ワイルド&ワンダラー   作:八堀 ユキ

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レオは再び軍隊に参加するが……。
次回の投稿は明日。


センパー・ファイ!(LEO)

 連邦はいつだってそうだ、生きるのに厳しい場所だと。

 だが、それも違った。あの日、なにかが変わってしまった。俺はその何かの正体を知っている。

 

 厳しい時代の到来だ。

 

 そしてその時代を生きる、新しいルールが必要だ。

 そう、それはこのグッドネイバーでも。大悪党ハンコックが治める町でも、始まることだ。

 俺はそれを最初に始め、皆もそれで理解する。時代が変わったのだから、大悪党の顔ぶれだって変わることに疑問はないだろ。このフィンが、ハンコックに代わってそれを実践したのならば。

 

 だから今朝はジェットはやめだ。

 最初の仕事だ。ラリッて、いつぞやの間抜けのように。逆に身包みはがされ、路地裏で泣きながら自分の尻を売る羽目にはなりたくない。

 

――扉が開いた、最初の獲物だ。

 

 フィンの伝説が始まる。今、ここから……。

 

「止まれ。グッドネイバーに入るのは初めてだろ?ここは保険がなけりゃ、自由に歩くのも――ああっ?マジかよ……」

 

 伝説はさっそくかげりを見せる。

 フィンの最初の獲物は確かにそこにはいたが。それはB.O.S.塗装のT-60パワーアーマーで武装した2人の男。

 こちらも目を丸くしたが、それはむこうも同じらしい。驚いていた。でもそれだけだ、ちっともびびっていない。

 

 フィンは望まずして、間抜けの坂道を足を滑らせて転がり始める自分を想像してしまった。

 

「んんっ、て――つまりだな、保険だよ。わかるだろ?」

 

 むこうの2人は互いに顔を見合わせると、片方がノシノシと足音を響かせて目の前に近づいてくる。鋼の体はこちらのふた回りは大きく、ヘルメットはしていないが。当然こちらを見下ろしてくる。

 大丈夫だ、気圧されるな。俺が革命を起こすんだろ?

 

「おい、だんまりか?無視するなよ」

「……」

 

 きつめのサイコが必要だと思った。

 あの太い鋼の腕がのびてきて、この頭を体からねじ切ったっておかしくはない。

 遠目ではたいしたことのない奴だと思ったが、フィンを見下ろしてくる相手の目だけが恐ろしく冷酷で。漂わせる静かな雰囲気も、その中に危険なものが無造作に混ざり合っているような不安を覚える。

 

――だが引けねぇ、ここで引いたら終わりなんだよっ

 

 見つめ合う2人の背後から、パンパンと手をたたく音がして新たに登場する人物がいた。

 グッドネイバーの市長、ハンコックと護衛のファーレンハイトである。

 

「落ち着けって。ここでちょっとタイムアウトといこうじゃないか」

「ハ、ハンコック!?」

「……」

 

 優雅に進み出る男はフィンに向かって話し続ける。

 

「この門をはじめて通る奴は、俺の客だ。ゆすりはやめろ、わかっているだろ」

「あんたは甘いんだよ、いつまでそんな寝言を言っているつもりだ?こいつはあのB.O.S.とかいうよそ者だ。仲間でもないだろう」

「これは市長が決めたルールだ。その愛される市長が、通してやれといっているんだ、フィン」

「よそ者に甘い顔を続けていたら、いつかあんたを倒して誰かが新しい市長となるだろうよ、ハンコック」

「まったく、ゆすりをやめろと言ったら。今度はこっちに警告か。忙しい奴だな」

「時代は変わったのさ。厳しい時代だ、甘っちょろいあんたの時代は終わった」

 

 市長を名乗った方は、首を横に振りながらもさりげなくフィンにそれとなく近づく。

 

「そうかそうか、なら俺がお前に答えてやると――」

 

