大砂漠より南東、タンジアの港から西へと数十キロ。東西よりも南北に大きく広く広がる領土。
それが天王寺領だ。
北は植物豊かな山岳地帯となり、南に行けば海に接する地域となる。この季節の田んぼは黄金色の海を作り出し、それ以外でも山の幸が色々採れることで知られている。
また特産物であるレモンは冬が近くなって来れば収穫の時期となっていくため、このころは少しずつ身が大きくなってくる季節だ。
そんな天王寺領に滞在していた十兵衛は、目の前にいる人物に小さく溜息をついていた。
あれからこっちにやってきてからというもの、時折クエストへと向かって狩りを行ったことは何度かあるが、主な行動は情報収集だった。それに加え、プルートの目的の一つである領地の拡大も行い、それに伴った内政などもあって大砂漠に向かうのは後回しになっていたのだ。
どうやらこっちに戻ってきた目的の一つはこの内政だったのかもしれない、と十兵衛は思わざるを得なかった。周囲の領主が次々と死に、それに伴う各地の事情の変化も感じとり、それに備えて準備を進め、交渉に向かう。
そうして領地を取り入れていったプルートは、着実に己の仕事を進めていた。その手腕は耳にする限りではかなりのものだという事を十兵衛は感じ取っていた。伊達に領主の息子をしているわけではないらしい。
どうやら天王寺領主一家は魔族の血があるらしく、長寿らしい。現在の天王寺領主も見た目では三十代の男性にしか見えないが、実際にはもう百年近く生きているとか。それでいて経験豊かという事もあって安定した政治を行っており、天王寺領は実に平和で穏やかな暮らしが出来ているようだ。
しかし領民たちは平和でも、今ここにいる十兵衛は少し平和じゃない状況になっている。
その原因は、目の前にいる人物のせいだ。
「――はーっはっはっは! いかなものか、いかなものかなじゅうべー? もう少しで
「……そうッスね~。でも、まだ終わったわけじゃあないッスよっと」
そう言ってぱちり、と駒を進める。間髪入れずに相手の駒も動き、そしてまた十兵衛が駒を動かす。
今二人は東方の遊具の一つ、将棋を指していた。
東方では昔からあるポピュラーな遊具であり、ルールさえ覚えれば老若男女、誰でも遊べるゲームとして存在している。
そして目の前にいるのは少し小柄な少女だった。東方人らしく黒く艶やかな髪が背中近くまで伸び、少し気の強そうな大きな碧眼が得意げにじっと十兵衛を見つめている。白い大袖に黒い袴という和服を着こなし、手にしている扇子がぱん、と小さな左手に叩かれる。
そうしてばっと扇子を開けば、そこには「勝利!」と達筆で書かれていた。
そのままふふーん、と胸を逸らしてみせながらぱたぱたと自身を仰いでいる。
さて、そんなこの小さな少女は誰なのか、紹介しよう。
天王寺領主である
小柄と言うかなんというか、見たところ十代前半にしか見えないが、実年齢は確か二十歳前だったかと記憶している。だが魔族という血の影響で成長が緩やからしく、仕方がないと言えば仕方がないらしい。
彼女自身も魔族の影響で時間の感覚的にはのんびりとしているようで、またこうして一カ月近くの付き合いからしてわかった彼女の性格、すなわち豪胆さが感じられるため、全然気にした様子はない。
「っと、ほうほう、なかなか上手くかわすなー、じゅうべー。逃げる事に関しては、そなたは十分なものを持っておるではないか。じゃがじゅうべー、そう逃げてばかりじゃあ此方に王手は指せんぞ? そら、これでとうだ!?」
「……む、これは手厳しいッスね」
逆に言えば、初対面時に二十歳でこのような子供のように間延びした名前呼びと、古風な口調をしていることには、若干の戸惑いを覚えてしまった十兵衛である。人間であればアウトだろうが、そこは魔族と言うことでまだ大丈夫だろう、と彼は心の中で結論付けた。
さて、ずいっと切り込んできた駒の動きに十兵衛が目を細める。現在、十兵衛の陣には火夜の駒が攻めてきている。だが十兵衛は巧みに守りに入り、その攻撃を躱し続けているのだ。
それでいて十兵衛も駒も火夜の陣に少数入り込んでいるが、攻守が入れ替わっていないため動くに動けていないようだ。
さて、どうしようかと考えながら、十兵衛は目の前にいるどこか得意げな少女との出会いを思い返した。
プルートと雪菜と共に天王寺領、それも彼の自宅である屋敷へとお邪魔した十兵衛らを出迎えたのは、彼の家に努める女中達だった。
彼女らに案内され、与えられた部屋へと移動した十兵衛はその客間の広さに驚く。流石は領主の屋敷と言うべきか、客間であったとしても結構な広さを誇っていた。
