先手を取ったのはガンナーである十兵衛だ。装填した通常弾Lv2でジャブを放つ。それは狙い通りに頭へと吸い込まれていき、着弾するのだが当然大きなダメージにはならない。
しかし弱点部位である事は間違いなく、それは確かなジャブとなってブラキディオスにダメージを与えた。ブラキディオスは小さく唸り、そのまま両手を振り下ろしながら三人へと接近してくる。
先ほど唾液を吹きかけた事で両手の粘菌は活性化しており、地面に両手が叩きつけられるたびに地面に円形の粘着質の物体が設置されていく。当然それから逃れるように三人は横に散っていくが、ブラキディオスは逃げる三人を薙ぎ払うように尻尾を振るってきた。
それをやり過ごし、尻尾が向こうへと振るわれたのを見越して瑠璃が夜刀【月影】を抜き、足元へと潜り込んで斬りかかっていく。茉莉も角槍ディアブロスを抜いて盾を構えつつ前進。
もう一度振るわれた尻尾を盾で受け流しながら腕へと角槍ディアブロスを突き出してやる。それは腹付近に突き刺さるがまだまだ浅い。
向こうを見ていたブラキディオスはそれに反応し、振り返りながら左手を勢いよく振り下ろしてきた。
それを弾こうと考えたが、茉莉は一瞬の判断でそれをやり過ごすために横へと逃げる。すれすれに地面に打ち付けられる左手から粘液が地面に付着。もし盾で受け流せば盾に粘液が付着し、後々爆発するのではないかと判断したのだ。
だがブラキディオスは右手をフックのように振りかぶって茉莉へと追撃。それをバックステップで躱してやり過ごした。
続けて横にステップしながら下がってきた肩へと一撃、二撃と入れて離れる。
瑠璃もまた足元を狙って夜刀【月影】で斬りかかり、数度入れて離れていくというヒット&アウェイの戦法を使っている。
二人にとってブラキディオスは初見の相手だ。まずはその動きを把握するために立ち回っている。
十兵衛はというと離れた所で炎戈銃ブレイズヘルに通常弾Lv2を装填しては、ブラキディオスの頭へと撃ち続けている。背中を向ければ立ち位置を変えて尻尾を狙って撃つという方法で攻撃をしていた。
なぜそこを狙っているのかといえば、ブラキディオスにとってそこが弾でのダメージの弱点部位だという情報があるためだ。それを覚えている十兵衛は少しの攻撃で大きなダメージが見込めるであろうそこへと狙って撃っているという訳だ。
「ギイイィィ!」
唸りながら二人から距離を取りながら両手に唾を吐きつけていく。獣竜種であるため距離を取る動きも飛竜らと違って軽快に見える。
身構えながらどう動くのかを観察していると、背後から十兵衛が叫んだ。
「二人とも、跳んでくる可能性があるから気を付けるッス!」
「跳ぶ?」
瑠璃が疑問に感じながらブラキディオスの動きを見ていると、またブラキディオスが両手に唾を吐きつけながら下がっていき、足に力を入れながら腰を落としていった。
そのまま力を解放するように勢いよく跳躍して両手を叩きつけてきたではないか。注意していた瑠璃は素早く横へと逃げることで難を逃れたのだが、茉莉は逃げ切れずに盾を構えて防御する。
しかし襲い掛かってきた衝撃は凄まじく、叩きつけられた際に盾に少量の粘菌が付着してしまう。それに気づいてブラキディオスから離れようとしたのだが、それを追うようにブラキディオスもまた横に滑るように移動してきて茉莉にぴったりくっついてくる。
「くっ……!」
距離を離すように後ろへと跳んだが、前に一歩進みながら強く左腕を引いて叩きつけようとして来た。盾を構えて防御しようとしたが、「それはダメッスよ!」という声が聞こえた。
続くようにブラキディオスの頭に弾が着弾し、一間置いて爆発した。それに怯んだブラキディオスが後ろに後ずさっていくのを見、茉莉は更に距離を取るように後ろに跳びつつ盾を振って粘菌を振り払っていった。
そんな彼女へと十兵衛が近づき、炎戈銃ブレイズヘルに弾を込めながら話しかけていく。
「ブラキの粘菌は離れた粘菌とブラキの腕にある粘菌同士混ざり合った瞬間、爆発するッス。あのまま盾で受け止めていたら盾が爆発していたッス」
「……なんと」
「伝え遅れていて申し訳ないッス。とにかくブラキのあの粘菌は離れていけば活性化も落ち着くッス。その度にまたブラキが活性化させるッスが、落ち着いている状態ならば、盾で防御しても問題ないッス」
「気をつけましょう」
十兵衛の忠告を頭に入れ、茉莉は気を取り直してブラキディオスへと接近していく。
向こうでは瑠璃に向き直ったブラキディオスが両手を振るって彼女に襲い掛かっていくのだが、瑠璃もその動きが何となく見えてきたらしく夜刀【月影】を構えて立ち回っては隙を突くように斬りかかり、切っ先で突いている。
接近していく茉莉に気づいて視線を動かしたようだが、ブラキディオスはまた距離を取るように下がっていく。そうして一度身構えるとまた何度も地面を叩きながら走り出す。
瑠璃はその進路から逃げようとしたが、はっと息を飲んで背後の足元を見た。そこには瑠璃と立ちまわった際にブラキディオスがすかしたことで地面に設置された粘菌の地雷。
それは既に赤く染まっており、いつ爆発してもおかしくない状態にあった。
「チッ……!」
翼を広げて宙にあがりながら逃げ、そのすぐ後にそれが爆発する。地面を抉り、石を飛ばしたその爆発はまさしく地雷といってもいいものだった。あれを受けていればただでは済まないと思わせるには十分な威力を持っている。
