侵攻の可能性の有る帝国軍に関する情報の収集・分析、現地の人心の視察・調査、及び諸々に伴う、駐在部隊司令部への意見具申が任務である。
その為に必要な権限は全て与えられていた。
滞在中、駐在部隊司令官アーサー・リンチ少将旗下の部隊、帝国軍と交戦、惨敗。
リンチ達はエル・ファシル本星に撤退し、同盟領エル・ファシルは失陥目前となった。
リンチ、ヤンの助言の下、軍民全員の脱出作戦実行。
駐在部隊残存艦艇の大半を囮とした。
其らは人工知能が運用し、欺かれた帝国軍は、逃走する無人艦隊を追跡。
その隙に、レーダー透過装置を切った脱出船団は、帝国軍からは隕石群と誤認され、悠々と安全圏へ逃げ遂せていた。
リンチは後日、この脱出作戦への賞賛を受ける度、居心地悪げな表情で、以下の様に発言した。
「あの折の小官は、只の敗者です。人に助けられ、今の小官が居ます」
彼は問責され准将へ降格されるが、後年、同星系奪還作戦等で挽回、<魔術師リンチ>と呼ばれる名将に成長する。
此の件の後、ヤンの家には毎年欠かさず、上等なブランデーが贈られていた。
宇宙歴796年/帝国歴487年、ヤン29歳。准将・同盟軍宇宙艦隊総司令部情報参謀を務めていた。
帝国、同盟領への遠征を計画。
両国を隔てる危険宙域(核恒星系)を貫く航路・イゼルローン回廊の同盟側出入口近傍、アスターテ星域の制圧を図る。
総指揮官、伯爵・上級大将、ラインハルト・フォン・ローエングラム提督。
帝国貴族底辺の
彼は、戦争の天才であった。
15歳で少尉に任官し、以後、その才能と野心が奪った戦果の数々と、皇帝の事実上の義弟たる立場により異数の昇進を遂げ、断絶していた名門ローエングラム伯爵家を相続、そして此の折り、僅か20歳にして軍部の頂点を目前としていた。
その出自故に、帝国の平民や下級貴族・寒門貴族達の声望を集める立場であった。
門閥貴族主流や軍高官達の大半より執拗な反感を受ける身でもあった。
「あの天才が、その才幹相応の権勢を得たら、帝国は、そして同盟を含む人類社会の旧弊な体制は、激変するかも知れない。
個人的には、その時代の一大変革を観たいものだけど。
市民の払った税金から給料を貰う身としては、阻止しないとね。
彼の才気を正面から敵に回すより、その背後の勤勉な方々を当てにしようか」
(同盟軍宇宙艦隊総司令部情報参謀ヤン准将・談)
同盟軍は、ヤン立案の作戦を採用していた。
同盟側迎撃兵力総数に関する情報操作が行われる。
帝国側に、同盟側の迎撃兵力は1個艦隊・1万3千隻前後と誤認させ、それより2-3倍程度多い動員を誘引する趣旨だった。
アスターテ星域に侵入の帝国軍艦隊総数、2万隻。
通常、1万2千隻から1万5千隻程度が1個艦隊の艦艇数であり、帝国軍では中将か大将がその指揮を執る。
2万隻は、帝国元帥に次ぐ上級大将の指揮兵力としては、過少な方である。
帝国軍は同盟側の迎撃兵力の総数を、3個艦隊・4万隻と認識。
ラインハルトは、包囲殲滅を企図し分散して布陣する同盟軍に対し、部下からの撤退の進言を退け、高速移動による各個撃破を構想。
だが序盤、リンチ中将指揮下の艦隊との会敵以降、兵力劣勢なリンチに、逃げられ或いは追い縋られる時間稼ぎに徹され、足止めされる。
やがて回廊方面に迂回し現着したアレクサンドル・ビュコック中将指揮下の艦隊に挟撃され(此の折、回廊方面駐留の帝国軍による索敵は不熱心だった)、苦戦(尚、先任として、ビュコックが同盟軍迎撃部隊総指揮を担当)。
ラインハルトは、回廊への撤退を図りつつ、友軍と合流の上での決戦を上申するも、否定される。
皇帝以外の帝国支配体制上層部は、彼の<名誉の戦死>を望んでいた。
そして同盟軍のもう2個艦隊も現着、帝国軍遠征部隊は、合計4個艦隊・5万5千隻に予定通り包囲殲滅される。
