集いし者たちと白き龍   作:流星彗

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21話

 

 

 数日後、所変わってこちらは別の狩猟エリアとしてギルドに認定された渓流の近くの村。そこにある酒場に奇妙な人達が集まっていた。いや、人達と称していいのだろうか。そこに確かに人は二人いるようだが、それと一緒にアイルーが三匹いる。

 人の一人、スキンヘッドに鍛え上げられた体をしている男、榊がからからと笑って手にしているグラスを掲げる。

 

「かっかっか! 祝、討伐! なかなか手ごわい相手だったがこうして勝利を収める事が出来て何よりだな!」

「うむ、協力感謝するよ、榊殿。一時はどうなることかと思ったのだがね」

 

 そう言ってグラスを打ち合わせるのは笠をかぶった白と黒の毛を持つアイルーだった。口の端に煙管を咥え、顔の大部分が黒毛に覆われ、口周りが白毛、笠を被っている事もあってその顔は暗く見える。

 器用に煙管を離すとふぅ、と独特の匂いのする煙を横に吐き、グラスに注がれた酒を呑んでいく。

 

「相変わらずの実力で安心したぞ、疾風(はやて)。『神風』の異名は伊達ではないな」

「よしてくれよ、榊殿。親しき友である君に神風と呼ばれるのはあまり好きじゃない」

「それはすまんな疾風。だが、久しぶりに会い、ああしてお前の実力を目の当たりにしたのだ。ワシは喜ばしいのよ。噂を耳にするよりもこうしてワシの目でしかと実力の程を確かめられたのがな」

「……ふ、そうかね。だが拙者とて喜ばしいよ。あなたもまた衰えていなかったようだ」

 

 親しげに話す榊と疾風をよそに、残った者は静かに祝杯を挙げている。榊の両隣りには佐助と椿がちびちびとミルクを飲み、つまみとして魚料理を食べている。そして疾風の隣には一人の青年がいた。

 肩を超えるくらいまで伸ばした黒髪をゴムで縛り、落ち着いた印象を持つ碧眼をし、整った顔付きをしている東方人だ。纏う装備はドンドルマ方面で確認される飛竜種、エスピナス亜種の素材を使ったエスピナUシリーズであり、武器は鬼哭斬破刀を担いでいる。

 彼もまたグラスに注がれた酒を呑み進め、注文した肉料理を静々と食べていたが、榊が笑顔を浮かべたまま彼へと視線を向けてきた。

 

「あんちゃんも即席のチームではあったがなかなかの実力者だったな。あの希少種相手に一歩も引かぬ立ち回り、なかなか出来るもんじゃあないわい」

「そうだね。星野殿と言ったか、これほどの実力者と巡り合えた事、拙者は喜ばしく思うよ」

「ははは、そうですか。ありがとうございます。俺も噂に聞く戦アイルーと一緒に戦えたこと、嬉しく思いますよ」

 

 そう、ここにいるアイルーは全て戦アイルーと呼ばれる、特殊な訓練を受けたアイルー達だ。特に疾風は各地では『神風』という異名で知られる程の有名な戦アイルーであり、アイルーでありながらそこらにいるハンター達よりも高い実力を持つ。

 そんな彼がどうして辺境の村にいるかといえば、この付近でリオレウス希少種、リオレイア希少種のつがいが確認され、討伐依頼が出されたためだ。原種や亜種ならばまだハンター達でもなんとかなるが、希少種ともなれば熟練ハンターでなければ難しい。

 原種、亜種以上の力を秘め、強固な鱗や甲殻に覆われたそれらは出会う事も稀ながら討伐できる程のハンターも限られてくる。辺境の村やその周囲の町のハンターではどうにもならないところ、噂を聞きつけてやってきた疾風がそれを引き受けたようだ。

