ワイルド&ワンダラー   作:八堀 ユキ

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ウェポン チョイス (LEO)

 バレンタイン探偵事務所の扉が開く音がすると、机に座ったままのエリー・パーキンズ女史はちらとだけ相手を確認すると声だけをかけてきた。

 

「あら、探偵さん達。マーティの面倒ごとはどうなったの?」

「奴らしく堂々としていたよ、いい死にざまだった」

「――そう。ついにくたばったんだ、あいつ」

 

 そういうと、なにかを振り払うように手を止めると頭を振ってみせた。

 ニックは多くを語ってはくれなかったが。以前、エリー本人からニックの元相棒から熱烈なアプローチがあったということを小耳にはさんだことがあったのを思い出した。

 

「最近はおかしな事件ばかりでうんざりさせられる。ちょっと前には、知り合いがやっぱり殺人事件に巻き込まれてしまったし。もう、どうなってるのかしら」

「事件はどこでも起こっているものさ、エリー」

「ええ、そうね――そういえば今の殺人事件で思い出したんだけど、ダグアウト・インのボブロフ兄弟からまた依頼があるって話があるんだけど?」

「またぁ?今度はなんだ?」

「さぁ?ただきてほしいって言うのを繰り返すばかりだったわ」

「つまり急ぐ話ではないし。そもそも酒を飲みに来いって誘いではない保証もないわけだな」

「……そうかもね」

「なら、放っておくさ。話す気になったら、また来るだろう」

「そうね」

 

 探偵と秘書は慣れた会話で互いの無事を確認しあっているようだ。

 私はそこに加わっていく。

 

「実はエリー、ニックが後回しにしていた事件があっただろう?」

「どれ?色々あるけど」

「おいおい、俺はちゃんと働いているだろう?そんなにため込んでいるはずはないぞ」

「そう思っているのは、探偵だけかも」

「話を戻そう――例のナカノの依頼だ」

「ケンジ・ナカノ?確か誘拐事件だったわね」

「ミニッツメンが北東部の調査が進んでいて、今ならニックもあそこを歩いても大丈夫だと思う」

「ああ、確かインスティチュートの人造人間の部隊が歩き回ってるっていう――」

「エリー、あれから依頼人とは連絡がついたのか?」

 

 探偵の問いかけに秘書は書類棚の引き出しからファイルを取り出し、中を確認しながら答えた。

 

「いいえ。あれからもう4ヶ月近くたつけど、依頼人は来ていない。バンカーヒルにも、見かけたら連絡するようにメッセージを流しておいたけど、反応はないわね。生死不明よ」

「それはマズイな――」

「こういう場合は、どうするんだ。ニック?」

「対応は2つ。連絡を待つということで、さらに後回しにするか。直接依頼人の元へ出向くかだな」

「今回の場合は、ニックも動けるみたいだし。依頼人に会いに行ってもらうしかないわね」

 

 途端に私の声は曇りがちになる。

 

「どうやらそのナカノという人の家は。東海岸でも連邦の境界線ギリギリに近い場所にあるらしい。ミニッツメンでは住人の生死までは確認は取れなかったそうだ」

「ふゥ、そうなると。やはり直接行ってみるしかないな」

「ふふっ、彼の話ではニックとは知り合いだと言ってたわ。こんなに待たせてどういうつもりだって、興奮してても知らないわよ」

「ケンジ・ナカノ……ふむ、聞き覚えはあるんだが。思い出せないな」

「面倒がらずにちゃんと事件はファイルにしておけば。そんなこと言わなくて済むって言ってるのに」

「それはだめ。お前の仕事を奪うことになる」

「ふふん。――ナカノは漁師をしているそうよ。となると、彼がこの町に来るなんて大変だったでしょうね」

「詳細な依頼内容は?」

「書類でもわからないって書いてある。思い出したけど、ここに来た時もとても冷静ではいられないって感じで、取り乱していたわ。『ニックを出せ』ってそればっかり」

「困った依頼人だな」

「当時の私は、彼は行方不明の家族の捜査で来たんじゃないかって書いてあるわね」

 

 安全とは言えない場所に出向くのに、これでは情報が少なすぎる。

 

「頼むよ、エリー。ナカノは一体、何を話していったんだ?思い出してほしい」

「詳しいことはあった時に話すって。ニックが本当にいないのだとわかって、ブツブツなにか呟いて出て行ってしまったけどね。いてもたってもいられずに、ここまで飛んできたって感じだった」

