次回の投稿は2日後。
グッドネイバーの市長はテラスから町を見下ろし、いつになく感傷に浸っているようであった。
そんな彼を護衛するファーレンハイトが、声をかける。
「町の匂いと寒さでジェットを使う気になれないの、わからない?」
「ファーレンハイト、ジャレドが死んだ」
「そうらしいわね」
「あの誰も君臨していない北部に進出して、グールがあふれているレキシントンに王国を築こうとしたクソッタレが死んだ。殺したのは、ミニッツメンだそうだ」
「そうね」
「驚きだ。まだあのミニッツメンを名乗り続けるばかりか、その役目が実のところなんであったかまでをも忘れていない。そんな頑固でどうしようもない大馬鹿野郎が、彼らの中にも残っていたらしい」
「それが嬉しいの?」
「嬉しいかって?そんなわけがない。だが、楽しくはなってきた。
ああいった気持ちのいい馬鹿が、この連邦で銃を振り回すレイダーたちの反対側にいるかいないかで、面白さがずいぶんと違ってくるものさ」
「そういうこと。よかったわね」
ハンコックは口と違い、脳裏では戻ってくるとは思わなかったところから無傷で帰ってきた青年のことを思い出していた。
彼はここにおかせてくれ、なんなら飾ってもらってもかまわない。
そういいながら一枚の絵を見せつつ、市長から受けた依頼の結果を不思議な表情で楽しかったことのように報告してきた。
ハンコックともあろう男が、認めたくはないが。
このときはこの坊主を前にしてさすがに少しあせり。同時に動転してしまった。理性的で、知性も感じさせ、穏やかでおとなしいと感じる青年は狂っている。どことは断言できないが、彼の頭蓋の中には間違いなくどす黒い狂気がきちんと外に漏れでないように押し込まれている。
彼が向かったピックマン・ギャラリーについての報告は他からも聞いていた。ただし彼らのほとんどは5体満足ではいられなかったし、怪我は軽くもなかった。そして自分が目に焼きつけ、耳で聞いてきたものは地獄であったとはっきりと同じ言葉をそろって断言していたのに。
同じものを見て、同じものを聞いて、さらにはその元凶と対面まで果たしたという彼はまるで正反対のことを報告してきた。
彼の持ってきた絵は、この建物の地下に持ってきたときと同じように布に包まれ。傷まないようにと、細心の注意を払い大切に預かっている。その奇怪な芸術を生み出した当人に目をつけられたくなくて、そうしているだけだ。
(ジャレドを襲撃した連中はレキシントンを離れ、新しくできたサンクチュアリという居住地のほうへ向かっていった)
市長の耳にはそう伝わっている。
それで話がつながった、と考えたのだ。
あのどうしようもないミニッツメンのなかにも、とっておきの隠されていたダイアモンドが本当にあったのだろうか?ハンコックはそうは考えない。
有能な奴というのはまず、自分の立場を理解しているものだ。組織が腐敗し、崩壊し、どうしようもなくなると判断すれば誰よりも早く、そこから離れようとする。見捨てることにも躊躇はしない。
それが「最後」を名乗るほどにどうしようもなくなっても組織にへばりついているということは、いい奴かもしれないがどうしようもない間抜けでもあるということだ。
そんな男が、あのジャンキーだったとはいえ組織を率いていたジャレドを倒せるはずがない。
そして奇妙なことに最後のミニッツメンとやらの名前こそはっきりとしているが。彼が率いたとかいうほかの仲間についての情報がさっぱり聞こえてこない。
面白いことに最近のグッドネイバーでも、名前ではなく行動でかなりの風評を得たプレイヤーがいた。
「……また、こっちにも来るかもしれないな」
「ハンコック?」
「なんでもない。ファーレンハイト、”鼻なしボッビ”を呼んでくれ」
「ここへ?どうするの?」
「話をするだけだ。それだけさ」
そう口にしながら部屋に戻ると、グラスにウィスキーを注いだ。
生暖かい琥珀色の液体の向こう側に、何かを見ようとして覗き込む。彼は一体、なにをみようとしたのであろうか?