そして瑠璃がさらに下がればブラキディオスは地面を殴りながら角を振るうようにし、宙にいる瑠璃を弾き飛ばそうとしている。
だが強く翼を羽ばたかせてそれから逃れ、ブラキディオスは背後へと通り過ぎていく。
奴の通り道には粘菌の地雷が設置され、時間を置いて次々と爆発していく。その度に石が舞い上がり、ぱらぱらと周囲に落ちていく。
立ち止まったブラキディオスへと茉莉が接近し、一突き入れるが、すぐに反応して尻尾を振るってきた。尻尾ならば問題なく盾で受け流せ、その隙を突いて更にもう一突き出来る。
今度は足へと突き入れてブラキディオスの転倒を狙ってみる。向こうでも瑠璃が転進して着地しながら横っ腹から足にかけて夜刀【月影】を振り下ろしていく。
離れた所には十兵衛が炎戈銃ブレイズヘルを構え、貫通弾Lv2を装填して頭から突き抜けるように照準を合わせて引き金を引いていた。
三人の位置取りは完全に三角形になっている。これを基本として立ち回るのが三人のやり方となった。
今までならば桐音が斬りこみ、それに続くように瑠璃が斬りこみ、茉莉は二人の邪魔にならぬように移動しつつ突いていく。十兵衛は弱点部位を狙うか、誰かを補佐するように背後に回って銃撃する、というものだった。
はっきりとした形はなく、状況と敵に応じて立ち位置を変える。そういうやり方だったのだ。
しかし桐音が抜けた今、ダメージソースを担うのは瑠璃となる。そんな彼女はただ斬りこみ、転倒や部位破壊を狙っていくのだ。茉莉はそんな彼女から反対側の位置に立って安定した攻守で着実にダメージを重ねる役割を務める。
十兵衛はそんな二人から離れ、二人の背後から援護するか、あるいは二人の後ろにつかず間周辺を立ち回って銃撃するという立ち位置だ。
そうして完成したトライアングルは確実にブラキディオスの体力を削っている。
それから逃れるために右手で地面をつきながら体を捻り、茉莉の背後に回ってからまたフックを仕掛けていく。
「なんという立ち回り……っ!?」
いきなり背後に回り込まれるなんてランサーにとっては厳しい動きだ。だが何とか振り返りながら盾で弾いたのだが、まだブラキディオスの左手には粘菌が付着したままだ。またしても盾に粘菌が移り、じくじくと音を立てながらゆっくりと赤へと変色していく。
「茉莉っ!」
すかさず瑠璃が疾走し、その勢いで翼を広げて飛び、高度を確保して滑空する事でブラキディオスへと急速接近する。十メートル以上もあった距離が一気に縮まり、茉莉へと追撃するように右手を振り上げるブラキディオスへと通り過ぎざまに斬り捨てていく。
そうして背後へと回り込めば急旋回。振り上げている右肩を狙って夜刀【月影】を突き入れてやった。
「ギャアアァァッ!?」
その痛みにたまらずブラキディオスは怯み、体を震わせて瑠璃を振り払おうとする。その隙を突いて茉莉が離れつつ盾を振ってまた粘菌を振り払っていく。十兵衛もブラキディオスへと接近し、側面から貫通弾を射出して腹を貫くようにした。
右手を振り上げ、頭突きをするようにして瑠璃へと反撃するブラキディオス。今度は急速落下をして地面に着地し、夜刀【月影】を勢いよく振り抜いて両足を切り裂く。
「これで……っ、落ちろぉッ!」
とどめとばかりに振り返りながら握り直した夜刀【月影】を振りおろし、ブラキディオスの左足を袈裟斬りにしてやれば、それによって力を失ったようにブラキディオスの体が地面に倒れ込んでしまった。
「よっしゃぁ! どんなもんよ!」
思わず声を張り上げる瑠璃は、そのままブラキディオスの腹と両手めがけて夜刀【月影】で気刃斬りを放っていく。そうやって夜刀【月影】に錬気を溜めこんで解放してやり、威力を底上げする算段だ。
茉莉も盾に付いた粘菌を振り落とし終えると、倒れているその顔へと連続して角槍ディアブロスを突き出していく。ガンランスならばここで竜撃砲をぶっ放すところではあるが、生憎と今回はそんなものはない。
ランスはただ確実にダメージを積み重ねるために突き続ける、それだけだ。
しかしだからこそ安定する。
変なギミックもなく、その突きと大きな盾で立ち回るのがランスなのだから。
そして十兵衛は顔は茉莉、腹は瑠璃がやるならば、と炎戈銃ブレイズヘルに通常弾Lv2を装填して尻尾を狙って撃ち続ける。雷砲ラギアブリッツと違ってベルトリンクが繋げられないため撃ち終えればまた装填しなければならないが、それでもその手は高速で動き続け、一番威力を発揮する位置まで近づいて弾丸を射出し続けていた。
やがてもがいていたブラキディオスが起き上り、すると両手と角の粘菌が黄色に変色して範囲が広がっていく。それだけでなく体や背中、頬周り付近にも黄色く変色した粘菌が目に見える程に活性化していく。
そうしてブラキディオスが天井を仰ぎ見ながら、
「グギャアアアアオオオォォォン!!」
洞窟中に響き渡る程の怒号を上げる。
瑠璃と十兵衛は高級耳栓のおかげで影響は全くないが、茉莉は堪らず耳を押さえて縮こまってしまう。素早く瑠璃が茉莉の下へと駆け寄って彼女の肩を少し強く叩いてやった。それで何とか硬直が解け、二人してすぐにブラキディオスから距離を取っていく。
事前に十兵衛から話は聞いている。
怒り状態になれば粘菌がそれに呼応するように更に活性化し、今までは地雷設置となっていたそれは強く叩きつければ爆発してしまうのだ、と。
それはどれほどのものか、一度見ておきたい。
そう思ったのだが、二人へと振り返ったブラキディオスがすぐさま跳躍してきたではないか。
(ノーモーションっ!?)
