跳躍して距離をとったナルガクルガが身構えながら力を溜めだす。あの構えをとったナルガクルガは連続攻撃を仕掛けてくる前触れだ。それを見越した桐音がブルーウイングを納刀して様子を窺う。
雷砲ラギアブリッツを手にしている十兵衛も同様で、弾は装填しているようではあるが距離が離れているため射出する事はなかった。
そうして様子を窺えば、力を溜め終えたナルガクルガが桐音へと一気に飛びかかっていく。その際右翼で斬りかかり、また飛びかかりながら左翼で斬りかかっていく。
しかししっかりと見切ってタイミングよく躱してダメージをゼロとし、背後へと離れていくナルガクルガを後ろからブルーウイングで斬る。だがそのダメージを気にせず離れた所にいる十兵衛へと勢いよく跳躍して両前足を叩きつける。
「くぅ……っ!」
何とか後ろに下がる事で直撃を受ける事はなかったが、その巨体が眼前へと急激に接近してきた事で強いプレッシャーと共に風圧が体を叩きつけてきた。
だがそれを耐え、ナルガクルガの側面に回り込みながら装填した散弾Lv2を射出する。放たれた弾丸は少し進んで破裂し、複数の小さな弾となってナルガクルガに襲い掛かる。
「グルルッ!」
「おらっ! こっち向きなッ!」
散弾で攻撃するもナルガクルガが効いている様子はあまりない。だが桐音がブルーウイングで尻尾から足まで一気に斬りかかれば、その威力にナルガクルガが反応してバックステップしながら向き直った。
それによって距離が開き、十兵衛が更に離すために下がりながらチップを叩いて弾を取り出して装填する。入れ替わるように桐音がブルーウイングを納刀しつつ柄から手を離さずに前に出ていく。
「グルァァゥゥヴヴ……!」
するとナルガクルガが威嚇をするように姿勢を低くしながら尻尾を地面に叩きつけていた。あれが奴の威嚇だ。それに伴って鋭い刃のような殺気が改めて二人に突き刺さってきた。
だがそれに臆する桐音ではない。じりじりと前に進んでいき、威嚇に臆しない桐音を見据えてナルガクルガが地面を叩いていた尻尾を横、回転と振り回し始める。
その動きを目視した瞬間、「針が来るぞ!」と後ろにいる十兵衛に注意を促した。そのすぐ後、勢いよく尻尾が振られてそこから細長い毛が放たれた。それはまさに勢いよく飛来する針の弾丸。扇状に数本ずつ放たれた黒い毛の針は桐音や十兵衛へと向かって直進する。
だが扇状といっても網羅するように放たれているわけではない。数センチほどの間隔を置いて放たれている。その隙間を狙って潜り抜け、一太刀入れるようにナルガクルガの顔へとブルーウイングを叩きつけた。
大剣としての持ち味である高い威力と内包される火属性が炸裂し、弱点部位である頭に直撃した事でナルガクルガが大きく怯んでしまった。その隙を逃さず、十兵衛が装填した貫通弾を射出し、肩から背中へと突き抜けるように狙って引き金を引いていた。
だが装填数が二発しかないため、素早く手を動かして二発撃てばすぐに装填して射出という高速作業を繰り返している。
「ふっ、はぁっ!」
もちろん怯んでいる所を逃さないのは桐音とて同じだ。顔から左翼へと抜けるように薙ぎ、更に左翼へとブルーウイングを叩き落とし、斬り上げながら納刀する。その頃にはナルガクルガも怯みから回復しており、反撃として体を捻って尻尾を叩きつけてきた。
素早くブルーウイングを抜いて盾にし、それを防ぐが、続けて頭突きでもするかのように少し引いた頭でぶつかってくるが、それをバックステップで躱した。だがナルガクルガは更に攻撃を続けてくる。
小さく唸って身構えると勢いよく跳びはねながら後ろを向き、長くしなる尻尾を更に伸ばしながら勢いよく叩きつけてきた。直撃は避けたが、その強い衝撃がブルーウイングを通じて桐音に伝わってくる。
