集いし者たちと白き龍   作:流星彗

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5話

 

 

 現れた敵を取り囲むように最初の攻撃に巻き込まれなかったルドロス達がゆっくりと取り囲むように移動していく。だが数が減り、最初の襲撃で三人の戦意にあてられたものが多い。

 だがそれを振り払うようにロアルドロスが吼える事で正気を取り戻させた。更に一頭に軽く視線を向け、何かを伝えるように小さく鳴くとすぐに正面で構えている桐音へと戻した。

 小さく息を吸いこむと、口から水の塊を撃ち出す。弾丸のように撃ち出されたそれは桐音を捉えられず、しかし標的を外したその弾丸はぬかるんだ地面を弾けさせるだけの力を見せつけた。

 横に軽く跳び、滑るようにまたロアルドロスへと距離を詰めてヘビィディバイドを突き出してやる。球体がロアルドロスの頬を捉え、返す刃で打ち付けられた部分を斬る。

 鈍器の衝撃から続く痛みにロアルドロスの表情が一瞬曇ったが、それで怯むほど軟ではない。

 体を捻りながら桐音へと噛みつきにかかるも、数歩下がってやり過ごされてしまう。

 

「っと、突き抜けますよ」

 

 その隙にいつの間にか接近していた茉莉が桐音の近くを駆け抜け、両手で構えるシャドウジャベリン改を操ってルドロス達を薙ぎ払っていく。ロアルドロスを守ろうと桐音へと攻撃を仕掛けようとしていたところの言葉通りの横槍。

 薙ぎ、突き刺し、吹き飛ばして道を強引に作り上げてロアルドロスの背後を取った茉莉。勢いよくシャドウジャベリン改を回転させて遠心力をつけ、鋭い切っ先でロアルドロスの腰から尻尾を薙ぎ払った。

 刃によるダメージだけでなく滲み出る毒もロアルドロスを侵すその一撃は、ロアルドロスの意識を一瞬茉莉へと向けさせてしまう。それを見越した桐音が再びヘビィディバイドを突き出し、そこからギミックを始動させて剣モードに切り替えてロアルドロスの頭を叩き斬るように振り下ろす。

 それから横に切り払いつつ顔から離れるように移動し、反撃として薙ぎ払われる爪を剣で受け流しながら逸らしてみせる。

 

「クック、見えるぜ。そら、くらいなっ!」

 

 逸らされた爪を狙って少し腕を引いて力を溜めた後、一気に突き出すようにしてヘビィディバイドを叩き込む。だがそれだけではただの突きだ。しかし剣モードの突きには特殊な力が存在している。

 柄にある引き金を引き絞った瞬間、柄から強いエネルギーが発生して切っ先へと収束され始めたのだ。

 スラッシュアックスにはビンが内蔵されており、それには自然の粒子を取り込んで一つの力を発現させる効果を秘めている。それは斧モードの時には発現しないが、剣モードになる事でその力を発揮してくれる。

 斬るたびに力が刀身へと纏われ、敵にダメージを与えると同時にビンの力が付与されているのだ。これは弓に使われるビンとは違い、スラッシュアックスごとにあらかじめ内蔵されているため、切り替える事は出来ない。

 このヘビィディバイドに内蔵されているのは滅気ビン。相手のスタミナを奪っていく効果があり、更に頭に命中すれば相手の意識を揺さぶる効果も存在している。いうなればハンマーなどの鈍器と同じ効果だ。

 そして突き状態から引き金を引いた時、その力が先端へと収束する事で更なる力を発揮する。収束しているそれにもダメージが存在し、その力が最高に高まると爆発を起こしてしまう。

 だがその爆発こそが最高の攻撃となる。それがスラッシュアックスだ。

 しかし桐音はその最大攻撃を出さないままに引き金から指を離し、エネルギーの反動で軽くヘビィディバイドが暴れるものの、それを強引に抑えこんだまま引き戻す。

 

「ふんっ!」

 