冷や汗が流れ落ちる程に冷たい感覚が走り抜け、瑠璃と茉莉が素早くその場から飛び離れる。その背後にブラキディオスが着地し、叩きつけられた両手から発火するような爆発が巻き起こる。
爆発の勢いで火柱のようなものまで立ち上る程のもの。当然ながらその周囲は地雷の時よりも大きなクレーターが出来上がっていた。
それに息を飲んでいる暇はない。ブラキディオスが振り返りざまに瑠璃へと勢いよく左手を振りおろし、それから瑠璃が逃げるのだが爆発の際に発せられた熱風が瑠璃の体へと叩きつけられた。
それだけでは終わらず、右手が振りかぶられて横から殴ってくる。それも後ろに下がって逃げるが、すかった右手からは爆発せず、また地面に地雷を設置するだけ。やはり強く打ちつける事で爆発するようで、これくらいのものならば地雷を設置するだけらしい。
瑠璃は更に後ろに下がって距離をとろうとしたが、背後がマグマの海である事に気づき、舌打ちして翼を広げて宙に舞い、側面に回り込みながらマグマの海からも離れていく。
それを追おうとしたが、ブラキディオスは離れた所にいる十兵衛に気づいた。相変わらず距離を保ちながら銃撃している彼を視界に収めたブラキディオスは、前のめりに進みながら角を地面に突き刺していく。
その際角の粘菌が強く活性化して光を放ち出したのだ。そして突き刺した場所から強い爆発が発生し、それは連鎖しながら直進していく。
十兵衛はその動きを見た時から何をするかは把握していたようで、炎戈銃ブレイズヘルを引いて横へと跳ぶ事でそれから逃れる。
また茉莉も十兵衛に狙いを定めて攻撃を仕掛けるのを読み、側面に回り込んで爆発の連鎖を見届けながら角槍ディアブロスでブラキディオスへと攻撃を仕掛けていく。するとブラキディオスはまた距離を離しつつ回り込むように、地面に手を付けながら旋回した。更に後ろに下がり、サイドステップをして方向を定めてくる。
またあの爆発の連鎖をするのかと警戒したが、小さく唸ってまた連続して地面を殴りつけながらの接近だった。だが殴る度に地面が爆発し、耳に来る爆発音が響き渡る。
角槍ディアブロスをしまって横に走り抜けて逃げる茉莉だが、ブラキディオスはそれを追うように曲がってくる。完全に横へと逃げられれば、尻尾を振るって薙ぎ払ってくるのだが、それを前へと跳ぶ事でやり過ごし、転がりながら起き上る。
すると両手の粘菌の色が薄くなっているのに気付いた。どうやら今の連続爆発によって繁殖した粘菌が落ち着いたらしい。
これで盾で弾きながらカウンターが出来る。
そう思った茉莉ではあったが、ブラキディオスが振り返りながら一歩下がり、そのまま勢いよく跳びかかってくる。
(またノーモーションですかっ!?)
