ワイルド&ワンダラー   作:鷹雪
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次回は30日を予定。


右へ 左へ そして元へ (LEO)

 ダイアモンドシティ近辺の情勢は、混迷を極めた。

 ついに均衡が破られようかという瞬間に、新たな参加者が名乗りを上げたのである。

 彼らはスーパーミュータント。

 このボストンを中心に存在する、生きた災厄ともいうべき種族。

 

 この激突が始まった時、当然のように彼らはそれを理解したが。それがここまで来るのにこれほど時間がかかったのには、理由があった。

 何と彼らは「どう戦うか?」で相談をし、意見がまとまらずに無駄な時間を過ごしてしまったが。ついに闘争本能のうずきに耐えられなくなり、爆発した結果こうなったのである。

 

 そう、彼らは多くの時間を仲間たちと共に考えていたのだ。

 

 満足することのない食欲と闘争本能から、知性のない存在と信じられている緑の巨人たちではあったが。彼らはそれでも戦いを前にして仲間たちと戦術を練るだけの思考力を、ちゃんと備えていた。

 

 とはいえ、これは戦っていた両者にとってはなんにせよ迷惑な話であった――。

 

 

 それはまるで陸に押し寄せる波際の様子を思い起こさせた。

 激しく入口に向かってきたレイダー達がいきなり攻撃を停止したかと思うと、しばし無音の状態となる。

 ミニッツメン達はこれまでと正反対の状況に戸惑いつつも、何が来ようともここは死守するぞと改めて心に誓ってはいたが。

 

 勇ましい咆哮から「そらきた」とマスケットのレバーを握っていると、あらわれたのが人ではなかったと驚いた。

 その揺らぎは火力にも反映されてしまったらしい。光弾のいくつかは目標をわずかにそれると、壁や地面に炸裂し。火花を散らした。

 

 そしてレイダー達と違い、中にまで侵入してきたスーパーミュータントは「食ッテヤル、ニンゲン!」と、彼らの前に立ち。凶悪なボードをめい一杯に振り上げてみせた。

 

「ソンナノ駄目、ストロング 許サナイ!!」

 

 反対側から突如現れたストロングはそう叫ぶと、手にしたライフルを振りかぶってかつての仲間たちに襲い掛かる。

 隆起する暴力的な筋肉が躍動し、勝負がつくのに時間はかからなかった。

 殴り合いから背後をとると、ストロングはあっさりと同族のその太い首を両腕でもって締め上げ、粉砕した。

 

「気ヲ抜クナ!オ前達、守ッテヤル」

「あ、ああ。ありが、とう?」

 

 言われた方のミニッツメン達は顔を見合わせ、こんな絶望的な状況の中にあってもまだやれるのだと互いの苦笑した顔を見合わせていた。

 

 

 レイダー連合は思わず背後に出現したスーパーミュータントたちと2正面戦闘は避けたいからと、あっさりとひいてはみせたものの。

 わずかに遅れて伝えられた潜入工作がどうやら大成功だったようだとの知らせを聞いて、慌てる。このままでは勝利じたい、緑の巨人たちに奪われかねないが。かといって部下にただ、突撃しろと命じたとしても。そいつらが真面目に戦うのか信じきれない部分があった。

 

 指揮官無きミニッツメン。

 暴走するスーパーミュータント。

 勝利を目前にして、変化に戸惑いをみせるレイダー連合。

 

 ハングマンズ・アリーは宴もたけなわ――まさにそんな状態にあった。

 

 

==========

 

 

 それは海へと続くチャールズ川を両岸にかけられている崩れかけた高架橋の上を越えると、今度は川に沿って低空を高速で移動していた。

 

「ランサーより搭乗者へ。ヤンキー03は、このままのルートを進みます。目的地まであと4分といったところです」

『了解だ、ヤンキー03。君たちの勇気に感謝する』

 

 野太い男の声で感謝言葉が返ってくると、パイロット――B.O.S.ランサーは口元に笑みを浮かべて気軽に会話を続けようとする。

 

「パーティ会場の送り迎えは慣れたものです。せっかくですから、追加注文があれば言ってください」

『――申し出に重ねて感謝する、ランサー。状況がはっきりしていないのでまだはっきりと断言はできないが。君たちが参加してくれるというなら、指示を送ることにする。それでどうかな?』

「いいですね。そういうのは嫌いじゃないです。

 明日には同僚に今日のアンサンブルは最高だったと自慢できそうです」

『それはよかった。だが間違っても落とされて、最悪のコンサートにだけはしないでほしい』

「わかりました。任せてください」

 

