――悪がボストンの街中にはびこる時、一人の男が影の中に身を潜める
――無実なるものを守り、罪人を裁く
――その守護者の名は……っ!?
――今回のエピソードは?
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私と私の多くの友人達が並んで困惑していた。
私の目の前にはVaultがあり、ナンバーは114とはっきりと数字が振られていた。
「ねぇ、どうしたのよ?」
「ケイト――戸惑っているだけさ。君の、上司」
「トミー?あれはそんなんじゃない」
「わかった……元、雇用主である彼から、ここに探している探偵がいると聞いてはいたが。まさかそれがVaultだとは考えもしなかった」
「ああ、そうか。あんた元はVault居住者なんだね」
コンバットゾーンで私は、このケイトを奇妙な成り行きの末に護衛ということで雇うことになってしまった。
契約料は無し、給料は出来高で。それが彼女の希望だった。
「別に何の不思議もないよ。さっき殺した連中、うちのところに何度か来て『探偵、探偵』って騒いでたんだ」
「――なにそれ、信じられない。それならなんで町に噂が流れてこないのよ?こっちは何も出やしないから。自信、失いかけたっていうのに」
「はぁ!?うちに来るのなんて欲求不満の騒ぎたい連中ばかりさ。トミーだって、あんた達に会わなきゃ、わざわざあの馬鹿騒ぎしてた連中のことなんて思い出さなかったよ」
そして目の前にはVaultがある。どうも奇妙な感じがしてならない。
「ブルー、わたしの命をつなぐやつ。あなたもひとつ食べる?」
「――もらおう」
立ち尽くす2人並んだ状態で、私が手を差し出すとパイパーはそこにガムを一粒置いた。ところが横から手が伸びてくると、ケイトがそれをつまんで自分の口に入れてしまう。
「あ」
「ふふん」
「なによ?その態度は」
「別にー」
マクレディが背後で「怖っ」とつぶやいた。
パイパーとケイト。どうもこの2人、性格も相性も合わないようで、さきほども戦闘でも互いを「邪魔」とか「下手糞」などと罵り合っているのを見たばかりだ。
彼女たちと一緒にいるということは、戦いの連続で楽しそうにしているスーパーミュータントよりも面倒なものを、私は抱え込んでしまったのかもしれない。
少しだけ暗い気持ちになっていたが、カールが後ろから足に体をこすりつけてきたので気を取り直すと、ピップボーイを使って扉を開けようと試みることにした。
老婆の予言が本当であるなら、探偵との面会を果たすことでショーンにまた一歩近づいていけるはず。それは同時にあの誘拐犯たちとも出会う可能性が高くなることを意味しているわけで――復讐の瞬間を思うと、あの日から凍り続けている心の奥底で燻るものをはっきりと感じていた。
それだけに今の私には瑣末な女性達の意地の張り合いが、癇に障る――。
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「なんだ、お前?俺のお友達になりたいっていうのか?」
――善き人、セルミーさんをお前が殺したという噂を聞いた。本当か?
「ああ、殺したぜ。あの女のガキと一緒に、たった2キャップしか持っていなかった。大損だ、やるんじゃなかったぜ……お前おかしいと思ったが、よく見たら。いい服を着ているな」
――『この罪は!あまりにも長い間、真実の光に隠されてきた』
「な、なんだよ。酔っているのか?