「何をつぶやいていた?」

「よくわからないけど、娘とラジオがどうとか――。なんの関係があるのかわからないし、聞き間違えたのかも」

 

 確かにラジオはわからないが、娘という言葉が出たなら。行方不明者の捜索というエリーの勘は本当だということになるだろう。

 

「あ、ミニッツメンで思い出したけど。ちょっと前にあの人たちが大勢ここに詰め掛けてきたの」

「ミニッツメンが?私に用があったのかな」

「いいえ、違うみたい。ニックへの届け物と一緒に持ってきたって」

「届け物?」

 

 ダイアモンドシティには、現在アキラのキャップで借りたかなり大きな家がある。

 困ったことに本人はそこへまったく入ろうという気がないらしく。ミニッツメンが交代で寝泊まりし、時には部隊がそこで休憩に使うなどしていた。

 エリーは多分、そこにいるミニッツメンの事を言っているのだろう。

 

「あれよ、確かめてみて」

 

 部屋の奥にある、ニックの机の側に。

 確かにかなりの大きさのケースが複数並べられていた。

 

 

==========

 

 

――レオさん。新しいの、用意しました

 

 メッセージカードにはそれだけが書かれていて、差出人がアキラだとわかった。

 知らずに笑みを浮かべた私は、すぐにケースをニックの机の上にのせて開いてみせた。

 

 カスタム・ラジウムライフル。

 そう記されたそれは騎兵用小銃――いわゆるカービン銃を思わせる小型のライフルであった。

 どうやらこの銃は、連邦のチャイルド・オブ・アトムがつかっているものらしく。どうやらそれがバンカーヒルの市場に流れてて、それをアキラが手に入れたらしい。

 

(ショートバレルでサプレッサ―付き。弾はロングマガジンで40発、中距離スコープもあるのか)

 

 だが、この銃の最大の特徴はクライオ技術が用いられていること。

 さすがにあの大型兵器と同レベルの冷凍弾は発射できないが。この銃から発射される弾は放射能と冷気を帯びたものになるらしい。前から望んでいた、中、近接戦闘用の実弾兵器が再びこの手に戻って来てくれたと感じる。

 

「……ああ、こっちはとんでもないな」

 

 前回の時もそうだったので、今回は贈られてきたもうひとつは狙撃銃だろうとは予想していた。だが、実物のそのでたらめぶりがあまりに様々な意味でひどい、の一言に集約されるため。レオは唸るように感想をそう述べるしかなかった。

 

 その狙撃銃は50口径弾を用いる、大口径の対物ライフルだった。

 

 だが、いかれているのはそのデザイン。

 ヌカ・ワールドではハンドメイドライフルの名称で取引されている。中国軍アサルトライフルによく似たデザインの銃が使われている。

 だが、中身と言うか仕様はもうほとんど全部が独自のものとなっている。

 

 通常の50口径対応バレルが使われる中、マズルはフラッシュサプレッサーが使われている。これは通常のサプレッサーと違い、銃口の制御と火花を抑制するだけのものなので。発射音はそのまま一発ごとに轟音を響かせることになる。

 装填できる弾丸は5発。

 ストックが、反動抑制を目的としたものを使い。珍しいことにレコンスコープが採用されていた。

 

(まともな使い方をされるための対物ライフルって感じじゃないな)

 

 というより、これは狙撃銃としてもどうなんだという代物だ。

 

 ロシアの名品、AK47にも、それをベースに設計された狙撃銃があるにはあった。

 だがこれはどうやらそういうものを狙っているとは思えない――。このクラスでも、対物ライフルならば1.500メートル先の敵を討つことが可能だと思われるが。

 むしろ逆に、目の前の分厚い壁の向こう側に身を隠す敵をぶち抜いてください――この銃からはそんな声が聞こえてくるようだ。

 

「レオ。あのアキラって若いの、何を考えてるんだ?」

「ニックにも送ってきたんだな」

「ああ、以前とほとんど同じようなのをな」

「以前って?」

「前にもミニッツメンが、銃を持ってきたことがあったの。笑えるわよ、なんと銀に輝くサブマシンガンだった」

「エリーにも笑われて、こんなものが使えるものかと。あの家に行って置いてきたんだ。それなのに――」

「また、送ってきたと」

「そうだ。なんでだ?」

 

