それでは今年最初の投稿です。
ロッカールームに入ると、テイラーは急いで自分の装備を取り出しにかかる。
水色に塗られたバット――スワッターと、2連水平のショットガン。そして栄光のダイアモンド・セキュリティの証でもある防具セット。
「おいおい、巡回初日から遅刻か?テイラー」
「よぉ、ウィル――まだ違う」
「そうか?……残念、ちょうど時間だ。遅刻の罰金、ついてないな」
「うるさいな、お前。俺の女房にでもなりたいのか?」
ごめんだよ、そう言ってウィルはロッカーの谷間から消えた。
テイラーはそんな仲間の背中を見ることはなかったが、かわりに手を止めると大きくため息をついた。
――なんでよ、なんでそんなことになったの!?
妻のキャロラインは、出かけるテイラーの背中にむけてヒステリーを起こす。
それは突然のことではあったが、理解できない話ではなかった――。
テイラーはそれまで、ダイアモンドシティの中の警備をおこなっていた。平和と安全を守る役目だ、それを乱す奴を取り締まっていた。
だが先日、ついに外回りをやれと言われてしまった。
その命令を聞いて本人にショックはまったくなかった、とは言わない。
上司への賄賂が足りなかったのか、とか。誰かの恨みを買って、嫌がらせにあったのか、とか。最初はそんなことを当然考えた。だがすぐに考えるのをやめた。
シティが平和なのは、それを守るセキュリティの存在があればこそだ。そこに所属していれば、いつかは貧乏くじを引くことだってある。
だが、夫が危険なダイアモンドシティの外を警備するということを、ついに今日までテイラーは妻に話すことができなかった。
おかげで、出かけにトラブルになってしまったのだ。
悲しみと怒りが納まらない妻に「戻ったら話そう」とだけ言い訳して、ここに来た。
彼女は感情的にただ、仕事をやめろと当然のように口にするだろうが。そのとき、自分はそんな彼女を説得しなくてはならない。
ダイアモンドシティ。いや、ダイアモンドシティ・セキュリティの中でこれまで安全な仕事をしてきた男が。危険だからやめます、などと口にしたと思われ、噂になってはこの町で生きていくことはできない。
妻にはそのことを理解してもらわなくてはならない。
この連邦で、もっとも安全なこの町に捨てられる。夫婦そろって、追放者として荒野に出て行く後姿など、考えたくない未来であった。
「死にたい気分だよ」
移動初日に遅刻してしまった言い訳のつもりでタイラーは待っていた同僚にそうこぼした。ジョークではなかったが、そう受け取られて笑いは取れた。
別にこれは決して本気だったわけじゃない。
すぐそばに仕掛けられた地雷が音を立てて炸裂すると、緑色の肉塊がばらばらに別れて宙を舞っていた。助かったとテイラーは思ったが、喜びはなかった。
「ヤルナ、ニンゲン!モット戦エ!」
緑の肌の化け物たち――スーパーミュータントは、”自分の仲間”が死ぬさまを見て喜ぶと。ますます猛って、こちらを攻撃してくる。
「畜生、あいつらやりたい放題かよ!」
「泣き言はいい!撃てっ」
テイラーは半泣きの仲間を叱咤すると、物陰から腕だけを突き出してショットガンを撃つ。
本当に運が悪かったようだ。ダイアモンドシティに近づこうとするスーパーミュータントの一団とテイラーの巡回班は出会ってしまったのだ。
ここらの地雷原はまだ生きているから大丈夫、などと言い合ってはいたが。相手があのスーパーミュータントでは意味がない。あいつらは全員が戦闘狂みたいなものだ。
敵だろうが味方だろうが、傷ついて血を流し、どんなであれ死ぬ奴を見ればそれだけで大喜びする変態ばかりだ。実際、今もそうしてむこうは大騒ぎしている。
すでに2度の突撃を受け、地雷もほとんど残っていない。
ぽっかりと空いた、道の真ん中を押し通ってきたならば、今度こそ2人で出ていってそいつを倒さないといけないだろう。
遠くで犬の遠吠えを聞いた気がした。
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連邦のグリーンジュエル、ダイアモンドシティに私が近づいたのは。当初の予定から考えると、だいぶ遅くなってしまった。
それでも、私とコズワースはその日。身軽ないつもの姿で、颯爽と町の中へと歩みを進めた。パワーアーマーは近くに隠してきた。
異変があったのはしばらくしてからだった。
どこかで銃声と爆発音が響き、目の前を横切る黒い影を私は見た。
「旦那様!?」
「遅れずについて来い、コズワース!」
たぶんだが私の声はわずかに緊張していたかもしれない。
騒ぎの音と、気配が近づいてくるのがわかる。私は次々に自分の武器を確かめると、いつ戦闘に入っても大丈夫なのだと自分を励ます。
