集いし者たちと白き龍   作:流星彗

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8話

 

 

 森の中を二人の男女が歩いていく。辺りを警戒するように歩く様、身を包む防具に背中や腰に差している武器。一見して二人がハンターである事は明らかだった。

 標的となる相手はこの先にいる気配がする。地図によれば確かあそこには川があったはずだ。僅かに水音がするので間違いない。どうやら川の小魚を狙っているのだろう。奴にとっては食事の時間か。

 だが二人にとってはそれは好機。足音を立てず、気配を隠し、木々の間をすり抜けながら着実に敵へと距離を詰めていく。

 油断さえしなければ恐れるに足らない存在だ。亜種とはいえ、かの存在はこの東方のハンターにとっての登竜門的な存在。

 大丈夫だ、問題ない。

 

「…………」

 

 しかし不穏な噂があるのもまた事実。

 夕暮れも過ぎ去り、夜の帳が下りた時刻。月もまだ出ず、夜の森はひどく静かなものだ。視界は良好とはいえず、周りに気を配らなければいつ奇襲を受けてもおかしくない状況。

 そんな中で敵となるのはモンスターだけではなかった。

 巷を騒がせている辻斬りの存在が二人の心の片隅にあったのだ。しかし辻斬りの標的はハンターではなく武人。ハンターが狙われる事はないだろう、と考えている者もいるが、この暗い森の中で行動するとなるとどこか不安になってしまう。

 それにハンターであろうとも剣術の流派を会得している者も少なくない。この二人もまた同様。剣術を習得しているため標的になる可能性がある。それ故に辺りを警戒する際はモンスターだけでなく人の気配も探り続けている。

 しかしそれでも――この闇の中に紛れて動く存在を感知できていなかった。

 それは草むらを這うように動き、続けて木の幹を音も立てずに上り、枝の上に乗ると一息で他の木へと飛び移り、着実に距離を詰めていた。口から舌を出して軽く振るわせながら漆黒の瞳でじっと獲物を見据えているのだ。

 奴もまた、この暗い森の中の狩人(ハンター)。この森に溶け込む色合いをした体を持ち、気配と音を消す事に長け、この視界の悪さをものともしない感知能力を持つ。

 それを駆使し、得物に気づかれずに忍び寄り、一気にその命を狩る。

 今回もまたそれを行使するのみ。

 やがて川のせせらぎが耳を澄まさずとも聞こえるようになった頃、ハンター二人は川のほとりにいる標的を視認した。さあ、いよいよ攻撃を仕掛けようか、と飛び出すタイミングを見計らっていた二人に一気に距離を詰め、

 

「――ッ、グ……ッ!?」

「――えっ……!?」

 

 その体を貫くように両手を突き出して爪を抉り込ませた。鋭く伸びた爪は胸を貫通させ、しかも心臓を容赦なく抉っているため、最早二人に助かる未来はない。一体何が起こったのだ、と戸惑いを含んだ目をしながら、一体誰が自分達を殺したのかと男が肩越しに振り返る。

 口から血を吐きだしつつ彼が見たものは、

 

「……シュルルル」

 

 喜色を含んだ眼差しでじっと自分達を見下ろしながら舌を震わせる存在だった。

 

「な、なな……なぜ、ここに……」

 

 この存在がいるなんて聞いていない、と言葉を続けようとしたが、それは体に爪を食い込ませたまま一気に口を開き、男の頭から喰らいついた。頭を守る防具もろとも噛み砕き、苦痛と悲痛に歪ませた男の命を完全に喰らいつくし、それが顔を離した瞬間そこには何もなくなった。

 あるのはただ、鮮血の噴水と言うオブジェ。それを間近で見てしまったもう一人のハンターの女性は口から血を漏らしながらその整った顔を歪ませていく。

 

「い、いやあああああああああ!?」

 