 解放は確かに威力が高い攻撃ではあるが、その分武器に対しても少なくないダメージを与えてしまう。それ故に何度もぶっ放せるような代物ではない。無理をすれば武器にガタが来てしまい、鍛冶屋に修理を出さなければならなくなる。

 強力故について回る障害というわけだ。

 

「はっ、ふっ!」

 

 戦場にはもう一人いる事を忘れてはならない。桐音へとルドロスが近寄らないように引き付け、まとめて狩っている瑠璃がいるのだ。

 柄を中心に両側に存在している刃には赤く燃える炎が発現し、振り回すたびに宙に踊る。

 そしてダブルセイバーを中心にある柄を両手で操り、主に回転させる事で連続して相手に攻撃する武器だ。

 寄ってきたルドロス達を巻き込むような位置へと入り込み、まるで踊るように体を動かしながら両手で火竜剣【火燐】を操る。その度に刃はルドロス達を薙ぎ払い、同時に発生した炎が傷口を焼く。

 離れた所にいるものは横回転していた火竜剣【火燐】を縦に回転させ、流し込んでいた気を圧縮させて振り抜かれた刃に乗せて放つ。

 これが気刃だ。

 己の気を刃と化して放つ遠距離攻撃の手段。近距離をメインとする剣士タイプの遠距離攻撃の手段である。これを習得するには気の扱い方を覚えなければならないが、覚えるだけの価値はある。

 そして気刃は武器の属性を含んで放たれるため、今放った気刃は離れた所にいるルドロスを焼き切った。

 

「はっ!」

 

 周りにいるルドロスを始末し終えた事を確認し、瑠璃はロアルドロスへと振り返りながら火竜剣【火燐】を回転させて連続して気刃を放ち、瑠璃もまたロアルドロスへと攻撃を仕掛けていく。

 正面、側面、背後からと攻撃を仕掛けられ、更にはルドロス達まで殺されたことにロアルドロスは遂に怒りを爆発させた。

 

「ギュォォォオオオオオオオオンッッ!!」

 

 飛竜のような周りを怯ませる怒号ではないが、それでもロアルドロスの怒りを乗せた叫びは凄まじい。

 しかし所詮は飛竜種よりも劣る咆哮。この三人にとってロアルドロスの怒号は涼しいものだった。正面にいて直にその怒号を受けた桐音でさえ薄く笑みを浮かべている。

 その隙だらけな胸元へとヘビィディバイドを叩き込もうとしたが、ロアルドロスがその胸……いや体を持ち上げていく。それから桐音を叩き潰すかのように、ボディプレスを仕掛けていく。

 それを察知して後ろへと下がり、ボディプレスを回避したところを狙ってその顔面へと攻撃を仕掛けてやった。

 

「まったく、もうキレるたぁ気が早いなあおい? 早いのは困りもんだぜ? 早漏野郎はとっとと消えなッ!」

 

 斬り落とし、薙ぎ、突き出しと連続して攻撃を仕掛け、ロアルドロスが体勢を立て直したところで一時的に距離を取る。余裕の状況ではあるがだからといって、守りをおろそかにしてはならない事は桐音にもわかっているようだ。

 それに背後からはボディプレスによってあがった尻尾が叩き下ろされるのを見送った茉莉が攻め立てる。基本の突きを連続して放っていくその様は、ハンター達が行う基本の重量感のある突きとはまったく違う。

 細身のランスという事と、嵌めている盾がランスよりも少し小ぶりなこと。そして茉莉の両手によって操られるシャドウジャベリン改は、ロアルドロスの腰に次々と突き刺さっていく。その硬い皮を突き破り、中にある肉へと刃が傷つける。

 無表情に近しい茉莉だったが、少し昂り始めている桐音の様子に僅かに苦笑を見せ始めた。音を立てながら回転するシャドウジャベリン改の刃に己の気を纏わせていきつつロアルドロスと桐音の様子を窺っていく。

 

「昂っているようですがまだ冷静ですね。っと、危ない」

 

