次回投稿は明後日を予定。
連邦を襲ったラッドストームの混乱は5日間で終わり、空はそんなものはなかったとでも言うように。今度は一転して澄んだ空気と透明な世界を取り戻すことができた。
しかしそれはあくまでも天気の話で、連邦の住まう人々の間に生まれたさらに激しく悪い方向へと向かわせる混沌のことではない――。
半年前には、ただの廃墟だったこの場所も。
今ではアキラが命名した「ウォッチタワー」にふさわしく、地下には医療施設。一階を整備と倉庫に。2階は休憩室となっていて、3階が会議室とガービーの私室。その上に兵舎と見張り台が設置されている。
今は新たに防衛用のターレットも配置され、もはや見張りの塔というよりも、砦と表現したほうが正しいだろう。
だがここからはじまった平和の足音は、新年と霧とともに混乱の騒ぎにかき消され。前進を止めて足踏みしようとしてた。
昼夜交代で最上階にある見張り台に立つ兵士達からは、底から見える同じ風景が。あの霧が晴れた日から、以前とは違うものを感じると誰もが口にする。
そして実際に霧が去ってから、悪い情報が続いて飛び込んできていた。
これまで北部では見られなかった、危険な肉食獣。たとえばデスクローやヤオ・グアイと呼ばれる大熊が。
最近ではこの周辺でも徘徊しているらしく、足跡や遠くに目撃したとの報告が次々と舞い込んで来ていた。
さらに最悪な報告がレッドロケットのプレストンの元に届けられる。
ミニッツメンで建て直したばかりの居住地が2つ、この霧の騒ぎの中で無残に崩壊したというのだ。
その片方。スターライト・ドライブインの悲惨さは群を抜いていた。
サンクチュアリに集まってきた入居希望者の大半を、年末にあわせてそこに多く送り込んでいたのだが。それがこの最悪の結果を招いてしまったようだ。
入植を開始したばかりの住人達は、あの深い霧の中で何者かに襲われ。相手の襲撃者にたいした抵抗もできず。
行動の制限を命じられてそこに駐留していたミニッツメンは無残にも殺されていた。
ただその知らせだけでも憂鬱なのに。続いて届けられた捜査結果は、さらに救いがないものであった。
あそこで殺されたのはそこにいた一部の者だけで、どうやら大半はそこから一目散に逃げ出したことがわかった。だが、それは決していいことではない。
彼らは戦うことをせずに素直に逃げたことは賢いことだったのかもしれないが、恐怖心を抱えてにあの霧の中に考えもなく向かって走っていってしまったのだ。
この連邦を視界と方向感覚を奪われたまま、彼らがその後の数日を無事に生き延びたと考えるのには無理があった――。
(失敗か、クソッ!)
居住地の崩壊――この世界ではもはや珍しくもない出来事ではあるが。プレストンは自分を罵らずにはいられなかった。
かつてのミニッツメンは守ることに重きを置き。あまり居住地の立ち上げには熱心ではなかった。
それが新しいミニッツメンで変わったのは。レオとアキラが、それぞれやり方は違うが「かかわるべきだ」との考えが一致していたので、ガービーは取り入れたのだ。この北部に根を張り、実際に消滅したかつての居住地のいくつかを復活させようとした。
その努力が、あの霧のせいでいきなり大きく後退してしまったのだ。
つい先日までは、このまま無法者はレキシントンに封じ込めてやる、などと鼻息が荒かっただけにこの敗北の味はあまりにも苦かった。
それ以来、彼の夜は次第に長くなっている――。
その日も夜、ウォッチタワーの3階にある彼の自室に戻ると。ベットに横になるではなく、机の前に座り。プレストンはそこにある地図を眺めた。
連絡はまだないが。予定では南下している新支部の立ち上げメンバーは、霧の影響があってもそろそろ到着してもおかしくはないはずだった。
こちらの変化が、あちらにはないといいのだが。それはあまり期待してはいけないだろう。
北部での活動計画は、この騒ぎで大きく後退してしまった――それを認めて、素直に再出発へと頭を切り替えるしかないようだ。
これまでは連邦の北西を中心点とし、そこから正三角形に徐々に影響力を広げることでもって人々の保護活動を進めようと思ってやってきたが。
やはり、南下を考えるとレキシントンという脅威に対抗するには今のミニッツメンには力がまったく足りていないことを思い知らされてしまっている。
(こんな時、レオやアキラが居てくれれば――)
みっともない泣き言とわかっていても、頼れる彼らのしてのけた魔法のような出来事を実際にその目で見てしまっては。ついついそんなことも考えてしまう。
だが、それでは駄目だ――。
「……歯を食いしばる時期なのかもしれないな。あんな騒ぎがあっても、今度こそ無事に切り抜けてみせないと」
そうだ、まだ失敗したとうなだれてる場合じゃない。守りに入ってはいけないのだ。
守るだけではなく、攻める方法もちゃんと考えなくては――。
(なにか、なにかないか?)
