集いし者たちと白き龍   作:流星彗

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58話

 

 

 実家の鍛冶屋にて優羅と再会した瑠璃。驚きを隠せない瑠璃に、相変わらずクールな面を見せる優羅。動揺し続ける瑠璃へと撫子はどうして彼女がここにいるのかをかいつまんで説明し、続けて優羅へと強化させたアサルトガルルガ【フェンリル】を手渡してやる。

 G級のイャンガルルガと希少な鉱石などを使用し、更にオルガロンの素材を使って見た目もかっこ良く仕上げてみた。耐久性の底上げと火力の上昇を狙ったライトボウガン。

 名を、魔狼砲【黒鳥】。

 撃てる弾には特に変化はないが、オルガロンの素材を使った事で氷結弾も撃てるようになっただけでなく、超速射可能となっているようだ。

 それにしてもこの見た目。

 紫色の鱗と黒い毛皮という相反する素材を合わせ、しかし強固で軽い素材を使っているため最低限の量で確かな強度を実現させている。ざっと見回して見た目だけでなく手触りを確かめた優羅は「……じゃ、裏で撃ってくる」と言って裏口から出ていった。

 「は~い」とそれを見送り、優羅がいなくなると瑠璃へと向き直り、

 

「今頃優羅さん以外は広場で鍛錬していると思うよ~」

 

 と言ってやる。

 それを聞き終えると同時に家を飛び出した瑠璃は真っ直ぐに広場へと向かっていく。はやる心を押さえ、少し寒い空気を切り裂いて走り、辿り着いた広場では確かに数人の人影が見えた。

 高速でぶつかり合う二つの影。

 岩山へと向けて剣を振るう男に、シャドーで格闘術を鍛錬している女性。

 懐かしい人達だ。

 呼吸を整えながらその光景を見ていると、六年前の事が思い起こされる。あの時はあそこでクロムとぶつかり合っている白い女性が彼らと一緒にここにいなかったが、今はそれが実現している。

 

「……あれ? 瑠璃ちゃんだよね? どうしてここにいるの?」

 

 そこでシアンが瑠璃に気づいて声を掛けてくる。彼女へと少しふらつきながら近づき、鍛錬している顔ぶれを見回してみる。確かに彼らはそこにいた。ずっと探してきたあの一家がここにいる。

 今は亡き神倉月の協力により、ついに動いてくれたのだ。

 

「姉さんに用があって一時的に……。あそこにいるのって……見間違いじゃないんですよね?」

「ん? ああ、うん。そうだよ。見間違いじゃないよ。昴さん達、来てくれているんだ。もう少ししたら東方に戻って今起こっている事件に関わっていく予定なんだけど、その最終調整をしているところだよ」

 

 そう説明した時、シャドーをしている女性……紅葉が瑠璃に気づいて振り返り、「あれ? そこにいるのって……」と軽く視線を向けてくる。その事に向こうで剣を振っている昴だけでなく、高速移動をしてぶつかり、殴り合っているクロムとセルシウスも気づいたようで、瑠璃へと視線を向けてきた。

 

「おお? 帰ってたのか瑠璃」

 

 クロムを皮切りに他のメンバーも近づいてきて瑠璃の帰還を喜び、懐かしんでいる。最後に帰ってきたのは二年ほど前なので十分に久しぶり、といったところだろう。そして昴達にとっては六年ぶりだ。

 短い間ではあったが、ポッケ村で共に暮らしていた間柄。紅葉にとってはある意味初対面に近しいが、話には聞いていたので知らないことはない。

 白銀一家。

 東方に隠れ住み、その居所を見つけて無事を確かめ、願わくば彼らにも師事してもらおうと考えていた相手が目の前にいる。言いたいことは色々あった。再会したら何を話そう、とか、頭の中でこの六年もの間に作り上げた言葉たちはしかし、瑠璃の小さな口からは発せられることはなかった。

 

 ライムの手によって茉莉が持っている宝石を通じて彼女にも連絡すると、彼女もまたポッケ村へと飛んできた。広場へとやって来た彼女を出迎え、ここに彼らの再会が叶う。

 神倉月による協力要請から始まり、裏で繋がったヤマト国の三家と乾家が従える霧夜の忍たち。東方にある家から離れてこのポッケ村へと訪れると、クロム達と鍛錬しつついずれ来る月からのGOサインに従って東方の事件を探りに行く予定だった。