 背後を責めてくる敵には尻尾を振り回して追い払う。空を切って迫ってくる尻尾を何度かやり過ごし、腰から背中にかけて貫く気槍を撃ち出してやる。斬撃が気刃ならば、貫くのは気槍。貫通力に優れるように調節された気は、突きだされたシャドウジャベリン改によって放たれ、敵を貫く槍と化す。

 毒を含んだその気に貫かれ、側面からは刃に切り裂かれるだけでなく焼かれ、このまま陸上で戦い続けるのは不利だと悟ったロアルドロスは、体を捻って周囲を尻尾で薙ぎ払いつつ大河に向き直る。

 そのまま三人を置き去りに勢いをつけて飛び込み、大河の奥へと消えていくではないか。

 普通ならばこのまま手出しできないが、今の彼女達ならば後を追う事が出来る。

 一旦それぞれ手にしている武器をしまうと、持ってきた水中用装備を装着していく。

 

「じゃ、気をつけなさいよ」

 

 マスク越しの少し曇った声で瑠璃が念を押すように言う。これから行われるのは勝手の違う戦場だ。瑠璃と茉莉はその種族上空中戦もこなすが、それは昔から翼を使って高速移動の練習をした事があるから出来る事。

 更に言えばそれを得意とし、売りにしている現役ハンターと元ハンターが存在し、彼女達からも技術を仕込まれた甲斐があってこその空中戦。

 しかし陸、空を駆ける二人も海……すなわち水中戦はそんなに経験を重ねていない。

 でも戦えないというわけでもない。これもまた一つの経験積みの機会。

 バイザーを下して水中メガネをかけ、マスクから問題なく酸素を補給できることを確認し、水竜の守りの力を発動させて三人は各々大河へと飛び込んでいく。

 ザパンッ、と大きく水を跳ねさせ、ドルフィン泳ぎで一度水中へと潜りながら前進していく。水は少し濁っているようだが水中メガネのおかげで問題なく視界は確保できている。

 冷たい水が肌を刺激するが水竜の守りのおかげで肌寒くは感じない。それに防具と武器の重量がかかっているというのに、それを感じさせないだけの速さで水中を泳いでいける。

 これが水竜の守りの加護のおかげだ。やはりこれは革新的な発明だと改めて思わざるを得ない。

 また水竜の守りはもう一つの効果もある。

 水中でしかもマスクをしている彼女らは声を出してもそれが相手に届かないだろう。声はマスクによって遮られ、ただ独り言を呟くだけに終わってしまう。

 そこで水竜の守りの力が働くのだ。

 これが近くにある水竜の守りと共鳴する事で結びつけ、装着者の声を粒子を伝わせて届けてくれるのだ。粒子が力の道を作っているおかげだと推察されており、これが有力な説とされている。

 そんな技術の結晶の加護の下、広がった戦場の範囲。

 大河を潜りながらこの中に飛び込んでいったロアルドロスを探す。しかし姿は見えず、気配もこのエリアから消えてしまった。

 

「エリア5へと移動したと思われますね」

「この先、か。……なるほど、確かに待ち構えているかのように動いているじゃないの」

「そうね。しかも小さな気配が近づいてくる。恐らくルドロスじゃないかしら」

「先ほど一頭だけここに飛びこませていましたね。たぶんそれが他のエリアにいる仲間に連絡したのでしょう」

 

 泳ぎながらも三人は気配を探る事をやめる事はしない。何せ水中に来たという事は、水中での行動を主とする魚竜種、チャナガブルがいる可能性が高いのだ。

 川底の、しかも土や砂の下に潜りこんで川底に同化して姿を消し、髭だけを出してあたかも川底に生える草のように見せかけ、水の流れに乗せてみせる事で獲物を誘う習性がある。

 それにつられて寄ってきた魚、あるいはチャナガブルに気づかない獲物をその大きな口で一気に取り込み、丸呑みにしてしまう。それが奴の捕食行動だ。

 それはハンターに対しても同じであり、チャナガブルがどこにいるのか気づかないハンターを丸呑みにしたという報告もよくある話だ。

 故に川底にも気を配らなくてはならない。ロアルドロス達にばかり目や気を向けて、気づかないところからチャナガブルに奇襲されてしまえば、自分達より前にこのクエストをやったハンター達の二の舞だ。

