纏っているローブを短くして肩に纏めた二人の戦い。初手はリーチが長い槍を手にしている武だった。踏み込みながらの高速突きによって槍は桐音の心臓めがけて伸びていく。まだ距離が離れているというのに鋭い刃が自分の胸へと迫ってくる光景に、桐音はあくまで冷静に小太刀を側面から当てて受け流し、躱しながら武の懐へと入り込んでいく。
しかし受け流された槍は素早く引き戻され、武の足運びによって一定の距離を保ちながら再び槍が桐音へと迫る。
それを桐音は全て小太刀で捌き、武へと迫ろうとするも彼はそれを防ぎ、守りを突き抜けるように更なる高速突きを放ち続ける。
そうなれば訪れるのは均衡状態。
一定距離で二人は目で追えない程の高速の剣戟を繰り広げる。
どちらも相手を殺す気で振るっているため、空を切る音がとんでもない。刃がぶつかり合う甲高い音が連続して響き渡り、瑠璃達はその戦いに目が離せなくなっていた。
鍛錬では見れない本気の桐音がそこにいる。
「……あれだけの速さ、あの人に及ぶかもしれませんね」
「やっぱり、そう思う? あの人か……あるいは今はいない彼女かな」
「ああ、あの人も凄かったですね」
「え、お二人さん、あの領域の人、知ってるんスか?」
「ええ、まあ……ちょっとした知り合いが武術の達人だったもので」
頭によぎるのは村にいた時に体術の面で鍛えてくれた兄貴分の青年と、その従妹の少女の事だった。あの二人が鍛錬と称した本気に近しいぶつかり合いもあんな風だったと思い返す。
しかしその時は武器を持たず素手での戦いだった。時に武器を持ったことがあるがその時は刃は潰しているか木刀かだった。決して真剣ではない。
だが二人は本気でぶつかり合い、でもどこか楽しそうにしていた。
たぶんあの領域に達するにはかなりの才能の高さと、磨き上げられた技術によるものだろう。
目の前で起きている事もその内の一つ。
磨き上げられた技術によって生み出される高速の剣戟。
桐音を貫かんとする槍は心臓、額、胸、両腕と狙いを変えてあたかも弾幕の如く放たれている。普通に目視するには難しい程の速さのはずだ。普通ならば捌き切れずにどれかを受けてしまい、その隙をついて一気に刺し貫かれていく事だろう。
だが桐音は全てを捌き、受け流している。両腕で操られる小太刀もまた普通に目視出来ない程の速さで操られ、自身に迫るその弾幕のダメージをゼロにする。
その上ですり足で距離を詰めようとしているのだが、武も同じように動いて距離の差を変えていない。
いつまでも変わらないこの硬直状態を崩すため、桐音は静かに呟いた。
「……迅気、纏」
瞬間、桐音に黒いオーラが纏われる。
それに気づいた武が動こうとした刹那、桐音の体が沈んだかと思うと一気に武の懐へと潜り込んでいた。沈んでいた体が伸びると同時に手にしている小太刀も武の胸へと伸びてくる。
が、引かれた槍がぐるんと回転して小太刀を弾き、続けて「迅気、纏」と武も呟けば彼にも黒いオーラが纏われた。小太刀を弾いた槍を更に回転させながら桐音の足元を払いつつ距離を取るように下がる。
それに取られないように桐音が動き、距離を詰めるが武は一瞬のうちに廃墟の後ろへと回り込んで消えた。
隠れるとはどういうつもりだ、と感じるが、奥から聞こえた「風牙気、収束」という言葉に気づき、背後にいる瑠璃達へと「あんたたち、逃げなっ! あるいは防御体勢をとれぇ!」と叫んだ。
それに驚く瑠璃だったが、茉莉は何かを感じ取ったようで「瑠璃、下がりますよ!」と叫ぶ。だがそれより早く十兵衛が動き、二人の間に入ると背後に札を数枚投げて「障壁展開」と告げながら二人を抱え上げる。
それにまた驚く瑠璃をよそに、地を蹴って一気に走り出した。
「槍術奥義が一、暴風!」
巻き起こるのは渦を巻く風。廃墟を崩し、瓦礫と砂と雑草を巻き上げて桐音だけでなく、その背後にいた瑠璃達をも牙を剥くそれはまさしく暴風。無慈悲なるその風は、身を切り裂く竜巻だけでなく巻き込んだ瓦礫をも攻撃となって襲い掛かってくる。
それを舌打ちして桐音は横を駆け抜ける。ボロボロになってしまった廃墟は暴風によって完全に崩壊、あの渦巻く風の中で悲鳴を上げながら空中で無理やり踊らされていた。
あれを作り上げている武は槍を回転させ続けており、桐音が側面を走り抜けているのを見越して一度回転を止め、そうすれば巻き上げられていた物が一度停滞したように空中に留まる。