 しかし彼だけでどうにかなるものでもないので、助っ人として榊を呼び寄せたのだ。

 だがここで少し誤算が生じる。

 疾風としては、榊に加えて彼につき従う佐助と椿を入れて四人のチームで向かうものと思ったのだが、噂を聞きつけて星野までやってきて自分も討伐隊に志願すると言ったのだ。

 まだ榊が到着する前だった上に、実力のあるハンターならば断わるに断れない。何せ彼が持っているのは希少種相手に効果的である雷属性の武器を担いでいたためだ。しかもそれはG級の武器。威力は確かなもの。

 榊が到着してからその事を伝えると、やる気に満ちていた椿が同行し、佐助は待機という事で話が纏まり、四人……二人と二匹は希少種討伐へと向かっていった。

 そして先ほどクエスト成功を伝え、こうして祝杯を挙げている。

 

「星野殿はどこにお住まいで? それほどの実力だ、大きな街を拠点としているとみるが」

「いえいえ、辺境も辺境……田舎暮らしですよ。家族と静かに暮らしています。今回はこの噂を聞いて力になれるかと思い出てきました。……生活費を稼ぐという目的もありますけどね」

「ほう、辺境とな。それだけの力を持ちながらあまり積極的に活動しないのか?」

「はい。別に有名になろうとか、名声を得ようとか……そういう事には興味ないので。ただ守れる人を守るために戦うだけですよ」

 

 微笑を浮かべながらそう言う彼はまた酒を呑み、残った料理をたいらげてしまった。そんな彼に榊はまたおおらかに笑い、ぱん、と膝を叩いて大きく頷く。

 

「いい心がけよ! 実に見どころのある若者だ! 最近はそういう輩が少なくなっていかん。……いや、それがハンターらしいといえばそれまでだがのぅ。だがそういう顕著な輩がいるというのは喜ばしい事よ!」

「……リーダー、興奮しすぎ。少しは落ち着け」

「何を言うか佐助。ワシは嬉しいのだよ! 桐音嬢ちゃんらといいここにいる星野といい、なかなか見どころのある若者らと知り合えているのだ。興奮せずにいられるか!」

「おやっさん、それでも落ち着くにゃ。ほら、これでも食べるにゃ」

 

 そう言って椿が魚料理に添えられているハーブを榊の口元まで持っていく。ついそれを口を開けて受け止めてしまい、椿はそこに放り込んでやった。それを咀嚼し、ごくんと飲み込むと少しだけ榊が落ち着いた……ように思える。

 そしてグラスに残っている酒を呑み干すと「すまない、これをおかわり貰えるかのぅ」とそれを掲げながら追加注文をした。

 

「そういえば……桐音嬢ちゃんらといえば、あの子達は探し人がいるんだったか。……というか、星野? もしや、あんちゃんだったりしないか?」

「む?」

「探し人? ふむ、力になれるかわからぬが、聞こうか」

 

 笠の下からじっと榊を見つめて疾風は聞き手に回る。

 

「なんでも瑠璃嬢ちゃんと茉莉嬢ちゃんという嬢ちゃんらの探し人がだな、星野翔とかいうハンターだとか」

「ああ、確かに。それは俺の事でしょう」

「なんと! ここで探し人に会えるとは!」

「……ですが、連絡するのは少し待ってください」

「む? なぜだ?」

 

 せっかく見つけた探し人本人だというのに、どういうことだろうと榊は怪訝な表情を浮かべる。そんな彼に、困ったような表情を浮かべた星野は一度酒を口にし、唇を濡らした。

 

「俺も色々ありましてね……会いに行くのは少し待ってもらいたいのです」

「ふむ?」

「その二人のことはもちろん知っています。昔の縁がある子供たちです。俺を探しているのも何か理由があるのでしょうが……緊急の用件でなければ二人には申し訳ないが、こちらにも都合がありまして」

「……そうか。辺境に住んでいるのにも理由がありそうだの?」

 

 その言葉に星野は困ったように頷いた。

 

「ならばこれ以上深くは訊くまい。だがこちらについては教えてもらいたい。もう一人の探し人というのが草薙武という少年よ。桐音嬢ちゃん……草薙桐音の弟という話だ。聞き覚えは?」

 

