集いし者たちと白き龍   作:流星彗

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皆様、こんにちは。流星彗です。
これより始まるのは、東方を舞台とした新たなる物語です。
ここからはMH3からMH3Gの要素が関わってきます。

こちらの作品でも、お付き合いいただければ幸いです。


火竜の双子 ~おてんば姉とぼけぼけ妹の狩猟記録~
1話


 

 ――――時はきた。

 

 シュヴァルツの血統を滅ぼすための流れは静かに生まれている。

 それぞれの役者の力もついてきた頃合い。ならば、いよいよ奴らを動かす時だろう。

 

 中央の物語は終わった。

 これから始まるのは、東方の物語である。

 

 すでに小さな動きは生まれている。

 あとは運命の流れに従って、役者たちはそれぞれの位置へと動くであろう。

 

 さあ、始めよう。

 ヒトと竜の物語はこれより第二幕へ。

 見届けよう。

 奴らが生き延びるのか、竜が奴らを喰らうのか。

 

 ――あるいは、ヒトはヒトによって討たれるのか。

 

 

 乾いた大地に強い日差しが差し込む砂漠。広々とした砂の大地、点々と存在する隆起した岩やその日差しを遮る岩山。食料となるものはほとんどなく、容易に立ち入ったものはその太陽の光に焼かれて水分と共に体力を奪っていく過酷な環境。

 そんな砂漠に二つの人影があった。

 一人は高く聳える岩の陰に身をひそみ、一人は離れた所にある岩の背後に回っている。その岩は中心部分が存在せず、まるで自然の門のような形になっている。一体どういう事があってこのようなオブジェとなったのか不明だが、岩の下に入り込めば日差しを避ける事が出来る。

 そして二人の服装はこの砂漠を超えるという旅人の格好ではない。それはまさに戦う者の格好だ。

 一人は紫色の長髪を赤いリボンで結んでツインテールにしており、気の強そうな碧眼をした少女。黒を基準とした動きやすさを考慮され、それでいて腹が網によって露出した装備をしている。

 背中には同じく黒を基準とした長刀を背負っており、右手は柄を握りしめていつでも抜ける状態にある。

 もう一人は岩から少しだけ顔を出している少女だ。先ほどの少女とよく似た顔つきをし、紫色のロングヘアーをそのまま流している。同じく長く伸びているもみあげが頭を守る防具から顔を出しており、左側にはお揃いらしい赤いリボンが巻かれていた。

 彼女の装備は金属部分以外は褐色に染まったものであり、その出で立ちはまるで騎士を思わせるものだ。左手には白い盾を構え、右手には金属の銃槍に白い毛をあしらった武器を構えている。

 その少しやる気のなさを感じさせるような半目の碧眼はじっとある一点を見据えている。

 向こうにいる彼女も同じように一点を見据えている事だろう。

 それが今回の獲物。

 二人が見据える先には少し小高い丘のようになっている砂の大地。そこには二匹のモンスターが頭をぶつけ合っていた。ねずみ色の体をし、扇状の襟飾りを持つ四足の竜。お互いに相手に向かって突進し、強固な頭をぶつけ合ってどちらが強いかを示しているのだ。

 ぶつかり、離れ、そしてまたぶつかり合う。

 リノプロスと呼ばれる草食竜だ。砂漠や砂原という乾燥地帯に主に生息し、硬い甲殻を持つ事で知られている。

 お互い頭突きし合っている彼らを見つめているが、二人の狙いはあの二匹ではない。

 額に浮かぶ汗をハンカチで軽く拭い、ポーチから水筒を取り出して水分補給をする事数分。ついに状況が動いた。

 

「…………来た」

 

 ぽつりと呟きながらすうっと目を細める。

 それは小さな変化だった。ぶつかり合っているリノプロス達の奥、砂の丘の下からゆらりと砂煙が小さくのぼっているのだ。それがゆっくりとあの二匹へと近づいていく。

 だが二匹はお互いしか見えておらず、しかも音を極力立てていないためにその砂煙の接近にまったく気づいていない。

 やがて砂煙は二匹の数メートル付近まで接近し、再び頭をぶつけ合ったその瞬間にそれが現れる。

 茶色い甲殻を持つ二頭の蛇が同時に砂の中から現れ、リノプロス達の背後から口を開いて喰らいつき、最後にもう一頭の蛇が真ん中から牙を剥いて現れ、二匹の頭に喰らいついてしまった。