「おらぁっ!」
それらを吹き飛ばすかのように、槍を強く薙ぎ払えば先端を渦巻く風もそれに従って断空する。振るわれる風の刃は槍のリーチを越え、離れたところにいる桐音だけでなく瓦礫をも切断しながら強い風によって吹き飛ぶ。
が、桐音は見えない刃である風を見切っていた。
振るわれる槍の軌跡とそれを渦巻く風の動きを見据え、跳ぶ。
空気すらも斬る刃を飛び越え、吹き荒れた細かくなり始める瓦礫の残骸が桐音に襲い掛かるが、ガンキンSシリーズを纏っているためどうという事はなかった。
「……とんでもねえッスね」
二人を抱え上げて距離をとった十兵衛は肩越しにあの二人を振り返る。仮面の奥から光る瞳はじっとあの戦いを見据え、ローブの中に手を入れてまた札の準備をしていた。
「……いや、あんただってとんでもないわよ。あたし達を抱え上げられるなんて、どれだけ力が……」
「意外ですね。……いえ、そうでもないのでしょうか。ヘビィ使いな上にディアブロUシリーズを身に付けているのですから」
「まあ、そうッスね。……なんスか? おいらが力があるってのがそんなに意外ッスか? おいらだってハンターッスからね、体くらい鍛えてるッスよ?」
瑠璃と茉莉だけでなく彼女らが身に着けている装備の重量があるというのに、それを片手で抱え上げて疾走。剣士タイプならばそれをこなしても特に違和感はないが、ガンナーである彼がこれだけの力を保有している。
その防具の下には華奢にも見える体がある。とはいえ鍛えられている、とは感じられるのだが、これほどのものとは思わなかった。
「それにしても……とんでもない戦いッスね。めちゃくちゃじゃないッスか」
桐音は再び武へと迫り、今度は懐に入り込んで斬りかかっている。彼女は今、先ほど以上に黒いオーラを纏い、それは手にしている小太刀にも纏われている。元々発揮されていた淡い光は漆黒のオーラに隠されているが、微かにその名残を見せている。
懐に入り込めば小太刀に分がある。長い得物である槍は近距離戦では少々扱いづらい。
突きは距離があってこそ力を発揮する。近距離では小突くか柄や石突きで対処するしかない。
振るわれる小太刀を柄で捌きながら武は静かに「迅気、纏。角気、収束……纏」と続けて呟いた。その上で武は更に距離を取るように動き、槍を回転、振るって小太刀を弾きながら隙を窺った。
更に槍には黄土色のオーラが纏われ、小太刀が当たる度に先ほど以上の手ごたえが感じられた。弾かれる音も変化していることから、槍に纏ったオーラが槍の強度を上げているのだろう。
「……轟気、纏。氷牙気、収束」
纏われた漆黒のオーラが消え、今度はオレンジ色のオーラが桐音に纏われる。続けて小太刀には白い冷気にも似たオーラが纏われた。それに気づくと、武は小さく舌打ちする。
「氷牙気、か。どうやら姉貴も新たなものを発現させたらしい」
「お前こそ、風牙気をあそこまで扱うとは……でも無差別ってのは変わってないらしいな?」
「くっく、あれで死ぬんだったら別に気にする事でもないだろ? そこらの奴らに気を回す程、姉貴は器用だったか? それに死ぬんだったらそれでいいだろうに。オレが、その血を有効に利用するまでよ」
「……クズが」
ギリッ、と歯を噛みしめれば桐音が纏っているオレンジ色のオーラが彼女の感情を表すかのように荒々しく揺れ、炎のように燃え上がる。ピリピリと空気が震えだし、獣か竜の唸り声が聞こえてきそうだった。
そんな彼女を見た武はまた「くっく」と小さく笑い、槍の先端を桐音ではなく桐音から立ち上るオーラを示した。
「ホント、姉貴には轟気がよく似合う。迅気も昔から結構使っているけど、やっぱりここ一番じゃ轟気だよな? 姉貴の感情に合わせて揺らめくそのオーラ、オレは結構好きだったよ」
「……はっ、てめぇに好かれても何にも嬉しくないねぇ。むしろ殺したいよ」
「だろうな、うん、わかってたよ。そしてオレはオレで迅気だ。早さを求めるオレには迅気がよく合ったよなぁ。……で、今回姉貴たちはナルガを相手にしていたわけだが、これ、回収してないよな?」
そう言いながら懐から取り出したのは瞳だった。死してなおそれには眼力が宿っているようで、瞳が桐音に向けられるとまるでナルガクルガに睨まれているかのようだ。
