Fate/Grand Order -The third choice-   作:スノウレッツ

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警告:この作品は、FGOの世界に、結構な数のオリキャラ、オリ設定、オマージュパロディパクリ、その他もろもろをぶちこんでシナリオをかなりねじ曲げたものとなっております。基本的な軸は変わりませんが、根本的に世界が異なるものとお考えください。

本家よりプロローグ、序章の約束ごと
・ぐだおがカルデアにやってくる
・事故によりレイシフト失敗
・上記の結果、マシュは????のデミサーヴァントになる→すまない。途中で気が変わったんだすまない。
・序章の舞台は特異点F
・敵のシャドウサーヴァント、及びセイバーオルタは変わらず
・聖杯の欠片を回収し、カルデアに帰還→そもそも序章で聖杯の欠片回収してねえ! ガバガバにも程がある……
・グランドオーダー発令
以上が基本軸、よってこれ以外の事象は改変が加わっている場合がございます。

それらを気になさらない方々、一つ、お時間いただければと。




プロローグ
第一話 [とある未来への御話]


 

 

 ◇

 

 

 とある銀河のとある星。

 地球。この星は闘争を与えられた。

 

 後に宇宙と呼ばれることになる単一究極存在(アルテミット・ゼロ)が一つ目の世界を創り出してから、幾億。

 その大地に落とされた肉は、総じて争乱を主軸として生きてきた。

 無論、戦の無い、平和な時代もあったろう。暴力無しに言論のみで語り合えた時代もあったろう。

 だが、そんな時代は長く続かなかったし、続くようには出来ていないのだ。

 時代の転換点は、必ず争乱にある。これはどれだけの言葉を尽くしても確実に覆し得ない絶対的根底である。

 

 黎明の時代。始まりの肉が超常の力を奮い、世界に渾沌と虚無とを産み出した戦争があった。

 後に『神』と呼ばれたそれら超越者は、やがて自らのテリトリーを決め、『人』という自らに従順な駒を造り出す。

 

 そして神は、自らの代理として選ばれた『人』に超常の力を与え、其々の覇を競うようになる。

 在る者は『火』を自在に操った。

 在る者は『予言』で未来を見定めた。

 在る者は『武』を極め、王として民を率いた。

 在る、ものは───

 

 それらは後に『神話』として、『伝承』として語り継がれ、その登場人物達は『英雄』と呼ばれた。

 

 英雄達は各地にて名を馳せる。

 故郷を荒らす強大な怪物を討った者がいた。

 多くの大国を討ち滅ぼし、覇王として君臨した者がいた。

 邪悪な魔王より、世界を救わんと立ち上がった者がいた。

 

 人は時代を経るたび、戦乱を経る度にその力を増していく。

 神の加護を以て戦った。聖霊を使役し戦争を食い止めた。人は異郷の神そのものを討ち滅ぼし、悪魔と蔑みながらもこれを隷属させた。

 人と神とが同列に立とうとしたその時。

 

 ──原初の意思は、それを良しとした。

 ──所詮、自らが産み出したモノだと。

 ──たかをくくったのである。

 

『我、発見せり!』と。

 文明集束点(セントラル・アルケー)前後。『天』以外を人は観るようになる。自然の摂理に、禁断の領域に人間は手を差し込んだ。

 

 その面白さ、奥深さに人は神を突き放し、本来は進むべくもない道を歩み始める。

 

 古代メソポタミア、バビロンの大英雄ギルガメスが数万を数える神代に致命的一撃を放ち。

 イスラエル、聖者の到達地点、魔術王ソロモンの死により、地上に溢れた神秘は急速にその意味を失っていく。

 そして『彷徨える王』、獅子心王リチャード一世は、その本当の意義を知らぬまま戦乱の時代に命を散らした。

 これを以て、人類史の表層より神秘は顔を伏せたのである。

 

 近代、戦争の武器は『人』から『機械』へと変貌した。

 剣は銃へ、騎馬は戦車へ、魔術は科学へ。

 増えすぎた人口を効率よく消費しながら、人類は中途半端な時代の流れに押し流されていったのだ。

 此れだけなら問題などない。

 科学は日進月歩、魔術は槿花一日(きんかいちじつ)

 所詮、人は真理には辿り着けない筈なのだから。

 そのまま進めば、なんの問題も無かったのだ。

 

 しかし──ひと握りの人間たち、魔術師は過去にしがみついたまま。

 故に、微かだが確かに。魔術という神秘は消えず、密かに育てられてしまった。

 もはや人社会とは完全に離反した異端たる神秘の数々は、時に時代によって弾劾され、時に弱者によって狂信され、時に気違いとして世間から隔離されたりした。

 

 神秘の弱まった近代では、後ろ楯を失った魔術が生きる道は無かったにも等しかった、筈だったが。

 まだ存在していたのである。神を失った魔術師の後ろ楯が。そんな奇異な連中──魔術協会・三大部門とか言うものが、世界の裏側で魔術師たちに力を育てさせた。

 ロンドンの時計塔、エジプトのアトラス院、北欧の彷徨海。

 なんと魔術師達は、自力で神秘の存続を行っていたのである。

 