 森に悲痛な悲鳴が響き渡る。その声に気づいた二人の獲物だった存在は背後を振り返り、そこで起こっている出来事を認識する。自分達を狩るはずだった存在が狩られている光景、そしてその狩った存在を見ると、一鳴きして翼を羽ばたかせてその場から退散していく。

 それを追うようなことはせず、それは視線を女性へと向けた。

 

「ひっ……!」

 

 女性も自分がもう助からないという事はわかっているだろう。しかしそれでも体は緊張し、がちがちと歯を打ち鳴らして震えてしまう。

 そんな彼女にも容赦の欠片もなく頭から喰らいつき、先ほどの男と同じように首を食い千切ってしまった。首があった場所からやはり勢いよく鮮血が噴き上がり、それすらも美味しそうに飲み干していく。

 

「シュルル」

 

 その血は甘露のように美味であり、噴き出しつづけるその体に喰らいつき、一気に血をすすりあげると今度はその柔らかい肉を頂くために口を大きく開けて丸呑みし始めた。身を包む装備すらやはりものともせず、そのまま足まで全て食べてしまう。

 最後は男の体を食べ終え、血が滴る口元を軽く拭いつつ舐めとり、川へと向かってその水を飲み始める。奴にとっての夕食が終わり、どこか満足そうにその場を立ち去ると、現場には血だまりが少し残るだけ。……そう、二人の体は全てあの胃袋の中へと消えていったため、彼らの死体が残る事などなかった。

 

 

 ○

 

 

 あれから一週間が過ぎた。ユクモ村まではあと半分ほどの距離を進むことになる。山を越え、丘を越え、谷を越え……アプトルを乗り換えて豊かな自然の中を駆け抜けてきた。

 現在は一つの町で休息を取っており、昼食を頂きながら周りの客の話に耳を傾けて情報を得ようとしているところだ。

 すると気になる話が耳に入ってくる。

 

「またやられたらしいな」

「いったいどうなっているんだろうな、あの森……」

「ハンターがやられ続けること三件、『帰ってこないから調べてくる』と言った奴も帰ってこず、辻斬りでも現れたのかと噂になり、『そんな奴がどうしてハンターを狙ってくるんだ? いるはずがない』と言った奴も帰ってこない……。どうかしてやがるぜ」

 

 話を聞いていくとこんな事が最近起こっているらしい。

 この先にある森には以前から奇妙な事が起こっているそうだ。あの森には元々様々なモンスターが生息し、最近はリオレイアやクルペッコ、クルペッコ亜種、ロアルドロスなどといったモンスターのクエストが張られ、消費されていった。

 だがどういうわけかこれらのクエストに向かっていったハンターが帰ってこないという事件が起こり始めたという。当然帰ってこないならばなにかが起こったのだろうと調査隊が派遣されるが、ハンターは見つからず、またどういうわけか調査隊の一部も行方不明になってしまった。

 同じように独自に調べに行った者もいなくなり、これはいよいよ何かがあそこにいるのではないかという結論になったのだが、次々と手練れの者がいなくなるというだけあってあの森に向かおうという気は起こらなくなっている。

 しかしあそこにいる飛竜らの存在の事もあり、クエストは今もなおはられ続け、運がいいものは何も起こらずに普通にクエストを完遂させて戻ってくる。そんな運のいい者らの話によれば、あそこになにかがあるかどうかはわからなかったそうだ。

 つまり、一体何が起こっているのかは不明。

 そのため解決の兆しは見えてこない。

 誰か実力ある者に頼むしかないのだが、こんな田舎にそのような人物が来るのかどうか怪しい。

 道筋はただ一つ。

 ギルド支部からギルドナイトに調査依頼を出す事のみだった。だが来るとしても時間がかかるのもまたネック。ロックラックにあるギルド支部、または東方のシキ国、ヤマト国にあるギルド支部に所属するギルドナイトを呼ぶ事になるだろうが、かかる時間は早くて一週間以上。