 それに疾風は少しばかり俯いて考え込むようなしぐさを見せる。恐らく記憶を探ってそんな人物がいたかを思い出そうとしているようだが、結局首を振った。

 対して星野は目を閉じている。

 彼もまたそんな名前をした人物がいたのかを思い出そうとしているのだろう。しかし彼もまた首を振ってしまう。

 

「そうか……残念だのう」

「役に立てず申し訳ないです」

「いや、構わんよ。少し訊いてみただけだしの。……ああ、そういえば桐音嬢ちゃんらが取った依頼の主も探し人をしていたか」

「またかい? 結構多いじゃないか」

「かっかっか、そうだのぅ。だがそいつはなかなか興味深い奴らを探しているようだったぞ。なにせ白銀昴、黒崎優羅、竜宮紅葉を探していると言っていたのだからな」

 

 その言葉に僅かではあったが星野の目が細まった。それまで浮かべていた感情もなくなり、無表情に近しいものまで落差を見せるも、すぐにそれを消してじっと榊を見つめる。

 そんな変化に彼らは気づかず、疾風が少し驚いたような表情を浮かべ、

 

「なんだい、そのメンツは。確か……かの大事件の後に姿を消したハンター達じゃないか」

「そうだ。そんな彼らを今になって探し出し、あの依頼をこなしてもらおうと指名してきたのよ。なかなか面白そうだろう? ま、結局は桐音嬢ちゃんらが引き受けたんだが」

「ふむ……シュヴァルツ一族の末裔である黒崎優羅と共に消えた、黒龍討伐の栄誉を賜ったハンター達。普通ならば消える理由はないが、世間は時が進むにつれてシュヴァルツ一族の末裔に対して恐れ、忌避し、関わろうとしなくなってしまった。昨今騒がせている辻斬りなどの件もシュヴァルツ一族の誰かが犯人ではないかと言われているくらいだし、そんな風に風当たりが悪ければ姿も消すだろうね」

「……疾風さんはそうだと思っているんですか?」

 

 そこで星野が静かに隣にいる疾風に問いかける。彼の視線は机の上で組む両手から僅かに疾風に向けられ、その声色もひどく落ち着いているように聞こえた。まるで感情を抑えているかのように。

 そんな彼の問いかけに、疾風は小さく首を振って答える。

 

「拙者はそうは思わない。こういう事件はシュヴァルツ一族でなくとも、武力を持つ者ならば誰でも可能。むしろそういう風に断定してしまえば、真の曲者の存在を覆い隠すことになるというもの。故に拙者はシュヴァルツ一族の末裔らに対して思う事は何もない」

「ワシも同意見よ。実際に会ったことはないが、だからこそ噂や風評によって決めつける事は愚かであると思うておるわい。人となりは実際に会い、語り合い、共に戦い、飯を食えば自ずとわかるというもの。それまではこうであると決める事はせんよ」

「……なるほど。俺も同意見ですよ」

 

 そこで星野はまた微笑を浮かべてグラスに残った酒を呑み干し、立ち上がる。

 懐から財布を取り出し、食事代を机に置くと一礼した。

 

「ご馳走様でした。俺はこれで失礼しますね」

「もう行くのか?」

「ええ、家族が待っているので、申し訳ないですが……」

「なに、構わぬよ。早いところ帰って家族に朗報を伝えてやれい」

「また機会があれば共に戦おう、星野殿」

「はい。では、また機会があれば」

 

 また一礼すると軽く手を振って酒場を後にしていく。そんな彼を見送ると、酒場の娘が先ほど榊が注文した酒のお代わりを持ってきてくれた。それに礼を述べると榊はまたそれをぐいっと呑んでいく。

 それを見た佐助と椿がため息をつき、

 

「……リーダー、昼間っから呑みすぎだぜ?」

「そうだにゃ、ペースを抑えるにゃ。星野さんが行っちゃったけど、まだ相手をする人がいるにゃ」

「ぷはぁ……、なぁに、まだまだこれくらいではどうということはないわい。……それで疾風よ。あの子達がこっちに向かってきているというが、まだ着かぬのかの?」

「ああ、推測だがもうすぐ到着すると思われるよ。先ほど来た鷹がそう教えてくれたからね。……っと、そう言っている間にどうやら来たようだよ」

 

