戦国時代に放り出された相良良晴が最初に出会った彼女。もしも彼女に仕えていれば…これはそんなifの物語。かもしれない。

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織田信奈の野望〜海道一の弓取り〜

相良良晴は慌てていた。

気がつくと、なぜか戦国時代の合戦場のど真ん中に立っていたのだ。

 

「待てっ、なんでだよ!? ここはどこだ!」

 

良晴は混乱するが、周囲にいる足軽たちは問答無用とばかりに襲いかかってくる。

 

「うわあっ!? 一体どうなっているんだよ!」

 

迫りくる槍を避けながら良晴は必死に逃げ惑う。

草をかき分け、川の中を溺れかけながらも逃げ続ける。

 

「待つだぎゃあ! その首はわしのモノだぎゃあ!」

 

目を血走らせながら、しつこく追いかけてくる足軽。

良晴は逃げ惑いながらも、身を隠せる茂みを見つけると中に飛び込んだ。

 

良晴を追いかけていた足軽は、周囲を見渡すと目の前に敵の本陣があることに気付く。

足軽は一瞬迷うが、大手柄を立てるチャンスに意を決して本陣に襲いかかる。

 

「ひいっ!? あ、あなたは誰なのですか!」

 

突然、陣幕を破って現れた足軽に驚愕の表情を見せたのは、大きな目がきりりとつった、美少女だった。

 

怯えた表情をみせる美少女に、良晴の身体は考える前に動いていた。

 

「止めろっ!! その美少女に手を出すんじゃねえっ!!」

 

飛び出した良晴は、足軽に体当たりをする。

思いがけない攻撃に足軽は呆気なく吹っ飛んだ。

 

転がる足軽の姿に、それまで突然の事態に固まっていた周囲の武将達が一斉に動き出し、足軽を斬り捨てる。

 

「た、助かりましたわ」

 

「よかった。無事みたいだな」

 

良晴は美少女に怪我がないことを確認して、安心して笑顔をみせる。

 

「その方、見慣れぬ顔ですが、わらわを守ったことを褒めて……ち、血が!?」

 

良晴の腕から流れる血に美少女は蒼白になる。

良晴は足軽に体当たりをした際に傷を負っていたが、興奮していたため気付いていなかった。

 

「うわっ!? 本当だ! でも、えっと、君が…その、姫さんが傷付くよりずっといいよ」

 

良晴は、目の前の美少女の名前が分からなかったが、十二単を着用している姿から姫をイメージして“姫さん”と呼んだ。

 

その呼称に美少女──今川 義元は、己が傷付きながらも自分を助けた男が、助けた相手が大名だと気付いていないことを知る。

 

今川の大大名である義元に傅く者達は多いけれど、大大名の義元としてではなく、ただの義元という一人の少女を大事に想ってくれる者は、今は亡き“太原 雪斎”しかいなかった。

それゆえ義元は、目の前の男が自分の正体を知らないのに身を呈して助けてくれた事に驚いた。そして、僅かにだが男に好意を抱いた。

 

「その方の働き見事ですわ。わらわが褒めて差し上げます。そうそう、なにか望みはありませんか? 遠慮はいりませんわよ。わらわが叶えて差し上げますわ。おーほほほほ」

 

義元の言葉に周囲の武将達がどよめく。男に対しては辛辣な態度をとる主君が、たとえ自分の窮地を救ったとはいえ、男に対してここまで“優しい”言葉をかけたことに驚愕したのだ。

 

しかし、彼らは男の放った言葉にさらなる驚愕をうけることになる。

 

「いや、姫さんが無事ならそれでいいよ。でもそうだな。一つだけ言わせてもらえば、君みたいな可愛い女の子がこんな戦場にいたら危ないぞ」

 

なんと男は、海道一の弓取りと謳われる天下の大大名、今川 義元に対して“可愛い女の子”などと言い放ったのだ。

 

本来ならばこのような不敬は許されないが、直前に義元本人が遠慮なく望みを言えと許していたため、武将達は動けずにいた。

 