東方の屋敷らしく木造の建造物であり、建築方法としては寝殿造りに近しいものになっている。奥の中心に正殿を設け、正面に広がる庭園や池を左右に囲むように東対や渡殿、釣殿にあたる部分が存在し、奥には北対などにあたる部分がいくつか存在している。
その中の一つである客間は庭園を眺めることが出来、何気なく縁側からその庭園を見てみる事にした。東方といってもここまでくると東方なのか、あるいは中央の欧州なのかが曖昧になってくるが、それでも庭園は東方……ヤマト国やシキ国のものに近しい。
そうして庭園を眺めていると、廊下の向こうから静かな足音が聞こえてきた。女中がきたのだろうか、と思ってそちらを見やると、小さな少女が近づいてきていた。
「そなたが話に聞く萩原じゅうべーか?」
「……? そうッスけど、どなたッスか?」
「おお、まずは名乗るべきだったな、すまんすまん。此方は火夜、天王寺火夜だ。そなたを連れてきた兄様の妹である」
「妹?」
そこで十兵衛はここに来る前にプルートが言っていた妹の事を思いだした。成長期にある小さな妹がいるという事を。恐らく彼女が件の妹なのだろう。
(……それにしては似ていない気がするけど)
髪の色も瞳の色も違うし、どうも顔立ちが少し似ていない気がするのだ。とはいえこれくらいならばまだ兄妹としては問題ないかもしれない。なにせ魔族の血が入っているらしいので緩やかな成長をするのだから。
それにしても……小さいな、と思ってしまうのも無理はない。
小さいとは聞いていたが予想通りの身長だったかな、と思う。十兵衛の主である六花よりもまだ小さい。目算だが恐らく144cmほどだろうか。これで二十歳前とは……いや、魔族ならば問題ないか、うん、と十兵衛は頷く。
そんな十兵衛の視線に気づいたのだろう。火夜は小首を可愛らしく傾げ、懐から取り出した扇子を取り出すと「何かの? 小さい、とでも思っておるのか?」と問いかける。
「え、あ、いや……」
「はーっはっはっは! 別に構わぬよ!」
そう豪快に笑いながら勢いよく扇子を広げてみせる。するとそこには「良!」と達筆で書かれていた。それをあおぎながらからからと笑いつつ、
「此方が小さいというのは事実であるからなー! だがこう見えて成長はしておるのよ、うむ」
「いや、初対面の相手にそんなこと言われても困っているッス」
「む? それもそうか。はっはっは! ……さて、こうして此方が足を運んできたのは他でもない。この目で兄様が連れてきた新たな仲間とやらを確認しに来たのだよ」
ぱちん、と扇子を閉じるとじっと十兵衛を見上げてくる。その瞳に宿る力は先ほどまでの子供らしさを感じさせるようなものではなくなっていた。
戦う者、というものでもない。それはまさに相手を見極めるかのような観察眼。
それを以ってして彼女は十兵衛を見つめていた。骸によって隠されている顔や、この骸をじっと見たとしても彼女は動じることはなかった。
「ふむ……なかなか面白い目をしておるなあ、じゅうべー」
「面白い、ッスか?」
「うむ。そなたの目は二面性があるように見える。気弱な面と――熟練された戦士の面。この気弱な面でそれを覆い隠しておるな? 此方がなにかよからぬ事に気づかないか、と警戒しておるように見える」
「…………」
「ふっふっふ、図星か。……であっても、此方は別に気にする事はない。そなたは兄様が連れてきた新たなる人材。ならば此方はそなたを快く迎え入れよう」
からからと笑ってぱんぱん、と扇子を小さな左手に叩く。
だが兄であるプルートが連れてきたとはいえ、こうして初対面でそこまで見抜いてきたのだ。しかも周りには人はおらず、ここにいるのはこの二人のみ。そして火夜は曲がりなりにも領主の娘である。
「そんなんでいいんスか? おいらが今ここで君に刃を向けたらどうするんスか?」
「む? そんな事をするのか? ……だったとしても問題はあるまい」
何という事もなくきょとんとした顔を見せてくる。
「何故?」
刹那、十兵衛を観察していたその目に戦意が宿った。
閉じられた扇子を口元に当てながら、じっと十兵衛を見上げてくる彼女の佇まいには隙が見られない。もし今ここで十兵衛が仕掛けたとしても、彼女はそれに対応してくるだろう。
それを予感させるほどの何かを彼女は持っている気がした。
「……と、このように此方もある程度は修練しておるのでな。兄様の妹として、そして天王寺家の者として恥じぬように、な。はーっはっはっは!」
「……なるほど。それで、わざわざおいらに会いに来てどうするつもりだったんで? もしかして、ただの挨拶だけッスか?」
「それだけで会いに来てはいかんのか? それに此方自身の興味もあったでな。その甲斐はあったと自負しておるよ。うむ、そなたはなかなか面白そうな男よ! はーっはっはっは!」