これを武は指で弄り、転がすようにしたかと思うと、ぐっと握りしめる。するとそこから強い気が発せられ、黒いオーラが煙のように立ち上りだした。それに気づいた桐音だが、今もなお吹く風に乗せられた黒いオーラの奔流に飲み込まれた事で踏み込めない。
そうして稼いだ時間で武はこの瞳から得た力を味方にする。
「瞳には力が宿る。この迅竜の瞳もまた同様。十分にオレの迅気を高めてくれるぜ。それが、これだ!」
迅竜の瞳から高められたオーラは武が纏っている漆黒のオーラと同調し、先ほど以上のオーラへと変貌する。その結果、オーラは変質し、何かを形作っていく。
「……っ!? なに、あれ……?」
「これはこれは……やはり草薙の技術というのはああいうものだというわけですね」
「…………興味深いッスね」
武の背後に集まった漆黒のオーラは一頭のナルガクルガを形作った。実体ではなくオーラという揺らめく存在ではあるが、ナルガクルガが幻影のように武の背後に控える。
はっきりとした姿で存在していないが、その輪郭、放つ雰囲気からしてナルガクルガであるとわかる。
「迅気……すなわち迅竜の気、という意味でしょう。オーラの色合いにそれによって得られる特色。ナルガクルガのものではないかと思ってましたけど、確かなものでしたね。という事は今桐音さんが纏っている轟気の正体は――ティガレックス」
じっと様子を見守っていた茉莉がそう分析する。
それは当たっているだろう。迅気がナルガクルガの特色、速さを上げるためのものならば、轟気の特色は力を底上げするためのもの。同時に雰囲気が荒々しい獣のようなものを感じられる。
ならば轟竜ティガレックスのオーラだと推測できる。
気の名前の共通点としては飛竜らの通称だろう。それを抜き取って名称としている。
となれば他のものらも同様に推測可能だ。
「氷牙気はベリオロス、風牙気はベリオロス亜種……ってところッスね。ナルガと戦っている時に使った火気はたぶんリオレウスあたりじゃないッスかね」
「でしょうね。しかし、素材から気を抽出して己の力とする……そんな技術があるとは、おもしろいですね」
「でも、あれほどのもの……扱いきれるわけ? ここまで届く程の覇気になってるけど、あれを一介の人間が扱いきれるとは思えないんだけど……ん、くっ……!?」
放出される殺気とナルガクルガの気の奔流が、十数メートルまで離れている三人の下まで襲い掛かってくる。叩きつけられる力は三人の気を侵してきそうなほどに鋭く、まるで刃のよう。
気を緩めれば屈服しそうな程で、何とかそれに飲み込まれないように腕で顔を庇ってしまう。
するとさりげなく桐音が懐から何かの爪らしきものを取り出して腰に下げながら三人の前へと回り込み、纏っている轟気の出力を上げていく。そうすれば彼女の背後に立ち上っているオレンジ色のオーラが更に変化していき、少しずつ竜を形作っていった。
それは三人が想定した通り、ティガレックスの輪郭が確認できた。震える空気は奴の唸り声にも聞こえる。ましてやそうして正面から相対し、ティガレックスの幻影を形作ればお互いが放ちあう殺気がぶつかり合うのは必至。
ピリピリとした空気は周りの地面をひび割れ、瓦礫が音を立てて転がっていく。
睨み合う桐音と武、ティガレックスとナルガクルガ。
それだけではない。お互いの武器にもオーラが纏われているのだ。
二頭のように姿を見せていないが、これらにも飛竜の力が潜んでいる。小太刀に宿る氷牙気はベリオロス、槍に宿る角気は――ディアブロス。オーラ同士の相性でいえば、氷属性を弱点とするディアブロスが分が悪い。
しかしそれは属性的な意味で、だ。ある程度弱点の影響はあるが、体に纏うのではなく武器に纏わせているので特に大きな問題はない。が、それでも弱点属性を相手にするとどうしても警戒してしまう。
槍を回転させて構えなおし、じっと睨みを利かせながら距離を少しずつ離しつつ先端を桐音の心臓に合わせていく。桐音もまたティガレックスの影を背負いながら小太刀を構えて少しずつ接近する。
狙うのは決定打を打ち込む隙。
こうまでの力を背負い、武器にも強い力を纏わせ、必殺の一撃を放つ隙。
『…………』
冷たい風が二人の髪を撫でていった。
緊迫した空気の中、二人は不動のまま睨み合い続ける。
○
