二日後、撫子は作り終えた武器を見回して小さく頷いた。壁に立てかけられているのは剣と槍。どちらも彼女の妹による依頼で作られた武器である。
剣は柄が蒼と桜の甲殻があしらわれた一品であり、刀身はどちらも高い火竜の力を宿している。以前はダブルセイバーとして存在していたこの剣は、今回は長剣、ダブルセイバーだけでなく、二つに分けて双剣としても扱えるようにギミックを追加してみたらしい。
銘を火竜剣【炎燐】。
状況に応じて三つの姿へと変化できる剣として仕上げた一品だ。
それだけでなく撫子はこれの上の設計図も頭にあり、それを紙に記している。原種、亜種と素材を使用したならば、この次の段階は当然希少種。
既に月が遺した希少種の素材を使用した剣……刀を手にしているが、あれは龍属性の武器。瑠璃の火属性の武器はこれしかない。自分の手で最高の火属性の武器を仕上げるのはいつになるだろうか、と胸を躍らせられる。
隣にある黒いランスはブラックテンペスト改。昴から提供された黒角竜ディアブロス亜種の素材を使用して作られたランスであり、G級クラスの一品だ。素材としてはどうやら東方の大砂漠などにいる個体から得られたもののようであり、十分に高い強度を誇っている。
それに聞いたところ、茉莉はG級のラギアXシリーズを身に着ける予定があるようだ。となれば、これに秘められている属性である、爆破が目覚めるという事でもある。つまりこれはラギアXシリーズを身に着けていれば、爆破槍として扱える。
そう考えれば、また心躍る話ではないか。
二つの武器を見回す撫子の表情は満面の笑顔。いい仕事をしたという喜びと、また妹のために武器を作る事が出来たという姉の喜びが彼女を包み込んでいた。
それらをローブへと収めると、「じゃ、おとーさん。行ってくるね~」と頭にタオルを巻いている岩徹へと声を掛けて外に出ていった。彼女の背中へと「おう。気をつけてな!」と声を掛けて見送る。
そうして彼女は待ち合わせ場所である酒場へと向かっていった。
一方こちら、ルシフェル宅では昴達が着替え終え、準備を整えていた。昴の足元には彼の娘である菜乃葉と楓がじっと彼を見上げている。そんな彼女たちの頭を優しく撫でてやり、昴は屈みこんで目線を合わせた。
「じゃあ、お父さんたちは行ってくるよ。いい子で待っているんだぞ?」
「うん。気をつけてね、お父さん」
「だいじょうぶだって。グリーンやリーフだっているし、さみしくねーよ」
「そう言う楓が一番心配なんだけどね。あんまおいたするんじゃないわよ?」
「あー言ってくれるなーおかん。オレがもんだいを起こすって?」
「その元気さが有り余って何かしでかすんじゃないかと思ってしまうのよね。菜乃葉、しっかり見ているのよ?」
「うん、まかせて。紅葉さん」
しっかり者として育ってきている菜乃葉に楓を頼んでしまう程、楓の元気さは子供らしさだけでなく、紅葉の影響が引き継がれているといってもいい。そしてその楓がいるからこそ、恐らく菜乃葉の落ち着きにも磨きがかかっていっていると思われる。
まだ少し心配だが、ここにはルシフェル一家がいるし、鍛冶屋の一家もいるため大丈夫だ。今回の一件には娘達を連れていくわけにはいかない。そのため寂しがらせる事になるかもしれないが、仕方ないだろう。
紅葉と優羅も交互に娘達の頭を撫でてやり、優羅も「……寂しがらせるだろうけど、ごめんね」と言葉をかけてやる。それに菜乃葉は小さく首を振り、
「ううん。お父さんもお母さんたちもがんばらなくちゃならないんだよね? わかってるもん。だから、私たちもがんばる。さみしくなんてないよ」
「……菜乃葉」
そのけなげな言葉に優羅は少しだけ呆けてしまったが、やがて微笑を浮かべてその顔を抱き寄せて優しく撫でてやる。それに少しくすぐったそうな顔をしながらも、菜乃葉は優羅にしがみついて頬を摺り寄せて甘える。
まるで優羅の温もりと甘い匂いを忘れないように。
そうして別れを惜しみ、しかし時間がやってきたため三人は娘達から離れ、クロム達へと視線を向ける。
「じゃあ、二人を頼む」
「おう、任せな」
「なんかあったとしても、ウチらがしっかり守ったるから」
花梨がにっと笑って頼もしげに胸を叩く。クロム達が去った後は花梨をはじめとする一家が面倒を見ることになっているため、彼女も時折この家へとやってくる事になっている。