以下の面々、未帰還。戦死と公認。
ローエングラム伯ラインハルト上級大将。
ジークフリード・キルヒアイス大佐。
ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ大将。
アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト少将。
全員、特進する。
ラインハルトは帝国元帥の、キルヒアイスは少将の栄誉を得たが、彼らの家族や友人の嘆きは深かったと言う。
アスターテ戦勝の功により、ヤン、少将に昇進、国防委員会情報部次長に就任。対帝国領内特殊工作活動を統括。
程無く、同盟軍統合作戦本部長シドニー・シトレ元帥の企画と、ヤンの具体案による、帝国軍イゼルローン要塞攻略作戦実施。
従来と異なり、破壊前提であった。
動員兵力は1個艦隊。
実行担当、第5艦隊司令官ビュコック、並びに<
奪取成功。
要塞駐留艦隊司令官ハンス・ディートリッヒ・フォン・ゼークト大将、指揮下の全兵力と共に特攻。
ビュコック、その悉くを殲滅。
要塞は、人員拘禁・情報回収等の処置後、破壊。
政府や軍部より維持可能な筈と苦情が出たが、ヤンは答えた。
「奪取・破壊が可能な物ならば確保の意味も薄弱です。
また、一部の方々が主張されるが如く、同盟の戦争は止むを得ない防衛戦争であるなら、要塞攻略は、侵略となってしまう奪取ではなく、破壊が筋です。
同盟領アルテナ星系は帝国の圧政より解放された旨、ご宣伝下さい」
この皮肉に、一部の人々は憮然と沈黙した。
帝国側より脱走したパウル・フォン・オーベルシュタイン大佐、同盟への亡命を決行。
その後、同盟軍情報部にて登用。
シトレ、本部長任期満了に伴い、退役。
保守(長征一万光年に始まる建国期からの伝統有る社会民主主義)・非戦派の政党に加入。
中央での議席を補選で獲得。
同盟政府 最高評議会 ロイヤル・サンフォード政権にて、新人としては異例ながら国防委員就任(これは、シトレの実績や人望等への評価に非ず、複数勢力連立の同政権の、勢力均衡が理由)。
ヤン、中将昇進。国防委員会情報部長就任。
ビュコック、一連の功績が評価され、大将昇進。宇宙艦隊司令長官就任。
シェーンコップ、准将昇進。
ラップ、准将。情報部参事官就任。名実共にヤンの腹心となる。
ドワイト・グリーンヒル大将、統合作戦本部長就任。
宇宙艦隊司令長官の前任者ラザール・ロボス元帥、性病により退役。
同盟軍参謀アンドリュー・フォーク准将、帝国への大規模遠征計画を立案。
其の私的経路により、対帝国正義戦争論者である某閣僚に献策。
だが、ヤン達に察知され、その工作を受け、正式な閣議決定前に軍での検討を受ける。
相次ぐ戦勝による政権への支持率微増も、政府首脳陣の余裕有る判断の一助となった。
遠征仮想の戦略戦術シミュレーション、軍高官達臨席で開催。
制限事項設定と審判は、統合作戦本部長グリーンヒル大将が担当。
同盟側はフォーク、帝国側はヤンでの対戦。
フォーク、10連敗直後に錯乱し絶叫、昏倒。
遠征計画、却下。
その後、強制的に取らされた休暇中、ゲームセンターで行きずりの中学生と対戦。
友人らしき同行者達から、ユリアン、と呼ばれていた少年であった。
惨敗。精神病院入院、予備役編入。
帝国での内乱誘発と介入を企む、ヤン達の神算鬼謀が練られていた。
アスターテ星域会戦の後辺りより、宗教結社・地球教団は、同盟政府の国防委員長であり、同盟政界における保守・主戦派の領袖の1人、ヨブ・トリューニヒトへ積極的に接近。
トリューニヒトは、不仲であるシトレの政界入り・国防委員登用や、彼の派閥外の人々の軍部トップへの就任等に危機感を強めていた。彼は教団との取引の価値を認め、内密の盟約を締結。
