集いし者たちと白き龍   作:流星彗

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19話

 

 

 眩暈状態が解け、起き上ったリオレイア亜種は低く唸りながら起き上り、翼を広げて声を上げる。そのまま首を振って何とか正気を取り戻したのだが、それもまた隙となり、ヒドゥンサーベルを突き出し、引いて斬る。

 その間に二人が並ぶのではなく、別々の位置に分かれて狙いを分散させる方針で十兵衛が移動しながら銃撃を加えていく。その痛みにリオレイア亜種は十兵衛の狙い通り振り返った。

 

「グルァア!」

 

 数歩走ってその勢いのまま前のめりになりつつ十兵衛へと噛みついていくが、それを回避するように前転し、受け身を取りながら起き上っていく。背後でがちん、と牙が打ち合わされる音を聞きながら振り返り、腹から突き抜けるように貫通弾を射出。

 確実にダメージを積み重ねていく。

 その間に瑠璃は防御した際に下がった切れ味を戻すように砥石をかけ、十兵衛が稼いでくれた時間を利用して作業を終える。

 最初に決めたように十兵衛が囮になってくれている。機動力の低いヘビィボウガン使いだというのに、よくやってくれている。

 そんな彼の頑張りを無駄にせず、切れ味を戻したヒドゥンサーベルを構えて気を纏わせていき、リオレイア亜種の尻尾めがけて振りかぶる。漆黒の刃から放たれた気刃が狙い通りに尻尾を斬るが、少ししか刃が通らない。

 硬い。

 流石上位個体というべきか。強固な鱗と甲殻に守られていて今の気刃では足りないらしい。

 ならば出力を上げるしかない。

 先ほどのサマーソルトによる痛みがまだ尾を引いているが、それを堪えてヒドゥンサーベルに纏わせていると、リオレイア亜種の視線が瑠璃を捉える。

 振り返りざまに火球を一発放ってきたが、狙われたことを悟った瑠璃は気を纏わせながら走り出す。そんな彼女を追うように更にリオレイアが振り返るが、その際に口元に火の粉を集めていた。

 

「火炎が来るッス!」

「っ!?」

 

 十兵衛の言葉に反応し、肩越しに振り返って見ればリオレイア亜種の喉奥から噴き出す火の粉が着火され、連続して火炎が爆発しながら噛みついてきたのだ。

 それから逃げるために翼を広げて宙に舞い上がり、更に回転しながら回避したため少し無理な体勢になったが、その甲斐あって火炎がナルガシリーズを焼く事はなかった。

 リオレイア亜種の視線が上げられ、そのまま数歩下がって力を溜めだす。またサマーソルトが来るのか、と警戒するが、今の自分は地上にいない。

 そのまま後ろに下がって距離を取ればいいと下がっていくが、今度はリオレイア亜種の行動も早かった。溜めた力を解放するように通常のサマーソルトを行い、宙にいる瑠璃を更に打ち上げんとする。

 だが距離を取る事でその尻尾の動きが見えていた瑠璃はそれを回避する事が出来た。しかしサマーソルトを行使したことでリオレイア亜種の巨体は宙へと上がり、翼を羽ばたかせる事で低空飛行に切り替わる。

 殺気に満ちた青い瞳が瑠璃を睨み付け、ぐんと距離を詰めながら再度噛みついてきた。

 それは瑠璃持ち味である素早い動きで躱し、側面に回り込んで羽ばたく左翼をヒドゥンサーベルで斬る。続けて突き、引き、薙ぎとリオレイア亜種が振り向く間に攻撃を重ね、更に回り込んで向き合わないようにした。

 地上では十兵衛が通常弾Lv2を装填し、瑠璃にばかり意識を向けているために狙われない事を利用して狙撃を続けている。だがそう長い事瑠璃が狙われていてはもしもの時が怖い。

 左翼を斬り続ける瑠璃に対し、十兵衛は右翼を撃ち続けてダメージを積み重ねていた。そうして積み重ねたダメージはリオレイア亜種の翼に負担をかけ、やがて――

 

「グルォァアッ!?」

 