 そして、表側では科学が発展し、裏側では魔術が再興していくという、本来では有り得ない道を人類はひた走っていたのである。

 

 ──原初の意思は、これも気に留めなかった。

 ──変わらず見くびっていたのである。

 ──永き時の中で、忘れていたのである。

 ──『彼ら』に与えた、存在の真なる意味を。

 

 現代。なんと、戦乱に魔術が復帰した。

 科学は未来に延びている。

 魔術は過去を掬っている。

 

 核すら魔術は防いだ。

 国すら魔術は覆ったのだ。

 

 科学は更に発達した。

 魔術を討ち果たさんと。

 

 いたちごっこが始まった。

 魔術が上をいけば、科学がそれを失墜させる。

 科学が新しい理論を見いだせば、魔術は過去からの奇跡を使い、新理論を紙屑にした。

 

 現在。

 科学は日に日に洗練されていく。

 魔術は日に日に深淵に手を伸ばす。

 現在、人は運命の転換点にあり、科学と魔術は、カフェラテのように溶け合った。

 

 もう、けして──離れることはないだろう。

 

 

 

 ◇

 

 

 『Fate/Grand Order -The third choice-』

 

 

 ◇

 

 

 

 

 二十年くらい前。

 

 聴いた話によると、どこぞの魔法使いどもが起こした大魔法『再誕召還(サイクル・ショッカー)』により、世界の至るところにかつての災厄である『魔界』や『異界』が出現。

 世にある全てのバランスは崩れ、人類の80%以上が死滅。

 それ以上の数の異形が溢れたのだという。

 

 しかし、たった数年。

 たった一、二年の間にだ。

 

 その混沌の最中、絶大な『力』で全てを纏め上げ、世界を再び統括した謎の秘密結社があった。

 

 その名を『終末の銀星(フィニス・アストルム)』。

 

 

 絶対の覇王、■■■■■の名の下に、

 英雄、神柱、悪魔に天使、精霊、妖精、百鬼羅刹に魑魅魍魎。

 かつて、人類史に存在した全てを配下に置き、鋼と化した大地に、新世界を築き上げたのだ。

 

 その様は、まるで原初の渾沌。

 ケイオスの再現だ、黄金時代が再来したのだと。そう、誰かが笑って唄ったらしい。

 

      ───とある書記の記録より抜粋

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 第一部『A fancy Promise』

 

 

 ◇

 

 

 // 2015/8/6/6:59 //

 

 

 今日も、同じ時間に目が覚めた。

 

 体温を確認する。

 若干低いだろうか。寝起きだから当然か。

 

 五感を確認する。

 視覚は問題なし、くっきりはっきりだ。

 部屋は新鮮な空気で充ちている、呼吸器系にも異常はない。

 触覚は……当たり前。ベットから起き上がれたことがそれの証明だ。

 味覚は流石に判らない。妙な味はしないから、それはそれでいいだろう。

 

 さて、次は。

 

 自我を確定させる為、私は私の名前を思い返す。

 

 ───私はマシュ・キリエライト。

 

 それが私の名だ。

 自分的にはそれなりに気に入っている。

 まあ、何といっても人間の名前を貰えたのだ。

 それを嫌う筈もない。それに、なにやら何処ぞの聖人と同じ名前らしいじゃないか。私には勿体ないくらいに上等な名前だった。

 

「やぁ。起きたかいマシュ?」

 

 部屋の一角───私のベットの傍らに腰かけていた人物が、私に対して朝の挨拶をする。

 

 死んだ魚のような淀んだ眼だと、他の者は嗤っていた。

 女性とは思えないほど乱雑だと、他の者は頭を抱えていた。

 そして、人とは思えないほどの彼女の力を、他の者は畏怖していた。

 

 だけど、私だけは彼女の本質を少なからず知っている。

 

「はい、おはようございます。本日は貴女の担当なんですね、デイム・ラプス」

「ん。ああ……ロマンはサボりという名の仮眠だよ。あれはワーカーホリックな節があるから困ったものだ。全く、実力の伴った努力家は見ていてハラハラする」

 

 そう、彼女はため息をつきながら、今まで読んでいたらしい書籍を側にあったテーブルに置いた。

 それから、しっかりと私の顔を見て、確認するように……にこやかに切り出した。

 

「──ああ、おはよう、マシュ。気分はどうかな? 何処か具合の悪い箇所は?」

 

 目の前の彼女──ラプソディア・F(フィオレ)・ラケシードは、カルデアのスタッフだ。

 私含め、他の職員は彼女のことをラプスと呼んでいる。

 主に担当は医療セクション。現在は医療部門のトップ『ロマニ・アーキマン』の一つ下で働いている。

 歳はよく分からない、しかしロマンよりは若いようだから、恐らく二十六くらいだろう。

 

 黄色がかった白髪の……ああ、淡いクリーム色といった方が良いだろう。基本的には白と黒が彼女のイメージカラーだ。

 白衣が非常によく似合う、すらりとした背丈。

 別に見かけを着飾ることはなく、だいたいいつもスーツの上から白衣を羽織った様相で、聞いたところによると適当に余ってたものを拝借しているだけらしい。たぶん予備の物を勝手に着ているのだろう。男装の麗人、とまではいかないが中性的な魅力を存分に醸している。眼は死んだ魚のようだが。