 背後、頭部から蛇に喰らいつかれたリノプロス達は、悲鳴を上げる間もなくその蛇に捕食されてしまった。硬い甲殻などものともせず、その下にある肉まで喰らいつくその蛇はリノプロスの体を引き千切り、それぞれの糧として食事が開始された。

 甲殻を砕く音、肉が咀嚼される音、血が噴き出す音と響かせながら、一気にリノプロスの姿が蛇の口内へと消えていく。よく見れば蛇の首は一つへと集まり、少しだけ砂の上へと覗かせている体に繋がっていた。

 つまりあれは別々の蛇ではなく三つの頭を持つ一つの個体という事になる。

 ヒュドラ。

 蛇竜種、ヒュドラ族に分類される多頭蛇竜種の代表格の竜種である。

 三つの頭はそれぞれ意志を持ち、それぞれ独立して動く事が可能だ。それを生かして三方向を見る事が出来、およそ死角というものを持たない存在。また二つの頭が眠っていても、一つの頭が起きて辺りを警戒する事も可能であり、それが奇襲を封じるため容易に不意を突く事が出来ない。

 主に砂漠や峡谷という乾燥地帯に生息し、深い山に身を潜める事もある竜。砂の中や洞窟などから得物を狙い、三つの首による奇襲や毒霧で獲物をしとめる事で捕食している。

 そして今、三つの頭は食事に夢中になっている。一つの体を共有してはいるが、それぞれの意志は食事に対する渇望があるようだ。珍しくリノプロスを食べる事に意識を向けている。

 これは好機か。

 そう感じた一人が岩からゆっくりと移動を開始する。

 音を立てずに静かにヒュドラの背後へと回り込むように低姿勢で歩き、右手は相変わらず背中にある長刀の柄にある。その様子を見守りつつもう一人はポーチから黄色い液体が満たされた瓶を取り出し、蓋を開けて中身を一気に飲み干していく。

 

「……ふう」

 

 空き瓶をポーチに戻してもう一度ヒュドラへと視線を向ける。その時には既に彼女は奴の背後を取り、着実に距離を縮めて斬りかかるタイミングを窺っていた。

 やがて彼女は足に力を篭め、背中から褐色の翼を生やして一気に広げ、砂を蹴りながら低姿勢のまま飛び上がる。数度翼を羽ばたかせて高度を得ると、すぐに翼を畳んでヒュドラへと急接近しつつ長刀を抜いて背後から背中を一文字に斬り伏せる。

 

「ジャーーッ!?」

 

 食事中に乱入してきた敵に驚き、一つの頭が悲鳴を上げ、一つの頭はすぐに背後を振り返って敵を確認する。残りの一つは敵を確認しつつ辺りを警戒し始めた。

 だが少女はヒュドラの側面に降り立ちながら手にする長刀、ヒドゥンサーベルを構えつつ畳んだ翼をほぐすように何度か羽ばたかせてにやりと不敵に笑う。

 そんな彼女の背後の砂が舞い上がり、茶色の鱗に覆われた尻尾が現れ、彼女を叩き潰そうと振るわれる。だがそれを察知して横に跳び、下段に構えなおしたヒドゥンサーベルでヒュドラの胸を斬り上げる。

 そんな彼女へと一つの首が噛みつきにかかるも、その動きを見切っている彼女に掠りもしない。翼を羽ばたかせて空中を移動し、向かってきた首を斬りながら彼女はもう一人の少女がいる方へと首が向かないようにしていた。

 それを察知したもう一人の少女は岩から飛び出し、ヒドゥンサーベルを振るう少女と同じ褐色の翼を広げてヒュドラの背後から一気に接近してくる。

 彼女の気配に気づいたのだろうか、右の頭がぴくりと反応して振り返る。そんな奴へと彼女は手にした白いガンランスを突き出し、その額を槍が貫く。続けて柄にある引き金を引けば、銃口から爆発が起きて頭を焼かんとする。

 

「ジュルァッ!?」

「さてさて、行きますか」

 

 少し気の抜けるような声で呟きながらそのガンランス、ヘルスティング改を振るって焼いた部分を斬る。抵抗するように首を振るも、彼女は落ち着いて一度距離を取り、前に進みつつまたヘルスティング改を突き出す。だが中心の頭が彼女へと喰らいつこうとしたため、転身しながら盾を構えて防御する。