森を駆けるそれは血の匂いに誘われていた。鼻をくすぐる甘美な匂いはそれをここまで誘ってくれる。森の木々を掻い潜り、しかし枝木をその巨体で薙ぎ倒していき、大地を踏みしめて突き進む。
この空腹を癒してくれる血の持ち主の下へと向かうために。
そうして森を突き抜けたそれは辺りを見回してみる。すると離れたところに黒い影が横たわっているのが見えた。
見つけた。
それは少し足早に黒い物体へと近づいていく。ただの肉塊へと成り果ててからそんなに時間は経っていない。まだ新鮮味があるその肉に、毛と鱗を纏めて喰らいついていく。所々欠けた部分があるようだが、そんな事はどうでもいい。
それの考える事はただ一つ。
この腹を満たしてくれる糧を搾取する事だけだ。
口から血を滴らせながらただただ肉を喰らい、そうしてしばらくすれば肉片一つ残らない程までに喰らってしまった。全てはそれの胃袋へと収まる。
だが、満たされない。
こんなものでは満たされない。鼻をひくつかせれば、近くからも別の血の匂いが感じられた。どうやらまた別の死体があるらしい。
それはそちらに向かってまた走り出す。
次こそは腹を満たしてくれるだろうかと少しの期待をしながら。
○
睨み合ってからどれだけの時間が経っただろうか。五分だったかもしれないし、十分だったのかもしれない。もしかするとそれ以上だったのかもしれない。
時間の感覚が狂う程に緊迫した空気。それは離れたところで見守っている瑠璃達三人も同じだった。息をする事も忘れる程の空気を肌でも感じられる。
瑠璃はごくりと唾を飲み、茉莉も少し顔をこわばらせ始めていた。桐音のおかげで直接的に殺気をぶつけられる事はないが、それでもなおひしひしと感じられるその殺気に体は緊張して硬直してしまいそうだ。
「…………動くッスよ」
ふと、十兵衛が呟いた。
それが事実であるというかのように、桐音と武が動いた。ナルガクルガの気を背負う武は一瞬の内に槍の間合いへと迫り、心臓を貫くように槍を突き出した。今までと同じ攻撃ではあるが、高められた速さによる突きは最早奥義の域に達している。
しかも槍にはディアブロスの気が纏われているため単純な槍ではなく、対竜に作られた撃竜槍に近しい物だろう。それが高速で迫ってくるのだ、恐るべき物だろう。
だがそれを桐音は両手に持つ小太刀で――弾いた。
交差させた小太刀は刃を受け止め、横へと強引にずらしてしまったのだ。高速で繰り出された突きを見切ってしまった目も異常だが、力のみであの槍をずらしてしまうのも異常。
これも全てはティガレックスの気を背負っているが故に。力任せな防御により槍の軌道がずれ、自分は一気に懐へと踏み込む。が、それくらいは武も推測していた。弾かれた勢いで回転する柄を使って桐音の腹を打ち払ったのだ。
「……ッ!?」
「油断したな、姉貴? もらったぜ!」
呻いた桐音に笑みを浮かべ、首を刈るように弾かれた刃を引き戻して切り裂こうとした。
だが、桐音はにやりと笑みを浮かべてみせた。
左腕で槍の柄を受け止めて防ぎ、右手に持つ小太刀を武の胸へと突き出していった。槍は桐音の腕によって止められている。柄を使って防御する暇もない。決まったかと思われたその一撃だったが、武は小太刀を手づかみで受け止めてしまった。
「なっ……」
「……ふっ!」
驚く桐音の腹を蹴り飛ばして距離を取り、引き戻した槍を手にしようとしたが左手が自分の血で赤く染まっているのを見て小さく笑った。
軽く手を振って血を払い、「治癒功」と呟いてみれば左手に淡い光が集まって傷を癒していった。桐音もぺっ、と少量の血を吐きだし、口元を拭って武を睨む。
「……ん、剣術が一――」
「……槍術が一――」
呟きあった瞬間、桐音の小太刀に凄まじい冷気が放出された。白い煙が刀身、先端と伝わって噴射され、それに乗るように桐音は地を蹴った。
白い煙となった冷気は桐音の疾走の後に彗星の尾のように光の粒子が道に残される。だが少しずつ量が少なくなり、煙が晴れればそこには青と白が混じりあう小太刀の刀身が見えた。
「――
振るわれた小太刀を防ぐように数度刃が打ち合わされ、構えなおした槍を握りしめて姿勢を低くし、
「――天衝!」
そこから胸を穿つように放たれる槍。それは狙いこそ狂ったが桐音の胸を貫通したのだ。
槍の一撃はまさしくディアブロスの角に貫かれたかのような衝撃。その上で桐音もまた小太刀を武の胸へと突き刺していた。