またルシフェル一家が去れば、花梨がここで暮らして一日中面倒を見てくれることになっている。ハンターの仕事が来れば、撫子か岩徹、あるいは村人の誰かが見守る事になっている。
こうやって交代制ではあるが、娘達を誰かが見てくれることになっており、そして昴達も彼女達ならば信頼できるため、こうして預けていくことになった。
頼もしき仲間がいてこその事。視線を交わして頷きあうと、白銀一家は宝石を取り出して念じ始める。すると淡く宝石が光だし、それは昴達を包み込んでいく。そうして光に包まれた三人の姿は変化し、それぞれ東方で行動していた際の仮の姿となった。
髪、瞳、顔付き、声……それぞれを変化させ、同時に名前も偽名へと変えていく。
もちろん服装やローブの外観も変わっており、ぱっと見て彼らが白銀一家だと気づく事はない。また優羅も魔族、シュヴァルツの血統である事を隠すための術式も施されており、よほどの事がなければ彼女がそうである事に気づく事はなくなっている。全ては平穏に、隠れ住むためのもの。こうでもしなければ彼らは東方で生きていく事は出来なかった。
ルシフェルの家から離れ、酒場へと向かっていく。その背中をクロム達は見えなくなるまで見送った。
そして酒場へとやって来た昴達は先に来ていた撫子に合流し、それぞれモドリ玉を手にする。撫子は別のモドリ玉にこの酒場にあるランプの粒子を詰めてインプットし、向こうに飛ぶためのモドリ玉を手にすると、一斉に床へと叩きつけた。
「……というわけで紹介しましょう。私達の知り合いである、星野さんたちです」
「星野翔。このチームのリーダーを務めている」
「……灰原なずな」
「芙蓉桜。よろしくね」
「そして、この子達の姉の撫子だよ~」
「は、萩原、十兵衛ッス。よろしくッス」
宿の一室、こうして自己紹介が行われる。部屋にあるモドリ玉の粒子が詰められているランプの傍に現れた昴達は、部屋にいた瑠璃達と目が逢い、そして突然の来訪者に驚いた十兵衛と、十兵衛がつけているスカルSフェイスに驚いた昴達と視線が交差された。
一見して怪しい人物である十兵衛を見た昴達だったが、ハンターだったことが幸いしてちょっとだけ怪訝な視線を向けるだけに留まった。
自己紹介をしあい、どうしてあれをつけているのかを説明を受けて納得すると、撫子が纏っているローブから注文の品が手渡される。
「はい、火竜剣【炎燐】とブラックテンペスト改ね」
「ん、ありがとう姉さん」
「ありがとうございます。……星野さんも」
「ああ、気にするな」
リオソウルとリオハートの素材を使って作られただけあり蒼と桜が映える火竜剣【炎燐】。
強固な素材によってそうそう折れることなく伸びる漆黒のランスであるブラックテンペスト改。
これらによって二人の火力は上昇された。あとはこれらを上手く扱えるかどうかにかかっている。武器が良くても持ち手が良くなければ宝の持ち腐れなのだから。
撫子は二人に武器を手渡すと軽くこれらの説明をし、「じゃあ私はこれで帰るね~。また何かあればいつでも言ってね」とウインクすると、帰りのモドリ玉を叩きつけて消えていった。
残った昴達は、早速ギルドの登録を済ませるため酒場へと移動する事となる。
十兵衛もつれて酒場へと向かっていき、受付嬢へと登録の旨を伝え、三人はペンを走らせて登録を済ませた。
そうして今日はどんな依頼が来ているのだろうかとクエストボードへと向かってみると、そこにはプルートが依頼書を眺めている姿があった。彼は瑠璃達に気づくと視線を動かし、「おお、貴様達か……っと、新顔か?」と昴達へと視線を動かした。
「ええ。私達の知人のハンター達です」
「ふむ、知人か。ならば名乗ろう。我は天王寺冥夜と言う」
「星野翔だ。チームメイトの灰原なずなと、芙蓉桜。瑠璃達とは昔からの知り合いで、今日ここにやって来て再会したところさ」
「ほう。そうかそうか、こうして会ったのも何かの縁であろう。よろしく」
そう言ってプルートが手を差し出してきた。昴はその手を取り、しっかりと握手を交わす。そうしつつ、お互い何気なく相手の事を観察してしまっていた。その手の硬さ、相手が持つ気質を素早く探り、そうして出した答えは、
(……出来るな、この男。ただ者じゃない)
(ふむ。長年積み重ねた技術の結晶、といったところか?)