 

「シャアッ!」

 

 ガチッ、と音を立てて盾と頭がぶつかり合うが、どういうわけかその盾は弾かれず、噛みつきから頭突きへと切り替わった頭の攻撃を受け止めている。

 利き腕ではない手で縦を構えているにもかかわらずにその力に抗う。少女の華奢な左腕とは思えないその力、背中に生える褐色の翼……人間ではないことは明らかだ。

 

「はっ!」

 

 少し引いて顎を穿つように盾を振るい、あらかじめ引き絞っていた引き金を離しながらヘルスティング改の切っ先を顔に向けてやる。溜めこまれたエネルギーが解放されて、通常以上の爆発がヒュドラへと襲い掛かる。

 しかしヒュドラは三つの頭を持つ竜だ。

 一つの頭が怯んだとしても、別の頭が反撃を仕掛けてくる。

 最初に仕掛けた右の頭が彼女へと噛みつきに来るが、それに気づいて背後へと跳んで回避し、回り込むように旋回する。

 その間にもう一人が左の頭へと何度も斬りかかってダメージを与えていた。何とか喰らいつこうとしているようだが、彼女の空中移動が速いために捉える事が出来ない。

 後退、旋回、クイックターン……翼を巧みに使い、見事な移動を繰り返してヒュドラを翻弄するように飛び、隙あらばヒドゥンサーベルで斬りつける……見事なヒット&アウェイの戦法だ。

 

「シュルルル……シャッ!」

 

 このままでは埒があかないと判断したのだろうか、その左の頭は一度退くように砂へと向かって頭を沈めていく。それに続くように他の頭、それに繋がった体と続き、砂煙を巻き上げながらその姿が完全に地中に消える。

 逃げたわけではない。

 気配はまだ地中にあり、この場から離れる様子はない。宙に停滞し、ヒュドラの出方を窺う様子だ。

 

「感じる?」

「おー、もちろんですよ。あれほどの気配、そう易々と逃がしませんよ」

「ま、そうね。……む?」

 

 二人の背後からヒュドラの一つの頭が現れ、二人へと噛みつきにかかるも動きに気づいていた二人は難なく回避。だがもう一頭が逃げた一人の前へと現れ、今度は噛みつくのではなく毒霧を吐き出してきた。

 

「ちっ」

 

 人間ではないにしろ、毒霧を吸い込めば倒れ、死に至る事もある。急旋回して毒霧を回避し、回り込みながら横に立てたヒドゥンサーベルで顔から首にかけて斬っていく。

 しかし続けて出てきた尻尾が彼女を叩き落そうと振るわれる。

 

「遅いっ!」

 

 ぐるんと体を回転させながら横に飛び、反撃するように一太刀振るって尻尾を切断しようとするが、たった一太刀で切断できる程ヒュドラの尻尾は軟ではない。

 向こうではヘルスティング改を振るう彼女の妹がいる。最初に奇襲を仕掛けてきた中心の頭へとヘルスティング改を突き出し、引き金を引いて焼き払う。

 反撃に毒霧に加えて口から何らかの液体を吐き出してくるようになったが、彼女はいたって冷静だ。盾を構えずこの液体は回避する事を選択する。

 これもまた毒性の強い溶解液であり、浴びれば溶かされるか毒に侵されるかの二択となる。つまり盾で防いでもその盾が溶かされて使い物にならなくなってしまいかねない。

 回避は正しい選択だ。

 

「ふっ、はっ!」

 

 それは堅実な攻め。相手の動きを見切って防御し、隙を見て攻撃する。

 確実にダメージを与え、確実に身を守る。基本を高め、それを用いて戦う彼女。重量級であるガンランスをまるで自分の手足のように軽々と振るい、空中移動を繰り返しながら攻める彼女は実に安定感がある。

 

「シャッ、シャシャ……ッ!?」

 

 その鋭い牙で捉えきれず、毒霧も溶解液も当たらない。逆に少女二人の攻撃は着実に自身の体を傷つけていく。その事にヒュドラ達は戸惑いを覚え始めた。

 ならばとヒュドラ達は三つの頭が同時に息を吸いこみ、一斉に毒霧を放出する。一つの頭によるものではなく、三つの頭が同時に吐き出す事でその範囲を広げたのだ。

 だが二人は一気に背後に下がる事でその毒霧をやり過ごす。

 それだけではない。二人もまた息を吸いこみ始めたのだ。

 