 先ほどと違い慇懃さよりも、フランクな会話が行われる中。

 コクピットの左側に、あのダイアモンドシティの照明が見えてくる。

 

「アプローチまで残り30秒、ご武運を!」

 

 返事はなかったが、ランサーの背後から複数の駆動音が聞こえてくる――。

 

 

 戦意旺盛なスーパーミュータントたちの突入は、数日間にわたって鉄壁の守りをみせていた2ヶ所の入り口をついに突き破ってみせた。

 一階部分はすでに侵入者たちに踏みしだかれており。

 残り少ないミニッツメン達は上層に移動することで抵抗を続けてはいるものの。地上でこの場所の次の管理者が決定してしまえば、もはや彼らの運命は決まったも同然であった。

 

「ケイト、ストロング。マダ戦エル!邪魔 スルナ」

「一時休憩ってだけだよ。いいから座れ、この筋肉バカッ」

 

 険しい顔をして彼女はスーパーミュータントを押さえつけている。

 常に前線で楽しそうに戦っていたストロングのおかげで、ミニッツメンはこれほど絶望的な状況の中で全滅を免れてはいた。とはいえ、もはや無傷の者はいないし、戦闘参加を求められない重症者もいる。

 

 このストロングも同族たちに囲まれて袋叩きにされ、ついに地面に膝をついた。

 それを見たケイトは慌ててミニッツメンを2人引き連れ、嫌がる本人の尻を蹴飛ばしてここまで上がってこさせたのである。本人はこんな状況でも「死ぬまで戦え」といえば、喜んでそうするのだろうが。

 

 まだ、その時ではないのだ。

 きっと――。

 

 彼らの希望はこの瞬間に音を立ててへし折られることになった。

 最後のターレットは地上からの砲火にさらされ、火を噴くと停止し。蜂の巣を支える建物の支柱に衝撃が加えられた結果、4階建ての部屋が徐々に傾き、崩れようとしていた――。

 

 

==========

 

 

 コンバットゾーンのショーは、クソみたいなものだった。

 

 トミーや出演者たちは不愉快な思いを隠しては、馬鹿共の騒ぎの後を掃除し。

 わずかな報酬と慰労を兼ねて、商品である酒を殻にしてやろうとおとなしくグラスを空にする作業に没頭していた。

 

「お前には才能があるとわかってたさ、チャンプ」

 

 一度だけあのトミーがその席で自分をそう褒めたことがあった。

 その時は彼に憎まれ口をたたいてしまったが、嬉しかったので今でもちゃんとそのことは覚えている。お前は輝く照明の下で、男たちに称賛を受けるべき存在だ、などと言っていたっけ。

 

 

 ケイトは男たちが自分の名前を叫んでいるのを聞いて、ぼんやりとそんなことを思い出していた。

 ハッ、と音高く息を飲み込むと。自分の状況を再確認する。

 

 傾いた建物から地上へと投げ出され、呑気にボーっとなっていた。

 

「チクショウ!なんで、こうなるっ」

 

 ハンマーもショットガンもない。

 だが彼女の顔が真っ青になったのは、別の理由からだ。

 

 なにもない自分のそばに、暗殺されてしまったあのミッキーの遺体が転がっていたのを見てしまったからだ。

 恋心のようなものをもっているなどと伝えたことで、彼は先に旅立った死者の列から自分を招いているのだろうか?

 「こっちにこい」と、「共にこの道を歩こう」と――。

 

「女だっ、殺せっ!!」

 

 舞い上がるホコリの中で発見され、レイダー達がケイトに向かって殺到しようとしていた。

 

 

 眼下の光景はまさに戦場のそれといっていいだろう。

 しかし私の心に不安はなかった。

 それどころか(そういえばこういうのは、前もここでやったな)などと考える余裕すらあった。

 

 B.O.S.のベルチバードは橋に集まるレイダー連合の頭上を飛び越えると、ハングマンズ・アリー直上へと一気に到着。

 軍人の流儀の悲しさか、私のやり方はここでは変わることはなかった。

 

「ではいこう」

「騎兵隊は到着した、だな」

 

 ベルチバードからパワーアーマーを着たまま飛び出すと、みるみるうちに地上がこちらへと接近してくる。視覚の面白さだ。

 身体にかかる衝撃はアーマーが吸収する。立ち直った私は、こちらを茫然と見るケイトに軽口を叩いた。

 