「重いねぇ……さすがだ。だからこそ、やりがいがあるってもんさ!」
尻尾の先端付近の毛が荒々しく逆立っており、それが地面に食い込んでしまっている事から見てもその衝撃の強さが窺える。しかしそんなの関係ない、むしろそれを歓迎しているかのようだ。
「やっぱりこういう戦いこそが面白い! 昂るってもんさね! とっととくたばるような早漏野郎にゃ興味ねぇからなぁ!」
何とか尻尾を抜こうとしているナルガクルガは数秒間隙だらけだ。後ろ足へと狙いを定めて力を溜めだした。それが少し溜まったところでようやく尻尾が抜けたようだが、最大まで溜まっていなくともこれが好機。
ナルガクルガが反撃する前に後ろ足へとブルーウイングを叩き落とし、ダメージを与える。その苦痛にナルガクルガが唸るが、前足で体を支えると勢いよく体を回転させて尻尾を横から叩き込む。
しかし桐音はその尻尾の下を潜り抜けるように横へと転がって回避し、攻撃をやり過ごした。
「いたっ、桐音!」
「ん? おお、ようやく来たか。随分時間がかかったな、お二人さん」
濡れた体を気にした風もなく立ち上がり、ブルーウイングを納刀しながら肩越しに振り返り、エリアに入ってくる瑠璃と茉莉に気づいた。
ナルガクルガと戦闘しているのを確認した瑠璃が、すかさず火竜剣【火燐】を手にして桐音へと並び、茉莉は離れた所にいる十兵衛へと向かっていく。手にしている盾を構え、古代式回転銃槍をスタンバイさせて十兵衛の盾となるべく身構えた。
ナルガクルガは新たに現れた敵に威嚇するように体を低くして唸るが、二人は厳しい表情でナルガクルガを睨むだけだ。まだナルガクルガの目には赤い星が浮かび、動くたびに赤い軌跡を描く。
そして突如ナルガクルガが瑠璃と桐音へと勢いよく跳びかかりながら、翼で切り裂いてくる。しかしナルガクルガの動きを見逃すまいと睨んでいた二人は、すぐに横へと跳んで回避する。
だがナルガクルガは逃さない。逃げる瑠璃へと回り込むように跳び、横からまた斬りかかる。それを前へと跳びながら転がり、躱した瑠璃はすぐに後ろに振り返る。攻撃が連続して外れることはナルガクルガもいよいよ珍しくもないと感じ出したようで、唸りながら体を捻って尻尾を叩きつけてきた。
それを火竜剣【火燐】で防ぎ、反撃するように一太刀肩へと斬りこむ。
一瞬悲鳴を上げたナルガクルガだが、どうということはないとばかりに唸りながら瑠璃へと噛みついてくる。バックステップでやり過ごし、今度は突きの構えを取って頬を掠めながらもう一度肩へと攻撃を仕掛けた。
その後ろでは桐音が転進してブルーウイングを抜き、尻尾へと斬りかかっている。茉莉も古代式回転銃槍を手に左翼へと突き出し、彼女の背後からは援護するように通常弾Lv2を装填した十兵衛が後ろ足を狙って射撃している。
二人から四人へと増えた攻撃の手は着実にナルガクルガの体力を削っていく。群がってくる敵に鬱陶しさを感じたようで、ナルガクルガは身構えると勢いよく体を捻って尻尾で薙ぎ払った。
茉莉は盾で防御し、残る二人は何とか躱してやり過ごした。
それを見たナルガクルガは小さく唸ると身を低くして勢いよく跳躍する。そのまま上空で翼を羽ばたかせて高度を得ると東の方へと飛び去っていった。どうやら一度離脱していったらしい。体勢を立て直すつもりだろうか。
何にせよ、そうしてくれるならこちらも一度仕切り直しが出来る。
桐音がポーチから取り出した砥石でブルーウイングの切れ味を戻しながら、「なんかあったのかい? まあ、あるとするならそっちで亜ナルが現れたってところだろうけど」と横目で瑠璃を見上げながら問いかける。
その言葉に頷きかけたが、瑠璃が顔を赤くして「ちょ、な、なに言ってんのあんたはッ!?」と桐音を指さしながら吼えた。
