アキラは部屋に入ってきた人物に困惑し、顔に浮かぶシワは隠せなかったが。腕を組むことでなんとか自分を守ることにした。
「よォ、前よりも元気そうだな」「ええ、まぁ」「それじゃ、このオジサンとあいさつのハグでもどうだ?」
明らかに冗談のそれだと思うが、このグールは演技とそうでないのが境目が分からなくなる時があるので油断できないのだ。
「なんであなたがここに?ハンコック市長」
「ああ、それ。市長はやめてくれ、ハンコックでいい」
「市長をやめたんですか?」
「いいや。やめようとも考えたが、あの町ではだれもそれを俺に言わなかったからな。休暇をとることにしたんだ」
(市長にその席をどけって、あの町でいう奴がいるわけがないだろうに)
それにしてもなんで、この人はよりにもよってここに?
「メッセージは皆には送りましたけど。別にあなたにもここへ来てほしいわけじゃなかったんです」
「そうだな、ファーレンハイトのかわりだろ?」
痛いところを突く。
「なんで今、休暇なんです?そんな場合じゃないでしょう」
「お前なら俺の口から説明しなくても、その理由を想像できるじゃないか?」
今度は試してきたのか?
だが、言われるままに勝手に思考が走り出すと。現状のグッドネイバーとハンコックの分析を僕の頭は始めてしまっていた。
「……身動きが取れない。とれるようにするために、あえて自分から外に出た?」
「ボストン空港は、はるばるやってきた武装集団の奴らが抑えた。そうなるとあそこからはバンカーヒルも、俺のグッドネイバーもよく見えてくるようになるだろう」
「遠からず、B.O.S.はどちらにも手を伸ばしてくる――」
「その前に俺は力を取り戻さないといけない。それ以上のことも、必要になる。だが、市長の席を温めているうちはそれも期待は出来ない」
「ミニッツメンの力が欲しいのですか?僕に協力させろって?」
「なぁ、それで俺は奴らと戦えると思うのか?」
「――いいえ」
「ああ、そうだな。だからそれ以上、だ。しかしその方法は俺にもわからんよ」
納得は出来た。
「で、これからどうするんです?」
「お前。その恰好を気に入っているのか?」
いきなり話が変わった。
イエローマン……そう呼ぶしかない、目立つ黄色のコートや帽子、スーツはまだ僕は着ている。あのクソッタレの家族に与えられた姿だ。
「別に――」
「なら、やめろ。脱ぎ捨ててしまえ。
その姿はお前にとってはなんだ?本当のお前であることは決してないはずだ」
「……」
「お前はそんな奴じゃない。もっと別の者になれる、そうは思えないか?」
「でも今は、これしかないんだよ。ハンコック」
「いや、これがまだあるぞ」
そう言うと彼は、何かを取り出してくる。
たたまれた服、だがそれはどこかでみたことのあるもので――。
「グッドネイバーから出る前に、ケントの奴から譲ってもらったのさ。
俺が思うに、お前にはこれがぴったりだ。顔を殴ったり、怖がらせたり、誰かをいつも不安にさせるのは得意なんだろう?」
「シルバー・シュラウド?僕が、正義のミカタ?」
「ケントのやつも大喜びさ。ヒーローは必ず戻るものだってな」
「……柄じゃないと思うけど?」
「なら自分の思う通りに今度はするんだな。それがグッドネイバーの変人から変人への、アドバイスだ」
黒のコート、帽子。そして銀のマシンガン。
これはアクマでもコミックのキャラクターだ。僕じゃない。
でも――。
母船で別れ際に話した”彼女”との会話が思い出された。
母船に、宇宙人に地上からさらわれ。姉妹とも離ればなれになってしまった、小さな女の子のサリー。
彼女がそこからどんな思いでスーペリア・コスモスと名乗って、地球を守ろうと決めたのか。その時のことを。
――彼女が皆を説得した
――自分たちは滅茶苦茶になったけど、まだ終わりってわけでもない。
――でもここからやり直すとか言うくらいなら、いっそヒーローにでもなって。もっと滅茶苦茶をやってみようって。
なぜVault101のスーツを着た彼女がそんな話を僕に聞かせたのか理由はわからないが。そのエピソードは妙に心に響くものがあったのは確かだ。
「今日から連邦は悪夢にうなされるようになるよ。間違いなくそれはアンタの責任だ、ハンコック」
「そう言ってくれると信じてたぜ、親愛なる変人よ」