 そんな彼女だが、此処では通名で『腰かける者(オーギュスト)』とか、『詭弁家(サタナキア)』とか、そんな渾名がついている。どれもいい意味ではない。

 あとイタリア国籍らしい、けれどイタリア人ではないらしい。

 とまあ仮定と想定ばかりの紹介になり、素性はよく知れないが、少なくとも『私』は彼女をそれなりに信用している。

 

「いえ、大丈夫です。敢えて答えるならば、昨日の第一次最終訓練(ファースト・ピリオド)の疲れが少し残っているくらいでしょうか?」

「昨日? あーっ、訓練担当の野郎……あまり無理させるなってキツく言っておいたってのに……」

「ラプス、口調が荒くなってますよ」

「おっと……ごめんごめん。じゃ、一応検診だ。

 服脱いどいて、着替えとってくるから」

「了解です」

 

 朝の仕度の間、少しだが此処の話をしよう。

 

 ここは人理継続保障機関フィニス・カルデア。

 その名が示すように、人の理──人類の生存を保障する、という観測を行っている特務機関だ。

 よく分からない? それじゃあもうちょっと噛み砕こう。

 

 簡単に言えば、『未来』にいる『生存している人類』を見ることで、根本的な人の滅亡を防ぐ、或いは滅びに対して『現在』から『未来』に対抗策をぶつけるというものだ。

 これでもだいぶ難解なのだが、うん。

 

 ひとことで言おう。

 

 ──我々は世界を護っているのだ。

 

 ああ、煩雑な理念や醜悪な二心などどうでもいいだろう。

 我々は世界を護っている、これだけの正当な大義名分をかざし、カルデアの職員は堅い信念を持って仕事をこなしている。

 

 若干数名を除いて、だが。

 

 まず、私。私自身、そこまでの自覚がない。

 その為だけに生まれてきた存在だというのに。

 どうやら、私自身預かり知らぬ場所で勝手に棄てられたらしい。そこで終わっていればもしかすると楽だったのかもしれないが、とある人物に出会ったおかげで、未だに生を謳歌している。

 それからは、レイシフトのマスター候補、その落ちこぼれという枠で身を修めるのに必死でいるのだが。その努力も実り、信じられないことだがなんと霊子転移試行作戦(ファースト・ミッション)、Aチームのしかも首席と相成った。

 背負うには重い重い役職に就いてしまったことだ。

 

 けれども、苦しくはない。

 一体何を苦しがろうか。

 身体が動かせる、それだけで十分なほどなのに、あまつさえ『生きる意味』すら与えられている。

 何もかも、私にとっては楽しいことだった。

 

 あと数人、周りからは『誇りを持っていない』と称される輩はいるが、その筆頭がドクター・ロマンに違いない。

 誤解を恐れず言えば、彼は実にちゃんとしている。通常の社会ならば、尊敬の念すら楽々と受けることは想像に難くない。

 しかし、此処は非日常の塊、特異なる人間──魔術師の巣窟だ。魔術師というものは得てして自信家であり、プライドの高い人間しかいないといっても過言ではないだろう。

 無論、そうなるのにも理屈はあるのだが、今は語る時間も空白もない。

 

 と、まあ。

 魔術師にとっては世界の基準が非常に高いのである。同じ領域に立っていない人物は卑下されることはままある。

 強い拘りを持たない人間はそのまま下に見られるのである。

 理不尽でも何でもない。これは文字通り、住む世界が違うのだから。

 

 そして───

 

「はい、今日の服と、こいつが(くだん)の……うん?」

「……どうしましたか、そのじとっとした視線は非常に不愉快ですよ」

「あっと、失礼。なぁに、成長期の娘は実に目の保養になるってさ」

「セクハラ! セクハラです今の! ロマンに訴えますよ!」

 

 私が胸を隠しながら口を尖らせると、貴女は愉快そうにけらけらと笑う。

 そう、彼女はいつもこんな調子だ。

『私の言動の八割は嘘っぱちだから。 真面目に受け取らないようにね?』

 出会ってすぐに言われた始まりの台詞だ。

 だからといって、そんな嘘を真っ向から向けられた日にはきっちりと抗議をせねばなるまい。

 

「アハハ、もっとややこしくなるから止めておいて───ま、冗談だよ。ったく設計士は何を考えて……」

 

 そう言いながら、いつの間にかテーブルにあった見知らぬ小さめのアタッシュケースの上に、いつも着ている私の白衣と黒の洋服を置く。

 あのケースはなんだろう。まあいい。

 

「……風邪、引いちゃうから、早めに終わらせてください」

「ん。判った。首下と丹田(タンデン)どっちがいい?」

「首下でいいです。……手つきいやらしいですよ?」

「うへへ、お嬢ちゃん良い身体してるなぁ?」

「…………」

 

 存分に軽蔑の念を込めて目を細める。

 