「ん? なにかおかしいことでもあったかい?」
「なんでもない風に流すな! ナルガ亜種のこと、妙な呼び方したでしょ!?」
「おいおい、妙な呼び方とは心外な。いい短縮のしかただと思うぜ? 瑠璃、一体何を想像したのかな?」
「ぐっ……こ、こいつは……っ!」
にやにやと笑みを浮かべながら小川の水で砥石を濡らし、手際よく刃を通して切れ味を戻す桐音。そして「で、どうなんだ?」視線で少し語れば、茉莉が小さく頷いた。
「ええ、エリア4に入った瞬間出くわしてしまいましてね。信号弾が見えたのは確かですが、なかなか抜けるタイミングが見つからず。遅れてしまいました」
「なるほど、なら仕方ない。ナルガは東に飛んでったから、ふむ……もしかすると合流するかもしれないな」
ブルーウイングの切れ味を確かめ終えた桐音が立ち上がりながら背中に納刀し、肩や腰を少し動かして歩き出す。その際気配を探ってみると隣のエリア5にナルガクルガが着地した、とだけ判別できた。
ナルガクルガ亜種らしき気配はまだなく、合流していないらしい。
望むとするならばここで一気に片を付けたいところだった。四人は静かにエリア5へと移動していき、森の中で佇むナルガクルガを確認した。休息状態にあるようで体を休めて体力回復に努めているらしい。
「亜ナルはいないな。よし、十兵衛、一発頼むぜ?」
「……うす」
またしてもツッコミを入れそうになったが瑠璃はぐっと堪える。十兵衛は特に気にした風もなく雷砲ラギアブリッツに弾を一発装填していた。こういう事には慣れているらしい。さすがは瑠璃達より長く桐音と行動しているだけはある。
十兵衛はそのままナルガクルガの側面に回り込むように草むらを移動していき、それに瑠璃がついて行って護衛する。
見つからぬよう姿勢を低くし、音を立てないように静かに移動したが、ナルガクルガは不意に顔を上げて辺りを見回した。僅かな音が漏れていたのか、あるいは気配を探り出したのか。
目は通常の金色の瞳になっており、怒り状態にはなっていない。それでも気を抜かず、位置を取った十兵衛は伏せたまま照準を合わせる。辺りを見回し終えたナルガクルガが二足で佇むのを見計らった瞬間引き金を引いた。
飛来する弾は狙い通りナルガクルガの頭に着弾し、一間置いて爆発した。突然の攻撃にナルガクルガが悲鳴を上げてたたらを踏み、その瞬間桐音が勢いよく疾走してナルガクルガの背後から斬りかかった。
奇襲、それに感づいたナルガクルガが唸りながら体を回転させて尻尾を振るう。そのカウンターのような反撃に、桐音は舌打ちして振り下ろすブルーウイングを急きょ左手を添えて盾にして難を逃れる。
衝撃に体が押しやられるが足に力を入れて数センチ滑るだけに留まった。
十兵衛が隠れている草むらからは既に瑠璃が飛び出しており、火竜剣【火燐】を抜いて側面から炎を噴き出してナルガクルガへと嬲るように炎の剣で斬る。右翼で防御するが高温の炎に顔をしかめ、続けて放たれる薙ぐ攻撃に怯んでしまう。
その隙を逃さず、熱せられた部分を抉るようにして剣を突き出せば黒い鱗がはがれ、その奥にある肉へと刃が突き刺さる。肉が焼ける音と共に血が蒸発し、斬り上げれば小さな肉の断片と共に煙と血が少量噴き出してきた。
背後からはチップからベルトリンクを伸ばして電撃弾を装填した十兵衛が、連続して銃撃している。高速で放たれる弾丸はナルガクルガの後ろ足に着弾する度に弾け、電撃の力をナルガクルガに与える。
すると足の力が衰えてしまったのか、ナルガクルガがバランスを崩して転倒してしまった。これは好機とばかりに桐音が顔へと接近し、納刀したブルーウイングを抜いて力を溜めだした。