といったものだった。
握りしめていた手を離し、それぞれクエストボードへと視線を移すと並んでいる依頼書を眺めてみた。相変わらずターゲット指定されているモンスターは強力なものが並んでいるらしい。
その中でプルートが手にしたのは、アグナコトル討伐クエストだった。船で移動した先にある火山の採掘場付近でアグナコトルが現れたらしく、それを討伐してほしいというものらしい。
それを手にすると、「では先に失礼するぞ」と一礼してカウンターへと向かっていく。それを見送り、今度は昴と共に依頼書を探してみる。
「リオレイア亜種とドスフロギィの討伐依頼があるわね。二頭討伐でもして肩慣らしといく?」
「……アタシとしては問題ない」
「じゃあこれにするか。近場だからさっと終われそうだな」
そんな事を話す三人に瑠璃と茉莉は少し引き気味だ。二頭討伐を軽い調子で引き受けるだけでなく肩慣らしと言ってしまうあたり、やはり三人とも凄腕のハンターになっている事がひしひしと伝わってくる。
自分達だって負けてられない、と瑠璃が見回し、目についたのがこれだ。
ドボルベルク討伐依頼。
以前も茉莉が見まわした際に見かけられたものであり、内容としてはここから船で移動した先にある島の森にドボルベルクが現れ、住民たちが不安になっているというものだった。
ドボルベルクは草食竜ではあるが、その巨体と強靭な肉体を駆使して戦う竜であり、縄張りを荒らしに来た敵はそれを以ってして排除しにかかる存在だ。その脅威さは十分にモンスターの中では上位に入るものであり、実力あるハンターでなければ討伐は難しいとされている。
「ドボル……ッスか? おいらとしては構わないッスが、大丈夫なんスか?」
「大丈夫よ。姉さんに強化してもらったあれを試すにはいい相手だし」
「そうですね。私としても試してみたいですし、異論はありません」
「そうッスか……なら、おいらも異議なしッス」
こうしてそれぞれこなすクエストが決定された。準備を行うために一度宿へと戻り、昴達は瑠璃達とはまた違う部屋を取り、茉莉は鍛冶屋に依頼していたラギアXシリーズを受け取りにいく。
撫子から貰った武器をチェックし、準備完了。
昴達はアプトルに騎乗して直接森へと入るため、港前で分かれる事になる。竜小屋はここから町の出口付近にあるため、手を振ってそれぞれ移動していった。その際にプルート達も同じように港へと入っていき、また同船する事となった。
「…………」
ふと、優羅がプルート達へと振り返り、目を細めた。酒場の時から気になっていたようだが、同行している天和と刹那を見てからはその妙な感覚が優羅の中に生まれていた。
変化の影響で変色しているその漆黒の瞳はじっとプルート、続けて天和を見つめており、切れ長のその目は若干鋭さを増している気がする。
「どしたの、なずな? なにか気になる事でも?」
「…………いや、どうもきな臭い感じがして」
「彼らか? どんな具合に?」
「……鋭い刃の気。見た目も変えているようだけど、あの女……腑抜けているように見えて、中身は触れたもの全てを斬るかのような刃を感じる」
「剣士、か」
外見的には問題ないように見えるが、内面的には少々気に掛けるところがあるという女性か、と昴は纏める。確かにこうして見る限りではぼうっとしているような女性だ。その手にはどういうわけか飲み物が入った一升瓶があり、時折口元に運んでは飲み進めている。
酒ではないようだが、道端で飲むという行為を少したしなめる女性はというとずっと目を閉じたままだ。それは盲目であるが故だが、何も知らない優羅たちは首を傾げるのみ。
しかし彼らを止める事は出来ない。それぞれ共に港に停まっている船へと向かっていった。気がかりな点はあるが、自分達もまた狩りへと向かわねばならない。プルート達の事は戻ってきてから陰で調べてみる事にしよう。
そう決めた三人は竜小屋へと向かい、アプトルに騎乗して狩場へと向かっていった。
○
瑠璃達とプルート達を乗せた船は数時間の航海を行っていた。今回向かう先はどちらも同じ場所にある。港に着いた後は瑠璃達は直進して森の中へ、プルート達は南西へと下って火山に入るルートへと進む予定となっている。
タンジアの港から南西へと進んできたが、まだ視界には果てしなく広がる青い海がある。到着予定は日暮れであり、太陽はまだ空高く昇っている。
しかし天和は船内にある食堂で酒盛り……いや、持参してきたジュースをかたっぱしから消費し、つまみも用意してはただ無心に食べ進めている。相変わらずの大食漢だ、と思うしかない光景であり、船員たちも呆然と見守っていた。
茉莉は自室で読書をしており、そのタイトルはどういうわけか「ボケとツッコミ」というものであり、それを見た瑠璃が「どういうつもり?」と訊かざるを得ないものだった。昔から茉莉は時々訳の分からないタイトルの本を読んでいる事があるが、これに関しては瑠璃はどうしてもツッコミを入れざるを得なかった。
「え? 何か問題でも?」
「いや……だってそれ、なに? 誰かと……十兵衛とでもそういうコンビ作るわけ?」
「なにをおっしゃいますかー私の相棒なんて、瑠璃以外の誰がいるっていうんですかね? なにかの冗談ですか? やだー」
