ワイルド&ワンダラー   作:鷹雪

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再開します。
今回はレオさんから。

次回投稿は明後日を予定。


軍の流儀(LEO)

 プリドゥエンの医務室で、私は改めて医師の診断を受けていた。

 

「心配するようなことはないさ。ただ君の病歴について簡単な質問をしたいだけだ。ここにはキャピタルから来た兵士たちがいるが、船外から彼らに脅威を与えるような病気が持ち込まれるようなことがあってはいけないからね」

「確かに。言われてみればその通りだと思う」

「では、医学にかかわる質問をするので、できる限り答えてほしい」

 

 戻ってきてドッグにパワーアーマーを預けていた。軍の制服は店で求めてくれと言われていたが、私はまだケロッグの服を着ていた。

 覚悟が足りないと思いはするが、今はこれでいいと思っている。

 

「長期間、放射能にさらされたことはあるかい?」

「ドクター。ダンスから話を聞いていないのか?私は別にこの辺で生活をしていたわけじゃない」

「え、おやおや。すまない――記録を見逃していたよ。そうか、元Vault居住者だったんだね。それならここにいる誰よりも健康であって、おかしくないか」

「次を頼むよ」

「ああ、そうだな。では伝染病に出くわすような経験も?」

 

 脳裏にVault81で苦しんでいた少年がチラと頭を横切るが、私は真顔で答えた。

 

「ないよ。次に行ってくれ」

「それじゃ――」

 

 ドクターが次の質問へと移ろうとすると、医務室の入り口に人影が現れる。

 

「あなた!あなたが噂の新人ナイトよね?」

「おいおい、誰かと思ったら――」

「自己紹介をさせて、私はネライヤ。シニアスクライブよ」

「ああ、どうも。ネライヤ、はじめまして」

 

 女性は強引で、まるでドクターを相手にしない態度はふてぶてしいなんてものじゃなかった。それでも私は笑顔で彼女に挨拶する。

 なにか、あるのだろうか?

 

「私に何か?」

「ええ、それなんだけど――あなた、ここら辺の土地には詳しいんですって?」

「――そういう触れ込みで、推薦されたらしい」

「なら、よかった!実は研究のために、あなたに協力してほしいことがあるのよ」

「それは?」

「血液サンプル、それもいろいろなアポミネーションの。出来れば大量に」

「――聞いていると思うけど。ここにはエルダー・マクソンに呼び戻されたばかりでね。そんな簡単に約束はできない、シニアスクライブ」

「いいわ、そういうことならここを出る前にでも私の所によって。詳しい話はその時に改めてしましょう――ああ、ドクター。もうくだらない質問を続けてもいいわよ」

 

 一方的に話を終えると、女性はさっさと医務室から出て行ってしまった。

 ドクターの顔を驚いてみると、彼は首をすくめ。質問を続けようといった。

 

「では次の質問だ。これも正直に答えてくれ……人間以外と考えられる種族と性的な関係を結んだことは?」

「――なんだって?」

「そういうことだよ、ただ――率直に答えてほしい」

「心当たりがひとつ。若い頃、酒の勢いにまかせて……」

 

 さすがに少しうんざりしてきた。

 

 

==========

 

 

 パラディンとナイトの帰還をケルズから報告を受けたマクソンは、2人に用が済んだらデッキに来るようにと命令を出しておいた。

 

 状況はわずかずつではあるが良いほうへと進み始めていた。

 空港はついに調査を終え、数日中にも制圧が完了するであろうと報告がさきほどあったばかりだ。

 ようやくそれで始めることが出来る……さらに多くの試練が待ち構えてはいるだろうが。それだって問題はない。

 

 部下の士気はいぜんとして高く、頼もし限りだが。浮つくように焦れているのも感じていた。しかしそれもこの空港を制圧することで落ち着くはずだった。

 

(あとは彼だけ、だな)

 

 この期に及んでだが、正直にエルダー・マクソンは未だにレオという新人ナイトの実力を計りかねていた。

 彼に関してはダンスが無条件に最大限の支援をしているせいで、古参のナイトなどからも不満があることはわかっていた。キャピタルの暗黒の時代、前任者はあの地獄を徘徊する旅人であっても、B.O.S.の象徴ともいうべきパワーアーマーの扱いを広めることを許していた。