レオのような力強い存在感だけではない、アキラのように突飛なアイデアだけではない。
自分だけができる事、彼らではわからない――そう、ミニッツメンとしてやれることはないか?
「――ラジオ、か」
何気なく出てきた自分の言葉にハッと驚き、続いてあわてて立ち上がると部屋の中においてあるラジオのスイッチを押す。ダイアモンドシティが流している番組が、そこから聞こえてきた。
いつものごとくそこから流れ出る音楽の合間にある覇気も元気もまったくないトラヴィスの情けない声など、当然のようにプレストンも聞いてはいなかった。
かわりに彼は、遠いあの日。
ミニッツメンがキャッスルと呼ばれた本拠地に居たときに流していたという、ラジオのことを思い返していた。
「そうだな。俺たちはまず、ミニッツメンのためのラジオを始めるべきなんだ」
自分が久しぶりにさえているんじゃないか、そう思うとなにやら気分がいい。
そのまま明かりを消すと、珍しくいつもよりもだいぶ早くにベットの上に横になった。疲れていたのだろう、数分も絶たないうちにプレストンは大きな寝息を立てていた。
ミニッツメンは復活から順調だった。
そりゃ、つまづくこともあるだろうが。その勢いがまだ失われたわけではない。
これまでと同じことを、今度は自分の発案ではじめるのだ。自由のラジオ、それはこの連邦に大きな力があることを人々に知ってもらえるはずなのだから――。
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バンカーヒルでは、本部から戻ったディーコンが最悪の状況について。アキラのロボットたちに報告していた。
――レールロードはアキラを見捨てた。
――ディーコンもこれ以上は、一緒に行動することはできない。
人であればこんな時は感情のままに「人でなし」などと非難と罵声を浴びせてもおかしくないが。
やはりロボットというべきか、キュリーもエイダもディーコンとレールロードの決断について、なにも口にすることはなかった。連邦に限った話ではないが、このような世界では忠誠や友情に価値を見出さない価値観は普通に存在している。
そしてそれは別に非難されることではない。
そもそもにして旧世界にあっても、この国ではそれらに価値はないとする考えは普通にあったのだから。
「つまり、これ以降は私達だけでアキラの捜索をしなくてはならない。そういうことですか?」
「少しだけなら行動はともにできると思う。俺は――次は連邦の北東へ向かうことになっている」
「具体的にどのくらい、時間はありますか?」
「数日が限度だろうな。ないと思いたいが、もしかしたら本部は俺の行動を見張っているかもしれない。それでは逆にお前達が動きにくくなってしまうだろう」
「――では、あなたはどこまでアキラの力になっていただけるのですか?」
……エイダというロボットの当然の問いは、この嘘つきの心をキリキリと痛めつける。だが、そうだ。俺は決断しないといけないのだ。
「可能な限り、全てを――これは本気で言っている」
「私たちに時間をもらえますか?これは議論が必要だと思われます」
「ああ、当然だな。そうだ、あとこれを受け取ってくれ」
俺は急いでポケットの中にある何でも屋のトムから回収したデータの入ったテープをキュリーに渡した。
「レールロードで手に入った情報のすべてを渡しておく。詳しいことはその中にはいっているはずだ、確認してみてくれ」
「わかりました」
その日は、俺は綺麗でもないマットの上で横になった――。
ロボットたちは明日の朝までには答えを出すのだそうだ。俺はそれを待たなくてはならない。いつもなら待つことは得意なことのひとつであったが……。
久しぶりに夢を見た。