「……ごめん、冗談だから……睨まないで……」

 

 睨んだつもりはない。

 ただ、最近は良くこういうことをされるので、たまには仕返しをしてもいいだろう。

 

 ばつが悪くなったか、彼女は真面目な顔にすぐ戻った。そうやって自身に都合の良くない事を無かったことにしようとするのは彼女の悪い癖の一つだ。

 

 胸元に、手が延びてくる。

 

「んっ」

 

 ラプソディア・ラケシードは魔術師ではない、呪術師である。

 彼女は東洋医学に精通しており、気の流れ──すなわち魔力の流れを見て、それに手を加えることを得意としている。

 彼女の走査術式(スキャニング)は、科学の最先端を集約したカルデアの医療機械より正確な数値を叩き出す程に高性能で、東の魔術を田舎の邪道だとせせら笑う西欧の、時計塔の魔術師ですら、この(スキル)においては一目措いているのだ。

 だからこそ、このカルデアという魔窟に所属しているとも言えるか。

 彼女がいつから此処にいるのかは知らないが、前所長の頃には既に配属されていたようで。

 

「ふ────」

 

 彼女が具体的に何をしているのか、それを聞いたこともあることにはあるが、結局は私程度の学では理解できそうになかった。

 要は身体の不調を見つけ、それを正しているのだ、と。

 他人の身体に干渉する魔術は非常に希少なものらしい。そして、その大抵は危険な性質を持つようだが、どうやら彼女のそれは違うようだ。

 

 何となく、だが。

 彼女に身体を診てもらっている間、全身が温かくなる気がする。それがとても心地よい。

 起きたばかりだというのに、柔らかに眠気に誘われるよう。

 今日のそれも、眠気が直にやって来たが、やはりいつもと変わらず眠りに落ちる前に調整は終わってしまった。

 

「ん……ま、良いでしょ。このくらいなら普通の疲労くらいだろうし。 どう、どこか変な感触は?」

「はい……この、毎回の生殺しはどうにかなりませんか……?」

 

 少しだけ、息が色を帯びてしまう。

 この調整の長所は、瞬く間に疲労や疾患を無くすことが出来る点。短所は、このように……何というか……身体が温まってしまうことだろうか……

 

「そんな物騒な言い回ししないの。 まあ、身体を中から弄くり回してるから、そうなるのも判らんでもないけどね」

 

 そう言いながら、ラプスは手のひらに黒い結晶を転がした。小さな、親指の先ほどの大きさの結晶体。体内に溜まる不浄、だという。

『概念にカタチをつけて取り出す』という、魔術回路の歪みを調整する方法の一つとのこと。

 彼女はそれを一瞥した後、握り潰してしまった。

 

「───ってことで! 今日からはこれだ!」

「え?」

 

 とん、と。アタッシュケースを差し出される。

 これは何だろう? 昨日までにはなかったものだ。

 

「何ですか、これは」

「レイシフトスーツだけど? 霊子学は専門外だけど、このデザインだけは秀逸だね!特に女の子のは!」

「ひぁっ? なんでいきなり!?」

 

 渡されたのは、なんというか。

 簡単に言えば競泳着にデザインは近しいものだ。レイシフトの時に着用する、コフィン専用のコクピットスーツといったところか。

 前々から知ってはいたが、これこのようにいきなり出されると非常に戸惑う。

 

「まあまあ、観念して着なさい。別に中世の鎧やら極東の振袖みたいに着込む手間は極力廃した造りだからね! 何時でも、何処でもがモットーで──」

 

 いや、そういう理由で躊躇しているのでは無く。というか『何時でも』はまだいいとして、『何処でも』はだいぶ語弊がある。

 こんなもの、公の場では着れまい。相変わらず、閉鎖空間にいるせいで色々狂ってしまっている。貴女も、勿論わたしも。

 

「……あ、あっち向いててくださいよ?」

「なに、過程を観察する権利は私には無いと仰るか」

「貴女でもそれだけは無いです! 見世物じゃないんですよ私は!」

「ならまあ仕方ない、明後日の方角を見つめてるよ」

 

 くるんと、身を翻し、近場のチェアを引っ張ってきて腰を落ち着けたかと思えば、再び何かしらの文庫を手にとって読み始めた。

 真っ黒な背表紙には小さく『The Black Cat』と見えたのだが。知らない本だ、今度読ませて貰おうか。

 

 まあ、とかく───これを渡されたからには、まあ、着ねばなるまい。

 レイシフト専用の特殊スーツ。装着者各人の身体情報を反映し、全身に密着するような構造になっているため、特注生産品に為らざるを得ない。

 個人差がある人体規格を出来うる限り同列にしようというのがこの特殊スーツの役割らしいが、如何せん見た目が羞恥を誘ってくれる。

 

 恒例の検診で半開きになっていた病衣をさらりと脱ぎ、ささと試着を済ませてしまおうと、身を軽くした。

 渡されたのは、見た目ではまるで一枚の奇妙な形をしたラバーシートのような──実際の構成素材は何を隠そう金属板で、薄い特殊な形状記憶合金を確か十層程度重ねた果てに完成している、ある意味世界で最も軽い鎧のようなものだ。