 いや、チャナガブルがいると知っているという点で自分達が有利な分、奇襲を受けてしまえば自分達の方が笑い者だ。

 少し濁った底を見回しながら茉莉は気配を探ってみるが、チャナガブルらしき気配は感じられない。ただ隠れるだけでなく気配まで消してしまっているからこそ、警戒心が強い小魚なども油断してしまう。

 だからこそ、いつも以上にセンサーを張ってみるが、やはり奴の気配はないように思える。

 どうやらチャナガブルもまたここにはいないようだ。

 そのままエリア4からエリア5へと移動すると、視界の左側に少しずつ崖が現れていく。道は右寄りになっていき、そして右側は水没してしまった森となっていく。

 地図を見てみるとここは逆L字型になっており、左側にある崖がエリアを狭め、更に右手にある森が挟み込むようになっており、道がこのようになっているのだ。

 その地形のまま水が溜まり、ここは少し特殊なエリアになってしまっている。

 同時にハンターにとってはやり辛い地形になっていると言ってもいいだろう。何せ崖のせいでエリアの奥が見えないのだ。これに隠れるようにして忍び寄られては道を曲がるときに襲い掛かられた場合、反応出来なければ大きな負傷になるのは目に見えている。

 気づいていれば問題ないが、気づかなければまさしくそれは奇襲となる。しかも陸上と違い、ここは水中。水竜の守りがあるとはいえ、体が上手く動かなければ守るだけでも難しいのだ。

 なので気配を探りながらゆっくりと移動する事にする。

 

「いるわね」

「ああ、待ち構えてやがるな。そして援軍も近づいてきているときたもんだ。まったく、寄せ集めのルドロスを連れてきてもしゃーないっていうのに」

「いえいえ、混戦に持ち込むという手が考えられますよ。油断は禁物です、草薙さん」

「水中の混戦、か。チャナまで混ざったら確かに面倒なことになりそうだ。こういうのはあたいは好かんのだけどね」

「もしかしてサシでの勝負が好きな系?」

「いいや、好きじゃない」

 

 ちっちっち、と指と首を軽く振り、

 

「大好きさ」

 

 とバイザーとマスクで隠れたその表情を笑みに変える。それは実に楽しそうなものだったが、二人からすればちょっとした程度の違いでどうしてそんな大それた行動を見せるのかとツッコミたい。

 

「一対多数なんてまどろっこしいことは嫌いさ。戦いってのはやはりお互いの全力をぶつけ合ってこそだろう。……戦いこそ、至高。身を削り、お互いの命を懸けてこそ戦い! ……昔から色々やってきたもんだからねぇ、ちょいとあたいは戦いってものに目がないのさ」

「さっきはその逆の事をロアル相手にやってるけどね」

「ま、それはそれさね。チャナさえいなければあたい一人でやるつもりだったけど、……現実はそううまくはいかないもんだね」

 

 背中にあるヘビィディバイドに手を伸ばし、崖に隠れて見えなくなっているロアルドロスを感じながらゆっくりと前に進んでいく。そうしてロアルドロスまで十数メートルまで接近し、そこで力を溜めて飛び出す体勢に入る。

 しかしそこで乱入者。

 森の奥から次々とルドロス達が現れ、大河の中へと飛び込んでくる。水音が響き、体をくねらせながら真っ直ぐに桐音達へと迫っていく。

 

「思った以上に早いですね。しかも水生獣ですからここはあちらに有利です」

「まったく……群れるんじゃないよ!」

 

 吼えながらヘビィディバイドを振り回すも、素早く回避した一匹には当たらない。が、桐音へと噛みつきにかかった三匹が纏めて切り払われる。

 

「ギュオッ!」

 

 回り込んできたルドロスが桐音へと噛みつきにかかり、尻尾を振るってくる。振り抜いたせいで硬直していたところへの反撃だ。

 