 アプトルを使ってこれなのだから、ここがどれだけ田舎かわかるというもの。

 また最近は辻斬りが発生し、地方でも新たに確認されたモンスターの一件もあってギルドナイトがそちらに駆り出されている。つまり人がそちらに回され、田舎の事件に回す人材が限られている。

 なのでギルドナイトに依頼しても、来てくれるかはわからない。来てくれたとしても時間がかかる。更に言えば来てくれたギルドナイトが本当にこの事件を解決してくれるかの保証もない。確率は高いだろうが、確実とは言えないのだ。

 

「謎の死、か。普通に考えれば観測されていない何かがその森にいるって事でいいのよね」

「でしょうね。死体が見つからないのもその何かが食べてしまった、と考えればいいでしょう。……ですが、その何かがわからないというのが問題ですね。飛竜なのか、牙獣なのか、あるいはまた別の何かか……」

 

 森の中なので挙げられるのはこの二種だろう。鳥竜種は攻撃的な存在が少ないし、いたとしても東方にそれが生息している地域は少ない。黒狼鳥イャンガルルガが有力だが、奴の場合殺しはしてもその死体を全部食べ尽くすというのは考えづらい。

 よって考えられるのは飛竜種か牙獣種となる。

 他にも獣竜種が考えられるのだが……その中で一番考えられるアレが出現したとなれば大騒ぎだ。その報告がないのでアレは現れていないだろう。

 

「それで? クエストがあれば参戦するつもりで?」

「あれば、の話だけれどね。ユクモ村に行く途中だけれど、こんな気になる話があったら、食いついちゃうでしょ?」

「それは瑠璃だけですねー。私はどちらでもいいので」

「あ、そう……。でも、この事件を解決していく事であたし達は強くなれる、ここの人達も喜ぶ。一石二鳥よ」

「ま、そうですね。じゃあ少し見てみましょうかね」

 

 立ち上がって壁際にあるクエストボードに向かってみる。そこに張られているのは三つの依頼書。

 

 青熊獣アオアシラ討伐。

 紅彩鳥クルペッコ亜種討伐。

 謎の存在の討伐。

 

 なるほど、確認されている中で討伐対象になっているのはアオアシラとクルペッコ亜種という事らしい。アオアシラは今の二人ならば問題なく討伐できるだろうが、クルペッコ亜種は少々厄介だろうか。

 彩鳥クルペッコは東方のハンターにとっての飛竜の登竜門として知られている。西方のイャンクックと同じく鳥竜種であり、飛竜の動きの基礎をこのモンスターで覚えるハンターが多いのだ。

 独特の鳴き声を駆使して自分の力を上昇させたり、鳴き真似で他のモンスターを呼び寄せたりとイャンクックとは違ってその辺りがやり辛いのが特徴ではあるが。

 そしてそのクルペッコの亜種が紅彩鳥。翼にある火打石が電気石に変化し、その体色もまた紅を基準としたものになっている。

 また呼び寄せるモンスターも原種と違って、強力なものが多いという報告をよく耳にしているとのこと。

 つまりただの亜種だと思って油断しているとやられかねない相手なのだ。

 しかし問題ない。

 茉莉が張られている物を瑠璃へと報告すると、なるほどと小さく頷いて「じゃ、ペッコ亜種にでも行こうか」と提案した。

 すると、近くにいた客の青年が二人の話を聞いていたのか声を掛けてくる。

 

「君達、まさか件の森に行こうっていうのかい?」

「ん? そうだけど?」

「何を言っているんだい、やめなよ。死ぬつもりかい?」

「そうだな。クエストを受けるってことはハンターのようだが、この件はやめておけ。命は投げ捨てるものじゃない」

「あたし達だってこんな所で目的も果たさずに死ぬつもりはないわよ。でも、ここで困っている人がいるってんなら、見過ごせないだけ」

「…………」

 