しかし、
「がっ、は……」
口から先ほど以上の血が吐き出され、手にしている小太刀へと流れ落ちる。すると血に反応したのか小太刀を纏う光が更に光を放ち出し、付着した血を吸収し始める。そうして吸い込まれた血は刀身に沿うように動き、紋様を描き始めた。
「これは……ちっ、このまま落ち――」
「あたいがそんな……軟だと……っ、思ってんのかい!?」
右手で突き入れている小太刀から手を離して槍を掴み、左手に持つ小太刀で武の首へと突き出した。それを首を逸らして躱したのだが、小太刀から漏れる冷気が武の頬を凍らせていく。
外れたそれを横にずらして顔を切り裂こうとしたが、それよりも早く武が槍を持ち上げてやる。そうすれば当然ながら貫かれている桐音の体も浮き、振るわれた小太刀は武の顔を捉えられない。
しかも柄が桐音の中で動く事で彼女の表情が歪んでしまう。そんな彼女へと喰らいつくように再び武の背後に形を成したナルガクルガ。オーラによる奔流だが空気を震わせ切り裂くそれに飲み込まれれば致命傷だろう。
それから守るように桐音の背後に現れたティガレックスが前に出る。迫りくるナルガクルガを押しとどめ、桐音を守るかのようなティガレックスは桐音を刺し貫く槍をも切断しようとした。
しかし槍を纏うディアブロスのオーラがそれを許さない。その強度な甲殻をも再現するためそう簡単にはへし折れない。そうなる前に武は一度槍を握り直し、桐音を勢いよく放り投げるようにして槍をぶん回す。
傷口を抉られながら桐音の体が吹き飛び、受け身をとれずに地面を転がっていく。しかし武も小太刀で胸を貫かれているので全く無傷という訳でもない。それも小太刀に纏われていた冷気によって傷口が凍結している。
荒い息をついているところから見て彼もまた厳しい状態にある事がわかる。突き刺さっているそれを強引に抜き、横へと放り投げる。抜かれた瞬間血が噴き出る、ということはなく、凍ってしまっているが故にそれが止血になっているようだ。
「……やるねぇ、姉貴。なるほど、腕は落ちていないらしい。これに関してはオレは嬉しく思うねぇ……」
「はっ……てめぇこそ、鈍っちゃいねえらしい。……が、そろそろ終わるんじゃないのかい? 十分、抵抗しただろう?」
「くく、抵抗? それは姉貴だろう? オレの暴れ馬にかなりよがってんじゃねえか。そろそろ逝ったらどうだ、んん?」
「残念ながら、逝けないねぇ。こんなもんじゃあ足りねえよ。あたいを逝かせたいんだったら、もう少しテクを磨きな!」
お互い口から血を流している。その上で胸を貫かれている。普通ならば死んでもおかしくない状態だが、二人は自己治癒力を促進させて強引に傷を塞いでいた。
桐音は左手に持っている小太刀を右手に持ち変え、少し弄るように回転させて逆手に持ち変える。相変わらず刀身には彼女の血によって紋様が描かれている。眼前へと小太刀へと持っていき、また血を吐き出して付着させる。
そうすることでまた小太刀に新たな紋様が浮かび、淡く光る。
あれを見た十兵衛は、いつも桐音が携帯しているあの小太刀は彼女の血に反応する事で、秘められた力を目覚めさせていく代物なのだろうと推測した。つまり彼女のためだけに制作された二振りの小太刀なのだろう。
通常はただの小太刀だが、血を得る事で、あるいは気を纏う事で変化する、といったところか。
となると、武が手にしているあの槍も同様なのだろうか。
そう考えていると武が槍に向かって血を吹きつける。少量の血だがそれだけでも柄に血が這っていき、紋様を描いていく。
(……気だけでなく武器も特別製……か)
顎に手を添えて十兵衛は骸の中からじっと二人を見据える。見れば茉莉も同じようにじっと二人の武器を見つめており、その秘められた力を分析しようとしていた。
「どう見るッスか?」
「明らかに普通の武器ではないですね。しかも纏っている雰囲気が……一種の魔剣ですよ」
「やっぱ魔剣に見えるッスか……。いや、小太刀ッスから妖刀ッスかね?」
「ちょ、ちょっと……マジで? 魔剣とか妖刀とか……そういうのって物語の中の一品かと思ってたんだけど。あるいは遥か昔のものとか……」
「おやおや、一般人からすれば私達の使うハンター武器だって一種の魔剣ですよ?」
「ああ……うん、確かにそうね」