あの帽子はもういらない。
このコートも必要ない。スーツは脱ぐし、バンダナだって別のがいいさ。
僕はシュラウドにはならない。
だが連邦には確かに、シルバーシュラウドはいるのかも、しれない。
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新たな居住地の確認をしつつ、レオとガービーは軽い打ち合わせをしている。
「人員の増強なども考えてはいるが。北東部への進出は考えている以上に難しい、進まない、将軍」
「ガービー、時間がないんだ。
ミニッツメンが力を発揮させるならすぐにしないと。B.O.S.があのあたりで根をはやしはじめたら。もう簡単にはいかなくなってしまう――」
年末からの混乱による停滞は、ここにきてミニッツメンの勢いを大きく削ぎ。
それどころか悪化する可能性を示唆し始めている――。
連邦の中央部、海岸線にあるボストン空港を抑えたB.O.S.の狙いが。
ボストンコモンを中心にした。バンカーヒル、グッドネイバー、ダイアモンドシティにあるのは明らかであったが。
それが実行されてしまえば、北東部に点在する小さな居住地たちは彼らの存在を気にして、ミニッツメンに目を向けなくなるかもしれない――。
彼らの方が頼りになりそうだ、守ってくれるかもしれない。
これらは言ってみればイメージでしかないが。今の新生ミニッツメンはややつま先立ちで見栄を張って行動していることもあり。
それを傷つけられるのは直ちに評判と実績に大きく影響を与えることになる――。
「ハンコックの話では、なぜか南のガンナーはボストンコモンから北には出てくる気配はない。そうだな、確かに今はチャンスかもしれないが――」
「元々、完全でなくともだましだましやってこれたんだ。多少は問題があったとしても、はやめに北部を掌握しておかねばならない」
(そうでないと、B.O.S.の始めるであろう戦争でミニッツメンは存在を失ってしまう)
若きエルダーはどのような戦略でもってインスティチュートとの戦争を考えているのかまでは明らかにしなかったが。それがこの地上以外でおこなわれるはずがない以上、ミニッツメンの影響力は可能な限り大きくさせておかなくては。
「レキシントンの奪還は、後回しになるのか」
「腹立たしいだろうが。逆に言えばこちらがむこうをレキシントンに封じていると、そう考えるようにしよう」
そこにニックが、またも近づいてきた。
「なぁ、今少しいいかな?」
「やぁ、ニック。どうした?」
「恩着せがましいとは思うんだが。ミニッツメンの協力を頼みたい。実は、かなりやっかいな依頼が最近抱えててね――」
それによると連邦の北東、州の境目の辺りで事件があったというのだ。
「あんたがこうして無事に戻ったと聞いて、俺も一安心だとそちらに向かおうとも考えたが――」
「なるほど、わかったぞ。将軍」「?」
「実は最近、あの辺りをなぜかインスティチュートがよく歩き回っているという噂があるんだよ。つい先日も、不幸な旅の商人を追いかけていたらしい」
「商人を追いかけていた?その人物は、助かったのか?」
「わからんね。それを見かけた連中も。人造人間が軍隊のようにわらわらといて泡をくってその場から退散したようだしな」
「なるほど――」
とはいえ、それならば丁度話していたところだ。
「すぐにではないが、確かにミニッツメンなら協力が出来そうだ。ニック」
「いいかい?この顔だと、あの連中と鉢合わせなんてのは御免なんでね」
個人的に彼には大きな恩もある。
そしてこの時はまだ、私にとってはその話はこの程度のものでしかなかったはずであった――。
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コベナントのおこなっていた秘密の実験――もとい、犯罪行為の証拠を全てガービーに。ミニッツメンへと全部を提出すると、コベナント殲滅の翌日から、僕は一気に動き始めた。
コベナントの資源を問答無用で使い込み、ロボットたちを次々と生みだしていく。
そうだ、僕はミニッツメンではない。イエローマンでもない。ただ、ここにある豊富な資源と資産、そして情報も何もかも奪ってみせただけだ。
