集いし者たちと白き龍   作:流星彗

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2話

 

 

 ロックラックへと戻ってきた瑠璃と茉莉は酒場へと向かい、クエスト成功の旨を伝える。依頼書に受付嬢が完了の判を押し、報酬金と報酬の品を受け取る事でクエストが完了する。

 受け取った二つの袋をそれぞれ確認する事にする。瑠璃は袋に収められた金を、茉莉はヒュドラの素材などが入っている袋を。問題ない事を確認した二人は一礼し、酒場を後にした。

 この後は食事になる……のではなくその前に向かう場所があった。

 商店街の一角にあるその露店へと訪れた二人は店の前に掛けられている看板を確認。

 ここは交換所と呼ばれる店であり、アイテムやモンスターの素材と店にある別の素材と交換する事が出来る。

 その看板には様々な素材が書かれており、多くは竜種の素材を渡す事で素材を得る事が出来るようだった。どうやらここはそれが主なレートになっているらしい。

 交換所はここだけではなく、他の商店街にも点々と存在しており、店ごとにレートが違っている。

 

「いらっしゃいませ。トレードいたしますか?」

「ええ。これでトレードを」

 

 茉莉が袋から多頭蛇竜の甲殻をいくつか取り出していく。瑠璃もポーチから剥ぎ取ってきた甲殻を取り出し、店のカウンターへと置いていった。

 その数全部で八個。

 それを確認した店主は小さく頷き、

 

「ふむふむ、多頭蛇竜の甲殻八個とマンドラゴラ十六個とトレードですね?」

「はい、お願いします」

 

 店主は「かしこまりました」と一礼した後、後ろに置いてある小箱からマンドラゴラを取り出して二人へと差し出した。その数を確かめ、置かれた甲殻は店主へと引き取られる。

 今回ヒュドラのクエストに行ったのはこれがあったからだ。なかなかマンドラゴラが見つからないため、しょうがないのでこの交換所のリストにあるもので入手しようと試みたのだ。

 二人で八個ずつ分けてポーチに入れ、交換所を後にする。これで用事は済んだので後は食事の時間だ。

 数分かけて飲食店が並ぶ通りへと向かっていき、件のフェアがやっているという店へと入る。ウエイトレスに席へと案内され、御品書きを開けばフェアの影響で安くなっていたりいつもはないメニューがあったりする。

 

「さてさて、どれにしますかねー」

「………………」

「これもよさそうですし、これもいいですね……うーん、迷いますねー」

「……さっさと選びなさいよね」

「え? こういうのは選ぶのが醍醐味でしょうに。いつも以上にルンルン気分で選べるのがまたいいのですよ」

「……あたしの金で食えるからだろうに、ちくしょう」

「はっはっは。現実は無情なり、ですよ」

 

 気の抜けるような笑い声をあげて御品書きを見つめていた茉莉は、「うん、これにしましょうかね」と呟く。どうやら注文(しょけいのぶき)が決まったようだ。瑠璃も自分が食べる物を選び、店員を呼ぶために手を軽く挙げる。

 それに気づいた店員が来ると、「アプトノスのハンバーグセット。スープはポタージュで」と告げ、茉莉へとさあ、注文しろと言う風に目配せする。

 店員も茉莉へと視線を移し、彼女はこほんと咳払いを一つ。そして――

 

「アプトノスの霜降りステーキセット、アプケロスのサイコロステーキ、ポポノタン焼きとモスの味噌汁、ガーグァのから揚げ。セットのスープはコンソメで、ライスは特盛でお願いいたします」

「ちったぁ遠慮しろちくしょおおおおおおおッッ!?」

「だから言ったでしょう、現実は無情なり。賭けの敗者から搾り取れるだけ搾り取りますよ、ははは」

「…………悪魔や……悪魔がここにおる」

 

 燃え尽きたように机に突っ伏する瑠璃の頭をぽんぽんと叩きながら「その悔し涙は明日の勝負の活動力となるでしょう」と囁きかけながら慰めるも、「慰めにもならないわよ……」とさめざめと泣き崩れ、「どうしてこういう時の賭けって毎回負けるかなぁ……金が、金がぁぁぁ……」とぶつぶつと呟きだした。

