集いし者たちと白き龍   作:流星彗

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24話

 

 

 山道の途中にそれはある。旅人達の休憩の場であり、山道を行く者達が出会う場所。

 茶屋。

 道の外れの広場に店を構えたそこは木々に囲まれた風流ある場所であり、数人の旅人が店の中や外の席で旅の疲れを癒し、談笑していた。

 その茶屋に一人の若者がやってくると「おばちゃん、茶一杯と羊羹一つ!」と声を掛けて外の席の一つに腰掛ける。少しして注文した物が運ばれてくると「いただきまーす!」と手を合わせて羊羹の一つを口に放り込み、茶を少し飲む。

 はぁ、と堪能するように息を一つ付くと、

 

「……また犠牲者が増えたよ」

 

 とそれまでの気さくな雰囲気はなりを潜め、独り言を呟くような小さな声でそう口にする。

 

「今度は桜花流の使い手。またしても刀で一太刀。他の者がその周辺を探っているようなんだけど、今のところ犯人(ホシ)と思われる奴は発見できず。またしても逃げられたようですぜ」

「……そう。わかった、そのまま数日そこを調べといて。それから、前回からこれまでの情報」

 

 そういう声が彼の背後に座っていた少年から発せられ、隣に座っていた少女が素早く手を動かすと、彼の隣に封筒が置かれていた。それと入れ替わるように背後に座っている少年の隣にも封筒が置かれる。

 それを素早く手にして懐に入れると、「じゃ、俺はまた場所を移して調査しとくぜ」と呟き、羊羹をまた口に放る。「うん、頼むよ。隼」と背後の少年が微笑を浮かべて呟くとすっと立ち上がり、「おばちゃん、勘定を」と店主へと声を掛けていった。

 それを見送ったその少年は目礼してゆっくりとお茶と羊羹を楽しんでいった。

 

 そう、ここにいたのは霧夜海と空、そして隼だ。

 今彼らの出で立ちは里を出た時の忍のような恰好ではなく、どこにでもいるような旅人のものだった。そうやって一般社会に溶け込み、こうして陰で報告し合うのだ。

 茶屋を後にした二人は少し山道を歩き、突如疾走を開始して森の中へと入り込む。身なりは旅人の格好のままだが、持ち前の身体能力で木々の枝を飛び移り、一気に移動していく。

 そうして誰もいない森の中で止まった二人は先ほど隼から渡された報告書に目を通していく事にする。そこにはこうあった。

 

 先日桜花流の使い手が辻斬りと思われる人物に殺害される。現場は山道から少し逸れた森の中であり、心臓を通る袈裟斬りによる傷で死亡していた。

 発見は旅人の一人であり、その情報を得てからすぐに各員に連絡して包囲網を作ったが発見には至らず。死亡してから数時間しか経っていないのに逃げられたという事は空間転移を行使している可能性が予想されるが確実ではない。

 

 続けてロックラックにてシュヴァルツの血統に連なる者、と思われる人物を確認。しかし彼は至って普通のハンターであり危険な気配は全く感じられない。また一緒に行動していたのがあの『碧空』のダグラス達だったということもあり、不安になる要素は皆無と判断。

 

 以下はその人物についての情報が纏められている。その人となりや経歴も記されており、こうして見る限りでは確かに問題ないように思える。

 それに『碧空』のメンバーは、ハンターの間では名の知れた『刀刃』のメンバーとも親交があるというのも大きい。六年前の一件にもこの二つのチームはシュレイド地方へと赴いて参戦していた。これがもし危険なシュヴァルツの血統者ならば、彼らの技術を盗んで己の物とし、裏で辻斬りをしていてもおかしくはない。

 しかしその気配もなく、武を高め礼節をわきまえる『刀刃』のメンバーと友人関係にあるならば問題ないだろう。だが一応この目で確かめるべきか。

 幸いこの森を抜ければ砂漠が広がり、その先にロックラックがある。元より二人はロックラックに向かうつもりだったのでちょうどいい。報告書を空にも読ませた海は辺りを見回してみる。

 先ほどから何かが森の奥で動いている気配を感じ取っていたのだ。

 人のものではないということはモンスターが近づいているのかもしれない。それは空も感じ取ったようで、報告書を封筒に収めて懐に入れ、警戒するように視線を巡らせていく。

 

「海様、ここは一つ砂漠に向けて走りましょう」

「そうだね。クーラードリンクの用意はしておこうか」

「はい」

 