『ふっ!』

 

 そうして勢いよく吐き出されたものは、火炎だった。二人の口からまるで火炎放射機の炎の如く、灼熱の炎がヒュドラへと向かって放たれる。それは毒霧に紛れて移動しようとしたヒュドラを焼くよりも早く、その毒霧に反応して爆発を起こす。

 爆発の中悲鳴を上げるヒュドラを見ながら、ヒドゥンサーベルを構える少女はまた不敵に笑う。

 

「なんか、案外あっけなくない?」

「おー、あまり調子に乗らない事ですよ。普通はあの三つの頭だけでなく砂に足を取られそうになるのを気をつける、という要素も含まれるからやり辛いんですからね。私達は翼があるから空中戦が出来る。だからそのリスクがなくなっているわけなんですから」

「わかってるわよ。ちょっと言ってみただけじゃない」

「それならいいのですよ。油断はするな、姉さんや母さんがよく言ってる事ですよ。竜じゃなく猪になって忘れない事ですよ」

「誰が猪じゃこるぁ!?」

「え? 誰って……」

 

 意外そうな表情でじっと姉の顔を見つめる妹。そんな彼女にぷるぷると体を震わせつつ「……一度きっちり話しつけようか? 妹よ」と呟くも、そんな姉に動じることなく「ははは、これが私だっていうのは、生まれた時から一緒だからわかりきってることでしょうに、姉よ」と返してしまう。

 敵が今もすぐそこにいるというのに二人の様子はいつも通りだ。リラックスしているだけでなく、勝機がもうそこまで掴めるという状態だからこそ出来る芸当か。

 

「さあさ、もう終わるんですから、そうかっかせずに戦いましょう」

「いや、誰のせいだと思ってんのよ……」

「え?」

「あんただ、あんた! ……ああ、もう! 召炎!」

 

 左手から炎が吹き出し、握りしめたヒドゥンサーベルの柄を伝って刀身に纏われていく。たちまち黒い刀身は炎に包また。そして炎はゆっくりとヒドゥンサーベルに吸い込まれ、赤い紋様となる。

 それを見た妹はヘルスティング改を構え、ぐっと引き金を絞りながら突撃体勢を取る。

 

「シャアアアアアアアアッ!!」

 

 それを迎え撃とうと三つの頭が一斉に牙を剥き、再び毒霧という防壁を築き上げる。だがそんなものは意味のない事だった。

 口から火炎を吐き出して毒霧を爆発させてヒュドラを怯ませる。その隙をつくように彼女は数度羽ばたいて高度を高め、一気に急降下するようにヒュドラへと向かっていく。

 いつの間にか彼女は赤いオーラを体に包み込ませいた。それは彼女の周りの温度を高めおり、ヘルスティング改から放たれる冷気をも蒸発させて薄い水蒸気を作り上げている。

 それを纏いながら中心の頭へと向かった彼女は、その額を貫くようにヘルスティング改を突き出し、溜めこまれているエネルギーを解放させる。

 

「シャアアアアッ!?」

 

 それはガンランスにとって最大の一撃、竜撃砲。文字通りヒュドラの頭を吹き飛ばしてしまったその一撃を与えた事で残りの頭が動揺を隠せない。

 ガシャン、と音を立ててヘルスティング改の一部の蓋が開いて、竜撃砲を撃った後の排熱を始める。そんな中、彼女は軽くヘルスティング改を振るってリロードし、怯んでもなお喰らいつきに来る左の頭に合わせて盾を構える。

 続けざまに接近してきた右の頭へと向けてヘルスティング改を向け、引き金を引いて迎え撃つ。

 

「――はっ!」

 

 怯んだ二つの頭を視認した姉は左の頭めがけて一気に急降下していく。その速さは先ほどの妹以上のものであり、十数メートルの距離を一気に縮めていく。しかも炎の力を宿らせたヒドゥンサーベルは彼女の気も纏われ、その殺傷力を更に高められていた。