そう言ってからからと笑い、またしても扇子を開いてみせる。そこには「期待!」とどんっと書かれていた。そんな彼女の後ろからはプルートが静かに近づいてきた。
そうして、「ほう? こんなところに居たのか、火夜よ」と声を掛けてくる。
「おお、兄様。おかえりなさいませ」
「うむ。もしや萩原十兵衛に会いに来たのか?」
「うむ、連絡に聞いていた男がどんなものか、此方の目で見てみようかと思うてな」
「そういうところは相変わらずよな。どうだ、萩原十兵衛は?」
「なかなか面白そうではあるな。兄様と一戦交えているところを見てみたい気もするし、色々観察し甲斐がありそうに思えますなーはっはっは!」
ぱたぱたと開いた扇子をあおぎながら笑ってみせると、「そうかそうか。それは何よりだ、フーッハッハッハッハ!」とプルートもからからと笑ってみせる。そんな光景を見て十兵衛は、ああ確かにこの二人は兄妹だと思わざるを得なかった。
そんな出会いから二か月。
趣味が観察という火夜は、時折十兵衛の下へとやってきては一緒に行動してきている。
一番多いのはこうして将棋を指す事だろう。何かと一緒に時間を潰している気がする。慣れない新しい土地でこうして小さい少女と一緒に過ごす事で慣らそうとしている、ような気配りを感じるので嫌と言うわけではないのだが、どうも警戒してしまうのはあのプルートの妹だからだろう。
駒を進めていきながらちらりと火夜を見てみる。
こうして見る限りでは特に怪しい点はない。裏表のない明るい少女というのは見た目通り、それにプルートのような豪胆な部分も似通い、少し変わった名家のお嬢様といって差し支えない火夜が完成する。
「む? どうかしたかの? そろそろ降参でもするのか?」
「いやいや、まだいけるッスよ。……っと、それでまだあの人らは動かないんスかね? 大砂漠の一件、介入するんじゃなかったんス?」
「問題あるまいて。情報によればまだ大きな事件は起こってはおらんよ。今はただこの領地とそれ以外の領地を併合する。そうして他の領民らの暮らしを安定させねばならぬよ」
「……ふーん」
「私腹を肥やす愚者な領主とその一族が消えたならば、その穴埋めを行わねばならぬ。頭なき組織などまともに機能せぬからな。此方が情報を集め、兄様が直に交渉する。それが、此方らのやり方よ」
そしてその愚者を影から消すのが雪菜や天羽といったところかな、と十兵衛は推測した。果たしてその影の部分はこの小さな妹は知っているのだろうか、と窺い見る。
扇子をぱたぱたとあおぎながらにやにやと笑ってみせる彼女だが、その明るい顔の裏にそんな血みどろの側面を保有しているのだろうか。二か月の付き合いではあるが、この少女の全てを知っているわけではない。
全面的に信用するわけにもいかないし、かといって完全に目を離したらどうなるものか怖い所がある。つかず離れず、その距離で接してきたのだ。
そして今、プルートは最後の交渉を終えて戻ってくるところらしい。それを待っている間、こうして将棋を指しているわけだが、こうして指しているとどこからか視線を感じ続けているのは否定できない。
最初はこの家の誰かが十兵衛を見ているのかと思ったが、それは半分正解だった。
「……さて、それはそれとして」
十兵衛が次の手を指したのを見ながら、火夜は扇子を閉じて口元に当てる。その視線は盤上から庭園へと移っていき、軽く様子を見て回る。その小さな視線の動きに気づいた十兵衛もまた、それに倣うように骸の下で視線を動かす。
「まだいるッスね」
「うむ。まったく、ネズミはどこにでも潜り込んでくるものよなあ。そんなに目をつけられるような事をしたのか、じゅうべー?」
「知らないッスよ」
と言いつつも、自分は午卯家に連なる者であり、あの六花の部下……間諜として動き続けていた。そしてプルートは最近妙な動きをしているし、ヤマト国にとっては重要な人物である天羽とも行動している。
その正体を知っているのかどうかは知らないが、それでも彼女らにも忍がついてまわっているのは確かだった。しかもまだあの二人は手を組んでいるらしく、霧夜と風間がどちらもついて回っている。
なんというか、ずっと監視されているかのような気がしてならない。それが忍の役割の一つなのだろうが、見られる方としてはたまったものではない。
「さて、とっとと退散してもらおうか」
口元を扇子で隠しながら何事かを細々と呟く。すると庭園の一角に生えている木に向かっていく鷹が現れる。音も立てずに背後に回り込んだかと思うと、翼を畳んで一気に急降下して枝葉の中へと飛び込んだ。