 

 それら全てが失策であったとは、マクソンは言わない。

 そうした前任者の善意がかさなって、キャピタルのB.O.S.はエンクレイヴとの対決へと突入したことは周知の事実であり。その勝利が、今日の自分たちへと連なるものがあるのは、認めなくてはならないだろう。

 

 だが、それを汚点と考える者達がいる。

 なけなしの善意とやらで危険を冒してやったとしても、返ってくるのは空虚な感謝の言葉と、それでも足りないとばかりにさらなる援助を要求してくる市民への嫌悪は皆の記憶の中にクソのようにこびりついてしまっている。 

 

 そしてだからこそ、ダンスはレオを保護しようとし。仲間たちはそんなダンスとこの場所で初めて選ばれた新人を忌々しく感じている。

 

(だがいつまでもその空気でいられては、困るのだ)

 

 今回の計画の最終段階の先には連邦に新たなB.O.S.が誕生させ。さらにその組織にはこの場所の住人たちが中心となって管理する必要が出てくることになる。

 なのにキャピタルと連邦でくだらない階層意識など育てられては、これから行う我々の正しい戦争の意味が失われてしまう――。

 

 

 ダンスはレオを連れてやってきた。

 マクソンは上司として、まずは最大限にその結果について褒めるところから始めた。

 

「任務ご苦労。厳しい状況であったのは理解しているが、君とダンスは想像以上の結果を我々にもたらせてくれた。その努力と献身に、私はまずは感謝を表したい」

「こちらこそ光栄だ、エルダー・マクソン」

 

 当たりは柔らか、しかしあまりにもそつがなさすぎる。

 誘われた先で面会もせず、装備と任務だけ与えられて放り出された兵士なら、不満なり皮肉が飛び出してもおかしくないところだ。

 だがマクソンはそれと気が付かぬふりをして、話を進める。

 

「それでも部隊の多くは帰還はかなわなかった。この苦い経験はこれからの作戦に、必ず生かさねば彼らにも申し訳が立たないだろう。だが一方で、アルテミスの報告があったのは嬉しい誤算であった」

「パラディン・ブランディスはどうしていますか?」

「元気だ。本人もやる気を取り戻しているようで、再訓練を希望している。復帰についてはまだ時間と見極めが必要だが、ドクターは今のところ明るい展望が持てると言っている」

「それはよかった」

 

 和やかな空気、しかしこのままでは埒が明かない。

 マクソンは方法を変え、正面から挑むことにした。

 

「君のことはダンスから色々と聞いている。元Vault居住者、実験で200年以上を生き、かつての世界では軍に所属していたとか」

「ダイアモンドシティでは、それを記者に話したせいで大騒ぎされた」

「この忌々しい世界では慣れるまでに苦労があったのは想像できる。その上で、あえて問いたい。君は、我々の組織に何を求めてやってきた?」

「……」

「我々の組織に加わりたいと言うものはどこにでもいる。その全員が、なにかを望んでここにたどり着く姿をこれまで私はずっと見てきた。

 

 あえて君には隠さずに伝えるが、ダンスも私も君の能力には驚かされている。

 だが一方で、そんな君がVaultを離れて厳しい連邦の情勢の中を旅してきた答えを知りたい。この問いに素直に答えてもらえるだろうか?」

「いいでしょう――あなたがおっしゃったように、エルダー・マクソン。

 私にも望むものを手に入れるためにここにいます。このB.O.S.ならばそれが手に入ると考えたのです。

 

 私が望むものはただ一つ、息子です」

「君の、お子さんだって?」

 

 ダンスも知らない情報であった。

 相手が驚いている間に、レオは感情だけを排除して言葉を続ける。

 

「私には妻と息子がいました。しかし、Vaultに侵入してきた者がいて、彼らは妻を殺し。私の幼い息子を連れ去った」

「誰がさらったのか、知っているのか?」

「はい。インスティチュートです。私が直接、さらった相手に吐かせました」

「――そいつはどうなった?」

「私の手で殺しました」

 

 マクソンは満足そうに力強く頷いた。

 ようやく、両者が理解しあえる材料が揃ったと。そう感じたのかもしれない。

 