 一枚、数μmの金属の板、その一枚一枚には精密な術式が張り巡らせてあり、これ以上ないほどに強力な魔術礼装として機能する。

 身に当てるだけで、魔術回路を用いた個別登録の判定を行い、成功すれば勝手に体に合わせてまとわりつく、という。

 起き抜けの冷たい身体の筈だったが、なるほど、先程の検診で温まっていた為に、スーツの冷感すらが若干の心地好さを与えてくる。

 首回りから、胸、腹部を飛ばして腰、太腿からふくらはぎまで、勢いよく絡み付くように礼装が密着していく。

 

「んっ───ふぁっ」

 

 魔術回路が励起し、特殊スーツに刻まれた各種術式に起動を促す。

 この時の、全身に無理やり異物が入ってくるような感覚は幾度と試用試験を請け負った身としても非常に、なんと言うか──言葉にしようとすると、駄目だ。

 頭が沸騰しそうになる。なぜだろう。

 

 しかし、一つ気づいた。

 試験では腕部は手先まで包まれた筈だったが、今は二の腕の途中で止まっている。

 

「あの、仕様書にあった筈のハンドパーツが無いような気がするんですけど」

手甲型接続端子(コネクターデバイス)棺桶(コフィン)側の備え付けに変わったよ。……仕様書は一度読ませただけだと思ってたけど、よく覚えてたね?」

 

 いえ、あれはよく頭に残っていたパーツなので、と返す。ああ、なるほど。

 確かに、今思い返せば腕部パーツは重かったので、基本装備から外されていても特には問題ない。こちらにとってもありがたい修正点だ。

 

 と言うことは、一応、装着完了。

 軽く、自分の姿を見回す。三面鏡などあれば便利なのだが、いや、というか目の前にいる彼女に声をかければいいのだが。

 その前に、だ。

 

 客観的な視点はとれないが、想定してやってみる。

 スーツの色は漆黒。別に彩色はなんでもいいらしく、個人が好きなものを設定できる。が、私はデフォルトで。

 見た目の一番の特徴としては、恐らく関節部が覆われていないことか。肩と膝、及び首は、機動性をとるために露出している、らしい。

 実際は単なる技術不足だとか、資金不足による簡略化とかじゃないか、とラプスは愚痴をこぼしていた。

 あとは……あと、は───

 

「…………」

 

 身体のラインがくっきり出てしまうことか。

 以上。これについてはなにも言うまい。

 

「──えっと、装着が完了しました」

 

 なにも、包み隠さず、上司に報告を入れる。

 

「……よっと」

 

 呼ばれた彼女は、さっと読んでいた文庫を閉じ、椅子から起き上がるとゆらりとこちらを向いた。さながら、その流麗な動きは猫を思わせた。

 それから数秒間、見られていた。別段、それはいつものことだったのだが、この時は少し違った。

 

「え、と……?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。彼女の険しい表情など久しぶりに見たのだ。てっきり、何時ものようにセクハラ発言が飛んでくるのではと思っていた私は軽く面食らった。

 ラプスは、対面してようやくわかる程度に歯を軋ませる。それの意味も私には解らなかった。

 が、次の瞬間。流れるような動作で、懐から、何やら薄い板のような何かを取り出し──

 

 キラン。と。照明に反射したのは、レンズ。

 私は反射的にそれを掴む。これっ──てぇっ!

 

「なんですかこれ!? なんで内線端末にカメラレンズがくっついてるんですか!?」

「はは! こいつはダヴィンチちゃん謹製! とうさ……じゃねえ小型カメラ『管理人監視子機(ウォッチドッグス)』さぁ!」

「盗撮って言いかけましたね!? 最低ですよ、まさか装着の様子を影から撮影とかしてないですよね!?」

「まだ! まだ動画機能は検証中だから!」

「まだって何ですかもうー! こんなもの没収です!」

 

 プライバシーの欠片も無いそのデバイスを強奪した。ほんと、神妙な空気を出したらふざける合図なんだろうか。

 スーツよる強化もあり、実にあっさりと片付く。

 

「あーー! 私の六年分の貯蓄がー!」

「報酬はもっと有意義なことに使ってください! というかお金かかりすぎでは? 暴利を課されてはいませんか!?」

 

 およそ特別な得物を取られて、よよとラプスはばふりと(私の)ベットに倒れたかと思うと、更に懐から今度は正規品(とおぼしき)の内線端末を取り出した。

 力なく連絡を入れた先は───この組織の巨悪にして最大の問題児。

 英霊レオナルド・ダ・ヴィンチ。その人である。

 

「ダヴィンチちゃぁん……」

『──どうしたんだい、朝方からいきなり』

「マシュにカメラ取られたぁ……」

『なんだとぅ!? まーたへまをやらかしてくれたね君ってやつは!』

「つい、出来心で……悪気は無かったんです!」

『悪気とかどの口が言うんだか? 君は真意からしか動かないじゃないか』

「ごもっとも……」

 