良晴は、そんな武将達の動揺などには微塵も気付かずに“誰か手当てしてくんねえかな”と考えながら傷口を抑えていた。

 

一方の義元というと、生まれて初めて男に“可愛い女の子”などと言われて思考が停止していた。

もしもこの時、彼女が僅かばかりといえ良晴に対して好意を感じていなかったなら、男に対する忌避感がはたらき、良晴を斬れと命じていただろう。

 

だが、義元に生じた感情は忌避感ではなかった。

それは義元が唯一、心を許していた“太原 雪斎”に抱いていた想い──温かいそれに似ていた。

 

義元は思い出す。病の床に伏せりながらも最後まで自分を案じ続けてくれた彼の言葉を。

 

『そなたの阿呆な思考を矯正できなかったのが唯一の…いや、多すぎる心残りの一つだ。私亡き後は、余計な事を考えずに今川家の存続だけを考えよ。あの阿呆のような高笑いはするな。その十二単もいい加減にしろ。見慣れぬ柄だが、新たに購入したのか? まったく、無駄遣いをするなといつも言っておるだろう。それと…』

 

いやいや、これじゃない。義元は頭を振り、改めて記憶を掘り起こす。

 

『まあ、色々と言ったが、そなたは自分の幸せだけを考えればよい。いざとなれば、今川家など捨てて逃げてしまえ。お家の存続など、そなたの幸せと比べればクソ喰らえだ。私にとって可愛いのは今川家ではなく、そなたなのだからな』

 

色々と台無しの彼の言葉に、流石の義元も呆れたことを思い出す。そして、同時に彼が向けてくれた優しい眼差しを思い出す。

 

二度と自分に向けられることはない優しい眼差し。

 

ほんの少しだけ、二人の眼差しは似ていると義元は思った。

 

義元は自分では気付かなかったが、優しい声色で良晴に問うた。

 

「ふふ、そなたの望みを叶えて差し上げたいところですが、わらわは戦国大名です。戦場から離れることは叶わぬ身ですわ。そなたがわらわを心配してくれるなら、わらわの側に仕えて守っていただけますか?」

 

配下の武将達は、普段は男嫌いで傲岸不遜な主君のあり得ない発言に度肝を抜かれた。

きっとこれは白昼夢なのだと、互いに頷きあうと今日は早く寝ようと決意した。

 

「えっと、そうだな。姫さんに仕えられたら嬉しいかもな」

 

良晴は美少女からの申し出に内心喜んだが、素直に喜びを表すことは、年頃の男としての見栄が許さなかった。そのため、少しぶっきらぼうに答えてしまう。

 

しかしそんな良晴の気持ちは、いくら阿呆な義元といえど、女であるがゆえに察することが出来た。彼はまだ“男”ではなく“男の子”なのだと。義元は男の子の分かりやすい態度に笑いが込み上げてきたが、ここは我慢してあげるべきだろうと思った。

 

「これからは頼りにしますわね。えっと…」

 

義元はまだ男の子の名を知らないことに気付き苦笑する。名も知らないまま仕えさせるとは自分らしくないと思った。同時に自分の変化を面白くも感じていた。

 

「あっ、俺の名前は良晴だ! 相良良晴って言うんだ! 姫さんの事は絶対に守ってみせるぜ!」

 

男の子も名乗っていないことに気付いたのだろう。慌てて名を名乗ると、調子よく義元を守り抜くと言い切った。

 

男の子──良晴の調子のいい言葉、いつもの義元なら不快に思ったかもしれないが、今日の義元には愉快に聞こえた。

 

そして、自分も良晴に名乗っていないことに気付いた。なぜ、良晴は尋ねてこないのだろうと不思議に思ったが、良晴の満面の笑みを見たらどうでもいいかと思い直した。

 

「本当に頼りにしていますわよ。わらわを…この“今川 義元”を守って下さいましね」

 

「い、今川 義元っ!?」

 

自分の名を知った良晴が思いっきり目を丸くするのを見た義元は、“太原 雪斎”が亡くなってから初めて本当の笑顔をみせて笑った。

 