「君のことを聞かせてもらったのだから、私も私自身のことを聞かせなくてはならないだろう。それがお互いの理解につながると信じている」

「はい、感謝します」

「理解してほしいことは、私はこの連邦に暮らす人々のことを気にかけているということだ。

 さらに君が憎むインスティチュートは、いわばこの連邦のガン細胞といってもよいだろう。彼らは今も存在するが、まさに病巣のそれであり。まだ連邦という表層にまではその姿を現してはいない。

 

 しかしその病は確実にこの連邦をむしばんでいる」

「人造人間、彼らのことですか?」

「そうだ!やつら忌むべき機械人形は、自らの頭で考え、人間のふりをすることは君でもすでに知っているだろう?。

 機械が自由意思を授かるなどという考えは、不愉快を通り越して、極めて危険だと警告せずにはいられない。もはやあれは兵器であり、核兵器と並ぶ危険な存在となっているのだ。

 

 なのに彼らがそんなものを地上に送り出すのは何を求め、何を実験するのか。私には理解できないし、理解しようとも思わないが。ただ一つはっきりしていることは、私がここに来たからにはそんな勝手を許すつもりはないということだ」

「それが連邦に銃を突きつけようとする、あなたの考えなのですか?」

 

 レオの声は穏やかで、しかも力が入っていなかったので人に聞かれても特に何とも思われなかったかもしれない。

 

 しかし、今ここにいるのはダンスを含めた3人だけだった。

 自然、ダンスの背筋に冷たいものが流れる。

 彼には理解しがたい、この瞬間にレオの中の不可解な部分が危険なものを取り出してきたような気がしたのだ。

 

 マクソンの表情に変わった様子はなかった。

 

「君の見立ては正しい。だから非難したくなる気持ちも理解できる」

「本当に?あなたは今、私にこの連邦でインスティチュートを相手に戦争を準備しているとはっきりと告げたのですよ?」

「それが正しいと私も言っている。だがその戦争は我々が主導し、制御する限定的なもので終わるだろう。

 君が見たような、かつての世界を滅ぼすようなそんな無作為の破壊がここでおこることはない」

 

 アキラが聞いたらきっと怒らずにはいられない自信に満ちた言葉だ。

 しかしそれでも、この言葉には説得力が確かにある。

 

「あなたの考えはわかりました。しかし、私があなたのすべてを賛同するのは今の段階では難しいようです」

「当然だな。まだ戦争は始まってすらいない。だがそれでも構わない。君には忠誠心をもとめるが、その対象は別に私である必要はまったくない。

 ただ、B.O.S.のためにそうしてもらえればいい。我々の敵は同じなのだから」

「それならばなんとかなりそうです」

「ようやく同意ができたな。では続いて、改めて君に求めたいものがある。

 この星に対する義務を受け入れてほしい。この状況に変化をもたらすことへの力が必要なのだ」

「義務ですって?」

「どうやら君自身がまだ、気が付いていないようだな。君は連れ去られた子供を探すただの復讐者では、けっしてない。

 

 ダンスの報告書を読んだが、、そこから思うに君はすでにこの道を歩き始めていると、私は確信している。

 それはこの連邦が決めたことでは決してない。君自身がそうさせたのだ」

「――さすがに気のせいではないでしょうか?」

「謙遜は必要ない。

 こうして直接会って、話せば私も君を知ったのだから。

 

 そもそもダンスは私が最も高く評価している戦闘指揮官のひとりだ。その彼が推薦し、すべてをかけて保護しようとしている、今もな。

 これが何よりの証拠だ。彼は実際に君という男を買っているのだ」

 

 会話に参加できない本人が後ろにいて、反応に困っていた。

 

「さて、お互いにとって実りある楽しいおしゃべりの時間だったが。

 私も次の予定があって忙しい。

 

 すまないがここで君たちの次の任務と、そのあとのことについて話したいと思う」

「わかりました」

 

 どうやら互いの情報収集はいったん終わりということらしい。

 

 

==========

 

 

 エルダー・マクソンはまず近況について説明をたじめた。

 

 プリドゥエンにある部隊は現在、ボストン空港制圧の最終段階にある。だが、ここまで時間がかかったことで兵士達が力んでおり、当初のスケジュールの遅れをなんとかしようというまでの余裕はない。