 ――墜落する。

 この好機を逃さず瑠璃が急降下し、気刃斬りでダメージを積み重ねながらヒドゥンサーベルに錬気を溜めていく。そして運気の巡り会わせか、この好機にエリア6方面から茉莉と桐音が合流してきた。

 二人は状況を把握すると、まず桐音が夜烏【翼】を抜きながら一気に加速をつけてリオレイア亜種へと接近していく。

 

「はぁっ!」

 

 体を捻りながら両手に持つその漆黒の小太刀でリオレイア亜種の顔を斬り付け、続けてその刃同士を打ち合わせていきなり鬼神化を発動させて赤いオーラを身に包む。

 それは夜烏【翼】に纏われていき、高速で振るわれる刃が躍り、リオレイア亜種の顔を切り裂いて鮮血を巻き上げるたびにより一層力を増していく。これは双剣に新たな技術の道が拓かれたことで生まれた鬼人化による特徴の一つであり、鬼人化中に攻撃を与えるたびに双剣に力が収束するのだ。

 これが一定以上高まった時、鬼人化をしてない際でも鬼人化によって得られる力の一部を持続させる事を可能とした。これを鬼人強化状態と呼ぶ。

 鬼人化を解いた桐音の持つ夜烏【翼】はそれでも赤いオーラを纏っており、何とか起き上ったリオレイア亜種の懐に潜り込んで素早い連撃を叩き込んでいる。鋭い切れ味を持つ夜烏【翼】は硬いリオレイア亜種の甲殻をものともせず、それと同時に下にある肉まで切り裂いているのだ。

 続けて茉莉も合流し、インペリアルガーダーを抜き放つと引き金を引き絞りつつ翼めがけて斬り上げ、溜められたエネルギーを解放させる。溜め砲撃が翼を焼き、刃が貫いた場所の周囲を若干吹き飛ばす。

 四人が揃えば流れはこちら側に傾き出している。特に桐音が先陣切って斬りこんでいるのが大きい。手数が多い双剣という事もあり、彼女が一番ダメージを与えだしている。となればリオレイア亜種の意識は自分を一番傷つけている彼女へと向けられる。

 そうなれば囮が成立する。

 下位装備で防御力が不安な瑠璃と茉莉に意識が向かないという事は、彼女達でも若干踏み込んで攻撃するチャンスが生まれだす事になる。

 

「せいっ、やっ!」

 

 墜落した後に気刃斬りをした事で錬気が一段階上昇しているヒドゥンサーベル。これにより若干ではあるがヒドゥンサーベル自身の威力も増す事になる。そして狙うのは先ほどあまりダメージを与えられなかった尻尾。

 これを切り落とすだけでも有利になる。

 鞭のようにしなり、しかし硬い甲殻に覆われるそれが軽快に振り回され、必殺の一撃のサマーソルトの主役でもあるこれが落とすだけでも、リオレイア亜種を相手にするのが楽になるのだ。

 だが桐音の双剣ではリーチが短すぎて届かない。彼女も気刃を放てばいいだろうが、囮を買って出るために懐に潜り込んだり離脱したりする事で、リオレイア亜種の気を引かなければならない。

 だから瑠璃が落とすしかない。

 斬りおろし、振り上げと繋げて尻尾を斬ろうとしてみるも、桐音を追って走ったり立ち止まったり、あるいは寄り付く瑠璃や茉莉らを振り払うために回転したりと、尻尾の動きが止まらない。

 ならばと一旦距離を取り、気を込めて振り抜く。薙ぐように放たれた気刃は狙い通りに尻尾を斬るが、やはり深くまでは届かなかった。

 

「グルアアアアァァァッ!!」

「よく暴れる奴だね、少しは落ち着いてもらおう、かっ!」

 

 ステップ、すり足と繰り返して頭突きや尻尾を躱し続ける桐音が振り返りざまに迫ってきた顔へと斬り払い、続けて夜烏【翼】を突き出しながら接近。喉の下を通り過ぎながら広げ、軽く跳躍してからの着地までの流れで体を捻りながらそれを振るって両足を切り払う。

