次回投稿は明後日を予定。
マクドナウ市長の思惑に乗って、ミニッツメンへの攻撃を決定したのは5つのレイダー集団。
彼らは互いに同じ目的を持って動いていることを知ると、面倒なことに同盟関係をそうそうに構築してしまった。
年明けからのわずかひと月余りの間にも、連邦内での混乱は加速を始めたことを彼らは肌で感じており。
同時に最近は立て続けに災難(原因、主人公関係者)が続いていて、名を挙げたレイダーたちが狩られていることから、自分がその空席を埋める絶好のチャンスだと、皆がこの計画に乗り気になっていたのだ。
一方、それを迎え撃つのは将軍の客人2名(?)と。
支部長マクミランが率いる12名の若きミニッツメン達である――。
ここでハングマンズ・アリーについて今一度確認しておきたい。
そもそもここは、このボストンに今も残る堅牢な高層建築を左右に置いた路地裏でしかなかった。
だが大きくないレイダーの集団は、この場所の空間と資源の拡張性を犠牲にしたとしても十分に我慢できる要害の地だと見抜いたことが誕生につながった。
実際、レオもここは囮を用意したうえでパワーアーマーを用いた奇襲作戦でもって制圧に成功したが。それまでは誰もここに手出しをすることは出来なかったことは。彼らの見立ては正しかったといえる。
さらにアキラはこの場所を蜂の巣をイメージした完成図を見事に描いてみせた。
3ヶ所ある出口のうち一つは封印され、残りには見張り台を設置。
さらに整備用の器材やプランターでの作物などに加え、1階には食堂と客間が壁で区切られることなくそこに存在していて。兵士たちはたいがいはここで自由に時間を過ごしていた。
向かい合う建物にはそれぞれ階段が用意され、そこから2階から上にのぼれもするし、この階段を引き上げて登ってこれなくすることもできるようにしてある。
2階と3階の半分は兵士たちの居住空間で、正方体の個室では寝床をはじめとした家具と2枚の扉で一応はプライバシーの尊重は許されてはいたが。それが並んで長方体となっているせいで、兵士として階級の低いものの部屋は常に目の前を仲間たちがズカズカと足音を立てて歩くので、逆に心が休まることはなかったかもしれない。
3階には他にサンクチュアリのレッドロケットと同じように、支部長の個室と作戦室が用意されている。
ここでは階級の高さと、政治的な必要性から部屋は広々と(縦に長いが)空間が使われていて、誰にも聞かれたくなかったり、見られたくないときにも使えるように華やかに絵や電飾が配置されていた。
4階は防衛時に拠点に侵入してきた者達をここから見下ろす形で迎撃するために必要なものがすべて揃っており。同時に両側にそそり立つ左右の建物の屋上へと出られるように足場が用意されていた。
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襲撃予告から5日、マクナマスと兵士たちはよくやっていた。
防衛力をさらにつけるために、与えられていたキャップを使い切る勢いでマシンガン・ターレットを10台もかき集め。ここに配置することに成功。
また、半月は立てこもることが出来る程度には弾薬と食料もなんとか運び込めた。
だが、そうした頑張りの代償として。ついに彼らの緊張と疲れはピークに達しようとしていた――。
1月末、それは妙に多くの霧がかかった早朝のことである。
見張り台に立つミニッツメンは、疲れからついつい立ったままで舟をこいでしまう。
そんな時、霧の中を建物沿いにしゃがんでにじり寄ってくる。ムカデのように並んで進む、レイダー達がいた。
彼らの手にはそれぞれが物騒にも近接戦闘を想定したレンチやハンマー、パワーフィストなどを装備している。
このまま奇襲で一気に勝負を決めてしまおうという魂胆なのだろう。
彼らはついに気づかれることなく見張り台の足元にまで到達する。ここからもうひと頑張り必要だが、それだけの価値はあるのは間違いない。
まずは頭の上でのんきに舟をこいでいる奴を黙らせ。続いて寝床でまだ夢を見ているであろう兵士たちも、さっさと始末してしまえばいいのだ。
これがうまくいけば、2時間と立たずにこの場所は再びレイダーの拠点として生まれ変わることになる。哀れにも眠ったまま戦うことなく死んだミニッツメンの敗北という笑える結果と共に。
だが――。
「っ!?」
「オ前ラ 何シテル?」
「ス、スーパーミュータントだとっ!?」