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レッドロケット・トラックストップの前に、8人の男女が並んでいる。
その前に立つプレストンは、彼らを前にして感じる高揚感に震えていた。ミニッツメンを再びこの連邦に、そうひそかに思いを抱き、しかしそれはきっと遠い未来のことかも知れぬと暗い気持ちになった時もあった。
だが、今目の前には新たな兵士たちが並び、自分の言葉をこうしてまってくれている。
「俺がプレストンだ――まぁ、これは今更だったな」
緊張している自分を隠すことに失敗して苦笑いを浮かべると、彼らの中からもクスクスと笑い声が漏れてくる。
「まずは力を抜いて聞いてほしい。
クインシーの事件のことを知らない人はいないだろう。そこでどれほどひどい結果がもたらされたのかということも。
残念ながらミニッツメンに受け継がれていた過去の栄光は、あの事件で汚され、すっかり今ではおとしめられたものとなってしまった。
そのことに俺は言い訳をするつもりはない。あれは実際に起こり、たくさんの人々を苦しめ、さらに多くの人々の心から希望を奪い去ってしまった。ミニッツメンはいらない、今ではそう考える人もいるだろう」
皆の顔を見回しながら、プレストンは力をこめて言葉を続ける。
「だが、俺はそうは思わない!ミニッツメンの理想は、正義は、まだ死んでなどいない!」
「これまではずっと、それを心に生きてきた。
そして今日からは、君たちの力を借りて、それが本当のことだと、再び連邦に知らしめるときがきたのだと、そう確信している」
自分の背後に視線があるのを感じた。あの2人が、この姿を見ているのだと思った。
「とはいえ、俺と違い君たちはまだミニッツメンとしてこの瞬間に、始めたばかりだ。これからしばらくは多くを学び、それから多くの戦いへと身を投じていくことになるだろう。
この新しいミニッツメンは新たな将軍を迎え、かつて以上にこの連邦に正義と平和をもたらす存在を目指す準備は整っている。あとはここにいる皆と共にそれを証明し、あの時にもあった輝ける栄光をもう一度。俺達の、この手にしようじゃないか」
少し離れた建物の影に建つレオとアキラは、演説を終え、新しい仲間たちにミニッツメンの服と帽子を渡す儀式に入るプレストンの後姿をのぞきみていた。
「以前のミニッツメンの制服は、カーラに言って手に入れることができました。随分苦労したと、うそぶいてふっかけられましたよ」
「アキラ、君が新しい服もデザインしたと聞いた」
「もともとはミニッツメンの制服は一種類だそうです、信じられませんでしたよ。
だってダサイし、夜だと淡い黄色が目立つだけで。レオさんのアドバイスを取り入れて迷彩服バージョンを用意すると言いましたが……」
「プレストンが嫌がったのか」
「ええ、頑なに。なので適当にえらんだ濃いブルーのシャツの胸にミニッツメンのマークを入れただけのものを新しい制服としてなんとか認めさせました。
あれなら夜の通りを歩いても目立たないはずですし、死人も減ってくれるはずです」
アキラにとっては、サンクチュアリのこともあるのに、さらにミニッツメンの面倒まで見る羽目になるとは考えていなかった。
しかもプレストンは彼が座るものだとばかり思っていた、リーダーの座をなんとレオに託したいのだと言い出した。そして驚いたことにレオもその言葉にあっさりと応じてしまったのだ。
こうなるとアキラも、逃げ道はふさがれてしまう。
2人に頼まれ、アキラも結局断りきれずに自身のミニッツメン参加を引き受けてしまった。マクレディはそれを見て、頭を抱える雇い主は面白いといって大きな声で笑っているらしい。
「銃はどうなる?」
「彼らにはレオさんが回収してきた、ミニッツメンたちのレーザーマスケットだけです。サンクチュアリも余裕ないので」
「どの道、彼らにまだ戦闘は無理、か」
当面は彼らがここで寝泊りする場所を建物の裏側に自分たちの手で作り上げ。さらにエイダが進めていたモールラットの巣穴をつぶしてそれを地下室に変え、建物の中とつなげる必要がある。
だがおそらくはその間も、このミニッツメンへ参加希望の若者たちがさらに集まってくる可能性があった。