 その一撃は今まで以上。

 ヒドゥンサーベルの切れ味と彼女の気、そして紅蓮の炎の力を宿すその刃は一瞬の内に左の頭を焼き切ってしまった。今まで付けていた傷、気を纏わせた一撃とその内部の肉を焼く炎の力が合わさった結果だ。

 宙に舞うその首を横目に、ヒドゥンサーベルを構えなおしながら右の頭を確認すると、妹が盾を叩きつけつつヘルスティング改で攻めているところだった。

 盾はなにも敵の攻撃を防ぐだけではない、それは一種の鈍器と成り得る。噛みつきに来るそれを受け止め、振り下ろし、振り上げをして頭を揺さぶる。

 とどめとばかりにヘルスティング改を突き、突き、振り下ろして切り裂きつつ引き金を引き絞る。そうしてエネルギーを溜め、顎下に潜りこんでヘルスティング改を頭上に突き上げ、引き金を離せば銃口から盛大に爆発を引き起こした。

 しかしそれではヒュドラも瀕死にはなるが命を奪うまでには至らなかった。奴とて竜種の一種だ。顔に多くの傷を負おうが、爆発によって焼かれようが、それだけで死ぬほど弱い生命力を持ってはいない。

 それを終わらせるのがもう一人、ヒドゥンサーベルを下段に構えて再び一気に接近し、首を刎ね上げるように振り上げる。

 ヘルスティング改によって甲殻を貫かれ、焼かれたことによって柔らかくなってしまったその部位を狙った一撃。それは再びその頭を刎ね飛ばしてしまうかと思われたが、残念ながらそれは叶わず、首を斬るだけに留められた。

 だがその傷から勢いよく血が噴き出し、茶色い甲殻を赤く染めていく。

 

「ク……シ、シシ……シャ……ッ!」

「さて……楽にさせてあげましょうかね」

 

 致命傷の一撃だろうがまだ生き長らえている。呻き声を漏らしながらも攻撃しようとしているヒュドラをじっと見つめた彼女は、ヒュドラの頭上を取って勢いよく額めがけてヘルスティング改を叩き落とし、その衝撃によってギミックが動く。

 リロードされている弾薬が一気に動き、引き金を引けば全ての弾薬が放出されてヒュドラの頭を焼きにかかる。傷口を広げるような一撃にヒュドラはまた怯んでしまい、その隙にヘルスティング改を横に振って再びギミックを利用して弾薬を装填。

 引き金を引き絞りながら爆発で吹き飛ばした部分を狙って槍をねじ込み、中心の頭と同じく頭を吹き飛ばすような溜め砲撃を叩き込む。

 

「シャ、アァ……ァァ…………」

 

 頭を吹き飛ばされ、首からはとめどなく血が流れ、ついに残った頭もまた生命力が尽きてしまう。ゆっくりとその首が砂に向かって倒れていき、鈍い音を立てて体と共に砂へと横たえてしまった。

 その死体は体の半身が今もなお砂に沈めたままという形になってしまった。普通の戦いと違い、空中戦を主としたために首が二人を追う事が多かったためだ。半身は後で引き上げる事になるだろう。

 何はともあれヒュドラを討伐する事に成功した。

 二人は息を吐くとゆっくりと地面に着地する。

 だがどういうわけか姉の表情が少しだけ硬くなっている。対して妹の表情はいつも通り少し気の抜けるようなものだった。

 ガシャン、と音を立ててヘルスティング改を背中に担いだ彼女は軽く首と肩をほぐすように動かし、

 

「とどめは私でしたね。ということで、奢り決定です」

「くっ……あれが決まっていたら……!」

 

 またしても体をぷるぷる震わせ、手にしているヒドゥンサーベルを軽く振って背中にある鞘に収める。

 一体何のことかといえば二人は狩りに行く前に賭け事をしているのだ。多くはとどめを刺した方の願いを敗者が叶えるというもので、今回は両者とも勝てば帰った後の食事を全額奢りという形になっている。

 姉の言う通りあの最後の一撃によってヒュドラが倒れていれば彼女の勝ちだったろうが、残念ながら持ち前の生命力によって命を繋いでしまった。そこを妹が決める事になったために彼女が勝つ事になってしまった。おしいものである。

 