何せ使われているモンスターの素材によって、炎の剣になったり水の剣になったりと変化するのだ。一般に流通している武器らに比べれば異質であり、これらは魔剣と呼べる代物かもしれない。
だがあれは違う。
もしかしたらモンスターの素材を使っているかもしれない。でもそれでも何かが違うと言える。
「でもアレはそんなもんじゃないですね。血に反応して内部の力を解放していく。私達が使うハンター武器とは一線を画している代物です」
「あれ自体に術式が隠されているのか、作る段階で姉御の血を染み込ませながら何かをしたのか……それらが考えられる妖刀ッスよ」
「血を吸って力を増す刀って事ね……やばくない?」
「やばい……んでしょうが、桐音さんはいつもあれを携帯していますね。だからあれが桐音さんにとっての愛刀――――ッ!?」
そこまで話したところで茉莉が息をのむ。隣にいる十兵衛も骸の奥で微かに声を漏らしてしまった。そうしてすぐに桐音に向かって叫ぶ。
「姉御ぉッ! やばいッス! やばいもんがやって来たッス! すぐに逃げるッスよ!!」
切羽詰ったように叫ぶ十兵衛。
一体何事だ、と思ったが、すぐに桐音も悟った。対面にいる武も気づいたようだが、僅かに口元を笑みに変えながら振り返る。
それはエリア9の方からのっそりとやって来た。ずんずん、と鈍い振動を起こしながら巨体を揺らしつつ駆けてきながら鼻を動かしている。
かなりの巨体だ。一回の飛竜らよりも大きく感じるその体は濁った緑色に染まり、長い尻尾には短く生える棘が見られる。その頭部は巨大で大きく裂けた口が確認され、顎には棘が多く確認されるが、その手は体躯に比べてかなり小さく見える。
ぐるり、と辺りを見回し、離れたところにいる桐音達を確認した瞬間、どんっ! と強く足踏みすると大きく息を吸いこみ、天を仰ぎながらエリアに響き渡る程の咆哮を上げた。
恐暴竜イビルジョー。
獣竜種の中でも特に危険な存在が一体どうしてここに? と思うまでもなく、イビルジョーはずんずんと音を立てながらこちらへと接近してくる。それを見た武は「あーあ、空気読まねえ奴だな……いや、あえて空気読まなかったとでも言うんかね……」とぶつぶつ呟きながら大きく背後へと跳び、纏めているローブを広げて中に手を突っ込んだ。
その間に十兵衛が急いで桐音の下へと駆け寄っていく。桐音も離れたところにある小太刀を呼ぶように短く「来い、朝凪」と告げれば小太刀が反応して桐音の手元へと飛来する。
それを広げたローブの中へと納めた時にはイビルジョーはすぐそこまで迫ってきていた。裂けた口が大きく開かれ、血や肉を喰らった異臭を漂わせながら二人へと噛みついてくる。
「くっ……!」
桐音の腕を引っ張って十兵衛が跳び、先ほどまで二人が立っていた場所がイビルジョーの首が通過していく。何とか受け身を取ってすぐに起き上り、二人は走り出すのだが桐音が胸を押さえながら少し呻いてしまう。
やはり武によって貫かれた部分が痛むらしい。普通なら死んでもおかしくない負傷だったので仕方がない。この状態で走らせるのは辛いだろうが、それでも走らなければ死ぬ。
「ヴォルルルルル……!」
唸り声を上げながらイビルジョーが桐音達と武を交互に見る。そうして選んだのは多くの獲物がいる桐音達の方だった。それを見届けた武は低く笑った。
「ま、いいさ。今回はこれくらいにしておこう。次に会う時を楽しみにしてるぜぇ、姉貴!」
最初は呟き、後半は桐音へと聞こえるように声を張り上げて叫び、武はローブを翻して走り去っていく。声に反応した桐音が舌打ちしながら去っていく武を見送り、イビルジョーもその声に反応してちらりとそちらを見てしまった。
そうして視界に映ったのは武が放り投げた一つの玉。それが破裂して強い光を発生させ、イビルジョーはそれによって視界を潰されてしまう。悲鳴を上げて仰け反ってしまい、潰された視界の中で無差別に暴れ出すイビルジョー。
そんな様子を肩越しに見ながら桐音はまた舌打ちした。
(はっ……ここで死んでもらっちゃ困るってか? 余計な事をしやがって……)
あの愚弟に助けられるなんて虫唾が走る思いだが、しかしここはそれに甘んじるしかない。
(いいぜ、次に会ったときには必ず屈服させてやるよ。あたいを生かした事を後悔させるくらいにな……! この貸し、高くつくぜ、愚弟……っ!)