「それこそなんの冗談よっ!? あたしは別にそういう事をするような素質があると思ってんの!?」
「……ふふふ、このやりとりそのものがボケとツッコミであると何故気づかないのかねー?」
「……はっ!?」
息を呑む瑠璃へとにやりと笑い、茉莉は本を閉じて固まってしまっている瑠璃へと近づいてぽん、と優しく肩を叩いてやった。それは彼女を憐れむようでもあり、しかし同時に親愛さも含まれ、こちら側へと少し引き込むような呼び声でもあった。
そっと耳元へと口を近づけ、
「瑠璃、あなたには素質があります。優れた“弄られた異質”という、素晴らしい素質がね」
「……そ、そそ、そんなものいらんわぁぁぁあああッ!!」
ばたんっ! と強く扉を開けて廊下へと飛び出していった瑠璃だったが、気のせいか小さな涙が見えた気がした。しかしそれすらもどこか愛しさを感じさせるような、見事な逃げっぷり。
それを見送った茉莉はどこか満足そうな笑顔を見せ、
「ふっふっふ、本当に、我が姉ながら可愛いですねー。いやぁ、実に愛で甲斐がありますよ。さて、次はどう愛でましょうか、ふふふ……」
ちょっぴり紅潮したように、赤く火照っている頬に手を当てながらどこか満足そうに頷く茉莉。どこか歪んだような、いや見方によっては本当に仲のいい姉妹愛がそこにある。……のだが、ベッドの布団に少し隠れながら置かれているその本に視線を落とせば、どこか禁断の果実の香りがする。
その本のタイトルは……「白百合の愛で方」。タイトルからすれば百合の育て方、ととれるかもしれないが、どういうわけか表紙は白百合を背景に、美少女が見つめ合って指を絡めているものだった。
最後まで気づかなかった瑠璃ではあるが、気づいていればどうなっていたのだろうか。
そして茉莉の読書のレパートリーが少し心配になるような、そんな日常の一端である。
一方、こちら甲板では十兵衛と刹那こと桐生雪菜が揃って海を眺めていた。とはいえ彼女自身がそうだと言っているわけではないため十兵衛の推測でしかないのだが。
盲目である彼女にとっては海が青い事はわからない。色合いが少し違う空の青さもわからない。わかるのは潮の香りとそれが体を撫でていく事、そして時折聞こえてくる水の音だけ。
こうして並んで眺めて数分。二人は特に言葉を交わしてはいなかった。ただ気づいたら並んで海を見ているという形になってしまっていたのだ。それに驚いているのは十兵衛。骸の下では小さな雫を頬に流しながら混乱している。
(……なにこの状況? どうしてこうなってるんだ? ただ一人でぼうっと時間を潰そうかと考えていたのに……桐生雪菜、一体何が目的だ? まさか、おいらの何かに気づいているのか?)
警戒心を抱き始めた頃、雪菜はぽつりと言葉を漏らした。
「穏やかやなぁ……」
「……え?」
その一言に思わず呆けたような声を漏らしてしまった。隣にいる刹那へと振り返れば、彼女は見惚れる程に綺麗な微笑を浮かべていた。
「実に、穏やかな雰囲気やないの。この海のどこかで、強力なモンスターが出現し始めている、なんて空気を感じへん。まさに、表面上の穏やかさや。……でも、この時そのものは、表面上であったとしても、こうして見惚れるくらいの落ち着いた空気がある。ええもんやなぁ」
そういえば桐生雪菜といえばいいところのお嬢様だったか、と十兵衛は思い出す。東方人は昔から縁を大事にし、自然を静かに眺める事を好む。季節の移り変わりや風流を楽しみ、穏やかな時間の流れを楽しむ。……わびさび、とか言ったか、と十兵衛は思い返した。
彼女もまたそういう事を愛する人なのかもしれない。見る事は出来なくとも雰囲気は感じ取れる。それを楽しんでいるのだろう。
「萩原はんは海は好きなん?」
「……どちらともいえないッスね。あんまり海には来た覚えはないッスから」
「火山によぉおったから?」
「そうッスね。……とはいってもそれ以前は普通に東方を巡ってたッスよ? 火山も一人で篭るなら十分な場所だったってだけッス」
「一人、か。一人が、好きなん?」
「…………こうなってからは、そうッスね。めんどうなことになるのは嫌いッスから」
醜い傷が刻まれ、仮面で隠し、そしてその仮面もまた人を遠ざけるもの。人の視線に晒され、しかしそれによって下手に人と関わらずに済むようになった。それだけでなく人見知りとなる事で人と関わったとしても深くまでは繋がらずに済んだ。
……桐音はそれでも普通に親しくなってくれた例外だ。しかしそれを疎ましく思う事はなかった。それが彼女の姉御肌な人柄と言う影響だろう。人と関わらず、人を遠ざけてから深く親しくなった唯一の人物といえる。
そんな彼女の縁で出会ったあの双子もまたいい友人だと思えるようになってきている。
傷を負ってからはそれまで築いた繋がりはほぼ全て消え、友人も離れていったことで一人を好んだ彼にとっての久しぶりの友人だった。大事にしたい縁だと思っている。“あの子”にチームメイトであるあの双子が魔族……いや、竜魔族だと知られるまでは。
「めんどうなこと、か。ふふ……せやなぁ、めんどうなことは避けたいわな、ん。……その実力を隠すってゆうんも、めんどうなことを避けるためなん?」
