ラギアクルスから放出される雷撃は奴を中心として周囲に放出され、救出にやって来た茉莉をこれ以上近づかせない。海底に押し付けられながら噛みつかれるだけでなく雷撃も仕掛ける。
これに十兵衛は逃れる術はない。
ただ受け続けるだけかと思われた。
茉莉も麻痺投げナイフを振るって気刃を放ち、麻痺毒を撃ち込もうとしたが、しかし毒が蓄積されてもそれが効力を発揮する事はなかった。
「こ、の……んぬ、ぉぉおお……ッ!」
体に纏わせた気と魔力がうねりをあげ、十兵衛に直撃してくる雷撃が構えられている右腕に収束する。強い雷撃が十兵衛を感電させ、意識を飛ばしにかかってくるのだが、しかし十兵衛は歯を食いしばって堪えていた。
ぎゅっと握りしめられた拳には直撃してきた雷撃の一部が集まっており、十兵衛の魔力と同調して彼の力と化す。そのままラギアクルスの頬を殴り飛ばせば、弾けた電撃がラギアクルスの鱗を吹き飛ばした。
「グルォッ……!?」
ただの殴りでは怯みもしないが、纏われている魔力と電撃の力がラギアクルスにダメージを与えている。そのままもう一撃、もう一撃と打ち込んでいくと、噛みつく力が少し弱まった。
その隙を逃さず左腕を抜き、殴った頬を蹴り飛ばして距離を取る。
逃げる際、食い破られたディアブロUガードの破片が零れ落ちていくのが見える。それを横目で見ながらラギアクルスから距離を取っていくが、すぐさまラギアクルスは顔を上げ、逃げる十兵衛を追って突進を仕掛けていく。
水中の動きはラギアクルスに大きく分がある。海竜という異名は伊達ではない。水中で人が彼らに泳ぎで勝てる道理はない。
だが緊急的な小回りの利く回避ならば若干ながらも分がある。十兵衛は足元から気を放出して瞬間的な爆発を起こし、その衝撃を利用して急速転進。前転しながらもラギアクルスの突進から逃げる事が出来た。
捉えられなかったことでラギアクルスがブレーキをかけながら反転し、十兵衛を睨みながら向き直って立ち泳ぎへと切り替え、ぐんっと距離を詰めてくる。その勢いのまま尻尾を振り上げてくるが、妃竜砲【姫撃】を構えながら背後に逃げ、装填した通常弾Lv3を射出して反撃する。
噛みつかれ、雷撃を受けたダメージがあるだろうに、十兵衛はそれを感じさせずに戦い続けている。その様子に茉莉はより頑張らなければ、という気持ちを高め、それが強い意志を持つ気と化して麻痺投げナイフに含まれる毒の力を高めた。
投げナイフの許容量を超えかねない気であるが故にみしみしとナイフが軋んだが、砕ける前に気刃としてラギアクルスへと放つ。何度も何度も毒を撃ち込んだ成果が実ったのか、あるいは彼女の戦う意志を含んだせいか、ついにラギアクルスが麻痺毒に侵されて体を痙攣させたまま動けなくなってしまう。
この好機を逃さず、十兵衛はラギアクルスの側面に回り込み、チップから火炎弾のベルトリンクを伸ばして妃竜砲【姫撃】へと繋ぐ。照準はラギアクルスの背中。弱点部位であるそこへと高速で火炎弾を撃ち込んでいく。
茉莉も麻痺投げナイフをポーチへとしまい、トキシックジャベリンを抜いてラギアクルスの顔へと突き入れていく。
「はぁっ!」
己の気はまだ昂っている。それがトキシックジャベリンへと注がれ、傷ついている部分を狙って連続して突き入れる。そんな二人に合流すべく、瑠璃もまたマスクを装着し直して潜水してくる。
背中に戻していた火竜剣【火燐】を握りしめ、まだ体にかかる鈍痛を堪え、意識を集中させて精神統一していく事で痛みを感じないようにする。そうして高められた純粋な闘気を火竜剣【火燐】に纏わせ、離れた所から初撃の剣閃を放っていく。
背中から腹にかけて切り裂かれたその一撃。火炎弾の嵐によって少しずつ脆くなっていた背電殻に至っては瑠璃の一撃によって頂点部分は若干削り取られていた。通用しているという事実を見て瑠璃は更に一撃、もう一撃と放ってラギアクルスへと肉薄する。
「……ふぅっ!」
精神を集中させている状態に入れば、瑠璃は掛け声も放たず静かに剣を振るう。気合を込める一撃ではなく、気を纏わせて精度を上げた一撃として斬りかかるのだ。長剣形態からダブルセイバー形態へと切り替えると、火竜剣【火燐】を回転させて連続して脇腹を斬っていき、両手で操りながら目にもとまらぬ連撃を加えていく。
すると積み重ねたダメージが通用したのか、少しずつ鱗が軋み、傷つき、噴き出る炎によって破壊され、肉を露出し始めた。そこを狙って更に斬り続ければ、ついに周囲の鱗を吹き飛ばす事に成功し、一気に肉へとダメージを与えられるようになる。
背電殻の方も火炎弾によって少しずつひびが入り始めているところだった。いくらG級に値するモンスターといえども、ここまで攻撃を加えられては傷も出来るというもの。
だがその好機もラギアクルスの体内に作られた抗体によって終わりを迎える。麻痺毒の影響がなくなり、体の痙攣が収まって束縛から解放されたラギアクルスが唸り声を上げて体勢を立て直す。
しかしすぐさま茉莉がトキシックジャベリンを引き、盾を嵌めている左手で腰に提げているシビレ罠を手に取ってラギアクルスの首に沿って降下し、胸の辺りに設置する。水に浮きながらそれは雷光虫の電気の力を解放させれば、再びラギアクルスの体が動きを止めてしまう。
当然この好機もまた逃さない。今度はその胸の部分を狙ってトキシックジャベリンを突き出していく。これだけ攻撃を仕掛けているのだ。昨日に続き、ラギアクルスへとまた毒状態へと貶める事がそろそろ可能だろう。
「……っ、火炎弾が……」
チップへと視線を落とせば、火炎弾の残量がもうほとんどなくなっている、という事を示していた。更に続けて引き金を引いていけば、全弾撃ち尽くした事を知らせてくれる。
だがそれで攻撃の手を止めるわけにはいかない。火炎弾のベルトリンクを妃竜砲【姫撃】から抜いてチップへと戻し、別のチップを叩いて通常弾Lv3を取り出して次々と装填。
背中……から少し下を狙って引き金を引いていく。跳弾によって連続してダメージを与えられる場所を狙って撃ち放つ。
(それにしても弱点部位である背電殻に火炎弾を全部撃ち尽くし、跳弾もいくつかしていたというのに、完全破壊には至らない、か。流石はG級……耐久力はとんでもない……!)