消えたアキラと俺、大海原を前にして向かい合うという、まったくもって面白くもない夢であった。
俺はいつものように軽口をたたこうとした。「男同士見詰め合って、気持ち悪いな」「そんな趣味はないんだぞ」と。だが、なぜかその言葉は口から出ることはなかった。
あいつもいつも以上に無口で、そして俺のように無表情だった。
まるでこの俺を真似しているように。そういえばあいつが感情をなくした顔を、俺はまだ見たことはない。
「アキラ、俺は――」
『ディーコン、”僕”はまだ。お前の味方だよ』
あいつは卑怯な奴だったことを忘れていた。
こんな俺にとって、奴のその言葉はとても――。
俺は朝がはやく来ることを祈った。今の俺に――友人を見捨てる決断をした卑怯者には、この夢はあまりにも贅沢にすぎるものだったから。
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連邦を横切るようにして進入してきたB.O.S.は、ついにボストン空港上空へと到着していた。
早速地上へと部隊が派遣され、その場所を占拠していたフェラル・グール達の排除を始めようとする。
ところが、ご存知のとおり。すぐに天候が悪化、視界はほぼゼロで、放射性物質による汚染があるとわかるとさすがに攻撃は中止。撤退を余儀なくされた。
実際、死者こそ出なかったものの。
持ち込んだ最高品質のパワーアーマーを装着した者が同士討ちをやらかしてしまい。つまらないけが人を少なからず作り出していた。
情けない話ではあるが。まぁ、それでも犠牲者が生まれなかったのだからとりあえずよかったと考えるべきなのだろう。
そうして数日、彼らは不愉快な時間を過ごし。
自分達がおこなった一大複合作戦の進捗状況の確認と、失敗――もとい、点検作業の必要性を感じ。パラディンクラスの士官達が、プリドゥエンの作戦室へと集められる。
本来であればダンスもここに参加すべきではあるが、天候悪化のためケンブリッジ警察署から動けなくなっており。また、正直な話。彼自身はこの作戦にはそれほど必要もないとあって、会議はそのままに開かれた。
まずは最初に彼らが立てた当初の作戦『レッドチェッカー』の流れが説明された。
キャピタルから連邦へと到達。宣伝をしながら、ボストン空港へ。
同時に前線基地に物資と人を流し込み、橋頭堡とし。さらに連邦の重要となりうる複数の施設に対し、かつてのエンクレイヴとの決戦を参考にした強襲作戦を平行して実施する。
その間にも本隊はボストン空港へ到着、以降はそこを中心に海側からボストンへと手を広げていく。
描いた絵は、それはそれは見事な計画だが――。
非常に残念なことに、結果にあらわれた数字はあまりにも残酷にこの絵が無残な仕上がりをしていることを指摘していた。
体を小さくまるめたスクライブが、それでも大きな声で会議場に不快な言葉を並べる作業を続けていく。
「……以上の点を持って、残念ながら今回の作戦は。成功、とはとても言いがたい状況となっております」
失敗、はっきりとは断言していないが。成功ではないなら、それは失敗なのである。
しかしだからと言って、士気に水をさすような真実を喜んで口にしたがるパラディンはここには一人もいない。スクライブの結論を前にして、すでに多くのパラディンの顔に怒りと不快感の表情が浮かべられていた。
「不愉快な表現が、あまりにも多すぎではないか?霧にうんざりしているところに、胃がもたれてしまいそうだ」
「食欲が減退するのはよいことですよ。飢えるわけではないのですから」
「――なんだと?」
皮肉と刺々しいやりとりが、彼らの鬱屈を刺激して暴力を必要と感じ始めていた。
エルダー・マクソンは、そんな彼らに早速叱咤の声をかける。
「われわれの計画はいまだ初期の段階だが、それだけに細心の注意が必要なのだ。