 しかし神倉月は死んだ。

 下準備を整えるだけで終わってしまい、残された昴達は彼女を殺した何者かに備えてもう一度鍛錬をして調整し、東方入りをする事にしたのだ。

 そして瑠璃と茉莉からも東方での異変の一端として、G級モンスターが現れだした事を報告する。瑠璃が帰ってきたのは持っている武器の強化のためであり、茉莉はその予定がなかったので来ることはなかったのだと言う。

 

「G級モンスター、か。これは増々東方入りをしなくちゃならんな」

「そうね。こうなったら瑠璃、茉莉。あんた達が戻る際にあたしたちもついていくわ。いいわよね?」

「ええ、もちろんですよ。むしろ歓迎します。あなた方がいらっしゃれば心強いです」

「ん、よろしく頼む。……時に茉莉、武器強化はしないとの事だが、それは素材がないからか?」

「はい。それなりにいい武器は揃えているんですが、なにぶん強力なモンスターによる武器なので、強化素材が集まらないんですよ」

「ふむ……見せてみろ」

 

 昴の言葉に、茉莉はローブから今所有している武器を取り出して並べていく。

 ランスとして、

 トキシックジャベリン、角槍ディアブロス、ブルークレーター。

 

 ガンランスとして、

 古代式回転銃槍、ヘルスティング改、王銃槍【ゴウライ】。

 

 王銃槍【ゴウライ】は以前討伐したジンオウガの素材を使用して作り上げられた雷属性のガンランスだ。瑠璃ではなく茉莉があのジンオウガの素材を使用し、ランスかガンランスかを考え、茉莉はガンランスを選択したのだ。

 そして昴は並べられた武器を見回し……いや、ある一点で止まっている。

 それは角槍ディアブロス。

 気のせいか、先ほどより若干目が輝いていないだろうか?

 

「……茉莉」

「はい、なんでしょう?」

「これは、そのまま強化か? それとも亜種に切り替えるのか?」

「亜種の方へと強化しようかと」

「なるほど、把握した。ならば素材は俺が提供しよう。これをブラックテンペストへとするといい」

 

 にやり、と笑みを浮かべて昴は軽い調子でそう申し出た。その笑顔を見て茉莉はああ、と思い出した。そういえば彼は――ディアブロス(ラブ)な人だった、と。

 ディアブロスという強力な飛竜を相手にする事を喜び、死闘を繰り広げる事で自らを鍛え上げたハンターであり、何度も何度も戦ってきた事で更なる愛に目覚めている、ちょっと危険な人物だった。

 ……なるほど、そうやって多くのディアブロスと戦っているのだから素材は有り余っているだろう。

 

「よろしいのですか?」

「構わん。このまま腐らせておくのはもったいない。俺達が使用するための素材はもう使ってしまっているからな」

「うん。もうあたしのあれはカオスオーダーになってるしね。使っちゃっていいよ」

 

 紅葉の主力武器であった角竜鎚カオスレンダー。あれはもうG級素材を使用して角王鎚カオスオーダーになっているらしい。彼女の怪力と合わされば、とんでもない破壊力になっているだろうというのは想像するにたやすい。

 人の素材を譲り受ける、というのは違反行為だろうが、ここポッケ村は元より外界からほとんどシャットアウトされている場所。黙認されれば……スルーされる。

 それにせっかくの好意を無碍にするのも茉莉としては忍びなかった。「ありがとうございます」と頭を下げてお礼を言う。

 

「ところでさっきから気になってたんだけど……」

 

 と、そこで瑠璃がちらりと視線をある一点へと向ける。そこには私服姿となっているアルテミスとルーシーが立っていた。そういえばルーシーだけでなく、アルテミスも二人からすれば初対面だ。

 視線に気づいたアルテミスがぺこり、と一礼する。

 

「こんにちは、アルテミスだよ」

「初めまして、ルーシーと申します。西方で神倉さんと知り合い、先日まで行動を共にしておりました」

 

