集いし者たちと白き龍   作:流星彗

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これより第二部が始まります。
主に戦闘が埋め尽くされる予定ですが、同時にプルートたちについても触れることになっていきます。
また、色々明かされることになっていくかもしれません。


厄介な存在は大いなる砂の海へ消え去るのみ
51話


 

 

 そこはまさに死地にして地獄絵図。

 地平を埋め尽くすは屍の群れ。その中に生きている者は少数でしかない。赤く染まる大地に倒れ伏せる屍は千を越えるだろうか。立っているのは強度の高い鎧に身を包む戦士達と、それらを見下ろす一頭の龍。

 黄色く枝分かれした二本の角を持ち、白と黒の鱗と甲殻、鳥のような翼を持つ巨龍。それだけでなく手首や足、翼の一部分に水晶のようなものが生え揃っており、それが夜の闇に淡い光となって浮かび上がっている。

 白と黒、相反する色と水晶の光。これが星の光に例えられる要素だとでも言うのだろうか。だがその星は残虐にして無慈悲な存在だった。

 

「こんな、こんな……馬鹿な事が……ッ!?」

 

 一人の男が歯噛みしながら震える声で呟く。

 夢であってほしいと願いたくなる。それほどまでに信じられなかった。

 たったの数分でこのざまだ。共に戦場を駆け巡り、共に多くの竜と戦い、その全てに勝利してきた彼の軍は、壊滅状態へと陥っていた。

 

 そう、この無数の屍は彼の軍に所属している戦士達だ。

 原形をとどめているのは少数でしかなく、多くは体がバラバラになっているか、消失しているかの二択しかない。

 

 全ては、奴が放ったブレスの直撃と、そこから生まれた強風の如き衝撃波によるものだった。よしんば接近できたとしても、振るわれた爪と尻尾によって体は引き裂かれてしまった。

 国の技術を以ってして作られた装備など、奴の前では無意味だったのだ。

 

「王よ、お逃げください! ここはあたしたちが食い止めます!」

「ならぬ! 我が貴様らを置いて背を向けるなど、出来るはずもないわっ! そもそも、我らが敗れるという事は、背後の我が国が滅びると同義! 無垢なる民を死なせることなどあってはならぬわぁッ!!」

 

 そう叫ぶ王。

 右手を前に出して力を籠めて彼は苦い声で言葉を放つ。これが自分達の反撃の一撃だとばかりに、彼は習得している力の中でもより高い力を発揮できるものを選択した。

 

「雷神の神雷! 天より来たりしは無慈悲なる裁きの(つるぎ)。地上の贄を喰らい、その名を知らしめるものなり! 今こそ天の門を開き、その御業を世に示せ!」

 

 その詠唱に従い、巨龍の天上に幾多もの魔法陣が形成され、凄まじい勢いで雷の粒子が空へと舞い上がっていく。それはまさしく天へと集う星。数多の星が、巨星へと抗うその姿。

 それが奴には興味深かったらしい。視線を動かして星々の光を眺めている。

 特に抵抗らしい抵抗もない。まるでそれは帝王が臣下の反逆の動きを知っていながら放置し、その抵抗を楽しんでいるようだ。それが王にとって癪に障り、更に出力を上げていく。

 そんな王の姿に、周りの兵士達も動いた。

 王のために、国に残した家族のために、かの巨龍へとそれぞれの魔道の術で攻撃を仕掛けていく。

 紅蓮の炎が。

 真空の刃が。

 圧縮された水流が。

 大地から穿つ石柱が。

 それぞれの攻撃が襲い掛かるも、それでも奴は小さく唸るだけ。傷ついてはいるようだが、大きな傷にはなっていないようだ。これが、龍だというのか?

 自分達の攻撃など意に介さない大きな存在。あんな龍が、存在していたというのか?