 モンスターの正体が何であれ絡まれるわけにもいかない。こちらはハンターではなくただの一般人……でもなく忍だ。戦う力は持っているが大型の飛竜を相手にするのではなく人を相手にする技術である。

 小型のモンスターならば何とかなるかもしれないが、大型ともなれば話は別だ。魔族の血統としての力を引き出してもどうにかなるのは低確率。

 ここは逃げるに限る。

 だがどうやら気配は複数……それも集団だったようで、前方に回り込むような気配の動きがあった。これからして大型ではなく小型という事はわかる。

 

「ギャアッ、ギャアッ!」

 

 木の間から甲高い声を上げて数匹のジャギィが飛び出してきた。それに続けてジャギィノスも現れ、二人が疾走するのに合わせて追いかけてきている。だが忍である二人の疾走速度や血統の影響で、森の中で走り抜けたり木々の間を移動したりするのには分がある。

 このまま交戦せずに逃げ切れば問題ない。

 しかし群れのリーダーはそれを許すつもりはなかったらしい。

 

「ウオオォォォォン!!」

 

 近くの森の中から獣のような吼えが聞こえてくる。するとジャギィ達の動きがより一層活発になり、続けて吼えた存在が木々の間を抜けて現れる。立派な襟巻を頭部に生やし、ジャギィよりも淡い色合いをする大きな体躯、背中に白いたてがみを生やすそのモンスターは、ドスジャギィ。

 ジャギィ、ジャギィノスの群れを率いるリーダーであり、東方のハンターらにとっては初めての大型モンスターの相手として討伐対象にされる存在だ。

 しかし一般人からすれば恐怖のモンスターである事には変わりなく、商隊にとっても厄介な存在である。何せ群れを率いて移動するのだから移動中に襲われでもすればたまらない。ハンターを雇っていなければ被害を受けるのは確実なのだ。

 

「ドスジャギィか……やれやれ、どうしたものかな……」

「二つ案が」

「聞こうか」

「一つはこのまま逃亡し続ける事。その際は全力を以って逃亡ですが、砂漠入りした後の体力に支障が出るでしょう。一度進路を逸らし、砂上船で向かう方針が選択肢に上がってきます。もう一つは交戦。しかしそれはドスジャギィを止める、という方針で交戦。リーダーさえ抑えれば、後は烏合の衆。逃げる事も容易いでしょう」

 

 話している間も二人は群れから背を向けて逃げ続けている。こうして逃げる者がいれば奴らは追い続けるのみ。ならば奴らを振り切るために本気で疾走するのか、あるいはリーダーを止めて逃げるのか。

 

「ギャァッ!」

 

 するとジャギィが飛び出して海へと噛みついてくる。だが体を反らす事でやり過ごし、背後に流れていくジャギィの顔へと肘打ちをして吹き飛ばし、背後から追ってくるジャギィにぶつかってしまった。

 しかしそんな程度で群れの追跡は止まらない。ドスジャギィが指令を出すように吼え、それに従ってジャギィらが動く。

 

「リーダーを抑えようか」

「承知しました」

 

 一度二人は一気に疾走して群れから距離を取り、そしてそれぞれ武器を取り出して振り返る。海の手には小太刀が、空の手には着物の裾の下、足に巻かれたベルトにある針を取り出して構える。

 立ち止まった二人を見て諦めたものと見たドスジャギィではあったが、二人に戦意がある事を悟り、また吼えて指令を下す。それに従い、素早いジャギィ達が一気に二人を取り囲んでいき、続くようにしてジャギィノスがずんずんと加速をつけて二人へと接近していった。

 それを迎え撃つように動くのか、と思いきや、二人の姿が一瞬で消える。音を極力抑えて木の幹を蹴って飛び回り、ドスジャギィを守るジャギィノスらを小太刀で切り払う。

 その間に空がドスジャギィの側面へと回り込み、手にした針を投擲する。その程度では大した痛みを感じないドスジャギィはすぐに空へと振り返り、噛みつきにかかるもバックステップで回避。

 しかし囲んでいる数匹のジャギィが体当たりを仕掛けてきた。モンスターとしては小さい方だが、それでも人ほどの大きさをしているそれが体当たりを仕掛けてくるのだ。ハンター装備をしていない二人、それも私服と変わりない恰好をしていてはかなり痛みがある。

 だが当たらなければどうという事はない。

 さっと視線を巡らせ、冷静に空は抜け道を見出してそちらへと跳んでやり過ごし、前転しながら地面を叩いて受け身を取って起き上り、今度は苦無を手にして近づいてきたジャギィらの頭を貫くように投擲した。