 自己紹介をし、月との関係やどうしてここにいるのかを説明し、そしてルーシーは懐から畳まれた蒼いローブを取り出す。それは月から転送された彼女のローブだ。その中から取り出されたのは、一振りの刀。

 それを彼女は瑠璃へと手渡してやった。

 

「ここで会えたのは僥倖。月さんの導きによるものと推測します。彼女の遺志に従い、これをあなたに差し上げましょう」

「え?」

「月さんは自らの死を察知していました。何者かに狙われている気配がする、と語っていましたから」

 

 実際はヘルに宣告されていたのだが、ルーシーはそれを口にはしなかった。不安材料はあまり広めたくはないという彼女の配慮なのかもしれない。

 

「彼女はもしもの時に備え、これを私の下へと転送し、中に収められている武具を各人へと分配する遺志を遺されました。それが、こちらです」

 

 鞘は銀色を主体とし、金色の紋様が描かれていた。柄は紫色の布に巻かれ、ゆっくりとそれを抜けば、刀身は銀色、背は金色に染まっている刀身が姿を見せる。刹那、強い龍殺しの力が刀身から伝わって来たではないか。

 たまらず瑠璃はすぐにそれを鞘へと戻してしまう。

 

「……どうやらまだそれを扱うだけの力は備わっていないようですね」

「……っ、こ、これって……」

「神倉さんが秘密裏に制作した一振り、飛竜刀【陽月(ひげつ)】。金火竜と銀火竜の素材を龍殺しの力へと作用するように引き出し、制作された太刀です」

 

 陽月。朝陽と月、ということか。

 素材が金の月と銀の太陽と称され、さらに防具の名前もゴールドルナ、シルバーソルと名付けられるという共通点もある。叶う事のなかった朝陽と月の両立を込めた太刀を自分に遺した、と?

 そんなもの、畏れ多くて受け取れない。

 

「月さんの言葉です。『いずれ時が来ればこれを扱えるだけの実力が君に備わるだろう。その時を願い、火竜の刀を君に託そう。君ならばいずれそれに見合うだけのハンターへと成長できると見ている。君の行く空を照らす刀となる事を祈る』との事です」

「……っ」

 

 その言葉を遺されてはもう受け取れないと言えないではないか。その刀を握りしめながら額を当て、言葉にならない声が漏れながら、瑠璃は小さく頷いて受け取る事にした。

 続けてローブから取り出されたのは槍だった。こちらもまた銀火竜の素材を使用された槍だと見てとれるが、一般的に知られるレッドテイル系列の物と違い、先端は長く伸びるだけでなく途中で短く二つに分かれる事で三つ矛のようになっていた。

 そこは金火竜の素材と秘棘が使用されており、毒の力を感じる。つまり火属性の力と毒属性を両立させた槍……ランスと言うわけだ。続けて取り出された盾も金と銀の鱗と甲殻によって作られており、強固さだけでなく耐火性にも優れているだろう。

 

「こちらも希少種の火竜によって作られています。名を、銀星槍(ぎんせいそう)。この通り、ハンターのランスではなく対人で考慮された作りになっているので槍として扱う事も可能ですよ。どうぞ」

「ありがとうございま……っ、これは……!?」

 

 受け取った瞬間、強い銀火竜の気配を感じ取って取り落としてしまった。どうやらこれもG級クラスの代物のようだ。今の茉莉に扱えるような代物じゃない。しかもこれをルーシーは先ほどまで平気な顔で持ちながら説明していた。

 それだけで彼女の実力が推し量れるというもの。ルーシーは特に驚くようなことはせず、落ちてしまったそれを拾い上げ、茉莉のローブを広げて中へと入れてやった。

 

「あなたにも月さんからの言葉がございます。『君には槍をあげよう。竜だけでなく人相手でも振るえる槍を用意したよ。瑠璃と同じく、今は扱えなくとも時が来ればきっと君に馴染む槍となってくれるはずだ。そして君には火竜の力を引き出し、増幅させるブースターとなる火槍を選択したよ。君の行く道を照らす槍となる事を祈る』との事です」