アイボット、プロテクトロン、Mr.ハンディ、アサルトロン、セントリーボット。動き出した自律するユニットたちに、キュリーがとりあえずの指示を与えていく。
「ムッシュー!?まだ、作るのですか?」
「ああ」
「それならそれでも構いませんが、プロテクトロンやセントリーボットはこのコベナントの居住地に何台も配置するのは難しいかと」
「なら、別のエリアに送り込む。そうやって洗いざらい全部をひっくり返すんだ。コベナントをゼロにするんだ」
「――わかりました」
このロボットたちで数日のうちにコベナントを新たな居住地へと、生まれ変わらせつつ。彼らの個性――仕事への適応力を探り。その後では、次の新たな任務を与えようと考えている。
休む間もなく、僕は来る未来に向けた準備をはじめていた。
この連邦に存在する、多くの敵に対処するために――。
「あの、アキラ。少し、お時間をもらえますか?」
「――コズワースか?なに?」
ロボット作業台の前に立ち、次の新たなロボットの制作に取り掛かる僕はそちらに集中して。背後に立って、困っているらしいレオさんのロボットを見ることはなかった。
わずかに沈黙が流れるが、僕はそれを気にしない。
「お願いです。一旦、手を止めてください。アキラ、コズワースの話をちゃんと聞いてあげてください」
その様子を見かねたらしい、キュリーの懇願するような声で僕はようやく手を止めた。それで少し機嫌も悪かったかもしれない。
横目で見るコズワースは、ハングマンズ・アリーの時のような外側のない中身がむき出しの状態のそれではなかった。
どうやらレッドロケットでミニッツメンの技術者が、気をきかせて勝手にコズワースの外側を装着してくれたのだと本人はなぜだか申しなさげに事情を話す。
僕はコズワースがなにをそんなに恐縮しているのか、理解できないでいた。
「――ということなのです。あなた様の言いつけを破り、私は勝手なことをしてしまいました」
「ああ、そう」
「本当に申し訳ないと思っています。許してください」
「許す?なんで?何のことを言っているんだ、コズワース」
「え……その、私に声もかけずに冷たいのは。勝手なことをしたのだと、怒っているからでは?」
「――誰が?僕が?」
「ええ、怒ってますよね?」
「いや、全然」
本当に怒っていなかった。
というか、我慢できずに結局はあの場所から飛び出して行って。中身をむき出しの状態で連邦を歩き回ったと聞いて無茶をするなー、とは思うけれど。
そこまで元のコズワースらしさを見せた上で、誰かが最後の仕上げをかわりにしてくれたのなら。
それに僕が文句を言うことはなにもない、ただそれだけのことだったのだが。
「とにかく怒ってないし。それによかったじゃないか。もう、元に戻れると――」
「いえ、まだあるのです」
「あ、ああ。そうなんだ」
「私の身におこったこと――事件の記憶、それは鮮明ではありませんがちゃんとあるのです。
足りないものはエイダから聞かされました。あれからずっと考えていました。
あの時、私は使命に燃えて。ご主人様のためになるであろうことを、必死でやろうとしました」
「そうだね」
「ですが、ダメでした。力がなかった。
ご家族のために多くのことが出来るはずの私であっても、今のこの時代。さらに多くの危険に立ち向かうあの人の背中を守る力は、この私にはないのです。
それがくやしいのです、アキラ」
「――いや、ちょっと」
「わかってください。そして力を貸してください」
それ以上は僕は聞きたくなかった。
「待ってよ、コズワース。
まさか、君は今。僕にあのエイダのように、君の事も改造してほしいと」
「はい、それを私は望んでいます」
「ダメだよ」
僕は冷たく却下する。
するとコズワースばかりか、キュリーまでも「ムッシュ!?」などと非難の声をあげてくる。正直、ここにエイダがいなくて良かったとちょっとだけ思った。あれは今、別の用事で外に出ていた。
「ダメだ、当然だろう?君はエイダやキュリーとは違う。レオさんのロボット、僕が勝手にどうこうは出来ない」
「それは――」
「お勧めもしないね。いいか、コズワース。
エイダは生み出された時、最初からアサルトロンのパーツが足りなくて代用品が使われていた。
でも君は違う。完全なメーカーによる純正品。
その上、200年以上もその体で暮らしてきたんだよ?
