集いし者たちと白き龍   作:流星彗

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4話

 

 

 草薙桐音(くさなぎきりね)、そう名乗った彼女は視線をクエストボードへと向け、ギルドカードを懐に戻すと親指を立ててクエストボードを示して見せる。

 恐らくあの依頼を示しているのだというのはわかる。そして彼女がハンターだと名乗った事。それらを合わせて考えてみると、彼女が二人に声を掛けた理由は何となく推察する事が出来る。

 

「それで、さっきの話聞こえていたけど、あれについて話していたって事でいい?」

「……そうね。チャナガブルがいるって聞いてないって事を訊いていたわけだけど」

「で、二頭討伐になった事で考え込んでいるってわけだろ? 二人で行けるかどうか、とかそんなところか」

「そうですね。……まあ、ずばりいきましょう。あなたもあのクエストを受注しようと考えているということでよろしいですかね?」

「ああ、そうさ。……だがあたいもたった一人で行こう、なんて馬鹿な事は考えちゃいねえ。他にも参加する奴がいねえもんかと待っていたら、どういうわけかだぁれも参加しない。まったく、ここにいる野郎どもはタマナシか、おい? どいつもこいつもチキンばかりじゃねえか」

 

 やれやれと首を振りながらもその眼差しと言葉はここにいるハンター達を非難していた。ハンター達は全て男性であり、女性はこの三人のみ。つまりあのクエストに参加しようとしているのは女性のみであり、他のメンツ……すなわち男性全てあれを避けているという事になる。

 桐音がチキンと言うのも無理はないだろう。

 だがチーム戦とはいえ、二頭討伐クエストは通常のクエストよりも難易度が上がるのも事実。同じ種類であろうがなかろうが、二頭のモンスターが同時に狩猟場に確認されているクエストは難しいというのがハンター達の間で知られている。

 それはやはり同じエリアに二頭の大型モンスターが現れた場合、どちらにも意識を向けていないといけないという点があるからだろう。そうしなければ一頭に集中している時に横から、あるいは背後から攻撃を受けて致命傷を受けたとなれば死の危険性がある。

 故に二頭討伐クエストを避けるというハンターは決して臆病者、と蔑まれるいわれはない。命を大事に、それは何も間違ってはいないのだから。

 だが一般人も街道を利用できないという状況、このクエストに参加表明を出しているのが女性のみというこの状況。参加表明を出していない男達が非難されるというのは、ちょっと彼らがかわいそうかもしれない。

 

「ここにいるのはチキンばかりでこれじゃクエストどころじゃねえってところに、ようやくあんたらがやって来たってわけさ。見たところ、結構腕が立つだろう? どうだい? あたいと組まないか?」

 

 にっと笑みを浮かべながらそっと手を差し伸べる。

 その手、続いて桐音の表情と視線を上げて観察してみる。怪しいところはないように見える。彼女は本当にあのクエストを行うための仲間を募っているようだ。

 そして二人を見て出来るハンターだと感じられるだけの目と感性もある。

 二人もまた同じように桐音を観察する事でその実力を読み取ってみる事にした。帯刀している小太刀から感じられる力からして、それはハンターが使う武器らしい事がわかる。……それにしては素材はモンスターらしきものは見当たらないし、カタログでも見かけないものなのだがどういうことだろうか。

 その佇まいに隙らしいものは見当たらず、なるほど戦闘面ではまったく問題はないだろう。耳などを見てみると彼女は人間である事がわかるが、その発せられる気はただものではない事もわかる。

 たぶん……タイマンで戦えばほぼ互角かもしれない。

 そう思わせる程の強さを感じる。

 

「……いいでしょう。よろしくお願いします」

「茉莉、いいの?」

「私は構いませんよ。それに人手が欲しいというのは事実ですからね。瑠璃もそれはわかっているでしょう?」

「そりゃそうだけど……」

 

 渋りながら横目で桐音の顔を窺い見る。彼女とて頭ではもう一人は仲間が必要だという事はわかっている。しかし、この桐音という女性をそう易々と受け入れる程彼女は大人しくはない。

 まだ警戒心を剥きだしにしているのは、桐音のその笑みや雰囲気に思うところがあるからだろう。瑠璃の心情は桐音も何となく感じ取ったらしく、苦笑しながら軽く頭を掻いてみせる。

 