 そう言う瑠璃の瞳に怯えの色はない。姉のその姿と言葉に茉莉は彼らの姿を思い出した。

 いつだって困っている人のためならば手を差し伸べていくあの兄弟の姿。一、二年だったが一緒の村に暮らし、そういう彼らの背中と武勇伝を聞いてきたのだ。

 母親を目標としているが、その心境にあの兄弟のまっすぐな姿の影響を受けない、なんてことがあるわけもない。あの村にひっそりと暮らしていても、兄弟は今もなお歪まずに彼らの両親の背中を追い続けている。

 かの兄弟以上に中央で人助けのために活動し、とある村を救った後に亡くなってしまったあの両親の背中を。

 そんな姿が眩しくて、だからこそ憧れ、尊敬できる先輩だと思える。

 

(経験を積むため、とは言っているようですが……本当はそういう事でしょうね。ふふ、先日の事も恐らくはその志があったからこそ引き受けたのかもしれませんね)

 

 クエストをやってみたいと言い出したのは瑠璃だ。茉莉はそれに頷いただけ。昔から何かと口は悪いし、はねっかえりだった少女だったが、その根本では誰かを想う気持ちがある。あの兄弟の影響と心身の成長で、誰に対しても口が悪いというのは改善されてきているのは喜ばしい事だ。

 

「しかしもう何人も帰ってこない人達がいるんだ。考えたくもないが彼らは……君達もその後に続くというのかい?」

「話によればギルドナイトに連絡がいったそうだ。君達が行く必要なんてない」

「年頃の女の子が無茶をするものじゃないよ。ここは他のハンター達、特にギルドナイトに任せた方がいい」

「……生憎だけど、それは断るわ。それにアタシたちだってハンター、それも上位よ。経験も積んでいるし、あたし達二人なら大抵の事は乗り越えてきた。そうでしょ、茉莉?」

「そうですね。私達のコンビならば何とかなりますよ。瑠璃の斬りこみはなかなかのものですからねーそれはもう、猪のように猪突猛進にバカみたいにまっすぐで……」

「だれが猪だッ!? っていうか、それじゃあたしが脳筋みたいじゃないのよ!」

「え?」

「おい、なんだその顔は」

 

 うがーっと吼える瑠璃に何をわかりきった事を……といった風な表情を見せる茉莉だが、こういうのはいつもの事。吼えた後に急にテンションを下げてツッコミを入れるいつもの漫才に男達は呆ける。

 この二人に恐怖というものはないのか?

 漫才をするだけの余裕を見せる二人は本当に自然体だ。謎の存在に恐れている様子なんて見られない。それが男達には信じられなかった。

 

「君達……怖くないのか?」

「怖い? ……そうね、多少は怖いわよ? 当然じゃない、生き物なんだから。わけのわからない奴を相手にするし、命を懸ける戦いに赴くんだから怖くないわけないじゃない」

「じゃあ……どうして」

「ハンターはいつだって命を懸けている。今更の事よ。それにさっきも言ったでしょ?」

 

 そこで瑠璃はふっと不敵な笑みを浮かべながら目を閉じ、そして不敵な笑みは綺麗な笑顔へと変化していった。

 

「困っている人がいて、あたし達が戦う事で救われるって言うんなら、やってやろうじゃない」

 

 それはとても眩しい。

 止めなければならない、とわかっていても男達は何も言えなくなってしまった。

 そんな瑠璃に茉莉はやれやれと小さく首を振りながらもその口元は小さく緩んでいる。なんだかんだ言って弄っても瑠璃の事は好きなのだ。そんな彼女を自分は支え続けるのみ。

 

「じゃ、クエスト受注に行ってくるわ」

 

 軽く手を振ってカウンターへと向かっていく瑠璃を見送り、茉莉は同じように瑠璃を見送っていった男達に振り返る。

 観察すれば彼らもまたハンターか普通の戦士かわからないが、戦う者だという事がわかる。忠告したのはやはり同じ戦う者としてのものだろう。二人の実力を完全に読み取っているわけではないようだが、それでも戦場へと向かおうとする二人を止めるのは無意味に命を散らす事はないとわかっているからだ。