黒い影が、街角に消えると。私はそこに戦場があるのだということを当然のように察して、連射式のパイプ銃を取り出し構える。
角を曲がる直前、足運びを緩めると。大きく息を吸ってから、小さくそれを吐き出した。
私の目は前方で揺れ動く緑色の体を目で追っていた。
大きく、そして異様に発達して盛り上がる筋肉の表面にあわ立つように血がにじんでくると。たまらずにそのスーパーミュータントは苦痛の声を上げて前かがみになるが。
そこに走りこんでいった黒い影がその背中に飛びつき、やはり太い後頭部の付け根に向かって噛み付きながら引きずり倒した。
黒い影はそのあとも何度も激しく体を動かし、噛み付かれた部分の骨が砕ける音がすると巨体はようやく動くのを止めた。
正直に言うと、これは正しいやり方ではない。
この状態ではまだ接近はするなと軍では学んでいたが、それは相手が人間で、人間同士の戦う戦場での決め事だった。決して、緑の巨大な人型相手ではない。
――スーパーミュータント
これがそうなのか。
話には聞いていた。「見ればわかるよ」と、その通りだ。
崩れかけた建物の上を構えたままのぞきこみ、動く存在を見つける。ドラムマガジンに残っていたのは約35発、人間相手にこれだけ撃ち込めば、嫌な音を立ててバラバラになってもおかしくないのに。
向こうは驚いたことに腕を振り上げ「モット、モットー!」などと吼え始めた。
言われなくても苦痛は死ぬまで与えることに異論はない。
皮のホルスターからアキラが強化してくれた10ミリを取り出して撃つ。
そうやってミュータントの2人目を屠っている私の横をすり抜け、コズワースが飛び出していく。
「パピーちゃん、私の後ろに。ここからは一緒に参りましょう」
パイプライフルのドラムマガジンをふるい落としながら、私はそれを確認した。
コズワースについて走る影の正体――引き締まった体はなだらかにカーブを描いている犬。戦前ではジャーマン・シェパードと呼ばれていた。
新たなドラムマガジンを装填すると、私はコズワースと違い、建物の非常階段に飛びついた。
銃声が屋上からも聞こえていた。どうやらむこうは、こちらが後ろから襲ったことにまだ気がついていないようだった。これはチャンスだ。
屋上から銃声とともに笑い声が聞こえていたが、下がコズワースと犬によって大混乱になっているのを見て驚いたらしく。「ナンダ、ナンダ?」とと戸惑っている様子が伺えた。
コズワースは戦闘用に作られたMr.ガッツィーとは違う。後方を上から攻撃されたらひとたまりもないだろう。
私は人造人間から回収したプラズマグレネードを取り出すと、それを階段から屋根の上に放り投げる。
目算どおりの軌道を描いたそれは、予定通りに2秒後に炸裂音を響かせた。
戦いは終わった――。
私は屋上から顔を出し、下のコズワースに無事を知らせると。
倒れてもう動かなくなったそいつに近づき、腰を下ろしてじっくりと観察した。
スーパーミュータントは、元は人間なのだという。
こいつらは生殖するわけではなく。人間を捕らえて変態させてしまうのだそうだ。
その過程で記憶や人格が抹消されてしまい、化け物になってしまう。
冗談かと思ったが、申し訳程度に隠している部分を剥ぎ取ってみると。確かに人間の生殖器らしきものはなくなっているように見えた。
(連邦には――嫌、この世界にはこんな相手がいるというのか)
今の自分に力が足りないことを痛感した。
先日の人造人間のときも思ったが、今のままではショーンを探してこの連邦を歩き回るどころか。旅することすら難しいのではないかと思えてきた。
ダイアモンドシティで、新しい武器が手に入らないか。真剣に考える必要があるのかもしれない。
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私は彼らを助けた側の人間であったはずだったが、屋上から降りて近づき「大丈夫か?」と聞く私に礼こそ口にしたものの、その目は明らかに警戒しているようだった。
「礼なら、私よりもこの仔にいったほうがいいかも」
「この犬?」
「ああ、そうだ。君たちを助けようと必死に走っているのを見て、私は――」
「こいつ、別に俺たちの犬じゃないぞ」
「なんだって?」
「俺たちじゃない。セキュリティも犬を使いたいと言っているんだが、市長が頑固で、予算が下りないから犬は使ってないんだ」
「……そうか。実はここに来る前に、旅の商人から聞いたんだ。ダイアモンドシティに、今頃は犬の商人がいるはずだって」
「ああ、そいつなら知っているよ。裏のジャンクヤードにいる野良犬から選んで、訓練してる奴だろ?」
「たぶん、それだ。この犬も、その彼のものかと――」
「だから知らんよ。野良犬だろう?それか、なんならあんたが使ったらいいんじゃないか?」
使う?私が?
