サンクチュアリがにわかに賑やかになって、1週間が過ぎようとしている。
「よし、アキラ。こいつをやってみろ」
『了解』
T-45パワーアーマーでつぶれた家屋に距離をとると、そこからダッシュからのパワーアタックを青年は豪快に決めてみせる。潰れた建物は悲鳴を上げ、ひしゃげ、吹き飛び、破壊された。
「もっと前方に体重を持っていけるぞ。次は恐れないで、もっと体ごと突っ込め」
『はい』
パワーアーマーは私とプレストンで回収してくると、今は立派に土地整備の役に立ってもらっている。
そのついでにと、こうしてアキラにもパワーアーマーの使い方を教えることにした。もともとこの機体自体が一番広く配備されたものとあって、パワーアーマー操作の基礎を学ぶのにも適していた。
若者があっという間にコツをつかんでいく姿を見ると、自分の新兵だった頃を思い出し。知らずに笑みが浮かんでくる。
現在、サンクチュアリは食糧問題に不安がまだ残っているものの。近づいている冬の寒さと、新たな入植者のために、アキラが発案した大きな集合住宅の建設にとりかかろうとしていた。
彼の言葉を借りると、この居住地を充実させるには人がもっと必要であり。彼らに呼びかけたとき、防衛と安全を最低限保障せねばならない。
そしてそんな新しい仲間を、スタージェス達は受け入れられるようにするには共同生活が一番。
プレストンと私は同意した。
遠からず、私は息子を探すためにここを発つ予定だった。それは今すぐか、もう少し先かの違いでしかない。
そしてプレストンにしてもそれは同じだった。
彼は崩壊したミニッツメンを復活させるつもりだ、と。すでに口にしている。
このサンクチュアリが落ち着いたと確信ができれば、彼もここを離れるつもりなのだろう。
ところが――。
「なぁ、ちょっといいかな?」
「プレストン?なにか用事が?」
「これから話せないか?2人だけで」
「――いいよ。アキラ、パワーアーマーは……」
「パワーアーマーステーションへ、ですね」
「そうだ。行け」
アキラと別れ、プレストンに並んでサンクチュアリの大通りを歩き出した。
ここに来てからずっと天気がよい。おかげで空気が若干乾燥しているようにも思うが、それほど文句はない。
この場所も当初、目にした廃墟からゆっくりと整備が進み。あの時代とは比べ物にならないが、再び町としての息吹を取り戻そうとしている。
そしてそれは遠い話ではない。
「なんだい?」
「ああ――ママ・マーフィに聞いたんだ。あんた、もうすぐここから出て行くつもりだって」
「それは――ちょっと違う。
旅に出ようとは思ってる。外の世界について、私はあまりにも物を知らないからね。危険だろうけれど、しばらくは近くを中心にこの連邦とやらを見て回るつもりだ」
「……そうか。もう決めちまっているんだな」
「どうした、プレストン?」
数日前に知り合ったこの新しい友人は、困った顔をしたまま口を開く。
「そういうことなら。あんたに、ひとつ頼みがあるんだ。是非、引き受けてほしい」
「ん?」
「俺はミニッツメンだ。この地で、いわれのない暴力に苦しむ人々を助けることが使命なんだ。だが組織は今や風前の灯ってやつさ。残っているのは俺一人だけ。できることも多くない」
「……」
「本当は俺が今日にでもここを離れようと、考えていた。
ここまで俺が導いてきた彼らは入植を始めたが、まだどうなるかわからない。それでもほかの居住地では俺のような男に、ミニッツメンに助けを求める声が、すでにある。それを無視はできない。
彼らには個人的に思いいれもあるが、永遠には一緒にはいられない。だが、あんたやアキラがここにいるならとそう思っていた」
「何が言いたいんだ?」
「取引――といえるのかな。とにかく、あんたはこのあたりを見て回るつもりなんだろう?それなら、俺に変わって彼らの声に耳を傾けてきてもらえないだろうか?」
いきなりの申し出に困惑を覚え、眉が跳ね上がってしまった。
プレストンの真意がわからなかった。
「そのかわり、といったらおかしな話だが――その間、俺はこのサンクチュアリの面倒を見ておくつもりだ」
「……」
「どうだろう?駄目だろうか?」
「なぁ、プレストン。なにが目的なんだ?よく、言っていることがわからない」
「――アキラのことだ。レオ、彼もあんたと一緒に連れて行くつもりなのか?」
痛いところを突かれた。
ショーンをさらった奴等を追う――どう考えても安全な旅にはならない。
私と違い、過去の記憶のほとんどを失ってしまった彼は気の毒ではあるが。コンコードでの経験から、まだ銃を満足に使えない彼を私の復讐に巻き込みたくはなかった。