 何故かは知らないが、工房の主──ダヴィンチとラプソディアは、ひどく仲が良い。

『多くの愚者を連れとするより、珠玉の知恵者と覇を競え』とは大昔の哲学者の言葉だとか彼女らからは教えられたが、生憎、此処はその知恵者ばかりということで。

 極東の言葉を借りれば『チクバノトモ』とか言った諺は、二人の関係に良く合っている。

 

『まったくさー、君、そんなんでサタナキアを名乗れるのかぁい?』

「ごめんよアガリアレプトーッ!」

 

 悪巧みを隠さんが為の身内の渾名、今となってはほぼ機能していないことは黙っておこう。ちなみにそれぞれ『知りたがり(アガリアレプト)』と『女好き(サタナキア)』だ。由縁の悪魔が可哀想になってくるレベルで酷い。

 その隙の間にいそいそと用意されたもう一つ、いつもの──これも、ノースリーブという誰かの趣味が全開な黒の洋服と、その上に隠すように白衣を羽織る。着用を終えると、論争も済んだのだろうか、落ち着いたラプスが一言。

 

「はぁ……まあいいや、朝食の時間だ。 あっちまで行くのも面倒だし、私もこっちで摂らせて貰おうかな」

「───! 一緒、ですか?」

「うん。……だめかな?」

「いえ! 嬉しいです、いつも……独り、なので」

「ん、ありがと。それじゃあ厨房に注文つけてやろっと」

 

 すぐさま、彼女は館内通信端末を本来の使い方で、恐らくは厨房に連絡をつけているようだ。

 

 ───んじゃー洋食を二セット、マシュの部屋まで持ってきてー

 

 

 

 彼女は、比較的、私のことを気遣ってくれる。

 いや、気遣いを比べるのはマナー違反か。

 何せ、医療部門トップのロマンも、カルデアの中心的技士のレフ・ライノールも、所長のオルガマリー・アニムスフィアも。

 私のことを知っている人間は、総じて毎日が多忙な人物ばかりで、役立たずの私などに構ってくれる時間はない。

 故に、私はいつも独りだったのだ。

 彼女が私の存在に気づくまでは。

 

 

 

 ───……あ? 配達分は一つしかない?

 

 

 

 ああ、正直にいえば、私は彼女のことが好きだ。言葉にしたことなんて無いし、彼女を前にして心が高鳴ったことも無かったとは思う。

 けれど、そんな激しいものは必要なかった。ただ、彼女が側に居ることが、当たり前のように私の中で容量を割いていた。

 一年程前だろうか、彼女が私の前に現れたのは。半年前くらいだろうか、彼女が私の所へ頻繁に顔を出すようになったのは。

 仕事は大丈夫なのだろうか?

 ときたま、一日中共に過ごしていることすらある。

 

 

 ───いーよ別に。バゲット一本と半箱バター寄越してくれれば! え? そんな贅沢させられない?

 

 

 

 ああ、理由など要らないのだ。

 気がつけば、知らぬ間に好きになってしまうのだから。恋など、そんな気軽いものでいい。

 

 

 

 ───いつからウチはそんな貧乏になってんだよバカ! あ、ごめんごめん切らないで──って。

 

「ちっ……切りやがったあのやろー。覚えとけよ、今日の晩飯食いつくしてやるからな……!」

「ふふ……」

「……なんか面白いことでもあった?」

 

 私が思わず笑いを溢したことを不思議に思ったらしく、苦笑いしながらそう問われた。

 

「貴女の一挙手一投足が面白いですよ」

「それは喜んでいいものか……」

 

 

 // 7:18 //

 

 

 朝食が届いた。

 私の分はいつも通り、今日は二つのパンとハムエッグ、サラダ、それとコップに注がれた水。

 ラプスにはなんとバゲット一本が贈られたが、バターはしっかりと付いてくることはなかった。しかも昨日の余り物だったらしく、かなり苦戦しながらその堅物に挑んでいる。

 

「ラプス、今日は何でしょうか……ずいぶん外が騒がしい気がします」

 

 先ほど、開いたドアの奥方からそれが伺えたのだ。慌ただしい雰囲気は、それとなく伝わってしまうものだ。

 ラプスは、手持ちのナイフでパンを輪切りにしながら答える。

 

「そりゃあ、あれでしょ。 今日は初の時間旅行やるんでしょうが。ていうか今さっき着たでしょ霊子固着拘束具(レイシフトスーツ)

「あ……そう、ですか……もう、その日なんですね」

「ま、だから朝早くから私が来たわけであって。いつの間にかマシュの担当みたいになってたしね、まあこんだけ一緒にいりゃそうなるか──」

 

 カチカチのフランスパンを、ぱくりと口に放り込む。貴女は顔をしかめながら、バゲットを噛み砕いていた。

 

「……もしかして、命令されたから側に居てくれるんですか?」

「んー? ひょんなわけないでしょー。ゴクン。

 まあダイブ組のカウンセリングは一応任されてるけどさ。自由時間は好きな事に使うのが私流だよ」

 

 彼女は私の不安に対し、別にそこまで取り合うこともせず、バゲットとの格闘を続けている。業物名刀の如く切れ味のナイフが通らない様子ではないが、それでもかなり苦戦していた。

 

「そう、ですか……?」

 

 つい、気分が沈んだ、かもしれない。

 それを視界の端に捉えられたか。

 

 彼女は手にしていた愛用のナイフ──二匹の蛇が装飾された銀製の──をテーブルに置き、代わりにと、棚からコーヒーミルを引っ張りだしてきて、ゆったりと挽き始めた。

 

「……んじゃ、一つ講義でも話しながら過ごそうか」

「──! 今日は、何のお話でしょうか!」

「ははは、マシュは本当に好奇心が強いね。

 そうだな……クセノフォンの『アナバシス』はどこまで話したか……」

「先生、アナバシスは先週終えましたよ?