 すると足のダメージが溜まっていたのか、リオレイア亜種が転倒してしまった。

 それからの彼らの行動は速い。

 茉莉は顔へと回り込んでインペリアルガーダーのギミックを始動させて引き金を引き絞り、エネルギーを溜めだす。そのまま身構えて狙いを定め、ガンランスの最大攻撃である竜撃砲を放射。

 凄まじい爆発が顔から首へと続くように炸裂していった。

 瑠璃はこれを逃さずまた気刃斬りを行使する。今度は狙い通り尻尾を連続で斬っていき、錬気を溜めながらダメージを重ねるが、それでも尻尾は切れない。だが甲殻が剥がされ、肉が見え始めるところまでダメージを与えることに成功した。

 十兵衛はまた膝をついてチップからベルトリンクを伸ばし、炎戈銃ブレイズヘルへと徹甲榴弾Lv1を自動装填していく。

 頭は茉莉が攻撃を仕掛けているため狙うのは翼だ。これにダメージを与えようと狙いを定め、次々と引き金を引いていく。狙い通りに弾はもがき続ける翼へと命中し、爆発を繰り返していった。

 最後に桐音がまた鬼人化を発動させ、がら空きになっている腹へと乱舞を行使する。双剣の中でも一番の連撃ではあるが、隙だらけになるため使いどころを選ばなければならない攻撃だ。だが今のように敵が動けないならば話は別。

 今まで以上の素早い速度で夜烏【翼】が振るわれ、見る見るうちにリオレイア亜種の腹が傷ついていき、肉を露出させていく。

 まさに一方的な展開。このままいけば討伐は近いか、と思われたが、リオレイア亜種は何とか起き上り、大きく息を吸いこんで、

 

「グルォォォォオオオオアアアアアアア!!」

 

 凄まじい怒号を上げた。森に響き渡る怒号にたまらず瑠璃達が耳を塞ぐが、高級耳栓を発動させている十兵衛だけは影響を受けず、ポーチに手を伸ばして閃光玉を取り出し、「閃光玉使うッス!」と叫ぶとリオレイア亜種の視界に収めるように投擲する。

 普段の見た目や高い声に似合わない強肩から投擲された閃光玉は高速で空を切り、リオレイア亜種の視界に飛び込むと強い光を発生させた。

 だがリオレイア亜種はそれから視線を外し、それだけでなく桐音を吹き飛ばすように翼を羽ばたかせながら背後に飛ぶ。その振り向きと移動により閃光玉の影響を受けず、三人から距離を取り、逆に十兵衛には後退しながら接近する形になる。

 

「ちょ、ま……っ!?」

 

 思わぬ行動に十兵衛は息を呑み、何とか距離を取ろうと移動しようとしたが、それを知ってか知らずかリオレイア亜種は更に強く翼を羽ばたかせながら転進し、十兵衛の側面に回り込む。

 

「グルアアァァゥッ!」

 

 それに続けるように空中で回転し、サマーソルトを放ってきた。

 

「なっ……く……!?」

 

 咄嗟に炎戈銃ブレイズヘルを放り投げて両腕で体を庇ったが、それでサマーソルトの威力を殺せるわけじゃない。十兵衛の体は宙を舞い、吹き飛ばされてしまった。

 

「十兵衛ッ!」

 

 桐音が叫び、彼を救出するために飛び出していく。それに続いて瑠璃も走り出し、これ以上の追撃を許さないように、リオレイア亜種の気を引かなければならないと斬りこんでいく。

 重装備である茉莉も彼女なりの速さで追いかけようとしたが、はっとした顔で空を見上げる。

 何かが迫ってきているような気配を感じ取ったのだ。

 この森はリオレイア亜種の殺気と気迫によって重いものになっているが、それに追加するように重たい空気が入り込み始めている。

 

(……まさか、来る……!?)