改造を施せば確かに攻撃力も――武装や体格も自在に変えられはするだろう。でもね、そのかわりに何かの拍子でプログラムがエラーなんぞを吐き出したりすれば――」
そこで僕はパンと両手で叩いてみせた。
「それで終わりだ――君の大切にしている記憶。その長い時間は、その危険を高くしているんだよ。
エイダならそうなっても、リセットすればまだなんとか再起動するかもしれないけど。君がそうなってしまったら、それで最後だ。元には戻せないし、二度と起動することもないかもしれない」
「その危険は理解しています」
「本当かい?なら、レオさんの許可をもらってくるんだね。それでも僕が引き受けるかどうかは知らないけど」
そう言って僕は背を向けると、もう相手にしないとそれで示した。
コズワースは悩んでいるようだったが、キュリーに慰められると。寂しそうにコベナントから出て行った――。
しばらくして作業が一段落ついたところで、キュリーに「お茶にしましょう」と誘われる。
僕はまだ、機嫌は少し直っていなかったが。とりあえずその言葉には従った。
「これほど大量にロボットが作られるところをエイダが見れないのは残念でしたね」
「――いや、キュリー。これを見せたくないから、僕はあえてエイダに外に行ってもらったんだ」
「え?」
「エイダはメカニストを倒すという目的がある――とはいえ、その約束で手にした技術で。僕がそいつと同じようなことをしているのは見たくないだろうと思ってさ」
「そうだったんですか。考えもしませんでした」
「エイダは大丈夫だ、信じてるというだろうけど。それでもそんなマシンに気を使ってやりたいのさ、僕は」
そのエイダはこの近くの湖に沈むベルチバードの回収に向かってもらっている。
とはいえ、アサルトロン一台だけであれを全部どうにかするのは無理だろうから。もう少ししたら新しい手を連れて僕も手伝いに行くつもりであった。
「実は私、ずっとドキドキしているんです。あなたがここでなにか新しいことを始めるように思えて」
「それは間違いじゃない。聞きたい?」
「教えてくれるのですか?」
「ああ、君がいいならね」
「はい。是非」
ロボットだった時代もなかなかに可愛らしい個性を持つロボットだったが。
人とほとんど変わらぬ人造人間となった今の――そう、可憐な彼女の仕草は見ているだけでも微笑ましいものがある。
「ここは君にプレゼントしようと思ってね」
「――えっ?ええっ!?」
「本当さ。君にここを使ってもらうつもりなんだよ」
コベナントの忌まわしい技術の研究環境は、しかしそのままキュリーにとっての最高の研究所になるはずだ。
どうやらガービーとミニッツメンが苦労している原因の一つに、居住地にグールがいることを嫌がる連中の相手をしていると聞いた。
そんな中でキュリーが研究に集中できるとは、とても思えない。
「彼らの研究は終わらせたけど、ここにはまだそのための資産が残っている」
「は、はい」
「君1人の研究室には大きいかもしれないけど、それはなんとでもなるだろう?」
「ほ、本当に私のために?」
「勿論――ってカッコつけたいところだけど。正確には、半分ってところだね。
あの秘密のエリアは君が好きにしてくれていいけど。こっちの居住地ではそれとは別に、ちゃんとしようと思ってるから」
「構いません、私……本当にうれしいんですっ!」
そういうとキュリーはいきなり立ち上がり、そして――抱き着いてくる。
僕は驚くが、落ち着いてくれと背中をポンポンと軽くたたいてから。離していく。
彼女は感情が豊かになったというか、そのまま行動もするので。どうにも話が長くなると、再会してから困惑することが多くなっている。
ロボットと人間の関係だったのが。
別のものに――人と人のそれへと変わりそうでいて、しかしそうなることに躊躇うものがあった。
(馬鹿なことを考えるなよ、僕。あんな事件が終わったばかりで、もう次の女か?盛ってるんじゃないの?)