それにまだ若い彼なら、ここで始まる新しい生活から人生をはじめたほうがいいに決まっている。
そう、あの戦場から戻ってきた私とは違う生き方を――。
「彼は――連れて行くつもりはない」
「そうか。その方がいいだろう、あんたもその方が安心できるだろう」
「――ん」
「なら、このことを考えてほしい。俺とあんたは同じ状況の中で身動きが取れないでいる。だが、あんたが決断してくれれば俺はここに残れるし。あんたは今日にだってここを飛び出していける」
「え、今日!?」
「事態はそれぐらいせっぱ詰まっているということだ。俺もあんたも、このままだと当分はここから出て行けなくなる。なってしまう――大きな声では言えないことだがな」
私は確かにサンクチュアリに思いを残してはいる。だが、それだけだ。
ここに連れて戻ってしまったアキラをのぞけば、今いる彼らにはそれほどの思い入れをもっているはずもない。
だが――。
「言いたいことは、わかった。引き受けよう、プレストン。
そのかわりに私は午後にはここから出発できるようにする」
「ありがとう。感謝する、レオ」
「これも貸しってことになるな、プレストン」
笑いながらプレストンと硬い握手を交わす。
本当を言えば、引き受ける理由はなかった。
だが、私には別にここで一日一日を穏やかに過ごす訳にはいかない理由があった。なにもわからないでいるアキラを、あの青年の近くにいることは奪われたショーンを忘れさせようとしているようにも感じている。
ずるいと責められても仕方ないが、確かにプレストンはひとつだけ正しかった。私はただ一人この場所から、あのアキラから解放されたかったのである。
旅立つ準備といっても、自宅に残っていたもので持っていくものはない。
コズワースと亡き妻のホロテープ、そしてピップボーイくらいか。コンコードで回収した、レザーベルトなどのアーマーを身につけながら、銃の確認もおこなう。
Vaultで回収した10ミリピストルと、レイダーから取り上げたショットガン。
「レオさん?」
「――ああ、アキラか」
戸口に立つ若者に一瞥しただけで、私は準備に戻る。
今、この若者とはあまり長く話したくはなかった。せっかくチャンスが転がってきたのに、引き止められては困るからだ。
「すまないが理由があって――」
「聞きました。急いで出発される、と」
「ああ、そうなんだ。作業を抜けることになるが――」
「コズワースも連れて行くんですよね?」
「それは――」
「アキラ様、このコズワースは旦那様の力になりたいのです。
この危険な世界を旅するというなら、なにができるとは申しませんが。全力で、ワタクシは旦那様のサポートをしたいのでございます」
「そうだね。君が一緒なら、レオさんも安心さ」
もしかしたら行かないでくれと縋りつかれるんじゃないか。そんなことも考えたが、アキラはしっかりとしていた。旅に出る私を止めるつもりはないようだった。
「実は出る前に、これを見てほしいんです。使えそうなら持って行ってください」
そういうとアキラは後ろから何かを取り出してくる。
「僕の10ミリと、レイダーが使っていたパイプ銃を改良してみました」
「アキラ!?」
「使い物になりますかね?」
改造が入った10ミリはトリガーが軽く、グロウサイトが加えられ。銃身はロングバレルに変更されているようだった。手先が器用ではない、そう言っていたが素直にそれを信じる気にはなれない素晴らしい出来栄えだった。
一方、パイプ銃のほうはフルオートで発射できるように手が加えられ、弾倉もドラムマガジンが用意されていた。
「アキラ、これは――」
「レオさん、僕だってわかってます。あなたは別に自分の親でも保護者でも、なんでもないって。一緒に連れて行ってほしいとか、置いていかないでくれとか。みっともないまねであなたを困らせたりしません。
なめないでください」
「――ああ、すまなかった」
私はアキラのこの贈り物を素直に受け取ることにした。
このサンクチュアリに手を入れたように、彼にも彼なりの考えがあるらしい。見送りにサンクチュアリの出口で別れる際、数日中にあのVaultに戻って。調べたいことがあるのだ、と口にしていた。
私は「そうか」とだけ口にして、アキラをしっかりと抱き寄せた。
彼は彼で、悩み。そしてこの途方もない世界でどう生きるべきか、すでにちゃんと考え始めていたのだ。
私が彼に感じる印象はここ数日、ころころと変化を繰り返しているが。思えばそのどれもが、彼への視線をおかしくしていた私自身のせいではなかったのかと、考えることもできた。