以降、彼の影響下の主戦派民兵組織<憂国騎士団>と教団の成員に、重複が増加。
「結果、それが、彼と地球教団の致命傷に繋がった。後ろ暗い事は、するものじゃないね」
(同盟軍情報部長ヤン中将・談)
この頃、ラップの婚約者ジェシカは、思想的に近かったリバタリアニズム・反戦派政党からの地方選挙出馬に勧誘されるが、固辞。
<機甲憲兵部隊>、シトレらの肝入りで新設。
初代司令官、ムライ(少将昇進)。
副司令官・ダスティ・アッテンボロー准将。
シェーンコップ准将、薔薇の騎士連隊と共に出向。
同部隊、情報部や戦史編纂室の協力下で、軍内部を対外防諜を口実に調査。
汚職の証拠複数を確保。
憂国騎士団拠点にて、横流しされた軍制式兵器の高周波爆弾、<原因不明>の事故で誤爆、拠点施設半壊。
死者は居なかったが騒動となり、<偶然にも>、近隣で演習中の機甲憲兵部隊の協力を得た警察が強制捜査。
地球教団との関係と、双方の諸々の犯罪発覚。
同組織、並びに同盟における地球教団、壊滅。
関係が疑われたトリューニヒト国防委員長、無実を言明。
その後、報道陣の取材が殺到するも、体調不良と称し所在不明となる。
更に数日後、彼を<裏切り者>と怨む憂国騎士団成員・退役大佐クリスチアンによる、拷問を伴う自爆テロで死亡。
<スタジアムの虐殺>と呼ばれる。
同大佐が、行方を晦ましていた国防委員長の居場所を把握した手段等に、謎が残った。
「全く気の毒だねえ。一体どうして、こんな惨劇になったんだろうねえ」
(同盟軍情報部長ヤン中将・談)
フェザーンの
同教団に関して知る全情報を、帝国と同盟両国の政府筋(帝国軍憲兵総監部や同盟軍情報部を含む)に提供。
自国体制内における同教団の影響力の排除を開始。
同教団はサイオキシン麻薬犯罪関連の大元締でもあり、暴露されたその全容は世論と関係筋を震撼させた。
同盟にて、トリューニヒトと複数の政治家達の、憂国騎士団・地球教団・軍事産業・フェザーン商人絡みの犯罪疑惑、数々発覚。
同盟最高評議会・サンフォード政権総辞職。
政界ほか各所で、大粛正開始。
ネグロポンティ、アイランズ、オリベイラ、失職。
ベイ、ロックウェル、逮捕。
主戦派への失望と反感が強まる中、ジョアン・レベロ(保守・非戦派)、最高評議会議長選挙に勝利。
組閣において、政治家としては新人のシトレを国防委員長とする。
同盟政府、軍縮開始。
帝国にても、地球教への捜査開始。
担当、憲兵隊ウルリッヒ・ケスラー准将。
先行し、地球教大主教ド・ヴィリエが同盟軍情報部に懐柔され、帝国政府との司法取引により情報提供。
人類社会各界に潜む地球教の手先とその影響力が排除されていった。
フェザーン自治領主ルビンスキー暗殺未遂事件発生。
地球教残党による犯行。
自治領主、同盟軍情報部の特殊工作部隊(オーベルシュタイン大佐とバグダッシュ中佐が指揮)の協力により、計画を事前に察知、犯人達を摘発。
フェザーンの同教団の残存勢力、一掃。
これより暫時の後、フェザーンに出張した帝国政府財務尚書ゲルラッハ子爵、同盟軍ヤン情報部長、並びに自治領主と密談。
三勢力各々の社会学者達による、帝国の将来に関するシミュレーションの結果を照合。
何れも、銀河帝国は、半世紀以内にはフェザーンの経済支配下に入った挙句、地方の領地を治める大貴族達の軍閥化の進行により中央の統制が崩壊、複数の小王国への分裂の旨を予測。
ゲルラッハ、ヴァルハラ星系・帝都オーディンへ帰還。
それに伴い、ルビンスキー、帝都へ出張。
自治領主には、新顔の黒髪の秘書官が随行していた。
自治領主とその秘書官、皇帝に拝謁。