咄嗟に盾を構えながら気を込めて自身の硬さを底上げして対処するが、それでも体にかかる重圧と振動を完全に相殺する事は出来ない。両手の粘菌が落ち着いているおかげで何とかなったと言ってもいい。活性化していたら爆発し、体が吹き飛んでいただろうから。
追撃しようとしたブラキディオスだったが、突然連続して顔が爆発する。その衝撃に頭を揺さぶられてしまい、呻き声を上げながらたたらを踏んでしまう。
その追撃として瑠璃が接近し、夜刀【月影】で斬りかかっていった。
見れば十兵衛が炎戈銃ブレイズヘルからベルトリンクを抜いているところだった。どうやら徹甲榴弾を連続して射出していたらしい。
一体いつから銃撃していたのだろう。動き回るブラキディオスに連続して顔面へと徹甲榴弾を当てたというのか。あるいは飛びかかった後の硬直を狙ったのか。いずれにせよやはりただ者ではない。
「大丈夫ッスか、茉莉さん!」
「ええ、何とか。ありがとうございます」
「いえ、気にする事はないッスよ。……やり辛いッスか?」
「……そうですね。少し想像以上でした」
「無理はしないでくださいッスよ。おいらも全力でサポートするッスから」
そう言いながらも十兵衛は弾丸を装填して斬りかかっていく瑠璃へと引き金を引いた。放たれたのは硬化弾。瑠璃の防御面を上げてくれる硬化薬の効果を含んだ弾丸だ。それは狙い通り瑠璃へと着弾し、含まれている効果が瑠璃へと力を発揮する。
それをもう一発装填すると隣にいる茉莉にも撃ち込んでやり、彼女にも同様の効果を与える。
「ありがとうございます」という茉莉の声に頷き、十兵衛は更に前へと出てブラキディオスへと接近していく。接近戦はあまりするべきではないヘビィ使いの上に、十兵衛自身も接近戦は苦手だ、と言っていたのにどうしたのか。
茉莉も同じようにブラキディオスへと接近し、一人で立ち回っている瑠璃を助けに向かう。
だがそんな彼らに気づいたブラキディオスは突如角の粘菌を活性化させて光らせ、その場に留まったまま地面に突き刺した。それを見た十兵衛が「離れるッス! 周囲が爆発するッス!」と声を上げる。
それを聞いた瑠璃が周囲を見れば、転々と白く光り始める地点がある事に気づく。
まるでそれは向こうで確認されているテオ・テスカトルの粉塵爆発の設置地点のよう。母親から聞かされた話を思いだし、瑠璃はその光っている部分を避けながら離れていく。
刹那、勢いよく顔を上げた瞬間、ブラキディオスに近しい場所から順次に光った地面が爆発していく。砂埃が舞い上がり、弾け跳んだ残骸が降り注ぐ中、ブラキディオスは両手に唾を吹きつけながら数歩下がっていき、瑠璃へと向かって跳んでくる。
息をのむ瑠璃。
それでも生き残るために体を動かし、横へと跳んで逃げる。直撃だけは避けられたが、爆発した衝撃からは逃れられず、叩きつけられる衝撃に煽られて翼を使わずに宙を舞うという経験をした後に、体の側面から地面に叩きつけられる。
「か、ぐ……っ!?」
「瑠璃っ!?」
そのまま数メートル地面を転がっていき、ようやく止まった。だが先ほど十兵衛に撃ち込まれた硬化弾のおかげで思った以上の痛みはなかった。いや、それでも衝撃と地面に叩きつけられるという痛みは鈍くじくじくと体を襲うのだが、致命傷という程には至らない。
荒い息をつきながら起き上る瑠璃を見て、茉莉が意を決してブラキディオスへと迫っていく。今は自分が引き付けておかねばならない。少なくとも瑠璃が動けるくらいには時間を稼がなければ。
十兵衛が瑠璃へと近寄って体を起こしてやるが、体を襲う痛みによって小さく呻いてしまった。そんな彼女へと回復薬グレートを手渡してやり、「……サンキュ」と礼を言いながら受け取って飲んでいく。
彼女に頷きかけて炎戈銃ブレイズヘルを手にし、茉莉へと振り返ってきたブラキディオスにまた通常弾を撃ち放つ。そうしながら十兵衛は少し考え、「一度ここは退くッス。立て直した方がいいッス」と言った。
続けるように、
「瑠璃さん、出口まで走れるッスか?」
「……何とかやってみるわ」
「うっす。おいらは茉莉さんをサポートしつつ後退するッス。一人で行かせる事になるッスが……」
「気にしないで。茉莉を……頼むわ」
それに十兵衛は頷き、瑠璃は体を軽く押さえながら走り出す。その様子を茉莉は角槍ディアブロスを構えながら横目で確認し、十兵衛も炎戈銃ブレイズヘルを手に銃撃しながら首をしゃくって「一度撤退するッス」と声をかける。
茉莉もそれを了承するように軽く頷き、ブラキディオスを前面にしつつ少しずつ下がっていく。
だがそれを逃さないように勢いよく右手を振り下ろしてきた。逃げるようにバックステップするが、それでも爆発による衝撃波が襲い掛かってきたため盾を構えてしまう。そこを狙い澄ましたかのようにまた横から殴り飛ばしてくる。
それも防いだが粘菌が付着してしまう。
やはり相性が悪い……と心の中で悪態をつきながらも今はただ耐えるしか出来ない。