 そこでダンスとレオに、かわりにその余裕になってほしいのだそうだ。ストロング砦のスーパーミュータントを排除することで。

 

「こちらで君が使う新たな完全武装のベルチバードを用意させてもらった。砦の外にいる汚らわしい奴らは、それで簡単に一掃できるだろうと考えている。

 残るは建物内だけだが、修理をしたパワーアーマーがあれば、君達2人でも大丈夫だろう?」

「確かに。あの汚らわしいミュータント共を一掃するのも、簡単なはずです」

「とはいえ、それも今すぐということではない。数日はここで体を休め、これから仲間と呼ぶことになる連中と顔合わせを済ませておくといいだろう。

 頼むから任務に行かせてくれ、などと騒がないでくれよ?あのイングラムが君の熱心さに、ストレスから癇癪を起して私の所に来られては困るのでね」

「わかりました。イングラムとはこの後で話してみます」

「そうしてくれ――ああ、そうだった。砦の攻略の後、の話がまだだったな」

 

 私は神妙な顔をして、耳を傾けた。

 聞けばわずか16歳でこの強大化しつづける組織の長になったという若者だ。

 部下である兵士の間で人気があるのも、その実力の高さを認めさせているからだとわかった。英雄――簡単には口にしたくない存在だが、彼はここの兵士達にとっては正に新時代のリーダーというやつなんだろう。

 

「そのあと?」

「君はこの会見で正直にはなし、私も君にできるだけ率直に意見を述べた。

 だからこれも正直に言うが。この組織では君の評判はあまり良くはないのだ。ダンスや私がたとえ君を高く評価したといっても、全員がすぐにそれを受け入れるとは、ならないだろう」

「そうかもしれません」

「だが、それでは困る。君には我々と共に戦ってもらわねばならないのだから。

 これまでも君には難しい任務をやってもらったが。今回も難しさでいえばそれほど大きく違いはないだろう。私は再び君たちに試練を与えるが、これを君たちは当然のように結果を出してくれるものと信じている」

 

 乗せてきているようだ。根拠が全くない。

 

「だが、この任務は前回とは違う。君もこれまで与えられてきた命令には不満もあったはずだ。

 個人的な理由があって、本心では今すぐにでもインスティチュートと戦いたいと願う気持ちも分かる。だが、ここではこらえてほしい。今はまだ、待つ時なのだ」

「まるでそうすることが私に得るものがある、そう聞こえますね」

「まさにその通りだ。

 君にはこれまでに示した能力と結果に報いるのに十分以上の対価を私は用意するつもりでいる。

 

 まずはナイトの位、そしてパワーアーマーに続き。今回用意したヘルチバードは君専用として使ってくれ。そしてさらに砦を無事に落とした暁には、君を我がB.O.S.の外交特使として任命する」

「外交特使?」

「わかってもらいたいのは、これはあくまでも君がこれからもこの連邦を自由に動けるようにするための地位に過ぎない。

 思うに、君に我々本隊の面倒をこれ以上見てもらうことはなくなるだろうと思っている。だから君は誰の命令を受けるでもなく、ただひたすらインスティチュートへ対処してくれていい。

 また我々に当面、外交の予定はもちろんないことも伝えておく。この意味は分かってもらえると思う」

 

 なるほど。

 私がキャピタルの連中の中に入って、不和をおこされるより。好きにさせて猟犬として、この組織に必要なものだけを手にしようということか。

 

 上司は部下に悩まされることはなく、部下は自分たちの中に異物が混ぜられることに我慢もしなくていい。そしてレオは好きなだけインスティチュートを追うという理屈で、この連邦では戦力と切り離されて歩き回ってもいいのだ。

 

 

「お気遣いに感謝します。では、パワーアーマーの修理が終わり次第、ストロング砦の攻略に出発します」

 

 私が手を差し出すと、マクソンはそれを固く握りしめてくる。

 

「体を休める、ということも忘れないでくれ。優れた兵士は自らを管理することを忘れないものだ」

 

 

==========

 

 

 ハングマンズ・アリーのミニッツメンは厳戒態勢の中で作業を進めている。

 