心の中で悪態をつきながら桐音は歯を食いしばる。肩を貸してくれている十兵衛について走り、合流した瑠璃と茉莉がイビルジョーの様子を確認し、危険はないことを見越して四人はエリア4を後にした。
そうして一行はベースキャンプへと戻り、早急に竜車の準備を進めて渓流を後にしたのだった。
後に分かった事だが、今回の討伐対象になったナルガクルガとナルガクルガ亜種の死体はどこにもなく、あのイビルジョーが骨まで全て喰らってしまったらしい。
そしてそのイビルジョーはしばらく渓流を彷徨った後、何処かへと消えていったそうだ。
武も同様で足取りは掴めず、彼が残した言葉の意味も不明のままだった。
クエストは達成したが、どこか後味が悪いものになってしまった。
○
ユクモ村を後にした
数か月にも及ぶ遠征で各地を巡り、新たな経験を積んできた三人はいよいよ拠点であるモガの村へと帰還する。
村にいる若手の二人がその期間の間どれだけの狩りをしてきたのか気になるところだし、自分達の土産話も彼らは期待しているだろう。そう考えると自然とアプトルを急かせてしまいそうだ。
「それにしてもまさかあそこで桐音に会うとはネ。どれくらいぶりになるんだったっけネ」
「……だいたい一年ぶり、といったところですか」
「おお、それくらいになるかネ。うんうん、懐かしいネ」
懐かしさに目を細め……いや、彼の場合は元から糸目なので関係ない。並走している蓮華もどこか懐かしそうにしているが、不意に何かを思いついたかのように少しだけ表情を変えたような気がした。
「桐音さんとは色々ありましたね」
「そうだネ。桐音と組んでいた時期も懐かしく感じるネ」
「本当に。色々あって思い出すのも――」
「キリがねぇ、とでも言うのかネ?」
「――――ボケを潰さないでください。つまらないじゃないですか」
どこか怒ったように顔をしかめながら非難するように飛燕を見つめる蓮華だが、彼は顎髭を軽く撫でながら困ったように笑うだけだ。
「いやいや、突然寒いダジャレを言われる方の身にもなってほしいネ」
「ンバンバ! 蓮華の寒いギャグにはワガハイも困ってるンバ」
「心外ですね。そんなに寒いのですか? 私のギャグはギャングも震え上がらせますよ?」
「感動じゃなくて寒くて震え上がると思うんだがネ。……あと、さりげなく混ぜたからってドヤ顔しないで欲しいネ。別に上手くないからネ?」
「……辛辣ですね」
眼鏡に指を添えて飛燕にはわかるドヤ顔をしていたようだが、厳しい言葉にどこかぶすっとしている様子を見せる。そんな様子に苦笑していた飛燕だったが、ふとその人のよさそうな顔を引き締め、前を見据えた。
蓮華も何かに気づいて真剣な表情になり、同じように前を見つめた。カヤンバはそんな二人の様子に首を傾げたようだが、道を進むにつれて何かに気づいたらしい。騎乗しているアプトルもただならぬ気配を感じ取ったのか落ち着きがなくなっている。
そうしてやってきたのは森の中で少し開けた場所。
そこにあったのは数人の遺体とそれを見下ろす誰かだった。
「……っ、何者かネ!?」
息を飲んだ飛燕だったが、声をかけずにはいられなかったのだろう。それだけその現場は異質だった。
噴き出した鮮血によって地面と草むらは赤く染まり、返り血を浴びたのかその何者かの服装も赤く染まっている。ローブと繋がっているフードを被っているため顔は見えないが、そこまで血が飛び散るほど勢いが強かったのだろう。
手にしている刀も赤く染まり、ぽたり、ぽたりと血が滴り落ちている。
「……んん? あぁ……また新しい奴が来たんだ。ふーん、多少は出来る……ね?」
ぶつぶつと呟いていたが、「ね?」の部分で顔を上げ、そのフードの奥にある真紅の瞳が飛燕らを見つめた瞬間、度し難い程の冷たい空気を感じ取った。何故かはわからない。ただ本能から来るほどの恐怖を感じ取ってしまった。
「ンバッ、ンバアアァァァ!?」
アプトルがそれによって暴れ出し、その揺らめきによってカヤンバが落ちそうになったため蓮華が慌てて抱え上げる。その隙をついて何者かが血を蹴って接近してくる。
「ちぃ……! 蓮華、逃げるのネ! ここはわたしが引き付けておく!」
飛燕がアプトルから飛び降りてローブを翻して中へと手を入れ、取り出した剣で迎え撃っていく。刀と剣がぶつかり合い、甲高い音を立てて森に響き渡る。
それを見つめていた蓮華だったが、ぎゅっと唇を噛みしめ、「……すみません」と謝罪してアプトルを走らせる。
「ンバ!? 飛燕を置いていくンバ!?」
「…………彼を、信じましょう。私達は伝えなければなりません。あれは世間を騒がせている、辻斬りだという事を……!」
あの惨状、遺体となっているのは全て武人だった。手にしている武器、出で立ちから推測でき、そしてあれは現場へとやって来た自分達を口封じに殺してくるだろう。
それにあの声、恐らく若い女である事がわかった。フードに隠れて素顔は見えないが、声から推測できる。それを裏付けるように体格もある程度計れたのも大きい。フードで隠しているが翻った瞬間に見えたあの着物で推測可能だった。
それらを伝える。
それが自分の役割だ。
苦い感情を抑えて蓮華はただアプトルの手綱を引いて森を駆け抜けるしかなかった。
一方現場に残った飛燕は戦慄していた。
目の前にいる辻斬りとも割れる人物。じっとフードの下から観察するような視線を向けてきているが、全く隙が見えなかった。これほどの実力者が辻斬り? 一体どういう事なのか、と疑問が頭を埋めていく。
しかしやらなければ自分は生き残れない。
ここで食い止めなければ彼女は蓮華達を追うだろう。この現場を目撃した自分達を生かしておかないはずだ。
それまでの時間稼ぎを。飛燕は斬りこむ隙を窺う。
そうしていると彼女は首を傾げて静かに問いかけてきた。
「……生きたい?」
「……なんだって?」
「生きたい、と訊いてみている」
「……願えるなら、生きたいネ。生かして、くれるのかネ?」
一応答えながらすり足で少しずつ移動してみるが、彼女は小さく笑って見せた。そうしてうんうん、と頷くとどういうわけか刀に付着している血を舐めながら何かを呟いた。すると刀身に付着している血が刀身へと染み込んでいくではないか。
しばらくすると淡く赤い光が浮かび、紋様を作り上げて消えていった。そのまま刀をローブの中へとしまってしまう。
見逃すというのか?