 笠の下から横目で酒場の入口へと視線を向けると、丁度扉を開けて二人の人物が中に入ってきた。夜色の外套に身を包み、フードを被って顔が見えづらくなっている二人は酒場の中を見回し、疾風を見つけると彼らに近づいていった。

 そしてフードを取り払うと、中から現れたのは黒髪をした若い男女だった。しかしただの男女ではなく、その耳はまるで猫のようなものであり、それが二人が魔族である事を示している。

 そんな二人に榊は「おう、久しぶりだなお二人さん」と笑いかけた。それに対し、

 

「どうも、ご無沙汰しております」

「…………」

 

 歳の程は二十歳を超えた程だろうか。そんな青年が榊に向かって丁寧に一礼する。隣……いや、彼から一歩下がったところで付き従う彼と同じくらいの歳を思わせる少女もまた同様に一礼した。

 そんな二人に榊は苦笑し、手を振りだした。

 

「かっかっか、よせよせ。そう堅苦しくせんでいいわい。今のワシは榊(ひとし)。流浪のハンターよ」

「とはいえ仕事はあるんだけどにゃ」

「はは、そうだのぅ……ぼちぼち進めてるところだわい」

「……次の連絡であの人にどやされてもオレは知らんぞ?」

 

 やれやれと首を振り、嘆息しながら佐助と椿がたしなめる。立場的には榊の方が上だろうが、こうしてみると出来の悪い主人を補佐する秘書や部下という風に見える。

 だがこういう光景はいつもの事なので特に気にせず、見守るだけだ。そんな二人を「そら、いつまでも突っ立ってないで座れ座れ。……それと、ほら、注文するといい。今日はワシの奢りよ」と手で示し、ウエイトレスを呼ぶ。

 それに「失礼します」と頭を下げてから二人は疾風の隣に順番に腰掛けていった。

 

「だから堅苦しくせんでええと言っとるに……。渚嬢ちゃんにしているように接してくれても構わんのだぞ?」

「……はっ。では……これでいいですか、榊さん」

「まだちと硬いのぅ。もう少し砕けてもええんだぞ?」

「すみません。しかしあなたは私達一族にとっては目上のお方。乾さんと同じく礼を持って接しなければなりません」

 

 頭を下げたまま彼はそう述べた。隣に座っている少女も目を閉じて同じように頭を下げている。そんな二人の立場も知っているが、榊としては苦笑せざるを得ない。

 しかしこれ以上強いるのも酷か、とこれ以上の事は口にせず、別の話題を吹っ掛ける事にした。

 

「それで、調査の方はどうなっておる?」

「辻斬りに関しては今もなお調査中。出没地点も不規則であり、標的も流派を選ばず。時に一般人も被害にあっていますが、その全てが刀傷によるものであると確認。犯人がシュヴァルツ一族の末裔であるかは不明のまま、となっています」

 

 答えたのは少女の方だった。淡々とした喋りであり、表情も変えずに抑揚なく話す彼女はその外見も相まって人形のように思える。そんな彼女に視線を向け、榊は腕を組みながら静かに聞く。

 

「続いて各地の領主死亡事件について。死亡した者らの情報を纏めたものは既に乾さんに提出。共通点は依然として変わらず、悪政を行っている者ばかりが殺害ないし事故死。そして空席となった領主を取り込み、勢力を拡大していると思われる一派がいると推測されますが、影はあっても正体は見せず。現在も捜査中」

「なるほどのぅ。これはやはり死んだ領主の領土を獲得して新たな領主を据えようという魂胆かの」

「そう思われますが、それを企てる領主を確認できません。領主ではなく全く別の誰かという可能性もありますが、尻尾を見せません」

 

 今度は少年がそう答えた。

 そしてまた少女が次の報告を進めていく。

 