 レイダーからと思われる警告からすでに数日が過ぎているが、まだなにも起ってはいない。

 しかし立ち並ぶボストンの建物の向こう側から、彼らを八つ裂きにしようと獣のように荒い息を吐き出し。その時を待っているであろう襲撃者達の視線を感じる。

 作業には迅速さと正確さを要求されているが、すでに若い兵士たちは精神が削られ始めていて、冷静さを保つことに必死で士気は下がるばかりであった。

 

 マクナマスことミッキーもついに最悪の状況に備え、サンクチュアリへと援軍を求めるメッセージを送ったが。いくらガービーが有能だと言っても、ここで騒ぎが始まる前に造園の部隊がおくりこまれるなどとはまったく期待できないでいた。

 

 なのに、さらに問題が向こうからやってくる。

 

「ハイ、ミッキー支部長殿」

「――ケイト」

「お仕事が忙しくて、クソ女との関係について考える暇もないのだろうけど。こっちはいい加減、決着をつけたいの」

「頼む、今はそれどころでは」

「今がその時だよ。ここでもうすぐ殺し合いが始まるんだろ?」

「ああ」

「よかった!それは認めてくれるんだね。ところで、あたしもあのデカイミュータントも一応はここの客って話になっているんだけど。あたしたちをあんたはどう考えているのか聞かせてよ」

「……」

 

 ケイトの顔が、これまでになく耐えがたいものを感じていると訴えるようなしかめっ面へといつの間にか変わっていることに気が付いた。

 

「あたしはね、あたしは――もう、振り回されることにうんざりしているんだよ。

 この3年間はコンバットゾーンで生き延びていりゃよかった。苦労してチャンプにもなったし、トミーが口にするような時代が戻ってくれば、あたしだってもっといい目も見れたはずなんだ。

 

 ところがそこを馬鹿共に潰され、トミーには負債だって言われて放り出された。

 それでもまだ求められる場所があるならって、思っていたら。ここでお留守番、もうどれだけ待たされていると思う!?」

 

 それをミッキーに責めるのはいささか筋違いという気がした。

 彼女を引き受けた将軍は現在生死不明、そして彼女は彼の捜索にはどこまでも否定的であったではないか。

 ここに残ったのもそれが理由だった。

 

「あの無責任野郎が生きてようが死んでようがどっちでもいい。

 でもあたしは平穏が欲しくてここにずっと居座るつもりもない。あいつが戻らないなら、こっちも好きにさせてもらうつもりだよ。

 

 ミッキー、あんたいい奴だと思う。

 やってることは間抜けもいいところだし、ちっとも理解できないけど。連中を面倒見るあんたは悪くないよ。男だって思ってる」

「――ああ」

 

 厄介な女性だった。こんな状況にあるのに、それをあえて利用してこちらを振り回そうとしているのだ。

 男だと言われても素直に喜べず。繊細な彼女の満足するものを、自分からも差し出せるのかここで決めなくてはならない。

 

「だから、はっきり聞かせてもらおうじゃないか。

 あたしはあんたをいいと思ってる。そしてあんたは、あたしを欲しいと考えてる。

 あんたがいらないというなら、ここで騒ぎに巻き込まれるなんてあたしは真っ平御免なんだからね」

 

 確かにそれもそうだ、と思った。

 自分にとって彼女はどうあれ、義理もないというならばここに残ってもらうわけにはいかない――。ひとまわり以上も年の離れたこの娘は、何を本当は求めている?

 

「なら、私の話を聞いてもらいたい」

 

 ミニッツメンを理解できないと語る彼女に、それでも伝えねばならない男の物語があるのだと伝えなくてはならなかった――。

 

 

==========

 

 

 これはミッキーというかつてヒーローを目指した男の物語。

 

 ミニッツメンとして戦っていた自分が、ついにそこを離れようと決心したのは。留守がちの夫をまつ妻が、子供が出来たのだと不安に泣きながら訴えられた時。久しぶりに家に戻ったあの夜のことだった。

 すでにその時からミニッツメンは行き詰まりを見せていた。

 

 かつての栄光はまだ消え去ることはなかったが、将軍の不在を良しとする派閥同士のしこりと意識のずれはますますひどいものとなる予感があった。

 象徴的だったのは、一部のミニッツメンが「レイダーと思われる武装集団」を攻撃するべきだと主張し、これで議論が紛糾した時がそれだ。

 過去の栄光も、この組織ではそのうち色あせて消え去る日も来るかもしれない――。

 