 瑠璃と茉莉の賭けは二人の実力が安定しだしたころから行われており、それはもう色々なものを賭けてきたものだ。今回のような夕食の奢りだったり、あるいは日常品の奢りだったり、パシリだったり……実に多岐にわたるが大抵はパシリで済ませている。

 瑠璃が勝つ場合は多くはパシリ権を得る時で、奢りが賭けられたときはあまり勝てたためしがない。そして茉莉はと言うと、今回のように奢りを要求する時によく勝ってしまう。

 その度に瑠璃の金がどんどん消えていき、このようにさめざめと泣き出してしまう。

 それを茉莉が微笑ましく、暖かな視線で見守るという構図が出来上がってしまう。

 

(いやー、我が姉ながら本当に愛で甲斐がありますね。眼福眼福)

 

 南無南無、と心の中で手を合わせるも、こうしてしまったのは茉莉である。今日もまた姉を弄れて満足だ、と感じながら軽く視線を店内に巡らせながら料理が運ばれてくるのを待つ事にする。

 フェアが開催されているだけあって客の入りはなかなかのものだ。夕食時というのも関係しているだろう。二人と同じハンターだけでなく一般人の家族連れも多く見かけられる。

 

(おやおや、カップルもいらっしゃいますか)

 

 家族連れだけでなくぽつぽつと若い男女が料理を食べている姿も確認できた。向こうの席では東方人らしい黒髪をした男女が静々とステーキとハンバーグを食べ進めている。しかしよく見るとその耳は人間のものではなく、獣のような形状をした耳をしている。

 少々斜め上に伸び、先端が尖り……比較するならば猫に近しい物だ。それだけであの二人が人間ではなく魔族である事がわかる。

 こんな所で魔族を見かけるとは、珍しい事もあるものだと思うが、だからといって何かするわけでもない。基本的に魔族はあまり表に出てこないものだが、彼らの中にもハンターとして活動するものもいる。例えば二人の母親のように。

 過去の大戦以降めっきり姿を見せなくなった一族もいるが、長い時を経て少しずつ世に出てきた一族もいる。それに自分達には他の魔族の知り合いがいるのだ。

 今もなお実家があるポッケ村に住んでいる魔族の兄弟夫婦。

 黒龍が舞い降り、西シュレイド王国の首都ヴェルドにテオ・テスカトルが襲撃してくるという大事件が起こったあの日。少しずつ広まり始めた噂により、変装しなければ軽々と大きな街へと訪れる事が出来なくなった彼ら。

 同時に彼らと親しくしていたあの三人もまた、東方に向かった後ばったりと姿を消してしまっていた。

 いや、一度だけ会った事があったか。あの二人の子供が生まれ、それを絵に残す際に隠れ家へと訪れたあの機会のみ出会った。それ以降また隠れ家を移したらしく、時たま連絡の手紙が来るだけで、どこにいるのかわからなくなってしまっている。

 六年前のあの日以来、英雄と呼ばれた彼らは人々の前から文字通り身を隠してしまった。

 それも仕方ない事だろう。あの噂はもうこの東方にまで届き、しかも昨今の不穏な噂と事件によって一部では重い空気が包み込んでいるのだ。

 こんな状況であの血統に連なる者が人前に出てくれば、何が起こるか分かったものじゃない。確実に良くない事が起こってしまうだろう。

 

(……やめましょう。今はそんな暗い事を考える時ではないです)

 

 小さく首を振ると、カートを押してこちらに近づいてくるウエイトレスが見えた。そこにはいくつもの料理が並び、美味しそうな匂いを漂わせている。

 

「お待たせしました」

 

 瑠璃の前にはハンバーグセット。鉄板の上に肉の焼けた音を立てながら、芳しい匂いを漂わせて食欲を刺激してくる。突っ伏していた瑠璃も料理が運ばれてくると、ゆっくりと顔を上げてその料理を見つめていた。