「ちっ、鬱陶しい!」

「本当に多数相手は嫌いなのね、ふっ!」

 

 群がってくるルドロス達を火竜剣【火燐】で切り払っていき、茉莉がシャドウジャベリン改を回転させて強い水流を生み出しながら薙ぎ払う。

 ルドロス達は二人の攻撃によって傷つき、離れていくが、そこを狙った存在がいた。

 

「ギュオオオオオオオオオオン!!」

 

 崖の向こうから勢いよく吶喊してくるロアルドロス。ルドロスが散り、三人が揃っているのを見計らっての行動だった。茉莉が盾を持っているとはいえ水中で、しかも盾よりも大きな体での突進が防ぎきれるわけでもない。

 スピードを売りにしている瑠璃でも、水中ではそれを発揮する事は不可能。あのスピードは翼を使っての高速移動であり、翼を広げて羽ばたけない水中では無意味なのだから。

 

「くっ……」

「……っ」

「ちぃ……!」

 

 高速で泳ぐことで水流を生み出し、スピードに乗ったロアルドロスの突進により三人はバラバラに吹き飛ばされてしまう。避ける事が出来ず、防御するしかないと判断した三人は防御体勢を取り、気で身を守ったがそれでも殺しきれない衝撃が襲い掛かる。

 それだけでなく、水中で吹き飛ばされれば体勢が強制的に崩される。それを狙ってルドロス達が追撃を仕掛けてくるのだ。

 完全に流れがロアルドロス達に傾いてきている。

 

「こ、の……! 調子に乗らないでよね!」

 

 寄ってくるルドロス達を火竜剣【火燐】を回転させて反撃するが、それを切り抜けて瑠璃の足へと噛みつきに来たルドルスがいる。回避性能に優れるナルガシリーズではあるが、防御面は中盤クラスといったところか。

 ルドルス程度の噛みつきには耐えられる。が、纏わりつかれては動きづらくなる。

 それにもう一つ、瑠璃と茉莉がここで戦いづらい理由が存在する。

 彼女達は火竜の力を行使する事が出来るが、それは水中では無意味という事だ。水は炎を消してしまう。彼女らのもう一つの武器である火炎操作が使えないのだ。

 ロアルドロスは火属性が弱点だが、この水中でその攻撃は出来ないというのは大きな違いが生まれる。

 だが火竜剣【火燐】の炎は斬った瞬間に発生し、内包されている炎の火力は撫子の技術によって高められている。加えてアイルーが持っている技術の一部を習得し、独自に改良を加えた事で濡れていても炎が発生するようになっている。

 これは雨の日でも爆弾が使えるという彼らの技術が元になっている。つくづく彼女の才能が恐ろしい。

 

「ギュオオオンッ!」

 

 動けなくなっている瑠璃を見逃さずにロアルドロスが襲い掛かっていくが、その前方に茉莉が入り込み、盾で何とかロアルドロスの進撃を止める。しかしやはりというべきか水中という事もあって完全に衝撃を殺しきれていない。

 

「くっ、やはりやりづらいですね……。だからといって、ここであきらめるようなものはしませんが!」

 

 足元から気を放出させてこれ以上下がる事を阻止し、逆に押し返すように盾と腕力でロアルドロスに反撃の意志を見せつける。じりじりとロアルドロスを押し返し、右手に持つシャドウジャベリン改でロアルドロスの顔、喉へと突き刺していく。

 その刃と内包されている毒により、ロアルドロスの進軍が止まる。それを見計らって盾でロアルドロスの顔を殴りつけ、その一撃に怯んだ隙をついて桐音が一気に距離を詰めて斬りかかる。

 たてがみを切り裂き、返す刃で胴体を薙ぐ。

 当然ロアルドロスを守るためにルドロス達が寄ってくるが、ヘビィディバイドのリーチは広く、回転させる事で寄ってきたルドロス達も薙ぎ払われる。その事にロアルドロスが怒りの声を上げるが、黙らせるように茉莉がまた盾で殴りつけ、シャドウジャベリン改で突いていく。