「サンクチュアリから連れてきた3人はここを手伝わせて、武器を使えるようになったら戻すようにプレストンに要望は出してあります」
「噂は広がっているようだ。そんなに多くのことは望めないかもしれないね」
「誤算でした。人が思った以上にこちらにむかって集まってきてしまっている。当然、レキシントンの近辺にいるレイダーたちにもここのことは知られているはず。
奴等がここに襲撃してくる可能性は、日増しに高まるでしょうね」
儀式を終えたプレストンが、2人のそばにマクレディを連れてやってきた。
「ボス、次の予定はどうなってる?」
「……まだ迷ってる」
「将軍、ミニッツメンは予定通り自分たちが寝起きする場所を造る準備ができている」
「プレストン、それなんだが。アキラの設計にしたがってくれ。彼らが兵士としてちゃんとこうなるようにやれるということを証明して欲しい」
レオが丸められた設計図を差し出すと、プレストンはそれを開いて見て驚いた。
「建物の裏に作るんじゃないのか?」
「それじゃ、駄目だ。このガレージの上に居住空間を作る。マーヴィンにもこの設計図は入力させているから、わからないことがあったらあいつを呼び出して指示に従って」
「あのロボット、言葉が話せなかったんじゃないか?」
「話せばわかるよ――なんとなく。どうしてもわからないなら、”自分たちはできないので変わりにやってくれ”とでも言えばいい。案外、その方が楽に完成するかも」
アキラが作ったロボットはその後もちゃんと動作を続けており、その監督を任されたコズワースはこの新人は優秀であったと太鼓判を押していた。
「冗談だよな?それだと兵士たちの訓練にならない」
「なら、頑張って。それなりに完成したら、ベットなんかはすぐに作れるからさ」
「――わかった。では将軍、できたら作業の様子を監督して欲しい」
「そうか、そうしよう」
立ち去るレオとプレストンに向けられるアキラの視線と表情は微妙な味のあるものだった。さっそくそれをマクレディが茶化していく。
「ボス、あんたがまさかミニッツメンに入るなんてな」
「誘われるかも、とは思っていた。だが、まさかこんなことになるなんて――」
「へへへ、想像もつかなかった?ショックだったとか?」
「どうだろうな。でも確かに、プレストンがリーダーをレオさんにまかせるとは考えなかった。あの男は、自分を冷静に見れているみたいだ」
「それが問題なのか?」
「まぁね。レールロードと接触は持つべきではなかったかもしれない――」
「レールロード?なんで?」
一瞬だけマクレディに視線をやる。
アキラは自分の傭兵に本音を語っても大丈夫なのか、図りかねているようだったが。結局は口を開く、不安を紛らわせたくて誰かに話したかったのかもしれない。
「人造人間を生み出すような組織と敵対し、独自の技術力を持つ集団。それだから、自分自身とレオさんのために役に立つだろうと思って動いていたんだ」
「それが、失敗した?」
「ああ、どうかな?まだわからない。
でも難しくなった。今のレオさんはミニッツメンのリーダーだ。連中がそれを聞いて、レオさんをどう見るのかわからない。紹介しにくくなった」
「ディーコンのことか?」
「あのハゲ、会ったこともないのにグッドネイバーでの俺のことをよく知っていた。そしてはじめてあった時、名前も顔も知っていた。黙っていたけど、もうすでにレオさんにも目をつけていたかもしれない――」
「そうか、これまでは都合がよかったが。プレストンのせいで面倒臭いことになったわけか」
これからかつての時代のように大きく羽ばたくとわかっていても、今のミニッツメンなどたいした力は持っていない。正直、あの時の要請をレオは断るべきだったのだとアキラは考えるが、今更言ってもしょうのない話だとはわかっている。
「どうもここに残るとそれだけで、また身動きが取れなくなりそうだ」
「おっ、どうするか決めたんだなボス」
「マクレディ、見張りはもういい。ここを立ち去る準備をはじめよう」
「ああ、構わないぜ。レオも一緒なのか?」
「そうなると思う。実は、今度は一緒にダイアモンドシティへ行こうと誘われた。こっちはレールロードに行って話してこなくちゃならないけれど、その前にどこに寄ろうと構わないはずだ」