 確か、レオニダス一世……ラケダイモンからの派生で話されていたかと」

 

 先生、と。

 閉じた世界に産まれた私に、実に魅力的な講義をしてくれる彼女を指して、私はそういう呼び方をしていた。

 

「おっと、そうだった? うーん……じゃあ、初レイシフト記念日ってことで、始まりに立ち返って『星空』についてでも話そうか?」

「星……カルデアの起源ですね」

「そう。星見のカルディア。旧き羊飼い達の伝承から、この機関はそう名付けられた──」

 

 

 // 8:17 //

 

 

 ラプスは、講義───自らが蓄えた知識を、噛み砕き、解りやすく、それでいて深く、つまりは話を聴かせるのが非常に上手だった。

 まるで、自分自身がその時代に生き、その偉業を目の当たりにしているかのように、彼女の話は臨場感のあるもので。

 普段、本でしか知識を得られない私が、彼女を師事するようになるのは必然的だったか。

 ラプスは、仕事の合間を縫って、私のところで話を聞かせてくれた。

 あるときは神話の一篇。

 あるときは童歌の発端。

 あるときは史実の偉業。

 

 その全て、数少ない私の楽しみで。

 

「ピオラオスが、キャリントンが、コペルニクスが。これまで数多くの賢者達が追求してきた。熾天の座への挑戦だ……」

 

 淡々と、けれど愉しそうに語る貴女を眺めているのも、私にはこれ以上ない幸福だった。

 話の途中、貴女は思い付いたように口を閉じ、ばつの悪そうな顔ぶりで言う。

 

「……久しぶりに、私ばっかり話しちゃったかな」

「いえ、没頭すると口が閉じなくなるのも、貴女の悪い癖の一つですから」

「たは、それを言われちゃ終いだ。うん。

 そういや……今日は、外は晴れだとか、言ってたな」

「え? それが、何か?」

 

 ラプスは珈琲をぐいと、一息に飲んで。

 それから、呟くように、私を見て言った。

 

「出掛けようか、マシュ」

「!? 何言ってるんですか、そんな時間無いですよ!」

「なぁに問題ないない。 あと二時間くらい猶予あるんだし。首席なんだし少しはのんびりいこうよ 」

「首席だからこそ、皆の手本に成るべきなのでは……?」

「あー……そういうヤツもいたけどね。別にそれだけのことじゃないんだよ、人の上に立つってのはさ。私はそういうおおらかな……鷹揚(おうよう)な人は好きだな」

「……ロマンのような人のことでしょうか?」

 

 目を丸くされる。

 どうやら、思考の外にいた人物を引き合いに出したようだ。

 

「ロマン~? ふふ、アレは見た目だけだよ。

 まあ中身も似たようなものだけど。ロマンはね……そりゃ非凡な才覚こそ持ってない。けど、それを補って余りあるくらい、彼は他人へ奮励を尽くすことが出来る。天と世はそれを才とは呼ばなかったけれど、どうしたって彼に救われる人間はいるからね。君も、そうだろ?」

 

 それは──確かに。

 ロマニ・アーキマンは、私という存在を発見してくれた。今となっては、感謝はしてもしたりないくらいの恩人だ。

 

 空になったコーヒーカップの底を眺め、ラプスは既に無くなった好物を惜しんでいた様子だが、次の豆に手を出すことはせず。

 再び、独り言のように呟いた。

 

「そうだなぁ……次はマキァヴェッリについてでも纏めようかな」

「『君主論』ですか? なんです、先生は私を王にでもしたいんですか?」

「ははは、今の君じゃあそう思う人間は居ないだろう! 統治者にするにはどうしたって真面目に過ぎるし───」

 

 少し、間が空いた。

 貴女は何かを憂いている風に───哀しみを帯びたような──微笑を此方に向けて。

 

「何より、君は優しすぎるから。王には向かない人物像の理想図みたいな女の子だ」

「うぅ……なんだか、こそばゆいです」

「──ま、やってみなくちゃわからないけどね」

「え?」

 

 かすかに。確かにそれは言葉にされた。

 うつむいて何かを呟いた。けれど、私までには届かなかった。

 

「……いや、何でもない。それよりさ」

 

 一転。気楽な声で私を誘う。

 