「……ありがとう、ございます。大事にさせていただきます」

 

 丁寧に一礼してお礼を言う茉莉。盾も受け取ってローブへとしまい、月が遺してくれた二つの武器を感じ取る。G級素材で作られただけでなく、これに篭められている竜の力と意思が強いが故に今の自分達では扱えないのだろう。

 それだけ月が扱う武器の力が強いのだ。あるいは竜の意思すらも残して武具の力とさせたのだろうか。素材たちには死んだ竜の意思があるが大抵のものらはその意思は加工の過程で消えていく。あるいは残っていたとしても微量なもので、いずれは使用されていくたびに摩耗し、消えていく。

 だが月はそれを消さず、意思すらも力として残し、武具の性能を高めたのだ。

 あの決戦の際でも朝陽と剣を交わしたあの蒼穹双刃。あれは蒼ラオシャンロンの素材が使われているが、月はその蒼ラオシャンロンの意思すらも力として振るっていた。また不完全ではあるものの、クロムも纏っていたリオソウルシリーズやペイルカイザーに宿るリオソウルの力で身を守っていたこともある。

 そういう話を又聞きしている瑠璃と茉莉はこれもまたその例の一環だと推測する。なにせ身近にその竜の力を、オーラへと変換して振るっていた女性がいたのだからあり得ない話ではないと思える。

 いずれこれらを託してくれた月のためにも、振るうに相応しいハンターとなろう。改めてそう心に決める二人だった。

 

「……そういえば私達がこれを受け取ってしまいましたが、クロムさん達には?」

「ああ。貰っているぜ? ……しかも俺はとんでもないものを貰っちまったけどな」

「とんでもないもの?」

「……未完成らしいけど、封龍剣、だってよ。やれやれ……参ったね、どうも」

 

 苦笑しながら頭を掻くクロム。彼女の最期の時に振るっていた封龍剣【真滅一門】。これをクロムは託されたらしい。例え未完成であったとしても十分に高い力を誇る一品を託されたのだ。彼はそれにプレッシャーを感じてしまったようである。

 もちろん彼だけでなく昴達もまた月から武器を譲り受けているらしい。彼女の知り合いはほとんど彼女の遺志によって武器を分配されている。だがそれで全てのものが分配されているわけではなく、残ったものは自由にしても構わないという言葉もあるようだ。

 

「ということで、一部のものは分解し、再利用して他の武器の強化などに使用される事になった。そうやって準備を進めていたというわけだ」

 

 例えば昴が持っていた鬼哭斬破刀。これが打ち止めでなく、その上に鬼哭斬破刀・真打が存在するのだが、これへと強化するにはG級のキリンとラージャンの素材を必要としなければならない。だがこれらが現れる事は稀であり、現れたとしても討伐するのは至難の業だ。

 そのため長く強化する事は出来なかったのだが、月が遺したものにより、ついに鬼哭斬破刀・真打へと強化する事が叶ったのだ。

 彼以外にもこのおかげで強化出来た武器を持つ人がおり、彼女へと感謝の意を忘れず出来上がった武器へと頭を下げなかった人はいなかった。

 それからもお互いの事を話し終え、瑠璃と茉莉、そして昴は揃って鍛冶屋へと向かっていき、早速撫子へと依頼する事にする。

 

「あ、おかえり~。うん、会えたみたいだね~……ってあれ? 茉莉ちゃんも来たの~?」

「久しぶりです、姉さん。私も姉さんに依頼する事になりまして、いいですか?」

「もちろんだよ~。妹の頼みとあれば、断る理由なんてないよ~」

 

 にっこり、と曇りのない笑顔を見せて撫子は頷いた。そうして昴から説明を受けた撫子は何度か頷き、「ブラックテンペストだね。りょうか~い。……改まで強化するのかな?」と首を傾げる。

 改までいくとG級になるのだが、果たして素材はあるのかという事なのだが、昴はうんうん、と頷いて「問題ない。それくらいまでなら出してやるさ」と快く引き受ける。

 こうして昴の協力により、角槍ディアブロスはブラックテンペスト改へと進化するプランが整った。一気に依頼が来たので奥から父親の岩徹も姿を見せ、「おーし、腕が鳴るってもんじゃのお。任せておけい、きっちり仕上げてやるからな!」と太い腕を叩いてにかっと笑って見せた。