「反撃の時間を知らせに来た。さぁ、ここからなにもかも叩き出してしまおう」

「――お前、ぶっ殺してやる」

 

 たぶんだが、それは彼女なりの「了解した」って意味だと。私はそう考えることにする――。

 

 

 レイダー連合の5人のボスたちは真っ青になっていた。

 スーパーミュータント共を押し返し、ミニッツメンの連中を八つ裂きにするのも見えてきたと思ったのに。

 そこに現れたのがベルチバードとパワーアーマー。あれは間違いなく、あのB.O.S.に違いなかった。

 

「あ、あれはなんでここに!?」「ミニッツメンは奴らと組んだのか?」「いや、ここを奪いに来たのかも」「あいつらは空港にいるだけじゃ満足しないのかっ」

 

 彼らの動揺は攻撃中の部下達にも伝播し、全体の動きが鈍くなるところをベルチバードのミニガンが「自分たちは君たちの敵です」とメッセージを伝えるように火を噴く。

 チャールズ川沿いの通りを滑空するヘリから飛び出す火線が、レイダーもスーパーミュータントも区別なく、どちらも肉片にかえていく。

 

「兵士達よ!我々に続け!」

 

 そう声を上げるレオとダンスは、あっという間に侵入者たちを2つの出入り口の外まで押し返してみせ。その姿に勇気づけられたミニッツメン達は、気力を振り絞って地上へと飛び降りると元の配置へと戻っていこうとする。

 

「随分とカッコよく登場したじゃない。それで許されると、本当に思っているのかしら。お偉い将軍様?」

「ケイト、ジャケット姿もよく似合っているね」

「ハァ!?……覚えてなさいよ、マジで殺してやる」

「それは困るな。では、汚名を挽回しておこう」

 

 この流れは決定的だった。

 まるで生まれ変わったかのように、攻撃を恐れずに立ち続ける2代のパワーアーマーは頼もしく、そしてなによりも強靭であった。

 そうして防衛側が息を吹き返すと、状況を再び5分5分の状態にまで引き戻してみせたが、攻撃する側は混乱を始めていて。再攻撃など望めるような状態ではなくなっていた。

 

 そして彼らはそれを見逃す軍人ではない。

 

 レオとダンスはミニッツメン達にその場を任せると伝えると、ワークショップのわきに置かれていた古めかしい金庫の前に立った。ケイトはついてきているが、彼らがなにをしようとしているのか理解できてはいない。

 

「なんなの?」

「――向こうの連中にもう帰ってくれと伝えても、素直には言うことを聞いてくれないだろう。なのでそうしてやる理由を与えてやるんだ」

 

 金庫を開けると中に置かれた部品を取り出しては、レオはダンスに渡していく。

 ダンスはそれを手にすると「なるほど」とだけつぶやいて、黙々とそれらを組み合わせていく。

 

 徐々に姿を現すそれは、最終的には2門のランチャーへと姿を変えていた。

 

「ケイト」

「なんだよ?」

「これで戦闘は終わる。安心してくれていい」

 

 自信に満ちたレオの言葉に、ケイトは一瞬だけ顔が歪んだように見えた。

 

 

===========

 

 

 レオの予言は正しかった。

 戦闘はいきなりにして終決する――。

 

 レイダー連合の中にお返しだとばかりにダンスの放つ数発のミサイル弾が撃ち込まれる中、ジェット音を響かせてジャンプするB.O.S.パワーアーマーは呪わしいその武器を構えて狙いを定める。

 

 目標はレイダー連合のボスたちがいると思われるあたり。

 レオはアーマーの下のピップボーイにVATSを作動させると、この攻撃の命中率は20%を低空飛行するような数字しか表示されないが。今ならばそれでもかまわない。

 

 次の瞬間、不気味な飛来音を響かせた一発の弾頭は。

 コモンウェルス工科大学へと続く道の上に落下すると、計算された地獄の炎で作り出された火柱を立てる。

 これを見て悟ったのだろう。

 レイダーもスーパーミュータントも、太陽が昇る前の夜空のように。炎が消えるころには、静かに音もたてず、ボストンの町の中へ戻っていく。

 

 

 

 降りてくるベルチバードを待つ間、私はダンスと改めて別れを告げていた。

 

「なかなか、刺激に満ちたミッションだったんじゃないか」

「楽しんでもらえたのなら、よかった。ダンス」

「――なぁ、君はもしかして。彼らの仲間であったのか?」

 