 

***

 

 

公方様から文が届きました。

 

内容を簡単にまとめますと、上洛をして三好を討て。それだけですわ。

 

三好といえば、我が今川軍をもってしても強敵といえる相手ですわね。もちろん、負けるなどとは思いませんが、容易い相手では決してありません。

 

わらわは、今川家の執政であった“太原 雪斎”が残してくれた【雪斎印の虎の巻】を取り出す。

これは、雪斎がわらわに残してくれた政治、経済、軍事等における指南書です。

 

ふふ、あの方にとっては、海道一の弓取りと謳われるわらわも、ただの世話のやける子供に過ぎないのでしょうね。

 

わらわは、虎の巻の上洛の項を探して開いた。

 

《この阿呆が、そなたが魑魅魍魎溢れる京の都なんぞでやっていけるか。決して近付くでない。将軍の言葉は聞き流せ。帝の言葉はお茶を濁しておけ。公家ような害虫には、適当に金をばらまいて追い払え。しかし、そなたが破滅したいと言うのなら好きにしろ。以上だ》

 

…上洛は時期尚早のようですわね。今回は見送りましょう。

 

まあ、一応は家臣の皆さんにも話をしておきましょう。

 

わらわは、主だった家臣達を集めて公方様からの文について話した。

 

結論はわらわの中では出ていますが、家臣達の意見を聞くことも必要なことでしょう。虎の巻にも書かれていましたから間違いありませんわ。

 

家臣達は各々の意見を述べる。

 

上洛に賛成の者と反対の者。どっちつかずの優柔不断な者。

 

全体としては、上洛に賛成の者が多いようですわね。現在の今川家の権勢なら上洛は可能ですし、三好軍の殲滅までは難しくとも、京の都から追い払うのは容易だと考えていらっしゃるようです。

 

ふふ、皆さんは甘いですわね。

 

「皆さんの思いは分かりましたわ。確かに我が今川家の力を持ってすれば、京の都から三好如きを追い払うなど容易いことですわ。ですが、その後はいかがなさいますか? 力無き公方様に助力を続け今川の血を流し続けるのですか? わらわは遠く離れた京よりも今川の民達の方が大事ですわよ」

 

わらわはコッソリと隠し持った【雪斎印の虎の巻】の家臣説得用の項を参考にしながらお話をします。

 

コツとしては、胸を張れ、高笑いはするな。と書かれていますけど、話の締めくくりに高笑いは外せませんわよね? では、コホン。

 

“ゾクリ”

 

高笑いをしようとした瞬間、わらわの全身に悪寒が走った。こ、この悪寒はまるで、“太原 雪斎”に睨まれた時のようですわ。

 

……ここは、我が執権の顔を立てて高笑いは止めておきましょう。

 

殆どの家臣達は、わらわの言葉に納得したようですわ。でも一部の者は不満そうですわね。放っておいても影響がなさそうな人数ですけど、如何したものでしょう。

 

おや、良晴さんがウンウンと頷いていますわね。試しに話を振ってみましょう。

 

「良晴さんはどう思いますか? 忌憚なくおっしゃって構いませんわよ」

 

「えーと、俺は上洛は反対だよ。だって、俺達の姫さんが、たとえ将軍が相手だろうと頭を下げる姿なんて見たくないからな。第一、落ち目の将軍に肩入れしても仕方ないだろう? そんなことに関わるより今川家の繁栄に尽力すべきだよ」

 

ふふ、良晴さんの将軍を蔑ろにした発言に、家臣達が絶句していますわ。だけど、今川家を、わらわを重んじて発した言葉に反論する気はないようですわね。

 

元々、上洛に賛成した者も、将軍の為ではなく、今川家の名誉のために賛成していただけに過ぎませんわ。名誉のための上洛で、今川家当主が下げたくもない頭を下げないといけない。などと言われれば、上洛に賛成するわけがありませんわね。

 