 

「いい加減離れなさい!」

 

 足にまとわりつくルドロスに火竜剣【火燐】を突き刺し、もう一つの刃で体当たりしてくるルドロス達を薙ぐ。いつもならば問題なく処理できるのに、水中というだけでやはりやり辛い。

 まだ完全に慣れていない状態で、数で押されるだけでここまで違う。

 侮ったというわけではないが、ルドロスの数がここまでいるというのが驚きだ。今ここにいるだけでも十頭を超えている。何頭かは処理したが、それでも数匹は存在して瑠璃達とロアルドロスの動きを見守っている。

 

「…………」

 

 寄ってくる気配がないならば、一度ロアルドロスへと接近するのみ。瑠璃は水を蹴ってロアルドロスへと距離を詰めていく。当然それを阻止するようにルドロス達が接近してくるが、「まどろっこしい!」と火竜剣【火燐】を回転させて左右から寄ってくるルドロス達を牽制、近づきすぎたものは斬られてしまう。

 

「ギュオオオオン!!」

 

 またしても目の前でルドロスが斬られたことに怒り、ロアルドロスが突っ込んでくる。しかしそれを防ぐように、桐音がヘビィディバイドを振るいながら剣モードへと切り替える。

 

「鬱陶しい戦いはこれまでにさせてもらおうじゃねえか。茉莉、あたいが頭をやる! あんたは周り、そして補佐を頼むよ」

「お願いします」

 

 軽く後ろに下がったところをすかさず桐音が入り込み、剣モードになっているヘビィディバイドで頭に斬りかかる。しかしやはりというべきかそれは斬るというよりも殴ると言った方が正しいだろう。

 加えて剣モードになっているおかげで滅気ビンの効果が発揮し、先端の球体に力が宿って更なる鈍器としての力を見せつけてくれる。

 リーダーの危機を見過ごせずルドロス達が桐音へと向かっていくが、それを防ぐように茉莉がシャドウジャベリン改を振るって止めていく。リーダーを救出に向かえないルドロス達は苦々しい声を漏らすが、こちらとしても死活問題だ。

 手を抜いている暇などない。

 

「ギュオンッ!」

 

 目の前にいる桐音へと噛みつき、頭突きをしていくが桐音はそれをヘビィディバイドで受け流し、反撃として一撃一撃を当てていく。当然頭を狙って一撃当てていっているため、少しずつロアルドロスの動きがぎこちなくなっていく。

 どうやら眩暈状態に近づいてきているようだ。

 それを見逃さない桐音、そして瑠璃ではない。

 

「せやああぁぁぁっ!」

 

 火竜剣【火燐】を回転させたままロアルドロスへと叩きつけるようにし、両の刃が連続してロアルドロスの体を傷つけていく。頭を揺さぶられるだけでなく、何度も何度も斬りつけられたことでロアルドロスが苦悶の声を上げ、体をくねらせ始めた。

 一度距離を取るように後ろへと下がり、そのまま立ち泳ぎをしながら瑠璃と桐音の出方を窺っている。周りの生き残っている数等のルドロスもまた同様だ。斬られていったルドロス達の死体がそこらに浮かんでいるか、沈んでいる。

 流れは再び瑠璃達へと傾いている。

 茉莉はシャドウジャベリン改を少し弄りながらルドロス達の位置を確認し、もう一度ロアルドロスへと視線を向ける。

 上下左右に気を配らねばならない水中は相手の位置を確認しなければ不意を突かれる可能性がある。瑠璃の補佐役を務めている茉莉は癖として相手の位置関係を確認する事が多い。

 というよりプライベートの時からよく観察している事が多いため、もはやこれは日常的だった。

 

(……? 妙ですね。一匹足りない)

 

 浮いている死体、生き残っている個体を数えてみたが、どういうわけか一匹足りなかった。死体の数が減っているのだ。

 死体が姿を消す何てことはあり得ないが、実際に姿が消えている。

 

(これは一体――――っ!?)