 B.O.S.には嘘は言わなかったが、ミニッツメンの将軍であることは黙っていた。

 

「彼らのボスが、ガービーというのだが。私の友人なんだ」

「なるほど」

「友人の部下達が苦しんでいて、それを見て見ぬふりはしたくなかったんだよ」

「軍人が個人の感情に振り回されるようではいけない――なんてことは、君にはわかっているのだろうな」

「しかし戦場に友をおいてはいかない――。難しいものさ」

 

 互いに頷きあい、握手を交わす。

 私は少し、B.O.S.に近づきすぎてしまったのかもしれない。

 

「何度も繰り返しているが、私は――」

「プリドゥエンにいて、力が必要であれば声をかけてくれ。わかってるよ、ダンス」

「移動には引き続きランサーに協力を頼めばいい。遠慮はいらない」

「ありがとう。エルダー・マクソンにも改めて感謝を伝えてくれ」

「ではしばしの別れだ、友よ」

 

 ダンスを乗せたベルチバードは飛び去って行くまで見送ると、振り向く私の背中に冷たい目を向けていたケイトがいつの間にか立っていた。

 

「それで?ミニッツメンの将軍様は、あのキャピタルのクソッタレと友情を温めあっていたってワケ?」

「……ケイト?」

「アンタは好き勝手にあたしらを放り出してどこかに消えたと思ったら、生死不明だと大騒ぎになって皆を動揺させるだけじゃ飽き足らず。

 あんた自身の部下たちを、ミッキーを――『彼らはガービーっていう僕の友人の部下なんだ』って口にしてみせたじゃない。

 こんな――っ!?」

「今はそこまでだ、ケイト」

 

 怒る彼女にはそう言って、私はその横を素通りしていく。

 言われなくともこれがどれほど卑劣な態度であるのかは自分自身が分かっている。

 

 だが、それらについて取り組む前に。

 私がミニッツメンや仲間たちのためにしてやれることが、まだあるのだ。

 

 

==========

 

 

 ダイアモンドシティでは、マクドナウ市長は冷静になろうとして、自室でお茶を楽しんでいた。

 あのやかましかった戦闘音がぱったりと止んだあたりで、改めてセキュリティに命じてあの不愉快な場所へと斥候を送り出した。

 なのにあれから数時間過ぎても、まだ報告がないのだそうだ。

 

「……まったく……セキュリティのだらしなさには、我慢がならん。いやいや、落ち着け落ち着け」

 

 余裕を自ら失ってはいないと、自らを戒める市長だが。

 ミニッツメンとかいう連中がまだ生きているかどうか、ただそれだけを確認することさえも満足できない人間達に対する怒りは、隠し通せるものではなかった。

 

「人は政治家を信用するのはなぜか?

 マクドナウ、お前は知っているだろう。自信に満ちて、誰もが認める誠実な人柄と力強いリーダーシップ。そして汚れの一つもない、イメージ。

 それが重要なんだ。たったそれだけで、ここでこうしてお茶を楽しめる」

 

 もう一口、まだ駄目か?

 茶の苦みが不快に感じ、もっと甘さが欲しいと心が欲求の叫びをあげている。なのに秘書が部屋に入ってくると、うかがってきた。

 

「市長、よろしいですか?」

「なにかな?今、お茶の時間だが」

「わかっています。それが――」

「おお!セキュリティの報告なんだね?

 よかった、ずっと気になっていたんだよ。

 我々の平和なダイアモンドシティのすぐそばで!あんな恐ろしい戦闘が昼夜といわずに続いていては、この町の善良な人々も怯えて仕方がなかったからねぇ」

「いえ、違うのです。それが――」

 

 訪問者を告げようとする秘書の背後に、無礼な男が立っていた。

 レイダーのように改造された衣服を身に着けた男。だが、記憶では以前はVaultスーツを着た賞金稼ぎではなかったか。

 彼はそっとではあったが、しかし立ちふさがることを許さぬ力強さを見せつけ。秘書を自分のわきへと押しやると、勝手に市長の前までやってきてしまう。

 

「やァ、ひさしぶりですね。マクドナウ市長」

「おっ、お前――ああ、君は確か。その……?」

「とぼけなくてもいいですよ、市長。あなたは優秀な人だとわかっていますからね」

「は、ははは。ありがとう、そう言ってもらえるのは。素直に喜ぶよ」

「ええ、でしょうね。

 ですからあなたが心配して送り出したダイアモンドセキュリティの警備の人の報告だけでは足りないだろうと思いましたから。私が直接、あなたに報告しに来ましたよ」

 