「ま、何が言いたいかっていうとたまには日光浴びようよ。だいじょーぶ、責任は半分こだから!」

「怒られる前提じゃないですか!」

「ハハハ、大丈夫だいじょーぶ。世の中の大抵のことは笑ってれば済むことだ。それに怒られるだけで済むなら何やったって良いんだよ。 特に女の子はね」

「先生はもう女の子という歳では……」

「──マシュ、私になら別に構わないけど、他の年寄りにそれについて言わないようにね。

 形容しがたき仕返し受けるから」

 

 ひどくドスの利いた声を引き出してしまった。

 たまにでる彼女の深淵は、恐らくこの世で最も恐ろしいものなんじゃないか、と。

 

「は、はい(目が笑ってない……!)」

「フォーウ!」

「お?」

 

 気づかぬうちに、部屋に侵入するもの有り。

 きらきらもふもふとした白毛。

 栗鼠か狐か、ピンとたつ耳。

 虹と見紛う美しき瞳。

 種族分類一切不明、神秘を感じる白き獣。

 名をフォウである。ちなみに命名は私だ。

 

「ああ。 フォウじゃん、久しぶりー」

「フォ、フォウフォウ~」

「なんですかその旧来の友人みたいなやり取り!?」

 

 私の頭の上に乗っかったフォウを毛並み崩さず撫でつつ、ラプスは問う。

 

「お前も外行きたいよなー、たまにはなー」

「フォ……キュウキュイ!」

 

 それを肯定と受け取ったか、ラプスは一層愉快そうに私の手をとる。

 

「だってさ、じゃあ行こう! 時間は有限だからね!」

「さっきと言ってること真逆です!?」

「フォウ……フォフォウ」

「気にするなって。そうだろうフォウ?」

 

「──フォーウ!」

 

 ピョーン、と。

 軽業を思わせる軽快な所作で、フォウはドアから飛び出ていった。

 

「あ……先に行っちまいやがった」

 

 どうする? と。

 私の手をとったままの彼女に、結局は流される。

 いつの間にか、私の中の優先順位で、彼女が仕事を乗り越えてしまったらしい。

 困ったことだ。いずれ、離別で悲しませることになるだろうに。

 それすら、私の傲慢に過ぎないのだろうか。

 その事を知らぬはずもあるまいに、貴女の笑顔に、今日も流されてしまって。

 またひとつ、貴女を好きになってしまいそう。

 

 

 // 8:45 //

 

 

「~♪」

 

 手は繋いだまま。貴女は軽快なリズムで鼻歌を紡いでいる。

 どうやらスタッフは管制室に集っているらしい、通路には人一人歩いていなかった。

 

「……機嫌がいいんですね?」

「久しぶりの外出さあ、愉快に行こうじゃないか」

「前も怒られたじゃないですか……懲りませんね、貴女も」

「でも、あの星空は綺麗だったろう?

 春の夜空はとかく満天なのが善き景色よ」

 

 三ヶ月程前か、彼女に連れ出され、外へと赴いたのは。

 初めてだったんだ、カルデアの外に出たのは。

 あの景色は忘れるものか。

 

 一面の銀世界を覚えている。

 その日は満月だった。

 月光が、積もった雪に輝いていた。

 

 満天の星空を覚えている。

 その日は快晴だった。

 かつて、旧き人々が名付けたそのカタチを、脳裏に焼き付けるように夢中になって眺めたものだ。

 

「……まあ、ええ。ラプスは寒さにやられてその後に風邪をひいていたことは水に流しましょう」

「あたっ……忘れてたいことを……

 ほんと、穴蔵に籠ってると身体弱くなるな……って……?」

 

 ふと、貴女の歩みが止まった。

 まだエントランスにもついていない。

 貴女が見つめたその先には──

 

「フォウさん? って!」

「あれ、は───」

「人が倒れて……? いや、寝ているのでしょうか……?」

 

 フォウが、何かにじゃれていたのだ。

 見たところ人間に見える。

 でも、どうして? こんなところで崩れている道理が良く理解できない。

 

「あれが────か」

「? なんでしょう?」

「……ううん、それより彼に伺いをたてようか」

 

 いつの間にか、繋いでいた手は離れていて。

 

「あ、待ってください!」

 

 先行する貴女に追い付くために、私は早足でその何か、に近づいていった。

 

 

 *******

 

 

 事象転換点は第七次終着駅まであと少し。

 

 今思えば、これが運命というヤツだったようだ。運命というヤツは実に厄介で、どうやっても逃れようのないもの。

 神様が決めた事実は、基本的に覆ることがない。それこそ、それを決めた神様がその事実に飽きない限り。

 

 ああ、だが、しかし。

 

 未来は決定されている。『人類』が滅びるのは揺るぎようのない決定事項だ。

 何をやろうが、どれだけ抗おうが、人は、じきに滅亡する。

 

 だからさ、逆に言えば。

 

 人の手で、人を殲滅すれば。

 決定した事項は覆ると思うんだ。

 人の足で、全世界を蹂躙すれば──ほら。

 

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 さて……どう思う、きみは。

 

 

 

 

 

 




始まりの日のこと。
倒れているのはあの人物、巻き起こるのは凄惨な事故。
次回『地獄の口は笑っているか』
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