また殴りかかってくるブラキディオスだったが、側面から着弾した弾が頬で爆発し、続けて角付近が爆発して頭が揺さぶられ、力が抜けたようにその場にへたり込み、転倒してしまった。
「……ふぅ。茉莉さん、今の内に撤退するッス!」
「あ、はい。ありがとうですよ」
どうやら徹甲榴弾の効果で眩暈状態になったようだ。ぺこりと頭を下げながら角槍ディアブロスをしまい、盾を振って粘菌を払いつつ茉莉が駆け出していく。
それを見送りながら十兵衛も走るのかと思いきや、眩暈状態になっているブラキディオスへと銃口を合わせて貫通弾Lv2を装填して射出し始めた。
胸を狙って撃ち出されたその弾は垂れ下がっている手をも纏めて貫いていき、胸、腹へと突き抜けていく。
そうして狙いを変えて頭をも貫くようにして連続して引き金を引きつつ、次々と貫通弾Lv2を装填を繰り返す。
「グルル……ギュルルル……!」
呻き声が聞こえ、ふらつきながらブラキディオスが起き上っていくのを見た十兵衛は炎戈銃ブレイズヘルをしまい、二人が先に逃げていった洞窟の出口めがけて走り出す。
そんな十兵衛を見てブラキディオスが怒号を上げる。またしても洞窟中に響き渡るその声ではあるが十兵衛には通用しない。しかし逃げる彼を追う事はせず、ブラキディオスは角の粘菌を活性化させながら勢いよく前のめりに倒れ込みながら地面にそれを突き立てる。
「げっ!?」
それに気づき、十兵衛は慌てて横に跳びながら前転する。背後からズドドドドッ! と連続して爆発する波が襲い掛かり、先ほどまで十兵衛が走っていたところが吹き飛んでいく。
続けてブラキディオスは数歩進んでそのまま勢いよく飛びかかってくる。離れていた距離が一気に縮められ、また十兵衛は前に飛びながら転がって逃げ切る。
「くぅ……まだまだこんなもんじゃ死なないッスよぉ!」
傍から見れば情けない光景だが、当の本人は真剣だ。しかも何気に受け身の取り方もうまい。勢いよく前へと飛びながら回転しているが、すぐさま起き上って走りだしている。背後から爆発の衝撃波が襲い掛かってくるが、十兵衛を守るディアブロUシリーズがしっかりと受け止めていた。
そうして出口付近までやってくるが、またブラキディオスが角を地面に突き立てて連続爆発を起こしてくる。それをまた斜め前へと跳んで逃げ切るが、出入り口の壁が爆発によって吹き飛び、受け身を取って回転する十兵衛の頭や体へと岩が打ちつけてくる。
「いたっ、ちょ……こんなのねぇッスよ!」
それだけでなく吹き飛んできた砂埃や地面の瓦礫まで衝撃波と共に襲い掛かってきたため、彼の体はディアブロUシリーズの重量も無視して吹き飛ばしてくる。
「ぎ、ぎゃあああああぁぁぁぁっ!?」
崩れ落ちていく出入口を尻目に、彼は宙と地面を回転しながらエリア7から放り出されてしまった。
エリア4へと逃げてきた瑠璃と茉莉が見たのは、坂道を転げ落ちてくる一人の人物の姿だった。次いで聞こえてくる何かが連続して爆発する音と崩れ落ちていくような音。
転がってきたその人物、十兵衛はそのままエリアにある水場まで移動し、ようやく止まった。軽くばしゃん、と水音が聞こえてきたが、大丈夫だろうか。
瑠璃が彼の下まで駆け寄り、「ちょ、大丈夫?」と声をかけて起こしてやるが、十兵衛は荒い息をつきながら「……ひでぇッス。あんまりッス……」と悲しげに呟いている。
続けて瑠璃から視線を外し、骸の口元からぺっぺっ、と水を吐き出している。どうやら少し飲んでしまったらしい。軽く顔を揺らしてみれば骸の穴から水が入ってしまったらしく、小さく溜息をついていた。
「ちょっと落としてくるッス」
「え? あ、うん……」
ぺこりとすまなそうに頭を下げると瑠璃から離れていき、そのスカルSヘッドを取ったではないか。そうして現れたのは灰色や白が混ざる黒髪だった。肩までかかるそれは多少跳ね回っている。
二人に背を向けたまま十兵衛はそれに入ってしまった水を落とすようにとんとん、と体に叩いたり逆さにしている。
『…………』
後頭部は暗くてよく見えず、耳は髪に隠れて見えない。そして背を向けているから噂に聞く傷跡も見えない。今彼の前に回り込めばそれが見られるのだろうが、彼がわざわざ離れていって背を向けたままだというのを考えれば、やはり見られたくはないのだろう。
それを裏切ってわざわざ見に行く気にはなれなかった。
少しして水を落とし終えればすぐに骸を被って顔を隠す。そうして振り返ればいつもの骸の顔とその穴の奥から見える瞳が二人を見つめてきた。
「さて……大丈夫ッスか、お二人さん?」
「ええ、まあ……何とか。少し休めたから痛みも落ち着いてきたわよ」
「私もです。……とはいえあの衝撃に少し左手が若干痺れていますが」
角槍ディアブロスに砥石を当てて切れ味を戻しながら茉莉が言う。見ればディアブロスの素材を使って作り上げられた盾が若干傷ついていた。粘菌による爆発がなかったとはいえ、飛びかかりのあの衝撃を二度は受けている。