見張り台の奴を処理してやろうと裏に回るレイダー達は、そこに腕を組んで壁に寄り掛かり。舟をこいでいるミニッツメンの見張りの背中をじっと観察(?)していたストロングと鉢合わせしてしまったのだ。
一瞬の驚愕が生み出した空白の時間。
ここから一番早く反応したのは、霧の向こうで地面からさっと立ち上がり。そこから飛び込んでくるなり先頭のレイダーの頭部にスレッジハンマーを振り下ろして最初のひとりを地獄に直行させたケイトであった。
彼女はこの襲撃を予想したわけではないが。
ストロングに合わせるように寝起きは出入り口の近くで横になり。なにがあってもすぐに戦えるよう、常に武器をその手に握りしめていたのである。
「ほらほら、あんた達!お客様がいらっしゃったよ!」
頭蓋にめり込んだ金属塊を、強引かつ乱暴に足で蹴飛ばすと。続けて2人目の犠牲者へと飛び掛かる。
やけに手慣れた殴り殺し方を見せる女の登場からレイダー達もすぐに立て直そうと頭を切り替えようとしたが。ケイトの言葉で、目の前の人間は壊しても良いと判断したらしいストロングは、素手で相手を掴み上げ。四肢のどれかを、その暴力的な筋肉だけを用いて文字通り”引っこ抜く”という荒業を始めたことで、うまくいかなくなる。
「このあたしが、あんたらに情けをかけるなんて。まさかそんなわけがないさね」
「ケイト!ストロング チョー楽シイ!」
こうしてレイダーの親玉達は自分たちのもっとも楽なやり方が失敗したことを知る。
送り込んだ7人の潜入部隊は、半数を失って無様にも命からがら逃げかえってきてしまった。
「この腰抜けヤロウがっ!」
「――で、でもよ。ボス」
「やかましいっ。てめぇらがノコノコ泣いて戻ってきたせいで、この俺が――」
よりにもよって武器を投げ捨てて戻ってくるなどという醜態をさらした自分の部下に罵声を浴びせようとしたボスのひとりであったが。言葉が終わる前に、後ろから出てきた別のひとりがいきなり帰った3人を撃ち殺してしまい。「なにをしやがる!」と叫びそうになって、必死にそれを飲み込んだ。
他の4人のボスたちの目が、怒りと嘲笑を込めた目を彼に向けられていることに気が付いたからだ。
奇襲に失敗したのは、まだいい。
それが仲間を見捨てて、命からがら逃げてきましたなどと。この始まったばかりの”ミニッツメン全滅祭り”でいきなりやられては、士気にかかわるというものだ。
「ああ、そうだ。簡単じゃなかったな、奇襲には失敗した……まぁ、ちょっとくらいはハンデをやったってことで。俺達がやることに変わりはない――そうだよな、皆!?」
レイダー達の咆哮は、冬のチャールズ川の冷たい風であってもかき消すことはできない。
彼らの2回戦はそうしてすぐに開始される――。
暴力への興奮と怒りの声と共に2か所の出口にレイダー達が殺到するが。それを迎え撃つのはミニッツメンのレーザーマスケットと10基のターレットであった。
この激突はすぐにダイアモンドセキュリティにも察知され、マクドナウ市長の元へと報告が行く。
「そうか、レイダー共がね。ミニッツメンも大変だろう」
「ええ、彼らは大丈夫でしょうか。市長?」
「はっはっは、なに。心配はいらないさ、あの最後のミニッツメン。プレストン・ガービーの率いるミニッツメンだよ?ここに住む我々のためにも、彼らはきっとこの恐ろしい対決に勝利してくれるものだと。この私は、すでに確信している」
マクドナウ市長はそういってセキュリティや町の住人達には笑顔で語ったが。
自分の美人秘書にだけは、この戦闘でミニッツメンが勝っても――負けても、すぐに発表できるようなコメントを考える様にと指示を出した。
「私は有能な政治家だからね。こうした現実には、厳しい未来も予想しておかなくてはならないんだ」
そう語るマクドナウの顔は、先ほどと変わらぬ余裕を感じさせる笑みをたたえていたという――。
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時間はここで巻き戻される――。
マクドナウ市長の黒い思惑で放たれたコメントは、瞬く間にボストンに知れ渡ったが。その勢いは衰えることなく、数日を待たずしてサンクチュアリにまで達していた。
最後のミニッツメン、プレストン・ガービーも、当然だがそれを耳にした。
だが、残念なことに彼は善人であり。自分の選んだ人物への信頼は思った以上に高いものだったせいで、すぐには信じようとはしなかった。
(なんて噂だ、彼もうまくやってくれているだろうか?)