この連邦が手ごわい相手であることは、ここに来る前から我々はすでに承知していたことのはず。だからこそ我々はどこに問題があって、その傷口を取り返しがつかなくなる前にふさぐという作業が。今、必要なのだ。
諸君の不満は理解できる。これまでの高い士気を落としたくはないという気持ちは買うが、君達はパラディンなのだ。下士官達のように、厳しい状況を前にいちいち一喜一憂されては困る」
「はっ……」
「スクライブの分析のおかげで、現在われわれの主目的である連邦への進入はほぼ完了しようとしていることがわかっている。まず、これについてはどうだ?」
問いかけると、地上攻撃を指揮していたパラディンのひとりがそれに答える。
「残っているのは、警察署との密の連絡及び最後の小隊が配備されること。ではありますが、こちらの制圧が終わらねば実のところ最後まで進めようがないというのが実情です。空港には我々が使うために大きな整備も必要でしょうが、そこまで話はいっていません」
「なるほど」
「まだはっきりとは言い切れない部分もありますが。例の撤退騒ぎではっきりと確証は得られてはいないので。とにかく、この空港の制圧は思った以上に難しいことがわかってきました」
「なぜ?」
「フェラルの数が、あまりにも多すぎるのです。
こちらの想像をはるかにこえていました。
天候の回復を待って再度出撃の予定ではありますが。それはパワーアーマー装着者のみの参加が望ましいでしょう」
「それで、どれほど時間がかかる」
「完全制圧に1ヶ月半、遅くとも2ヶ月」
「なんだと!?」
さすがに全員が顔をみあわせた。
当初の予定では5日で十分、そう考えられていたからだ。
「この理由ですが、空港直下に存在するボストン地下鉄網があげられます。そしてそこにはまだ人を送り込むことはできてはいません。こちらの攻撃に反応するフェラルに同調し、さらに多くが地上へ這い出てくる可能性を捨てきれない」
「地下など、爆破して埋めてしまえばいいのではないか?」
「それも計画のひとつではありますが、とにかく調査をしながら進める必要がでてきてしまった。その現実は認めてもらわなくてはならないのです」
辛抱強くそう口にするパラディンに、同僚は不満顔のまま。
それ以上はなにもいえなくなってしまった。
「わかった。それならなおのこと、攻撃再開は早めなくてはならない。
再度作戦を練り直したものを提出してもらおう」
「了解です」
「続いてこちらが一番深刻だ。
我々は侵入と同時に、複数の主要施設を確保しようと部隊を送り込んだ。結論を言うと、これはすべてが失敗したと結論を出さなくてはいけなくなったようだ。スクライブ、頼む」
再び立ち上がると、出動した5つの部隊の顛末を発表する。
墜落して全滅が1。墜落はしたが、部隊は生存しているというのが2。部隊の生存が不明だが、ベルチバードだけが戻ってきたのが1で、そもそも近づくこともできずに逃げ帰ったのが1つ。
見事な完敗ぶりである――。
「これでまだ結果は出ていないなどと口にするのは愚か者のすることだ。これ以上の大失敗を招く前に、施設の占拠は諦めるしかないだろうと考える。
今は空港の制圧再開に集中しつつ、送り出して戻れていない部隊の生存確認と回収方法を君達には考えてもらう」
「エルダー、ふがいない結果に。謝罪の言葉が……」
「それは必要ない、パラディン。我々は実際のところ連邦を知らない。常にすべてが想像のとおりに進まないのは、それが実戦だからではないのか。
そして我々は兵士、状況の変化に対応できるはず。ここでの戦いはまだ始まってすらいないのに、つまらぬ敗北心など抱えてもらっては困るぞ。われわれの真の戦いは、ここから先にあるのだから」
「はっ」
マクソンはパラディンたちにつまらない感情で、今の勢いを消してもらいたくはなかったのだ。