 頭を抱えるニックに、私は黙って彼に送られてきたケースを開く。

 

「おや、これは――」

 

 今回、彼が私に用意した銃のエキセントリックさを思うと。そこにあったのは至極、まともの範疇に入ったサブマシンガンがあった。

 

「シカゴ・タイプライターか。ハンドガードにスコープマウントベースが追加されてる。

 フォアグリップとタクティカルライト。うん、悪くないんじゃないか?」

 

 とはいえ、この銃には人が触れない部分にむき出しの配線やら電子装置がへばりついているのが気にはなる。

 どうやら説明書を兼ねた仕様書によると、こちらは冷やすのではなく。熱を与えるらしいが。

 

「どうしたものかな――」

「私から借りていた時も、サブマシンガンなら器用に扱っていたじゃないか。いつまでもパイプ銃をつかうというのもなんだし、いい機会だから。アキラの贈り物を使ってあげたらどうだい?」

「ううむ」

「そうしなさいよ、ニック。それにその人、今回も突き返したら。きっとまたとんでもないもの、送ってくるような気がするし」

「そういわれてもなぁ」

「ニック――」

 

 彼はまだ、躊躇いを覚えているようだ。

 私とエリーはそんな彼を微笑みながら横目で見つつ、弾薬箱から弾丸を取り出し。新しい銃のマガジンへとそれを手早く詰め込んでいってみせる。

 

――早く撃ちたいな

 

 ケースには他に、軍用のベレー帽も入っていた。

 朱の強めなワイン色のそれは、若者から老人へ。かつての時代を思い出せという、励ましのように感じた。

 

(気がつくと、いつの間にかこっちが励まされる番になっていたか――)

 

 頭にそれをかぶり、重を背中に回すと「あら」とエリーはコチラを見て思わずというように呟いた。。

 「いい男がいた」彼女の言葉に私はニヤリと笑みを返した。

 

 

 

=====

 

 

 会議は紛糾したが、”小さな宝物”にとっての現状に変化は思うほど生み出せる材料はないという現実を否定することは出来なかった。

 とはいえ、最初から熱が圧倒的に足りない会議である。

 

「またこれかっ!?こんなこと、あなたがたはいつまで続けたいんだ!」

 

 キンジョウのヒステリックな金切り声は、しかし同僚たちの心にはちっとも響くことはない――。

 結局この日も、なんの建設的な意見が出るわけでもなく。ただ厳しくなっていく連邦の状況と、自分たちの活動範囲がちっとも拡充されることはないことを確認しただけで終わった。

 

 

 会議室からキンジョウが足音荒く立ち去り、観察者が続いて静かに消えると。

 残された4人にようやく表情が戻ってくる――。

 

 ”本物の会議”とやらは今、この瞬間から始まるのだ。

 サカモト、コンドウ。さらに今回はクロダ、キジマがお互い向かい合うように座っている。

 口を開いたのは、キジマでクロダがそれに続く。

 

「いつまでこんな茶番を演じさせるつもりだ、コンドウ、サカモト」

「キンジョウなどに好き勝手になじられるのを喜んでいるわけではないだろうな」

 

 コンドウはむすっとしているが、サカモトの表情に苦笑が浮かぶ。

 

「まさか――」

「お前らの求めにある程度納得したから、この茶番に参加はしたが。この調子では我々の忠誠心を疑われる事態もあり得るぞ」

「それはないですよ。おわかりでしょう?」

 

 コンドウは表情を変えず、ぼそりとつぶやく。

 

「あの人は参加していない。ここしばらく、ずっとそうだ」

「そうです。あのアキラの帰還から、ショックを受けたあの人はずっと体調不良を理由に嘆き続けている――。これ以上、悲しませることはしたくありません、本当の事を知ってね」

「アキラを連れ戻す、それなら俺が言って連れ帰ろうと言っている」

「申し訳ないですがキジマのその言葉は信用できません。あなたはアキラを相手に力試しなどはじめかねないから、そもそも近づけなかったのですから。今回だって、買い物気分で彼と戦闘騒ぎなど起こしてもらうわけにはいかない」