 勝てる戦いならば何も言わないだろうが、勝てるかどうか怪しいものに挑むのは愚かだ。ましてやそれが年頃の女ならばなおさら。止めたくなるのもわかる。

 だが二人の……瑠璃の意志は固い。あれはやると決めたらとことんやる。まさに猪突猛進……いや、一回弄ったからやめておこう。

 

「なに、気にする事はないですよー」

「……しかしだね」

 

 硬い表情を見せる男達に気楽に声を掛ける茉莉であったが、それでも男達の表情は晴れない。何度も大丈夫だ、といっても無駄だろう。二人が若い女という事もあるし、もう何人も行方不明になっているという事実もある。

 彼らが安心できるとすれば、それはその謎の存在を討伐できたという結果のみ。

 要は勝てればいいのだ。

 しかしそれが難しい。情報も何もあったものではないのだから対策のしようがない。二人に出来るのは己の実力と武器を信じる事だけだ。

 

「あなた達はここで吉報を待つといいですよ。では、これにて」

 

 ぺこりと一礼し、受付嬢と話をしている瑠璃の下へと向かっていった。既にクエスト受注云々について話しており、今出ているもの全てを汲み込んだ話に発展してしまっている。

 

「クルペッコ亜種、アオアシラ、そして謎の存在……纏めてくれないかしら?」

「纏める、ですか」

「そう。謎の存在の討伐はもちろんだけど、その他にも討伐するべき存在がいるようじゃない。あたし達はそいつが本命だけど、見つかるとは限らない。だから他の奴らもやろうって考えてるの。メインに謎の存在、サブとして他の二頭。これはクルペッコ亜種がアオアシラを呼び寄せる可能性があるから、って事でどう?」

 

 見つからないまま帰ってくる、なんて事がないように現在出ているクエストの対象になっている物をサブに据え、三つのクエストを同時処理しようという話らしい。

 瑠璃の言う通りクルペッコ亜種の鳴き真似で、アオアシラが出てくる可能性も捨てきれないため、クルペッコ亜種を優先的に探すという方向でも問題ない。

 クルペッコ亜種らとの遭遇、謎の存在との遭遇、どちらの状況になったとしても問題がないようにこの提案をしているというわけだ。

 しかし受付嬢もやってきた二人を交互に見つめて不安そうな表情をしている。彼女もまた二人にこのクエストをこなす事が出来るのかと疑問に感じているのだ。

 

「ほら」

 

 そんな彼女に瑠璃は懐から取り出したギルドカードを見せてやる。それに続くように茉莉もギルドカードを取り出した。それを受付嬢に手渡し、彼女はそれらを確認する。

 そこにあるのは上位の証であるマークと二人の名前。上位と下位のクエストを行き来しているが、二人は間違いなく上位ハンターなのだ。

 下位と上位にはただ上下で分けられる程の差ではない。モンスターの個体、その内包する力と実力に応じてランクづけられ、同時に危険度も跳ね上がる。

 それは下位ハンターが上位になって初めて上位クエストに挑み、失敗するのがほぼ半分という統計結果が示している。

 それだけ上位と下位とではハンター達が思う以上の差がある。

 それを上位の前半ものとはいえ、多くクリアしている二人の記録を見た受付嬢は無言になり、少し上目づかいにもう一度二人を交互に見た。

 

「……本当に、行くのですか?」

「ええ」

「…………わかりました」

 

 ギルドカードを返し、引き出しから書類を取り出してペンを走らせていった。その様子を静かに見守り、数分後にはそこには依頼書が完成する。

 

 謎の存在の討伐依頼。

 メインターゲット:謎の存在。

 サブターゲット:クルペッコ亜種、アオアシラ。

 

 ローブの使用許可。

 制限時間:五十時間。

 