「……んん? なんの話ッスか?」
「ふふ、なんも。聞き流してくれてええで」
くすり、と微笑を浮かべる雪菜ではあるが、十兵衛はやはり何かを感じ取られてしまっている、と思わざるを得なかった。彼女の高い感知能力に引っ掛かってしまっているんだろうか。
あっさりと引き下がってきたが、これは少し警戒を高めるしかないだろうか。
そんな時、甲板へとあがってきた瑠璃が現れる。茉莉から逃げ出した彼女は少し甲板に出てみようと思ったのだが、先客がいた事に気づいてそちらへと視線を向けてみた。
「……? 十兵衛と……壬生さん?」
並んで海を見ている二人の背中を見て首を傾げ、そして気づいたらどういうわけか物陰に隠れてしまっていた。距離が離れているせいで話し声は聞こえてこないが、こうして見ていると妙に仲がよく見えるのは何故だろうか。
(いつの間にあんな仲に? どういう事? ……そういえば前回もなんか一緒にいたような?)
前回同船した時も何故か並んでいたような気がする、と瑠璃は思い出す。そして彼女は知らないが、夜の港町でも一緒に散歩し、彼女の宿まで送り届けた事もある。十分に接点はあった。
とはいえそれは雪菜が十兵衛の事を知ろうという目的のため、彼に近づいただけなのだが、何も知らなければ仲のいい男女にしか見えなくなってしまう不思議。
本人らは腹の探り合いをしており、十兵衛は少しずつ雪菜に警戒心を抱きだしているのに、距離が離れていて声も聞こえず、あの空気を感じ取れなければ、まるで海を一緒に眺める恋人同士に見えてしまう。
瑠璃はそう感じ取ってしまっていた。
(……あれ? なに、この感情?)
そして不意に胸がちくりと痛くなってしまい、息が苦しくなりだした。なんだろうか、この感情は? 思わず胸を軽く押さえてしまう瑠璃。
どうしてこんな痛みがするのか、心が揺れるのか。その理由がわからない。
ただちくちくとした痛みに戸惑っていたその時、
「――ほう? なかなかおもしろいことになっておるな」
「ひゃあ――むぐっ、むーっ、んんーーッ!?」
「まあまあ、落ち着け」
背後から音もなくやってきて声を掛ければ誰だって驚き声を上げてしまうだろう。だがプルートは素早く瑠璃の口に手を回して黙らせつつ、優しく声を掛けて落ち着かせてやった。
「そう騒ぐと気づかれよう。刹の感知は凄まじいからな。こうして陰から見守るには騒がず静かに、そして気配を消してやらねばならん。……さて、落ち着いたか?」
「んーっ、んんっ」
こくこくと頷く瑠璃の口から手を離し、二人揃って十兵衛と雪菜の様子を見守ってみる事にする。相変わらず話し声は聞こえないが、やはりああして静かに海を眺めている様子はどういうわけか心を小さくかき乱す。
そんな瑠璃に気づいたのか、プルートは小さく笑って「なるほどなるほど」と何度か頷く。
「若いのはいい事よな。本当に、おもしろいことになっておるわ」
「……どういう事よ? っていうか、若いって……天王寺さんも若いんじゃないの?」
「む? ……ああ、そうだな。我も年齢的には……若いか。フッハッハ、これは失敬。だが、フレアウイング姉よ。貴様は今、心が揺れているのではないか?」
「え? なんで……」
「わかったのか、と? 見ればわかる。わかってしまうほど、今貴様の顔はなかなかいいものをしておる。若さゆえの青い果実に朱が差し込むように熟れ始めておるわ。……要は、いい女の顔をしてきている、という事よ」
「な、何言っちゃってんの!? そんな、褒めても何も出ないわよ!? ってか、なに? あたし、そんな……へんな顔してんの!?」
ぺたぺたと自分の顔に触れながら慌てふためく瑠璃を見て、プルートはにやにやと笑ってしまう。実に微笑ましい事だ。しかしどうやら見たところ、瑠璃はそういう経験がないんだろうな、と思い至れる。
まあ、魔族だから二十歳といってもまだまだ若い部類だ。種族的な年齢でいえば人間換算で十代前半くらいのものでしかない。つまり、プルートが言っていたように青い果実だ。
赤く熟すには十年以上はかかるというもの。……しかしその母親がこれくらいの年齢で結婚して子供を産んでしまっているというのは、置いておくとしよう。
慌てる瑠璃を横目に、プルートは雪菜へと視線を向ける。命じた通り十兵衛の事を調べるため、彼に接触したという事は聞いていたが、あそこまで接近するとは思わなかった。
(やはり萩原十兵衛そのものに興味を抱いたか? あの刹、桐生雪菜がな……珍しい事もあるものよ)
実家の桐生家はヤマト国において上位に位置する程の名家。そのお嬢様ならば、相手は選り取り見取り。ハンデは抱えているが、それでも容姿端麗であり、才能だけでなく知識も兼ね備えた女性だ。
その落ち着きも立ち居振る舞いも洗礼されており、まさしく深奥のお姫様といっても差し支えない。実家にいた頃は、彼女に交際を申し込む男性は結構いたらしいが、雪菜はそれを丁重に断り続けていた。
こうしてプルートと共に行動しているが何も起こる事はなく、武と組んだとしても何もない。ここまでくると男に興味がないのか、と思ってきたものだが、なんだあれは?