「じらそうっていうわけかい」
「長くは待たせないから、きっと大丈夫さ」
数日中に出て行こう。
そうできるように、準備だけでもしておかなくては――。
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レッドロケット・トラックストップのガレージにあったパワーアーマーステーションと各種作業台はすべて外にあるロボットのそれの近くにまとめて出されている。
これはここに住む予定のミニッツメンのヒナたちが当面寝泊りするスペースを確保するためだ。
その中で難しい顔をしているアキラの元に、マクレディがスタージェスを連れてやってきた。
「ボス、連れてきたぜ」
「やぁ、アキラ代表。なにか用があると、聞いてきたよ」
アキラは苦笑した。
「やめてくれよ。責任だの代表だの言っても、たいしたことはしない予定の悪いお代官様だよ」
「いや、アキラ。そんなことはないよ。
正直言って、前からそれほどよくもなかったけれど。プレストンと君たちがいなくなると、本当に収拾がつかなくなって大変だったんだ。
君が戻ってきて、僕らみんなの頭の上に飛び乗ってもらえたおかげで、今は驚くほどなにもかもうまく回り始めている。
このことに皆もきっと、わかって君のことを感謝する日が来るさ」
「スタージェス、あんたは本当にいい人だね。
でも忠告しておく、そんなことはあのサンクチュアリで口にしたら駄目だぜ。それを聞いたらあいつらは怒り出して、君を罵るに違いないからね」
「わかったよ。確かに僕は物事を見誤まって、失敗してしまうことが多い。肝に銘じておくよ」
挨拶が終わり、マクレディに何かをとりに行くように指示を出すと、改めてスタージェスにアキラは質問する。
「サンクチュアリの武器はどうなってる?」
「君たちのおかげで変わった。かなり充実していると思う。
スコープはついてないけど、ライフルが1丁。ショットガンと10ミリ用のハンドガンが共に2、そしてミニガンだね。レイダー相手なら、これで十分さ」
「いや、まだ足りない――生産はどう?」
「新しい服が用意されて皆が喜んでるよ。弾丸の方も順調に作っているけど、やっぱりどちらも材料が心許ないみたいだ」
「資材を空にする勢いでかき集めた後だからね、仕方ないか――。
そうだ、数日中にあの倉庫には警備システムを入れる。その後はスタージェス、君とマーヴィンに製造機の管理を任せたい」
「僕にかい?わかった」
「それとこれを君に」
「――?これ、パイプレンチだろ」
「鈍器だそうだよ。”ビッグ・ジム”とかいう、二つ名もあるらしい」
「そりゃいいね。これならいつでも持っていられるし、誰かに襲われても戦えるってわけだ。ハハハ」
「君の仕事のお供にいいと思って、ふふふ」
笑っていると、マクレディがアキラが使っていたクライオレーター引っさげて戻ってきた。
「これは?アキラ。君が背負っていた奴だ」
「試作の冷凍銃だよ。実はこいつをミニッツメンに貸し出そうと思ってたんだけど、こっちは今それどころじゃないんだ。ガレージから外に放り出されたこの作業台を見ればわかると思うけど。
だからこれをしばらくサンクチュアリに置いておいてほしいんだ。落ち着いたら、プレストンが取りに行く話しになっている」
「ああ、預かるよ。それにしてもガレージの上に住居を乗っけていくんだね、驚いた」
屋根の上で忙しくしているミニッツメンを見上げるスタージェスに、同じ方向にちらりと視線をやったアキラは説明をはじめる。
「監視塔、ってイメージかな、実際にそうなると思う。すでにここの居住地の噂を聞いて、レキシントンやボストンからレイダーたちが様子を見に来ているはずだ。そいつらをここで迎撃する」
「なんだって!?……もうそこまで来ていると思っているんだね?」
「正確には、コンコードにもう集まってきているはずだ。直接はあそこまで見に行ってはいないけど、レオさんもそう思ってるってさ。
プレストンの最初の任務はあそこをどうやってミニッツメンで空にさせておけるのかってことになるだろう」
せっかく息を吹き返させてやったのだ。ミニッツメンが、そのくらいのことはできるようになってもらわねば、こちらが苦労した意味がない。