 片手が伸びてフィンの首根っこに触れるや。瞬間、空いた手にはナイフが握られ。鋭く3度にわたって腹を貫くと、崩れ落ちるフィンの首にもトドメの一撃を加える。

 (はやい、手馴れているな)そのあざやかさにレオは内心、舌を巻く。

 

「そんな初歩的な説教を、お前みたいな馬鹿に聞かされたくはなかった。俺の町を訪れたことが不幸だ、なんて言われたら悲しくなってしまっただろうが、え?」

 

 倒れた相手の服で汚れた刃を拭き取ると、ハンコックはパワーアーマーを着た客人に顔を向けた。

 

「B.O.S.なんだって?」

「――そうだ。あんたの町には入れないのかな?」

「そうは言ってないさ。歓迎する、客でいる限りは」

「もちろん。こちらは騒ぐつもりはない」

「大丈夫か、とここで聞いておくべきなんだろうが――必要はなさそうだな」

「ああ、立派な市長さんのおかげだ。ありがとう」

「それならいいんだ。この小さなコミュニティへの印象が悪いと、市長の怠慢になる。

 この町は人民による、人民のための場所だ。誰でも歓迎する、わかるか?」

「グッドネイバー、噂は聞いていた――あんたはグールだよな?」

「ん?イケている顔だろ?魅力的だと、女にモテて困るくらいにな。イケてるグールに会ったのは、はじめてか?」

「こんなに間近で話すことはなかった。噂通り、驚きの経験が多く体験できる場所というのは本当だったんだな」

 

 相手の返しに今しがた人を刺し殺したばかりのハンコックは愉快そうに大声を上げて笑い出す。

 

「もう、あんたのことを気に入ってしまいそうだ。お堅い兵士の生活に嫌気が差したら、ここに来るといい。あんたの新しい故郷になるかもしれない」

「私に、ここで生活できるかな」

「大丈夫さ、ここでは誰が物事の責任をおっているのか。うっかり忘れなきゃな」

 

 立ち去ろうとして、ふとハンコックは思いとどまる。

 

「せっかくだ、あんたの名前を教えてくれ」

「レオだ」

「――レオ?フランク・J・パターソン Jrか?」

「参ったな、自分がここまで有名だとは知らなかった」

 

 ではごゆっくり、それだけを言い残すとハンコックは建物の中へと入っていく。

 その後ろで、護衛であるはずなのに一言も口を出さなかったファーレンハイトはレオの顔を穴が開くんじゃないかと思うくらい凝視していたが。力が抜けると、興味をなくしたらしくさっさとその後に続く。

 

「噂通り、ここはとんでもない町のようだ」

「大丈夫だよ、ダンス。彼等なりの歓迎だが、気にしてピリピリしちゃこっちの体が持たない」

「だが――」

「ここでは物資の補給だけだ。終わったらすぐに出発さ」

 

 攻撃に失敗した部隊が、よりにもよってボストンコモンの中心近くから救援要請を送り続けていた。あそこはこの連邦でもっとも危険なエリアである。

 助けに行くなら万全の準備の上で、さらに急ぐ必要があった。

 

 

 

 自室に戻っても、ハンコックとファーレンハイトはしばらく無言であった。

 立ち上がってグラスを手に取り、バーボンの液体をそこになみなみと注いでやってから。ようやくハンコックから口を開く。

 

「あれがレオか。ミニッツメンの新しい将軍」

「――そうみたい。いい男だったわ」

「それは否定しないが。そいつがB.O.S.に身を投じていたとは、考えもしなかったな」

「そうね」

「ミニッツメンはこのことを知っていると思うか?彼らのボスが、宗旨替えをしたのか。もしくは自らスパイの真似事をしていると」

「噂を聞く限りでは、個人の都合で動いているらしいわ」

 

 判断する材料が足りないということか。

 ハンコックはちびりとグラスをなめると、いきなり話題を変える。

 

「――お前、アキラのことを奴に話さなかったな?それでいいのか?」

「だからなに?自分が教えてあげればよかったじゃない」

 