萩原十兵衛の何かが雪菜の琴線に触れたのだろうか?
そうなのだとすれば、実に興味深い。こうして見ているだけではわからない何かが十兵衛にあるのだろうか? 雪菜はそれを見つけたのか、あるいはこれから見つけ出すのか。
次の報告が楽しみでならない。そして願わくば十兵衛をこちら側へと引き込んでみたいところだ。そうすれば、雪菜はより一層十兵衛と共に行動できるだろう。それから本気の恋愛に発展すれば、実におもしろいことになるだろう。
(そうなれば、この者に悪いことをするだろうが、まあ気にする事はあるまい)
自覚症状がない、初期の段階なので略奪愛にはなるまい、とプルートは考える。青臭く、しかし若さゆえの甘い恋愛模様も良し。大人のような深みがありながらも、ドロドロの男女の感情がぶつかり合う恋愛模様も良し。
傍観者ならばそれを楽しめるのだから。
自分の事は……遠い昔に終わってしまっているのだからこそ、傍観者となる。あの頃の想いはまだ胸に僅かに残っているが、それが叶う事はもうない。伴侶と決めた女性と、アーサーと共に戦場を駆け抜けた日々は遠い記憶の彼方。
彼女を巡ってアーサーとやり合った事もあるし、ただ二人で穏やかな時間を過ごした事もある。もうあの日々は取り戻せないならば、第二の生を生きる今、新たな誰かと繋がる事もあるかもしれないが、今はまだそれはない。
共に行動している雪菜も天和も、そういう相手とは思えないのだから。
雪菜はあの通り、十兵衛に興味を持っているようなので見守る事にして、今もなお食堂でぼうっとしながら食べ進めている天和は……あたかも妹かペットを眺めているかのような気分になってしまう。
愛でる分にはいいかもしれないが、女として見るかどうかは別の話。実力は確かに申し分ないだろうが、しかし普段の雰囲気がそれをマイナスさせる。プロポーションは確かに女を感じさせる色気はあるだろうが、雰囲気が完全にペットのそれだ。
そう、彼女は女と言うよりは獣。眠れる獅子といってもいい。
獣と睦み合う気にはなれん、というのがプルートの弁。
そのため第二の生において女とそういう雰囲気になるのはほぼないだろう、とプルートは自己完結してしまっていた。そのため傍観者となる。雪菜の恋愛模様を眺めるも良し、天和がもしかすると武とそう言う雰囲気になるかもしれない、と眺めるも良し、としている。
「ちょ、ちょっと天王寺さん」
「……ん? どうした?」
そうやって色々思い返していると、片手で頬を押さえながら瑠璃が呼びかけてきているのに気付き、そちらに視線を向けてみる。
「なんか頬が熱い気がするんだけど、これなに? あたし、なんか体調崩しちゃってんの?」
(……若いな……)
なんてベタな勘違い。これもまた若さゆえ、か。
真実を教えてもいいかもしれないが、ここはそれに触れずにおいておこうか、と考えてみたりする。だが……そうだな、ちょっとだけそういう事を感じさせるような事を言ってみるか、と口を開いた。
「そうだな……ある意味体調を崩しているやもしれぬな」
「そ、そうなの?」
「ああ。人においてこれはなかなか曲者な病だ。どうやら見たところ初期症状のようだが、それが進行するか、あるいは消えるのかは貴様次第だ。フレアウイング姉よ」
「どういうこと?」
「さてな。こればかりは自分でどうにかするしかあるまいよ。これは誰かの手で治すようなものではない。自分で気づき、手当てしなければならぬ」
笑顔を見せてそう言い、話を締めくくってしまった。これくらいの助言に留め、あとは自分で気づくしかあるまい。果たして気づくのかどうかも気になるが、これは彼らが間近で見守っていくだろう。あくまで自分はただ居合わせただけなのだから。
さて、このように穏やかな空気の中、狩場へと航海を進める一行。雪菜が言っていたように、例え表面上の穏やかさであっても、これを楽しむだけのいい空気がここにはある。
このまま何事もなく穏やかな航海を進んでいける、と思われたのだが、しかし現実はそう甘くはなかった。
「……なんや、これは?」
不意に雪菜がそう呟いた。
同様にプルートも何かに気づいて辺りを見回し、「……この気配は」と呟く。
今まで隠れていたが素早く海へと向かって走り出し、辺りを見回して気配の主を探してみる。
「これは、ルドロスの群れだな」