「しばらくしたら戻るから。その時に、またここで会おう」
「はい、レオさんも、コズワースも。気をつけて」
こうしてついに私は、アキラと別れ。サンクチュアリをあとにする。
思えばこの瞬間に、私と彼の運命は決まってしまったのかもしれない……。
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前と同じように、私はコンコードまで出てきて廃墟の中で一泊すると。そこから道沿いに沿って東を目指した。
話によると、サンクチュアリからさらに東にある丘の上に居住地があり。そこがミニッツメンに救助を求めていたらしい。
だが、プレストンはそこで「とはいっても」と続け。逃亡していた時に風のうわさで伝え聞いたことなので、現地では思いもよらない不測の事態がまっているかもしれない。接触には気を使ってくれと釘を刺されている。
サンクチュアリを出てから3日目の昼。
十字路で私は、意外な存在と対面した。年は40後半にも見えるが、中年の細いなで肩が印象に残る女性だった。
バラモンとかいう2つの頭を持つ奇怪な牛に多くの荷物を載せて歩いている。
「おや、まぁ。こんなところで人に会うとわね。旅行者かい?」
「そんなものだ。ここから東にあると聞く居住地を目指しているんだ。知っているかい?」
「ああ、そこなら知ってる。商売仇のなじみだからね」
「商売?」
「ああ、そうさ。商人だよ。ほかに何に見えるんだい、Vault居住者?カーラだよ、覚えておいて」
「そうか。商品はあるのかな?」
サンクチュアリから多めに持ってきた浄化水をキャップに変えつつ。できるだけ自然に会話からなにがしかの最新の情報を得ようと試みる。
「このあたりでは、あんたとその友人以外にも商人がいるのかな?」
「どんなのをお探しかい?こっちでつごう――」
「かなり特殊なんだが」
「わかったよ。なんだい?言ってみな」
「犬だ。犬を売っている商人はいないかな?」
「なるほど。そりゃ確かに変わってるね」
「どうかな?」
彼女の商品からバーボンを手にしながら、しつこく尋ねた。
「知ってるよ。確か、この辺を歩いて回ってたはずさ」
「そうなのか!?」
「間違いないよ。でも今なら、この”連邦”を南に下っているんじゃないかな」
「南?なぜ?」
「ははは、そりゃ南には連邦のグリーンジュエルがあるからさ」
「グリーン?」
「なんだい。行きかたも知らないのか?」
「ああ、そのグリーンなんとかっていうのは――」
「南にむかって進むのさ。目の前に横切る川を見つけたら、その向こうに目的の場所が見えてくる」
往来の真ん中でのお喋りが嫌だったのか。
取引が終わると判断すると、さっさと荷物をまとめてカーラはここから消えたがっていた。
もっと聞きたいが事がたくさんあったが、不用意にしつこくするのはトラブルにしかならないと思い、私もこれ以上はなにもしなかった。
それでも収穫があった。
犬を売る商人がいる。ショーンの最初の手がかりは、そこにあるかもしれない。
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サンクチュアリのママ・マーフィが教えてくれたショーンの手がかりとは犬だと言っていた。
彼女は「それがどれほど先の未来かはわからないが」としながらも、私が望む未来にある”映像”には武装した私と犬が人気のない線路の上を歩いていたのだそうだ。
「犬?それはどんな犬だったんだ?」
そう私が質問しても、今度はママ・マーフィは首を横に振って教えてはくれなかった。
「犬といったら犬さ。あんたが選びたいと思っている未来を胸に、道を求めることにあきらめなければ。おのずとその子はあんたのところに舞い込んでくるよ。そしたら、あんたはそれだけ戻ることができなくなってしまう。これはそういう”運命”なのさ」
そういってそれ以上、このことで私と話すことを拒否した。
彼女の”サイト”とやらはそれくらい、使い方が面倒なものらしい。
カーラと名乗った商人が去ると、私は再び十字路を前にして考え込む。
「旦那様?」
「コズワース、迷っている」
「いえ、予定ではこのまま東です。居留地はそこにあります」
さすがにロボットに、今の自分がこの旅の目的が怪しげな老婆の予言を信じて行動しようとしているとはわからなかったか。いや、そもそも言ってもいなかったな。
「――そこにある、か」
代わりに自分のロボットの言葉が私の心に刺さった。
犬と一緒になる、それが老婆の見た映像だとすると。やはり話に聞いた犬の商人を探すのが一番のような気がしないでもない。