事情を知っていれば、これは頓珍漢な考えではあるのだが。
旧ミニッツメンでは自分と違って長く部隊を率いた経験もある男に託したことなのだ。すでにグール追放などという、物騒なイベントを扇動してその地位を得た男を相手に、どうやりくりしているのかと気の毒にさえ思っていた。
その顔が青ざめたのは、町でばらまかれたというそのコメントが印刷されたビラを訪れた旅の商人から突きつけられた時である。
市長とひきつった笑みで写真を撮られ、あきらかにレイダーなどを刺激する言葉がこれでもかと市長のコメントとしてそこに記載されている。
それはミニッツメンを復活させた者たちが最も恐れたことであり。
あってはならない事が、すでに行われていたことが記されていた。
ガービーは自分がこの情報に真剣に向き合わなかったことと、託すべきではない人間を自分が選んでしまったという大きなミスに絶望しかける――。
「なんてことだ、なんてことだ!」
ガービーは自室の扉を蹴り開けると、己の無能さに怒りを感じながら必死に冷静になろうとしてレッドロケットのガレージへと階段を下りていく。
「整備班!リッチー、リッチーはどこだ!?」
「……うるせぇよ、なんだよ。いきなり?」
ガレージの中で所狭しと並ぶT-45 パワーアーマーの足元にうずくまる男は、不機嫌そうな声を上げた。
リチャード・サルディーノこと、このリッチーはミニッツメンでは整備を取りまとめている人物である。
29歳のこの始終不機嫌そうなコーヒーを思い起こさせる南米の熱い血を持つ若者は、今のミニッツメンでもひと際変わり者として有名なエピソードをもっている。
なんとこのサルディーノ、半年前まではあのハイテク・レイダー。ラスト・デビルに所属していた人物であった。
とはいえ、彼は別にレイダーになりたかったわけではない。
子供のころから外で遊ぶよりも大人の仕事場で機械油に触れることを喜んでいた彼は、ある日レイダー達にさらわれたことで人生が一変する。
周囲が圧倒的な暴力と体を破壊しかけるほどの薬物の魅力に犯されていく中、彼はレイダー共の便利屋として使われるようになる。それからの20年余り、彼の人生は『食べる、寝る、仕事する。「うるせぇ」と言って時間を稼ぐ』こと以外をしなかった。
それがある日、いつも面倒な仕事を押し付けてくる連中の要求から、いやいや外に連れ出され。挙句に襲撃に失敗したとわかると、彼をおいてさっさと逃げてしまう。
リッチーはそんな仲間の背中を見て決断したのだそうだ。
ある朝、レイダーそのまんまの姿で彼がレッドロケットに姿をみせると。
リッチーはガービーといきなり話をしたいと要求し、ライフルを構えたミニッツメンの卵たちを前に動じる様子は微塵もなかった。
「何をしに来た、レイダー?」
「俺はリッチーだ。お前が最後のミニッツメンとかいう奴か?」
「……プレストン・ガービーだ。確かに、お前の口にするような呼ばれ方をするときもある」
「そうか。なら、お前は俺をミニッツメンにするんだ。お前はそうするべきだ」
「――なぁ、それはもしかして俺に命令しているのか?レイダーのお前を、俺達の仲間にしろって?」
「飯を食わせろ。寝る場所もいる、あと仕事もな。俺は賢いから、役に立つぞ」
不遜極まれり、とはこのことだろうが。
しかしガービーはここまでの会話の中で、リッチーに普通ではない空気をまとっていることを敏感にかぎ分けていた。それはアキラをしっていたからわかることなのかもしれない。
このリッチーの世界は恐ろしく小さく、そして美しいほどにシンプルだ。
飢えも渇きもなく、自分の仕事ぶりだけに満足する。彼にとって人生とはそれですべてになっているのだ。
気の毒ではあったが、だからこそガービーはそんな彼を受け入れようと考えたのである――。