 

 東方のリオ夫婦の特徴。

 つがいで討伐するならば覚えておかなければならない事。

 夫婦の絆は強く、片方が吼えれば片方はそれを感じとり、駆けつける。

 

「――――ァァァァアアアアア!!」

 

 西の空から天に伸びる枝葉をへし折り、森の悲鳴を生み出しながら蒼い影がエリア5へと乱入してきた。それはリオレイア亜種へと迫る桐音と瑠璃を狙って降下していき、反応した桐音が離れた所で転がっている炎戈銃ブレイズヘルを回収しながら勢いよく飛び退く。

 瑠璃もまた何とか急ブレーキをかけながら翼を広げ、背後へと跳ぶ事で蒼い影に轢かれる事はなかった。

 

「チッ……こんな時に合流か。間が悪いってもんだぜ」

 

 勢いをつけて滑空してきたため数メートル走ってブレーキをかけ、振り返ったそれは辺りを見回す。

 この地にやって来たのは四人。それが妻を傷つけた。それもかなりの頻度で傷つけたようだ。彼女の体は瀕死とまではいかないがボロボロになっている。

 

「グルルルル……!」

 

 沸々と湧き上がる怒りにそれは青い瞳をぎらぎらと輝かせながら殺意を振りまき始める。

 蒼火竜、リオレウス亜種、リオソウル。

 これが奴の名だ。

 原種が褐色の甲殻をしているに対し、それは夜空のような蒼い甲殻に覆われている。原種以上に飛行能力が高く、主に空中からの攻撃を得意とするのが特徴だ。そのバリエーションは原種以上であり、様々な形で獲物へと奇襲を仕掛けて弱らせていく事を得意としている。

 それを見せるようにリオレウス亜種は軽く跳んで羽ばたきだし、低空飛行を開始する。それに合わせてリオレイア亜種が息を吸いこみだし、数歩下がりだした。

 これはまずいとばかりに桐音が何とか起き上ろうとしている十兵衛へと駆け寄っていく。

 

「轟気、(まとい)!」

 

 その際独り言を呟くような声でそう口にし、オレンジ色の気が彼女を包み込んでいった。そのまま十兵衛を抱え上げ、「一時離脱するよ!」と瑠璃と茉莉へと叫ぶ。ディアブロUシリーズは重量があるはずだし、それに加えて十兵衛の体重も合わさっているはずだが、それでも彼女は片手で抱え上げている。

 凄まじい怪力だ。まるでどこかの「紅い悪魔」のようだ、と思わないでもないがそれを口にせず、それに頷いてそれぞれエリア6とエリア4に向かって走り出す。

 だがそれを逃す二頭ではない。

 溜めこんだエネルギーを解放するようにリオレイア種が今まで以上のブレスを吐き出す。それは桐音へと向かっていき、走り出した彼女の背後に着弾し、その周囲に激しい爆発を起こした。

 振り返らず桐音は真っ直ぐにエリア4へと向かうが、それに回り込むようにリオレウス亜種が低空飛行しながら接近。体勢を立て直しながら足の爪を逆立てて桐音へと連続的にキックを仕掛ける。

 

「邪魔すんじゃない!」

 

 横に飛び退き、回避するがリオレウス亜種はそれでも逃さないように軽く上昇すると、勢いをつけて滑空する。妻を傷つけた者らを許しはせず、逃しもしない。その意志が表れる執拗な追跡だったが、桐音はまたそれを躱して横を通り抜けていく。

 そうして何とかエリア4へと逃げ切る事が出来た。

 一方瑠璃と茉莉は一緒になって走り、エリア6へと向かっていく。ブレスを吐き終えたリオレイア亜種は桐音をリオレウス亜種へと任せ、自分はこの二人を追う事にしたらしい。

 二人に向き直ると強く地を蹴って疾走しだす。

 逃げる二人を狙って方向も修正し、カーブしながら追跡するが、茉莉の手から軽く放られた閃光玉が強い光を発生させてリオレイア亜種の目を潰す。その光にたまらずリオレイア亜種の足が止まり、苦悶の声を上げてもがきだす。

 その声に反応してリオレウス亜種が振り返り、怒りの声を上げて数メートル走って宙へと上がって滑空しだすが、その頃には既に二人の姿はエリア6へと消えていた。

 背後からまたリオレウス亜種の声がするが、振り返るようなことはしなかった。

 