そう考えたのも一瞬。彼女はフードの奥からじっと飛燕を見つめたかと思うと、とびっきりの笑顔を見せながら、
「――ダメ」
と告げた。
両手を広げれば赤い粒子が集まって彼女の両腕に
「ッ!?」
嫌な気配を感じて剣を構えた瞬間、死角から伸びてきた爪が彼の首を狙っていた。何とか剣が爪の間に差し込まれて防いだのだが、もう片方の
何とか後ろに下がってやりすごしたのだが、胸を掠めていくだけで服が切れ、皮が薄く斬れていく。その爪の鋭さに驚く間もなく回し蹴りが飛燕の頬を捉えて吹き飛ばされる。
無様に地面を転がったが何とか起き上り、彼女を睨もうとしたのだがもうそこにはいない。横を見れば両手を後ろに下げながら飛燕へと疾走してきているのが見えた。
それを防ぐように剣を構えて気刃を放つ。地を走るそれは一瞬で彼女の下へと到達したのだが、それがどうしたとばかりに軽く躱される。
「……旋風」
その際に体を捻った事を利用して両手にある鉄甲爪からつむじ風らしきものが放たれ、飛燕へと襲い掛かっていく。飛燕に迫る度に地面を削っていくそれは触れれば危険なものだと容易にわかる。
それから逃れるべく横に跳んだが、それを狙い澄ましたかのように彼女は前に飛びながら前転しつつ迫ってくる。その度に構えた鉄甲爪が空を切りながら迫ってくるのだ。
呻きながら剣を構えつつ気を込めるのだが、防御を強引に切り崩してくるかのように何度も何度も鉄甲爪が剣を削っていき、彼女の重さも加わって飛燕は少しずつ膝を折っていく。
それを見越して剣を蹴って少し浮いた彼女は宙に舞う。その際にフードが取れ、その下から現れたのは――赤い髪を揺らしながらにたり、と笑う女性の顔だった。
「……じゃあね? つまんない戦いを、ありがとう」
それが、飛燕が最期に聞いた言葉だった。
ぽたり、と鉄甲爪から血が流れ落ちる。傍らには頭から鋭い爪で切り裂かれたかのような死体が転がり落ちていた。彼女はその流れ落ちる血を舐めとりながら首を左右に揺らしている。
「……つまらないなぁ、もう少し楽しめる奴はいないのかな」
呟きつつ体に付着した血を空中に滑らせた指に従って魔力が動いて取り払っていき、それを空中に集める。両手にあった鉄甲爪は粒子へと還元し、またあの刀を取り出して留めてあった血をその刀身へと付着させた。
またしても赤い光が浮かび上がり、そして静かに消えていく。
その刀身を見つめて彼女はやれやれとため息をつく。
「やっぱり人の血では足りない、という事か。いや……強さが足りない? ……まあ、いいや。だったら竜もこれで斬っていくしかないか」
とんとん、と軽く刀身を叩いて見ながらそう呟き、またローブの中へと納めていく。そういえば逃げていったあのアプトルと騎乗していた奴らはどうしようか、と考えたまでは良かったが、元来の彼女のめんどくさがりが発動してしまい、彼女は欠伸を一つついてしまう。
そうして酒瓶を取り出すとそれをラッパ飲みしながら歩き出す。
「んく……ぷはぁ、帰るか。刹もそろそろ来ているだろうし。少しつきあってもらおうか」
頭に浮かんだ一人の女性の事を考えつつ、合流地点で再会したら彼女と遊んでみようと胸を躍らせてみる。彼女ならば楽しく遊んで時間を潰せるかもしれない。この退屈な日々に潤いが出るだろう。
そんな事を考えていたが、不意にもう一人の事も思い出された。
「そういえば凪はどこに行ったんだったっけ? ……一人で行動して……リオ夫婦を狩って……うーん、ま、いいか。どうせ一人で楽しんでるんだろうし、んくんく……」
にやにやといけ好かない笑みを浮かべてよく独り言をぶつぶつと呟いている少年の事が頭によぎったが、すぐにどこかへと放り投げる事にした。あいつは結構強いがどこか好かない、気に入らない、と彼女は思っていたのだ。
それにあいつだって彼女が手にしているような槍と剣を持っていた。そして同じような目的を持っている。そんな似た者同士と性格の不一致から彼女はその凪という人物があまり好きじゃなかった。
もう一度、刹という女性の事を考え、それを肴に酒を飲みながら、彼女は森の中へと消えていった。