欲を出して、大勝利となるように副次的な作戦を同時に発動したわけだが。連邦はそこまではこちらにいい目を見せるつもりはなかった、つまりはそれだけのことなのだ。
ボストン空港はかならず制圧するし、B.O.S.は必ずインスティチュートへの致命的な一撃でもって。かつては組織が勝ち取って見せたキャピタルのエンクレイブ壊滅につぐ戦果を、若きマクソンのその手にするのだ。
会議が終わり、マクソンは気分転換をとタラップに出る。
若くして多くのものを肩に担がねばならなかったせいで、表情にまだ残っていても不思議ではない若さや甘さといったものはすっかり抜け落ちてしまったが。それでも彼は、若者なのであった。
眼下に見渡す連邦に、自分の野心を見せ付けることにわずかなロマンを感じていたいのだ。
彼が自分に科した任務がすべて終わった時。
彼の部隊はキャピタルに続いて、この恐るべき連邦をも手にすることができる。
この栄光を手にすれば、むこう100年はキャピタルのB.O.S.の存在感に、世界の誰もが一目置くようになるはず。
そのマクソンのそばには飛空船の艦長が近づいてくると何かを耳に入れた――。
知らされた内容に、エルダーは眉をひそめる。
「ダンスが――こちらの命令に従わない?」
意味がわからなかった。
会議が終わる間に、予定されていた警察署との連絡で伝えてきたらしい。長い任務を終えたばかりのパラディンの予期せぬ返答に、エルダー・マクソンは困惑する。
かわりにダンスは自身が書き上げた報告書だけを先にこちらに送りつけてきたらしい。
「どういうことか?あまり愉快な話ではないのだが」
「そのあたりのことは、報告書を読めばわかると」
「――なんだと?」
「どうやら彼は現地人のひとりを我々の部隊に招きたいと考えているようです」
「ほう、それは面白い」
「ダンスは、その人物と一緒にここに戻ってあなたに会わせたいと考えているようです。どうしましょう?」
「彼には悪いが、そもそもこの遠征に彼の部隊は戦力としては入ってはいない。とはいえ連邦のことを彼と彼の部下達は知っている――まぁ、いいだろう。空港の件が解決するまでは、彼の好きにさせてかまわないとしよう」
「わかりました。それではそのように伝えます」
「休暇ではないのだ、と付け加えるように。といっても、彼は素直には休んだりしないだろうな。報告書は受け取った、はやく次の任務を与える前に顔を見せに来い。それだけでいいだろう」
空を縦横に駆け回る飛行船と飛空挺、その威容にこの連邦は間違いなく震えているはず。
彼らの活動に理解を示すものが現れたなら、それを取り込んでこの連邦を正しくする力として使ってやらねばならないだろう。
己の体に流れるマクソンの血が、それを望んでいるのだから。
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プレストン・ガービーは雲ひとつない青空の下、ひさしぶりにサンクチュアリに訪れると、居住者達をひとりひとり訪れては、励まして回った。
朝、森の中に入っていった住人がそこでデスクローとばったり出会ったと騒ぎになっていた。そいつはどうも空腹ではなかったようで、真っ青になって震えている住人を無視してどこかにいってしまったらしい。
だが、人間の方はそれで終わりとはならなかった。
「あの化け物、あんたのミニッツメンで退治してもらうわけにはいかないのだろうか?」
「……パトロールで周辺を見ていますし、もし間違いがあってここへ現れても。その時は必ず、我々が駆けつけますよ」
約束などできるはずもなかった。
崖の上の居住地からも、同様の目撃例を伝えてきており。ミニッツメンの更なる協力を求めると、訴えてきていた。