それを防ぎきれるだけの強度を誇っているのだが、それでも盾に対してダメージはなかったわけではない。それに盾を構えている茉莉の左手にも衝撃が伝わっているのだ。何度も何度も受け続けては、力があるとはいえども左手にもダメージが蓄積していく。
先ほどそれに対しても手当てをしたらしく、今は少し落ち着いているとの事だった。
「それは良かったッス。……で、どうッスか? ブラキと戦ってみて」
「なかなか厄介ですね。私にとっては少々やり辛いことこの上ないですよ」
「あたしは素早く立ち回れるから茉莉のようにやり辛いってのは感じないけど……爆発が厄介かしら。設置されまくったら行き場を失うわね」
「そうッスね。怒り状態になればそれは落ち着くッスが、今度は即、爆発となるッスからどちらかといえばそっちが厄介ッス。その上執拗に殴ってくるッスから、茉莉さんにとっては更に厄介になるッス」
「そうですね……それを思い知らされましたよ」
やれやれとため息をつきながら首を振る茉莉。防御しても粘菌が付着すればいずれ爆発する。力強く殴られれば怒り状態なら盾ごと爆破されるかもしれないという懸念。
彼女にとって相性が悪いどころの話ではなかった。
「なので私は怒り状態になれば補佐に回ります。奴に閃光玉は?」
「効くッスよ。とはいえ周囲をふらふらして暴れるッスが」
「なるほど……では閃光と落とし穴でも使ってやりますかね。前衛を瑠璃に任せることになりますが……」
「大丈夫よ。気にしないで立ち回って。あたしだけでも斬りこんで意識を引き付けてやるから」
「お願いします」
ぺこりと小さく頭を下げ、茉莉は角槍ディアブロスを砥いでいく。
続けて十兵衛がポーチから材料を取り出し、調合器具を用意して調合を始めた。先ほど使い切った徹甲榴弾の補てんをするようだ。ギルドの取り決めにより徹甲榴弾は九発しか持ち歩けない。
そしてその全てを先ほどのベルトリンクで射出してしまったらしい。材料さえあればこうして用意できるので問題ないが、まあこれがガンナーの宿命というものだ。
手際よく調合を進めていく彼の様子を見つめながら、瑠璃もまた砥石を用意して夜刀【月影】の切れ味を戻していく。先に切れ味を戻し終えた茉莉は腰に落とし穴を提げ、もう一つ予備としてシビレ罠も提げておくことにした。
数分後、全ての準備を終えた三人は隣のエリア3へと移動していく。洞窟の出入り口は完全に塞がっており、入れなくなってしまったので回り道をする事にした。
新しいクーラードリンクを飲んでいざエリア5へと入っていったのだが、すぐに岩陰に身を隠す。
生える石柱の奥に群青色の影が見えたためだ。
「……移動してきたみたいね」
「そのようで。しかし石柱が邪魔ですね。いえ、逆にそれを利用出来ますか」
「そうッスね。あれを中心としてぐるぐる回りつつ、立ち回るという戦術が一応出来なくもないッス。というかガンナーとしては利用して立ち回りたいところッスね」
幸いまだブラキディオスには気づかれていない。岩陰に隠れながら三人はどうブラキディオスを切り崩していくかを相談していく。
「瑠璃さん、先陣切って意識を引き付けてくださいッス。そして次においらが行って援護するッス。そこで角笛を吹ければ吹くッスから、茉莉さんがおいらの背後から閃光玉を使うッス。まずはそれで足止めし、瑠璃さんとおいらで叩き込むッス。茉莉さんはその間に罠をお願いしたいッス」
「オーケー。まずはそれから行こうじゃない」
「了解です」
怒り状態でなくなっている今、罠と閃光玉の効力は結構ある。これを好機としてブラキディオスの体力を一気に削っていく算段だ。それに異を唱える事もなく、これからの作戦を立て終える。
「あ、瑠璃さん」
「ん?」
「閃光玉が効いているからと言って油断しない事ッス。奴はそれでも暴れるッスから。あと、あの連続爆破もやってくるッスから、茉莉さんもそれに気をつけるッス」
「わかった」
「おお、そうですか。気をつけましょう」
最後に忠告を受け、頷いた瑠璃が夜刀【月影】に手をかけながら飛び出していく。その足音に気づいたブラキディオスが振り返り、威嚇するように姿勢を低くしながら唸りだす。
それを気にも留めず下がった頭へと斬りかかり、頬を裂きながら一歩下がる。
するとブラキディオスが空を仰ぎ見ながら怒号を上げる。岩肌や石柱を反射しながら響き渡る怒号は周囲に響き渡るが、やはり瑠璃には通用しない。足元へと潜り込んで夜刀【月影】を振るい、隙だらけとなっているブラキディオスを斬り続ける。
十兵衛がその背後にある石柱の陰に入り込み、通常弾Lv2を装填してブラキディオスの頭へと狙撃を始める。
しかし奴の意識は瑠璃へと向けられている。狙い通りだ。
足元にいる瑠璃へと振り返りざまに拳を落として潰そうとするが、前に進みつつ切り払って逃れる。続けて振りかぶられるフックもまた足元を潜りぬけてやり過ごし、振り返りながら夜刀【月影】を薙ぐ。