第一そうなることを、彼女本人だって考えてないはずだ――多分。
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ボートハウスの中、パイパーは長椅子に座り大きくため息をつくと目を閉じて休もうとする。
あの衝撃のコベナント壊滅は昨日のことだというのに、あまりにも悪夢めいていて瞼の下に焼き付いてしまったのに、現実感がもうあまりない。
彼女の前にある机の上には、それをおこなった青年が提出してきたコベナントの実態を暴く研究成果が山となって積み上げられていた。
彼女はそれを独占記事にする条件で、全容をまとめることを申し出ていたが――正直それを申し出た自分に馬鹿と怒鳴りつけたい気持ちになっていた。
わずか2日前、これほど素晴らしい場所がまだこの連邦にもあるのかと興奮しながら取材をしていた自分は。
そこで本当は何が行われていたのか。
おぞましいどのような犯罪が行われたいたのかをまったく気が付くことはなく。それどころかそこで少し話した男は、住人達の手によって無残にも焼き殺されるなどという最悪の最後を迎えていた。
(もう最悪、吐き気がする)
ここに住んでいた住人達は自分たちの正義を信じて疑っていなかったが。
それを盾に、訪れる旅人を選別し。拷問し。サンプルとして勝手にその命を弄んだ。
彼らは人造人間を恨んでいたというが、やったことのおぞましさにまったく同情できるものがないが。本当の問題はそんな彼らをたった一晩で皆殺しにしてしまったのが、あの若者であるということだ。
彼がダイアモンドシティをブルーとともに訪れた時、バイパーはナットを案内につけた。青年だから、きっと気もあるだろうと軽い気持ちだった。
だが戻ってきた彼女は若者のことを「目つきも悪いけど、本当に悪い人っぽかった」と言ったし。パイパーはそんなことを言うものじゃないとあの時は叱った。
どうやら賢い妹と違って目が節穴だったのは、自分の方だったらしい――。
気分がさらに落ち込むので、頭をあげて左を見る。
ボートハウスの外で、小川に飛び込んで子供のようにはしゃいでいるスーパーミュータントのストロングと。
水面を見つめるその前からずっと、不機嫌なケイトの姿があった。
もうそれだけでパイパーは、さらに両肩に重いものを感じはじめ、慌てて反対側のほうへと目を向けた。
家の外ではブルーとガービー、そしてニックが何やら話し込んでいる。
なんとかそれで心が平常心を取り戻せる気がしてきた。
彼女の今回の取材の目的は、コベナントの事件は思いもしないものであったが。ブルーの将軍としての活動と、最後のミニッツメン、プレストン・ガービーに張り付くこと。目的は今も叶っているし、このことだって落ち着けば悪くはなかったと思える日も来るかもしれない。
――悪くはない、かぁ
連邦は未だに救いがなく、クソのような連中ばかりが騒いでいる。
そして今はあのB.O.S.なんてのが遥々キャピタルからやってきて、なにがおきるのかわかったものではない。
でもそんな時なのに、ブルー達は壊れかけたミニッツメンを復活させ。今もそれをさらに素晴らしいものにしてくれようとしている、ハズ――。
「頑張らなくちゃね。私も……」
パイパーは陰鬱の事件に再び向き合っていく。
しばらくすると、マクレディとハンコックがやってきて「ケイトってのはどこだ?」とパイパーに聞いてきた。
「あそこだよ。でも彼女、なんかあったみたいで凄く不機嫌なんだ。気を付けて」
「ああ、そうらしいな」
「お邪魔したな」
グールと傭兵はそれだけ言うと、行ってしまう。
どうなってもしらないぞ、と思っているところにニックがようやくのこと戻ってきた。
「やれやれ、ミニッツメンは忙しいんだな。うっかり話し込んで、あやうくスカウトされるかと思ったね」
「ん」
「静かだな、どうした?調子でも悪いのか、パイパー?」
「違う、あそこの2人だよ」
「ほう」
案の定、マクレディが話しかけるとケイトはさっそく噛みついているようだった。
「面倒くさそう。怒らせてこっちに助けてくれって言われないかな」
「そんな心配はいらないさ。ま、これで安心だ」
「安心?なにが」
「レオの奴だよ。あの彼女には随分と悪いことをしたと、思っているようだった」
「そう?」
「どうやらあっちの若い方のに、引き合わせるんだろう。その方がいい」
「ニックはケイトの事、気になってた?ああいう荒々しいのが好み?」
悪戯っぽく聞いてみたが、ニックはペースを崩すことはなかった。
「ああ、気にしていたね。ああいう娘は、もっと悪くなる方へと進んでしまうことが多い。特にこんな時代ならな」
「――まぁ、そうかもね」
「気難しくあっても野良にならない猫もいる。いたっていいはずだ。そいつにいい相手に巡り合えるなら、な」
「例えば、ケイトがそうだっていうの?」
ニックはパイパーの問いには答えず。
煙草を取り出してそれを咥えると、金のライターで火をつけて煙をひと吹き吐き出した。機械の癖に、その仕草には表情があって、重ねる年齢までこちらに訴えるものがある姿だ。
「ようやく人心地がついた。気が付けば春も、すぐそこまで来るだろう」
厳しい年明けからすでに5週間が過ぎようとしている――。
ニックのいう通り、Vault111の友人達はミニッツメンへと戻ったが。気が付けばその時は春の匂いも感じられるようになるのかもしれない。
そしてそんな彼らの予感が正しいというように、連邦はいきなり静かで、殺伐としてはいるものの、あのありふれた日常へと戻っていく。