 それからは完成すれば撫子が直々に届けてくれるという。そこで彼女にあの宿に泊まっている部屋へと飛べるモドリ玉を手渡した。それに乗れるように昴達にもそのモドリ玉を用意し、瑠璃と茉莉は宿へと戻る事となった。

 それを見送ると、昴は広場へと戻っていく。見ればクロムとセルシウスはまた格闘術でぶつかり合っていた。先日ポッケ村に到着してからは、セルシウスのリハビリと銘打ってクロムと毎日こうして殴り合っているのだ。

 ルーシーはそれを見守り、アルテミスは見守ったり自分も誰かと組んで鍛錬をしたりして過ごしている。六年という月日はアルテミスを更に強くさせているようで、槍を打ち合わせた桔梗が驚くほどの実力を見せてくれた。

 セルシウスを監視するためのギルドナイトだが、訊いてみると彼女も東方の一件にも関わっても構わないと許可を与えられている。つまり共に戦える戦力でもあるというわけだ。

 しかしその行動は必ずセルシウスを同行させる事が第一条件となる。あくまでもアルテミス、そしてルーシーはセルシウスを監視する役割を持つギルドナイトなのだから。

 そして彼女ら……いや、彼女らを含めたルシフェル一家が動くのはまだ先。セルシウスが完全に実力を取り戻すまでは彼らが動く事はない。

 動くのは、白銀一家のみとなった。

 

 

 ○

 

 

 日も暮れたタンジアの港町。陰で動くものにとっては都合のいい暗さとなってきた時間帯の中、静かに連絡を取り合う何者かが潜んでいた。札を起動させ、「神倉月に関する情報、未だなし。調査を続行する」と告げて札をしまうこの男。

 一般人として成りすまし、行動している彼は酉丑灯が送り込んだ風間の忍だった。町を歩き、時に路地裏をすり抜けて移動していった彼は、静かに目的地であるギルドへと向かっていこうとしている。

 神倉月は一体誰に殺されたのか。これに関しては誰もが知らぬ謎となっており、真偽も不明のまま。警察機関で不明ならば、ハンター登録をしているこの街のギルドならば何かわかるかもしれない。情報を入手するならば手段も場所も選ばない。可能性があるならば飛び込むまでだ。

 そうやって調査を進める忍だったが、突如路地裏の影から伸びた腕が彼の首を捕まえて引き寄せる。

 

「――ッ!?」

 

 咄嗟に抵抗しようとしたが、腕を極められて動けなくなってしまう。そのまま地面にうつぶせに倒され、頭も押さえられてしまった。

 

「な、何奴!?」

「……騒ぐな。質問のみに答えろ。お前、どっちの忍だ?」

 

 低くドスの利いた声で問われ、忍は口を閉ざす。一体何者だ、と思っても、頭を押さえつけられているために相手の顔が見えない。そして聞き覚えのない声でもあり、路地裏の暗がりによって周りの様子も見えない。

 黙りこくっている忍を見つめている何者かは小さく嘆息し、「言わない、か。だが何となくは想像つく。……風間だな?」と問えば、忍は小さく息を呑んでしまった。その反応こそ、問いかけに対する答えとなる。

 

「……送り込んだのは酉丑灯だな? 何故ここにいる?」

「…………」

「どうあっても答えない、と。しょうがない。じゃあ死んでくれ」

「……っ、が!?」

 

 押さえつけていた頭と上半身を持ち上げ、首へと両腕を回すと一息でその骨を折り、一瞬の内に彼を絶命させてしまった。死体となったそれを見下ろし、彼を殺した人物は懐に手を入れて小さな物を取り出した。

 それは火炎弾。これを握りしめると「発現・牙炎」と呟き、死体を握りしめてやる。刹那、その右腕から猛々しい炎が噴き上がり、死体を一気に焼き尽くしていき、灰塵と化してしまった。