背電殻は破壊可能だ。
破壊する事で少しは帯電する量も減るし、力も低下する……はずだ。それに弱点部位という事もあるし、ラギアクルスにかかる負荷も大きい。だからそこを撃ち続けた。それも……百発近く。
火炎弾六十発、通常弾Lv3の跳弾が五十以上。これだけ撃ち尽くしたというのに、三分の一くらいしか削られていない。
上位のヘビィボウガン……それも上位のリオレイアの素材で作り上げられるものの中で一番の強化武器である妃竜砲【姫撃】から撃ち出される弾丸だというのに、まだまだダメージは甘いらしい。
上位のラギアクルスならば、もうそろそろ背電殻が大きく欠けてしまうだろうに。その差異に十兵衛は心の中で舌打ちしたくなる。
だが今はシビレ罠によって動けなくなっている。まだまだ攻撃は続行だ。
「グ、グォ、オォォオオオ……ッ!?」
苦しげな声を漏らすラギアクルスの口から涎が垂れ落ちていく。それにトキシックジャベリンが突き刺された部分から毒が染み込んで広がっていき、ラギアクルスの口から声に毒に侵された苦しさが混じりだした。
それに手ごたえを感じ、茉莉はトキシックジャベリンに更に気を上乗せさせて一気に突き入れてやる。何度も突いている事で胸の鱗も破壊されつつある。毒が回る事で守りも弱くなったのだろうか。あるいは気を上乗せさせたことで破壊力が増したか。
だが何度も突いたという事はそれに伴ってトキシックジャベリンの切れ味も落ちてきているという事実もある。高い切れ味を誇っていたトキシックジャベリンではあるが、それによってがきんっ、と小さく弾かれてしまった。
ランスが弾かれれば大きく隙が出来てしまう。本来ならばその隙に付け入られて一撃貰ってしまうだろうが、今ならば立て直すだけの時間がある。次々と刃を突き入れて追加の毒をお見舞いしていく。
「…………」
一方火竜剣【火燐】を振るう瑠璃はというと、どんどん肉を斬っていこうと回転させ続けているのだが、こちらも高速の連撃を叩き込んだことで切れ味が落ちているのだ。そろそろ砥石を使って切れ味を戻したいところだ。
しかしこの好機にそんな事をしているよりも、今は少しでもダメージを積み重ねておきたいという心境が勝る。
やがて海に赤が多く混ざりだす頃、シビレ罠の効力が消え、ラギアクルスは再び自由を手に入れる。それを見越して三人は一斉にラギアクルスから距離をとった。
そんな三人を見回し、ラギアクルスは大きく息を吸いこんで怒号を発する。
またしても怒り状態へと移行したようだ。当然か、動きを止められていいように攻撃され続けていたのだ。奴からすれば小さな存在にここまでいいようにされては怒りも高まるというものか。
三人はラギアクルスから離れると、それぞれのルートで陸を目指す。
水中で怒り状態のラギアクルスを相手にするなど危険だ。だから陸に上がって怒りが収まるのを待つ。そういう作戦だ。
だがラギアクルスは逃さないといわんばかりに水を蹴って十兵衛に向かって突進を仕掛けていく。素早く急降下し、突進をかわしたがラギアクルスは反転し、尻尾を叩きつけてくる。
今度はそれを貰わずに避け、一発通常弾Lv3を射出して反撃しながら横へと逃げる。
それを見逃さずに雷弾を撃ってくるがそれも躱し、もう一撃は気弾を蹴って相殺させる。ちらりと横を見れば瑠璃と茉莉はもう陸近くまで離れていた。
十兵衛もそれに続こうとするが、ラギアクルスが水を蹴って泳ぎだし、側面から回り込むように十兵衛に接近していく。まるで彼の行く手を封じるかのような泳ぎだ。そうして進路を塞ぎ、ぐっと体を丸めながら背電殻から電気を放出すると、体の側面を使ってぶつかってくる。
「くっ……!」
何とか足の先から気を放出して瞬間的な移動をして躱したが、ラギアクルスは更に力を入れ、もう片方の側面からぶつかってくる。咄嗟に逃げの手を考えたがそれでは間に合わない。両腕で防御体勢を取って身構えるも、その巨体による衝撃と放出される雷撃が十兵衛の体を侵してくる。