「ああ、あたいがこんななのは昔からの性分でね。そこは勘弁してくれ」

「……そう」

「で、どうだい? あたいとしては仲良くやっていこうかと考えてるんだけどね」

「…………」

 

 相変わらず差し出されている手。それをじっと見つめ、

 

(……ま、今回だけの付き合いよね)

 

 緊急事態であるが故に一時的に組む相手、と考える事で今回だけの付き合いとする。どこか気に入らない相手ではあるが、我慢してやろうと自分に言い聞かせ、瑠璃はその手を取った。

 

「よろしく頼むわ」

「ああ。よろしく頼むぜ。……そういえば、まだ名前を聞いていなかったな。なんていうんだ?」

「あたしは瑠璃・フレアウイング。で、こっちが妹の」

「茉莉・フレアウイングです。以後、よろしくです」

 

 こうして三人は一時的なチームとなった。

 

 受付嬢に依頼書を持っていき、それぞれサインをして判が押されると依頼の受注が完了される。それからはそれぞれ一旦宿に向かう事になった。桐音はハンター装備に着替えなければならないし、瑠璃と茉莉も宿を取って一時的な拠点を得なければならない。

 二人で利用するための部屋を取り、ローブからそれぞれ装備を取り出して着替え始める。

 さて、ここで改めて二人の装備を見てみる事にしよう。

 瑠璃が装備するのはナルガシリーズ。迅竜ナルガクルガの素材を使用した動きやすさを重視した装備である。その機動力を用いて戦う事を主体とする瑠璃にとって、ナルガシリーズは実に彼女にあっているといえよう。

 そして主要武器は昔と変わらず太刀であり、同じくナルガクルガの素材を使って作られたヒドゥンサーベルを使用している。

 一方茉莉が装備するのはレウスシリーズだ。雄火竜リオレウスの素材を使用し、火に対して高い守りを保有するだけでなく、スキルとして火属性の力が高まる効果も発現している。

 そして主要武器はランスとガンランスという重量級のものではあるが、彼女自身の高い筋力のおかげで難なく振るう事を可能としている。

 瑠璃が攻め、茉莉が守りつつ援護する。

 それが二人の戦い方だ。

 また二人が身につけている装備は、中央のドンドルマをはじめとする地域で作られるものではなく、この東方で作られる形のものだ。そのためその外観、発現するスキルに少々変化が見られる。

 数分して着替え終えた二人はローブを纏って部屋を出、先ほどの酒場へと向かっていく。そこには既に準備を終えたらしい桐音が待機していた。

 

「おー、待たせてしまいましたかね?」

「いや、そんな事はないさ。ほんの数分だけだよ」

 

 そう言う桐音の装備は何とも言えない装備だった。胸元や肩、へそが露出した軽装ながら、その色合いは少し紫がかった暗い黒に染まり、胸の上で血色に染まる爪のようなものが交差した装飾がしてある。

 頭を守るものはなく、紅色のサークレットがそこにあるだけだ。だがそのサークレットが力を持ち、頭部を守るための障壁を張ってくれている。一見装飾具のように見えるが、それも立派な防具なのだ。

 ネブラシリーズ。

 毒怪竜ギギネブラの素材を使用して作られた防具である。色合いからして怪しさ満点の代物だが、高い衝撃吸収能力を持ち、それがスキルに表れている。火にかなり弱いが、それと引き換えに雷と氷属性に強いのも特徴の一つだ。

 それに原種は怪しさ満点だが、瑠璃と茉莉の姉の主要防具はそのギギネブラの亜種、電怪竜の素材を使用したネブラUシリーズだ。あれなんて血色を主体とした色合いをしているため、あれこれ言う事は出来ないか。

 

「竜車の手配はしてあるぜ。必要な物は用意させてあるからそれぞれチェックしな」

「おー、どもども。すみませんね、こんな事まで」

「なに、いいって事よ。時間があったからちゃっちゃとやっただけの話さ」

 

 そう言いながらどうぞ、と言う風に竜車の中を示した。

 地域によってこれを引くモンスターは異なり、飼い慣らされたモンスター達によって荷車が引かれるという仕組みになっている。それを引くのはアプトノスか、ガーグァか、あるいはアプトルかポポかという違いがある。