瑠璃も右翼へと連続して火竜剣【火燐】を回転させ、薙ぎ、斬り、突きと高速の連撃を叩き込む。反対側では茉莉が左翼へと突いてはエネルギーを溜め、砲撃を放ってはクイックリロードをして溜め砲撃とこれを繰り返している。
「おらあああぁぁぁッッ!!」
最大まで溜めた力でブルーウイングをまさに叩き落とす。斬るというよりこの重量で叩き込む。それが大剣の一撃だ。それはナルガクルガの額から左目にかけて裂傷を与え、傷口に沿って勢いよく噴きだした炎の力が追撃し、ナルガクルガの左目は潰れてしまった。
「グアアアアアアァァァァッッ!?」
悲鳴が森に響き渡った。だが断末魔ではない。桐音の一撃は確かにナルガクルガに高いダメージを与えたが致命傷ではなかった。
そしてその悲鳴に引き寄せられたのか、すぐそこに突然空から降ってきた存在がいた。
『っ!?』
視界に突然入ってきた森の色。原種と違ってまさに森に溶け込みやすくなった緑を基本とした迷彩色の毛皮と鱗を持つそれは、突如横へと並んできたナルガクルガに気づき、振り返る。
そうすれば先ほど自分からいなくなってしまった敵二匹と、それと共にいる一匹に気づき身構える。その前に原種のナルガクルガが怒号を上げた。残った右の金色の目に赤い星が浮かび、その周囲が充血している。怒り状態だ。
その怒号に当てられ、瑠璃以外の二人がたまらず耳を塞ぐ。瑠璃はリオソウルシリーズとお守りのおかげで高級耳栓が発動している。咆哮など無意味だった。
だがここで普通は起こり得ない現象が起きる。
ナルガクルガの傍には威嚇するように吼えようとしたナルガクルガ亜種がいた。奴はナルガクルガの怒号を受けて一瞬うるさそうに眼を閉じながら体を震わせ、その後弾かれたように二度横へと回り込みながら跳び、瑠璃の背後へと回り込んだ。
その目にはナルガクルガと同じく赤い星が浮かび、目の周囲が充血している。
「グルアアアァァァゥゥヴヴッッ!!」
ナルガクルガ亜種も怒り状態になったのだ。
ナルガクルガは原種も亜種も音には敏感であり、飛竜らの咆哮を受けた場合も一瞬怯んだ後に怒り状態へと強制的に移行する。桐音の一撃で怒り状態になったナルガクルガの咆哮に反応したせいで、連鎖的に亜種もリミッターを外してしまったようだ。
その連鎖反応に桐音が耳を塞ぎながら舌打ちした。
何とか亜種の動きを見ようと顔を動かせば、高級耳栓のおかげで動ける十兵衛が草むらから飛び出してきた。その手には雷砲ラギアブリッツではなくこやし玉を手にしている。
いい判断だ。
怒り状態になっている飛竜二頭を同時に相手にするなど、ましてや高速で動き回るこのナルガクルガらを相手にするなど厳しい。
一頭には強制的に退場してもらわないと困る。
手にしたそれをナルガクルガ亜種へと投擲しようとしたが、ナルガクルガ亜種はそこからまた横へと跳び、桐音の背後を取って斬りかかってきた。怒号に硬直してしまっていた桐音はそれを躱しきれず、わき腹付近を強い衝撃が襲い掛かって吹き飛ばされてしまう。
しかもナルガクルガ亜種は転がる桐音を追うようにまた跳び、追撃を入れようとした。しかし茉莉が何とか盾と古代式回転銃槍を構え、飛びかかってくるナルガクルガ亜種へとカウンターを入れるように額へと古代式回転銃槍を突き出し、溜め砲撃を命中させた。
振りかぶられた右翼を盾で防ぎながらの攻撃に、たまらずナルガクルガ亜種が怯んでしまう。茉莉の背後で何とか桐音が起き上り、「……サンキュー」と小さく礼を述べれば、肩越しに頷いてもう一撃古代式回転銃槍を突き出す。
しかし安心してはいられない。
ここには怒り状態になっているナルガクルガがいるのだ。しかもそれは後ろにいる。すぐさま桐音がブルーウイングで防御体勢に入るが、どういうわけかナルガクルガは桐音ではなく接近してきた瑠璃へと意識を向ける。