するとその中から忍らしきものを貫いて地面に落下していく。だが途中で受け身を取った忍は一度二人の方へと振り返ると、軽く傷口を押さえながら庭園を走り去っていった。
「今日は風間の方か。飽きないなー、あの者らも。……さて、続けようかじゅうべー。まもなく王手となろうて」
忍を追い払ったというのに気にした様子もなく、将棋を進めていく火夜。もう彼女も慣れてしまっているのだ。どこからか自分達を見つめ続けている忍がいつもいるのだから、嫌でも慣れてしまう。
そしてそれに十兵衛も合わせることにした。火夜の攻め手から玉将を守り、さりげなく相手の陣へと駒を進めていく。そうして手番を進めていくと、気づけば十兵衛が火夜を攻めている状態となっていた。
「……むむ?」
「さて、これでどうッスかね?」
「ほうほう、いやこれは……うーむ」
何回か扇子を開閉させて考え込み、十兵衛の切り込みから王を守る動きを指す。流れが変化したという事は彼女も感じ取っているのだろう。その可愛らしい顔を少ししかめ、眉間にしわが寄り始めている。
その時、火夜の後ろからプルートがそっと顔を出して盤面を眺める。そうして戦局を眺めると、
「ほう、火夜が劣勢とな。だがまだもう少し盛り返せる点はありそうだな」
「兄様、帰ってらっしゃったのですか」
「うむ、今しがたな。……そら、火夜よ、ここを指していけば道は少し開けるぞ」
「むむ? ……おお、確かに」
プルートの助言によって火夜が駒を動かしていく。しばらくするとまたしても優勢が変化し、十兵衛が追いこまれ始めてしまっていた。やがて、
「これで、王手よ!」
「……むぅ、詰みッスね」
最終的には火夜が勝利を収める事が出来た。その事に火夜は大層機嫌を良くしたようで、「はーっはっはっは! いい戦いであったな、じゅうべー!」と笑いながら「
だがすぐに小さく肩を竦めて、
「しかし兄様がいなければどうなった事か。やはり兄様はお強いな」
「いや、火夜も腕を上げてきているようで何よりだ。萩原十兵衛もそれについていけるだけの力量があるようだし、いつか我とも指そうぞ?」
「……まあいつか、ね。それで、戻ってきたという事は、交渉は成功したんスかね?」
「当然よ。我を誰だと思っておる? きっちりと話をつけてきたわ。これで領地関連の話は全て片が付いた。あとは……準備を整えて次なる戦場へと向かうだけよ」
不敵な笑みを浮かべてどこからか取り出した扇子を開いて「勝利!」と達筆な文字を見せつけてくる。一体どこに仕込んでいた? とか、そういうところまで兄妹しているのか? とか色んなツッコミどころを考えるが、それを口に出さないようにする事にした。
最近プルートらに対してツッコミしすぎている気がするので、自重する事にしたのである。
「火夜よ、頼んでおいた事柄は?」
「ぬかりはないですよ、兄様。集められるだけのものは集めています故。ただ、ネズミも多いのでお気をつけて」
「そっちにも多いか。我の方にも何人か動き回ってたからな、数人確保しておいた」
そう言って廊下の影へと視線を向ける。そこには二人の忍が控えていた。風間と霧夜、両方の忍が膝をついているではないか。何だってあんな風に臣下の礼を取っているのか、と首を傾げると、プルートがすぐに答えを口にする。
「ひっ捕らえて軽く暗示をかけておいた。我らが移動した際に虚偽の情報を向こうに流せるようにしている。こうでもしなければどこにでも現れそうだからな、多少の時間稼ぎは出来ようて」
「暗示って……あんた、そんな事まで出来るんスか? まさかおいらの事も」
「くく、そんな事はせんよ。今回はあまりにも鬱陶しすぎた故に、忍に対して施しただけに過ぎん。戦力となる者に対して暗示をかける趣味は我にはない」
「…………」
果たしてそれは本当なのかどうかはわからないが、プルートはそう易々と嘘をつくような人物ではない事は何となくはわかった。しかし、言わない事はとことん言わない、という事もわかっている。
「暗示の事はこれくらいにしておこうか。今日までの予定は消化された。大砂漠の件へと話を進めようぞ」
「もう進めるのか? 休まなくても?」
「ふん、これくらいどうという事はないわ。さ、行くぞ」
そうして彼らは廊下を歩き、会議室として使われる広い部屋へと移動した。
そこにはプルートの護衛のためについていった雪菜と天羽の姿もあり、それぞれお茶を飲みながら待機していた。プルートらも部屋に入り、お茶を淹れてもらうと大砂漠に向けての予定を立てていく事にする。
その情報の纏めの中でこの名が挙がった時、十兵衛はピクリと反応を示した。
武藤凪である。