「――アキラに負けると思ってるのか?」

「キンジョウのような、失敗をしてほしくないと言ってるのです。観察者と部隊を使って、万全の捕獲チャンスを逃しました。あれがなければ、我々はもっと違った悩みに直面していたはずです」

「新しいアキラ――フン、あのキンジョウがな」

「今のアキラの生死はそのまま我々の未来に大きく影響を与えます。おいそれとは手を出せません」

 

 さすがに”小さな宝物”であっても、あの地球の守護者同盟の正体を掴むことは出来なかったが。

 それでもアキラがすぐに連邦に戻って来ていることは、さすがに察していた。

 

「茶番になる理由は、観察者だ。アイツもあのアキラには執着するものがあった。だが、キンジョウと組んだあの一件以降。すっかりおとなしくなっていて、黙ったままだ」

「あの人のことを心配しているだけでは?」

「コンドウと私は別の答えを考えてます――我々と同じように、あれもアキラの今の居場所をすでに知っている、と」

「なら、なぜ会議でそう言わない?」

「そうです。我々も最初、それが理解できなかった」

「わかったのか?」

「またキンジョウが騒いで、今度は我々全員を連れてアキラの元に向かうと言い出されるのを嫌がっているのでしょう」

「――なるほど」

 

 それはいってみれば”小さな宝物”のほぼ全力を出すことを意味する。

 当然、それにアキラが抵抗するならば。それを許すことは許されない。

 

「ですが時間をかけてよかったかもしれませんよ」

「なぜだ?」

「あのアキラは早かった、ということだ。資産のひとつであったコベナントは瞬く間に蹂躙された」

「アレは痛かった。連中は科学者だ、ああいうのは口では我らの存在を残すようなことはしないと言っても。保険のつもりでなにかを用意していたはず」

「俺が行ってもいいと言ったのに」

「ですから、アナタは駄目ですよ。それにアキラはやはり侮れません。すでにあそこはアキラの要塞です、近づくこともできない」

「この2カ月、レイダーをけしかけて何度か送り込もうとした。だが――」

 

 町の入り口にたどり着くことすらできなかったのだ。

 どうやったか接近を察知すると、マクレディは素早く町の上部へと移動し。そこから狙撃し。

 それでも粘り強く接近しようとすると、ターレットが作動した。

 

「それだけではありません。あのボッビが手にしようとしたサウガス製鉄所、あれも彼の手に落ちたようですよ」

「……ほう」

「ロボットと傭兵があそこにいるそうです。身元やら背後を調べたかったのですが、先ごろあのミニッツメンがあの近くの居住地をまとめて会談を持ちましてね。今では我々も部隊も容易には近づけません」

「あのミニッツメンはアキラが支配していると?」

「それはないでしょうね。ですが、力くらいは貸しているのでしょう」

「――アキラの事はそろそろ放っておくべきではないのか?」

 

 クロダのいきなりの言葉に議論は止まり、沈黙が生まれた。

 

「どういうことですか?」

「アキラもそうだが、そもそも我々は海上で凪の中に取り残されていると思っている。キャピタルのB.O.S.は予想外の脅威であり、インスティチュートは期待できない鈍重なヤオ・グアイだ」

「――なるほど」

「どうせアキラはすぐに我々の前に立ちふさがることは出来ない。だが、B.O.S.を彼も無視はできないだろう」

「確かに、今の連邦でアキラが我々をのぞけば一番無視できない存在と言えば彼等でしょうね。あれは、そういう習性をもっているそうですから」

 

 深いため息が複数聞こえる。

 

「インスティチュートか。アイツらは何を考えているんだか」

「今の彼らの指導者は切れ者ですが。確かに何を考えているのやら――。彼らのエージェントを探っているものについてあらかじめ警告したのに、ダイアモンドシティなどに置いてみせたのは失敗だった」

「それについてはもう、終わったでしょう。

 我々も気をきかせて当人に直接コンタクトしましたが。彼も結局、追っ手を自分に追いつかせることを望むような愚かな振る舞いを見せた。あれ以上、我々が出来たことはありません」

「インスティチュートの秘密は守られているのだろうな?」

「それはさすがに大丈夫でしょう。インスティチュートも、さすがに自ら危険を本部に招こうとは思わないはず」

「だが、頼りにはならん。B.O.S.も、どうやら気にしてはいないようだしな」

 