 その事に戦士達は更なる震えを覚える。

 だがそんな彼らの怯えを吹き飛ばすかのように、天上から神雷が降り注ぐ。地上の者らを悉く吹き飛ばし、散りも残さない勢いで降り注ぐその数多の雷を受け、ついに巨龍は悲鳴を上げた。

 その光景に戦士達は眩い光に顔を庇いながらも声を漏らした。

 通用した。

 王が持つ魔道の力の中でもトップクラスに君臨する力が、奴に通用したのだ。

 やがて雷が収まり、それを受けた巨龍が倒れる姿を誰もが望んだ。

 だが、奴は――倒れなかった。

 バチバチと体中に残った電気が弾けているが、奴は一歩前進した。黄色い瞳がじっと王達を見据え、低く唸り声を上げている。そのまま力を溜めるように気を集めれば、それに従って奴の体にある水晶が光を放ち出す。

 それを見た王は素早く詠唱して攻撃を仕掛けるも、それは防御するように構えられた両腕に遮られる。そうしている間も水晶は光を溜めていき、夜の闇に眩しく光る光源となっていく。

 あれは最初に見せたブレスの予備動作、いやそれに至るまでの準備だ。それを止める術を、自分達は持っていなかった。

 

「……すまない、皆の衆。我は、お前達を守れなかった……」

「よいのです、王よ。我々はあたしたちは王と共に最後まで戦えた事を誇りに思います」

「俺達は最期の時まであなたと共に在ります。プルート様、そう嘆く事はありません」

「そうだぜ、プルート。気落ちする事はねえ。それに、最後までこうして棒立ちってのも俺達の流儀に反するんじゃないのか?」

 

 王――プルートの肩に優しく手を置いた屈強な戦士の男がにやりと笑みを浮かべる。彼の手には鋭い切れ味を感じさせる大剣が握られており、それには彼の気が纏われていた。

 笑う彼を見て、プルートは気づく。周りの者らも彼に倣って笑みを浮かべている事に。

 彼らは死を恐れてはいない。むしろ、上等だとばかりに不敵に笑って見せている。

 それは死を覚悟し、プルート共に死ぬことを誇りとし、最期の最期まで抗っていせようと決意する男の顔だった。

 彼らを前にして、気落ちしている暇などない。プルートはぐっと拳を握りしめて己の相棒を手にして顔を上げた。

 

「礼を言おう、アーサー、アドラー、モーガン。もう少しで我は無様な死を遂げるところであった」

「なぁに、気にする事はない。俺の親友が目にも当てられない死を迎えようなんてことになっては俺が困る。では……最期の一撃を奴にお見舞いさせてやろうぜ!」

『応ッ!』

 

 そうして彼らは走り出す。先頭を往くのはプルート。それに続くようにして彼の友、アーサーが往く。それに続く戦士達だが、それらを見据えて巨龍は溜めに溜めた力を解放し、圧縮された光の力を撃ち出す。

 光は大地を焼き尽くし、倒れ伏す屍達すらも蒸発させる勢いだ。迫りくるその無慈悲なる光にプルートたちは避けるが、逃げ遅れた戦士はそれに飲み込まれて骸を残さない。

 背後で悲鳴も漏らせず消えていく戦士達を感じながらも、プルートたちは足を止めず、巨龍の懐へと入り込んでいく。そうして構えた大剣を一気に振り上げれば、凄まじい力を纏う剣閃となって巨龍の足から腹へと襲い掛かった。

 先ほどの神雷の影響で体が弱っているのか、勢いよく傷がはしって血が噴き出したようだが、それに奴は倒れることはない。

 逆に振るわれた爪によってまた誰かが死んでいく。振るわれた尻尾が襲い掛かるもプルートとアーサー達はやり過ごし、反撃の一撃を更に当てていく。

 

「我が一撃を受けるがいい!」

 