 だがすぐに視線を横へとずらす。

 続けてテーブルの上に乗せられていくのは茉莉が遠慮なく注文していった料理達。

 たちまちテーブルの上には多くの料理が並び、その空いた部分を埋めていく。これを一人で食えるのか、と普通の人々は思うだろうが、狩りに出かけたのだからその使ったエネルギーを補給するという意味合いでがっつり食べられるものだ。

 それに茉莉はこう見えて結構な量を平らげるだけの胃袋を持つ。恐らく涼しい顔で黙々と胃袋へと送っていく事だろう。

 

「それでは、いただきます」

「……いただきます」

 

 ウエイトレスが一礼して去っていくのを見送り、茉莉が手を合わせて言うと、続くように瑠璃も手を合わせる。そうして夕食をとり始める事になった。

 瑠璃がハンバーグへとナイフを入れれば切れ目からは肉汁が溢れだし、鉄板の上でまた焼ける音を響かせてくれる。少し焦げた部分も合わせてナイフで切り取り、セットの隅にあるソースのカップに少し浸して口へと運ぶ。

 咀嚼すればソースと絡んだ肉が柔らかく解け、舌に肉の旨味と肉汁を伝えてくれた。肉の味を引き立ててくれるソースとマッチし、実にいい仕事をした一品である。

 その美味しさに少しだけ顔をほころばせるが、対面に座っている妹を見てその表情が硬くなってしまう。

 まず茉莉はアプトノスのステーキから食すことにしたらしい。それはただの肉ではない、「霜降り」肉。つまり高級品だ。それにナイフを通し、同じようにソースを絡めて口へと運ぶ茉莉。

 ステーキの肉が焼ける匂いが対面にいる瑠璃にまで届いてくる。それだけではない、隣にあるアプケロスのサイコロステーキもまたいい匂いをしているし、モス肉と山菜をたっぷりと使用した味噌汁も美味しそうだ。

 小皿にはポポノタンの焼肉が乗せられ、備え付けのレモンがある。それを手にしてポポノタンへと絞って酸味を与え、ぱくりと一枚取って口へと運ぶ。続けて山盛りに盛られたライスを食し、お茶を一口。

 

「……ふぅ、美味しいですねえ。いい肉です」

「……あ、そう」

「まったく、辛気臭い表情ですね」

「誰のせいだと思ってんのよ、まったく……」

 

 そりゃ自分の金ではなく瑠璃の金で遠慮なく注文し、料理を堪能されているのを見せられてはこんな表情にもなるわ、と心の中でぼやきながら瑠璃はハンバーグを食べ進める事にする。

 付け合わせのポテトや人参も頂き、ライスやポタージュも味わっていく。

 一方茉莉はサイコロステーキやから揚げにも手を伸ばし、それぞれの味を堪能していた。少し硬めの肉であるアプケロスのサイコロステーキは、噛めば噛むほど肉の味が染み出てくるし、ガーグァのもも肉を使用したから揚げは柔らかく、すっきりとした味わいがある。

 あまり表情が変わらない茉莉の表情を少しほころばせるだけの美味しさがあるらしい。それを見、続いて料理へと視線を移せばまだ美味しそうな匂いが漂ってくるではないか。

 

「ごくり……」

 

 それを見せられては唾も呑み込みたくなるものだ。いくら自分も肉を食っているとはいえ、別の肉があれば興味も出てくる。まさに今の瑠璃は餌を前にした飼い犬のよう。それに気づかない茉莉ではない。

 にやりと笑みを浮かべると、霜降りステーキをフォークで突き刺し、瑠璃へとちらつかせてみる。ほれほれ、とフォークを揺らしている茉莉の表情は、ちょっとしたいじめっ子のそれに近いだろう。

 

「食べたいのですか? 瑠璃」

「ぬ、ぐ……嫌らしいわね、あんた……」

「はっはっは、こういうのもアリでしょう」

「ねーよ。あってたまるか」

 