 エリア6からエリア7を経由し、エリア4へとやってきた二人は崩れた家の陰で十兵衛の手当てをしている桐音を発見し、彼女らの下へと向かっていく。ディアブロUガードを外し、その下にある両腕には回復薬を浸した布と包帯が巻かれていた。

 毒の棘はディアブロUガードが防いだようで十兵衛自身に毒は注入されていないらしく、それが救いだったそうだ。それがなければ少しまずいことになっていたらしい。

 また炎戈銃ブレイズヘルを手にしたままならば破壊され、それだけでなく炎戈銃ブレイズヘルを突き抜けて十兵衛に致命傷が与えられていた事だろう。咄嗟にそれを放って防御した十兵衛の判断は正しかったようだ。

 そして今、十兵衛は手当てを終えて休んでいる。回復薬を飲んで体を休ませる事で両腕の回復を促しているのだ。

 

「……すいません」

「気にするこたぁないさ。生きているだけでも良し。今は休みな」

 

 今リオ亜種夫婦は一つのエリアに集まっている。

 一頭だけならば問題ないが、二頭揃っているとなれば話は別だ。四人いるとはいえ二頭を相手にするのは難しい。なにせこちらは瑠璃と茉莉という少し困ったものがいる。全員が上位装備ならばあるいはその選択肢もとっただろうが、今回はその選択肢は除外される。

 二頭が別々の行動をとり、時に思わぬ方向から攻撃が飛んで来れば大ダメージを負う事になる。一人が倒れればドミノ倒しのように戦線が瓦解する。そうなれば待っているのは全滅という言葉。

 故に各個撃破が望ましい。

 今は二頭が再び分かれるのを待つしかなかった。

 つまり今は空いた時間。これを利用して十兵衛は体力回復に努め、桐音達も体勢を立て直す時間に当てることにする。

 桐音は夜烏【翼】に砥石を当てて落ちた切れ味を戻していく。双剣は手数が多い事が売りではあるが、その分切れ味低下の速さも上がってしまう。そのため砥石を使う頻度が多いのが難点だ。

 同じように瑠璃と茉莉も砥石を使って切れ味を戻し、茉莉はインペリアルガーダーに新しい弾薬を装填して背中に戻した。

 それを終えると瑠璃は先ほどのリオレイア亜種について訊いてみる事にした。原種に見た事のない行動を改めて確認するためだ。

 

「ああ、斜線に通るサマーソルトか。確かにそれは亜種に見られる行動だね。縦に回る通常のサマーソルトを警戒した相手にこそ引っかかるサマーソルト。それだけじゃないね。低空飛行をして素早く回り込んでからのサマーソルトも使ってくる。……さっき十兵衛にやったあれだね」

 

 とにかくチャンスがあればサマーソルトを行使するという事か。それだけでなく噛みつきでも口元に火の粉を集めて着火させながらやる事で、噛みつきが外れようとも爆発の連鎖で吹き飛ばしてくる。

 もちろん陸の女王という異名通り、地上ではその脚力を以ってして疾走を繰り返して獲物を追いかけ、離れれば火球のブレスを放ってくる。先ほどは一方的に攻めていたが、そうでなければこれだけ危険な相手なのだ。

 それに対しリオレウス亜種は空中戦を得意とする。

 原種にない行動としてとにかく低空飛行を主軸に行動するとの事だ。

 滑空から転進、そこからのブレスや毒爪のキック、急襲などと仕掛けてくるし、噛みつきもリオレイア亜種と同じく火の粉を散らして連続爆発もする。ガンナーならばただの的になるだろうといえばそうでもなく、勢いをつけての滑空、キックもしかけてくるため気を抜けない。

 また原種に比べて尻尾が異様に硬くなっているらしく、切断しようと思っても少々厳しいかもしれないらしい。

 

「それで瑠璃? 十兵衛とは打ち解けられたのかい?」

「んー……まあ、普通に話せるようにはなったと思うわよ」

「おー、それはよかったですよ。少し心配していたのですが、何よりです」

 