 アーサーが更なる一撃として構えた大剣から先ほど以上の気刃が放たれ、足から胸へと届く傷を作り上げるが、奴は呻くだけに留まった。頭上から血が降り注ぐが、それに続いて奴の体が押し潰しにかかってくる。

 それから逃げるが、奴は四足の状態となり、背後に下がりながら圧縮された空気を撃ち出してくる。それを躱したが、避けられなかったものは腕を吹き飛ばされて悲鳴を上げている。

 続けて水晶が光を帯び、連続して光弾を撃ち出してくる。それを躱して今度はプルートが仕掛けていく。

 

「風神の神風! 吹き荒れるは無情なる刃の檻。大地の贄を呑みこみ、その名を知らしめるものなり! 今こそ空を走り抜け、その力を世に示せ――っ、ぐ、はっ……!?」

 

 最後まで詠唱しきったその時、プルートの口から血が噴き出す。緑色の粒子が世界を暴れるように動き、次々と宙に魔法陣が描かれていくが、それに従ってプルートの顔色が悪くなり、傷つき始める。

 高位の魔道行使による反動だ。思わずふらつき、膝をついてしまったところで、奴が光弾を撃ち出し、それはプルートの左肩を吹き飛ばした。宙を舞う彼の左腕は回転しながら血を撒き散らし、離れた所へと落ちていく。

 だが同時に、魔法陣から幾多もの風が発生し、縦横無尽に空を走り抜けて奴を傷つけていく。斬り刻んだその刃はいつしか竜巻となり、一気に体力を削っていくのだが、それでも倒れ伏せることはない。

 強靭な肉体と鱗がそれすらも防ぎきっている。

 

「グオオオオオォォォォォォォッッ!!」

 

 響き渡る咆哮。

 輝く白い鱗と水晶。

 再び高まりつつある光の力。それを前に、プルートは動けなかった。

 臆したわけではない。体が、限界だったのだ。

 ここに至るまでに戦い続け、高位の魔道を行使した事でもう体力と精神力が擦り切れてしまったのだ。そんな彼をサポートするため、アーサーが再び大剣に己の気を纏わせ、それだけでなく魔道の詠唱を行い、真空の刃を纏わせていく。

 

「おおぉぉぉぉらあああぁぁぁぁッ!!」

 

 勢いよく振り下ろされた大剣から放たれる剣閃と風の二重の刃。プルートの左腕を吹き飛ばしたように、奴の腕か翼を吹き飛ばそうとしたのだが、やはりというべきか強靭な鱗がそれを阻む。

 

「はあああああぁぁぁぁぁッッ!!」

 

 それに続くように、モーガンと呼ばれた女性が構えた槍を勢いよく投擲する。空を切って巨龍へと向かっていくその槍は、彼女が纏わせた気と魔力によって周囲の風と力の粒子を収束させて一陣の風となる。

 何もかもを巻き込んで己の力とした槍は奴の左肩を貫き、翼の一部を抉り飛ばして体に突き刺さり、動きを止めた。それまで蓄積されたダメージによってあの負傷を与えたのだ。まさに人々の力が合わさり、奴にとって痛恨の一撃となっただろう。

 だが、それまでだった。

 彼らはよく戦い、抗った。

 

「――――ッ、GAAAAAAAAAaaaaaaaa!!!」

 

 高められた力が解放され、大地を貫き焼き尽くすブレスがプルートたちを襲い掛かり、飲み込んでいった。何か言葉を残す間もなく、彼らはそれに体を焼き尽くされ、この世から消えてしまった。

 

 

「……っ」

 

 目が覚めれば見慣れたテントの屋根が見えた。それをじっと見つめていると、気分が少し高潮しているのがわかった。どうやらあの夢の影響らしい。よもやあのような夢を見ることになるとは思わなかった。

 それだけ神倉月に勝利を収めた興奮が抜けきらなかったのか、あるいは高位の魔道を行使した影響か。頭を振りながら起き上り、テントを抜けるとたき火に当たって寝ずの番をしている刹那がいた。