 続けてまた裾の下のベルトに手を伸ばして次の針を取り出し、ドスジャギィへと接近していく。

 

「ウォォオオオオオン!」

「ふっ、はぁっ!」

 

 海はドスジャギィの隙を作り出すため、とにかく奴の周囲を走りまわって気を引いていた。寄ってくるジャギィノスは小太刀で斬り伏せるも、それでも数があるためなかなか倒れてくれない。

 ジャギィと比べて体が大きいだけでなく体力もある。それが群れを成しているためやり辛い。首を斬り、胸を突いて一撃で仕留めようとしているものの、それでも硬い鱗と皮に守られているため仕留められない。

 これがモンスターだ。

 ハンターでも気を抜けば逆にやられてしまう相手に、忍とはいえ渡り合っているだけでもすごいものだ。

 しかし完全に討伐する事は目的ではない。抵抗し続ける海に煮え切らなくなったのか、ドスジャギィも動く。彼に向かって疾走したのを見た空が両手に持つ針を一気に投擲した。

 だがそれでも止まらない……かと思われたのだが、突然ドスジャギィが前のめりに転倒し、そのまま痙攣しだす。

 

「グガ……ヴォ、ヴォオオォォォ……!?」

「よし、撤退!」

「はい。粒子化、帰還」

 

 それは空が投擲していた針に秘密がある。先端にはマヒダケを絞ることで出てきた汁を塗っており、対象に突き立てる事で相手に麻痺毒を注入させる事が出来る。本来は人相手に使うものではあるが、緊急時にはこうしてモンスターにも使って動きを止める事もある。

 また針には呪印を刻んでおり、今彼女が口にした言葉を放つ事で投擲した針を回収する事が出来る。黒い針は黒い粒子となって空の下へと帰ってくると、先ほどベルトに収めていた場所に集まり、針となって何事もなかったかのように収まった。

 そしてリーダーが行動不能になっているため、ジャギィ達は戸惑いだしている。中には逃げていく二人を追いかけようとしているものもいるのだが、多くはドスジャギィが心配なようでおろおろとしている。

 読み通り、烏合の衆と成り果てたジャギィらの群れから離れる事はもう難しくもない。

 二人は振り返る事なく走り続け、ドスジャギィの群れから逃げ切る事が出来た。

 

 それからどれくらい走っただろうか。森を抜け、広大な砂漠地帯へとやってきた二人はクーラードリンクを飲み、外套を纏って砂漠を走り抜けていた。途中砂漠のオアシスにある村に立ち寄ったりして休憩をはさみ、日が暮れればホットドリンクを飲んでまた走って、と繰り返し、ロックラックへとやって来たのはあれから数日後。

 砂漠のオアシスに作られたそこは、東西南北を結ぶ砂上船の中継地点として最大の拠点であり、同時にハンター達にとっての砂漠の拠点。日夜多くの人々が訪れ、去っていく場所であるため街の活気は高く、砂漠の大都市として知られている。

 もちろん砂上船だけが航路ではない。空には気球や飛行船が離着陸し、アプトルやアプトノスを利用した竜車も多く出入りしている。もちろんドンドルマと同じくそれ専用の門が存在しており、二人が潜ったのは人が出入りする門だ。

 陰に潜む忍である二人ではあるが、その恰好は一般人と何ら変わりない。外套も一般人が着るようなものを似せており、私服として着ている和服も同様だ。その下には暗器が隠されているが、それらも門を潜る前に纏めて隠している。

 秘術の一つとして霧夜の者らは呪印を持っており、これは紋様術の一種とされている。紋様に術式を含ませる事で様々な効果を持たせるのだが、大抵の場合は攻撃と補助に使われる。

 これを外套に施す事で疑似的な空間魔法を起動させ、暗器や必要な物を収容しているのだ。ハンターらが持つあのローブを持たない霧夜一族らにとって、これは真似事ではあるが必要な技術として受け継がれている。

 これも主である乾家による支援の一つであり、呪印の師ともいえるものだった。渚が何もない所から帽子を取り出したのもこの魔法の応用とされる。

 それにより一般人として通じる事が出来たので、難なくロックラックへと入る事が出来た。

 まず向かうのは拠点として利用する宿。それを確保し、調べるべき事を調べ始める事にする。

 最初は報告書にもあったシュヴァルツの末裔。『碧空』がどこにいるのかを調べ上げ、陰から接近してどのような人物なのかを確認してみた。

 結果、報告通り問題ない事を確認。

 数時間張り込んでみたがシュヴァルツの闇を感じる事は全くなく、普通のハンターとして行動している事がわかった。それだけでもあの人が件の辻斬りである可能性は感じられず、問題なしと判断。