スタージェスが帰ると、アキラは今度は自分たちの武器を作業台の上に乗せた。
「ボス、今度は自分のか?」
「お前のライフルはどうだ?」
「おお、それな!ボス、あんたいい腕してるぜ。前とはぜんぜん違うのなっ」
「そうだろ?感謝しろ?崇めてもいいぞ?」
「ああ――それ、レオのだな?」
そうだ、と短く答える。
「そういえばボスのアレ、本当にミニッツメンに渡すんだな」
「クライオレーター?あげるわけじゃない。レンタルだ、あいつらにキャップは週単位で払わせる」
「レオがいい顔してなかったけど、それはやるんだ。キャップにこんなにこだわるボスじゃなかったろ?俺の影響か?それともなにかほかに理由が?」
額にしわがよるが、作業は続けた。
「―ーここの連中は『誰かに肩代わりしてもらう』精神にあふれていて、見ていてムカムカするんだよ。してもらって当然、やってもらって当然。そりゃたまにはそれでもいいが、毎回それを押し付けられたら話は別だ」
「へへへ、ただの嫌がらせか。あんたやっぱり糞野郎なんだな、ボス」
「馬鹿、しつけにうるさい善人なんだよ」
「――でも、それで大丈夫か?」「なにが?」
問い返されると、マクレディは作業を続けているアキラの体につるしているホルスターの中を覗き込みつつ指摘した。
「ボスはピストルが中心だろ?でもパワーが足りない。そこであんな大きなのを担いで歩き回っていた」
「よく見ているな。なにかよからぬ考えでも持ってるのか?」
「違うよ、あれをここに置いていくせいで足を引っ張らないかと心配しているだけさ。
あっ、わかった。そういう厄介そうなのに出会ったら、あのポンコツを置いて逃げればいいのか――」
「エイダは僕の財産だぞ!そんなわけあるかっ――あのな、別に用意してあるんだよ。だから、あれはプレストンのところにレンタルさせる」
自分の雇い主が抜け目のない男だとは知っていたので、マクレディにもそれほど驚きはない。
「へぇ、あれ凄いのにな。レイダー連中、カチーンって固まって転がるの、見れなくなるのか」
「あれの弾が問題なんだ。通常のエネルギーセルが使えない、ひとつひとついじらないと駄目でね。手間とキャップがかかってしょうがない。
まぁ、エイダを使えばその問題も解決しそうではあったんだけど――」
「えっ、そうだったのか?」
「ああ。ロボットの武器のなかに同じタイプのものがあったんだ。エネルギーを変換して冷気を吐き出すってタイプの奴。これで通常のセルをいじるシステムが作れるけど、今度はエイダが片手でしか戦えなくなってしまう」
「そりゃ、意味がないな」
「ああ、でもおかげで別のいいものが見つかったんだよ」
アキラはレオのライフルの作業を止めると、台の下からなにかを取り出してきてマクレディに見せた。
「お、これかい?」
「そうだ。レールライフル、ただの鉄の杭を打ち出すだけのもの。だが貫通力は抜群に高い」
「へー」
「エイダのキャラバンを襲っていたロボットの中に使っていたのがいた、覚えているか?」
「――俺、ロボットの顔は、いちいち覚えてられねぇよ」
「顔じゃない、武器だ!――まぁ、いい。こいつはそれを取り出して、ストックをつけただけの代物だ」
「ってことは、これってポンコツの腕の中身?」
「その一部が正しいかな。短所はある、命中率は高くない。長所は壊れてないなら杭は回収できるし、エイダがあるかぎり杭の生産は鉄さえあれば続けられる」
「ああ、あいつの腕もこれにするんだ」
マクレディの言葉に、今度はアキラは返答を返さなかった。
そのころエイダはサンクチュアリで、コズワースやマーヴィンと共にすでに中では生産が始まっている倉庫の屋根と入り口を作り、仕上げてしまおうとしていた。
コズワースは作業をとめると、エイダに話しかけてきた。
「エイダ、あなたは本当にアキラに体をいじらせるつもりなのですか?」
「はい……それが、問題ですか?」
「私にはその考えがわからないのです。これは戦闘用と汎用のロボットの違いなのでしょうか?
もし、私がこの体をアキラに改造してもらっても。私のプログラムはMr.ハンディーのままなのです。今のこの体以上の働きができると、なぜ自然に考えられるのです?