「会議をやる。すぐに来てほしいが、その前に聞きたい。パワーアーマーは何台出せる?」
「……ない。ここにあるのはメンテ待ちだけだ」
「緊急の事態なんだ、リッチー。すぐにパワーアーマーが必要だ。彼らには昼夜を問わずに南下して、ボストンまでいってもらわなくちゃならない」
「だから、ない。一台も」
実際に目の前でパワーアーマーをいじってもこの回答である。しかし、ガービーも彼の扱い方はそろそろ覚えてきていたので、別にかんしゃくを起こしたりはしない。
「それは、まだ調整中だという意味だろ?」
「そうだ」
「動けばいい。そんなのでも必要なんだ」
そこまでいわれると、リッチーは作業をようやく止めて立ち上がり。自分のボスであるはずのガービーに不機嫌なツラを見せつけるように向き合ってみせた。
南米の血を感じさせる顔立ちだが、そこに彼らにあるような熱だけがバッサリと欠けている。表情にはどこか幼さが残っているのか、なんだかまだ成人すらしていないような若々しさがあった。
「なら、調べる。会議室で」
「ああ、そうしよう」
ガービーはホッとして、背中を向けた。
やるべきことは山ほどあるというのに、こんな時にまたトラブルとは――。
だが、急がなくてはならない。もしも万が一にハングマンズ・アリーを失えば、そこを手に入れた将軍やアキラにガービーはどんな顔をしてそれを伝えたらいいのだろう。
(腐るな、ガービー!まだ終わったわけじゃない)
そしてプレストン・ガービーはピンチの時はさらに頼もしい男となれる人物だ。
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サンクチュアリのレッドロケット・トラックストップこと、ミニッツメンの仮本部3階では、ガービーによる作戦会議が緊急で始まった。
冒頭でまずはガービー自身の謝罪がされた。
「まず、皆に俺は謝らないといけないだろう――数日前、ボストンから流れてきたあの噂のことだ。
皆はアレを不安に思っていたが、俺はそれを噂と断じて信じようとはしなかった。そうだ、間違った処理を選んでしまった。
おかげで今、ここでこうして真っ青な顔で皆に頭を下げなくてはならなくなった。
だが、認めないわけにはいかない。
これは俺のミスだ、指揮官のミスだ。すまない――」
だが、そんな真摯なガービーの姿勢をミニッツメンの仲間たちはどうでもよかったようだ。数少ない幹部候補から声が上がる。
「そんなことはいいです、ガービー」
「いいです、って。いや、それでは――」
「噂でしょ?それが本当だった。なら、そっちが重要じゃないですか」
「俺にとってうれしい言葉ではあるが、テリー。これはそういうことじゃないだろう?」
「あたしらにとっちゃ、そういうことです。アンタ、真面目すぎる」
ミーシャ・ネイト――こと、テリーは元は傭兵であった。
彼女の両親は小さな傭兵団を運営していたが、テリーが30歳の時。後継者争いが起こってしまい、両親は彼女を拒否したので腹を立てた彼女は傭兵団を抜けて独り立ちをする。
といっても、彼女は両親のようにかのガンナーの如き軍隊を自らの手で生み出し、運営しようとは考えなかった。
それよりも戦闘技術の習得と、それを生かすために戦い続けた青春。そこで刻まれた体中の醜い傷跡に後悔して。数年を無為にバンカーヒルのクソ商人どもに奴隷のようにこき使われながら嘆いていた。
だがいまはミニッツメンとして、ここにいる。
「それでどうします?あっちに援軍を出しますか?」
「ああ、そのつもりだ」
「支部には新兵が多い。間に合いませんよ、きっと」
「まだわからないだろう?それに、その部隊は俺が自ら率いるつもりでいる」
「……」
ガービーの覚悟に、思わずテリーは口を閉じると。不愛想な目の前のリッチーの顔をちらりと見た。