「大砂漠に入ってからの凪は順調に蛇竜種を狩っておるようですよ。あれの目覚めも早さが増しているとか。やはり素材が素材であるが故に、相性が良いのであろうて」
「ふむ……一足先に大砂漠入りしただけあって仕入れた情報は多いな。……む? UNKNOWNも目撃しておるのか」
「であるそうで。交戦はしておらんようですが、見るだけでもなかなか得るものはあったようですよ。今もなお観察は続けておるようですが、なんでもドンドルマから派遣されしギルドナイトも奴の情報を得ようとしておるとか」
「ギルドナイト、か。そういえば以前より大砂漠の調査隊が入っておったな」
そんな事を話す兄妹をよそに、十兵衛はその武藤凪についての話をこっそり刹那から聞いていた。槍を使う戦士にしてハンターであり、対人、対竜どちらもこなせる実力者。
天羽の天羽々斬と同じような特徴を持つ妖刀を所持しており、現在大砂漠で目覚めを促している最中だとか。その話を聞いて十兵衛は以前遭遇した桐音の弟、草薙武を思い出した。
(そういえばこの人らも偽名を使っていたし、その武藤凪とやらも草薙武の偽名なんだろうな。たぶん……藤は植物繋がりで草に変え、凪をくっつけて草薙。残った武はそのまま名前ってとこだろうね)
そう思い至り、話を聞き続ける。
「今もなお観察を続けているらしいです」
「ふむ……UNKNOWN、か。果たしてどのような個体なのであろうな。まだ見ぬ強力な存在……くく、心が躍るわ」
プルートは思わず、といった風ににやりと笑みを浮かべてしまう。
大砂漠に潜む魔の存在。
はたしてどれほどのものなのだろうか。そしてそんな相手を観察しに行っている武藤凪こと草薙武はどうしているのだろうか。プルートは火夜が集めた情報を聞きながらそう思いを馳せるのだった。
○
大砂漠の南西、中規模のオアシスを拠点として、レイン・スカーレットを隊長とするギルドナイトの隊員が集まっていた。先日、命からがら帰還した女性隊員から寄せられた情報により、UNKNOWNの正体が少し明らかになったのは記憶に新しい。
だが詳細については現在もなお調査が続いている。犠牲者が出てしまったが、元より覚悟の上でここに来ている。中断して撤退する事はない。
どのようにして奴の情報を集めていくか、ここに作戦の詰めを行う事にした。
そうして話を進めていき、UNKNOWNが飛び去っていった方へと小隊を派遣し、調査を進めることとなる。またUNKNOWNの力量が通常ではないため、レインも複数の小隊を率いて調査に乗り出す事となった。
そうして彼らは夜の砂漠を移動する。情報によればUNKNOWNは昼より夜の方が目撃数が多いという話だった。そこでレイン達は日が暮れてから行動を開始する事にした。
視界が悪い夜の砂漠。辺りを見回しても変わり映えのない砂の海が広がるばかりであり、UNKNOWNどころか他の大型モンスターだけでなく小型モンスターもいない。このまま何事もなく歩き回れれば平和な事だろうが、しかしUNKNOWNの事を調査するためには奴を見つけなければならないのだが。
「レイン隊長」
そこでレインの後ろをついてきていた一人の隊員がそっと声を掛ける。「どうした、アスベル?」とレインが肩越しに振り返って無言で聞き手となる。
「黒レイアとは、やはりかの狂化竜の生き残りなのでしょうか」
「……さてな。それを確かめるためにも我々が調査しないといけない。わたしとしては狂化竜の生き残りであってほしくはないのだがね」
六年前の大事件の際にドンドルマ方面で猛威を振るっていた狂化竜。
狂化の種を植えられ、汚染の力によって主に黒く染まる事を特徴とした特異の竜達である。最初こそ飛竜種ばかりだったが、それだけでなく大型モンスターならば誰もが植えられ、発症した際に狂化体として各地を暴れ回る存在だった。
最終的にこれらは闇の力を高め、各地に被害を与えることで更なる闇を作り上げ、それを一点に収集する事で目的を達成せんとした神倉羅刹の陰謀である事が判明。実行犯である神倉朝陽ですら踊らされていたという真実が明らかとなった。
だがその頃にはもう既に狂化竜は全滅していた。あれから六年が経過しており、その間も生き残りと思われる個体は発見される事はなかった。故にギルド側は、狂化竜は全滅したものと判断した。
――しかし、六年の時を経て、どういうわけか狂化竜の生き残りと思われる個体が現れた。
それがUNKNOWN。
漆黒に染まり、数点において攻撃的に変化し、血の如き赤に染まりし黒きリオレイア。
報告に聞く限りではその攻撃能力も通常体よりも高まっており、異質なものへと変質しているという。狂化竜のデータを見返す限りでは、攻撃能力が高まっているという情報があるので問題ない。