秘書官は、その時点では同盟でのみ入手可能だった新種の薔薇の苗を皇帝に献上し、上機嫌の皇帝は、其を嘉納した由である。
自治領主と其の秘書官、皇帝臨席の下、帝国宰相代行・国務尚書リヒテンラーデ侯クラウス他の閣僚一同並びに4人の帝国元帥らと会談。
マリーンドルフ伯爵令嬢ヒルデガルド、自治領主、及びその秘書官と接触。
自治領主、フェザーンへ帰還。
長期の休暇を取り、フェザーンへ観光旅行を行ったとされる同盟軍情報部長ヤン中将、職務に復帰。
「結構楽しめた。面白いお土産が色々有るよ」
(同盟軍情報部長ヤン中将・談)
この一幕は、後年、<
同盟軍上層部、ヤン発案の作戦案を検討、認可。
国防委員長シトレ、レベロ議長らへの説得開始。
帝国と同盟、イゼルローン回廊にて大規模な捕虜交換。
両軍首脳陣、密談。
此の折、後述の協定成立。
帝国軍、帝国領太陽系第3惑星・
自治領主暗殺未遂事件発生の頃に現着、鎮圧開始。
地球教本部は抵抗空しく壊滅。
指揮官ウォルフガング・ミッターマイヤー、オスカー・フォン・ロイエンタールの両少将、中将昇進。軍中央にて1個艦隊の司令官就任。
並びにケスラー、少将昇進。
同時期、<カストロプ動乱>勃発。
状況悪化の中、帝国軍上層部より派遣されたエルネスト・メックリンガー少将、鎮圧成功。
中将昇進、軍中央にて艦隊司令官就任。
帝国政府司法省の下級官僚を務めていたジークフリード・キルヒアイスの父、同省にて、部長級の要職に抜擢。
これらの人事は、門閥貴族主流や地球教の影響下に無い優秀な人材登用を要した、帝国政府・軍部各々の上層部の目論見にも依っていた。
皇帝及び国務尚書、亡き皇太子の遺児、幼少のエルウィン・ヨーゼフ・フォン・ゴールデンバウムを立太子。
カストロプ動乱を口実とし、領地を持つ貴族達が地方警備部隊の名目で抱える私兵の返上を命令。
ブラウンシュヴァイク公オットー、リッテンハイム侯ウィルヘルムら、領主多数は反発し抗議。
皇帝、急逝。
新帝エルウィン・ヨーゼフ2世、即位。
軍上層部、政府官僚層、これを支持。
ブラウンシュヴァイク公・リッテンハイム侯、皇帝暗殺容疑により、高圧的な内容の出頭命令を受ける。
両者は恐慌し、国元に脱出。
尚、この件では、両者の手は白かった。
マリーンドルフ伯爵家、私兵のみならず領地を自発的に返上。
同伯爵フランツ、内閣書記官長就任。
その令嬢ヒルデガルド、国務尚書秘書官に登用。
帝国政府、フェザーンを除く全土での郡県制施行を公布。
猶予期間の後、各貴族領の統治を、領主に代え、中央任命の知事・辺境伯が預かる旨の、新皇帝の勅命。
領主多数が、領地と私兵の整理の名目で国元に帰還。
新帝の名の下、ブラウンシュヴァイク公・リッテンハイム侯とその一党への討伐の勅令、公布。
門閥貴族連合<リップシュタット会盟>締結。
盟主・ブラウンシュヴァイク公。副盟主・リッテンハイム侯。
門閥貴族出身・関係の帝国軍高官とその派閥、相当数が参加。
4人の帝国元帥は体制側に残留。
ミッターマイヤー、ロイエンタール、メックリンガーら、大将昇進。
ケスラー、中将昇進。憲兵総監部刑事課長就任。会盟関係者への捜査開始。
帝国政府、<開明派>の登用。オイゲン・リヒター、カール・ブラッケ、入閣。
下級貴族・平民出身の官僚・軍人達が抜擢され、上流貴族達の抜けた穴を補填。
<リップシュタット戦役>、開始。
総兵力と財力において、会盟側(帝国体制側からの公称<賊軍>)が、体制側を相当に凌駕していた。
賊軍首謀の両者への追討令に際し、同盟・フェザーン両国も然るべく対応。
同盟全軍、臨戦態勢。
これに先立ち、4個艦隊分の兵力が解体され、その兵員が軍から民間に戻り、相応の額の国防予算が削減。
この大事業に紛れ、大規模な作戦行動が密やかに準備されていた。