 元が科学者の集団ということを考えれば、敵の存在に過敏にならないインスティチュートの態度は理解に苦しむ部分は確かにある。他人事、とまでは思っていないとは信じたいが。

 

 だが、それでもこの連邦最大の知能があそこにはあるのだ。むざむざそれを軍人面をした山賊どもに踏み荒らされるわけにはいかない。

 

「そうなると、我々は新たな資産を開拓する必要があると?」

「消耗が多かったからな。ここらで増やすことを考えるべきだろう」

「グッドネイバーのハンコックが消えたのも痛手だな。今なら奴と話が出来たのではないか?」

「どうでしょうね。奇人で知られた人物です、アウトローでもありましたし。やはり難しかったのでは?」

「奴にしても、結局は力を失ったというだけだ。だれだったか、片腕を失っただろう。ボッビとアキラに」

「となると、やはりレールロードとB.O.S.でしょうか」

 

 あの若きカリスマ、エルダー・マクソンを心酔する兵士達を切り崩しにかかると言っているのだろうか?

 深く血の底に潜るあのレールロードに、コンタクトをとれるということなのか?

 

「ひとつ、話しておきたい」

「何だ、クロダ?」

「ヌカ・ワールドだ。あそこは今、アキラを再び求めている。実はすでにゲイジはこの連邦に入らせた」

「……!?」

「それはさすがに、もっと早く聞いておきたかったことですね」

「違う。ポーター・ゲイジは我々を裏切ったと言っている。アキラがいればいい、奴はそう考えたのだ」

「そうなると――ヌカ・ワールドも彼のものになりますか」

「ゲイジを殺すか?」

「いや、俺は放っておいていいと思う。それより――」

「?」

「これをミニッツメンに使えはしないか?」

「――なるほど、なるほど」

 

 それぞれの顔に邪悪な笑みが浮かんでくる。

 

「ミニッツメンには先日の改革で、我々が声をかけた連中は無意味化されてしまったばかりではあるが。確かにアキラが力を貸しているなら、彼等との間に距離を作らせることが出来るかもしれませんね」

「ヌカ・ワールドはあきらめるのか?」

「キンジョウの報告が事実なら、アキラは無法者を無意識に憎悪しているはずです。彼に預ければ、案外レイダー共を排除してくれるかもしれませんねぇ」

「そうなれば、元いた奴隷だった連中開放してあそこに置くことになるだろう。我々が近づくのもさらに容易になる」

 

 サカモトはそこでポンと両手を叩いた。

 

「どうやら名案は生まれませんでしたが。当面の目標は定まったような気がしますね――」

「アキラはキジマに監視を頼む」

「コンドウ!?」

「大丈夫だ。キジマは任務を裏切ったりはしない。それに、観察者の事もある。彼なら適任だ」

「まかせてくれ。そのゲイジというのも、面倒見よう」

 

 そして会議室は空になる。

 不穏な相談は終わり、彼らはそれぞれの任務のため。連邦の陰に隠れて、動き出していったのだ――。

 

 

=====

 

 

 グレーガーデンで一旦ニックと別れた。

 彼はそこから、アキラのベルチバードで直接現地を目指すことになっている。

 

 私はケンブリッジ警察署のB.O.S.を訪れると、そこからブリドゥエンへ。

 プロクター達に報告がてら、ダンスにも会った。

 キャプテン・ケルズは私の姿を今回も歓迎することはなく。「君は何故、エルダーが与えたあのパワーアーマーを着てこないのだ」としかめっ面で説教をもらった。

 

 ダンスとブランディスは共に元気そうであった。

 どうやら最近の彼らは、いよいよもってどうにもならなくなりはじめたプロクター・クインランのフィールドスクライブへの半ば強制的な協力に駆り出されていて、苦労していると愚痴をこぼしていた。

 

 もっと戻ってこい、と彼らは言ってくれたが。私はそれには苦笑いで誤魔化した。

 

 帰りはランサーに頼んで東海岸沿いのルート上で降ろしてもらい。そこからは徒歩で、ニックの待つまだ用意がされていない居住地へと夜には入ることが出来た。

 ナカノ邸に出発するの翌日の朝となる。

 実にベルチバードを使ったとしても3日かかる距離であった。

 

 予想では海岸沿いはマイアラークがそこかしこに巣でも作っているのだろうと思っていたが。実際に歩いてみると、狂って打ち捨てられたらしきロボット達や。フェラル・グールがいるくらいで、マイアラークには結局一度も会う機会がなかった。