 いや、もっと正直になるべきだろう。

 当時のミニッツメンを離れたものの多くは、そんな理由では決してなかった。

 ただ、命の危険に対するキャップでの報酬が、とにかく帰る家族を持つミニッツメンの問題となっていた。

 

 残される子供と家族は、どう暮らしていけばいいのか――叫ぶ妻の声に、義父は目をそらし、私はただうろたえるばかりであった。

 正義では家族を養うことは出来なかったのだ。

 

 私は仲間に倣い。

 ミニッツメンには失望したのだと口にして、レーザーマスケットと帽子を置き。

 小さな入植地で農夫となった。

 

 

 娘が生まれ、畑の収穫が始まると。

 危ういミニッツメンの正義について思い悩むことも、考えることもなくなっていた。

 それでもまだ連邦のどこかでミニッツメンは活動を続けていて、自分はいなくても彼らは大丈夫なのだと、気休めと寂しさを殺してそう思っていた――。

 

 バカだったのだ。

 そんな保証はどこにもないとわかっていたはずなのに。

 

 この連邦に、本当に穏やかで平和な生活が過ごせるはずがなかったのだ。

 時折訪れる商人と語らい、娘が自分たちを認識して話すようになると。妻は息子もいてもいいかもしれない、などと口に出して静かに燻る私を喜ばせようとしてくれた。

 

 私は幸福に溺れ、この連邦ではあふれかえるほど増えていくレイダーについて忘れていたに違いないのだ。

 ある日、あいつらはすべてを奪おうと家族を襲った。

 私もその中に含まれるはずであったが、あの間抜け共はよりにもよって私が留守であることを確認しないまま、それをやった。

 

 だが私の人生が終わったのはそこではない。

 レイダーへの復讐心をたぎらせ、すぐにも私はミニッツメンへと戻ろうとしていた。そこにクインシーの事件が知らされる。

 気が付けば私は希望を失い、死んだ目をしてグッドネイバーにたむろするごみ拾いとなり果てていた。

 

 私は人生の全てを失っていた。愛する家族はもちろん、情熱を傾けてきた正義は汚され。過去の栄光はとうに霞んで消えてしまった。私の人生そのものを連邦が否定したと感じていた。

 

「私は君の愛にこたえるような男ではないんだよ。妻も娘も、結局はこのミニッツメンで掲げた正義以上のものとはなりえなかった男だ」

「だからなによ?それならそれでもいいじゃない。

 とりあえずは私をあんたの女にすればいいじゃない。そうやって利用しても――」 

 

 ミッキーは首を横に振る。

 

「そんな余裕も、時間すらも私には必要としていないんだ。もう義父がいて、妻がいて、娘がいる。彼らの死を私は背負って、だからまだミニッツメンでいられる。

 これでも抱えるのは限界なんだ。さらに君まで背負うような決断を下すつもりはないし。利用なんてことも考えていない」

「それじゃ、どこにでも行けって?」

 

 彼女の声は震えていたが、私は冷酷な男だ。情けのかけらも感じさせぬ事実だけを突き付けることにためらうこともない。

 

「君は私にとって将軍の友人のひとりだ。それだけでいいし、それ以上は求めるつもりはない。君の感情は、どうでもいいんだよ。

 だから君が、本当にこのミニッツメンに価値がないと考えているならば。すぐにここから出ていくべきだと思う」

 

 最低だ、わかっている。

 ケイトも最後には私にかける言葉がなくなってしまったようだ。

 

 だが無言で2人が離れると、彼女は道のわきにひっそりと生きていた雑草にけりつけながら。悲しい声で「畜生、畜生」となんども吐き出していた。

 その背中を私もまた悲しい目で見ているだけだった。

 

 本当に申し訳ない。

 だが、君のような女性には本当に向き合えるだけの男が。まだこの連邦でも残っているはずなのだから。

 私と君との違いは年齢では決してないのだ。

 

 君にはまだ希望がある。残されているはずだ。

 だが、私にはもうこの新しいミニッツメンにしか残っていないのだ――。

 

 

========== 

 

 