6個艦隊・約8万隻、並びに地方警備部隊等から抽出の戦闘用艦艇や後方支援艦艇の増強分、合計約12万隻の動員。
大遠征、開始。
作戦名<ラグナロク>。
同盟軍遠征部隊総司令官は、宇宙艦隊司令長官ビュコック大将が就任。
遠征部隊参謀長には、情報部長ヤン中将が選任。
後方主任参謀、アレックス・キャゼルヌ少将。
作戦主任参謀、チュン・ウー・チェン。士官学校戦略研究科主任教授を勤めていた人物である。抜擢に伴い、准将から少将に昇進。
情報主任参謀にはラップ。これに先立ち、少将昇進。
また、情報参謀として、オーベルシュタインの任用。准将昇進。
艦隊司令官の主な面々は、リンチ、ウランフ、ボロディン、クブルスリー、エドウィン・フィッシャー、各中将。
尚、ビュコックは1個艦隊を直属とし(分艦隊司令、ラルフ・カールセンとライオネル・モートン、アッテンボローの各少将ら)、全軍の艦隊運用並びに前線での整備・補給計画をフィッシャーが担当。
陸戦部隊指揮官として、シェーンコップが従軍。少将昇進。
この遠征では、補給・情報等において、フェザーンの支援が有った。
帝国の体制側・正規軍の兵力、ミュッケンベルガー帝国元帥指揮下の主力と、ロイエンタール大将指揮下の別働隊に分割。
後者は、辺境星域各地の賊軍支配領域鎮定を担当。
兵数と資金で勝る賊軍は、当初は優勢だった。
帝国体制側において、シュターデン等、実戦ではそう有能でない提督達が敗北、結果として、ミッターマイヤーらが主導権を確保。
賊軍にも相応の損害。
各国の情報機関、賊軍内部に予め作成済みの協力者(脅迫・買収、及び隠れ開明派等)を利用し、ブラウンシュヴァイク公・リッテンハイム侯の不和・対立を煽る。
リッテンハイム侯、劣勢に。
同侯に、同盟軍が接触。候は協定を申し入れられ、選択の余地無く受諾。彼の派閥は賊軍より離反。
ブラウンシュヴァイク派、帝国体制側に一時的な講和と共闘を要請するが拒まれる。
非公式ではあるが、帝国体制側と同盟遠征軍は連携しており、同盟軍は補給でも、フェザーンに加え帝国体制側の協力を得ていた。
賊軍・ブラウンシュヴァイク派、リッテンハイム−同盟連合と帝国正規軍との二正面作戦を強いられる。
また、貴族達の国元は次々とロイエンタール大将に制圧され、援軍も期待出来ない戦況だった。
カール・ロベルト・シュタインメッツ中将、賊軍側として辺境警備に当たっていたが離反、ロイエンタール別働隊に帰順。
賊軍の艦隊、ミッターマイヤー大将指揮下の艦隊と交戦、殲滅される。
賊軍の艦隊と、その拠点の一つであるレンテンベルク要塞、リッテンハイム侯−同盟連合と交戦、撃破される。
侯の派閥の戦力、多大な損害を出す(そう仕向けられる)。
この折、帝国軍装甲擲弾兵総監オフレッサー上級大将、同盟軍陸戦部隊指揮官シェーンコップ少将と交戦、一騎打ちの結果、戦死。
ブラウンシュヴァイク公の領地の一部、惑星ヴェスターラントにて叛乱発生。
公の甥である領主代行シャイド男爵、戦費目的での苛斂誅求の結果、人民達に殺害される。
公、激怒。同地の人民への核攻撃を、その家臣アンスバッハ准将ら周囲の反対を押し切り命令。
帝国体制側と同盟軍、これを事前に内通者により知らされる。
攻撃実行部隊を捕縛、虐殺阻止。
同地を、惑星ごと、人的・情報的に封鎖。
帝国体制側・同盟・フェザーンの三者は、以下の報道による、全人類社会への情報操作を行う。
<ヴェスターラントにおいて、ブラウンシュヴァイク公が、民衆に対する核攻撃を命令>
<同地の民衆からの通信途絶>
更には、核兵器爆発の様子のCG映像が流された。
これ等により、<虐殺が行われた>との印象が、広く成立する。