 返事はいつものとおり、彼女らしい熱の欠けたものであった。しかしハンコックは付き合いからなんとなく理解できるものがあった。

 

「お前、まさかあの将軍に妬いているのか?」

「なんですって?」

「あの若いの、あの将軍には偉く心酔しているという話だ。それで――」

「ラジオの恋愛ドラマ。聴きすぎよ、ハンコック」

 

 呆れたのか、それとも怒ったのか。

 それからは長いことハンコックが声をかけても、ファーレンハイトはまったく相手にしてくれなくなってしまった。

 

 

==========

 

 

 フィドラーズ・グリーン・トレーラー・エステートと書かれた看板に寄りかかるようにして彼らは座り込む。

 ひどい有様、彼らに当てはまる一番正しい言葉がそれだ。

 

 あの日、B.O.S.の連邦進入と同時に発進した部隊のひとつが彼等であった。

 意気盛んに地上の敵へと襲い掛かったはずが、形勢はあっという間に覆され。退却しようにもベルチバードも墜とされて戻れなくなってしまった。

 

 敗走するしかなかったが、迎撃してきたスーパーミュータントたちもそれを許さず。あきらめなかったことから悲惨を極めた。

 ひとりは生きて捕らえられ、絶望の悲鳴をあげる中を奴らが大喜びでその場で引き裂かれていた。耳に残るのは、最後の哀れな仲間に助けを求める断末魔。

 

 そいつにくらべれば、他の奴等はまだマシだったと思いたい。

 交戦中に力尽き、痛い、帰りたいと泣き喚いてそのまま死ぬことができたのだから。緑の化け物たちが死体をどう扱おうとも、その苦痛を彼らが騒いで連邦にしらせることはないのだから――。

 

 B.O.S.ではテクノロジーの管理が重要になる。

 追ってくるスーパーミュータントに好きにさせるため、わざと仲間の死体はそこに放り出し。代わりに彼らが使っていた武器など、しっかりと破壊か。もしくは回収する。

 

 その行為のなんと屈辱的なことか!

 

「どうします?」

「――どうする、とは?」

「行き先の話ですよ。正直、もう俺達。そんなに持ちません」

 

 3人まで減ってしまったパワーアーマーを着たナイト達を指揮官は見回した。

 自分達が死体にならずにすんだのは、間違いなくこのパワーアーマーの恩恵があったからだ。そのことに疑いはない。

 そしてだからこそ、これ以上の戦闘は避けねばならないと理解していた。

 

 次、なにかあれば――全滅も覚悟しなくてはならないかもしれない。

 

「――ケンブリッジだ。言っただろう、そこの警察署に……」

「そこまでたどりつけないと言っているんですよ!」

 

 気が動転しているのだろうか、部下の顔が赤くなっていて興奮していた。

 だが、それは部下として許されない行為だった。上官の命令には絶対服従なのに。死の恐怖から、不信感を隠さないとは、情けない。。

 

「新兵じゃないんだ。こんな時に上官の命令……」

「こんな有様でたどり着けるわけがないんだよ、わからないのかっ。俺はまだ死にたくないっ!!生きて帰らなくちゃならないんだよっ」

 

 きっと家族のことだろう。わざわざ聞かなくたってそれはわかる。

 必死の思いであげたその声は昼の集合住宅地に轟いた……。

 

 

 その姿を離れた高所から見下ろす集団がいた。

 

「なんだい?ゲーム中にこんなとこまで呼び出しやがって!」

「ボス、あれを」

「――パワーアーマー?誰だい、あれは?」

「例の噂のB.O.S.とかいう連中じゃないかって、思うんですが」

「なるほどね。そりゃ間違いないだろうよ」

「どうします?」

「そんなの決まってるじゃないのさ」

 

 ボスと呼ばれた女はニヤリと攻撃的な笑みを浮かべる。

 仕事の時間だ。

 