火竜剣【火燐】で斬りかかってきた瑠璃から逃れるように後ろへと跳び、空ぶった瑠璃へと飛びかかるようにして跳躍した。が、それを見越して瑠璃は火竜剣【火燐】を盾にして防御し、返す刃で一撃入れる。
「はっ!」
さらに火竜剣【火燐】を回転させてもう一太刀。そうしたところで十兵衛が追い付き、こやし玉を投げたのだが、素早くナルガクルガが避けるように跳び、同じように跳んできたナルガクルガ亜種と並んでしまった。
そうして並んだ二頭は同時に尻尾を横へと揺らしつつ、回転させ始めた。逆立った毛がゆっくりと準備を整えだし、勢いよく尻尾を振る事で鋭い毛が扇状に放たれた。漆黒の毛とそれよりも密度が濃い新緑色の毛が空を切って放たれ、瑠璃達へと襲い掛かっていく。
それを回避していく瑠璃達ではあるが、次々と放たれる毛の弾丸は着実に瑠璃達を追い詰めていく。その中の一本の毛、新緑色の弾丸が茉莉が手にしている盾を強く弾き、続けざまに放たれた毛が茉莉の腹に直撃する。
「……ッ、ぐ……!?」
リオハートメイルの上からでも伝わってくる強い衝撃。胃の中の物が逆流しそうな程の衝撃にたまらず茉莉が膝をつき、そのまま力なく倒れ伏してしまった。
「茉莉ッ!?」
瑠璃が彼女へと叫ぶように呼びかけるが、茉莉はそれに反応しない。いや、反応しようとしているが声が出ない。
ナルガクルガ亜種の毛は原種の物より密度が濃く、空を切って放たれるそれは想像以上に強い衝撃を生み出す。気が弱ければ着弾しただけで意識がとび、無防備な状態になってしまう程だ。
瑠璃が茉莉の方へと駆け寄り、入れ替わるように十兵衛が何とか毛針を掻い潜ってこやし玉を投擲する。それはナルガクルガ亜種へと向かっていったが、桐音へと襲おうと飛びかかったナルガクルガへと付着し、鼻を突くような臭いを漂わせる。
その臭いに反応してたまらずもがいたナルガクルガは、桐音へと攻撃を命中させる事は出来なかった。その生まれた隙を逃さず体を捻りながら抜刀したブルーウイングを薙ぎ、翼へと突き出し、ぐっと引きながら斬り上げる。そのまま納刀して勢いよく背後へと跳べば、桐音が先ほどまで立っていた場所へとナルガクルガ亜種が回り込みながら翼を叩きつけてきた。
「グルルルッ……!」
逃さない、とでもいうかのように唸りながら勢いよく振り返りつつ尻尾を叩きつけてくる。横へと跳んで躱すが、ナルガクルガ亜種はそれを追うようにもう一度尻尾を叩きつけた。
それを衝撃が届かないところまで抜け、影響を受けずにナルガクルガ亜種へと接近すると勢いよくブルーウイングを抜いて後ろ足へと叩き込む。その頃にはナルガクルガはこやし玉の臭いの影響で跳躍し、エリアから離脱していった。
二頭を分離させる事には成功させた。
あとは茉莉はどうなったか、と視線を動かせば瑠璃が茉莉を抱えて離れていくところだった。彼女が手にしていた古代式回転銃槍は一旦十兵衛が回収しているらしい。
(引きつけておくか)
逆立った毛が棘となり、地面に食い込んでいるのを何とかして抜こうとしているナルガクルガ亜種の側面を通り抜け、前方へと回り込みながら振り向きざまに顔を薙ぐ。
その一撃でナルガクルガ亜種の意識は桐音へと向けられた。
叩きつけられる殺気ににやりと笑みを浮かべた桐音は、「いいぜ、来いよ。火気、収束。剣気顕現」と謳うように呟き、ブルーウイングに激しく燃える炎が纏われて新たな刀身を生み出した。
赤褐色とオレンジ色が混ざり合うその炎は、本来の火属性剣であるブルーウイングから噴き出す炎と混じりあい、凄まじい熱気を放って剣となる。それは手にしている桐音にも容赦なく熱気を与えるが、彼女が纏っているのは火耐性があるガンキンSシリーズ。