 しかし名簿を作るという仕事があるためそれに記録することだけはしておく。

 その際、彼らの記録も漁ってみたが、どうやらシュヴァルツの末裔の知り合いはもう一人いるらしい。だが彼は中央、シュレイド方面にいるようで、こっちには来ていないようだ。中年の男性で弓使いとのことだが、どういう人物かまでは記されていない。ただ一つ、イェーガーという名前だけが記されるのみ。そもそもシュレイド地方はここからでは遠すぎるため、調べに行くことも難しい。なので彼については後回しにすることにした。

 それからは酒場などに出入りするハンター達を見回して初日を終えた。

 

 そして二人は数日かけてロックラックにいるハンターを洗い直し、同じようにロックラックに滞在している他の霧夜の者と連絡を取り合って情報を集め続ける。だがあの一人以外のシュヴァルツの末裔は確認できなかった。

 並行して調べ上げた刀の扱いに長けたハンター、または剣士についても調べてみたが、辻斬りをするような人物は数人程度。しかし彼らが各地で辻斬りをしているとは思えなかった。

 なにせ行動範囲が狭く、候補として挙げられたハンターは全員チームで行動していたためアリバイがある。つまりここにいる者達が辻斬りではないという事だ。

 しかしこうも考えられる。

 自分達と同じく陰に潜んで一般人と混じっているという可能性も挙げられる。だがその可能性を上げるという事は、犯人もまた捜査の目から逃れる術を心得ているという事。

 やはり実際に行動に移そうとしている、または移した直後を押さえるしかあるまい。

 そこで二人は、過去に名が挙がったシュヴァルツ一族の血統者のリストを再確認してみる事にした。この東方にも伝わっているシュヴァルツの末裔、またはシュヴァルツ一族が名を変えた新たなる名字、ルシフェルの性を持つ者らの事だ。

 当然この情報は他の霧夜の者らも共有しており、中にはルシフェルの性をする者の足取りを探っている者もいる。

 とはいえ大半はあの大事件以降姿を消した、あるいは更に別の名を変えたのが多いため手掛かりはほとんどないに等しい。しかし似ている風貌をしている、最後に確認された地からどう動いたのか、という小さな情報を手に出来れば、あとは持ち前の情報網で探り当てる事も可能だ。

 それによって見つけ出した一家も一応少数ではあるが存在する。だがそれは全部シロ。闇を確認できず、ただ新たに記録されるだけに留められているようだ。

 

「……次はセルシウス・ルシフェル。しかしこちらもシロ。彼女は現在もドンドルマの収容所に繋がれた状態。刑期はまだ終了せず」

「だろうね。彼女の経歴からして以前ならば真っ先に辻斬りに名が挙がるだろうけど、刑に服しているならば不可能か」

 

 あの大事件を起こした者らの下で行動し、各地で多くの人を殺害してきたセルシウス・ルシフェル。その数は百人を下らず、ドンドルマ襲撃事件でも多くのギルドナイトやハンターを殺害している。

 しかしそんな彼女は最後まで敵側には属さず、途中で彼らから離れ、従兄弟達と共に行動し、西シュレイド王都ヴェルドに襲撃してきたテオ・テスカトルを相手に共に戦った。それ以外でも各地の狂化竜と戦い、討伐してきている。

 その功績を認められ、減刑されたようだがそれでも人間にとっては長く、魔族にとってはそうでもない刑期を与えられ、収容所に捕えられている。

 つまり外に出る事は叶わない。叶うとするならば無償労働をする時か、面会する時ぐらいのものだろうが、後者はないだろう。何せ親しい人物は雲隠れしているのだから。

 そう、彼女の従兄弟達、ライム・ルシフェルとクロム・ルシフェルもまた姿を確認できていない。

 クロム・ルシフェルはそれ以前から姿を消していたが、ココット村に暮らしていたはずのライム・ルシフェルも雲隠れしている。恐らくクロムと共にいなくなったと思われるが、公式ではその存在は確認できていない。