 

 戦闘が終了すると、レオは素早くまだ体を動かせるミニッツメンに命じ。

 ハングマンズ・アリーへと様子を見に来たセキュリティーの人間を確保するように命じていた。

 

 囚われたセキュリティは、丁重に扱われ。

 レオが自ら戦闘終結の証を見せるという名目で、壮絶な戦闘跡が残る玄関口や。わざと一か所に集めて山と築いたレイダーやスーパーミュータントの死体の山を見せつけ。

 雑談などと称しては、マクドナウ市長の思惑を聞き出し。わざとゆっくりと、そして突然にダイアモンドシティへと面会に訪れたのである。

 

 

 いきなりペースを乱されたマクドナウ市長は激しく動揺してしまい。頭の中は真っ白になっていたが。

 ここからすぐに立て直してくるであろうことは、レオにもちゃんとわかっていた。

 

「ああ、それでは――まずは席にどうぞ。たしか、そう。あなたとは――」

「そういうのはやめましょう。すでに何度か顔を合わせていますし、いまさら自己紹介しあう間柄ではないでしょう」

「え、ええ。そうでしたな。確かに、そうだった」

 

 しばし沈黙があり、秘書がレオの茶をもってきた。

 悪夢のような既視感がある。

 

「それで、今日は?」

「――この数日はずっと間近に聞こえたのではないですか?」

「つまり、それは?」

「もちろんレイダーたちのことです。ミニッツメンが相手をした」

「ええ、ええ!そうでした。我々もどうなるのだろうと不安におびえ、復活したばかりのミニッツメンの皆さまの無事を祈っておりましたよ」

「そうでしょうね」

「ああ、本当に申し訳ないと思っているのです。我がダイアモンドセキュリティも、自分たちのこの平和を守ることで手いっぱいでありましたから」

「そのようですね」

「ははは……それで、今日は?」

 

 レオはおもむろに茶をすする。

 会話のテンポを崩し、わざと核心について触れることを避けているのだ。

 

「マクドナウ市長は大変だ。守らねばならないこの町の近くであのような騒ぎがあれば、不安だし。それがいきなり静かになっても、やはり不安だったのでしょう?」

「ええ、まぁね」

「セキュリティの人が近くをウロウロしていたのを見つけましたから。私が連れてきましたよ、心配はありません」

「そ、そうでしたか。色々とお世話をおかけしたようだ」

「ええ、ですからね――」

 

 私は浮かべた笑みを崩さないまま、背をそらして椅子にもたれながら。衝撃の一言をさきほどから調子のいい相手の顔に投げつけてやった。

 

「我々があなたのダイアモンドシティを、守ってさしあげましたよ」

「……なにを、いっているのかね?」

「おや?忘れましたか?これはあなたが言ったことじゃないですか」

 

 ポケットの中からたたまれた紙には例の文言が大きく載せられている。

 

「ミニッツメンは文字通り命を懸けて、”ダイアモンドシティを襲おうとしたレイダー達”を無事に町に近づけることなく撃退しました。ご安心を」

「ああ、そのようだね。嬉しいニュースだ。

 しかし、少し認識に違いがあるようだね。襲われたのは我々ではない。君達、ミニッツメンがレイダー共に襲われた、の間違いだろう?」

 

 私は首を横に振る。

 

「マクドナウ市長は、どうも考え違いをされているようだ。なので、教えて差し上げますよ」

「ほう!面白い、何かな?私が、このマクドナウが何を考え違いをしていると?」

「ミニッツメンが戦うのは、この連邦で力なき人々のためです。”それ以外にはありえない”のです。

 今回、我々がなぜ戦ったのかと問われるなら答えは一つ。このダイアモンドシティのためですよ」

「はっはははは、すまない。

 だがね、悪いが戦闘はこの町で始まったわけではない。君たちの――」

「そうです。ミニッツメンが”この町のために”作った砦で戦いました。つまり我々はあなたを、あなたの町を守ってさしあげたのです。その理由以外に、ミニッツメンが土地に執着する理由はないのです」

 

 市長の顔が引きつるが、それでなんとかこらえているようだ。

 

「……そういうことか、なるほど。それならば礼を言わせてもらう、ありがとう。

 ところで先日、ここに訪れた司令官はどうなされたのかな?」

「死にました。激戦だったのです、当然でしょう」

「それはそれは。今日、初めて耳にする悲しい話になってしまった。お悔やみを申し上げよう」

「どうも」

 