だが、落ち着いて考えてみれば予知で見たとかいう犬をどう手に入れたのかまでは説明されていなかったじゃないか、ということにも気がついていた。
「プレストンの約束を果たそう。確実に、ひとつひとつ」
心の声は、すぐに南へ向かえとまだささやいては誘惑してくるが。あの老婆の言葉のすべてをむやみに信じないほうがよいと、私は強く考え始めていた。それはきっと、ママ・マーフィの言葉に、なにか大きな力のようなものが確かにあるのを、私なりに感じ取っていたせいだと思う。
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目的地の居住地には、日の高いうちに到着することができた。
崖の上にあるそこは本当に小さな畑とわずかな数人だけで暮らしているようであった。
私は離れから数分の間、そこで生活している人々の様子を観察し。特に気になるものもなかったので、意を決して近づいてみることにする。
「やぁ、どうも」
「……」
「えっと、ここの代表は誰かな?」
こちらの姿を確認して、最初におびえを見せた彼らだが。警戒を解くつもりはないらしく、無言のままだ。さすがにこのままでは会話にならないと困っていると。
どこからか「動くんじゃないよ、こっちにも武器があるんだからね」という声がして、建物の裏からパイプピストルを構えた疲れた顔の中年女性が出てきた。
「何か用があるというなら、さっさと口を開いたらどうだい」
「ええと、それじゃ質問 ―― ミニッツメンを呼んだのはここかい?」
「ミニッツメンだって?あのロクデナシ共、とっくに解散したと思ってたよ。皆が頼りにしていたっていうのに、あんな裏切りをしたんだ。ひどくやられて散りじりになったと噂では聞いたけど、同情はしないね」
相手の女性はそうなぜか憎々しげに顔を歪めて吐き捨てた。
「――まさか救援要請を受けて来てみたら、いきなり説教されるとは思わなかった」
相手の歓迎振りと、馬鹿正直にプレストンの願いを聞いてしまった自分に呆れ。自虐的な感想を口にしてしまった。すると相手の態度がまたまた一転した。
「悪い。最近はレイダーのせいで気が張っているんだ。私たちをミニッツメンが助けてくれるというなら、本当に助かる」
「――そうか、なにがあった?」
「山賊さ、レイダーどもだよ。数ヶ月前からボストンの北部に、大きな組織が居座ったらしくてね。このあたりのやつらに声をかけているようで、ここにも姿をちらほら見かけるようになってるんだ」
「具体的にはまだ――それでも時間の問題だろうね。いつ脅しか、それとも襲撃があってもおかしくない雰囲気なんだよ」
周りを見回す。
やせ細った体の数人の男女が、不安げな視線をこちらに向けている。きっと夜も安心して眠れなくなっているのだろうと思う。とはいえ、話を聞くと簡単に引き受けるともいえない印象だ。
「なぁ、わかってると思うが。ミニッツメンはかつてほど兵力が十分じゃない。あのボストンに居座っているような連中というなら、今すぐにどうこうするのは難しい」
「ああ、それで?」
失望の色を浮かべ、顔をうなだれる彼らに私はどう答えたらよいのだろうか?
「だが私はこの一件を任されている。そして私はあんたたちの力になりたいとも思っている。
なにかアイデアはないかな?いきなりボストンに向かって進軍のラッパを吹き鳴らす、以外の」
実のところ無法者はたいした脅威ではない。問題は数なのだ。
プレストンがいったいどこまでこの途方もない話の内容を理解していたかはわからない。だが、それにしたってこれは一人の兵士が引き受けるには途方もない話だった。
くたびれた男が手を上げた。
「――いいかい?」
「アイデア?どうぞ」
「ジャナはボストンの北って言ってたが。本当はここから南側に見える工場に居座っているやつらがそうなんだ。だが、あんたが言うように確かに大勢いると思う」
「ああ」
「そこで俺なんかは思うが。とりあえずこの辺りにいるレイダーを片付けちゃもらえないかな。それでしばらくは静かになると思う」
「具体的には?」
「2ヶ所かな。ここの西と東にある、どちらか片方でいい」
「それでしばらくは時間が稼げる、か」
「工場の連中はもちろん対処してほしいが。あんたらに死んでくれとも言うわけにはイカンしな」
(工場が本体とするなら、この周辺にいるのは先遣部隊ともいえるか。これを叩けば、当面はここも静かにはなる)
私の果たすべき役割が、はっきりと見えてきたように思えた。