 

「……起きはりましたん?」

「ああ、少し、な」

「そう。なんか呻いとったような気がしはりましたけど……夢見でも悪かったん?」

「…………」

 

 その言葉にプルートは無言になり、闇の中に燃えるたき火をじっと見つめる。

 夢見が悪かった……ああ、たぶん悪かったといえるだろう。なにせ自分が死ぬ時の光景をもう一度見てしまった。かつての親友と部下達の死も見てしまい、同時に因縁の相手を前にしてしまった。

 恐らく自分にとってこれ以上の夢見が悪いものはないだろう。

 

「……深い事は聞かへんでおこか」

「うむ、そうしてくれるならばありがたい」

「ん。……んで、天はずっと寝とる、と」

 

 視線がテントの方へと移り、その奥で眠っている天和を見つめる。布団に潜って眠りこけているようで、プルートが呻いていたことには気づいていなかったらしい。まあ、久しぶりに多くの人を斬り伏せ、それだけでなく月の死体を届けてそのまま夜通しとんぼ返りをしてきたのだ。

 あまり寝ていないという事もあってずっと眠ってしまっている。たぶん起きたらたらふく飯や酒を消費するだろうが、それはいつもの事なので気にしない。

 

「少し早いが、ここからは我が変わろうぞ。刹、お前はもう寝ても構わぬ」

「そう? よろしいんです?」

「ああ、ゆっくり休むがよい。明日はタンジアの港に入るのだからな」

「せやな。じゃあお言葉に甘えさせてもらいますわ」

 

 ぺこり、と頭を下げて刹那はテントへと入っていく。

 それを見送り、プルートはたき火に薪を追加させて火力を調節し、飲み物を用意して深く座り込む。

 

(……アーサー。あの世でお前は我を待ち続けているのか? だとすれば、随分と長く待たせ続けているだろうな。いつまでも来ぬ我に苛立っているだろうよ、すまぬな)

 

 無二の親友にして共に戦場を駆け巡ったアーサー。幼い頃より共に育ち、共に剣を振るい、共に魔道を高め、共に戦いを乗り越え――共に死んだ。

 生まれた時は違っても、死す時は同じだったが、プルートは残念ながら黄泉の国へと向かう事はなかった。プルートの無念と怒り、様々な感情が彼を現世へと留め、長い時を経てこうして蘇った。

 

(それともアーサーよ。お前はまた別の誰かとなって蘇っておるのか? だとすると、一体誰になっているのであろうな?)

 

 輪廻転生によってこの世界の誰かとなって生きている可能性も捨てられない。とはいえそれが事実だとして一体どこの誰になっているのかはわからないだろう。それに前世の記憶を持っている可能性は限りなく低い。

 出会ったとしても自分の事を知っているはずもない。

 

「……クク、我らしくもない。やはり昨日の一件が尾を引いているようだな」

 

 こんな事を考えるなんてどうかしている、と自嘲する。

 目標の一つである神倉月の撃破に達成できた興奮が収まらない。その影響かあの夢を見てしまう事もあって気分は十分にかき乱されている。これではもう眠れやしない。

 寝ずの番をするならば全く問題ないので、辺りを少し警戒しつつ夜を超す事になる。

 たき火をぼうっと見つめながら、プルートは夜を過ごしていくのだった。

 

 

 ○

 

 

 あの大事件から二週間。

 まだ神倉月の死の影響力は残っており、彼女に対して思うところがある人達は悲しみに暮れていた。

 そして昨日、このタンジアの港へと訪れた瑠璃達はその悲しみを振り切り、今日からの活動へと意識を切り替えている。ユクモ村を出て南下し、海に面したこの港町を新たな拠点として活動する事になった。

 昨日の夜に到着し、ギルドで登録を済ませた事でこれからここを拠点として活動する事が可能になった。一晩ゆっくり休めた事で疲れもとれたし、狩猟に出る事は問題なくなる。

 