だが十兵衛は己の体に気と魔力を巡らせて疑似的な障壁とし、骸の中で苦しげな表情を浮かべながら体を侵してくる雷撃の一部を、両足へと収束させてラギアクルスの胸を蹴り飛ばしてやった。そうしつつもう一撃片方の足で蹴りながらラギアクルスから離れ、それを追うように首を伸ばして噛みついてきたが、その鼻先へと踵落としをして小さく怯ませる。
「こん、のっ!」
その鼻先に両足を乗せ、圧縮した気をまるで爆発させるように解放させて一気に海上へとあがる。更にそれでは終わらず、気を放出して海から離れ、宙を翔けるように回転しながら陸上へと戻り、膝をついて着地した。
実に鮮やかな気と体術だ。やはり、とんでもない。
それに見とれている暇はない。ラギアクルスはまた海面から首を持ち上げ、低く唸りながら口元に雷エネルギーを収束させて撃ち出してくる。
しかしあそこまで距離があれば弾道も読める。三人は散開して回避する。その動きにラギアクルスはまた唸り、陸へと近づいてくる。
再び陸上戦となるのか。
しかし今回は退却を選ぶ。
三人はラギアクルスから背を向け、エリア9へと逃げていく。背後からラギアクルスの声が聞こえたが、それに気も留めず撤退していった。
エリア9を通過し、エリア5という広い場所へと戻ってきた三人は昼食の用意をする事にする。とはいっても肉焼き器を取り出してこんがり肉を焼き、ちょっとした山菜を添えるだけという簡単なもの。
それを食べ終えると瑠璃と茉莉は己の武器に砥石を当てて切れ味を戻していき、十兵衛は消費した弾丸を補填するために調合していく。全弾撃ち尽くした火炎弾と滅気弾Lv1、かなり消費された通常弾Lv3に、拡散弾Lv2。
手際よく調合を進めて弾を作り、チップへとそれぞれ収めていく。数分もすれば使用された弾丸が全て補填される。
腹も満たしたし武器の調子も取り戻した。再選の準備は整ったと言える。
だが果たしてどうやって奴を詰めていこうか。
怒り状態を避け、さらに海での戦闘を避け、陸上のみで決戦する。十兵衛は使った落とし穴も調合し直し、腰に提げる。茉莉もシビレ罠も調合し終えて準備完了。
さあ、戻ろうか……と思った刹那、海の方からラギアクルスが姿を見せた。
「っ!? 追ってきた、ですって!?」
「おーおー……殺る気まんまんってやつですね。まあ、移動の手間も省けましたし、海から離れたので歓迎ですが」
「でも気を付けるッスよ。攻撃を貰わないように……!」
話しの途中でラギアクルスが四足で駆け出し、接近してくる。それぞれ散開して一塊にならない、という基本の位置取り。正面には茉莉が盾を構えて相対し、そんな彼女へと途中で地面を蹴って滑っていく。
その突進を気を込めて防御したが、そんな彼女を更に後ろへと押しやるだけの衝撃。だがそれでも何とか堪えて防御し、反撃の一撃を与えながら横へと逃げる。それを逃さないように首を曲げて噛みつきにかかり、背後から斬りかかってきた瑠璃を尻尾を振るって薙ぎ払う。
噛みつきは盾で防ぎ、頬をトキシックジャベリンで突き上げて反撃。瑠璃も尻尾を飛び越して火竜剣【火燐】で尻や背中へと斬りかかっていく。また十兵衛が落とし穴を仕掛け終え、通常弾Lv2を装填して背中へと狙撃していく。
火炎弾によって傷ついた背中に対しての通常弾。それを着実に中ててダメージを狙っていくその時、何かに気づいて十兵衛は顔を上げた。骸の奥で視線を動かし、その何かを探してみる。
(……魔力反応? これは……監視系のもの。まさか、あの子が探しに来た?)
そんな事をする人物に心当たりがあるため気になってしまったが、それにしては少し違う気がする。
(この反応はあの子のものじゃない。また別の誰かだ。しかし……誰が?)