攻撃能力だけでなく防御能力……身体能力の上昇。それに伴う素早さの高まり。
通常の飛竜を相手にするよりも厳しい状態となって襲い掛かってくるのだ。個体によっては古龍に匹敵するものまで現れ、それだけでなく古龍までもが狂化体として襲い掛かってきた事だってあった。
しかし自分達は狂化体を全滅させた。それはすなわち、その古龍すらも討ち倒してきたという事に他ならない。
人は、いつだって強大な敵を前にし、一度は膝を折りながらも最終的には乗り越えてきた。今回もまたきっと乗り越えられる試練だろう、と思わないとやっていけない。レインの頭の中には、多くの犠牲を支払っての勝利だろう、と結末が想定されていた。
もう何人もの罪のない旅人たちが死んでいる。そして隊員も死んだ。発見されてはいないだろうが、狩場に現れてハンター達を消し炭にした可能性だってあるだろう。
それらの犠牲の上に勝利を掴むだろう、と考えてしまうのは仕方のない事。
だがそれでも、やらねばならない。
やらなければこれからも犠牲者は増え続けるのだから。
「――む?」
不意に、遠くで弾けた音が響き、遅れるようにして赤い煙弾が空へと上がっていく。同時に空気が変化したような気がした。
いや違う。
前方から冷たい空気が流れ込んできているのだ。肌をちりつかせるように冷たくも鋭い刃のような空気。
殺気だ。
無造作に撒き散らされていう殺気の一部がここにまで届いているのだ。一体何が起こっているのかなど推察するまでもない。奴があそこにいるのだ。
「赤の煙弾……緊急事態か。行くぞ」
「はっ!」
空に伸びる赤い煙と流れ込んでくる殺気の道しるべに従って走り出し、夜の砂漠を駆け抜ける。変わり映えのしない景色は相変わらず続くが、少しずつ岩山らしき影が見えてきた。そしてそれに重なるようにして竜の姿がうっすらとみえてきた。
それだけでなく奴と戦っている人影らしきものが見えてきた。
「あれは、カインとアサギの小隊だ」
「遭遇したのか……! 隊長、あいつらに」
「ああ、助太刀に入るぞ! 遅れるな!」
「はっ!」
それぞれ得物を抜いて側面から攻撃を仕掛けていく。先手を取ったのは先ほどレインに声を掛けたアスベルだ。緋色の刀身をした大剣だが、規定の長さよりも更に長さを感じさせる刀身をしている。それを大振りに振りかぶると、その長き刃の重量に任せて一気に振り下ろした。
プリメーロエスパーダ。
モノブロスの真紅の角をはじめとし、飛竜種や古龍種の特殊な骨を用いて強化を施された大剣だ。無属性ではあるが、特殊な素材を用いただけでなく、その長さを伸ばした事で更なる重量が加わる事で威力を底上げした一品だ。
扱えるハンターは限られるが、それ故に扱えることが出来れば心強い武器となる。
振るわれたそれは接近に気づいたUNKNOWNの左翼を斬り、少量の出血を引き起こした。だがそれに怯む様子はなく、乱入してきたレイン達へと振り返ってくる。
そんなUNKNOWNへとレインは構えたソニックボウⅦに番えた矢を高速で撃ち出す。一呼吸で四連の矢が放たれ、それをとめどなく繰り返していく事で次々とUNKNOWNの顔や首へと矢が突き刺さっていった。
内包された属性である氷の力が発揮され、傷口を凍結させる事で冷気の力もUNKNOWNへと与えられるが、やはり堪えた様子はない。
「アリカはカインらの被害状況を確かめろ。他の者らはUNKNOWNの気を引く。彼らが体勢を立て直すまで持ちこたえろ」
「了解!」
レインの指示に従って女性が離れた所にいるギルドナイトらへと向かって行く。その彼女を補助するべくもう一人が手にしているランスを構えて接近していった。
彼女が手にしているのもまた規定よりもかなり長いランスだ。細長く、しかし中心部は毒々しい色に染まった意匠が施されたどこか西洋風のランス。盾もまた上部はひし形、下部は先端が少し尖った楕円型の厚くがっしりとした造りになっており、合わせてみれば対人戦でありそうなランスに見えなくもない。
ネブラコルムナ。
オオナズチの中でもかなり強固な個体から得られた素材で作られたランスである。しかも毒と龍属性が両立されており、二属性を得た希少なランスだ。それだけでなく極長のランスと様々な試みを施されており、これを得たハンターはかなり少ない。
それだけでも彼女が凄腕のハンターである事は明らかだろう。
「破ッ!」
彼女はその長いリーチを生かしてUNKNOWNの反撃が届かない所から攻撃をしかけていく。顔へと突き刺さっていくその切っ先から放出される龍属性の力と、染み出る毒がUNKNOWNにちくちくと突き刺さり、否が応でもUNKNOWNの意識は彼女へと向けられていく。