「今出回っているクエストをざっと見てきたところ、確認できたのは海竜ラギアクルス、水竜ガノトトス、大海蛇シーサーペント、水獣ロアルドロス、尾鎚竜ドボルベルクですね」

「流石港町。海に関係するものが多いようね」

「お二人は水中戦はどんな感じッスか?」

「回数は少ないですが経験はありますよ。十兵衛さんはどうです?」

「おいらもそれなりに経験はあるッスよ。……ヘビィ使いからすれば水中戦は結構火力があったりするッスからね」

 

 水中を突き進むため弾丸の飛距離は落ちるが、水中で生活するモンスターは体が大きいものが多く、跳弾効果がある通常弾Lv3や、対象を貫く貫通弾によって一気にダメージを与える。

 水中では陸上と違ってその機動力の低さもそれほど関係がなかったりするため、その高い火力をどんどんぶっ放す事で殲滅攻撃を発揮する。

 タンジアの港に出回るクエストの大部分は、海に現れた危険なモンスターの討伐依頼が主だ。それだけでなく海から繋がる川の周辺や森、北西に広がる砂漠地帯、離れた孤島にある火山のクエストも存在している。

 さて、そんなタンジアの港に出回るクエストを茉莉が確認しに行ったわけであるが、どのクエストに行ってみるべきか。

 ここで聞きなれないモンスターの名前がある事に気づく。

 大海蛇シーサーペント。

 名前の通り海に存在する蛇竜種であり、その大きさは通常のモンスターの中で現在最大と言われているアグナコトルといい勝負か、それよりも長いとされる。

 その巨大さから小舟から少し大きいくらいの船ならば、丸呑みか大部分を破壊しながら喰らい尽くしてしまいかねない程のものであり、そうでなくとも牙には麻痺毒があって確実に獲物の動きを封じて喰らいついてくる。

 普段は大海の向こうや深い海に潜み、魚群やルドロスなどの小型モンスターを捕食して生きている。ラギアクルスと並んで漁師や船乗りにとって危険視されている存在として近年名が知られている存在だ。

 その危険度から上位以上のハンターしか相手に出来ないモンスターではあるが、上位ハンターでも厳しいとされており、大抵はG級に認定される存在とされている。

 なので自分達には少し厳しいので除外しよう。

 上位以上のラギアクルスならばいい勝負になりそうではあるが、森に存在する獣竜種ドボルベルクもまた厳しい相手として壁になり得るだろう。

 だがこの先、海で戦うならば水中戦に慣れていくのはアリだろう。それならば同じく海では厳しい相手となるガノトトスも候補に挙がってくる。

 選ぶならばこれらの内のどれかとなる。

 ふと、そこで一人の男がクエストボードから一つの依頼書を手にしてカウンターへと向かっていく。

 

「……あの人、シーサーペントを持っていきましたよ」

 

 じっとその依頼書を見ていた茉莉がそう呟いた。

 赤髪に和服、シルバーのロザリオを下げたその男はカウンターにその依頼書を置くと、「これを頼む」と受付嬢へと告げる。

 

「お一人ですか?」

「いや、あそこにいる天と刹も含めての参戦よ」

 

 そう言って彼は親指である一席を示した。そこには真紅の長髪をした女性が机に置かれている料理をどんどん平らげ、酒をがぶがぶ飲み干している。その対面には艶やかな青色の長髪をした女性が座り、瞳を閉じたまま酒を静かに呑み進めている。

 彼女らを見た十兵衛が小さく「……出来るッスよ、あの人達。とんでもないッス」と呟いてしまう。骸の仮面の奥から何が見えたのかは言うまでもない。彼女らが纏う雰囲気、気迫などを感じ取ったのだろう。

 

「問題あるまい?」

「はい、受理いたします」

 