夕刻、私は崖の居留地の端に立ち。かつてはマサチューセッツ州とよばれていた、この連邦の大地が赤く燃え上がる姿を見つめていた。
世界は崩れかけて、なんとかその姿をとどめようとしているが。あの時代の傷跡は、この大地をあまりにも深く傷つけてしまい、それが癒される気配は200年以上たったというのにどこにもない。ケロイドのように醜い残骸だけが、そこかしこに残っているだけだ。
(あの戦場でもあった。癒されない傷。寒さにやられ、傷の手当が遅れてしまい、腐らせてしまった……)
連邦は、いやこの国は、この星はまさにその兵士の痛んだ体と一緒だ。
肉を傷つけ、血液がめぐらせずに腐らせてしまった。そこまで傷んだ体でも、まだ生きていかねばならない。
「兵隊さん、もうすぐ飯だ。その前に、一杯どうだい?」
あの提案をもちかけた男が近づいてきて、バーボンのビンを私に差し出してきた。それを受け取り、ちびりとなめる。のどを焼く懐かしい感覚に続き、腹の底にズシンとくるものがあった。
「いいね、しっかりと味がある」
「昔ながらの――ってやつさ。豊かな時代の製法は、親から子へと引き継がれている。そしてこういうところでは数少ない楽しみの一つだ」
「なるほど」
「なにを見てたんだい?」
「景色を。ここは高台だから、連邦がよく見渡せる」
「フン、見て楽しいものなんてないさね」
「――あんたがいったんだ。工場はここから見える、と。あれだろ?」
そういうと私は遠くにある建物の中でひときわ巨大なそれを指差す。
男はそうだと頷いた。
「あの町の今の様子はどうなっているか。情報はあるのかな?」
「噂で聞くだけさ。近づいたら命がない……あそこは今、地獄なんだそうだよ」
「地獄?」
「グールさ。あいつらがどこからか町に移動してきている。銃声はやまず、数日おきに爆発音もここまで聞こえてくる。町の路地にはグールとレイダーの死体で埋まっているらしい」
「グール?」
「ああ、あんたVault育ちなんだな。――そのジャンプスーツでもしや、と思ったが。
元は人間で、化け物みたいな醜い姿になってな。皮膚がぼろぼろ落ちて、ひどいもんさ。そいつらの中に、おかしくなって人やらなにやらお構いなしに襲うようになるやつらがいるのさ」
「……」
「困ったことに、こいつら群れで襲ってきやがる。
ああ、このがけ下にレールが見えるだろう?それにそって南下すると駅があって、実際にそこでも会えるよ。もっとも、すすめないがね、近づいた獲物に気がつくと全力で襲ってくるから」
「走るのか」
「ああ、そうなったら逃げるか。倒すかしかない。あいつらの力は恐ろしく強い、そんなのに囲まれたらあっという間に人間なんてズタズタに引き裂かれちまう」
背後で夕飯だと村人を手伝っていたコズワースの呼ぶ声がして、男は先に離れていく。私は再び、夜へと変わろうとする連邦を見た。
ここに来て、私の予定リストは更新された。
次はボストンへ。南へ向かう。
カーラと名乗った商人の話を信じるなら、最終的にはグリーンジュエルとやらにも行くことになるだろう。
食事を取ると、私はすぐに横になって仮眠を取った。そして日付が変わるころ――。
「旦那様、起きて下さい。時間です」
「……そうか。コズワース、準備は?」
「あなた様が起きて命じてくだされば、すぐに」
「よし」
ランプを片手に私は夜の居留地から立ち去った。
目指すは西。そこにはかつて軍の衛星施設があることを私は知っていた。レイダーはきっとそこにいるということも。
そこに居座るレイダー達が明日の朝日を見ることはないだろう。
次に私は南へ進路をとるのだ。そこに私の未来が、息子のショーンがきっと待っている。
闇の中に巨大な衛生施設がうっすらと姿を現すと、私は静かにランプの灯を落とした……。
(設定)
・カーラ
バンカーヒルのキャラバンで、連邦内を歩き回って商売している。
猫背で首を曲げている独特の立ち方と、肌の色と目が血走っているのが印象的。
バラモンをつれてトボトボと歩くが、レイダーが近づくと人が変わったかのように反撃していく。
たぶん普通にプレイしていると、最初に出会う商人は彼女である。その理由は後に判明するのだが、ここでは触れない。
・サイト
ママ・マーフィが使う特殊能力。
未来、過去、現在の別の場所で起きた出来事を観測できるという力である。
ただしこの物語では、この力を予言(呪い)のようなものとしているので、ゲームとは別物と考えてください。
・巨大な衛生施設
原作では『USAF衛星基地オリビア』と呼ばれている。
ここのレイダーはミニガンを持っているとあって、初期にむかうにはそれなりに武器が必要になる。