なのにその男は不機嫌そうなまま、なんだか今すぐにでもガレージに戻りたそうな表情をしている。
「まずは確認させてくれ、リッチー。パワーアーマーはどれだけだせる」
「2台、動かせる」
「ソレでは意味がない。最低でも6人は欲しい」
「塗装も処理もしていないのが2人分、これ以上だと途中で壊れるかもしれない。無理なんだよ」
「あの話が事実だったとわかった今、最悪。ミッキーたちはボストン中のレイダー共を相手にしているかもしれない。それにパワーアーマーを着た2人だけでは、戦力ですらないぞ」
ガービーは嘆くように最高を求めるが、リッチーはない袖は振れないと首を縦にはふろうとしない。
北部を徐々に手を伸ばしている今のミニッツメンは、その道中で何台もの戦前のパワーアーマーを回収していた。
とはいっても、ひどいものなら200年前でも未完成品であったアーマーがほとんどだ。そんなものを、いきなり実践に投入するというのは、なるほどやはり正気の軍人の考えることではない。
「俺の留守の間は、テリー。君が部隊の面倒を見てもらいたい」
「ええ、それはかまいませんが。こっちはアンタがしているようにはできないよ」
「レキシントンのレイダーどもは、最近フェラルが活発に活動しているせいでそっちに気を取られている。それに、グリーントップ菜園への入植も完了して一段落ついたばかりだ。大丈夫だろう」
「うーん」
「問題が起こるかもしれないが、君は兵士たちに好かれている。十分に対処できる、俺が保証してやるよ」
「確か、将軍の客人を呼んでましたよね?だいぶ時間がたっていますが、アンタが出て行った後に来たらどうします?」
「そうか、それもあったな――出発までに対応を考えるよ」
「ヨロシク」
リッチーはこの会議で初めて鼻をすするという行為で参加した。
やはりガービーは援軍を自ら率いていくことをあきらめてはいないと理解したのだ。それならば――。
「ガービー、あと2台」
「用意できるのか?」
「そうじゃない」
「?」
「引っ張り出してくれば使える。すぐにでも、最高のやつが」
「――あれのことか」
ガービーの顔が歪んだ。
このミニッツメン復活に必要だったロブコ工場襲撃の際、将軍とアキラが使った彼らのパワーアーマーは今もここで眠っている。とはいえ、アレは彼らの資産だ。
パワーアーマーがここへ集まってくるまでは、ここで借りて使ってはいたが。今はミニッツメンでもパワーアーマーを何台か確保することが出来たので。丁重に修理され、しっかりと地下室で管理されていた。
リッチーはそれを使えばいい、といっているのだ。
「あれは将軍達が善意でこちらに貸し出してくれた私物だぞ」
「まだ借りている。それでいいだろ」
「――仕方ないな」
ガービーはこうして増援を決定したが。皮肉にもそれはハングマンズ・アリーへの攻撃が開始されてから2日目のことである。
パワーアーマーで昼夜を問わずに南下したとしても、ここからはさらに数日間を必要としていた――。
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完ぺきではなかったが、それでもここは頼もしい要塞であったのだとミッキーが喜んでいられたのはレイダー連合からの3回目の攻撃をしのぐまでの話であった。
攻撃をはねのけられ、成果が見えないことにいら立ったのか。レイダー達はついに本気を出してくる。
2か所ある出口を猛然と攻撃を加えつつ。ここが陥落した原因となった、並び立つ両方の高層建築の外の壁をよじ登ろうと試みてきたのだ。
もちろんこの攻撃は想定されていたものだったから、ミッキーは数名を屋上へ送り込み。
壁にボストンのナメクジのごとくへばりついた彼らを地面へと叩き落してみせる――。