 恐らくここで活動しているハンターなのだろう。メンバーを確認した受付嬢は問題なしとしてクエスト受理を認めた。そんな様子に少し驚きながら、クエストを受理させて仲間の二人へと報告する男の様子を眺める。

 そして彼らは準備をするために酒場を後にしていった。机の上にあった数人分の料理は綺麗さっぱり消費して。

 その光景に茉莉は一つの記憶を思い出した。

 

「どこかで見た事があったと思えば、あの女性の人ってある村にやってきたうわばみさんじゃないですか」

「……ああ、桐音と初めて会ったあの村の? こんなところまで来てたのね」

 

 あれから一カ月以上も経過しているのだ。ここにやってきていたとしてもおかしくはない。しかもあの時は一人だったのに仲間がいる。ここで出会ったのか、あるいは合流したのか。

 実力者として気になるところではあるが、自分達もクエストを選んで受注しないと。

 先ほど茉莉が挙げたクエストを選ぶ事にする。

 お茶を飲み干し、茉莉がどうしますか、と視線で問いかける。後々の水中戦に体を慣らすためにラギアクルスかガノトトス、どちらかが候補に挙がるだろう。

 さて、どちらを選ぶか、だが……。

 得られる素材から次なる装備を作るとなればどっちがいいだろうか。

 

「ラギアクルスがいいんじゃない? 海の代表格だし、いい相手になると思うんだけど」

「十兵衛さんは?」

「おいらも意義はないッス」

「では受注してきましょう」

 

 茉莉がクエストボードへと向かい、ラギアクルスの依頼書を取って席へと戻って三人分のサインを描いてカウンターへと向かっていった。依頼書を置き、メンバーを申請し、ここに受理される。

 

 大海の王・ラギアクルス。

 対象:ラギアクルス。

 場所:孤島。

 不安定。

 

 ランク的にも問題なく受け入れられ、三人は宿へと向かって準備を進める事にした。

 久々の水中戦であり、しかも海での水中戦となればラギアクルスに大きく分がある。

 奴にとって海とは本領を発揮する領域であり、人の身で海で抗うにはおこがましい相手だ。そんな相手……海竜との戦い。

 何としてでも勝利を収めて幸先のいいスタートを切りたいところだ。

 

 準備を整えて港へとやってくると、先ほど酒場で見かけた三人のハンターがそこにいた。彼らも狩場が孤島のようだが、別の島らしい。だが近場の島々を船が回るようで、同船して移動する事になったようだ。

 相手方のリーダーはこの男性らしく、瑠璃達が同船すると聞くと「ほう、珍しい顔ぶれではないか」と首を傾げ、そしてにっと笑って握手を求めてきた。

 

「短い間ではあるがよろしく頼むぞ。我は天王寺冥夜という。この者らは我の戦友、東風天和と壬生(みぶ)刹那だ」

「……どーもー、んく、んく……」

「よろしゅうな」

 

 うわばみの女性はこの船でも相変わらず飲んでいるようだが、こっちは水を溜めた瓶らしい。流石に船の上で大酒を呑むなともう一人の女性、刹那に止められたようだ。

 そして先ほどから気になっていたがその刹那はずっと目を閉じたままだ。その佇まいとからいいところのお嬢様を思わせるが、そのずっと閉じられた瞳に首を傾げてしまう。

 

「失礼ながら壬生さんは……」

「ああ、これ? この通り、ウチは目ぇ見えへんのよ」

「見えてないのに……ハンターやってるの?」

「そうやなぁ。……でも、見えへんからって戦われへんわけやないで? 盲目でも剣を振るう剣士なんて過去に何人かおるしな。ウチも、その一人ってわけや」

 

 その口ぶりからして恐らく彼女は剣士と予想される。身を包むのは東方の侍と呼ばれる剣士の服装を模した防具、日向・覇シリーズを身に包んでいた。素材に使われたのは大砂漠を航海する古龍種ジエン・モーランであり、高い防御力を誇る防具だ。