○
瑠璃達が戦っている孤島から離れた所にある孤島にて、プルートは使い魔を飛ばした先で見られる光景を魔力で繋ぎ、宙に映し出していた。彼の傍には刹那がおり、離れた所には死体となっているシーサーペントに向かって何かをしている天和がいる。
彼女の手にはあの刀があり、死体だというのにシーサーペントへと斬りつけて血を流させ、それを刀身に滑らせている。そうして十分に滑らせると刀に溶け込んだ血が紋様を描き、天和はそれを太陽の光を通してじっと見つめていた。
「……悪くない反応、か。また一つ、いい血が染み込んだ」
何度か角度を変え、刀の調子を確かめてみる。シーサーペントの血により、また少しこの刀に眠りし力が解放されつつある事が感じられる。それだけでなく刀身の煌めきも僅かに良くなってきている。
「えっと、これでどれだけ吸わせたっけ? リオ夫婦に亜種、ナルガ、ティガ、ラギア、ナーガ、ベリオにこいつ……ああ、ディアにガノスもいたっけ。んー……まだまだ足りなさそうか。いつになったら目を覚ますんだろうね、このお寝坊さんは」
呟きながらその刀の刀身をゆっくりと撫でていく。血が染み込んだことで紋様は薄く光を放っているが、微細な龍の力がそこに存在する事だけはわかる。
流石は竜殺し……いや、龍殺しの名刀にして妖刀。
伝説種にして七禍龍が一、冥蛇龍ディス・ハドラーを討った過去がある妖刀ではあるが、長い時の間眠り続けた事でその力が失われ、国宝として捧げられた刀。それがこれだ。
この眠りを解くためには、竜の血を再び吸わせていき、龍殺しとしての力を取り戻す事にある。この力がなければただの刀でしかない。
また人の血を吸っても微細ではあるが力を目覚めさせることが分かり、天和は人の血……それも強者の血を吸わせる事を目的として各地を放浪し、辻斬りをしていた。最初こそ上手くは行かず、そして秘匿され続けていたが、気づけば戦いを楽しむことも求めてしまう。おいたをしてしまって辻斬りの存在が知られ始めてしまったが、それでも天和はこの刀に血を吸わせ続ける事をやめなかった。
それにただ辻斬りをするだけではない。プルートのゴミ掃除、領主殺しにも参加して斬り続けたが、そちらに関してはあまり興が乗らなかったのもあったようだ。
人斬りもそれなりにいいが、やはり彼女にとっては竜斬りの方が性に合っているらしい。というより彼女の心を躍らせるだけの強者がいないという事が、彼女の気分を下げてしまっているようだった。なにせ彼女は昔も今も身近に化物クラスの実力者がいるのだから仕方あるまい。
さて、その化物クラスの一角であるプルートの使い魔が映し出している光景はというと、瑠璃達が戦っている孤島の様子だった。
数分でケリをつける、とプルートが昨夜叫んだが、実際には先ほどまで戦い続けていた。いや、その言い方は正しくない。数分間戦った後、シーサーペントが逃走してしまったのだ。
毒液とガスによって煙幕を作り上げ、その隙をついて深海へと逃げていったのだ。水中戦をする事は可能でも、人の身で深海まで潜るにはそれ相応の備えが必要となる。やむを得ず三人は退却し、数十分前にシーサーペントを呼び寄せるための撒き餌を用意して誘い込んだ。
奴の好むルドロスを数匹捕獲し、その臭いを増幅させて海面に投げ入れ、呼び寄せた。後はごらんのありさま。傷を癒すためにも食料が必要だった事もあり、シーサーペントは誘い出され、三人にいいように斬られ続け、息絶えてしまった。
必要な素材を剥ぎ取り終えると、天和は血を採取しはじめ、プルートは何となく同船していた瑠璃達の様子を見るために使い魔を放ってみたというわけだ。
そうして見えたものは、G級ラギアクルスと戦う彼女らの姿だった。
「向こうもG級のようだな。ふむ、あの者らにとっては厳しい相手か」
「助けなくてよろしいんです?」
「ふむ、そうするべきか、あるいは――竜魔族としての力を見極めてみる、か」
「……くす、興味が湧いたんです? あの、竜魔族のパーティに」
何の事もなく、二人は竜魔族、と口にした。船上で話した際にお互い自己紹介をしている。竜魔族とは瑠璃らは口にしていないはずだが、どういうわけか二人は竜魔族である事を見抜いてしまっていた。
「しかもあの男の方……気のせいやなかったら、あの家の血の気配を感じた気がするなぁ。天、あんたもどない? 気ぃついとった?」
「……んー? …………ああ、萩原十兵衛って奴? 確かに、あの家の気配はしたけどさ、有り得なくない?」
「せやなぁ。それにヤマト国じゃ見かけへんかったし……いや、ちゃうな。おられへんかった、とゆうべきやな。でもそうなると、萩原とゆう名字からして母親がそれに連なるって事なんやろうけど……」
「……んく、んく……二葉」
刀を鞘に収めた天和がローブから酒瓶を取り出してラッパ飲みをしつつそう呟く。そして刹那はというと天和が呟いた名前に「ああ……」と頷いて映し出されている光景へと向き直る。といっても、彼女にはそれが見えない訳だが。
「二葉……か。ウチらが……いや、あの武神が生まれる前にヤマト国から離れた女性にして、あの人の母親、四葉の姉、か。なるほどなぁ、それやったら可能性はあるわ」
「……ふーん、確かに特徴はある」
合流した天和が十兵衛の戦う姿を見てそう呟いた。それを肴に酒を進めている。
そうしつつ左手で鞘に収めた刀の鍔に親指を当て、カチ、カチ、と上げ下げしていた。どうやら斬り合ってみたい、と感じているらしいな、と刹那はその音を聞きながら思った。
「ふむ? 天と刹には心当たりがあるようだな? 聞かせてみよ」
そして刹が自分が感じた気配とそれを持つ家系の事について説明すると、なるほどと納得したようにプルートは頷いた。もう一度戦場の光景に視線を戻し「……興味深いな」と呟く。
「稀有な竜魔族のハンターのパーティというだけでも興味深いが……ふむ、少し足を運んでみるか?」
「よろしいんです?」
「良い。信号弾も打ち上げておらぬから船はまだ二日は来ぬわ。こうして稀有なケースに遭遇した上に、その希少さが消え果てようというのも惜しい。……それに、天と刹に微細なれど縁のある者の戦い、こうして使い魔を通すよりも実際に目にした方がよかろう? なあ、天よ?」
「……んく、ぷはぁ……。ん、実際に見た方がわかりやすい。私を……満足させてくれるだけの実力を持っているのか、ね」
そう言いつつまだ刀を弄る指の動きは止まっていない。気だるげでやる気のなさげなあの真紅の瞳は、小さくはあるが強い意志を感じさせる。……戦意だろうか? 表情こそ気の抜けたままではあるが、目だけは力がある。
それはまさに戦闘態勢に近しいものだった。
「ではこうしている暇はないな。……死体は、少し保護しておくか」
シーサーペントの死体に目を向けたプルートはぶつぶつと何事かを呟き、それによって死体は何らかの力によって囲まれた。三人がここから離れた事で他のモンスターたちによって食い散らかされ、分解されないようにするための処置。
これが自分達がクエストを達成した証となるのだ。ギルドが来るまでの間、守っておかねばなるまい。
準備を整えると三人に風の力を与えて体を浮かせ、それぞれ飛行して瑠璃達がいる孤島へと向かっていった。
○
(……消えた? 一体、何だったんだ?)