 ……そう、あくまで公式では、だ。

 霧夜一族は彼らの所在を確認している。

 ポッケ村。

 ドンドルマから北東にあるフラヒヤ山脈の一角に存在するその村は、何らかの事情を抱えた者達が身を寄せる場所の一つとされている。村の周囲には結界が張られており、探知系統の魔法が通用しないのだ。

 その他にも様々な術式で村に暮らす者らを守っており、それに加えて六年前に神倉月が更に強固な結界を張った事でその効果が高まっている。そのおかげでクロムらが身を隠すには十分なものになっている。

 以前探りを入れた霧夜の者が確かにクロムらを確認したのだが、偽名を使っている事に加えて姿も少し変えていたので本人らである事を認識できなかった。そうまでして彼らは自分達の正体を隠しているのだ。

 ハンター活動も控えめに行っているようで、ほぼ完全に表舞台から退いているらしい。

 それと入れ替わるようにポッケ村から外へと出てきた二人のハンター。いや、姉妹ハンターというべきか。

 

 瑠璃・暁・フレアウイング、茉莉・暁・フレアウイング。

 

 調べたところどうやら竜魔族という事を隠しているようで暁という性は名乗らず、フレアウイングとして活動しているらしい。

 そんな二人が、このロックラックを拠点として現在活動しているという事を確認したのだ。

 

「二人は現在クエストに出ている模様。調べたところそう時間もかからず帰還する事がわかりました。問題なければ明日かと」

「そうか。じゃあ二人が帰ってきたら様子を見てみよう。それまでは今出来る限りの情報を集めてみようか」

 

 そうして報告書を見回してみた結果、得られた情報は現在二人は上位ハンターになっているものの、上位と下位を行き来してクエストをこなしているという事。

 性を隠すだけでなく竜魔族である事を隠し、魔族として行動しているという事。

 そして何より、誰かを探し続けているという事。

 

「クエストをこなしつつ、暇があれば人に尋ねて回っている模様。星野翔という男の事ですね。推測するにあの白銀昴の偽名でしょう。彼らはポッケ村で親交がありましたので」

「……四年前に村を出てロックラックに来てから捜索しているとみていいか。しかしそれでも見つからず。どうやって隠れているのかはまだわからないけど、うちらも捜索の手を伸ばすとするか」

 

 指示予定の一つとして組み込むが、元々そちらの方も捜索の手を伸ばしている。何せ黒崎優羅が目的に挙げられるシュヴァルツの末裔の一人だ。当然ながらその三人にも捜索の手を伸びる。

 しかし今のところ手掛かりはなし。

 恐らくどこかの山中に拠点を構えて隠れ住んでいるのだろうが、情報が少ないためにまだ見つからず。絶対数が少ないため人海戦術は使えないので地道に捜索していくしかない。

 それにしても四年も探し続けているとはなかなか出来る事ではない。まあ、竜魔族なので四年は短いかもしれないが。

 

「戻ってきた際に張り込みますか?」

「そうだね。情報はあらかた集めたし、後はこの目で確かめるのみ」

「承知しました」

 

 

 そうして次の日、昼はまたロックラックを巡って情報を集め、日も暮れて砂上船の港の方へと移動する。一般人ではなくハンターがクエストのために出入りする港であり、二人がここを訪れるのは妙な事になる。

 だが忍である二人は巧みに動いて人の視界から外れていき、物陰へと身を潜める。その姿は日の当たらない陰に溶け込み、静かにその時を待ち続ける。そして一つの砂上船がやってくると、そこから双子の姉妹が下りてきた。

 あれが標的。

 陰から見つめる二つの視線は対象を分析し始めている。実力はハンターというだけあってなかなかのもの、何か楽しげに話しているようだという事を感じ取った。そんな二人を周りのハンター達は楽しげだ、と笑っている。

 なるほど、親交はあるようだ。そんな彼らと共に港を後にすると、二人から先回りして飲食店へと入っていく。その前に酒場やトレードの店を訪れたようだが気づかれる事はなかった。

 身なりを普通の人物となんら変わりなくし、店に入って周りの席を見渡せる席へとついて注文する。海はステーキセット、空はハンバーグセットだ。

 運ばれてきた料理を食べていると二人がやってきて席に着き、多くの料理を注文していく。そうして陰で二人の様子を見ていたが、不意に妹の方が辺りを見回してきたため視線を外し、静かに料理を食べ進めていく。

 それからも聞き耳を立てたり僅かに覗き見したりしていたのだがなにも起こる事はなく、普通に姉妹の談笑を進めて夕食を終えていた。……まあ、周りの客があの少女があれだけの肉料理を平らげていく様に、驚きの表情を見せていたという面白い光景が見られただけでもいいとしよう。