内乱中、この土地に住む身内を心配した人々が、民間船の無許可航行禁止の布告にも関わらず、一再ならず封鎖された同地への侵入を試行し、その悉くが帝国体制側により拿捕された。
内乱終結後、封鎖解除と真相公表に伴い、謝罪と共に解放されている。
<ヴェスターラントの虐殺>のみならず、賊軍所属の貴族・将兵による、戦乱に伴う民間人への犯罪が帝国各地で数々頻発(これらは普通に事実であった)。
諸々を材料としたネガティブキャンペーンにより、賊軍への人心は、本拠であるガイエスブルク要塞を含め、帝国全土で離反していった。
「別に、嘘はついてないよねえ?」
(同盟軍遠征部隊参謀長ヤン中将・談)
リッテンハイム侯、同盟並びに帝国体制側との協定に背き、艦隊1万隻の手兵を率いて帝都を急襲、幼帝の身柄確保を図る。
尚、彼は、戦後の彼とその一族(犯罪者除外)の安寧の保証と引換に、野望の放棄を、柔かく言い渡されていた。
同侯旗下の残存兵力による遅滞戦闘に時間を稼がれた同盟軍は、帝国体制側へ急報。
当時の帝都の警備責任者はナイトハルト・ミュラー少将である。
ミュラーは3千隻程度の寡兵を率いて勇戦、兵力3倍以上の敵軍の攻勢を防ぎ通し、戦後、<鉄壁>の異名で呼ばれる事になる。
そして、援軍を率い、常識外の行軍速度で現着したミッターマイヤー大将は、<疾風>の異名を得た。
リッテンハイム侯、敗死。
ロイエンタール別働隊、辺境経略を終え、帝国正規軍主力と合流。
賊軍主力が拠るガイエスブルク要塞付近の宙域に、帝国正規軍と同盟軍遠征部隊、集結。
この決戦は、<三軍会戦>と呼称される。
同盟軍遠征部隊作戦主任参謀チュン・ウー少将、同要塞に対し、破壊前提の作戦立案。
重力・慣性制御併用でのバサード・ラムジェット推進により慣性を付けられ、膨大な質量を得た巨大氷塊や小惑星、廃棄・解体処分予定だった老朽艦艇・船舶や浮遊基地が、数多、ワープによって移送され、雨霰の様に要塞を撃った。
その飽和攻撃は要塞主砲と機動戦力による抵抗を圧殺。
イゼルローン要塞に準じる要害は、要塞主砲各砲台とメインポートゲートを破壊され、後方支援能力を断たれ、その真価をほぼ完封された、巨大且つ無害なスペースコロニーに成り下がる。
只でさえ脱走や自殺等が相次いでいた賊軍は、艦隊による組織的抵抗が不可能になった時点で、雪崩を打って降伏した。
オットー・フォン・ブラウンシュヴァイク公爵は、自害したと記録される。
彼の死後、アンスバッハ准将は、発生した叛乱に応戦し戦死。
同准将は、主君の死体を利用したテロを目論んでいたが、<公を殺した手柄>を求めていた人々にとり、彼の存在自体が障害物でしかなかった模様。
ビュコック大将、ミュッケンベルガー帝国元帥、フェザーンの派遣した病院船にて会談。
同盟軍と帝国正規軍、休戦協定締結。
ここに、<リップシュタット戦役>並びに<ラグナロク作戦>は終結する。
その後、銀河帝国と自由惑星同盟の両政府、互いの存在を公認。
平和条約、通商協定等を締結。
戦後の帝国の状況。
クラウス・フォン・リヒテンラーデ侯爵、公爵(帝国では、この時点で、爵位は名誉のみとなり、実権は無い)に爵位を進め、帝国宰相に正式就任。
同日、引退。
本人の意思によるものである。
<銀河連合>大使に推されたが固辞、悠々自適の余生を送った。
後任の帝国宰相 フランツ・フォン・マリーンドルフ<侯爵>。
内閣書記官長 ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ。
彼女は後に、帝国宰相に就任し、父と揃って名宰相としての名を遺す。
財務尚書 リヒター。
司法尚書 ブラッケ。
経済開発尚書 ブルーノ・フォン・シルヴァーベルヒ。
外務尚書 ゲルラッハ<伯爵>。
民生尚書 ハイドリッヒ・ラング。