「ふふ、よくぞ申しました。わらわも役に立たぬ将軍に下げる頭はございませんわ。上洛はいたしません。今川家は内政に努めますわ」

 

わらわの不遜な物言いに息を飲む家臣達。だけど良晴さんだけは、満足そうに何度も頷いていらっしゃいました。

 

 

***

 

 

今川、北条、武田で結んでいる三国同盟。

 

忍びの藤林 長門(ふじばやし ながと)から同盟を結んでいる武田家の窮地が伝えられました。

 

ちなみに藤林 長門は、伊賀の上忍ですわ。

 

戦国の世においては情報こそ命だそうです。我が今川家では忍びを雇うのではなく、一族丸ごと召抱えることによって裏切ることのない忍びを確保しました。

 

召抱えたのは、藤林を筆頭に総勢500名。その家族ごと領内に住まわせていますわ。

 

まったく、無駄遣いにも程があるという話ですが、今は亡き我が執権、“太原 雪斎”が決して切ってはならぬと鬼のような形相で、わらわを脅したゆえに切る気になりませんわ。もしも切ったら絶対に化けて出てくるに違いありませんわ。あの鬼坊主は。

 

「武田家が織田家を相手に劣勢の様ですわね。皆さんは如何すべきだと思いますか?」

 

わらわの問いに家臣達が意見を言い合う。

 

『武田家は、上杉家とも争い劣勢と聞く。すでに斜陽の家ですな。当家も同盟も考え直す時期でしょうな』

 

『ここは状況を見守り、ここぞという時期に漁夫の利を狙うべきです』

 

『織田家の勢いは侮れぬ。ここは武田家を切り、織田家と結ぶべきだ』

 

概ね、武田家を切る。という話ですわね。

 

あら、普段は率先して発言する良晴さんが黙ったままですわね。どうされたのかしら?

 

「良晴さんは、どう思われますか?」

 

「姫さん。確かに織田家は破竹の勢いだ。当家は武田家とは同盟を結んでいるが、利を追いかけるなら武田家を切るべきだと思う。だけど俺は姫さんに非情な統治者になってほしくない。慈悲深い姫さんであってほしい」

 

良晴さんの青臭い言葉に、家臣達は冷笑を浮かべていますわ。まあ、当然ですね。

 

「良晴さんの気持ちは分かりましたわ。ですが、この戦国の世は食うか食われるかの厳しい世界ですよ。良晴さんの仰るような生き方をできるとお思いですか?」

 

「そ、それは…でも、俺は…俺は……」

 

わらわの厳しい言葉に、良晴さんは唇を噛んで下を向いてしまう。

 

あら、良晴さん。そこで終わってしまうのですか。

 

わらわの“太原 雪斎”に似た眼差しを持つ貴方が、そこで終わってしまうのですか。

 

良晴さん…

 

下を向いたまま動かない姿に失望を感じてしまう。

 

わらわが諦めようとしたとき──それは聞こえました。

 

「姫さんは、姫さんは、凄い大名なんだろ、姫さんは物凄く強い大名なんだろっ、それなのにそんな事を言わないでくれよ! そんな弱音を吐かないでくれよ!! 俺の好きな優しい姫さんでいてくれよっ!!」

 

それは、意味のない叫びだった。

 

それは、子供のような叫びだった。

 

それは、心に響く叫びだった。

 

良晴さんは、いつの間にか立ち上がり、わらわを睨みつけるようにしながら、その想いをぶつけてくれました。

 

自然と頰が緩むのを感じます。

 

わらわは、突然の叫びに呆気にとられていた家臣達を正気に戻すため、手にした扇子をパチンと鳴らします。

 

家臣達の視線を感じながら、わらわは艶然と微笑みます。

 

「うふふ、良晴さん。わらわは一言も“できない”などとは申しておりませんよ」

 

良晴さんを含む家臣達全員が息を飲むのがわかった。

 

わらわは居住まいを正すと、今川家当主としての言葉を発する。

 