 

 ふと、川底の方へと視線を落としたとき、何かが僅かに動いたような気がした。

 見間違いなんかじゃない。砂がゆらりと動いたのだ。

 それに従って生えているはずの水草が動いたようにも見えた。

 そんな馬鹿な話があるはずがない、普通ならば。しかし現在入っている情報を知っているならば、あれが見間違いで片付けられるようなものではないという事はすぐに思い至る。

 

「みなさん、下に注意を! 奴がいます!」

 

 茉莉が叫び、その言葉の意味に気づいた二人は下にも気を配り――そして突然強い水流が発生する。

 いや、これは自然な水流ではない。川底に向かって強い流れが発生したそれが、自然なものであるはずがない。それに抗うように足から気を放出させてその水流から逃れるが、水流はゆっくりと横にずれていき、ルドロスの死体や小さな流木、魚達を巻き込んで吸い込んでいく。

 ロアルドロスも突然の水流に反応し、唸り声を上げながら吸い込まれないように後ろへと立ち泳ぎで逃げていく。

 あれに逃げられず、巻き込まれてしまったものはというと、水流の先にいるものへと向かっていく。

 そこにいたのは大きな口を持つ魚のようなもの。開かれた口には鋭い牙が生え揃い、濃い茶色い肌をした体、額の先には提灯のようなものがぶら下がっている。

 あれが奴の異名の元となったもの。

 灯魚竜チャナガブル。奴こそがこの水没林で行われたクエストに乱入してきた存在だ。

 水流は奴が大きく息を吸いこんでいった事で発生したもの。ただの息吸い込みであれほどの水流を発生させてしまう。そしてそれに巻き込まれた者の末路は――

 

「グォンッ!」

 

 砂の下から勢いよくチャナガブルが飛び出し、吸い込んできた物を纏めて口の中へと呑み込んでいく。

 そう、文字通り一口で呑み込んだ。丸呑みである。

 ルドロスの死体といっても結構な大きさをしている。それすらも丸呑みだ。軽く咀嚼をしてごくんと呑み込むと、その小さな瞳がゆっくりと瑠璃達を見回していく。

 

「ギュルルル……」

「グルルルル……」

 

 チャナガブルが何かを考えるかのような声を漏らすと、ロアルドロスがそんなチャナガブルを睨みながら唸る。奴からすれば死んでしまった仲間を喰われてしまったという事になる。思うところはあるようだ。

 そして瑠璃達からすればここで来たか、としか思えない。ついでにいうとタイミング……というより地形的に悪い。

 ここは狭い。

 崖と森に挟まれた地形をしているため、横幅が狭い。

 いや、これでも人が泳ぐだけならば広さはある。だがそこにロアルドロスとチャナガブルまで存在しているとなると狭く感じるのだ。

 

「どうする?」

「決まっているでしょう。ここは一時撤退するしかありませんよ」

「ちぃ、仕方ないね。が、やむなし……選択肢はそれしかないか……!」

 

 こんな狭い水中で二頭同時相手など危険すぎる。ならば体勢を立て直すという意味でも撤退しか道はない。幸いチャナガブルの吸い込みから逃れるため、エリア4側へと逃げていた事もあり、すぐに撤退する事は可能だ。

 後はそれをあの二頭が見逃してくれるかどうかだ。

 

「グバアアアッ!」

 

 チャナガブルが威嚇するように大きく口を開けながら体を震わせる。

 

「ギュオオオオオッ!」

 

 舐められないようにとロアルドロスもまた威嚇するように吼えた。お互いの意識がそれぞれの敵へと向けられた今が好機。三人は静かに後ろへと立ち泳ぎをしていき、機を見て一気にドルフィンでエリア4へと移動していく。

 残された二頭は威嚇を繰り返した後、ロアルドロスがチャナガブルへと一気に突進していき、チャナガブルがまた大きく口を開けて迎え撃った。

 強い水流と衝撃が発生したが、すでにエリアにいない三人は強い気と気がぶつかり合っているとしか判別できないのだった。

 

 

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