 休んでいる十兵衛の傍でそんな事を話す三人。

 確かに気になる事ではあるようだが、ここで訊くか、と思わないでもない瑠璃だった。ちらっと十兵衛を見るも骸に隠されているため何を考えているのかわからない。仮眠をしているのか、ただ沈黙を守っているのかも。

 そう思っていると桐音がとんとん、と軽くスカルSヘッドを叩き、

 

「話せたんだって?」

「……うっす。気づけば何とか……」

「よう頑張ったじゃねえか。その調子で話していこうぜ」

 

 それはまるで頑張った弟を褒める姉のような光景だった。実の弟には殺意を向けるのに、弟のような十兵衛にはそういう風に振る舞う桐音。少し奇妙なものだがそれも仕方のない事なのかもしれない。

 いや、弟には向けられなかった愛情を十兵衛に向けているだけなのかもしれない。その桐音の心情はわからないが、もしかすると当たっているかもしれない。

 そうしていると、茉莉が空を見上げてぽつりと呟く。

 

「……動きましたね」

 

 エリア5にいた一つの気配がゆっくりと空へと上がっていくのを感じ取ったのだ。それは真っ直ぐにこのエリアへと向かってきている。それに続いてもう一つの気配も上がってくると、同じようにこちらに向かってくる。

 どうやら離れる気はないらしい。

 まずい事になったか、と思わないでもないが、こういう時のための道具は存在する。

 十兵衛が傍らに置いてあった炎戈銃ブレイズヘルを手にして腰に掛けつつ立ち上がり、ポーチから一つの玉を取り出した。

 

「……おいらがこやし玉をぶつけるッス。分散したところを姉御達が叩いていくッス」

「ま、それしかないな。同時に来るってんなら無理やり分散させるしかない。あたいがまた斬りこんで気を引く。その隙にレウスの方にこやし玉を頼むぜ」

「了解ッス」

 

 残すのはリオレイア亜種。体力を減らしているため先に討伐できそうな方を残し、一気に片をつける。そうすればつがい討伐において懸念すべき事はなくなる。

 打ち合わせしている間に、空から蒼い影が降りてくるのが見えた。

 リオレウス亜種だ。

 それは地上を見回しながら降下しており、桐音達を見つけると唸り声を上げ始める。そのまま着地していくのかと思いきや、いきなり力を込めながら数度羽ばたき、一気に急降下してきたではないか。

 当然このまま黙って突っ立っているわけにはいかない。それぞれ散開して急襲を避けると、すぐに桐音が夜烏【翼】を抜いて着地していくリオレウス亜種へと向かっていく。

 続けて空からリオレイア亜種が降下体勢に入っていき、それを見越して瑠璃と茉莉が降下地点付近で待機し、射程内に入ったところで茉莉がインペリアルガーダーを斬り上げて砲撃を入れる。

 また翼にダメージが蓄積していたようでその攻撃によって墜落してしまった。

 それを見たリオレウス亜種は大きく息を吸いこみ、

 

「グルァァァアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 怒号を上げる。口から火花を散らし、向かってきた桐音を巻き上げるように強く翼を羽ばたかせながら背後に飛びつつ火球を一発。しかしそれを切り払いながら更に距離を詰める。

 横目で見れば十兵衛がこやし玉を手にしながらチャンスを窺っていた。

 

「グルァァアア!」

 

 向かってくるならばとこっちも詰める、とばかりにリオレウス亜種が桐音へとキックを仕掛けていく。リオレイアが尻尾に毒を持つに対し、リオレウスには足の爪に毒が染み出る。

 これを受ければ厳しいダメージになるだけでなく毒にもなってしまうが、桐音は恐れず動きを見切って躱し、回転しながら飛び上がってその足や腹へと斬りかかっていった。

 しかしそれを振り切るようにリオレウス亜種も尻尾を振るいながら弾き、十兵衛へと回り込むように飛行する。また回り込まれたことで十兵衛が息を呑むが、しかし落ち着いて距離を取りつつ手にしたこやし玉をぶつけようとした。

 だが――

 

「十兵衛! そっちにレイア行ったわよ!」

 