「旦那様?」
コズワースは何かを感じたのか、私を気にしたようだが。私はじっと犬を見て、犬も私を行儀よく座って私を見上げていた。
運命を引き寄せたということだろうか?
よくわからなかった。だが、あの老婆は確かに口にした。私が、未来に犬とともに旅をしている姿を見たと。そして、引き当てればその運命の先にショーンと出会える可能性が出てくるのだと。
「わかった、そういうことなら。この仔は私の犬だ」
「そうか。よかったよ、あんたがもらってくれて。俺たちにしても、助けてもらったというなら寝覚めが悪くなくていい」
「?」
「そいつはもうあんたのドッグミートなんだろう?なら、俺たちは手を出せないさ」
「っ!?」
彼らのジェスチャーが撃つと食べるの2つだった。
戦前の感覚ではなかった衝撃が襲ったが、たぶん表情には出ても口は閉じられていたはず。
犬を売る、などと聞いていたからすっかり忘れていたが。野良犬は駆除されるべきだし、このような世界ならばその肉だって立派な食べ物といえるのだろう。
だが、困ったことに私は飢えた時のためにドッグミートをそばにおこうというわけではないのだ。
私が腰を下ろして手を伸ばそうとすると、犬のほうから体をこちらにこすりつけてくる。どうやらお互いが仲良くなれそうな感じがした。
「私の家族になってくれ。ドッグミート――では、あんまりだ。名前はちゃんと、つけてやる。後で」
こちらの言葉の意味がわかるのか知らないが、首をかしげて尻尾をふっていた。
たぶん気持ちだけは伝わったのだと信じたい。
こうして私は目的地にたどり着くことができて、頼りにしていた予言の片鱗のような出会いを体験することもできた。
ダイアモンドシティでは、さらにショーンの手がかりが得られるかもしれないとなにやら期待できそうな気持ちにもなるというものだ。
だが、そうだ。
物事というのは、そうそううまくは運ばない。
ダイアモンドシティの正面ゲートに到着した私は、そんな現実を早々に突きつけられるような体験……とういうか、出会いをする。
コズワースと犬を連れた私は、意外なことに正面ゲートを前にして足を止めてしまう。
目の前ではインターフォンごしに怒鳴り続けている若い女性がいた。また、ここでもトラブルなのだろうか?
思わず天を仰いでしまった私に彼女は気がつくと、近づいてきてなれなれしい調子で話しかけてきた。
「ねぇ、アナタ。ダイアモンドシティに用があるのよね?」
「――まぁ、そうだね。たった今、到着したばかりだ」
「よかった。それならちょっと力を貸して頂戴」
彼女の名前はパイパー。
私にとってのこの連邦のように、にぎやかでやかましく。
そうしてとんでもないトラブル体質の持ち主でもある。そんなかしこく美しい彼女ではあるが、この時も例外なく。
私を彼女のトラブルに見事に巻き込んでくれたのである。
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私には幼い頃、父に連れられて野球を見に行き、試合前のスタンドの中に立っている自分に興奮を覚えた記憶がある。
座席はほとんどがまだ人が座っておらず、観客は刻一刻と迫る試合開始を前に自分がいかに楽しく観戦できるかの準備で忙しくしている。
だが、そういった興奮は200年前に置いてきてしまったらしい。
記憶があの時の興奮を呼び覚まそうとしてきたが、私の目の前の現実がそうした夢をどこかへと吹き飛ばしてしまった。
ここはダイアモンドシティ。
この危険な連邦にあって、もっとも平和な場所。
確かに穏やかさはあるようにも感じるが、やはりそれは私の知る世界のそれとはまったく違っていた。
町の中を歩くとそのことが嫌でもひしひしとわかってくる。
どこか遠くの世界で見るようなスラム街をおもわせる住居がひしめき合って建てられており、その中に人を押し込めて暮らしているのだそうだ。
その中を駆け回る子供たちの姿にわずかにも癒されるが、この場所は本来ならば彼らや彼女らが思いっきり自由に走り回ることができるだけの広々とした球場であったのに。
今では狭く細い通路を抜けることで、楽しんでいる。
「旦那様、こんなことを口にしてはなんですが。想像していたものにはまったく届いていない場所なのですね。がっかりです」
「……」
黙れ、と言いそうになるのを必死に飲み込んだ。
ボストンから立ち上るあの日のキノコ雲は、人類をここまで追い詰めてしまったということなのだろう。
こんな世界の中で、私は息子を果たして探し出すことが本当にできるのであろうか?希望はあまりにも少なく、厳しい現実だけが突きつけられていた。