 ここではアプトルが使われているようで、二頭のアプトルが手綱に繋がれている。

 瑠璃、茉莉と続いてそれに飛び乗り、中にある荷物を確認する。支給品ボックスに納品ボックス、そして水没林で狩猟するならば必要不可欠な装備もちゃんと揃っている。

 特に問題はなさそうだ。

 

「オーケーですね」

「そうかい。じゃあ出発してもいいかい?」

「いいわよ」

「よし、そんじゃ行くか。はっ!」

 

 手綱を操ってアプトルを走らせ、勢いよく竜車が道を走っていく。がたがたと音を立てながら車輪が回り、三人のハンターを乗せた竜車はアプトルの力によって一気に村を飛び出し、森の中へと消えていった。

 

 一時間近くアプトルが走り続け、一行はボルシオ水没林のベースキャンプへとやって来た。アプトルを休ませ、テントを設営するとモンスターが寄ってこないための薬を撒く。

 続いて竜車から支給品ボックスをおろし、中から携帯食料、応急薬、地図を取り出してそれぞれのポーチへと納める。

 続いて必要な物はこれだ。

 水没林は文字通り多くの木々が水に沈んでいる。それはすなわち陸地となる場所はほとんどないのだ。増水された川がエリアの大半を占め、それ故にここは水生のモンスターにとって暮らしやすい環境となっている。

 そんな彼らと戦おうと思えば、水中から陸上へと引き上げるぐらいしかハンターには戦う手段はなかった。他にあるとすればガンナーが遠距離から攻撃する方法があるが、それではちまちまとしかダメージを与えられず、時間がかかってしまう事が多い。

 また、水中でも行動できるように進化した魔族が挙げられるが、これは限定的な話であり、そんな彼らが表に出てくる事が稀なため期待できない。

 普通のハンター達でも水生のモンスターに対抗するためには、やはり奴らの領土に危険を冒してでも飛びこむしかなかった。

 そのための装備が近年遂に開発されたのだ。

 

「酸素瓶に水中メガネ、そして水竜の守り……っと」

 

 支給品ボックスからひょいひょいとそれらを取り出していき、装着していく三人。その中で水中メガネは瑠璃と茉莉は頭の防具に装着し、桐音はサークレットのためにそのまま頭に装着する。

 水中メガネはそのままの意味だ。水中でも問題なく視界を確保するための物で、ハンターの装備に合わせてパーツを変える事が出来るようになっている。

 基本的にはバイザーのような形状をしており、頭の防具に装着する事で上げ下げする事を可能としている。

 酸素瓶は中にサン草と呼ばれる植物を収めた瓶であり、そこからチューブが伸びて口と鼻を抑えるマスクに繋がっている。サン草は少しの光でも光合成を可能とし、更に生み出される酸素が普通の植物よりも多いため、このように利用されることになった。

 また深い海に潜水する際はこの酸素瓶とマスク、水中メガネを同一化させた用具が存在しており、こちらを利用しなければ危険という説明がなされている。

 最後に水竜の守り。これは一見宝石のように見えるが、水竜ガノトトスの素材をはじめとする水生のモンスター達の素材を使用し、その秘められた力を引き出して結晶化させたアクセサリーだ。

 これを身につける事で装備者の周囲に力が包み込み、水中でも陸上に近しい動きを可能とさせた。装備している防具の重さを軽減し、ある程度の水流にも耐えられる。つまり泳ぐ事が出来るならば防具をつけ、武器を手にしても問題なく移動できるだけの力を与えてくれる。

 これらの装備品があってこそ、ハンター達は水中でも戦う事を可能とする事出来るようになった。逆に言えば、これらがなければ水中で戦う事は自殺行為となる。防具の重さによって水中で移動する事も叶わず、酸素を取り込むことが不可能になって溺死するのがオチ。これが開発されたからこそ、人族の戦闘出来る領域が拡大することとなったのだ。

 それらを身につけ終えると、それぞれローブを脱いで中から今回使用する武器を取り出していく。

 瑠璃が取り出したのは一振りの剣だった。一見するとシンプルなロングソードに見えるが、これはダブルセイバーに属する武器の一種。良質の骨と火竜の素材を使い、高い火属性を内包させたその剣は、火竜剣【火燐(かりん)】。