 それを着ているだけでも彼女が実力者である事は明らかだろう。

 確かスキルは心眼、見切り+2、集中、回復速度-1が発動するはずだ。

 一方握手を求めてきた天王寺冥夜――プルートの装備はバンギスシリーズ。イビルジョーの素材を使用した装備であり、彼の纏う気迫と相まって強い気を放っている。

 そしてぼうっと海を眺めながら水を飲み、手にしている肉を食べている東風天和はというと、雷狼竜ジンオウガの素材を使用したジンオウシリーズを身に纏っていた。野性的な外見と中身のギャップが見てとれるのだが、恐らくそんな事は彼女は気にしないだろう。

 そのスキルは雷属性強化+1、業物、力の解放+1、挑発だったか。

 それにしてもジンオウガ、ジエン・モーラン、そしてイビルジョー……。

 強力な個体を討伐した事で得られる装備を纏う三人。なるほど、これだけの実力者ならば問題なくシーサーペントを相手に出来るというわけだ。

 

「天王寺さん達はずっとタンジアの港で活動を?」

「うむ。我が父の領土が近くにある故な、あそこが主な活動拠点として利用させてもらっている」

「領土? ……ああ、そういえば西の方に天王寺の領主様がいらっしゃいましたね。なるほど、あなたはその領主様のご子息様でしたか」

「そう畏まらなくてよい。確かに我は領主の息子ではあるが、今ここに存在するは一介のハンターに過ぎんのだからな」

 

 にやりと笑ってみせるプルートに高貴なる者の見下すような雰囲気は感じさせない。友好的でいい人だと感じられる人物だ。刹那も盲目ではあるが、その佇まいに危うさはなく、波に揺れる船の上だろうとどうという事はない風にそこにいる。

 道を歩く様も、船に乗る動きも問題はなかったようだし、どうやら防具のスキル以前に彼女自身が心眼を持っているようだった。

 そんな彼らへと茉莉は何度か頷き、切り込む。

 

「そういえば少し前にタンジアの港で大事件があった事はご存知ですよね?」

「大事件? ふむ、それはもしや神倉月の事か?」

「ええ。あそこを拠点としているなら、当時どんな様子だったのかご存知かと思いまして、如何でしょう?」

「確かにあの日は早朝から大騒ぎだったと聞く。当然であろうな、あの神倉月が何者かに殺されたのだ。騒がない方がおかしいだろうよ。……だが、我らはその日、クエストのために港から離れていた故な、戻ってきた時には既にあの者の死体は移送されておったよ」

 

 少し悲しげに表情を歪めながらプルートはそう語る。その様子に海を眺めていた天和はちらりと彼を見やってすぐに視線を戻し、刹那もまたプルートに倣うように悲しげな表情を浮かべて佇んでいる。

 なんとまあ、大した演技だと知る者は言うだろう。

 その“何者か”が自分達だというのに、彼らは見事にそれを隠して語り、佇んでいる。

 確かに彼らは当日タンジアの港にいなかった。それをハンターであるが故の理由、クエストのためと語って容疑者から外れてしまっている。実際当日プルートはタンジアの港ではなく近くの村へと滞在しており、その理由がクエストをこなしたからであるため問題ない。

 また殺された現場が特定されていないので、本人らが語らなければ真相は闇の仲だ。大抵の者らはタンジアの港付近で殺されたと思ってしまう。真実はそこから数十キロも離れた場所だというのに、だ。

 それに茉莉は気づく余裕などない。

 「そうですか……」と頷いてそれ以上問いかける事はない。

 

「神倉月の事、気になっておるのか?」

「ええ、彼女は親しくしてもらっていましたので」

「なんと、知人であったか。……心中、察する」

 