抜刀術というスキルを捨て、ブルーウイングを構えながら不敵に笑う桐音。彼女に否応なく意識が向けられるナルガクルガ亜種は低い体勢を保ちながら唸り、威嚇する。桐音の狙いは成功していた。
「ふんっ!」
もう一度薙ぐように振り抜けば、蒼い刀身だけでなく纏う火の刃も火の粉の尾を引いて襲い掛かる。躱すようにバックステップし、更に横に跳んで側面へと回り込みながら翼を叩きつけるが、桐音はブルーウイングで受け流しながら切り抜ける。そうすればナルガクルガ亜種の翼に刀身が押し付けられ、それ自体がダメージを与える要因になる。
「はぁっ!」
防御しながら攻め、それに怯めばもう一撃。
桐音の優勢で戦いは続行される。
その間に十分な距離を稼いだ瑠璃は茉莉をおろし、回復薬グレートを取り出して飲ませてやった。何とかそれを飲み、痛みもある程度和らいでくる。十兵衛が古代式回転銃槍を持ってくると、「おいらもあっちを引き付けてくるッス」と言いつつぺこりと頭を下げてナルガクルガ亜種の下へと走っていく。
「……油断しましたね。足を引っ張ってしまいました」
「気にする事はないわよ。これから取り返せばいいわ」
初見のため仕方がない、というのは言い訳だろう。
気を緩めなければ切り抜けていたかもしれない。しかしそれ以上にナルガクルガ亜種が放った毛の弾丸は茉莉が想像した以上に重い一撃だった。防御していた盾を弾き、その衝撃で左腕が痺れて防御を疎かにてしまいそうなものだった。
その隙をついた更なる追撃。気を抜かなければもう一度防御していたか、躱せたかもしれなかったが、実際はこのざまだった。自分のミスで戦線は瓦解、そのフォローとして桐音が奔走している。
だがそれでも仕方がない、と誰もが言うだろう。
なにせそれ以前に二頭とも怒り状態に陥っていたのだ。茉莉でなくとも誰かが防御の隙をつかれて落とされていたかもしれない。今回はそれが茉莉だったというだけだ。
深呼吸を繰り返して気分を落ち着かせていき、茉莉はゆっくりと立ち上がった。
「……行きましょうか」
「もう大丈夫なの?」
「ええ。これくらいどうということはありませんよ。このまま戦線離脱をするつもりもないですからね」
十兵衛が持ってきてくれた古代式回転銃槍を手にして調子を確かめ、背中に戻す。左腕の痺れも回復薬グレートのおかげで和らいでいるし問題ない。とはいえ完全ではないのであまりに重い一撃を防げばまた厳しくなるかもしれないが。
二人揃ってナルガクルガ亜種の下へと向かっていき、炎の剣を纏ったブルーウイングを振るって大立ち回りをする桐音と、雷砲ラギアブリッツを手に少し離れた所から通常弾Lv2を撃ち込んでいく十兵衛と合流する。それを確認したナルガクルガ亜種は怒り状態のまま勢いよく跳躍して飛びかかってきた。
二人で二手に分かれるように横に跳び、回避したが、ナルガクルガ亜種はそのまま振り返りつつ小さく唸った。
狙ったのは瑠璃、そして彼女の近くにいる十兵衛だった。
自分の後ろに十兵衛がいる事に気づいた瑠璃が急きょ進路を変更して十兵衛から離れるように横へと走るが、既にナルガクルガ亜種は彼女に向かって飛びかかりながら翼を振るう。
しかしそれは原種でもよく見られる攻撃手段。瑠璃は冷静にそれを火竜剣【火燐】で捌く。だがナルガクルガ亜種はそこから更に高速で回り込んでもう一撃叩き込んできた。
「くっ……!」
それは捌き切れず火竜剣【火燐】で防御するが、それから更なる追撃が来るのかと思いきやまた跳びはねて回り込み、翼を振るってくる。
その高速の動きに翻弄されつつある。防御する度に火竜剣【火燐】を握りしめる両腕が痺れだす。このまま防戦に回り込むわけにはいかない。反撃しなければならない。そうしなければ自分は強くなったとは言えない。