 リオレウスとリオレイアの素材を使用し、両刃剣を二つ組み合わせたダブルセイバーとして瑠璃の姉、撫子が作り上げたのだ。上位に上がったお祝いの選別として彼女が打ち、見事に仕上げた一品であり、その強度や切れ味は上位のものに引けを取らない。

 ちなみに銘に火燐を用いたのは、母親の名前を入れてみたかったからだとか。製作者が姉で、銘に母親の名前を入れることで寂しくないように、というちょっとした心遣いらしい。

 柄の中心にあるギミックを使う事で畳めば両刃剣、広げれば柄を中心として左右に両刃剣が存在するダブルセイバーとなる。

 今回は太刀ではなくこれを使うようだ。

 一方茉莉は桐音が纏っているネブラシリーズに近しい禍々しさを感じさせる槍を取り出す。中心はククリに近しい刃で、その根元から小さく二つに分かれた刃が存在し、それらを纏める棍は細長い作りになっているランスだ。色合いは暗い黒と血色を使用し、大型のランスではなく対人戦で使うような槍に近しいそれはシャドウジャベリン改。

 ギギネブラの素材を使用し、奴の毒を内包したランスである。

 左手に盾を嵌め込み、取り出したそのシャドウジャベリン改を軽く手に馴染ませるように両手で回転させ、チャキッと音を立てて右手で構える。うん、と満足そうに頷くとそれを背負って固定した。

 最後に桐音が藍色のローブから取り出したのは重量を感じさせる武器だった。それを広げると斧になる。先端は球体になっており、そこから大小の刃が付き出している形になっている。

 球体は変形させると内蔵されている棘が射出され、それが剣の先端となる。それはまさに剣と言うよりはモーニングスターと呼ぶべきだろうが、それはツッコんではいけないお約束というものだ。

 斧と剣という二つのスタイルを切り替えて戦うという、ギミック武器の始祖であるスラッシュアックス。その一種であるこの武器の銘はヘビィディバイド。

 尾槌竜ドボルベルクと呼ばれる獣竜種のモンスターの素材を使用しており、高い威力を持つ武器の一つだ。

 しかし普段着には小太刀を帯びていたというのに、ハンターとしての武器がスラッシュアックスとは驚きだ。てっきり双剣使いかと思っていた二人は、少し意外そうな視線を桐音に向けてしまう。

 それに気づいた桐音は「ん?」と二人に振り返り、その視線がヘビィディバイドに向けられている事に気づくと「ああ、これ?」と軽く持ち上げてみせる。

 

「あたいは気ままに武器を作っては使ってきているってスタイルだからね。メインは察しの通りの双剣だけど、色々手を出してきてるんだよ。片手剣、双剣、太刀、大剣、スラッシュアックスにダブルセイバー……って具合にね。要は剣だったら何でもいいのさ」

「おー……器用なんですねー」

「まあ、昔から色々やってきたからっていうのもあるけどな。あたいと刃物は切っても切れないものだったって事よ」

 

 どこか愁いを帯びたような瞳をしながらそう呟き、ローブをテントの壁掛けに掛けて戻ってくる。そんな彼女にかける言葉が思いつかず、二人は彼女に続くように壁掛けにローブを掛けた。

 ローブの中から必要な物は既にポーチに移してある。また今回のクエストで使用する武器はもう選択した。それからがクエスト開始だ。

 その後にローブを着用する事は許されない。それはルール違反なのだから。

 許されるのは緊急事態のみ。例を挙げるならば古龍を確認した時か。

 そういう時ならばハンターはローブから他の武器を取り出して戦う事が出来る。古龍相手ならまだしも、普通の飛竜らを相手にする際にそれをやられてはハンターとして成長する事など出来ない。

 故にギルドはそのように制限をかけたのだ。

 

 各自、全ての準備を整えた。

 これから向かうのは一つの戦場。かのモンスター達にとっては楽園のような場所でも、足を踏み入れる者らにとっては厳しい戦場だ。

 しかし彼女達は臆すことなくその戦場へと向かっていく。

 

 今、戦場へと乙女たちが舞い降りた。

 

 エリア1に入ると木々の向こうから何かの鳴き声が聞こえてきた。それは三人を威嚇するような声であり、敵意が真っ直ぐにぶつけられてきている。

 水生獣ルドロス。

 水生モンスターの一角であり、ロアルドロスをリーダーとして群れで生活する存在だ。少しくすんだ緑色の体色をしており、その骨格や外見から見るとトカゲに近しいか。

 数は三頭。となれば一人一殺で十分だろう。

 