 ジト目で睨むも一向にフォークをひっこめない。まったく嫌らしい妹だと思っていると、鉄板の上にその肉を置いていく。それだけではない、サイコロステーキも二つ乗せていき、ポポノタンとから揚げの皿も瑠璃が取れるように近くに寄せてくれた。

 

「私だけ食べるというのもあれですし、瑠璃にも少しばかり恵んであげましょう」

「茉莉……」

「現実は無情ですが、私は少しの慈悲があります。ふふふ、私も甘いですね」

 

 どこか感慨深く呟く茉莉ではあるが、驚きからまたジト目に戻った瑠璃は冷静だった。

 

「いや、ここの支払いあたしだから。あんたの金じゃねーよ」

「細かい事は気にしないでいきましょう」

「細かくないからっ!」

 

 吼えながらもちゃっかりから揚げを手に取り、豪快にかぶりつく。からっと揚げられた衣の下にある柔らかなもも肉の旨味、とろーりとした肉汁がじゅわっと溢れ出し、またしても舌が歓喜に震える。

 

「ちくしょう……美味いじゃないのよ……っ!」

「それは何よりです。さ、一緒に肉を堪能していきましょう。……ということで、ハンバーグ一切れ、頂いても?」

「それが狙いか」

「はて、何の事やら?」

 

 しれっと答える茉莉だがあながち間違ってはいないだろう。双子であるためか何となくお互いの考えはわかるものだ。しかしこうして霜降りステーキやから揚げ、ポポノタンまで貰っては何もしないわけにもいかないか。

 やれやれ、とため息をついてナイフを入れて一切れを茉莉のステーキ鉄板へと移してやる。

 

「ほら」

「ども」

 

 なんだかんだ言っても二人は仲の良い双子の姉妹だ。姉と妹と言う立場が逆に見えるが、それでも二人は基本的に仲がいい。そうでなければポッケ村を出て二人だけでこのロックラックまでやってきてはいない。

 そして長くコンビを組んで狩猟に出はしないだろう。コンビを組むという事はお互いの命を相棒に預けるという意味合いもある。深い信頼がなければやっていけない世界だ。

 四年前にポッケ村を出た二人はこのロックラック地方までやってくると、ここを中心として各地を巡って着実に力を付けてきた。手を焼いていた自分の中の才能、火竜の力を完全に制御していき、様々な飛竜をはじめとするモンスターを討伐していき、経験を積んでいく。

 レベルとしては上位ハンターのものになっているが、今は下位装備で通している。それは各地を巡っている為に上位ハンターの装備を整えていないという事もあるが、意図して二人は上位ハンターの名に連ならせないようにしているのだ。

 それは自分達が竜魔族という特殊なケースで生まれ、しかも有翼種という稀有な存在でもある。また世間はあの血統に対してよくないイメージを抱いており、自分達はその知り合いがいる。

 そのため二人は暁という名前を伏せ、フレアウイングの名字で活動している。表向きには有翼種の魔族として活動しているのだ。その上で各地を巡って力をつけ、サブの目的として姿を隠しているあの一家を探している。

 相手が相手のため情報屋を利用する訳にもいかず、小さな噂やその足取りを探るという雲を掴むような探し方であるため、必要以上に目立たないようにしている。

 とはいえ二人のやり取りのせいで、一部のハンター達で名が知られるようになってしまっているのだが、そこはご愛嬌か。

 何にせよ上位ハンターになれば儲けが増えるが、その分危険も増す。同時にそこで活躍すれば名が売れる。それすなわち自分達の事がよりハンター達の間で知れ渡る事になるため、それを回避したいというのが二人の考えだった。

 だが上位ハンターのくせに下位装備で下位クエストを受け続けるというのもそれはそれで名が知れるだろうが、ぼちぼち上位クエストの一部をこなすことでそれを回避している。

 つまり上位ハンターになりたてのほやほやであり、上位と言う壁に当たっているハンターである事を演出しているのだ。今はそれで何とかなっているが、時間が経てばその回避方法も通用しなくなってくるだろう。