だが、その最中に屋上から攻撃してくるミニッツメンに気が付いたレイダー達は。強引にグレネードや火炎瓶を投げ込むことで反撃してきた。
それらはほとんどが全く意味をなさなかったが、ただひとつだけが防衛する2人のミニッツメンの足元を転がって、止まってしまった。
最初はひとりではなく、ふたりから失ってしまったのだ。
そこから2日はにらみ合い続き、7回目まで連続で攻撃が繰り返されると。3人が流れ弾で負傷し、ひとりは出血が止まらなくて命を落とした。
(俺達は良く戦っている。よく戦っているんだよ)
ゆっくりと近づいている限界と絶望にミッキーは歯を食いしばることしかできなかった。
さすがのあの押し包むかのような強烈な攻撃はむこうにも被害が多かったらしく、さすがに連続では攻めてこないが(されたら耐えられたかわからない)、外となかでにらみ合って撃ち合ってもこちらに勝利が近づいているとはちっとも感じない。
どうやらむこうは、こうやってにらみ合うことで我慢比べをすることも考えているのかもしれない。
兵力差なんて10対1どころか、それ以上かもしれないのだ。
こちらはずっと緊張にさらされて撃ちあいを演じるしかないが、向こうは大勢のレイダーを交代で攻撃に回すやり方ができる。
こちらの物資が尽きるまで撃ち合うのが先か。その物資が尽きる前に消費する人間がいなくなるのが先か。
とんだロシアン・ルーレットをやっているということか。
「ジリ貧だな、クソッ」
「えっ?なんですか?」
「――寝ぼけて泥を味わってた、なんでもない」
「さすがですね。俺なんかはもう、眠れたら食わなくてもいいって気分です」
「……そうだな」
「ガービーは来てくれますかね?」
「必ずな。知らせはもう、サンクチュアリにも届いているはずだ。今だって――」
3階の覗き窓に若い部下と並んでそうやって小さな声で話していると、建物内を移動する気配を感じた。
あの勇ましいハンマーから2連ショットガンに持ち替えたケイトが弾薬箱をさげてやってきたのだ。
「補給のお時間ですって。坊や、缶詰も持ってきたから他の連中にも配ってきてよ」
「――わかりました、それじゃ」
兵士は気づかったのか、品物を受け取るとマクナマスとケイトを置いてすぐにその場から立ち去ってしまう。
あの日以来、マクナマス支部長はケイトと2人で会話することを避けてきた。
女性に「あなたとなら、なにかある」と告白されたことはうれしいとは思う反面。こんな状況であったとしても、こうして2人でいることは彼女をまた勘違いさせるのではないかと恐れる自分がいる。
「――苦しいよね?あたしたち」
「ああ、わかってる」
「助けは、来ない?」
「仲間のことは信じている。このことを知れば、ガービーは決して見て見ぬふりをするなんてことはしない」
「それ、泣ける。あたしらの葬式の心配だけはしなくていいってわけね」
皮肉の笑みを浮かべ、憎らし気に返す彼女だが。
なぜか今は、それが弱々しく見えた。
「……君は立ち去ってもよかったんだ、ケイト」
「へぇ、フッタ女の心配でもしてくれるんだ」
「本当にそう思った」
「手遅れだよ」
「それもわかってる――それでも、だ」
彼女は若い、自分とは違うのだ。
愛する家族を理由にしてかつてのミニッツメンには背を向けたくせに。
それを連邦に、レイダーに奪われれば都合よく復活したミニッツメンに戻って再び正義のために奉仕している。
再トレーニングでは、ガービーはミニッツメンは戦士でもあるが正義の証人でもあるのだと口にしていた。
武器をとれ、抵抗せよと合言葉のように口にしていた以前のミニッツメンからは考えられない教えであった。
そしてそれがガービーとミッキーとの大きな差でもある。
ガービーは新たな将軍を立て、正しくすべてをかけてこのミニッツメンを復活させてきていた。
だが自分はどうだ?