「あたしら、ラスト・デビルに目をつけられた獲物は逃がしゃしない。人狩りといこうじゃないか」

 

 澄んだ空気が、真っ青な空が。それを見るすべての人の心を和ませるであろう時間に、これからここでは惨劇が始まろうとしていた……逃げ切れぬB.O.S.の部隊の最後の戦いが。

 

 

==========

 

 

 覚悟はしていたが、やはり自分はよそ者という事なのだろう。

 しかしこうなることはすでに想像もできたから、別にいまさら腐って見せたりするつもりもなかった。

 

 パラディン・ダンスをはじめとした歴戦の戦士達が心酔してやまない若干20歳の若き指導者は、面会とB.O.S.への正式な参加の条件に任務を与えてきた。

 

 連邦に散らばってしまったいくつかの部隊を、可能な限り助けて回収せよ。この任務に援護も増員もないが、かわりに装備は先に引き渡しておく。

 なんだか過去にどこかで同じような経験をした覚えがあるので、これについては苦笑いしかない。

 

 しかしそういうことなら急ぐ必要があった。

 レオが最初に目をつけたのは、サウスボストンで消息を絶った部隊だ。

 

「彼らはそこで何を?」

「私達の時と一緒だ。そこにある警察署を占拠しようと試みた」

「なぜ失敗を?」

「町の中に潜んでいたレイダーやスーパーミュータント共が気がついて一斉に攻撃が始まったそうだ。ベルチバードは墜落、部隊は生死不明に」

「その部隊は攻撃を強行したと思うか?」

「嫌、ないだろうな。部隊が空中で降下中に攻撃されたが、すでに周囲から押し寄せていると最後の通信の中で口にしていたそうだ。

 部隊は地上で集結を果たしたと考えると、すぐに後退させるだろう。町の中で囲まれたら終わりだからな」

 

 ということは、彼らはすでにそこを脱出し。北上してボストン空港にむけて進んでいたはず。

 

「なら、彼らからはじめよう。もし生きていたら、危険なボストンコモンを南から北へ歩かないといけない」

 

 あそこは経験するとわかるが。うっかり足を止めなどしてボストンコモンに絡めとられてしまうと、再びそこから動き出すことが困難になる。

 なにせそこは1ブロック単位でスーパーミュータント、異なる組織のレイダーと、網の目状に陣地を張っている場所なのだ。

 

 以前はレオも友人たちと突き崩しては、相手が戻ってくる前にさっさとその場から移動する方法でなんとかやってみせたが。パワーアーマーを着ている今回は、逆にそいつらを相手にすることなく走り抜けていくぐらいが丁度いいはずだ。

 

「ダンス、B.O.S.の部隊回収はいつもこんな感じでおこなわれているのか?」

「こんな感じ、とは?」

「救助にあてる兵士の選考や計画は、どうなっているのかと思って」

「ああ、そういうことか――」

 

 ダンスは一旦、言葉を濁す。

 

「我々は通常、こういった部隊救出の任務はおこなってはいない」

「なんだって!?」

「驚くのも無理はないと思うが。我々といえど、リソースは潤沢にあるわけではないんだ、レオ」

「つまり任務に失敗すると、自力で戻ってくるしかないのか……」

 

 理解はできた、感情は別にして。

 そうしないとここにはいられなくなってしまう。

 

 どうやら私は思った以上にこの軍隊に好意的でありすぎたようだ。任務においては私事につながる感情を切れ、と自覚していたはずなのに。表情が曇る。

 

「理解してほしいのだが――」

「いや、わかるよ。ちょっぴり驚いただけだ。それだけさ」

「レオ」

「いいんだ、パラディン・ダンス」

 

 気高い忠誠心と国への無償の奉仕を示せ、得られた栄光はお前だけのもの。

 レールロードに飛び込んでいったアキラのように。自分にもそれができると考えての今の立場だが、どうやら私はまだ覚悟というものが足りなかったようだ。

 