さらに今日になって、これまではなんだかんだとこちらの申し出を拒んでいたアパナシーの農場も、調子よくミニッツメンの支持と引き換えに兵士をよこしてくれとさっそく要求をしてきている。
(簡単に言ってくれるよな)
現在、複数台のT-45 パワーアーマーをレッドロケットの倉庫に用意しているが。
それがあればデスクローとタイマンが張れるかといえば、難しいところだということはプレストンにもわかっている。コンコードでもあのレオの一件からそう考える。とはいえ、だからといってやりませんとはいえないわけで……。
レッドロケットへとため息をつきながら戻ってくると、訓練中のはずの新兵達が輪を作ってなにやら騒いでいるのを遠目で確認した。
(あいつら――訓練をサボってるのか?それでは困るんだぞ)
舌打ちをひとつすると、なんといってたしなめてやろうかと考えながら足を早めた。驚いたことに、彼らの前に立つ前にむこうがこちらに気がついた。
「大変です、大変です。こっちです、こっちです」
そんな同じことを口にしつつ、何人かはプレストンのところまで来ると。腕をとって引っ張っていこうとした。
「お、おい。なんだ?どうしたんだ?」
「とにかく来てください。来てください」
「?」
首をかしげながら、それで輪の中に入っていく。
そこにあるのを目にすると、プレストンは驚きから絶句し。両方の目は大きく見開かれる。
犬がいた。
それは間違いようもない、あのレオがつれて歩いていた犬。つまりカールである。
あの霧の中でも歩き続けたのだろうか?
毛並みはひどく汚れていて、気のせいか色が少しかわってしまったようにも見える。
銃か何かで撃たれたのだろうか、皮膚の表面をぼこぼこに醜くしていて、疲労困憊らしくその場に横になって動けそうには見えなかった。異常事態をつげているのだと、プレストンはとっさに考え、そして唸るように声を上げた。
「――っの、クソッタレ!」
苛立ちと怒りはそれで終わらせ、すぐにもまわりに「誰か!医務室から薬品を取って来い、あるだけ全部」と叫んだ。続いてカールの前でしゃがむと、声をかける。
「いったいなにがあったっていうんだ?将軍は、お前の飼い主はどこだ?」
犬は答えない。腹でも減っているのか?
そうじゃないだろう、犬が人の言葉をしゃべるものか!
「食べる物も頼む!……まさか、レオは。将軍は死んだ?」
食事と聞いたからか、それともレオが死んだと口にしたからか。どちらかとはわからないが、耳をパタパタと動かすと、カールは薄目を開けてから鼻で笑った。
どうやら生きているらしい、なぜかカールのその態度を見てプレストンは思った。
だが――ならばなぜ、レオはカールと別れてしまうような事になったんだ?
だがたったそれだけの疑問も、相手が犬ではやっぱり答えはえられない。
(設定)
・ウォッチタワー
レッドロケット・トラックストップに地下一階と屋根の上に3.5階分増築されたものを指してこう呼ばせていた。
データとして、他にターレットが10台前後設置され。旧道路と建物4階に見張り台が用意されていた。
・デスクローやヤオ・グアイ
かの地に生息していた危険な存在が、連邦にあふれ出てしまった。
「振り向いたらデスクロー」そんな状況にこれからのミニッツメンは備えなくてはならないのだ。大変である。
・居住地の崩壊
今回は攻撃を受けて全滅した、ではなく。
攻撃をきっかけにして居住者が逃げ去ってしまっての崩壊となる。
・ボストン空港地下鉄
原作ではボストンの地下鉄網はほとんどつぶされていたが。
それだとレキシントンの増えるフェラルに説明がつかないので、この物語ではまだしっかりと存在していることになっている。
・遅くとも2ヶ月
真実ではない。これは軍がよくやる「過大評価」で算出された数字を口にしているだけである。