 そう言って黙礼するプルート。それに瑠璃は無言で視線を外しながら手を握りしめて悲しみを堪えている。一方十兵衛はじっと無言でその会話のやり取りを眺めていた。いや、実際は茉莉と会話しているプルートを眺めていた。

 骸に隠されたその素顔がどのような表情を作っているのかはわからない。ただ彼はプルートを……彼が提げているそのシルバーとペンダントをじっと見つめているようだった。

 そんな彼に、音もなく刹那が近づき、

 

「……どない、しはりましたん?」

 

 と声を掛ける。突然声を掛けられて十兵衛はびくっと体を震わせ、さっと距離を取りながら刹那へと振り返る。その様子に刹那は少し驚き、「ああ……すんまへんなぁ。驚かせてしもうた?」と申し訳なさそうに謝ってくる。

 

「あ、い、いえ……おいらこそ、申し訳ないッス。な、なんか、用……ッスか?」

 

 初対面の女性という事もあってまた十兵衛はびくつきながらそう言う。もう慣れ親しんだ二人と行動しているので忘れがちだが、彼は人見知りなのだ。特に女性に対してはそれが如実に表れる。

 それに刹那は気づかず、くすりと微笑みながら十兵衛へと近づき、そしてプルートへと何も映さぬ視線を向ける。

 

「なんか、彼の事じぃっと見とったけど、なんか気になる事でもあるんかなって」

「あ……いえ、そんなわけじゃないッス……。すみませんッス……」

「いや、そう謝らんでもええんよ。……んん、そのたどたどしさに雰囲気……もしかして、他人に慣れとらん?」

「……はい、ちょっとした……人見知りッス」

「ああ、そらしゃーないわ。すんませんなぁ」

 

 驚きに口元に手を当て、それからまた頭を下げて謝ってくる刹那に十兵衛は両手を挙げて首を振る。「いや、そんな……謝らなくてもいいッス。おいらが、そういう性格なだけで、壬生さんが悪いわけじゃないッス……」と否定していくと刹那はそんな十兵衛にくすり、と微笑を浮かべて、

 

「そう?」

「はい。……だから、そう気にしなくてもいいッス」

 

 ぺこりと頭を下げる十兵衛にまた刹那は微笑を浮かべ、その件に関しては口にする事をやめる。そしてプルートへと視線を向けて「それで、彼の事をじっと見とったけど、どないしたん?」と問いかける。

 それに十兵衛は少し沈黙していたが「いえ、何もないッスよ。ただ領主の息子さんなのにハンターやっている人が増えているな、と思っただけッス」と答える。

 

「まあ、最近モンスターが色々活発化しとるしな。それに対抗しうる力を磨くのは大事な事なんよ。冥もそれに倣って力をつけとるみたいや」

「……壬生さんは、どうしてッスか?」

「ウチ? ウチは流れるままに、やな。最初は護身術として戦う力を磨いとったけど、それから小型モンスター、大型ととんとん拍子に相手を強くさせて、それに対抗しうる力を磨きあげとったらこうなっとった、ってオチや」

「そう、なんですか……」

 

 そう頷きながら十兵衛はちらりと隣にいる刹那を見やる。

 

(……確かに強さは感じる。それだけじゃない……魔力も結構あるように感じる。しかもそれを――覆い隠す力さえも。あそこにいる彼のように……)

 

 力を覆い隠す力を秘めたあのペンダント。それを持つのは領主の息子としてなのか、あるいは隠すだけの理由がある程の力を保有しているのか。それが気になってついじっと見つめてしまったのだ。

 それは刹那も同じなようで、その魔力を隠すように何らかの力が働いているようだった。

 一体何故そんな事をするのだろうか、と十兵衛は首を傾げる。

 だが考えたところで今日出会ったばかりの相手だ。それを知る術なんてどこにもない。

 それからはそれぞれ雑談をし、食事をとり、数時間の航海を経てそれぞれの狩場となる孤島へと移動していった。

 

 

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