 私とダンスは計画を練ると、翌々日の明け方にストロング砦への襲撃を決めた。

 丸一日を休日にあてたのは、エルダーがしきりに勧めてきた体を休めるためというわけではなかった。

 

 ケロッグから戦い続けた私が使っていた銃。コンバットマシンガンとショットガンがついに壊れてしまったことが原因だ。

 当然だろう、年末からこっち。ずっと戦い続ける毎日だったのだから。

 

 すぐにも代価品を求めたいところではあったが、やはりアキラが用意してくれたようなレベルのものは簡単には手に入らないとわかっただけであった。

 

 そんな私の失望を感じ取ったのか、ここで装備を管理するプロクター・ティーガンは秘蔵の品だと言ってミニガンやガトリングレーザーを引っ張り出してきた時はさすがに困惑をおぼえた。

 

 それらは威力こそ十分だが、今回はスーパーミュータントの砦の中を2人で背中を守りあう戦いになる。

 持ち回りの良さと弾の消費を考えれば、このチョイスはあり得なかったので、仕方なく私は新しく5.56ミリ弾を使用するアサルトライフルを求めた。

 

 

 

 

 

 マクソンの任務は想像以上にうまく終わった。

 そして私はなぜエルダーがこの砦にこだわるのか、その理由も知った。

 

 この砦は、かつての時代は沿岸砲台、ミサイル基地、そして最後は兵器開発の秘密部門として研究が行われていた場所であった。

 特にヌカランチャーの開発秘話については興味深く残っていたデータを読ませてもらったが、戦場の兵士たちはそんなものを生み出した兵器局を「あいつら狂ってやがる」と話していただけあって、開発には尋常ではない犠牲者を生み出していたことが分かった。

 

 そしてそれに使われる弾頭の多くがこの砦の倉庫に今も眠っている。

 これにはさすがに私も顔色を曇らせてしまったのだが。それを見て、ついにダンスが怒り出してしまった。

 彼は私に自分についてくるように命じると、道を戻って倒れているスーパーミュータントたちを顎で指し示した。

 

「この場所をよく見てみろ。そしてこいつらを見ろ。

 お前も私と同じように、このおぞましいスーパーミュータント共を憎むべきなんだ」

「何を怒っているんだ、ダンス?」

「それを君は私に本気で問うているのか!?」

「――ただ、エルダー・マクソンに命じられた任務を終えただけだ。ただそれだけだ、私にとっては」

「成程な。兵士として、B.O.S.流に対処してくれたというわけか。涙が出るほどうれしいね!」

「ダンス――」

「レオ、お前は認めるべきなのだ。人類は常に後先を考えずに歩き出しては、しっぺがえしに大きく後退するはめになるものだとな。このバケモノはそれを教えてくれる一つの例に過ぎない」

「それはもう、マクソンにも聞かされたよ」

「なら君はそれを正しく理解するべきだ!

 この狂気とは、我々はキャピタル・ウェイストランドでも何年も戦い続けてきた。ついに我々に優勢になったと思ったその瞬間に、新たに人造人間があらわれた。勝利は再び遠くへと消え去ってしまったのだ」

 

 今日はやけに饒舌だ。

 怒りの勢いを借りているのか、次々と熱い言葉が彼の口から飛び出してくる。

 

「君だって知らないわけではないだろう。知識人などと自称する連中が生み出したあのスーパーミュータントは、人々に何をこれまでしてきたのか。私はそれを直接この目で見たことだってある。

 だからこそ、この人造人間共の脅威がさらに激しいものとなったときにどんな悲劇がおこるのか。奴らがそのために何をしでかそうとするのか。

 自分がそれを正しく想像できていると、君は本当に思っているのか?」

「そんなこと、私は別に言ってはいない」

「では、わかるだろう?奴らは邪悪な存在なのだ。人間に成り代われるのだから、人間は必要ないと考えている。君も恐れているあの最終戦争が、また繰り返されるにちがいないのだ。

 そうなればどうなる?すべてが終わってしまうだろう、我々B.O.S.はそんな未来を真剣に憂いているのだ」

「わかったよ、ダンス。どうしたんだ、冷静さを失うなんて」

 

 突然こちらを責め始めたダンスに私は驚いていた。どうやら彼は、これまでの私の態度になにか気に入らないものを感じているのだと、ようやくそれを理解した。

 

「……いや……お前をうんざりさせるつもりはなかったのだ。表現も過激になっていたな、気にしないでくれ。

 ただ、わかってほしいだけなんだ。お前がB.O.S.に捧げる忠誠は、決して個人の欲望や恣意的な富の独占などにつながるような小さな話ではないということを」

「その割には、ずいぶんと非難をされたようだったが?」

「――実はずっと気になっていることがあった。

 アーサーはお前と会って何かを理解したといったが。お前の方は何か感じるものがあったのだろうか?