 恐らく危機に瀕している夫を助けるために疾走したのだろう。それにより自然とリオレウス亜種の近くにいる十兵衛に向かうように見えてしまった。慌てて瑠璃が翼を広げて飛行し、後を追うがリオレイア亜種は十兵衛をついでに轢くかのように疾走を止めない。

 

「くっ……そらっ!」

 

 咄嗟にリオレイア亜種へとこやし玉をぶつけながら逃げるように後ろに跳ぶ。顔へとぶつけられたきつい臭いのするそれにたまらず悲鳴を上げながら仰け反り、首を振って臭いから解放されようとするもそんな事では臭いは消えない。

 そのまま翼を広げて空へと舞い上がり、エリアから離れていった。彼女は逃げていったが、怒り状態になっているリオレウス亜種はそのまま十兵衛へと襲い掛かっていく。だが瑠璃が追い付き、その翼へと気刃を放って奴もまた落とそうとするがダメージが足りずそうならない。

 しかし一時的に気を引く事は出来た。瞳が十兵衛から瑠璃へと向けられ、ぐるんと向きを変えて瑠璃へと向き直る。それだけでなくゆっくりと上昇していき、上空から火球を落としてきた。

 狙われているならそれでいい。これくらいの攻撃など当たる事なんてない。

 その間に十兵衛が十分距離を取り、背中にかけている炎戈銃ブレイズヘルを抜いて弾丸を装填した。狙いを定めていると火球を撃ち終え、降下体勢に入っているリオレウス亜種が見える。

 その背中に向かって引き金を引き、空を切って放たれる弾丸がそこに着弾する。するとそこを中心として周囲が連続して爆発を引き起こした。

 拡散弾だ。徹甲榴弾と同じく着弾後に爆発を起こす効果を秘めた弾丸であり、こちらは着弾点から周囲に爆発を起こす効果を持つ。もちろん弾丸の中でも威力が高いが反動も強く、一度に装填する数が少ないという特徴を持っているため多用は出来ない。

 素早く装填を繰り返して撃ち続けていると、ついにダメージが蓄積したのかリオレウス亜種が勢いよく落下してきた。

 好機とばかりに一斉に桐音と瑠璃が接近していき、桐音は尻尾に向かって高速で連撃を叩き込んでいく。それに対し瑠璃は腹に回って気刃斬りをお見舞いしていく。時間が経ってしまっているために溜めこんだ錬気が消えてしまっている。ここでまたそれを取り戻し、威力を上げていかなければならない。

 それは桐音も同じであり、失われた鬼人エネルギーを補充するように鬼人化を行使し、乱舞で尻尾切断のためのダメージを蓄積させていく。

 茉莉はまた顔へと回り込み、同じように時間が経っているため先ほど撃った竜撃砲の排熱が終了しているのを好機とし、またしても初撃から全力で叩き込む。

 

「グルアアアアァァァァッッ!?」

 

 彼女らの容赦ない攻撃にリオレウス亜種も悲鳴を上げてしまう。背中には通常弾Lv2に切り替えた十兵衛が狙撃を続け、着実にダメージを与えていた。四人が一体となっての攻撃。

 強力な相手であろうともこれには耐えきれない。

 何とか起き上ったリオレウス亜種だったが、その外見はさっきまでとは打って変わって傷が多く刻まれている。

 竜撃砲を受け、続けて突かれ、砲撃された顔にはひびが入って流血している。腹からも少量を血が滴り落ち、尻尾は鱗や甲殻がひび割れている。

 起き上ったところで瑠璃は一度離脱し、茉莉も盾を構えながら少しずつ後ろへと下がっていく。そんな彼女達には目もくれず、リオレウス亜種は振り返りながら尻尾を傷つけた桐音へと火球を放ちながら後ろに飛び退く。

 桐音はそれをバックステップで回避し、だがすぐに火球が着弾して焼ける地面を避けて疾走する。

 続けてリオレウス亜種は、盾を構えている茉莉へと火球を放ちつつまた後ろへ下がっていき、これで四人から完全に距離を離してしまった。

 盾で火球を弾きながら茉莉がステップしつつ距離を詰めようとするも、重量のあるガンランスでは少ししか詰められない。

 