内務省 社会秩序維持局長を勤めていた悪名高い此の人物の、此の職務への登用に、無数の人々が驚倒した。
一番驚いたのは、当人であったという。
その後、大方の予想を裏切り、多大な業績を見せる事になる。
「ラング氏程に、帝国の人民が何を望んでいたか、何を憎んでいたかを知悉していた人材は、そうは居ないからね」
(同盟軍情報部長ヤン中将・談)
帝国軍三長官と幕僚総監の4名の帝国元帥もまた、自ら退役。
三長官の後任は、以下の人々である。
軍務尚書 メックリンガー。
統帥本部総長 ロイエンタール。
宇宙艦隊司令長官 ミッターマイヤー。
全員、帝国元帥に昇進。
尚、この頃、帝国軍の制度において、<上級大将>は消滅し、そして<帝国元帥>の、<元帥府を開設、部下を自由に任免>等の特権は廃止。
敗戦するも生還していたシュターデンは、軍官僚に転じ、平時の軍政家として水準以上の手腕を発揮し、戦後の人生行路を順調に進んだ。
10年後、天賦人権説に基づく成文憲法が制定され、年齢以外ほぼ無差別の民選による中央議会が開設されている。
皇帝エルウィン・ヨーゼフ2世は、立憲君主として、及第以上の人物に成長し、玉座での100年近い年月を大過無く過ごし、天寿を全うしている。
自由惑星同盟にて。
統合作戦本部長グリーンヒル、宇宙艦隊司令長官ビュコックの両大将、元帥昇進。
フィッシャー、大将昇進。後方勤務本部長就任。
リンチ、大将昇進。統合作戦本部幕僚総監就任。
ボロディン、大将昇進。統合作戦本部次長就任。
ウランフ、大将昇進。統合作戦本部次長就任。
クブルスリー、大将昇進。統合作戦本部次長就任(注:この職は定員3名)。
キャゼルヌ、中将昇進。後方勤務本部次長就任。
チュン・ウー、中将昇進。国防委員会作戦部長就任。
アッテンボロー、中将昇進。宇宙艦隊司令官就任。
情報部長ヤン、大将昇進、自身の強い希望で退役。
70年後、元帥号が、死去の際に追贈される。
情報部次長に就任以来、彼の副官を務めていた、フレデリカ・グリーンヒル(最終階級、大尉。退役)と結婚。
後任、中将に昇進したラップ。
ラップ、婚約者ジェシカと結婚。
ヤン・フレデリカ達と時期を合わせ、盛大に祝う。
ヤンの被保護者ユリアン・ミンツは、保護者の反対(笑)を一蹴、同盟軍士官学校に首席で入学。
<広域宇宙艦隊>の捜査官を志望していた。
ヤン、ハイネセン記念大学歴史学科の3年次編入試験を受験、合格。
長年の夢だった、歴史学者への進路を再開。
いつしか発生した彼の異称<
「今更だけど、同盟軍の戦史編纂室って、詐欺だったよなあ」
(ヤン退役大将・談)
<銀河連合>と<星際司法裁判所>(刑事・民事・経済問題の裁定など全て管掌)、<汎人類銀行>、そして<
いずれも本部は、惑星フェザーンに置かれる。
<フェザーン自治領>は<連合直轄特別区フェザーン>に改変。
フェザーンの商人と官僚達の主導による、人類社会の経済の再編・統合が進んでいた。
銀河連合の初代事務総長、ルビンスキー。
数年後、惜しまれながら病死するが、それまでの短い間に、その卓越した政治手腕により、各国際機関の確立に尽力し貢献する。
<
帝国・同盟での軍縮と兵力移行の結果、10年後には、人類社会における最大の恒星間軍事組織となる。
各国の軍需産業は、此処を顧客とする事により、戦争に依存する体質を変革していった。
初代長官 ケスラー。大将昇進。
次官 兼任 刑事局長 ムライ。中将昇進。
後年、キャゼルヌが、工部局長として出向。
公安局次長 オーベルシュタイン。少将昇進。
参事官 ルパート・ケッセルリンク。フェザーン自治領主府のスタッフを務めていた人物である。