 自分達は普通の人間ではなく竜魔族。人間以上の力量を保有する事が出来る存在だ。いつまで経っても成長しない弱者ではない。これも持ってあと半年か一年少しで通用しなくなるか、と考え始めている。

 何せもう自分達も二十歳になる。緊急事態で実力をつけていき、たった一年程度で新米ハンターから上位ハンターへと上り詰めたあの夫婦は十六歳でそれを成し遂げている。

 あれから六年経った今でもその実力は衰えず、まだ成長しているのだ。その気になればG級になれるかもしれないのに、境遇のせいでそれが出来ないでいる。

 旦那は魔族ではあるが、妻は人間だ。しかも突出した才能を持たない人間。そんな彼女でも成し遂げられた功績。彼女と違い高い才能を保有している瑠璃と茉莉に出来ないはずがない。

 当時よりも四歳も年上なのだから、今ではもう上位ハンターの中間から後半にさしかかってもいい頃合いなのだ。

 全てはこの変化した世の中によるもの。

 中央からこの東方にかけて変質していく人の想いが作り上げる雰囲気。これが彼女達の行動を縛り上げる。

 

 本当に、やり辛い世の中になったものだ。

 

 だが今ここにいる二人はそんなしがらみも関係なく、いつも通りのやり取りをしながら夕食を食べ進めている。これが彼女達の日常であり、こうする事でそのしがらみを忘れて時間を過ごせるのだ。

 昔から変わらない関係を保ち、茉莉がボケて瑠璃がツッコむ。そうやって馬鹿やっているのが心地いい。いろいろ大変なことが起きているが、せめてこうしている時間だけは平穏であってほしい。

 霜降りステーキ、サイコロステーキと消費していき、ポポノタンとから揚げを二人で分けて食べ、最後にライスと一緒に味噌汁をすすり、茉莉は「ご馳走様でした」と手を合わせた。

 瑠璃と少し分けあったとはいえ、あれだけあった料理の大半が彼女の胃袋へと消えていったのだ。周りの客達が唖然としているが、茉莉は気にした様子もなくナプキンで口元を拭ってお茶をすする。

 

「満足そうね」

「ええ、満足ですよ。素晴らしい夕食でした」

「そ。じゃあ行きましょうか」

 

 そう言って会計するために立ち上がり、置かれているそれを手に取った瑠璃は値段を確認してみる。すると「……くっ」と苦い表情を浮かべながら息を詰まらせた。やはりというべきか、そこに記されている値段は二人で食べる夕食のものじゃない。

 普通の一般人も訪れるレストランで食べられるものだというのに、どうして値段が五ケタ近くになっているのだろう。霜降り肉か? やっぱり霜降り肉の影響が強いのか!?

 そんな彼女へと向き直った茉莉は一度姿勢を正し、両手を胸の前で交差させ、振り下ろしつつ一礼した。

 

「ゴチになります!」

「…………ちくしょう」

 

 もう何度目になるかわからない言葉を呟きながら哀愁を漂わせる背中が遠ざかっていく。

 そんな彼女を温かい眼差しで見送りつつ、茉莉も席を後にした。

 

 

 そんな一件があった次の日、私服姿にローブを纏った二人はロックラックの港へとやってきていた。赤いシャツに炎の柄が描かれ、黒に近しいズボンという動きやすそうなものが二人の私服だ。しかもお揃いというのが双子らしい。

 そしてローブはやはり火竜という事もあり、背中はリオレウスを模した絵が描かれている。

 瑠璃はいつものツインテールだが、茉莉は狩猟の際に揉み上げに巻いていたリボンを頭の後ろに結んでいた。

 二人はこれからロックラックを後にし、また各地を巡る旅を始めようとしている。一定周期で各地を巡ってロックラックへと戻ってくる、という方法でこの四年を過ごすのが二人のやり方だ。

 マンドラゴラを入手するためにヒュドラ討伐に向かったのが、今回のロックラックでの最後のクエストとなる。これは調合で秘薬を作り出すための材料となり、昨日の内に作っておいた。これで秘薬の補充は完了する事になる。