「グルルルル……!」

 

 唸り声を上げながらリオレウス亜種は低空飛行のまま上昇していき、完全にエリアを離脱していく体勢に入ってしまった。舌打ちしながら見守る桐音達を振り切るように背を向けると、南西の方角へと消えていく。

 

「逃げられたか」

 

 奴にとっては一時撤退、体勢を立て直すための逃亡か。それと同時にリオレイア亜種と合流するといったところだろうか。

 それにしてもやっぱり四人揃えば楽だ。チャンスさえ生まれれば一気に攻撃し、体力をごっそり削る事が出来る。

 この調子でいけば討伐する事は容易だろう。二頭揃えばこやし玉で片方に退場願い、一頭に集中して攻撃すればいいのだから。

 移動しようとしたところで十兵衛が少し待ったをかける。

 ポーチから何かを取り出して地べたに座り、調合を始めたのだ。

 

「徹甲榴弾が消費されたッスからね。今の内に補充しておかないといけないッス」

 

 ベルトリンクで自動装填されていくため、気づけば全弾撃ち終えていたということもざらだ。徹甲榴弾Lv1、2共に規定で決められた数まで調合するとそれらをチップへと吸い込ませて準備完了。

 

「お待たせしたッス」

 

 それに頷き、気配を探ってエリア7へと向かい、そこから更にエリア9へと移動する。そこに二つの気配があったので恐らくそこで休んでいると思われる。

 だがそれにしては妙だった。

 ぬかるんだ地面を歩きながら気配を探り続ける桐音と茉莉は、揃って微妙な表情を浮かべている。

 

「何やらぶつかり合っているかのような気配に思えるのですが」

「そうだね。明らかに敵意をむき出しにしているよ。夫婦喧嘩……にしては片方の気配がおかしい。これは……めんどうな事になったかもしれないぜ?」

 

 先ほどの戦いでリオレウス亜種、リオレイア亜種の気配は覚えている。それを照らし合わせればこの先にどっちがいるのかまでは判別可能だ。だが片方はリオレイア亜種というのは間違いないが、もう片方がリオレウス亜種とは違う気配をしているのだ。

 それがぶつかり合っている。

 これは一体どういう事なのか。

 そこで茉莉は先ほど見た手がかりを思い出した。

 あのエリアには森の木々を薙ぎ倒して何かが通った跡があった。もしかするとその主が戻ってきたのではないだろうか。ご丁寧にあそこはリオ亜種夫婦の巣の隣。二頭がいない隙を狙って何かを狙ってやってきたのならば。

 あそこに何で卵がなかったのか。もしかするとその通った主が卵を食べてしまったのならば。

 逃げ出したその何かを追ってリオレイア亜種が攻撃を仕掛け、しかし逃亡し、それを追って二頭ともこの狩猟エリアを離れていったのだとすれば。

 どうして最初に見回った時にどちらもいなかった理由になるのではないだろうか。

 

「乱入って事?」

「そうなりますね。元々依頼書にも不安定、って書いてありましたし、何もおかしい事はないですよ。想定しうる出来事の一つです。……救いがあるとするならば、気配からしてあのやばい奴ではないという事ですかね」

 

 あれが乱入してきたならば対処など不可能。不本意ではあるが撤退を選択するしかない。だがどうやらあの禍々しく荒々しい気を感じないのであれではないということだけはわかる。

 四人は静かにエリア9へと入っていき、草むらの影に隠れて様子を窺ってみる。

 そこには確かに二頭の大型モンスターが存在していた。

 一つはリオレイア亜種。茉莉と桐音が感じた通りの存在が激しい声を上げながら攻撃を仕掛けている。

 もう一つは大型の蛇だった。

 焦げ茶色の鱗は所々斑模様が存在し、顔の鱗の一部が鋭く尖って伸びている。尻尾の先の周囲の鱗もまた掛け合わさる事で強固になり、長く鋭く伸びる事であたかも刃のようになっている。

 毒矛蛇グレイハブ。

 猛毒を持つ獰猛な大蛇として知られる存在であり、森に住まう蛇竜種がそこにいた。

 

 

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