「リーダーであるロアルもおるな。しかもこれは……何かから逃げとる」
船の進行方向から左側、しかも進行方向から逆向きに逃げてくるかのような動きをしているのだ。
しかも群れの規模が異常であり、「なんやこれは……百匹以上おるやないの。ロアルも二……いや、三おるし、複数の群れが一斉に逃げとるで」と雪菜が息を呑む有様。
更に言えば、
「ラギアクルスから逃げているのかと思ったが、違うな。そのラギアクルスすらも逃げている……!」
ロアルドロスが率いる群れの背後から高速で追従しているのがラギアクルスの気配。普通ならばその群れを捕食するために追いかけていると思うだろうが、どういうわけかルドロスの中に突っ込んでも何もしていない。
むしろその群れを追い抜こうとしているかのように高速移動している。
この異常事態に、プルートははっと顔を上げ、船員へと叫んだ。
「船の進路を変えろぉッ! 面舵いっぱい! モンスターの群れだぁッ!!」
「な、なんだって!? おい! 進路変更だ!」
距離はかなり離れているが、気配探知の高さ故に感じ取れた異常事態。数百メートルの距離など、両者の進行速度ならばそう時間もかからず遭遇してしまうだろう。
舵を取る船員へと連絡がいき、船はゆっくりと右へと方向転換していく。すると進路方向の左手に、僅かにロアルドロスらしき影が見えてくるようになってきた。続けてルドロス達の影も見えだし、確かに何かから逃げているかのように慌てている様子が見てとれる。
「……あかん」
「ど、どうしたッスか?」
「こら、あかんわ……やばいなんてもんやないで。冥! 結界や!」
だがその不安をさらに上乗せするように緊迫した様子で雪菜が呟き、プルートへと結界を張るように叫んでしまった。それにプルートが準備をした時、船内から勢いよく天和が飛び出し、辺りを見回して左手へと向かっていく。
続けて茉莉も出てくると、「一体何事です?」と瑠璃へと訊いてきた。
「臨戦態勢をとりぃ! とんでもないもんが来るで!」
普段から落ち着いた雰囲気を持つ彼女がこれほどまで慌てる様子はそうそうない。甲板に出揃ったハンター達はただ一点を見据える。ロアルドロスらが率いる群れはもうそこまで来ている。
それだけでなく、ラギアクルスが海から上半身を出して姿を見せてきたではないか。一瞬この船へと視線を向けてきたようだが襲ってくるようなことはせず、逃げる事のみを考えて泳ぎ続けている。
そうして、さらに進行方向へと意識を向けてみれば、何かが迫ってきているのがわかった。それがとんでもないものだ、というのがわかる程に強大な気配。
プルートが船を囲むように結界を張った瞬間、それは勢いよく海上へと飛び出してきた。その勢いに無理やり乗せられ、数匹のルドロスが宙を舞う。それらを纏めて口へと取り入れ、丸呑みにするその巨大な姿。
雄々しく伸びる湾曲した一対の角。
後頭部からは鎧の如き強固なる甲殻と皮に包まれ、首回りは太く強固な金色の毛に包まれている。胸にまでかかるそれはまさしくたてがみのように思え、その巨大さと相反するように両手は魚のヒレのような両手は小さく見え、薄い青に光る神秘的な発行体が目を引く。
全体的な色合いは金色が主体であり、次いで黒が目立つその巨大なる龍……いや、龍なのかどうかすらわからないその姿。
「ギュルヴォォォォオオオオオオオオオオン!!」
「ナバルデウス亜種……」
茉莉が呆然と呟いた。様々な本を読んでいる彼女は古龍種に関する事もまた知識にある。この広い海のどこかに存在すると言われる伝説的な存在、皇海龍ナバルデウス亜種の知識もまた存在していた。
だがこうして見る事になるとは思いもしなかった。
なにせ伝説として語られる存在だ。すなわち、発見例が少ない個体である。だから会う事はないと思っていた。
以前までならば。
迅雷が言った人と竜の戦い。シュヴァルツの血統を抹殺するために“世界”が竜を活性化させているという話。G級モンスターの登場もまた“世界”の意思によるものだとは思っていたが、よもやこのような存在まで姿を見せるなんて……狂っている。
だが現実。逃れる事も目を背ける事も出来ない現実だ。
数匹のルドロスを丸呑みにしながら、ナバルデウス亜種はその巨大な角の下にある目で船を見下ろしてきた。海上に出ているだけだというのに、見上げなければならない程にまでその上半身を出している巨龍。