 さて、砂上船に乗り込んだ二人は部屋へと向かって場所を確認し、ローブを壁掛けに掛けてベッドに腰掛ける。

 それから地図を広げてこれから向かう場所を確認する。

 ロックラック地方は主に砂漠が広がる地理であり、西に進めばテロス密林、北西に進めばポッケ村があるフラヒヤ山脈がある。

 北から北東方面に向かえば元々の実家がある国、華国に入る事になるがあっちには行かない事にしている。あそこは魔族に対してよくない印象を持つ者がそれなりに存在し、自分達が華国を出る事になった原因となった魔族狩りを行った過去がある。

 わざわざそんな国に戻る理由もない。なので華国に行く路線は自然に消える。

 南に進めば海岸線があり、その先には小さな島々が集まる諸島が存在している。主に漁業を営む村が点在しており、それで生計を立てているのが多い。その中で大きな拠点と成り得るのは、タンジアの港だろうか。

 最後に東へと向かえば砂漠が終わり、緑豊かな草原や山々が存在する領域へと入る事になる。そこから更に東へと向かえばヤマト国が存在する。その先は海となり、島国であるシキ国が存在している。

 それ以外は無国籍であり、大小の街や村、そしていくつかの領主が治める小さな領土が存在する場所になる。

 あの一家の故郷はその無国籍の山の一つに存在していた。その後別の山の一角に隠れ家を作り、暮らしていたのだ。

 そして今乗っている砂上船の進路は東。砂漠が終わる所にある港町まで進み、そこから更に東の山へと向かう予定だ。

 山によって様々な特色があり、ある山は山の幸を生かした特産品で生計を立てる村があったり、山間に作った畑から摂れる作物で生計を立てる村があったり、湧き上がる温泉で旅人を呼ぶ村があったりする。

 

「情報を求めるならやっぱりユクモがいいかしらね」

「でしょうね。この一年でまた活気づいたらしいですから、もしかするとこっそり温泉に入りに来た事があるかもしれません。確か東方人は温泉が好きらしいですから」

「温泉というか風呂が好きだって聞いた事があるわね」

 

 そんな会話をしながら地図を見る二人の視線はある一点に向けられている。山岳地帯の一角にあるその村はユクモ村。先ほどの例に挙げた湧き上がる温泉で山を越えていく旅人の安らぎの場を与えてくれる村だ。

 数年前までは落ち着いた村でお抱えのハンターもいない場所だったのだが、村に危険な竜種が現れた事でギルド支部を設立してハンターを呼び、これを討伐した過去がある村だ。それからはギルド支部を置き、旅人だけでなくハンターもそれなりに訪れる場所になっているという。

 二人も三年ほど前に訪れたのだが、一般人とハンターの割合は八:二ほどぐらいだったか。温泉街も旅人が多く、彼らによって賑わっているという印象だった。

 そのためギルドとしての規模は中級以下だろうか。クエストもそれなりでしか回されておらず、ハンターの活動の場としてはあまり向いていない。ここに訪れるハンターの大半は温泉に浸かって疲れを癒すという目的が有力だ。

 そんなユクモ村が今回の目的地とする。

 予定の確認が終わったところで小さく船が振動し、ゆっくりと進み始める。それを感じた二人は一度部屋を出て甲板に上がった。

 畳まれていた帆が挙げられ、今まで停泊していた港、そしてロックラックの外壁が遠ざかっていく。見れば他にも客達が甲板に上がっており、遠ざかっていくロックラックを見つめていた。

 中型の砂上船のためそれなりに乗客がいるようだ。やっぱり大半は人間が多いが、その中に竜人族と魔族が一組ずついる。気のせいか魔族の方はあのレストランにいたあのカップルのようだが……まあいいだろう。

 ロックラックの外観が小さくなっていき、あとはどこまでも広がる大砂漠。変わりのない景色を眺め、吹き抜ける乾いた風を感じながら二人は新たなる旅を始める。

 

 

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