更に切り払いながら石柱の方へと進めば、ブラキディオスは一歩下がりながら振り返ってくる。すり足で下がりながら石柱へと近づけば、それを追うようにブラキディオスが前進してきた。
十兵衛が銃撃する中、茉莉が彼の背後から閃光玉を投げつける。すると強い光が発生し、その中でブラキディオスの悲鳴が聞こえてきた。
石柱を背にして光からやり過ごしつつ十兵衛は炎戈銃ブレイズヘルへと貫通弾Lv2を装填し、光が晴れた瞬間また姿を見せてブラキディオスの頭へと突き抜けるように引き金を引いていく。
視界を潰されたブラキディオスは闇雲に両手を振り、尻尾を振り回し、見えない敵へと攻撃を仕掛けている。それを掻い潜りながら瑠璃は何とか奴を斬り続け、十兵衛も動き続けるブラキディオスへと銃撃する。
奴の狙いは狂っている。そして両手には活性化している粘菌がある。
振るわれるたび地面や周りの岩肌へと粘菌が付着し、時間を置いては爆発する。特に岩肌へと付着した粘菌が爆発すると、それによって吹き飛んだ残骸がブラキディオスや奴の近くで立ち回る瑠璃へと無差別に襲い掛かっていく。
「くっ、少しは大人しくしなさいっての!」
悪態をつきながらも瑠璃はブラキディオスだけでなく周りに注意しながら斬り続けていく。
そして茉莉はというと、打ち合わせ通り石柱から少し離れた所にシビレ罠を仕掛けた。問題なく起動するのを確認し、「こちらは大丈夫ですよ」と十兵衛へと声をかけ、十兵衛は振り返らずに彼女へと親指を立てて了解と示す。
「瑠璃さん、こっちはオッケーッス!」
と瑠璃へと声をかけ、瑠璃は「了解!」と返事をしつつブラキディオスから離れつつ切り払う。自分を先ほどから斬り続けている奴が離れていく、と感じたブラキディオスはまだ完全に視界が戻っていない中、角の粘菌を活性化させて勢いよく地面に突き立てていく。
先ほど十兵衛から忠告を受けていた瑠璃はそれに反応してそれから逃れたが、思いの外ブラキディオスのそれは勢いが強かった。
その場で角を突き立てるのではなく、軽く跳ねて前に進みながらの全体重を乗せた一撃だったのである。そのせいでブラキディオスの肩が瑠璃の背中に直撃し、奴が勢いよく角を振り上げた衝撃に合わせて瑠璃の体が跳ね上げられながら吹き飛ばされる。
「――がっ、は……!?」
それだけではなく横で連続して爆発していくその衝撃波に当てられ、空中を回転しながら転がっていく。その光景に息をのむ十兵衛と茉莉ではあったが、接近してくる爆発の連鎖から逃れるために横へと跳ぶ。
それは十兵衛が隠れていた石柱へと到達し、そのまま石柱すらも吹き飛ばしてしまう。高く聳えるそれの前面の一部を吹き飛ばし、崩し、ようやく止まった。どうやら反対側へは突き抜けなかったらしい。
だが問題が浮上した。
瑠璃がまたしても吹き飛ばされてしまったのだ。忠告した事はしたが、よもやブラキディオスの抵抗が思いのほか強すぎたと想像出来ただろうか。いや、出来たのだろうが、反応が遅れてしまったという事なのだろう。
その事に歯噛みし、十兵衛は打開策を思案する。
「……茉莉さん、瑠璃さんの方へと行ってくださいッス。ここはおいらが引き受けるッス」
「なっ……いえ、私が引き受けます。十兵衛さんが瑠璃を――」
「――大丈夫ッスよ。ここはおいらがやるッス。ブラキを少しでも知る奴が対応した方が安全ッスから。ここで二人も戦闘不能にするわけにはいかないッス」
「……っ!」
戦闘不能。
その言葉が告げられた瞬間、茉莉は息を飲んだ。見れば瑠璃が全く動いていない事に気づいた。意識が飛んでいるらしい。あるいは――いや、そんな最悪は考えたくない。
茉莉が逡巡する中、苦しげな十兵衛の声が聞こえてくる。
「……おいらが立てた作戦のせいでこうなったッス。責任は、おいらが負うッス。だから、行ってくださいッス」
そう言って十兵衛が炎戈銃ブレイズヘルを片手にブラキディオスの前へと出ていく。右手には角笛が握られており、吹き損ねたそれを口元へと持って行っていた。どうやら完全に囮を買って出るらしい。
そんな彼の覚悟を無碍にするわけにもいかず、「……すみません」と苦しげに謝って茉莉が走り出す。その後、響き渡る角笛の音色。モンスターの意識を奏者へと引き付けるその音に惹かれ、視力を取り戻したブラキディオスが十兵衛へと近づいていく。
その横、数メートル先を走り抜けて茉莉が瑠璃を背負い、エリア7へと走り去っていくのを見届けながら十兵衛は茉莉が設置したシビレ罠へと移動していく。
せっかく彼女がこれを仕掛けていったのだ。無駄にするわけにはいかない、という配慮だった。
しかし、ブラキディオスは逃げていく十兵衛を追うのではなく、また前のめりに倒れながら角を突き立て、爆発の波を作り上げる。それに気づいた十兵衛が横に逃げてそれをやり過ごすが、それは無慈悲にも設置されたシビレ罠を破壊してしまった。
(くっ、罠が……!)