 その炎を見つめる彼……十兵衛は一息ついて路地裏を歩き去る。

 忍を殺したというのにしれっとした様子で表通りへと戻り、軽く視線を動かして他に忍がいないかを探ってみる。

 何をしているのかといえば、この港町に彼のような風間の忍が入り込んだ事を察知したため、彼らを抑えにかかっているのだ。

 酉丑灯。ヤマト国において魔族に対して排他的な三家のリーダーであり、風間の忍を従える女性。彼女が忍をここに送り込んだ理由は恐らく神倉月の死を調べるためなのだろうが、それ以外の何かも考えられる。

 例えば、彼女の勘に従って何かを探っているのだとか。あるいはここにいる魔族を探りに来たのだとか。

 後者の場合……いや、後者でなくとも、魔族の調査によりあの双子を見つけ出されては自分達の行動が阻害されてしまう。それは避けなければならない。というか、あの子からここに風間が来ているなんて聞いていない。

 あるいは伝えてこなかった可能性もある。……となれば、自分は切り捨てられるという事か?

 それはそれで別に構わないが、かといってそれで自由になれるわけでもない。どうあっても自分とあの子らとは縁が切れそうにはないのだから。そう考えていると妙な動きをしている女性を発見。

 その道の心得があるかのような足運びに視線の動かし方。

 気を探ってみると、魔族の気配なし。どうやら風間の忍らしい。さっと路地裏に体を入れて素早く彼女の近くまで接近して様子を窺う。隙が見当たらない立ち居振る舞いをしているようだが、しかし小さな隙を見越して仕掛けていく事にする。

 数分間尾行をし、路地裏の奥に入って独り言を呟いている様子に耳を傍立てる。

 

「魔族の双子ハンターがここにいる、か。じゃあ明日からは彼女達について調べてみる事にしようかしら」

(……やはり知られたか。まだ報告していないようだし、残念ながらここまでだ)

 

 一瞬の内に背後から仕掛け、その両手を掴んで建物の壁に押し付ける。

 

「なっ……!? あ、ぐ……ッ!?」

 

 頭を壁に打ち付けられたことで一瞬視界がちかついたところで地面に押し倒し、腕を極めて動きを封じる。そうして先ほどの忍と同じく、「風間の忍だな? ここで何をしている?」と問いかける。

 

「……っく、霧夜の……忍……、っか、ぐ!?」

「質問を返すな。こちらの問いに答えろ」

 

 呟きに対しても容赦なく腕を極めて苦痛を与えていく。忍というものはそう簡単には口を割らないものだが、しかしこうして苦痛を与えるなどしていかなければ、訊き出せるものも訊き出せない。

 そして案の定、この女忍もまた口を閉ざしてしまう。ぎりぎりと締め上げれば歯を食いしばりながら耐え、決して喋らないようにしているようだった。

 

「……じゃあ、別の事を訊こうか。魔族の双子について調べたようだが、何を調べた?」

「……どうして、それを……っく……、答える、義理はないわね……!」

「そうか。相変わらず彼女らは魔族に対して厳しいらしい」

「……まさかあなた、ヤマト国の――」

「何も喋ってくれないんじゃあ、死んでくれ」

「――ッ!?」

 

 決断は一瞬だった。彼女もまた上半身を起こして首に両腕を回していく。そのまま彼女が抵抗する前に首を折り、絶命させ、火葬する。これで二人。

 一体何人送り込まれたのかはわからないが、恐らく二、三人あたりではないかと推測する。しかしそれにしても風間の忍を送り込んだ理由が何か、それをはっきりさせないといけない。

 あの子は知っているのか、と考え、一応訊いてみるかと札を取り出して連絡をつけてみる事にした。

 

「……もしもし。こちら十兵衛ッス」

『あ? 何か用かよ?』

 

 札から聞こえてきたのは機嫌の悪そうな声だった。しかしこれはいつもの事なので用件を伝える事にした。

 

「こっちに風間の忍がいたんですが、何か知りませんか?」

『あ゛あ゛? 風間ァ? ……ああ、どうせ灯さんが神倉月の一件で送り込んだんじゃねェのか? ……なんだ? 出会っちまったんか?』

「……いえ、そういうわけでは。見かけてしまったんで、どうしたものかと思いまして」

 

