渚side
午後一番のビッチ先生の授業は、チャイムが鳴り終わっても中々始まらなかった。理由はただひとつ。
(めっちゃ睨んでる…)
((超睨み合ってる……ってか))
(((ガン飛ばし合ってる!?)))
教室内にバチバチとした異様な空気が流れているから。何故かビッチ先生と一華さんがお互いじーっと睨み合っていた。
「どーしたの降谷ちゃん、ビッチ先生のことそんなに睨んで」
(((よく言ったカルマ!)))
「なんでもない……」
「ぶっ! 降谷ちゃんそれ説得力なさすぎだから」
空気を読まずに突っ込んだカルマ君もそれ以上は話しかけることなく成り行きを見守っている。ならばこっちに聞くしか無いとビッチ先生に質問してみても、返ってくる答えは同じだった。
(((どうみても何でもなくないよな!?)))
「え、えっと……ビッチ先生、授業は……?」
「あぁ。そうだったわね、えぇっと今日は――」
磯貝君の誘導でなんとか始まった英語の授業は、終始無言で睨み合いを続けていた2人が気になって全く集中できなかった。(ビッチ先生の授業の場合アレなビデオ見せられるばっかりでいつも集中できないけど)
事の始まりは、たぶんお昼休みのあの出来事。
「渚、残りの時間野球しようぜ」
「ごめん杉野。僕ちょっと一華さん探してくるから……」
昼食が終わるとそう提案してきた杉野にそう断りを入れると不思議そうに首を傾げられた。
「お前降谷さんと仲良かったのか? 名前呼びまでして」
「……ちょっと、ね」
「ふーん? まあいいや、俺も行くよ。一応クラスメイトになったんだし、な」
少し戸惑ってはいるものの彼女に対しても友好的な杉野は、凄く明るい性格で誰とでも友達になれるタイプだと思う。一通り空き教室を見て回ったけれど見つからず、じゃあ校庭へ出ようかという頃になって一華さんが僕等の方へ歩いてくるのが見えた。
声をかけようとしてふと立ち止まる。そういえばさっき、お昼に誘った時は逃げられちゃったんだよね。
「あ、いた。降谷さん!」
躊躇なく彼女を呼んだ杉野の声に顔を上げた一華さんはハッと驚いた表情で立ち止まると、ぐるりとあたりを見回し慌てたように走ってきて、僕等の手を引いて近くの音楽室に飛び込んだ。
「うわっ、ちょっ……え?なんで隠れんの!?」
「……ご、ごめんなさい。つい……癖っていうか、条件反射で」
「それどんな癖だよ」
そんな会話をしていると後ろから聞き慣れた声が飛んできた。
「なーにしてんのよアンタ達」
「あれ、ビッチ先生いたのか!」
「失礼ね! いたわよ!! あら?なんか一人増えてな……っ!?」
いろんな楽器が並べてある中、電子オルガンの向こうから姿を見せたビッチ先生は僕等を見ると表情を変えた。と同時に、一華さんが心底不快そうな顔でビッチ先生を見ているのに気付く。
「なっ、なんでアンタがここに居るのよ!?」
「……
「キィー!!
「
急に英語で会話を始めた2人が何を話していたのかはわからなかったけど、とにかく喧嘩をしていることだけは誰が見ても明らかだ。一華さんとビッチ先生は知り合いだったってことになるけど、なんで殺し屋なんかと知り合いなんだろう……。
「どうするよ、渚」
「……うん、どうしようか」
「つーか超ネイティブなビッチ先生についていける降谷さんってやっぱスゲーな」
「だよね」
この喧嘩が5時間目の授業まで引きずられることになったわけだけど、結局2人の関係は誤魔化されて教えてもらえなかった。イタリアから帰ってきた殺せんせーは2人の間に流れる空気におろおろと冷や汗をかいていた。
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「
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放課後殺せんせーに呼ばれて隣の空き教室へ行くと、磯貝君と片岡さんまで一緒にいた。
「それで殺せんせー、話って?」
「もしかして降谷さんのことじゃない?」
「片岡さんは察しがいいですね。実はその通りなんです」
委員長2人の言葉に触手をピンと立てて正解を示す。
「でもなんで渚も一緒なんですか?」
「渚君。このクラスで一番彼女と付き合いがあるのは君ですね?」
磯貝君の問いかけに先生は柔らかい触手をプニョンと僕の頭に乗せて言う。あれ、なんでせんせーが知ってるんだろう。
「たぶん、そうだと思う」
「え、そうなのか!?」
「そういえば今日もお昼に誘ってたわよね」
「まあ、逃げられちゃったけど」
「「逃げるの!?」」
1年の頃から彼女を知っていると告げると、その割にはあんまり仲良さそうには見えなかったと言われる。まあそう思われても当然だ。僕達はいつも2人でしか会わない(お兄さんと快斗さんは別だ)し、ここまでの関係を築くのにとても苦労した。だってまともに話してもらえるようになるのに1年もかかったんだから。
「あ、でも……」
「「「でも?」」」
「ビッチ先生と知り合いみたいだったし、僕より一華さんのこと知ってるんじゃないかな」
凄く仲悪そうだったけどね。苦笑交じりに付け加えると授業風景を思い出したのか2人とも苦い表情で頷いた。
「知らないわよ、あの小娘のことなんて」
いつの間にか教室の入口に立っていたビッチ先生が苛立たしそうにやってきて脇にあった椅子を引っ張り出して座る。会話に参加したいらしい。
「あたしが知ってるのは…!」
「「「知ってるのは?」」」
「……っあたしが知ってるのは、あの子がクソ生意気ってことだけよ」
どこか寂しそうに伏せられた目が、それが本心じゃないということを物語っていた。たぶんビッチ先生はこの中で一番彼女のことを知っているんじゃないかと思う。
「キーッ! 思い出したら腹が立ってきた!! 何がネズミ泥棒よあの女!」
……やっぱり本心だったのかも。