シビレ罠は小型で機械的な要素がある罠だ。中心から麻痺毒を放出して獲物の動きを止める罠で、踏み抜かれたとしても壊れるような作りではない。しかしあまりにも強い重量と強い衝撃を受ければ破壊されてしまう。
そう、今のブラキディオスが行った爆発の連鎖のようなものだ。
吹き飛ばされて粉々になってしまうそれを見て舌打ちしてしまう程、十兵衛は少し動揺してしまった。だがそれでも今は時間稼ぎを。
茉莉が瑠璃を手当てできるだけの時間を稼がなければならない。
しかも向こうの出口は防がれている。ベースキャンプに戻るにはこのエリア5から南下するしかないのだ。
更に言えば、モドリ玉はない。一度山を下りる際に使ってしまったためだ。あそこに掘り出した鉱石などを置いてきているため、もう三人とも持っていない。調合素材もない状態だ。
外へ出ようと思ったら崩れた瓦礫をどうにかするしかない。
「ギュルルル……!」
ブラキディオスが唾を両手に吐きつけながらじっと十兵衛を見下ろしている。対して十兵衛は少し冷や汗を流し始めていた。少々苦しい状態にあるのは明白。
だがそれでもやるしかない。
瑠璃があんなことになったのは自分の立てた作戦のせい。ブラキディオスが初見である彼女に先陣切らせたせいでこうなってしまった。例え彼女しか先陣切る人物がいなかったとしても、もう少し何とか出来たはずだ。
その責任をとらなければならない。
十兵衛はその思いの下行動する。
ブラキディオスが前進しながら勢いよく右手を振り下ろしてくる。それを避けながら炎戈銃ブレイズヘルに装填した散弾Lv2を射出し、両手と腹へと弾幕をぶち当てていく。
更に射出しながら距離を取るように下がっていき、新たな弾を一気に装填。再び弾幕を放つ。それがどうしたとばかりにブラキディオスが前進し、尻尾を振り回してきた。
それを避け、隙だらけとなっている背中を撃ち抜き、今度は貫通弾を装填し、前を向いてきたブラキディオスの顔を撃ち抜いていく。
そんな十兵衛に苛立ってきたのか唸りながら地面を殴りつつ回り込み、フックを仕掛けてくる。体勢を低くして頭の上を通り過ぎていく拳をやり過ごして、下から撃ち抜くように一発射出して足元を潜り抜ける。
だがそんな彼を逃さずに振り返りながら足元へと勢いよく拳を落としてきた。
「ちぃっ……!」
それを強引に転がって避け、背後に強い振動が響くのを感じながら何とか起き上る。だが続けざまにもう一度左手が振り落とされ、十兵衛は後転して躱した。
荒い息が骸の口から洩れて出る。心臓は早鐘を打ち、プレッシャーに押しつぶされそうな程に緊張している。だがそれでも動かなければならない。でなければ、殺られる。
「……はは、ほんと、おいらってこういうのばっかだよなぁ……畜生め」
ぶつぶつと呟きながら一発の弾を装填し、しかし撃ち出せずに逃げる。ブラキディオスが唾を吐きつけながら数歩下がっていったためだ。そのまま体勢を低くして飛びかかってくるのを見越し、十兵衛は横にも後ろにも逃げず、ブラキディオスへと走って勢いよく前転する。
すると飛びかかったブラキディオスが十兵衛を飛び越して背後に着地したのだ。
そんな奴へと振り返り、背中に向けて引き金を引く。すると着弾した弾丸が破裂して四発の爆発を起こした。続けてもう一発装填して、同じ場所を狙って引き金を引く。
放たれた拡散弾Lv2によって背中の甲殻が一部吹き飛び、その痛みに呻いてブラキディオスがたたらを踏む。
そしてまた粘菌が活性化して黄色に染まり、怒りの咆哮を上げる。
「そろそろ撤退……いや、もう少し引き付けておくとするかね」
ポーチから閃光玉を取り出してタイミングを見計らおうとしたが、振り返ってきたブラキディオスがまた角を地面に突き立ててきた。またもや放たれる爆発の波。それを回避した十兵衛だったが、背後の石柱がそれを受けてしまう。前だけでなく背後からも爆発を受けて柱が抉られ、それによって完全に破壊されたそれが十兵衛の方へと傾いて崩れ落ちていく。
「んなっ!? それはねーよ!?」
慌ててそこから離れる十兵衛だったが、その先にはブラキディオスがいる。彼を迎え撃つように勢いよく振り下ろされる右手。それから逃れるが、背後で爆発したせいで発生した衝撃波が十兵衛に襲い掛かる。
今度は何とか受け身を取って体勢を立て直した十兵衛ではあるが、サイドステップをして位置を取ったブラキディオスがとどめとばかりに接近してきて拳を振り下ろしてくる。
「くそっ! こんな所で終わるわけにはいかない……!」
手にしている閃光玉を背後へと放り投げ、強い光が発生した。それをまともに見てしまったブラキディオスがまた視界を潰されて呻きだす。
「へっ、ざまぁみろッス」
思わず漏れて出る言葉を吐きながらブラキディオスの横を走り抜ける十兵衛。
しかしブラキディオスの執念は凄まじかった。逃げる足音を聞きつけ、尻尾を振り回してきたのだ。眼前から迫るそれに慌てて十兵衛はしゃがみこんでやり過ごす。それだけでなくブラキディオスは振り返りながらまた拳を振り下ろしてきたのだ。
「ッ!?」
慌てて横へと転がって逃げるが、続けて襲い掛かってくる横殴りが十兵衛の頭を殴り飛ばしてしまう。
直撃だった。
油断した。
そんな言葉が頭をよぎりながらも、頭を殴られ、地面を転がっていく十兵衛はそのまま数メートルを無理やり移動させられる。だが何とか止まり、咳き込みながら起き上っていく。
頭を振って意識をはっきりさせようとするが、ブラキディオスは暴れ回りながらも十兵衛へと少しずつ接近してきていた。見えていないのに、またしても十兵衛の近くへと拳を落としてくる。
それからまた逃げるように地面を転がったが、近くを爆発する衝撃からは逃げられない。だがここで十兵衛の想定外がまたしても起こる。
あの爆発に反応したのか、頭の側面がいきなり爆発したのだ。
「――――ッッッ!?」
それによって頭が強く揺さぶられ、右耳から音が消える。どろり、とした感触が右の頭から流れ落ちるのを感じながら、十兵衛は何が起こったのかを把握しようとする。
そうして見えたのは、何かの破片が近くを転がっているという事と、顔の右側にさっきまで感じられなかった熱気が少し強く感じられるという事。
そして、少し右側の視界が広くなった、という事実だった。