 そこで2人の口が閉じられ、無言の時間が続いた。

 

「……それで?他には何かな?私はこれでも忙しい――」

「マクドナウ市長」

「まだ、なにか?」

「あなたは今、ここで交わされた会話を前回と同じようにすぐに発表されたほうがいいでしょう。ミニッツメンはダイアモンドシティを”約束通り”守った。市長は町の住人を代表して、そのことに感謝をしている、と」

「何を馬鹿なことを!私の町はそんな――」

「バカをしたのはあなただ、市長!むしろこれはあなたのために言っていると、なぜわかってもらえないのか?」

「何だって!?我々が、我々の町が。ミニッツメンの私闘に巻き込まれるわけにはいかないっ」

 

 私はついに仮面を取り去ることにする。

 目つきは自然と鋭くなり、怒りと殺意のこもったソレを市長に容赦なくぶつけていく。空気が変わったことを理解した、マクドナウの顔から血の気が引き。真っ青になって震えはじめている。

 

「ぼ、暴力をふるおうなどと――」

「忠告しよう、マクドナウ。今、私に向かって口にしたようなことをこの部屋の外でも歌うつもりなら。あんたの未来はひどく暗いものになるだろう、ということを」

「き、脅迫か!?」

「いや、こちらの予定表を聞かせているだけだ。

 今回のマクナマス司令官の死は、レイダーとダイアモンドシティの間に協定のようなものが結ばれていたと思われる証拠が発見された。連邦最大で最高のこの町に、レイダーの関係者が潜り込んでいることは。この町の平和に危険を及ぼすことは間違いなく、ミニッツメンはこれの捜査に入る、そう発表されるだろう」

「アンタ!な、なにを言っている?」

「まずは当然のようにダイアモンドセキュリティに捜査の協力を求める」

「馬鹿な!?ミニッツメンはこの町を占拠するというのか?」

「今回と同じ理由で、ダイアモンドシティとその住人達を守るために必要なことを我々はするだけだ。そう、事件の真犯人がわかるまで」

「そうか!それはいつわかるのかね!?」

「落ち着くんだ、声が外に聞こえてしまうぞ。それに質問がまた違うだろう。あんたは”誰が犯人だ”と聞くべきだ」

「なにっ、それはっ、つまり――」

 

 ヒエッと市長の喉が鳴る。

 

「私が、犯人だというのか」

「断言はできないな。しかし、事件の始まりと終わりで発言を真逆にし。騒ぎのさなかでセキュリティには近づかないように徹底させ。我々の司令官を苦境に立たせた男は誰かと考えたら、この瞬間にあっても一人しか思いつかないかな」

「――なぁ、君。私が悪かったよ。お互い、冷静になろうじゃないか」

「いいですよ、マクドナウ市長」

 

 しかし私は立ち上がる。

 

「ど、どうしたのかね」

「帰ります」

「なにっ?」

「最初に言いましたよ。私はここに皆さんの勝利を伝えに来た、とね。

 だから賢明なあなたは、この後すぐに町の住人達になにが起こっていたのかを説明することになる。正義の勝利とこれからも平和な日々が続くことに喜び、勇敢なミニッツメン達を称えるのです。

 彼らはこの町のために必要な決断を迷いなく実行したあなたを誇りに思うでしょう」

「う、ううむ」

「なんなら、このことを理由に町がミニッツメンの活動に参加することを発表してもらってもいい」

「それはっ――それは、少し待ってもらいたいな。ここは連邦でも最大の町なんだからね。人々の意見をまとめるのには、まだまだ時間がかかるんだ」

「――いいでしょう。そのことはまた別の時にでも、改めて話しましょう」

 

 レオが姿を消すと、市長はひとりで自室に残っていた。

 

「なんて、なんてあくどい奴らなのだろう!ミニッツメンだと!?レイダーとなんら変わらないではないかっ」

 

 自分がしたことなど綺麗さっぱり忘れたかのように、マクドナウは自分たちの町の平和を――自分の立場をかすめ取らんとする邪悪な者たちの存在があることをそれからしばらくは呪っていた。

 

 しかしその数時間後。

 いつものように広場で、ご機嫌の市長は演説を行っていた。

 平和な日常の中で、知らないうちに自分たちは恐るべきレイダーやスーパーミュータントらに勝っていたのだと。福福しい笑顔で、市長はそれを口にしていた。




(設定)
・パワーアーマー
レオはなんとジェットパックつきのパワーアーマーで帰還を果たした。


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