俺の邪魔をするつもりなら、思い知ることになるぞ?」
路地裏で騒ぎが起こると、グッドネイバーのゴミ拾いたちはしばらく間を空けてから現場に近づいていく。
無慈悲な罪人、ウェイン・デランシーはそこに死んでいた。
両手をそれぞれが大地に鉄の杭で括り付けられ。
その体は無残にも鋭い刃で数十回と刺されており、死後にその両足を重ねてわざわざそこも杭で貫いてある。
かつての宗教の
だが、見慣れたものもそこにはあった。
この殺し方には思想や、信仰は関係ないのだと。明らかにわかる、それは。
傷一つない頭部には古いコミックに登場するキャラクターカードが添えられていた。
その名前は――。
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サードレールのVIPルームを貸切りにして、部下と女を連れたスキニー・マローンは上機嫌になって席に着く。
「この部屋は――へへっ、本当に久しぶりだ」
――そうなのですか
「ああ、あんたと違ってな。俺は――ちょっとばかり遠回りをしてきた。でも、悪いことばかりじゃないさ。この先はあんたと一緒に、きっと大きな仕事ができると。俺は確信しているぜ」
――そうありたいものです
答えながらも、相手の顔を目を細めて見た。
落ちぶれたかつての殺し屋。でっぷりと突き出た腹は、怠惰の証ではない。この男の敗北者として裏通りを背中を丸めて隠れていた時間の長さを証明しているだけだ。
それもしばらくすればギャングのボスにふさわしい残酷で冷酷な男の傲慢さの印としてみなに認められるようになるだろう。
この男の元に人を呼び集め、再びギャング団を与えたのはこちらの深く一方的なゆがんだ愛ゆえであった。
それは同時にこの男の精神をさらに歪ませ、こちらの都合の良い形へと作り上げることができた。
もはやこの太陽の光のように彼を照らし続けている愛は、彼がこちらへの邪心の一片も抱かない限り続くものだと半ば信じ始めている。とても良い、とても良い――
「食事と酒、そしてあんたとの話を始める前に。済ましておきたい話があるんだが――」
――なにか?
「この場所で言うことでもないと思うが。わかるだろ?
この町の支配者、ハンコック市長があんたにしたことだよ。そいつがこの俺の耳にも届いたんだ」
肥えたネズミの耳にそれを吹き込んだのは誰だ?
思い当たるのはソニー。あの穢れた町の中を器用に泳ぎまわることで生きているだけの記者の顔だ。
心の底では犯罪者や傭兵を憎んでいるというのに、そいつの耳に要らない情報を聞かせたのは自分が彼らと同じ立場だと怯えているということだろうか?
――話すつもりはなかったが。知りたいなら、答えよう。何でも聞いてほしい
「なら話すが――ボッビだ。鼻無しボッビは、あんたから切り離されちまったそうだな?」
――そうだ
「あんたにはその。いろいろと世話になっている。必要なら今後のボッビとの取引を、この俺が肩代わりしてもいいと思ってよ。困ってるんじゃないか?」
けなげなネズミは、忠誠心を見せたいようだ。
――申し出には感謝する。だが、大丈夫だろう。彼女とは簡単な取引をしただけだ、関係は切れたが問題というほどのことは今のところなくてね
「遠慮しないでくれ。このスキニー・マローンは、あんたへの借りを返すためならどんな無茶な頼みだって聞くし。ちゃーんとあんたを安心させることができる男だぜ?」
――わかっている、友よ
笑顔で答えると、部屋に新しい影が入ってくる。
てっきりこの店の者とばかり思っていたが、監視を命じていた”観察者”だとわかってわずかに緊張した。
”それ”は近づくと耳元で小さく、そして短く伝えてきた。ただ一言「来ました」とだけ。
顔にこそあらわれなかったが、私の心は悲しみに深い海の底まで沈んでしまった。
”息子の予言”が当たった以上、私のこの悲しみが癒されることはない。
目の前でまだ得意げにしているネズミの頭をねじ切り。その隣に座る添え物の女の頭部もついでにそうして、私の前に置かれた皿の上に並べたいと本気で考えた。
だが、行動はしない。
食欲によるストレス発散は、いましむべき原始的な行為のひとつだ。
”人として”私にそれは許されない。
――友よ、さきほど余裕を見せた私だが。君に伝えねばならないことができてしまった
「おお!さっそくかい、まかせてくれよ。俺は何をしたらいい?」
――私の愛にこたえ、これまで多くの難関を乗り越えた君なら大丈夫だと確信している
「ああ、信用してくれよ」
哀れなネズミ、これを聞いてせいぜい冷汗でもかいてみせてくれ。
――君のVaultが攻撃を受けているそうだよ。急いで戻るといい、彼らはすでに君の隠れ家の奥深くまで侵入しているらしい
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デランシーの一件は、この辺りで細々と商売をしている連中にとっては大事件であった。
彼らは口にする。「何で俺たちが?」「あのピッグマン・ギャラリーじゃあるまいし」と。
それでも命が惜しいから、商売に出るときは武器を持たせた護衛をつける。大物に上納することを考えると、儲けが減るので腹立たしい限りだ。
「AJの仲間はこれだけじゃない、わかるよな」
今日も路地裏の商売は続くが、ここを訪れた客はいつもと違ってこの警告をまず聞かせておく。AJだってトラブルは嬉しくない。それでも、現れたそいつが――まさか、本命とは思わなかった。
「なんだ、変なやつがいるな?ここじゃ歓迎しないぞ、ここは……」
――AJとはお前か。子供に薬物を売っていると聞いた
いきなり言葉をさえぎられたが、どうやら客のようだとAJはいつものように商品の説明を始めた。
「ああ、そうだ。俺は――起業家なんだ、新しい市場を開拓している。子供向けの商品でな。
俺の用意するスペシャルレシピのジェットやメンタスは、ダイアモンドシティの子供たちも大好きだ。こいつがもっと広く知られるようになれば――」
相手はせっかくのAJのビジネストークを最後まで聞くつもりはなかった。
――子供に毒を売るだと?その所業、決して許されることではない!