それがまた海へと沈むまでの間、ゆっくりと向きを調節してナバルデウス亜種はその上半身を落としてくる。
「う、うわああああぁぁぁッッ!?」
船員たちが悲鳴を上げる中、プルートと雪菜は結界を更に構築する。それも一重ではなく二重、三重、四重と積み重ねての展開だ。そうして強固さを上げる中、ナバルデウス亜種の角が接触してくる。
だが、それは展開された結界に阻まれ、結界が軋みを上げて角が船へと落ちないように留めていた。しかしその重量と強固さにより、一つ、また一つと結界が破壊され、でもそれ以上突破できず、ナバルデウス亜種はまた少し向きを変えて海へと沈んでいく。
そうして次に襲い掛かってきたのは、沈む際に巻き上げられた波だ。高く舞い上がった波が結界へと襲い掛かり、しかし下で揺れる波は船の安定を崩してくる。
あくまでも結界は船上のみを防いでおり、船が浸かっている海に直接来る揺れまでは防げない。
そしてこの船は風力で動いている。ナバルデウス亜種から逃げるためにスピードをいきなり上げるなんてことは出来ない。が、雪菜が手を翻し、進行方向へと薙いだ瞬間、それまで以上の風が吹いて帆へと力を与えた。
これにより船のスピードが上昇する事となる。
しかしナバルデウス亜種は逃がす気はなかったらしい。船に追従して背後から姿を見せて直接体当たりをしてきたではないか。
「……止める」
天和がローブから抜いた一振りの刀に気を篭め、背後から襲い掛かってくるナバルデウス亜種へと解き放つ。血のように赤い気刃がナバルデウス亜種の頭を切り裂いたが、それは小さく血を出血させるだけに留められた。
それに怯むナバルデウス亜種ではなく、背後に体当たりされた事で船が一瞬シーソーの如く船首が強制的に上げられ、そうして勢いよく海へと重力に従って叩き落とされた事で大きく揺れる事となった。
あちこちから上がる悲鳴と、船から振り落とされないようにとしがみつく中で、十兵衛は天和が持っているあの刀へと意識を向けてしまう。
(っく……あの刀、まさか……天羽々斬……ッ!? なぜここに……うわっ!?)
ナバルデウス亜種がまた沈んでいく事で舞い上がった波によって船がまた大きく揺れる。それによってまた柵にしがみつく事になってしまい、そして隣にいる雪菜もまた必死に振り落とされないようにしがみついていた。
不意に沈む際に振り上げられたナバルデウス亜種の尻尾が勢いよく船を叩きつけ、船尾が大きく抉り取られてしまった。それに驚く暇もなく、そこから一気に波が船へと入り込み、船が更にバランスを崩してしまう。
「あっ……!?」
不意に雪菜が体勢を崩し、揺れる船の傾きに従って彼女の体が流れていく。
「危ないっ!」
咄嗟に十兵衛が彼女へと手を伸ばし、その柔らかい手を取って引き寄せた。彼女に警戒心を抱いていた彼ではあったが、しかし体勢を崩して落ちていくのを見逃すような事は出来なかったらしい。
続けて船に襲い掛かる第二波。右舷側からナバルデウス亜種が飛び出して大きく波を発生させて船を揺らしにかかる。
その強い衝撃にたまらず十兵衛が柵から手を離してしまい、揺れる船に従ってごろごろと転がり、それでもなお雪菜を離さずに船尾へと落ちていく。
「なっ……十兵衛!?」
「刹!?」
気づいた時にはもう遅い。二人の姿は荒れる海の中へと消えていった。瑠璃とプルートは呆然と二人が消えた方を見つめていたが、ナバルデウス亜種は容赦なく船へと攻撃を仕掛けてくる。
結界でナバルデウス亜種による直撃は防いでも、続けてくる波の揺れまでは止められない。次第にバランスを崩され、ついに船は大きく傾きだした。
「て、転覆するぞぉぉおおおッ!?」
「きゃあああああっ!?」
「瑠璃っ!」
「天、来い!」
「……っつ……!?」
それぞれ悲鳴を上げながらも、近くにいる誰かから離れないように手を伸ばし合う。瑠璃は茉莉と、プルートは天和と。船員たちは船員たちと繋がり、しかし傾き出した船が海へと沈む未来だけは変わらず。
全員が海へと投げ出されて沈んでいく。
続けてナバルデウス亜種がその巨体を生かして勢いよく海上へと飛びだす。一気に重量を生かして沈んだことにより発生した高波が、沈みだす船とそれに乗っていた全員を押し流すようにしてしまい――
――彼らの行方は生死ともに完全に不明となってしまった。