 そうなると、この任務自体の捕らえ方も慎重に別のものとして考えないといけない。

 これは正式な救出任務ではないのだ。

 本隊がしでかした、作戦の失敗を尻拭いさせられているだけ。

 

(撤退中の部隊は本隊に戻ろうと空港を目指す。敗走中の彼らは連邦にとっていい標的でしかないだろう)

 

 グッドネイバーへ向かおう。

 

 レオが出した結論がそれだった。情報が、助けが必要だと思ったからだ。

 危険は確かにあったが、この任務が始める前から失敗していないという確証が欲しかったし、危険を冒したくはなかったのだ。

 

 

==========

 

 

 レールロードのエージェント、グローリーは”オーガスタの隠れ家”に来ていた。

 本部の話では、あのディーコンが珍しく仕事を放棄して離脱してしまった尻拭いをして欲しいのだと聞かされていた。

 

(あのディーコンがねぇ。仕事疲れでも引き起こして、ヤワになったか)

 

 かつては退屈だとボヤイていた時もあったが、今は本当に休む暇がない。

 グローリーは毎週のこと数日は連邦のどこかで暴れていた。自分たちの敵を粉砕することに微塵も疑問を抱かない彼女ではあるが、それでもうんざりはする。

 なのにそれでもなお、抱える仕事は増え続けており。処理しきれなくてツーリストとよばれている組織の下部構成員達にまわされ、不幸な被害がひろがりつつあった。

 

 デズデモーナをはじめとした上層部はこれまでをなんとか部下達を励まして乗り切ろうとしてきたが。あのB.O.S.とかいうのがあらわれたおかげで空気も変わった。

 ツーリストの側から、レールロードに距離を置こうという動きがあると噂がささやかれている。

 

 リーダー達はそんな組織の結束を強めようといろいろと案が出ているらしいが。特に目立つようなはっきりとした動きはまだない。

 それよりグローリーにとっては、これ以上のスケジュールに予定を詰め込まれるのはたまったものではないのだが――。

 

 

 オーガスタの隠れ家ことケンダル病院の中に一歩足を踏み入れると空気が変わった。

 グローリーの”女の感(?)”が、ここにあるよくないものを察して背中に冷たいものを流れさせた。

 

 不気味なほど静かだ。

 レイダーは突然、お行儀よくいきることにした?それともここにインスティチュートの人造人間が戻ってきた?

 

 ミニガンを構え、何が出てきてもすぐに穴だらけにしてやる、と準備をしたグローリーは奥へと進む。

 報告ではディーコン達が立ち去った後の3週間ほどの間に目立つ動きはない、そういう話だったが。レールロードの情報も当てにはならないということか。

 

 病院内では死体が山が出来ている。

 積み上げられていたのは仲間の死体ではなく、レイダーたちの死体になっていたが。

 

 うつぶせに死んでいるひとりをつま先で蹴飛ばし、仰向けにさせた。

 驚愕する表情と、眉間には3番目の穴が開けられている。これは正確な射撃、そしてプロの仕業だと知らせていた。

 

 生き残りに注意しながら、なにがあったのかを洞察しながら進んでいく。

 どうやらレイダーたちは侵入者の存在に気がついた先から襲い掛かり、ほとんど抵抗できずに返り討ちにされていったように感じた。

 

 その雑な仕事ぶりにグローリーは自分と似たものを感じたが、同時に違和感も覚えた。それがなにかはまだわからないが――。

 

 奥に進むにつれ状況はさらに異常なものになっていく。

 きっとおびえたのだろう、レイダーは侵入者を止めようと建物内でロケットランチャーまで持ち出したようだ。

 壁と床に焦げ付いたその傷跡が見られたが、それでも侵入者の足を止めることはできなかった。

 

 ん?いや待て、これはひょっとして……。

 

 グローリーが考えるのもそこまでだった。

 静寂がいきなり破られると、最下層から恐ろしい獣の断末魔の声がビリビリと建物を揺らして聞こえてきたからだ!