瑠璃はまた回り込もうとするナルガクルガ亜種を睨み付け、強く地面を蹴って前に出た。その行動にナルガクルガ亜種が驚いた表情を浮かべた。
翼を広げて飛行し、すれ違いざまに火竜剣【火燐】を回転させて肩から背中にかけて連続して斬りかかり、背後に回って最後に後ろ足へと強く突き刺した。
その連続した攻撃にナルガクルガ亜種は苦悶の表情を浮かべてたたらを踏み、だがそれでも意志は折れず反撃の手段を構築した。
後ろにいるならば使うのは尻尾。それは瑠璃も読めた。
だからこそ振るわれる尻尾を警戒し、すぐさま離れようとした。だがナルガクルガ亜種は尻尾を振るうのではなく一度瑠璃から離れるように体の向きを変えながら後ろに跳び、そして距離を詰めながら翼を振るってきた。
想定外ではあったが瑠璃はそれを防御する。しかしナルガクルガ亜種の目がぎらりと赤く光ったかと思うと、そのまま勢いよく反転しながら尻尾を叩きつけてくる。
「…………ッ!?」
「させません!」
振り返った顔の先にはいつの間に回り込んでいたのだろう。茉莉が古代式回転銃槍を構えながら突き出しているところだった。切っ先にはすでにエネルギーが溜められており、威力を増した砲撃がナルガクルガ亜種へとぶつけられる。
その衝撃にたまらず怯んでしまったナルガクルガ亜種ではあったが、それでも叩きつけられる尻尾は瑠璃に直撃する。みしみしと火竜剣【火燐】が悲鳴を上げるが、しかし瑠璃の体へと直撃する事は避けられた。
だが直撃の衝撃と、地面へと叩きつけられた際の衝撃の風圧に瑠璃の体は勢いよく飛ばされてしまった。彼女の体は離れた所で銃撃していた十兵衛付近まで飛ばされ、すぐに十兵衛が雷砲ラギアブリッツをしまって彼女の介抱に向かう。
入れ替わるようにして桐音がブルーウイングを叩きつけ、茉莉もそのまま顔へと古代式回転銃槍をねじ込んで砲撃を与えていく。溜めている暇はない、今はただダメージを重ねてナルガクルガ亜種を留めるだけ。
合流してきた桐音が手にしているブルーウイングは通常に戻っていた。ブルーウイングに纏われていた炎の剣が長く展開してきただけあって、時間切れと言わんばかりに効力を失い、通常のブルーウイングとなってしまったようだ。それならそれでとまた抜刀術を有効活用するだけだった。
「大丈夫ッスか、瑠璃さん!?」
「……いつつ、ん……なんとか、ね……」
彼女の手から火竜剣【火燐】が離れ、リオソウルアームの上から腕を撫でてしまう。それだけ強い衝撃が火竜剣【火燐】の上から伝わってきたのだ。かなりの苦痛が襲い掛かってきた。
すかさず十兵衛が回復薬グレートを取り出して瑠璃に手渡してやる。それを受け取って中身を飲み干し、一息ついて彼女は自分のポーチからもう一つの回復薬グレートを取り出し、リオソウルアームを取って直に両腕に半分ずつぶっかけた。
少しだけ顔をしかめて濡れた両腕に手早く布を当てて染み込ませつつ拭っていき、軽めの応急手当てを済ませる事にした。
「あそこまでの連続攻撃……やっかいね」
「ナルガ亜種は原種よりもかなり動くッスからね……追いきれなくなったらやばいッス」
動くだけでなく尻尾の一撃も脅威だ。鍛えていなければ防御していても腕が使い物にならない程の衝撃。やはり油断ならない。
リオソウルアームをつけて火竜剣【火燐】を手にし、立ち上がって合流しようとした瑠璃、そんな彼女の調子を気にしながらも同じく立ち上がった十兵衛ではあったが、突如近づいてくる気配に気づいて顔を上げる。
二人の近く、十数メートル付近に突然落下してきた漆黒の巨体。鈍い音を立てて着地したそれはゆらりと首を動かして二人を視認し、低く唸り始めた。
「な……」
「か、帰ってきたッスか……!?」
このエリアから追放したはずのナルガクルガ。
まさかのとんぼ返りであった。