本性はあまりにも醜い。復讐心で頭がおかしくなりそうなのに、まだ外面を取り繕ってそれを隠せているだろうかと不安におびえている。
マクナマスは――ミッキーはそんな自分の本性をあのケダモノどもと同じくらいに憎悪していた。
だがそんな男に、ケイトは口を開く。
「フゥ、そりゃ。出ていこうとは考えた。でも――」
「あのスーパーミュータント?」
「ストロングね、フフフ。緑で、キモイけど、あいつはいい奴だよね」
「君がアレとロボットと鍋を囲んでいたのを最初に見た時は、衝撃だった」
不思議と自然と笑うことができた。
「ンフフ、あの時はここは不機嫌なだけの牢獄だって思ってたけど――」
「今は違うのか?」
「――どこにもいくところなんてないんだ。ミッキー、あたしわね。そういうクソッタレな女なんだよ」
「……」
「コンバットゾーンも、ダイアモンドシティも、グッドネイバーも嫌い。向こうもあたしを嫌ってる。名前を変えたとしても、あたしがいまさらなにもなかったかのように農家とか、退屈なことは出来ないのさ」
「――ケイト」
「それにっ、ストロングだけここに置いて行っても。それはそれで、迷惑だったんじゃない?」
自分が抱きしめるだけでも、今の彼女には何かの慰めになれるのだろうか?そんなことを考えても、それは出来ない。
「ケイト、私は君が好きだ」
「えっ、今更?」
「本気だよ。人として君が好きだ、本当だ」
「あ、ありがとう――服、脱いだほうがいい?」
苦笑いしてしまう、そうじゃないんだよ。
「いや、やめたほうがいい。空気が壊れる」
「そうだよね。わかってる――」
「君のことが好きだから、友人として忠告させてほしい」
「?」
「信じなくてもいい……だけど夢と希望だけは、それだけはちゃんと持っておくんだ」
自分はそのどちらも失ってしまったのだ。ミニッツメンでいるのも、ただレイダーという存在への憎悪が必要だから。
そう続けようとした――。
ケイトはいきなり吹っ飛ばされていた。
床の上を転がりながら、それが直前まで優しい目で語っていた男が。いきなり自分を突き飛ばしたのだと理解すると、怒りがわいた。
だが、顔をあげて怒鳴り声を上げようとした時。もっとひどいことが起こったのだと、思い知る。
ホコリ、破片、衝撃。
それらが空間を埋め尽くしていて、自分もそこにいれば無事では済まなかったのだと理解した。
「なんだ!?」「上だ!侵入されてるぞっ」
兵士たちの声で視線を動かすと、たしかに建物の屋上の隅に。ミサイルランチャーを抱えた、たった一人のレイダーが大喜びで次弾を発射しようと準備していた。
だがケイトはそいつに構わず、マクナマスを探す。その間にも、ミニッツメンはレイダーに攻撃を仕掛け、2発目の発射を阻止していくつもの熱線が人体を粉にまでかえ、建物の間をぬける冷たく、そして火によって熱い風がそれを吹き飛ばしていく。
「どうやってここに!?」
「クソ、入口から入ってきたんだ」
「何を言っているんだ?」
「これだよ」
レイダーのいた場所に調べに来た兵士たちは、侵入経路を理解し、絶望した。
そいつはステルスボーイという、使用することで光学迷彩めいたフィールドを発生させる装置をもっていたことがわかったからだ。
そしてそいつは任務に成功した、この場所を防衛するために必要な存在を……。