 二人が利用している宿へと戻っていくのを見送り、こっそりと次の予定を探ってみたところ、どうやら明日にはロックラックを後にする事がわかった。本来ならそれについていきたいところではあるのだが――

 

 ――残念ながらそうもいかない。

 

 二人の宿へと戻ってくると窓に一羽の梟がやってくる。その足に結ばれた手紙を受け取り、内容に目を通して見るとモガ方面で怪しい動きがあったとのことだった。そちらを担当していた一人の忍が行方知らずになっており、怪しい動きを確認したポイント付近で失踪している。

 確認しに向かった者の見解では、妙に現場が修正されているのではないかという事だった。まるでそこにあったものを消し去り、何事もないように整えたような気配を感じ、これは誰かがその忍を殺害し、死体を回収して現場を綺麗にしたと思われる。

 

「……空はどう思う?」

「風間の手によるものかと」

「それしかない、か。となればあの二人に関しては他の者に任せるとして、俺達はモガに進もう。風間が動いているとなればまず間違いなくあの方の命令だろう。乾様が俺達を動かしているのをどこかで察知し、風間を動かしたのだろうね」

 

 風間を従えているのはあの灯だという事は海達も知っている。主である渚が灯と少々睨み合いをしているように、霧夜も風間とは同じ忍という事もあって浅はかならぬ縁がある。

 時に共同で任務をこなす事があるが、時にはお互い潰し合う事もある。それはもちろんお互いの忍を殺し合うことだってあった。むしろ二つの一族は過去は殲滅し合う仲であり、それぞれ二つの家を主に持つ事で休戦となる。

 とはいえ任務さえかぶり、それによってお互いが障害となれば容赦なく抹殺していく事になるのだが。

 つまり今回もそれにあたる。

 風間の存在に気づき、探った者が逆に殺られてしまったのではないかという推測だ。

 こうなれば自分達が出向き、調査を交代して進めていく事にする。その旨を他の者達に通達。文面をしたためると梟の足へと結び、窓の外へと放ってやる。すると夜の闇に溶け込むように茶色い翼を羽ばたかせて飛んでいく。それを見送り、宿を出る準備を進めていった。

 

 砂上船に乗ればどうやらあの姉妹も乗っていたようで、何事もないかのように振る舞って客の一人として過ごす。そこで客の顔ぶれを確認してみると、どうやら女性の竜人族のペアがいるようだ。

 珍しいな、と思いながらもそっと確認してみるが……奇妙な感覚がする。気のせいかとも思うが、相手の方も自分達が魔族のペアという事もあって、興味深そうにしていたのでじろじろと見る事は出来なかった。

 しかし……どこかで見たような気がするのだが……はて。

 そんな事もあった数時間の砂漠の航海を経て港に到着すると、空は藍色に染まりつつあった。砂上船を降りた客達はそのままこの港町で一泊していくのだが、海と空はこのまま休まずにモガ方面へと移動する事になる。

 その際あの双子の姉妹の背を見つけ、何気なく彼女達が宿に入っていく姿を見送っていく。するとまた視線に気づいたのか妹がきょろきょろと辺りを見回してくるのだが、自分達には気づかずに中へと入っていった。

 無言で着ている外套の位置を直し、二人は南に向かって走り出す。

 数日かけて森を越え山を越え、突き進んだ先には海に面する地方。かの伝説を刻んだ中心地であるタンジアの港やモガの村などの漁村が存在する場所だ。

 のどかな地方ではあるが、今ここに不穏分子が侵入していく事になる。

 

 

「……向こうに通達。霧夜海、霧夜空がモガへと移動を開始した、と」

「了解」

 

 当然ながらそれを察知しない彼らではなかった。建物の陰に潜んでいた二人の忍が動き出す。町を後にした二人とは別の方へと動き、独自の連絡ルートを使って仲間へと知らせていく。

 

「逃しはせんよ。こっちも仕事なんでね、情報は我々が入手させてもらう」

 

 最後に二人が去っていく方を見た忍もまた闇の中へと走り出す。肩に乗せている梟に何かを囁きかけるかのように普通の言葉ではないものを口にし、それを受けて梟が一鳴きして空へと舞い上がっていく。

 それを見送る事もなく、忍は闇へと消えて別ルートからモガ地方へと向かうのだった。

 

 

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