「ここで軽くお互いの実力を把握するためにあれ、一人ずつで殺らない?」

「奇遇だね、あたいも同じことを考えていたところさ。そんじゃ、軽く流していこうじゃないか!」

 

 そうして二人は同時に飛び出し、ぬかるんだ地面を駆け抜けていく。ばしゃばしゃと音を立てるはずの足音は極力抑えられており、微かな音しかたてていないがそれでも二人の疾走速度はなかなかのものだ。

 その後に続くようにやれやれと嘆息しながら茉莉も続き、背負っているシャドウジャベリン改に手を伸ばして構える。

 その頃にはもう既にあの二人はルドロスとの距離を縮め、己の武器の間合いに入り込んでいた。

 腰に帯刀している火竜剣【火燐】を抜き、向こうから噛みついてきたルドロスに向かって一振り。

 たったの一振りで十分だ。

 噛みつくために前のめりになったルドロスの首を、火竜剣【火燐】で焼き切る事で撥ね飛ばす。

 一方桐音はと言うと、背中に担ぐヘビィディバイドの柄に手をやり、飛びかかってきたルドロスに合わせて抜き放ち、ギミックを始動させて剣モードに切り替えていく。体を捻ってルドロスをやり過ごし、その頭へとスパイク球体で叩き落とす。

 ピンポイントに頭へと振り下ろされたそれはルドロスの頭蓋骨を打ち砕き、その一撃のもとに絶命させる。

 その鮮やかな攻撃に残った一匹は恐怖を感じ、少しずつ後ずさりしはじめる。だがそれを逃さず、瑠璃と桐音の背後から跳躍していた茉莉がシャドウジャベリン改を構えつつ振りかぶり、勢いをつけて投擲する。

 それは狙い狂わずルドロスの額を貫き、更に先端から染み出る毒もルドロスの頭から侵していき、その一撃だけでルドロスは絶命してしまう。

 結果、全員一撃必殺で終わらせてしまった。

 軽く武器を振って血を払い、鞘や背中に戻した三人は倒れ伏すルドロスの死体に剥ぎ取りナイフを入れて素材を剥ぎ取った。残った死体はそのままに隣のエリア2へと移動していく。

 森の中に南北に広がる広場となっており、ここもまた雨によってほとんどぬかるんでいる状態だ。ルドロス達の気配はなく、いるのは大型昆虫の一種であるオルタロスやブナハブラぐらいなものだった。

 彼らを刺激させないように、静かにその隣のエリア4へと移動していく事にする。強い気配はそのエリア4から感じられるのだ。

 まず間違いなく標的はエリア4にいるとみていいだろう。確実性を高める要素として、あの気配の周りには小さな気配が多く存在している。恐らくルドロスを囲んでいると思われる。

 

「前衛はあんたもやってるんだろう、瑠璃?」

「そうね。あたしが前に出て斬りこみ、茉莉が援護していく形を取ってるわよ」

「だろうな。あたいも前に出ていく主体だから被ってるってことになるか。……となると、どっちかが前衛、どっちかが遊撃という事になるわけだが、どうするよ?」

「……武器的にあんたのスラアクが前衛向きでしょうね。あたしが遊撃で斬りこむことにするわ」

 