「チクショウ……生きてるだろ、ミッキー!?」
「ああ」
声は帰ってきたが、安心など到底できる状態ではなかった。
一発のミサイルは、見事に狙いを外したが。それでもマクナマスの左足をみごとに吹き飛ばし、目的を果たそうとしていた。
防衛側の指揮官、暗殺。
レイダー連合はついにそれをやり遂げようとしていた。そうなれば、あとは数で押しつぶすだけ。
「大丈夫だから。片足はなくなっちゃったけど――あんたは指揮官だろ。命令できればいい!」
「ああ、そうだな」
マクナマスも自分の状態を理解していた。
ケイトがジャケットを脱いで必死にそれで足の出血を止めようと試みているが。今の自分に必要なのは清潔な手術室と、医者、多くの薬品と静かな時間がすぐにでも必要な状態なのだ、と。
そしてここは戦場で、その全てがないのだ。
数分で意識を失えば、それで自分は終わってしまう。
「縛ったよ!すぐにあんたの部下が薬品山ほど抱えてくるから、しっかりして頂戴」
「ケイト」
「大丈夫、皆ついているから。あんたの仲間たちがさ」
「無駄だよ、私は助からない。それより聞いてくれ、時間がないんだ」
「ふざけんなよ!あんた、ここで先に死んで楽になろうっていうのか!?」
「頼むよ。後任が――頭が動かない。誰だったか」
「知らないよ!あたしはミニッツメンじゃない」
「そうだ。とにかくここを放棄して、脱出を図るんだ。奴らは追ってくるだろうから、簡単ではない。でも、ガービーが。彼ならきっと――」
いきなりマクナマスの身体から力が抜け、意識を失う。
ケイトは慌てるが、気が付いてしまった。彼の尻の下に、いつの間にか流れ出た血が池を作り始めている。どうやら足以外にも、激しく損傷していた傷口があったようだ。
「そんな、ミッキー!?」
自分の魂が口から出ていくような感覚にケイトは崩れるように座り込んでしまう。
だが、悲しむ時間さえ今は彼女に許されてはいない。
「攻撃だ、クソっ!スーパーミュータントがっ!」
こんな状況で、恋愛ドラマの皆に愛される女のようにさめざめと泣くタイプの女では自分は決してなかった。
「馬鹿ばっかりがノコノコと。いいよ、皆ぶっ殺してやる」
呪いの言葉を吐き捨てると、力強く立ち上がる彼女は振り返ることなく騒ぎの聞こえる方向に駆け出していく。
意識を失ったマクナマスはひとり、静かにいびきをかけ始めていた。
覚めることのない真っ暗な夢の中を進む彼には、この現実の厳しい状況に苦しめられることは。もう、ない――。
(設定)
・整備班(ミニッツメン)
リッチーをいれて5名がいる。主に武器とパワーアーマーの面倒を見ている。
前線で戦うことはないが、レッドロケットなどで戦闘があれば。彼らも銃を手にすることになっている。
・テリー
30代後半の美人ではない女性。
日に焼けた白人であり、髪はブラウンで、さっぱりと短くしている。
ミニッツメンには珍しく、オリジナルの10ミリ弾をつかうサブマシンガンを持っている。形状はドイツのMP40を思わせる。
豊富な攻撃、防衛、警護などの任務に加え。交渉技術も有しており、ガービーの新兵訓練に特に役に立っている。
引退生活を正しくするために、ミニッツメンに入ったとは彼女の言葉だが。一応は幸せな結婚生活を夢に見ているようで、見合い話を欲しがっている。