自分達を見張っていた監視系……使い魔を使った力が消えてしまった。途中で居なくなるとは、本当にあれは誰だったのだろうか。
いや、そんな事に気をとられている暇はない。今はただ目の前のラギアクルスを討伐する事だけを考えなければならない。それだけでなく、瑠璃と茉莉のサポートの事も考えなければ。
斬りかかっていく瑠璃へと尻尾を振り、盾を構えてトキシックジャベリンを突き出す茉莉へと噛みつきにかかるが、軽いステップで躱して頬や首へとカウンターを放つ。
もう一度噛みつきに来ても、横にステップしつつ盾で受け流し、顎をかちあげてやりながらトキシックジャベリンを一撃。が、また反撃が飛んでくる。
今度は噛みつきではなく、背電殻の発電。それによってラギアクルスの周囲に電気の一部が放出される。それも一度バックステップして距離を取るが、遠距離から攻撃する十兵衛にはその行動など隙だらけでしかない。
滅気弾Lv1を装填すると、背電殻へと照準を合わせて引き金を引いていく。放たれた弾丸は狙い通りに着弾し、疲労効果を与えていく。ラギアクルスは十分暴れ続けている。あれだけ暴れれば疲労も蓄積するというもの。
それにダメ押しするように滅気弾。その効果は、すぐに目に見える形で出てきた。
「グルォ……グ、グ……」
口元から涎を垂らし、息切れしたように呼吸が乱れてきている。
訪れた好機を逃さず、十兵衛は腰に提げていた落とし穴を一度地面に放り、茉莉へと向けてインサイドキックで蹴り飛ばす。滑るように飛んできた落とし穴に気づいて茉莉がそちらへと向かって回収し、ラギアクルスの懐に潜り込んで設置する。ピンを抜いてネットが広がり、十分に広がったところでラギアクルスが一気に地面に落下した。
疲労状態ならばこの落とし穴の効果も長く続く。もがくラギアクルスの頭を狙って茉莉はぐっと体勢を低くしながら盾を構え、己の気を注ぎ込んでいけば盾の前に彼女の気が展開される。
そうして一歩強く踏み出しながらラギアクルスの頭へとぶち当てていく。鈍器によって頭を揺さぶられるという衝撃にラギアクルスが呻き声を上げるが、まだまだ盾をぶち当てて頭を揺さぶっていき、そうして積み重なった結果はラギアクルスの眩暈。
力が抜けてぐたり、と首が地面に倒れて動かなくなっていく。
「――――ッ!」
これだけの好機が揃ったならば、殺らずにはいられない。動かず、無抵抗な状態ならば、首を取る事も可能だろう。長剣形態にした火竜剣【火燐】を構え、無心になって気を纏わせ、一息にラギアクルスの首へと振り下ろす。
斬れる。
斬れはした、が、血が噴き出るだけで切断には至らない。首を守る鱗らが斬られ、肉も斬れはしたようだが完全ではない。ならばもう一度と火竜剣【火燐】を振り上げ、一気に振り下ろす。しかし、落とせない。
やはり自分の腕が甘いのか?