「最後に各地で活性化しつつあるモンスターらについて。やはり依然として蛇竜種が活発であり、闘蛇ナーガの姿も少しではありますが確認。その内の何頭かは討伐されたという情報を入手」

「おう、その内の一頭は知っとるぞ。ユクモにいるハンターの知り合いがそれよ」

「左様ですか。また、こちらに関してはご存知かと思いますが最近ではリオレウス、レイアのつがいが活性化。ただその行動が奇妙でして」

「ほう? どういうことだ?」

「何かを探しているかのように空を飛行し続けるという行動を確認。村や町を襲ったという行動は少数であり、多くはその上空を数分間飛行し、離れていっています」

 

 少女のその報告に疾風は何か思うところがあったようで小さく唸った。

 思い返してみればそういう話を耳にしていた記憶がある。つがいの大半は空を飛行し続けるばかりで襲撃を加えていったという話は耳にしていない。討伐依頼が出たのも村や町の住人が不安になったため、何とかしてほしいというものばかり。

 だが一体何を探していたのだろうか。

 それに気づいた者は次にこの疑問に行き着くだろう。しかしその問いに対する解答は誰も答える事は出来やしない。

 誰が気づくだろう。

 つがいらが捜しているのは表舞台から消えた人族の三人であり、それを命じたのがかのアマツマガツチである事を。

 

「ハンターが動員されて数は減らしているようですが、まだつがいは各地を飛行しているでしょう。その原因の究明にこの先も努めたいと思います」

「うむ、よろしく頼むぞ」

『はっ』

 

 頭を下げる二人に頷くと、榊はちらっと辺りを見回してみる。すると離れた所で様子を窺っていたウエイトレスに気づき、ちょいちょいと手招きしてやった。するとおずおずといった風な反応をしながら彼女は近づいてくる。

 恐らくただならぬ雰囲気を感じ、いつ注文を取りに行ったらいいのかわからなかったらしい。そんな彼女ににこやかな笑顔を見せてやって安心させると、「さ、注文するといい。さっきも言ったように今日はワシの奢りだ」と促した。

 それにまた頭を下げると二人はウエイトレスに料理と飲み物を注文する。それに合わせて榊達も飲み物のお代わりを注文し、ウエイトレスは去っていった。

 しばらくして注文した物が運ばれてくると五人は一斉に乾杯し、食事を再開する。

 

「それにしても本当に久しぶりだのぅ。元気にしとったか、(かい)(くう)

「ええ、なんとか。榊さん達も変わりないようで何よりです」

「どうだ、ここは一つ、お主らの旅の話でも聞かせてもらおうか」

「私達の……ですか?」

「おう。何せ現頭領の息子である海とその付き人である空の二人旅。任務とはいえ、なかなか面白そうではないか。どれ、一つこのワシに語ってみせい」

 

 にっと笑いながらグラスを傾けた。そんな彼に少し困ったような表情を見せる少年だったが、ちらりと隣にいる少女に視線を向けてみる。そこには相変わらず表情を変えずに座っている彼女がいたが、視線に気づいて横目で視線を合わせてくる。

 何も言わない彼女ではあるが、何となく「別によろしいんじゃないですか?」と淡々に語ってきているような気がした。

 ふぅ、と息をつくと、

 

「……わかりました。私達のつまらない旅の話でよろしければ、お話しましょう」

「なぁに、つまらないかそうでないのかはワシらが決める事よ。今日はまだ時間はたっぷりある。小噺程度なら、酒のつまみにもなろうて」

 

 実際のつまみであるポポノタンの塩焼きやミックスビーンズなどが机に並んでいるが、榊はそれ以上に少年が話す旅の話を楽しみにしているらしい。こうなったら少しは話をしてやらないと榊は退かないだろう。

 観念して少年は話す事にする。

 

「……ではお話ししましょう。里を出る前の事から、でよろしいですね?」

 

 それに榊が頷くと、ぽつぽつと少年は話し始めた。

 ここに来るまでの、二人の旅の話を――。

 

 


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