ケッセルリンクはルビンスキーの息子であった。父を憎悪していた彼は、直截的な復讐ではなく、自身の自己実現により父を凌駕する事を志向していた。
数年後、「勝ち逃げされた」と虚脱感を味わう事に成る。
フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト、ヘルムート・レンネンカンプ、カール・グスタフ・ケンプ、エルラッハ、ルグランジュ、エベンス、グエン・バン・ヒュー、セレブレッゼ(捕虜になっていたが捕虜交換で帰還)、フォーク(回復し、現役復帰していた)、ドーソン等々の面々、広域宇宙艦隊や星際司法裁判所に出向。
戦後に頻発した、賊軍や地球教の残党・同盟強硬派による、テロや宇宙海賊行為等の犯罪への対応に忙殺される。
各々、政治的な不満が有った筈だが、其を行動で表現する暇は絶無であった。
イゼルローン回廊は、広域宇宙艦隊の管理下に移行。
回廊基地司令官 シェーンコップ中将。
回廊駐留艦隊司令官 ミュラー中将。
性格の異なる両者は、存外良好な関係を構築し、終生に亘る友人となった。
地球教本拠所在地、太陽系とその第三惑星・地球は、重点的な再開発の対象となった。
人類の発祥地であり、古い貴重な遺跡が存在するこの区域は、人類社会有数の観光地として再起し、その繁栄は地球教徒の根強い憎悪と狂信を緩めていく事になる。
終戦直後辺りで、エンジン複数連動制御技術の確立に伴う大質量ワープ航法実現と、それによる超大型輸送船や移動型宇宙都市、資源小惑星長距離移送等の実用化達成、輸送・流通インフラの激変。
終戦に伴うリソース転化と併せ、開拓事業・再開発が爆発的に拡大。
加えて各方面の改革も奏功、人類社会の合計特殊出生率は2.09以上となり、減少傾向だった人類総人口は増加へと逆転。
100年後、<銀河連合>は、<銀河共同体>へと発展的解消を遂げる。
最後になるが、或る人物の消息について。
アスターテ星域会戦の終了後、同盟軍が帝国軍の救命艇を拿捕。
中破した艇の唯一の生存者は、重傷と衝撃の為、記憶を喪失していた。
更に、認識票・階級章等、身元確認に有意な物を一切所持していなかった。
これは、拿捕され、尋問された際、敵の手掛かりになる危険を鑑みての措置だった模様。
赤毛のこの人物は、記憶未回復のまま、同盟軍の病院で数年を過ごす。
その後、回復したと見られ、退院。
帝都郊外に隠棲していたアンネローゼの元を来訪している。
2人は暫く後、結婚。
幸福な第2の人生を送ったという。
数年後、金髪の男の子が誕生、<ラインハルト>と名付けられ、心身共に健やかに成長した。
友達を作るのは、同名の叔父とは異なり、下手ではなかったらしい。
終
銀英伝にて、ヤンが、状況を戦略面で動かせていたら、どうなっていただろう、と言うIF話でした。
ヤンは、参謀畑を進んで、前線の司令官に成った人でしたが。
情報関連に居た方が、出来る事が多かったのではないか、と。
尚且つ、ラインハルトを早めに排除(アスターテ星域会戦は、彼を抹殺する絶好の機会でした)。
フェザーンは同盟側に協力させる(新秩序の中枢がフェザーンであっても、同盟側には何も悪い事は有りません)。
同盟・帝国の両体制の、共通の敵として、「地球教」「門閥貴族」を。
等々。
細部や台詞などを書き込んだら大変な分量になっていたでしょうから、こういう形に。
今回の再録に当たって、それをやってみようかとも思いましたが、先ずは原型を(とは言いましても、かなりいじりましたが)。
そのうち、様々な出来事の細部を、連作短編的に書いて行けたらいいなと思ってます。気が向いたらですが。
二次創作の、しかも半端な形ではありますが、当方にとっては、最初の、不特定多数の人様にお見せした自作の小説(?)になります。
ご笑覧頂けましたら幸いです。