クロムなら……桐音ならば、斬れるのだろうか。
クロムはその技術と有り余る力を以ってして、桐音ならばあのオーラの力と自らの技術を融合させて。
自分は未熟だから、その境地には至れない。何度も何度もやる事でようやく斬れる。
それではだめだ。ここで終わらせるためにも、一気に斬り落とす。そうする事でこの戦いを終わらせられるのだから。
『斬れる斬れない、なんてことは一切考えない。あるいは、斬れるという事だけを考える』
クロムの言葉が思い起こされる。
それだけではない。
『んん? 竜の首を斬るってことかい? んなこと、別にむずかしく考えなくてもいいさ。最初は鱗や甲殻自体を斬るっていうんじゃなく、関節や繋ぎ目を狙う。加えて無心になり、一息で斬る。それだけのことさ』
桐音の言葉も思い出される。彼女の剣術もまた目を見張るものがあり、その気になれば一息で竜を殺せるだけの実力があるのにそうしない。戦いを楽しむためだと彼女は言っていたが、あれを出せば確実だ。
そうでなくとも、剣術を振るうだけで容易に斬る事も可能だった。そのコツを鍛錬の際に訊いてみたところ、ああいう答えが返ってきた。あまりクロムと変わっていないのは、突き詰めればそういう事に達する事になるのだろうか。
十兵衛も背後から背電殻へと火炎弾を連続して撃ち込んで体力を削っていくし、茉莉も盾とトキシックジャベリンを使って動かないラギアクルスの頭部へと攻撃を仕掛けていく。
どちらもラギアクルスの体力を削る攻めだが、瑠璃の一撃が決まればそうする間でもなくラギアクルスを仕留められる。
そのプレッシャーを無心になって感じなくする。
「…………ッ!」
そのまま火竜剣【火燐】を振り下ろして刎ね飛ばそうとしたが、やはり血が噴き出すだけでそこまで至らない。骨を守る鱗と肉が斬撃を受け止めてしまっている。
(――無理、なの?)
無心になっている頭に弱気な言葉がよぎってしまう。
しかも眩暈状態から解放されたラギアクルスがもがきだす。そうして落とし穴から這い出て体に力を入れようとした。が、疲労状態がまだ続いており、背電殻に雷エネルギーを充電しようとしてもそれは成功しない。
淡く光るだけでむなしく力が霧散している。
好機は続いているが、首が持ち上がっていることによって斬りにくくなってしまっている。刎ね飛ばそうとするならば、気刃を放って攻撃するしかない。
が、こうして気刃を放ったところで勢いよく首が飛ぶ、なんて現実は訪れない。奴が動けるようになった事で対象がずれていく。荒い息をつきながらもラギアクルスは噛みつきにかかってくるが、茉莉も瑠璃もステップして躱し、反撃していくがそれはただダメージを与える程度のもの。
瑠璃へと頭突きを仕掛け、押し潰しにかかろうとしているが悉くそれらを躱して斬りかかる。その背後に回り込んで十兵衛が装填した火炎弾を背電殻へと撃ち込みつつ、そっとラギアクルスの首の傷の具合や瑠璃と茉莉の様子を窺ってみる。
(確かにこの隙に首を落とせれば一瞬で片が付く。……落とせれば、の話だけど。瑠璃さんにそれが出来るだけの腕が……まだないようだけど)
がちゃっ、と次の弾を装填するとラギアクルスの後頭部を狙って撃ち出してみる。背後から頭を撃たれ、ラギアクルスの視線が十兵衛へと向けられる。雷弾を撃って反撃しようとしたようだが、その口にエネルギーは集まらない。
その隙だらけのラギアクルスへと閃光弾を投げつけ、視界を奪って動けなくさせてやる。とことん動きを封じ込め、自分達のペースへと持ち込む。その攻撃が危険ならば、攻撃させないまでのこと。
力が足りないならば搦め手を。
自分達の方が圧倒的に不利なのだからこういう手段をとっていくしかない。瑠璃達を見失ってしまったラギアクルスは首を動かし、噛みつき、尻尾を震わせて斬りかかってくる二人を振り払おうとしている。
しかし二人はまだしも、十兵衛からすれば意味のない事だ。銃撃をしていくだけなのだから近寄る必要はない。火炎弾で狙撃をしていたその時、何かの気配を感じ取って顔を上げる。
いや、気配というより魔力だろうか?
この孤島に……しかも近くに何かが舞い降りてきたかのような、そんな雰囲気を感じ取った。
(……誰が来た? ……さっき監視してきた誰か?)
骸の奥から視線を巡らせるも、居所を見つけ出す事などできない。
気になるところだが攻めの手を止めるわけにはいかない。火炎弾のベルトリンクを繋いだまま狙撃を続けていく。
(さっさと片をつけた方がいい、か。でもどうすれば……)
生物の急所を狙って攻撃する。それが一番早く相手を仕留める方法だ。しかし相手はG級に認定されるラギアクルス。上位の個体以上に急所を守る硬い鱗が存在している。首を刎ねるにも技量が足らず、心臓部分も鱗に守られている。
妃竜砲【姫撃】では貫通弾はLv1しか撃てない。貫いていく力は足らない。斬裂弾も撃てるが、しかしこれでも威力不足。となれば選択肢としては――
(瑠璃さん、茉莉さんの補助をして仕留める……それも一つの手。……ん、仕方ない……これを出さずに終わらせる予定だったけど、もうだめだ。……少し