「さてさて、久しぶりにガンガンいきたい気分ですね」

「……少しは抑えなさいよ?」

「ははは、今ロックラックでは肉フェアをやってましたよね。いい機会ですからじっくりがっつり味わいたいと思ってたのですよ」

「だからこそ抑えろって言ってんのよ!」

「え? 何を言っているのです? フェアだからこそガンガンいかなくてどうするんです」

「うがーーーーッ!!」

 

 被っている頭の防具を砂に叩きつけてがしがしと髪を掻き回し、敗者は吼えるしか出来ない。そんな彼女をにやにやと笑う妹は本当にいい性格をしている。

 

「それに瑠璃こそ同じことを考えていたんじゃないんですか? もしあの一撃が決まって賭けに勝っていれば、私にかなりのものを払わせる腹積もりだったでしょう?」

「ぬ、ぐ……」

「それじゃあ何も文句は言えないでしょう、はっはっは。賭けは賭けですからね、私は瑠璃の金でガンガンいかせてもらいますよ」

「……ちくしょうめ。覚えてなさいよ、茉莉……」

 

 砂に叩きつけた防具を拾い上げ、ぱんぱんと砂を払って被り直し、ポーチから発煙筒を取り出して着火する。クエスト完了を知らせる色の煙が空へと舞い上がり、音を立てて破裂する。

 これでギルドのアイルー達に連絡が行くだろう。後はあの死体から出来うる限りの素材を剥ぎ取っていくだけだ。

 腰元から剥ぎ取りナイフを取り出した二人は、正反対のテンションでヒュドラの死体へと向かっていくのだった。

 

 数分後にやってきたアイルー達が用意したロープをヒュドラの体に巻きつけ、アイルー達の魔法、アイルー達と二人の力技でその死体を何とか引き上げ、残った素材を剥ぎ取った後にベースキャンプへと帰還。

 用意されている砂上船で二人は一つの街へと戻っていた。

 

 砂塵の交易街ロックラック。

 

 ロックラック地方と呼ばれる大砂漠のオアシスに存在する街であり、多くの人々が集まる場所だ。モンスターを狩る者、ハンターと呼ばれる職種につく者達にとっての拠点として利用される程の大規模な街であり、ここから名を挙げていく者達も少なくない。

 一般人も砂漠を渡るために砂上船や飛行船を利用し、東西南北へと移動するための拠点や休憩するための場所として利用している。

 昼夜を問わず街は賑わい、活気に満ちている。

 そんな街に日も暮れて夕食時になった頃、砂上船に乗った少女二人がロックラックへとやってくる。

 多頭蛇竜ヒュドラ討伐クエストを完了させた二人の凱旋だ。

 砂上船の港はこんな時間になってもそれなりに賑わいをみせている。二人と同じようにクエストから帰還してきたハンターもいれば、これからクエストを行うためにこの港から旅立っていくハンターもいる。

 ここに一般人がいないのは、この港はクエストのために利用される港だからだ。旅の目的に利用される砂上船の港は別の場所に存在している。

 ハンターと一般人、これらが混在しないように港は分けられているのだ。

 

「さ、覚悟は決まりましたか?」

「……はいはい、もうたらふく食えや、妹よ」

「そうさせていただきましょう、姉よ」

 

 クエストを成功させて帰還してきているというのに、二人のテンションは平常とローというものだ。それに気づいたハンターの何人かは二人の様子に気づき、「失敗してきたのか?」と感じるものと、「ああいつもの事か」と思うものに分かれていた。

 特に後者の人達は二人の様子に慣れたようで、姉の様子を見て苦笑するものも混じっている。

 あの頃の未熟なハンターだった少女達はもういない。

 ここにいるのは成長して腕を上げ、その名を人々の記憶に刻ませる程になっている。

 中央にあるハンター達の拠点ドンドルマを中心とした大事件の際は、未熟者であるが故に母親と姉、その他のハンター達と共に戦う事が出来なかった二人。

 

 父は鍛冶屋を営む竜人族。

 母は火竜の因子を持つ有翼種の魔族。

 そんな二人の間に生まれし双子の娘。

 

 瑠璃・暁・フレアウイング。

 茉莉・暁・フレアウイング。

 

 身も心も成長した竜魔族にして有翼種という、稀有な種族である二人の少女ハンターの物語はこれより始まる。

 

 




前作ではただのロリ枠だった双子の姉妹。今作では主役を張っています。
しばらくは彼女らの物語が紡がれていきます。

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