 あの一瞬の出来事でお互いの実力は何となく把握した。ルドロスの飛びかかりを回避しつつの一撃。やはり出来る人物だという事がわかった数秒間。

 実力や戦い方が似通っているならば、武器の特徴を生かした位置取りを取るしかない。

 広げればリーチが伸び、また気刃を放つ事で一気に周囲を薙ぎ払う事を可能とするダブルセイバー。これで周囲のルドロス達を一気に始末していく事にする。

 そして桐音のヘビィディバイドを主体としてロアルドロスへとダメージを与えていく。時に瑠璃も、時に茉莉も加わって攻め立てていく、それが大まかな作戦となる。

 またここに来る途中にお互いが持っている道具についての確認もしてあり、それもあるからこそ桐音は二人の役割を何となく察知する事が出来たのだ。

 といっても二人の性格から考えても何となく推察できたという点もあるのだが。

 ゆっくりと足音を極力立てずにエリア4へと入り込み、木々の陰に身を隠してそっと奥の方に広がる大河の方を覗き見る。

 そこには一種の王国が存在していた。

 群れを成す姫君たちの数は十頭近く。各々リラックスした様子であり、眠っているもの、水に口をつけているもの、そして王に寄り添っているものと様々だ。

 その王国の中心には王がいる。

 スポンジ状の黄色いたてがみを纏い、堂々とその場に佇むそれはまるで愛でるようにその姫君たちを見守っている。

 あれこそが今回のターゲットの一つ。

 水獣ロアルドロスだ。

 彼らはまだ瑠璃達に気づいておらず、平穏な日常を過ごしている。だが彼らがこのボルシオ水没林の街道近くに存在している限り、ここを通り抜ける旅人に危険が及ぶ。

 ここから立ち去ってくれるならばいいのだが、この群れは数日ここに居座っている。だからこそこれ以上ここを封鎖させないためにもこのロアルドロスには退場してもらわねばならない。

 

「目標発見。さて、斬りこむタイミングを窺うとしようかね」

「そうね。瑠璃、大丈夫ね?」

「大丈夫です、問題ありません」

 

 ポーチから赤い笛を取り出し、腰に下げると続けてポーチから一つの玉を取り出して懐に入れる。その間に瑠璃は鞘に収めている火竜剣【火燐】に指を掛け、桐音も手を柄に掛けながらいつでも飛び出せる体勢に入っている。

 ロアルドロスの視線は少し瑠璃達の方へと向けられているが、まだ奴は彼女達に気づいていない。奴はただルドロスの様子を見守っているだけに過ぎない。

 飛び出す機会はただ一つ。

 

 奴の視線が向こう、大河側へと向けられた時だ。

 

「…………」

 

 静かな時間が過ぎていき、聞こえるのは風に揺れる木々のざわめきと大河の水の音。

 ロアルドロスは静かに見守り、ルドロス達はこの穏やかな時間を楽しむような声を漏らす。

 彼らにとっての平穏――それを壊すのは忍びないが、残念ながらその王国の平和を打ち砕いてくれよう。

 ロアルドロスの視線が動き、大河の方へと向けられた瞬間、弾丸が射出されたかのように桐音が勢いよく飛び出していく。それに続くように瑠璃もまた疾走を開始し、それぞれロアルドロスとそれを取り巻くルドロスへと距離を詰めていった。

 

「――っ!?」

 

 当然、突如現れた敵にロアルドロスが気づかないはずもなかった。すぐさま身構え、唸り声を上げるがそうする間に既に二人は己の武器の間合いまで詰めてしまっていた。

 

「はあっ!」

 

 振り抜かれたヘビィディバイドの刃がロアルドロスのたてがみを薙ぐように振り抜かれ、黄色いスポンジに赤が混じる。だがそれでとどまらず、滑りやすいぬかるみの地ではなく周りと比べてまだ固い部分に足を乗せて体を固定させ、振り抜いたヘビィディバイドを引き戻し、薙いだ部分と交差させるように振り下ろす。

 

「ギュォォォオオオオオオオオオオッ!!」

 

 噴き出す血を感じながら敵の侵入にロアルドロスが吼える。そのまま桐音へと爪を振り上げて叩き落とすが、バックステップを刻んでそれをやり過ごし、横から飛びかかってくるルドロスへと柄を突き上げて弾き返し、体を捻って首を刎ねる。

 向こうでは既に瑠璃が二頭は仕留めており、広げられた火竜剣【火燐】を勢いよく回転させて刃から炎を軽く噴き出させていた。

 背後からは茉莉が赤い笛、鬼人笛を吹き鳴らして特殊な粒子を発生させ、それは茉莉達へと浸透して活力を与えてくれる。

 十分に力がみなぎった事を感じると鬼人笛をポーチに戻し、茉莉もまた己の武器であるシャドウジャベリン改を構えた。

 各々位置についた瞬間、ヘビィディバイドの先端をロアルドロスに向けた桐音が不敵に笑みを浮かべてみせる。それはまさに獲物を前にした狩人であり、戦いに愉悦を見出す戦士の顔でもあった。

 

「さあ、狩りの時間だ。楽しませてもらおうかね!」

「ギュオオオオオオオオオオオオン!!」

 

 正面からメンチを切る桐音に、再びロアルドロスが吼える。

 今、水没林に戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

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