ポーチの中に手を入れて強走薬グレートと怪力の丸薬を取り出し、両方飲んで更なるドーピングを。妃竜砲【姫撃】を手にしたままラギアクルスの側面から回り込むと、心臓を狙って斬裂弾を撃ち込む。
茉莉が突き入れた部分を狙って斬裂弾が食い込み、穴を開けようとするが、推測通り火力不足。しかしそれに反応してラギアクルスが見えない目で顔を上げて噛みついてくるが、その頬へと一発撃ち、素早く左胸へと接近。
チップから撃ち出した火炎弾を握りしめると「発現・牙炎」と呟いてやれば、右手に火炎が纏われた。強く大地を踏みしめて握られた拳を左胸へと打ち放つ。
その構えから繰り出された炎の打突。それは茉莉が作った胸の傷に大きく軋みを作り、焼け焦げた鱗が弾け飛んで肉を一気に露出させる。それだけでなくその肉すらも焼き、脆くさせた。
「ガ、ハァッ……!? グ、グゴ……ッ」
それだけではない。十兵衛の拳から伝わった衝撃が内部へと一気にダメージを与えたらしい。だがそれだけで十兵衛の攻撃が終わったわけではなかった。
「――投影、鋼銃槍」
右手に十兵衛の気と魔力が集まり、一つの槍を形成した。先端がドライバーのように尖った太い槍……というより杭のようなものであり、その上には何かを取り付けるための金属が伸びている。それを妃竜砲【姫撃】の銃口へとセットし、杭はその下にくるようになっている。
「瑠璃さん、茉莉さん!」
「え、あ、なに……?」
「おいらが道を作るッス。お二人はとどめの一撃をお願いするッス!」
「道、とどめ……わかりました。ありがとうございます」
十兵衛の言葉に茉莉は彼があれを使ってやる事を理解した。茉莉でも瑠璃でも切り開けなかった道を、彼は強引に突破するらしい。あれがどういう代物かはよくわからないが、あの形状などを見る限り突破するには十分な代物だとわかる。
それをどうやって突破というアクションを引き起こすのか、と思いきや、固定されたそれが銃口に金属が入り込む。
続けて懐から一つの弾を取り出し、装填。
杭をさっきぶち抜いた部分に合わせると、引き金を引く。
刹那、妃竜砲【姫撃】から爆発音が響き、その爆風によって勢いよく杭が撃ち出される。凄まじい反動が妃竜砲【姫撃】から十兵衛の両腕へとかかるが、彼は平気な顔で大地と一体になったかのように不動。
ガシャン、と撃ち出された杭が引き戻されると、その先端にはべっとりと血が付着していた。そしてその穿った杭はというと、ラギアクルスの胸に大穴を開けている。
とめどなく血が流れ落ちているが、しかし奴は動けていた。
荒い息をついているが左胸の奥に存在している心臓はまだ鼓動を刻んでいる。そして今の一撃によって妃竜砲【姫撃】は少し厳しい反動によってもう一撃は撃てない。この技術はまだまだ発展途上であり、あの家の秘匿技術だ。
よもやこれ誰かの前で撃つ日が来るとは思いもしなかったが、仕方あるまい。
「では、よろしく頼むッス!」
二人へと叫びながら十兵衛は後ろへと下がる。
空いた部分を埋めるように、茉莉が高めた気をトキシックジャベリンに纏わせて構えていた。同様に火竜剣【火燐】にも気を纏わせた瑠璃が彼女の隣に並ぶ。
そんな二人にラギアクルスは胸から伝わる激痛に歯噛みして背電殻へと力を溜め始めた。命の危険が迫ったせいか、疲労状態を上塗りするように奴は怒り状態へと移行していた。
そうして溜めた力を解放する。ラギアクルスの周囲に響き渡る連続して弾ける音と展開される雷撃の檻。こうすれば瑠璃達の行動を制限できるとラギアクルスはわかっていたのだろう。
だが、瑠璃と茉莉は……退く事はしなかった。
いや、一度は退いた。
しかしこれを決めれば終わる、と二人は覚悟を決めてそれを解き放つべく動く。
十兵衛が作り上げた道を無駄にするわけにはいかない。不規則に大きく弾ける雷の塊や踊るように檻を形成する雷を避け、二人は構えた武器に纏われた気をラギアクルスの胸へと撃ち出す。
それは気刃ではなく気槍。対象を貫くために撃ち出された矢の如くラギアクルスへと吸い込まれるように向かっていく。その一撃を以ってして心臓を貫こうという意図が込められた一撃は、十兵衛が空けた穴を問題なく貫通し、届いた。
あれだけ彼女らの一撃を受け止め続けていたラギアクルスの強固な鱗と肉が破壊されては、彼女らの攻撃を防ぎきる事は出来なかった。生き物にとっての最大の急所、心臓を破壊された事により、ラギアクルスは目を見開いて動きを止めてしまう。
だがそれでもラギアクルスは動こうとした。
認めるわけにはいかなかったのだ。
よもやこの自分が、このような未熟者たちに討たれる事があってなるものか、とラギアクルスは胸と口から血を漏らしながら抵抗する。
背電殻から力を抽出し、撃ち出そうとしたのだが、もうその気力も失われつつある。一歩、また一歩と踏み出したのだが、やがて力が抜けてうつぶせになり首を横たわってしまった。
討伐、した。
荒い息をつきながら瑠璃と茉莉は倒れ伏せるラギアクルスを見つめる。
まだ実感がわかない。自分達は本当にあのラギアクルスを討伐できたのだろうか?