そんなUNKNOWNの側面から「強化」と一言だけ告げ、レインが引き絞った矢を解き放ち、首や胸へと強く矢が突き刺さる。
昔は長く術を告げることで強化を施したが、今ではただ一言告げるだけで矢を強化する事を可能としていた。これが彼の成長の証として見られるだろう。
「カイン、大丈夫?」
「アリカか。……何とかな。でもアサギの小隊に二人ほどやばい状態にあるんだ。あの二人を下がらせたい。それからの手当て、頼めるかな?」
「……わかった。任せて」
そうして負傷している二人を抱えるとその場から離れていく三人。UNKNOWNも離れていく気配に気づいて視線を動かそうとしたようだが、女性ハンターのネブラコルムナが何度も突き刺してくるのでこちらに対応せざるを得なかった。
低く唸って軽く息を吸い、開かれた口からあの火球が放たれる。素早く身を引いて躱し、背後へと飛んでいったその火球は砂に着弾すると、その周囲を吹き飛ばしながら青と紫の火柱を立ち上げる。
通常のリオレイアの火球ではまず起こらない現象とその色合いに、レイン達は一瞬だけ顔をひきつらせ、しかしすぐにUNKNOWNへと意識を向ける。UNKNOWNへと連続して攻撃を仕掛け、体力を削るだけでなく意識を引き付け続けることで、彼らの手当てを安全なものへとする。
だがUNKNOWNはネブラコルムナを手にしている女性ハンターに狙いを定めると火球を撃ち出す。盾を構えてしっかりと防御するだけでなく、少しだけ距離を詰めながら勢いをつけて突き出した。
彼女が装備しているのはクシャナFシリーズ。クシャルダオラの素材を用いて作られており、スキルとしては麻痺無効、龍風圧無効、回避性能+2、ガード性能+2、ガード強化、寒さ無効と守りの面に高まったスキル調整をしている。
「ナターシャ、無茶はするなよ!」
「問題ないよ……。これくらいのギリギリのサジ加減、いつものことなのだから、ね……!」
控えめな声でそう言いつつ噛み付きを避け、体に力を入れてからのタックルをすれすれで躱す。だがタックルの回避のためにUNKNOWNと接近した事で、奴の真紅の瞳が近づいてしまった。
「……っ、く」
間近で発せられる凄まじき殺気。飛竜種だというのに古龍種に近しいかそれ以上もの殺気をぶつけられ、ナターシャと呼ばれた女性ハンターが一瞬硬直した。
その一瞬を見逃さず、UNKNOWNは背後からプリメーロエスパーダで斬りかかっているアスベルも巻き込むように、体を捻って尻尾を振るった。勢いをつけてしなる尻尾はナターシャを吹き飛ばし、アスベルを巻き込んで襲い掛かるが、彼は何とか躱したようだ。
だがUNKNOWNは引き返すようにもう一度回転し、側面からアスベルを薙ぎ払う。しかし彼は体を屈めることで尻尾をやり過ごし、構えたプリメーロエスパーダを突き出してUNKNOWNの足へとダメージを与え、尻尾をはね上げるようにプリメーロエスパーダを振るう。
とにかく彼らはUNKNOWNの攻撃を受けないようにとリーチの長さを生かして戦っていた。危険な相手である事は明らかなので、攻撃を受けないようにという立ち回りで戦っている。
しかしそれでも奴から発せられる殺気が体を僅かに緊張状態へと陥れる。その緊張が、体の動きを少し阻害させているのだ。僅かな差であったとしても、全力を出せないというのはハンターにとって厳しいものとなる。
「ふっ!」
レインが一瞬の隙を狙い、正面からUNKNOWNの頭を狙って貫くようにして強化された矢を放つ。それは狙い通り頭に突き刺さっていき、甲殻の隙間を裂いて内部の肉へと僅かに到達する。
その痛みに怯んだ隙を狙い、ナターシャがネブラコルムナを頭部へと連続して突き刺した。それに続くようにアスベルもプリメーロエスパーダを臀部から尻尾に掛けて素早く振るっていく。
そのダメージが通じた刹那――
――覇気が高まった。
「グルルルル……ゴルァァァァァアアアアアアア!!!」
大きく息を吸いこんだUNKNOWNが体を引きながら首を下げると、天を仰ぎながら咆哮する。瞬間、奴を中心として凄まじい熱気が解放され、渦を巻いて空へと伸びていった。
その光景に、レイン達は息を呑まざるを得ない。
ただの飛竜種ではないとは思ったが、このような現象を引き起こすなど誰が想像するだろう。まるでテオ・テスカトルやナナ・テスカトリが纏う龍炎の如き炎のオーラが数秒とはいえ、UNKNOWNの体から放出されたのだから。
ただの怒り状態ではないだろう。怒り状態に近い何か、だ。
一瞬、UNKNOWNの視線が周囲を見回したかと思うと、体に力を入れながら翼を持ち上げ、地面へと叩き落とした。それにより強い地響きが発生し、アスベルの動きを止める。ナターシャはその動きを見て察知したようで、ネブラコルムナを構えたままステップする事でその揺れから逃れる事が出来たようだ。