「わらわは海道一の弓取り、大大名の“今川 義元”です。非情なる戦国の世であろうとも、わらわが歩む道はたった一つ、天の道のみです。わらわと共に天の道を歩めぬと申す者は、咎めませんゆえ直ちに当家を去りなさい」

 

しばし時を待ちますが、誰も去ろうとしません。

 

「これより、今川家は三国同盟の盟約に則り、武田家に助力致します」

 

わらわの言葉に家臣達は一斉に頭を下げました。

 

ところで、良晴さん。その泣き笑いのような表情は少し気持ち悪いですわよ。わらわのように上品に笑うべきですわ。おーほほほほほ…はっ!? さ、寒気がしますわ…

 

 

***

 

 

織田軍と上杉軍に攻められ、滅亡を覚悟しながらも孤軍奮闘を続けていた武田 信玄だったが、思いもよらぬ今川軍の助力により、奇跡的にも両軍を押し返すことに成功する。

 

武田家の窮地を救った今川 義元は、三国同盟の盟約に従ったのみとして、一切の見返りを武田家に求めないばかりか、疲弊した武田家領内の民のためにと無償の援助まで申し出た。

 

武田 信玄は家臣達を前にして次のように語ったと伝えられている。

 

『“海道一の弓取り”今川 義元殿は、武士の中の武士である。仁義を重んじる彼の御仁こそ、武士の棟梁に相応しい傑物であろう』

 

 

***

 

 

【雪斎印の虎の巻】

 

三国同盟の項

 

・三国同盟は可能なかぎり堅持せよ。

 

《気位の高い北条家は、たとえ滅亡しようとも成り上がりの大名には屈せぬ馬鹿の集まりゆえ、都合のいい盾として利用しろ。名門の今川家が礼を尽くして接していれば自尊心を満たされ、裏切る可能性は低下するだろう。ただし、こちらが北条家の滅亡に付き合う必要はないぞ。馬鹿どもが破滅の道に進めば即座に切れ》

 

《武田家は気性の荒い番犬のようなものだ。他の野良犬どものよい相手になるだろう。精々、飢え死にせぬように最低限の餌をくれてやれ。番犬が野良犬どもに食い殺されそうなら、余裕があれば助けてやれ。上手くすれば勝手に恩を感じて忠犬になるやも知れん。ただし、噛みついてくれば容赦無く叩き殺せ》

 

《戦を起こす前には長門に助言を求めよ。今川家が滅びれば、長門の一族も路頭に迷うゆえ、あやつの助言は信ずるに値しよう》

 

《言っておくが、三国同盟の盟主を気取ろうなどとは絶対に思うな。そなたの穴の空いた器では到底不可能だ。ボロが出て、逆に舐められる羽目になるだけだ。海道一の弓取りなどという虚名も地に落ちるぞ》

 

《そなたは何も考えずに艶然と微笑んでいればよい。そなたの唯一の取り柄である見てくれが味方してくれよう。ただし、高笑いはするな。全てが台無しだ》

 

《そもそも、そなたという阿呆は暇さえあれば蹴鞠なんぞに…》

 

“バタン”

 

義元は虎の巻を閉じる。

 

「うぅ…雪斎さんは厳しすぎますわ」

 

義元は心が痛むため、続きを読むのは明日にして今日はもう眠ることにした。

 

義元は大事そうに虎の巻を書棚に戻すと、軽く室内を清掃してから寝所へと向かう。

 

その部屋は、義元以外は立ち入ることが許されぬ部屋だった。

 

後に、義元以外で唯一立ち入ることを許された良晴は、清掃が行き届いた室内に置かれた書棚を見て呟いた。

 

「雪斎さんは、随分と姫さんに甘かったんだな」

 

良晴が見つめる書棚には“太原 雪斎”が、我が子のように可愛がっていた阿呆な義元のために、己の全てを込めて書き上げた【雪斎印の虎の巻】全100巻が収まっていた。

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。
義元と良晴の組み合わせは意外と難しくて、こんな風になってしまいました。続きは思い浮かびません。この二人をバカップルにできる方がいれば応援します。ラブラブ物語をお願いします。

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