 

 

==========

 

 

 そこはかつてのレールロードとは違う使い方をレイダーたちはしていたようだ。

 コンクリートの床が崩落し、さらにその下にあった電力管理室の中を上から覗き込めるほどにむき出しにしてしまっていた。

 そしてここのレイダーはどうやらそこを簡単な闘技場として、馬鹿な遊びを楽しんでいたようだ。

 

 デスクロー。

 連邦でも最大級の脅威のひとつがそこに放たれていたらしい。

 レイダーたちから、彼らの楽しみだけのために地の底へと突き落とされた人々を細切れにしてきたであろう鋭い爪も。

 飼い主たちを皆殺しにした侵入者を止めることはできなかったようだ。

 

 新鮮な死体が転がっていた。

 なぜかはわからないが、その片腕は付け根から切断されたらしく。そこから今も血が流れ出して地面に池をつくろうとしている。

 

(誰が殺った?どこだ?)

 

 グローリーは上の階から慎重に覗き込み侵入者を――ハンターの姿を探す。

 誰もいないように思えたが、いきなり凄まじい殺意がグローリーの頭部に感じると。慌ててミニガンを突き出しながら体のほうは引っ込める。

 すると抱えている巨大な銃身に衝撃が伝わってきた。

 

 レイダーの死体を確認して助かった。

 3発の10ミリ弾が正確にグローリーの額めがけて飛んできていた。

 

「このヤロー!!」

 

 見た目と違ってグローリーは乱暴にミニガンを振り上げると、階下にむかってでたらめに鉛弾をばらまいてやった。

 そして今度こそ目に捉えることができた。崩れかけたコンクリートの壁の向こうに滑り込む黄色のビジネススーツの人の姿を。

 

「ここにいた馬鹿共への押し売りが得意なんだってね!こっちにも用があるのかい!?」

 

 ミニガンから乱暴に弾倉を引き抜くと、新しいそれと入れ替える。これで500発、あの壁を綺麗に穴だらけにして、あいつも同じ目にあわせてやろう。そう考えていた。

 

 シューシューと音と共に白い煙がモクモクと立ち上ってきたのは、グローリーのそんな反撃開始の手前でおきた。

 逃げる気か!?と勢いよく体を乗り出した自分の甘さをグローリーはきっと呪うだろう。煙を裂いて飛んできたのは、ここのレイダーが所持していたであろう一発のミサイル弾頭であった……。

 

 

 それでもグローリーは生きていた。

 数時間後、病院の地下から地上へと戻った彼女の表情は。敗北と困惑で奇妙にもゆがんでいた。

 

 ミサイルと入れ違いに地下のデスクローの死体の上に飛び降りたおかげでグローリーは爆風の炎と衝撃からは逃れることができたのだが。

 相手はそんな体制を崩した彼女に止めをさそうとはせず、すでにそこから立ち去っていた。

 

 そして一瞬ではあったが、煙の向こうに駆けていく侵入者の姿を一瞬ではあったが、グローリーの目に焼きいていた。

 黄色の帽子、濃淡の違うコートとその下にビジネススーツ。顔は影になってわからない。なのにあのコートのひらめき方には見覚えが――。

 

 グローリーは脅威が立ち去り、そして排除された病院の入り口に立って戸惑いを感じている。

 ここで起きたことは、本部にも報告しなくてはいけないが、あの侵入者についてはどう考えたらいい?どう報告したらいいのだろう?