数秒程度の隙を見てまた頭へと何度か突き刺して攻撃を仕掛け、また距離を取る。だがUNKNOWNは彼女を追わず、体を震わせながら何度か足踏みをし、ぐっと体を逸らしながら白いガスを放出し始めたではないか。
まさかの行動に驚く間もなく、振動によって体の自由を奪われていたアスベルはそのガスを受けて吹き飛んでしまう。
「ぐ、は……っ!? ……な、こ、これは……」
吹き飛ばされはしたが受け身を何とか取り、すぐに起き上る。だが彼はガスの影響で身に着けている装備が軟化している事に気づいた。ガスに含まれている粒子によって硬度が下げられているようだ。
「アスベル、一旦下がっておけ! わたしが前に出る!」
彼の状態を確認したレインはソニックボウⅦをローブへとしまうと、ギルドナイトらが所持する太刀の最終形態であるアトランティカを抜く。そのままUNKNOWNへと斬りかからんとするレインだったが、背筋を這い上がった嫌な気配を感じ取って急ブレーキをかけた。
UNKNOWNはレインへと振り返ると、その口を大きく開き、凄まじい熱気を持つ光線を撃ち出したのだ。火球と同じく青と紫に染まったその熱線は夜の砂漠を貫き、砂塵を巻き上げて彼方へと消えていく。
走り続けて距離を詰めていれば避けきれなかったかもしれないあの熱線。直撃すれば消し炭となり現世から別れを告げるであろう一撃を、奴は飛竜の身で容赦なく放ってくるのだ。
しかし大きな一撃は放った後に隙を晒す。それはUNKNOWNであったとしても変わりはない。レインは瞬時に距離を詰めて顔から首にかけて薙ぎ払い、すぐに距離を取るように離脱する。
それを感じ取ったらしくUNKNOWNは素早く尻尾を振るってレインを薙ぎ払おうとするが、レインはそれを躱していく。同じように体勢を立て直したナターシャが、ネブラコルムナを構えてUNKNOWNへと接近し、翼を狙って突き上げていった。
力を解放する事で周囲を圧倒する覇気が高まった事で、レインらは体がまた緊張状態に入るかと危惧したが、これくらいならばまだ耐えられるようだと小さく安堵する。
レイン隊の中でも選りすぐりのハンターであり、隊長であるレインの親衛隊のようなものでもあるメンツのため経験豊富であり、強力な竜らと戦ってきた人材だ。
ネブラコルムナの素材となった強固なオオナズチをはじめとする古龍や、未開の地へと赴いての新種との交戦など、厳しい任務を前線でこなしてきただけあって心身ともに鍛えられている。
だからUNKNOWNを前にしてもまだ戦えていた。
他の隊員もレインと同様に任務をこなしているが、数か月前に新たに隊に加わったメンツなどはまだまだ実力を磨き上げている段階だ。昨日の被害者はその中の数人である。未来ある人材を失ったのは心苦しいが、これもまた厳しい現実。
だからこそこれ以上の犠牲は出すまいと、レインらは戦う。
そんな彼らを見ている者がひとり。
岩陰に隠れながら、双眼鏡を覗き込んでじっと息を潜めながら彼はその戦場を見つめていた。
「興味深いねぇー……あれが、噂のUNKNOWNか。ふむふむ……実に興味深いねぇ」
そう呟く草薙武は久しぶりに強敵を前にしたような興奮を感じていた。噂だけが独り歩きし、UNKNOWNに関する情報は曖昧なままだったが、あれほどまでの存在感を放っていると案外噂も馬鹿に出来ないな、と思わざるを得ない。
離れた所に浮遊していた古龍観測隊の気球を撃ち落としたとか、眉唾物だったがあの熱線を見てしまえば本当なんだろうと思えるし、ディアブロスをはじめとする強力な個体を難なく打ち倒して捕食していたというのも頷けそうだ。
戦いたい、斃したい……そういう感情が沸々と湧き上がるが、それをぐっと堪えなければならないというジレンマが感じられ、ぎゅっと拳を握りしめる。
そして岩に立て掛けている一振りの剣へと視線を落とした。
「お前も喰らいたいだろう? あの血を啜りたいだろう? ……でも、我慢して見届けようじゃないか。あのギルドナイト達がどれだけ戦えるのか、そしてUNKNOWNがどれだけ強いのかをさぁ……」
『――――……』
武の呟きに静かに剣が応えるように鞘に収められている刀身が鈍く光った。
以前までならばそういう反応を見せる事がなかったそれは、武の言葉に僅かに応えるまでにまで変化していたのだ。
「ああ、でも……我慢できそうにねえかなぁ……。今にでも戦いたい……もどかしい、もどかしいねぇ……!」
そんなことを呟きながら、武は双眼鏡越しに彼らの戦いを眺め続けた。