 よくもまあ二人も殺しておいてそんな事が言えるものだ。それを相手が表面上なのか、あるいはその奥にある真実を感じ取ったのかはわからないが少しだけ無言になり、『ま、てめぇならどうせ出会っちまったとしても問題ねェわなァ?』と相手を逆なでするような言葉遣いをする。

 

『もしてめぇが風間の手で死んだとしても、アタシは知らねえぞ。そのあたり、わかってんだろうな?』

「……ええ、わかってますよ。おいらはただのハンター。君……あなたの飼い犬として動くハンター、ですよ」

『……それでいいんだよ。だがまあ安心しな。調べたところ、あのクズはそっち方面にゃ行ってねェ。しばらくはかちあうこたァないだろうさ。……よかったなァ? まだしばらくは生きていられるぜェ、ケッケッケ!』

「……ありがとうございます」

 

 相変わらずな様子で何よりだ、と十兵衛は心の中で思う。初めて会ったときとはかなり性格が変わっ……いや、歪んだようだが、根本的には変わってないようだ。本人はどうせ認めないだろうが、今の言葉の裏にはたぶん十兵衛がまだ生きられる保証がある事を伝え、喜んでいるような気がする。

 それを相手を挑発するような言葉遣いと態度で覆い隠しているだけ。

 彼女は本当は素直でいい子だ、と十兵衛は思い続けている。だからこそ、こうして頭を下げて付き従い続けている。だが、ちょっとだけその意向には従わず、一部の情報を横流ししていないのだが。

 

『で? 話はそれだけか?』

「ええ、すみません、時間を取らせてしまって」

『まったくだ。アタシだって暇じゃねェんだよ。てめぇに割く時間なんて、一分一秒だって惜しいんだよ。わかってんのかァ?』

「はい、承知しています。……大砂漠の調査、ですよね?」

『おうよ。こっちでも色々異変があるらしいからなァ。それに霧夜の忍もきな臭ェ動きしてやがるし、これはきっと何かあると、このアタシ直々につっこんでいっているわけだ』

(……時間が惜しいんじゃなかったのかな? ほんと、相変わらずだ)

 

 ぺこぺこ、と札を手にしたまま誰もいない空間へと頭を下げる十兵衛は、心の中で苦笑を浮かべてしまう。なんだかんだ言ってちょっと訊いてみれば、時にはこうして乗ってきて話を続けていく。

 こういうところが妙に可愛く思えてくる。そしてその一面を知っているからこそ、どうやら自分はまだあの子との縁を切れずにいるらしい。

 

『……って、付きあってられねェって言ってんだよ! 話がねェんだったら切るぞゴルァ!?』

「はい。では失礼します。……本当に荒れてるッスから、気をつけるんスよ?」

『うっせェわボケェ! てめぇに心配されることはねェって言ってんだろうが! いつまでもアタシを子ども扱いすんなァッ!』

「……っ、うっす」

 

 最後に少し心配してみれば、やっぱり怒鳴られてしまった。子ども扱いされるとすぐ怒るところも変わらない。昔から背伸びしてみせる事が多いのは、性格面もあるし、その体格面もある。

 ……まあ、自分も男にしては小さい方ではあるが、もうこれについてはどうやら血筋の影響らしいから諦めている。でもあの子は諦めていないらしい。そこがまた可愛く見えてしまう。……やっぱりこういう感情は父性なのだろうか、あるいは妹を見守る兄のようなものだろうか。

 変わっていないのはあの子だけでなく自分もらしい、と改めて思いながら十兵衛はそろそろ宿に帰るか、と歩き出す。陰で行われた十兵衛と忍の戦いの事など、誰も気づかず知られる事もない。

 ただ、時間をおいて連絡が取れなくなったことで風間の忍が二人死んだという事が知られたのだが、一体誰が殺したのかという謎だけが残ってしまった。有力なのは神倉月を殺した何者かが調べられている事に気づいて殺したのではないか、と真犯人である十兵衛から意識を逸らされてしまい、これにより悠々と十兵衛はまだここで活動を続けられることに成功した。

 十兵衛の影の動きを知るのは……彼を飼い犬扱いする“あの子”のみ。

 

 

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