「おいおい、ちょっと待てって。冷静になれよ」
――悪党とこれ以上、交わす言葉はない!
「……畜生、あんたデランシーを殺った奴だな?俺を殺して、なにを得るって言うんだ?俺は”鼻なしボッビ”の下で商売やっている、ただの小物さ。
な、だからこうしよう。
俺の命、50キャップで俺が買う。俺は無事、あんたは黙ってる。それでいいだろ?」
目の前の男は黙っている。
黒服のスーツに、帽子。顔は赤いバンダナで隠しているが闇の中でも不気味に輝く2つの目の光が。正気でないもののようにも感じられた。
「畜生、わかったぞ。あんた、俺のところに来たのはあいつの差し金だろ?前に子供達のことで嘆いていたからな。
あんなグールの遊びになんて付き合わないで、これで手を打てよ。俺は別に、ケントの奴を――」
空気が変わる。
黒い男の手には不気味に輝く刃が光と、コートの下からはあまり見たことのない形状のレーザー兵器がちらりと見えた。
――お前は今、我が怒りに触れた。
あの時と同じ。通りの奥からなにか良からぬものの唸り声……それが聞こえなくなると、ゴミ拾いたちはまたもや恐る恐るその場所に近づいていった。
AJと彼の仲間、2人の護衛達はやはり死んでいた。
スライム状の液体の山が2つ、そして首をパックリと裂かれ、苦しんで失血死したAJの口には。なぜか数十キャップが詰め込まれ、入りきらずに零れ落ちていた。
そして今回も、壁際に崩れ落ちていたAJの躯のそばにはあのカードが……コミックキャラクターのそれがおかれていた。
まるでそれが自分の犯行だと教える、名刺のように。
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扉のロックをはずした探偵のニックが「音がするな、どうやら古い友人が騒ぎを知ってあわてて戻ってきたのかもしれない。出て行くと言えば、最悪今度は閉じ込められるだけではすまないだろうな」とつぶやいた後でこちらに視線をよこしてきた。
「覚悟はいいか?」
聞かれても私には別段、動揺はなかった。
それでも正直な話、ここに来るまであまりにも多くの血を流しすぎていた。
マロースキーの取り巻きたち、ここにいた彼の部下。トリガーマンはほとんど全員を、殺してきた。
私の中の燻りが、そんな結果に影響したとも思えないが。
私と私の友人たちの勢いは、強烈な印象をもてるくらいに凄まじいものであった。
そしてそれは最後まで変わらない。
再会した殺し屋と探偵の間にはなにやら因縁のようなものがあったようだったが。
私には関係のないことだ。
2人(?)が西部劇さながらにメキシカンスタンドオフを始める前に、私のライフルが相手を物陰へと押し込み。圧倒したまま、無慈悲にすべてを終わらせる――。
ニック・バレンタインをつれて私たちが地上へ出ると、すでに太陽は昇っており。ピップボーイによると駅に侵入した翌日の正午近くであると、画面に表示されていた。
私は鉄梯子をカールを背負って上ってきていて、どこどなく不満そうな犬を地上へとおろしてやってからニックに――囚われていた”人造人間の探偵”に話しかけた。
「久しぶりの空を見て、感想は?」
「ああ――見てくれ。これが連邦の空だ、こんなに青かったのか。
これだって、いつもは不吉なものを見下ろす皮肉屋だと悪態をついていたときもあったんだがな。それがこんなに――目を奪われてしまう、美しいものだと思う日が来たとはね」
「機嫌よさそうじゃない」
「しっ、ちょっと黙ってなさいよ」
後ろで女性2人が話しているのを無視して、私は探偵に話を続けさせた。
「なんにしろ、生きていてくれてよかったよ。私はずっとあんたを探していたから」
「そうなのか?とにかく助けてくれてありがとう」