 

 

==========

 

 

 グッドネイバーの一件から2日後――。

 

「こちらストライフ・ワン。地上に救出部隊を確認しました。これよりアプローチに入ります」

 

 B.O.S.パイロット――ランサーはそういうと、ベルチバード操り。旋回しつつ高度をゆっくりと下げていく。

 カウンティー・クロッシングと呼ばれる居住地には、傷ついた仲間の部隊が座り込んでいて。こちらを見上げているのが遠目からでも確認できた。

 

(待ってろよ、もうすぐつれて帰ってやるから)

 

 そう思うと焦りも生まれるが、ここで慌てて操作をミスするわけには行かない。

 

「地上まで10カウント。10…………5……3.2.1」

 

 横風にぶれることなく、静かに地上へと着陸すると。パワーアーマーを着たひとりが元気よく乗り込んできた。

 

「わざわざ迎えにきてくれて、感謝するよ。ランサー」

「別にかまいませんよ、パラディン・ダンス。彼ら、無事だったんですね」

「ああ、よかったよ。ほとんど全員、怪我でこれ以上はあまり動けそうにない。すぐに乗せて大丈夫か?」

「大丈夫です。あ、それとダンス」

「ん?」

「ラックの中をのぞいて下さい。あなたとあなたの相棒のために補給物資を入れてきました。役に立ててください」

「おお、助かるよ」

「それと!」

「ああ」

「この機も役に立たせてくださいよ。なにかあったら、呼んで。あんたたちのためなら、いつでも俺が飛ばしますから」

「――ありがとう、ランサー。君達の力を借りれるなら心強い」

 

 そういうとダンスは軽くパイロットの肩に触れ、すぐにラックの中に手を突っ込むとそこにあった弾薬箱を抱えて外に出た。代わりにそこに撤退を生き抜いた兵士達がうめき声を上げながらゆっくりと静かに乗り込んできた。

 

 

 ダンスは空へと上昇するベルチバードを見送ると、一瞬だけ遠くに空港の上に浮かぶ飛行船を見た。

 レオの考えは正しかった。

 グッドネイバーを出たその日のうちに敗走していた部隊と合流を果たすことができたし。さらに一日半をかけてボストンコモンから人目を避けてここまでを深刻なトラブルに巻き込まれることもなかった。

 

(やはり、レオはうちの組織に必要な人物だ)

 

 これ以上の行軍は脱落者を生む、そう判断した彼はここの居住地の住人達と話をしてくれた。

 そのおかげで部隊は傷ついてはいても人を失うことはなく。一部隊全員が無事に生還を果たしたことになる。しかもダンスもレオも無傷のまま。

 この働きだけを見ても、彼を評価するのに十分ではないか?

 

 

 誇らしい気持ちで、相棒を探すとすぐにレオは見つかった。

 彼は飛び去るベルチバードには興味がないばかりか、居住地に背中を見せて微動だにしていない。

 どうやら彼は、ここに来てから気になることがあるらしく。ああしてずっと、一人で何かを探し回っていた。 

 

「回収任務は完了した。だがまだ終わりというわけでは――」

「ダンス、これを聞いてくれ」

 

 レオはこちらの話を聞く前に、なにかを知らせてきた。

 彼のピップボーイが何かを受信している。

 

「緊急時の救助要請ビーコン?」

「そうだ。この近くから発信されている」

「――だが、別にそれは誰が使っているのかわからない。罠かもしれない」

「だが、これは軍用のものだし。あんたは気にならないか?」

「ふむ」

 

 ダンスはしばし考え込んだ。レオはなにを気にしている?

 まだ彼の考えがダンスには読むことが出来ない。




(設定)
・フィンの伝説
そんなものはなかった。
ゲームではグッドネイバーを訪れると、最初に彼に会うことができる。

・フィドラーズ・グリーン・トレーラー・エステート
以前、マクレディとレオ達が立ち寄る予定であった。
へーゲン砦からわりと近くにある場所。原作ではフェラルの巣窟になっている。

・ラスト・デビル
ハイテク・レイダーの組織。原作ではDLC第一弾で戦うことになる。
この作品では、ボストンを離れて連邦の西側で力をためようとしていた。

・ランサー
B.O.S.のパイロットたちの総称。
ナンバー2のケルズも、このランサーである。

・グッドネイバー
当初、ここでレオはデイジーの店に入り。情報を入手する描写が入る予定であった。

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