 ローブの使用許可が出た。謎の存在がどのようなモンスターなのかわからないため、装備を限定するのもなんだろう。緊急時に切り替える事が出来るというなら喜ばしい事だ。

 制限時間があるが内容に問題はない。

 この五十時間というのもクエストの基本時間だ。今回もそれを採用したらしい。もちろんこれを超えればクエスト失敗、そのまま一度帰還する事になる。

 しかし問題ない。

 二日もあればなんとかなるだろう、たぶん。

 内容を確認した二人はそれにサインし、契約料を支払い、受付嬢がそれを確認して判を押す。これでクエスト受注が完了した。

 後は準備を整えて戦場へと向かうのみ。

 

 

 竜車に乗って件の森の中に入り、ベースキャンプのエリアまでやって来たときにはもう二時間が経過していた。テントを張り、支給品ボックスを用意するとローブからそれぞれ武器を取り出し、コンパクトに纏めて肩にかける。

 今回二人がメインで使用するのはこの二つ。

 瑠璃はヒドゥンサーベル。彼女がメインで使用する無属性の武器であり、ナルガクルガの素材を使用して高い切れ味を誇っている。

 茉莉はインペリアルガーダー。ヒドゥンサーベルと同じく無属性の武器であり、良質の鉱石を主に使用して切れ味を高めていったガンランスだ。

 ローブを持っていく事を許可されてはいるが、どんな相手でも相手に出来る凡庸性を持つ無属性の武器ならば、クルペッコ亜種を相手にしている際にメインの標的が現れたとしても対応可能だ。

 

「さて、確認しましょうか。今出ている情報ですと、クルペッコ亜種は森の奥にある川、または上の方にある丘付近で確認され、アオアシラは森の中を中心に確認されているとの事です。どちらもランクとしては上位個体。なかなかのものですねー」

「上位個体、か。ふーん、相手にとって不足はないわね」

「そしてこの森で犠牲になったのはもう十人以上。男も女も関係なしですね。ハンター、いなくなった人を探しに行った人、果てはこの森を通過しようとしたと思われる旅人も犠牲者ですね」

「旅人はどうしてわかったのよ?」

「あの町からこの森を通過し、この先にある町へと向かおうとした人達がいたそうですね。調査の結果、その町にその人達がやって来たという事実はなし。ここでいなくなってしまったのではないかという結論になったようです」

 

 その手に持っている書類はあの町で集めた情報だ。それを竜車の中で纏め、改めて確認する。こういう作業は茉莉の役割の一つ。後ろで支えていく事を主としている茉莉ならではの事だった。

 しかしサブの二種がどちらも上位とは驚きだ。

 アオアシラは新米ハンターが相手にする事が多い牙獣種の一種であり、見た目は大きな熊と相違ない。種族名にも青熊獣とあり、見たままの通りだ。

 森の中で暮らすモンスターであり、ハチミツを好物としているためハチミツを求めて森を歩き、ハチミツを持つ人を襲っていくという報告がある。

 強靭な甲殻が覆われている前足に生える爪で獲物や敵を斬り裂き、その重い体で押し潰したりすることで攻撃を仕掛けていく。

 だがその動きは読みやすく、新米ハンターが狩りの仕方を覚える相手としてよく知られている。アオアシラで動きと狩りというものを知り、クルペッコで飛竜との相手の仕方を覚える、といった具合で東方のハンターは成長していくのだ。

 下位だったならばすぐに討伐する事が出来たろうが、上位ならばそうでもなくなりそうだ。

 

「それで、どちらから処理していくのです?」

「どっちでもいいんだけど……まずはやっかいなペッコ亜種から行きましょうか」

「わかりました。では――」

 

 取り出した武器を背負い、二人は森の中へと入っていく。

 これまで立ち入った者達の大半を行方不明――恐らく命を奪っていった魔の森。

 森には時折魔物が潜むと言われているが、この森もそうなのだろう。

 二人はこれからその魔物へと挑む。立ち入った者ら全てを喰らってきた魔物へと。

 果たしてその魔物の正体は何なのか。そしてその魔物とどこまで戦えるのか。

 今、ここに戦場が成立する。

 

 

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