そういうと探偵はようやく見上げていた空から視線をはずし、私の顔を見た。
やはりだがー―違和感が強烈にある。人造人間の証である冷たい金属の表面には、魂を持った者がする生きた表情というものがしっかりと浮かんでいる。
「探していた、と言ったな?どうやって俺の居場所を知ったんだ?依頼人の希望で、今回はほとんど人に行き先を告げて回ったりはしなかったはずだ。そこにいる、敏腕記者の協力があったとしてもね」
「ちょっとニック、ふざけないで。狙った獲物は逃がさない、それが――」
「あたしの背中に何発撃ち込んだっけ?」
「ちょっと!?そんなことしてない!」
「喧嘩をはじめるなよ、お嬢さん方」
友人達の茶々でわけがわからなくなってきたので、ジェスチャーで向こうは無視してくれとやりつつ。私はニックの疑問に答えた。
「彼女は確かにがんばってくれたよ。あと君の事務所のエリーが心配していた。探偵の戻る場所はつぶさせないと言ってね」
「そうなのか?どうも戻ったら彼女を昇給してやらないといけないらしいな」
「――その、好奇心で言うのだが。あんたの依頼は、大丈夫なのか?」
「なに、心配はいらない。『お宅のお嬢さんは、グッドネイバーでギャング団のボスの愛人になっていた。頑固に説得を聞きいれず。戦闘に巻き込まれ、大変残念ながら死亡しました』とでも伝えるさ。不満もあるだろうが、それは間違いなく事実だからな」
「戦闘に巻き込まれ、ね」
実際の彼女は勇ましくバットを振り上げたが。スレッジハンマーを手にしたケイトによって文字通りあの世までぶっ飛ばされてしまった。
かわいらしい顔の中身を豪快にはみ出させて床に横たわる彼女を横目で見て、自分がそうしてやりたかったとストロングが残念そうにつぶやいたのが印象的だった。
「さて、あんたには助けられた時。息子のショーンがどうだこうだ、行方不明になったと言っていたな。どんな風にさらわれたのか、あんたからは直接、聞かせてもらいたい」
「それは構わないが――ここで?」
すると向こうは笑い出す。
「いや、まさか。ダイアモンドシティの俺のオフィスまで来てくれ。
そこなら落ち着いて詳しい話を聞けるはずだ。コーヒーを飲んで、腰を下ろして、頭をすっきりさせて、ちゃんと覚えていることを全て俺に聞かせてほしい」
「わかった、それで構わなない」
「では、ダイアモンドシティで」
「こっちは一緒に行っても構わないか?」
するとなぜか探偵は困った顔を浮かべる。
「悪いがそれは――諦めたほうがいいだろうな。見たところ、あんたの友人の中には人が大勢住む町の中に入ると騒がれてしまいそうなのがいるようだ。
これは別に非難しているわけじゃないんだがー―」
「そうか。そうだったな、わかったよ。ダイアモンドシティで」
ストロングやケイトのことをすっかり失念していた。
とりあえずダイアモンドシティへと戻る前に、ハングマンズ・アリーに行ったほうがいい。うまくすれば復活したばかりのコズワースとも、そこで再会ができるはずだ。
私は足元で行儀よく座ってこちらを見上げているカールの目を見返した。
きれいな目がそこに私の姿を映していた。それはなんともいえない表情で顔をゆがめている、そんな私がいた。
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――我等のヒーローの身に何が?
――どうなるのかは来週。
――次回の、刺激的なエピソードを待て!
――戦え ……っ!
――この番組はギャラクシーネットワーク。ギャラクシーニュースがお送りいたしました。
グッドネイバーに流れるこの番組が終わると、男たちはまだかすかに残っていた目の奥の輝きをそっとまた隠すと、ラジオのスイッチを静かにオフに切り替えるのだ。