危険は多かった。一歩間違えればいつ殺されてもおかしくない状態だった。
ラギアクルスの行動を封じ込め、そこを叩くという手段を多用しなければ戦えない程に。
しかし、こうしてラギアクルスは命の火を消してしまっている。
勝利、出来たのだ。
一つ上の領域であるG級に属するモンスターを、自分達は討伐できたのだ。
その実感がようやく心に広がっていき、二人は大きく息を吐いて膝をつく。そんな二人を見つめ、妃竜砲【姫撃】を腰へと戻す。銃口についていたあの杭は最初から存在していなかったかのように消えてなくなっている。彼が「投影」と呟いていたことから、あれは投影魔法によって作られた物体。
投影魔法はそのほぼ全てが魔力によって作られた存在であり、複製の魔法と同じく世界に長く現界し続ける事はない。複製は速射機能によって日の目を浴びるが、投影は今も変わらず役立たずの魔法とされている。数秒、数分程度存在するとあとは粒子となって消えていく、偽物。しかし存在し続けている間は確かな物体としてその力を発揮する。
まさか十兵衛が投影魔法を行使できるとは、と驚く。色々謎が多い人物だ。
そんな彼は骸の奥から辺りを見回している。先ほど感じた妙なものを持つ誰かを探しているのだがそれを口には出さない。
(気のせい? ……あの子じゃないのは確実だけど……となればあの子の部下? あるいはまた別の家の誰かか、それとも……第三の何者か? ……気をつけた方がいいか)
警戒心を消さないまま二人の下へと近づき、三人はラギアクルスの素材を剥ぎ取っていく事にする。G級に分類される個体だ。それから得られる素材によって作られる武具は素晴らしい力を持つ事だろう。
それに防具を一式揃えれば、発現するスキルが魅力的だったはず。
確か……覚醒、集中、弱点特攻、状態異常攻撃弱化だったか。その中でも覚醒は魅力的なスキルだろう。茉莉が所有しているブルークレーターも覚醒によって氷属性が発現するはずだ、と十兵衛は思い返す。
危険なクエストだったが、それによって得られるプラスは大きい。それにG級相手によく戦った。この経験もまた彼女達にとってプラスとなる。十兵衛はそれを小さく喜んだ。それと同時に、監視の目が“あの子”の手によるものか、そうでない誰かなのかもしれないという小さな可能性を危惧したが。
○
「……どう見る?」
「……んく、ふぅ……間違いなくあの家に連なる男、だね。あの格闘術も若干その気配が滲み出たし、なによりあの杭を使った。決定打だよ、あれは」
「ああ、あの音に金属杭の雰囲気……やっぱりあれはパイルバンカー……ってゆう技術やったん? せやったら間違いあらへんわ。萩原十兵衛ゆうんはあの家に連なっとる」
「そうか。それにしてもなんという出会いよ。天と刹の故郷の者と遭遇しようとはな、これだから何が起こるかわからぬ。楽しきことよ」
パイルバンカー。
火薬の爆発力によって撃ち出された杭や槍によって対象を貫き穿つ武器。しかしこれはまだまだ技術を発展させつつある武器であり、この技術を保有しているのはヤマト国のとある一家のみ。
言い換えればパイルバンカーを持っているのはその家に連なる者。他に持っている人物がいたならば、極秘に同じような技術を保有しているのか、あるいはその家から盗み出したのか。
十兵衛は――その気配からあの家に連なる者と断定。
しかしわからない。
パイルバンカーを持っているのはわかったが、この技術が確立されたのは確か、十数年前という近い年だ。その頃はまだ二人はヤマト国にいたが、彼を見かけた事はない。
一体彼はいつ、どこであれを入手したのだろう?
二人がヤマト国を出た後なのだろうか?
だとしてもあの家が彼に技術を渡すとは考えにくい。そうするだけの理由を彼は持っているのだから。
「……斬り合いたいなぁ……」
「やめておけ、天」
「なぜ?」
「斬り合うのは構わんが、それで殺られてはたまらん。萩原十兵衛、あれは我が戦力に加えるに十分な実力であろう」
「……五人目に迎え入れるん? 彼を?」
少し驚いたように刹那が言う。ここに来てまた一人増やすとは、一体どういうつもりなのか。疑問に思うのも無理はない。それは天和も同じだった。せっかくおもしろそうな相手と出会ったというのに仲間に加えるというならば殺し合えないではないか、というような表情をしている。
「あの者が本当にその家に連なるならば、貴様らと同じヤマト国の出身にして、ヤマト国に対して敵対する理由があろう。いや、正しくはあの家に敵対する理由、か。そこを突けば、もしかすると我らに降るであろうよ」
「……そううまくいく?」
「降らないならそれでも構わぬ。だが、それを持ちかけるまでに萩原十兵衛に関して色々と調べてみる価値はあろう。刹、貴様が少しあの者に張り付いておけ。天は過去を洗っておけ」
「……本気やな。まあ、ええやろ。凪がおらへんし、四人目のパーティとしては、あの実力なら申し分ないやろな。他に何か隠しとる気ぃするし、な」
刹那もまた十兵衛が何を隠しているのか気になっていた。この機会に十兵衛がどういう人物なのか知る事が出来るだろう。……異を唱える事はない。
天和も酒を呑みながら何かを考え続けているようだったが、やがて「……わかった」と返事をした。
「これから、面白くなりそうだな。モンスターの事に加えて新たなる戦力。……くく、心が躍るわ」
どこか楽しそうな笑みを浮かべてプルートは宙へと静かに浮かび上がっていく。それに続くように天和と刹那も浮かび上がり、元いた孤島へと帰っていった。
こうして、孤島の戦いは終わりを迎える。
波乱はあったが、死者が出なかっただけでも良しとしよう。だが十兵衛が本当にどんなハンターだったのか、瑠璃達にとってもプルート達にとっても興味を抱かせるクエストだったこともある。
帰ったらそれとなく聞いてみようか、と考える二人だった。