プログラムがエラーを吐き出せば、あなたは壊れてしまうかもしれないのに」
マーヴィンは雑音をがなりたてるが、それがコズワースの意見に対する反応なのか。作業への要求なのか、傍目からではわからない。
エイダはそれに扉を形作る次の資材を押さえながら答える。
「私には果たすべき目的があります。そのために努力せねばならない、困難な任務があります。
ですが私は一度失敗し、そのせいで守らなくてはならないものを失ってしまいました。新しいオーナーはそのときに私に尋ねられました。『復讐がしたいのだろう』と。
私はそれを認め、それ以上のものもあるのだと言いました。あの人はそれにはまだ力が足りないと考えています。私もその通りだと思っています。これは両方の一致する見解なのです」
「それが、理由なのですか?」
「失敗にも状況が違うのです。私のそれは最悪でした。
自分を守れても、仲間は誰も救えませんでした。おかしな話ですがコズワース、私がその状況を認識したとき。一度は自分もあの場所で破壊されてしまったらよかったと、考えたことがあります」
「その気持ちは理解できます。信じられない、信じたくないというものですね」
「私はアサルトロンです。動ける限りは行動を続けなくてはなりません。プログラムにそう刻み込まれているからではありません。
私には必要なもので、そのためならばどんなことでも受け入れが覚悟があるのです」
エイダのその言葉に、コズワースの目が彼女を捕らえ、はたと動きが止まった。
信じられないが、この長く200年以上を稼動してきたロボットはその何倍も”若い”ロボットの言葉に感銘のようなものを受けているらしかった。
「同じロボットですが、私はあなたを尊敬します。エイダ」
「ありがとう、コズワース。そこの余分な資材を切除してください」
ロボットたちの作業は時を刻むようにして、ゆっくりと確実に進んでいる。
そしてコズワースもエイダも不思議なことにすでに感じていた。彼らの主人達は再びこの連邦に旅立とうと、それもすぐにもそうしたがっているのだということを。
口にもそぶりにも表れていないが、それだけはわかっていた。
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ハンコックは長いすに寝そべると大きくのびをする。
まったく、平和なグッドネイバーのためにいつだって市長は大忙しだ。
「お疲れ?ハンコック」
「可愛い悪党の婆さんの尻を蹴り上げたら、そりゃもちろん疲れてしまうものだろう?」
「鼻なしボッビ。彼女、恨むわよ?」
「別にかまわんよ。もう、関係ない」
――鼻なしボッビ。
このグッドネイバーにいるグールの女性は、癖の強い悪党として知られ、彼女の仕事にもその傾向がはっきりと見られる。
自身をリーダーとして短期のチームを作りだし、目標のものを手に入れる。チームに参加するスタッフが、どれほど扱いづらい相手だとしても、彼女はいつも見事に仕事の間は自分の指示に従わせていた。
そんな悪党に対して、さきほどハンコックは冷酷にここから放り出すぞと警告したのである。
「もう一度いうけど、あれは殺してしまったほうが早いわよ?」
「おいおい、ファーレンハイト。そんな台詞はお前に似合わない、そいつはレイダーの連中のよく使う台詞だ」
「そうかもね」
「そう、なんだ……俺は愛される市長だぞ?なんでもかんでも、殺してしまえとわめき散らしたら、『吊るし首の検事』とでも呼ばれるようになっちまう」
「あなた、殺しに吊るし首はしないでしょ?」
まぜっかえすなよ、そう答えながらハンコックは考えていた。
昔話になる、当時この場所に君臨していた悪党をブチ殺してこの町をハンコックが生み出した。
それ以来この町には多くの悪党が入り込み、その中で大きく力を蓄え、愛すべきこの市長の首を狙う奴らはいつだっていた。
ボッビはそんな奴等への対処に役に立つ悪党だった、これまでは。
だが、彼女は変わった。
嫌、もしかしたら脳みそがグールに近づいてちょっとだけ腐ったか、もしくは反対に正常│《まとも》になってしまい、五感が刺激されて若返ったのかもしれない。
はっきりとしていることがある。彼女自身が以前よりもさらに欲深くなった。
これまでの彼女の町での小さな悪事には気持ちよく見て見ぬふりをしてきたハンコックだが、そればかりは許すことはできなかった。
鼻なしボッビは認めなかったが、彼女はバンカーヒルにちょっかいをだした。面倒なものを近づけさせてしまった。それもよりにもよってハンコックとグッドネイバーの名前を利用して、やってしまった。
一瞬だけ、ファーレンハイトの言うように殺そうかとも考えたが、やめた。
代わりに屈辱を与えた。
呼び出して「かつてのボッビはどうした」と嘆いてみせ、彼女がしでかしたことを知っているといってやった。
さらに彼女がチームを作るときに必要とする猫の首につける鈴になるものを、すべて奪ってやった。
彼女の計画は崩壊し、彼女のキャップは大きなダメージをおったはずだ。チームはこの後はボッビの意思を無視して無軌道に動くようになるだろう。
「今日、俺はあの愛する”鼻なしボッビ”を失ったんだな。悲しいことだ」
「そうね」
「飲まずにはいられんよ。これであの女はこの町の喧騒の中に沈んでいき、彼女のいた場所に誰かが座ろうと戦いが始まる」
「つまり、あなたに不利益は生じないということよね。ほら、ボッビはやっぱりあなたを恨むわよ」
それもいいかもな、グラスを掲げ。琥珀色の液体をなめる。
かつてハンコックが知るボッビは憎めない艶やかな悪党であった。彼女がグッドネイバーの住人として、またなにかをしでかしてみせるというならば。
その姿が戻っていることをそのときに見せてくれるかもしれない。
それをこの男はひそかに期待しているのである――。