ダイアモンドシティで新聞を発行するパブリック・オカレンシズの扉の前に立ったのは、ある程度を見て回った後の。その日の夕暮れ時のことであった。
町に入るとパイパーとはすぐに別れたのだが、その際に「是非、また会いにきて欲しい」とも言われていた。
正直、私はこの時。うかつすぎていたと、後々思い返すたびにそう思う。
過去の記憶との違いに哀愁と追憶を追いかけてしまい、肝心の情報収集はほとんどまったくといっていいほど出来ていなかった。
従って、この時の私は町の中でどこで寝起きをするかも定まらぬ困った旅行者となっており。パイパーの元に近づいたのは、そうした問題を町を知っている彼女に一挙に解決してもらおうという下心があったからだ。
時間を考えない男の訪問だったが、ありがたいことに彼女は歓迎してくれた。
少なくとも、表面的には。
「あのね、それで話があるっていったけど。あなたの話を聞かせて欲しいの」
「私の?」
「Vault居住者だったんでしょ?そのジャンプスーツでわかった。だから、うちの記事のトップとして扱いたいと思ったんだ」
「面白い話は、ないと思う」
「そんなことないよ。試して見なけりゃわからないじゃない。それに、この話。受けるともれなく最高の特典が手に入るんだから。断る手はないよ」
「特典だって?」
美人の彼女だが、まだ話が読めない私に対し。まるで少年のような笑い声を上げる。
「この町のこともそうだけど。連邦のこともよくわからないんでしょ?あなたの行きたいところ、私が付き合ってあげてもいいし。よかったら、私のいきたいところにも案内してあげる」
「――護衛を雇いたいって、聞こえるね」
「そう言わないで。誰か探しているんでしょ?私も力になるよ」
美人新聞記者はやり手であるらしいともうわかってしまった。
私は抵抗をあきらめ、素直に白旗を揚げることにした。
「わかった。取材を受けるよ」
「やったっ」
「だが、その前にまず最初の問題をなんとかして欲しい――」
この町で、ロボットと犬をつれて寝泊りできる料金の安い場所が、今は切実に必要だったのだ。
翌朝、私はパブリック・オカレンシズの長椅子から体を起こすと。実に爽快な目覚めの喜びとともに体を大きく伸ばしていた。
やはり固い土の上での目覚めとは天地の差がある。
パイパーの妹、ナットと挨拶を交わしていると。上階からパイパーがひどい様子で降りてきた。
どうやら昨夜の取材を、さっそく一晩がかりでまとめていたのだそうだ。私にはそれが嘘だろうと、すぐに思った。
持ち合わせのない泊まる場所のない怪しげな男を、笑顔で泊めるとは言ってくれたが。やはり妹がいるとあって、私がいつ獣となって襲い掛かるかもしれないと疑って眠れなかったのだろうと思った。
まぁ、無理もないだろう。
彼女の妹も、姉に似て気が強そうではあったが。目鼻が顔立ちが整っていて、数年後には姉にも負けない美人新聞販売員が誕生するのは間違いないだろうと確信できた。
しかし、こんな調子の彼女に町を案内してもらうわけにはいかない。
「パイパー、午前中は休んだらどうだ?」
「いいよ、大丈夫だから。これくらい、慣れてるし――」
「良くないよ、ひどい顔をしている。よし、コズワース。お前の出番だ」
「旦那様?」
「ほら、あのノーラのマッサージ。まだ覚えているよな?」
「おお、おお!ええ、ええ!そうですとも、ミス・パイパー。私にお任せください」
「え、ちょっと。なに?」
「どんなに疲れていても、数時間でシャッキリできる方法があるんです!是非、私めに全部を、お任せください」
「そ、そうなんだ。大丈夫なのかな?だって、それって200年前の――」
「例え200年前に覚えた技でも、あの当時も人気があったのはあなたと同じ女性たちでしたよ。間違いなどありえません」
コズワースは本来、旅路の中で戦うために作られたわけではない。
家族の中にいて、それを補助するために存在するのだ。それを久しぶりにでも味あわせてやりたかった。同時に、そんなコズワースを求めた死んだ妻の姿がまぶたに思い浮かぶ。
私は背を向けると、パイパーの代わりにナットに案内を頼むことにした。
Vault111で妻を殺し、息子をさらった奴らを見つけなくてはならない。その創作に力を貸してくれる人物が必要だった。
前を歩くナットは、私に一人の人物の名を告げた。
その男の名前はニック。ニック・バレンタイン。
驚いたことに、こんな世界にあっても彼は探偵という職業についているのだと、彼女は言った。
読後に感想、評価をお願いします。
作者のやる気に大いに影響が出ますので、ご協力いただきたいのです。
それではまた次回。