 それを、この任務に入る前にあらかじめ話しておくべきだったのだと、先ほど思ったのだ。話してくれるだろうか?」

 

 感受性が人より強いのだろうか?

 時々だが、ダンスの態度に違和感を覚える瞬間がある。今も怒り出したかと思えば、いきなり冷静になってすぐにでも話し合おうとこちらに要求してくる。

 

「隠しているわけではないが、アーサーを英雄視するものは仲間にも多い。本人はそれを喜んではいないが。とにかく君は、彼に何か思うものはなかったのだろうか?」

 

 私は本当はダンスが私のマクソン評をそれほど聞きたがっているとは思わなかった。

 むしろ別の疑問の答えの手掛かりを得ようとして、あえてこの問いを口にしたのだろうと予測した。つきあってみるとわかったが、彼は意外と素直に過ぎてバレバレであることがあった。これもそうだ。

 

 なので私はそれに気が付かないふりをして、ダンスに付き合ってやることにした。

 

「熱い男のようだ。若いとは思えぬ言葉は重く、責任を負うことへの役割を十分に理解している戦士の顔をしていた」

「もちろん当然だ。彼がこれほどのB.O.S.を作り上げるのに、どうして責任を負わずにいようなどと考えるはずがない」

「武勇伝でも、聞かせてもらえるのかな?」

「そんなつもりはないさ。だが、ここまでくるのに我々はただ戦いに勝利し続けたというだけではないのだ。

 それ以前には誇りを失い、終わりの見えない暗く厳しい道をあえてこの兄弟たちに共に歩ませようとしていた指導者がいた。アーサーは立ち上がった時、それでも我々はすぐには絶望から逃れられるとは考えられなかった。

 だがそれは間違いだった。それを成し遂げたのが、エルダー・マクソンなのだ」

「別に私はB.O.S.の正義に疑問を投げかけるつもりなんてないよ、ダンス。ただ、それでも目にすれば平静ではいられないものがあるというだけだ。君の反応は、少し神経質すぎると思う」

 

 ダンスはため息をついた。

 私に指摘され、自己嫌悪にかられているようだった。

 

「そうかもしれない、ありがとう同志よ。確かに私は、冷静ではいなかったことは認めないといけないようだ。我々は任務を果たし、核弾頭の安全を確保したわけだし」

「そうだ。その通りだよ」

「ではお前は先に戻って、アーサーと話すべきだろう。彼にしても一刻も早く、お前の口から任務成功の報告を聞きたいに違いないからな」

「――お目付け役は、お役御免ということか?」

「そうは言わないが。お前だって私がそばで目を光らせているのは、落ち着かないこともあるだろう」

「お別れか。寂しくなるな」

「別に寂しく思う必要はないさ。私はこれからもお前のメンターであり続けるのだから。私の力が必要と思ったら、呼んでくれるだけでいい。どこにいても、私はきっとお前の隣へと駆け付けよう」

 

 私はどうやらB.O.S.で友人を得ることが出来たようだ。

 




(設定)
・ネライヤ
ゲームでも登場するちょっとマッドっぽい人。
DCのラボにも同類がいるが。こちらは理性的な分、怖い。「血は持ってきた?」と毎回、顔を合わすたびに要求してくる。

・若い頃、酒の勢いに~
主人公が男女違っても、同じ答えを口にする。
タランティーノ風に下品なバージョンを書きたかったけれど。おもしろく、下品ってなかなか難しい。

・ストロング砦
説明のほとんどは本分の通り。
ゴミ漁りに夢中になって、うっかり奥の部屋まで行ってしまうと。そこに並ぶ回収できない弾頭の山を見せられ、この先の展開に不安になれる場所。

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