 

 

 

 エリーの予言はある意味では正しかった。

 ケンジ・ナカノは到着したコチラの顔を見るなり怒鳴り散らしてきたのだ。

 ニックは彼をほとんど覚えていないというので、「恩知らず」と吐き捨てたタイミングでケンジとニックの関係について質問する。

 

 それによると昔、仕事を一緒にしたことがあったらしい。

 ニックはそれで記憶を取り戻したらしいが。2人の会話を聞く限り、その一件はあまり良い結末ではなかったようだ。

 

 そしてやはり依頼は、姿を消した彼の娘を捜索してほしいというものであった――。

 

「俺はその娘さんの部屋を調べてくる」

「わかった、なら私は夫婦から事情を聞いておくよ。ニック」

 

 ケンジはこの頃には冷静さをいくぶんか取り戻していて、たぶんこれが普段の彼なのだろうと思われた。

 

(娘か……消えて3カ月近く、不安だの心配だの言ってられる状態じゃなかったのだろうな)

 

 ショーンのことを思い、必死にこちらに助けを求めてくる夫婦の姿が。自分のそれと、わずかにダブるのを感じた。

 そうだ、私だって彼らと同じなのだ。

 今の彼らと違い、私は息子がどこにいるのかは分かっている。もっとも、そこに行く方法がないのだから、それがどれほどの慰めになるのかわかりはしないものだが。

 

 

 夫婦をまたも激怒させるほど問い詰めることもなく。

 家の中をひっくり返すように、荒らすこともなく。娘の行方を求めて捜査を続けた結果、日が沈むころに一応の結論を出せることとなった。

 

「だが、ニック。これは――」

「そうなんだが、他にやりようもないしな」

 

 傷心の依頼人には告げたくない内容であったが、判断が必要だったため仕方なく報告することになった。

 

「それで!?わかったのか?」

「ああ、そうだな」

「おお!よかった、それで?娘はどこにっ」

「――それに答える前に、おふたりに聞いておきたいことがあります」

「?」

「あなたの娘、カスミ・ナカノは。本当にあなたの娘さんなのでしょうか?」

「なんてことを言うんだ!」

 

 やっぱり思った通りだった。

 せっかく静かになったと思ったケンジが、再び激怒する。

 だがその気持ちはわかる。私だって、ショーンで同じことを聞かれたら怒ったに違いないのだから。

 

「頼む、捜査に必要な事なんだ。冷静になって、ちゃんと答えて欲しい」

「冗談じゃないぞ、ニック!私たちの娘だ。大切に育てた、愛する娘だ!」

「わかりました……実はこんなことを聞いた理由なんですが、どうやら娘さんは自分の事を人造人間だと思っていたようなんです」

「なんだって!?」

 

 そう、全く信じられない話だが。これが真実だ。

 機械いじりをする自分にちっとも理解を示さない両親に、娘は自分は人造人間だったのではないかと考えてしまったらしい。

 そんな時、おかしな電波が彼女を誘惑したようだ。

 

 ファー・ハーバー。

 

 彼女はそこに自分がいるべき場所があると信じた……。

 

「そんな所に!?」

「ファー・ハーバーの場所はわかるか?」

「ああ、わかる。ここから約8時間ほど船で北上すればつく」

「――船で?」

「そうだ。そこは島だ、私も良くは知らない場所だ」

「そうか――」

「すぐに向かってくれるんだろ、ニック!?」

「……」

「頼む、娘を見つけてきてくれ、頼む」

 

 ニックの表情は読めなかったが、醸し出す雰囲気が「やっぱりそうなるか」と言っているような気がした。

 ケンジはこのために自分の船を提供すると申し出てくれたが、私達にはまだ悩むことが多かった。

 

「ニック、正直このまますぐに向かわなきゃダメかい?」

「気が進まないのか?」

「今から出ても、到着は明け方になる。どんな場所かもわからないし、なんなら人手も必要になるかもしれない」

「あんたはミニッツメンでは重要な人でもある。この話、ここで降りてくれてかまわ――」

「そういうことじゃないんだ、ニック」

「――そうだな、スマン」

「行くしかないのか?」

「慎重さはあんたの美徳だな」

「臆病なだけだよ。見知らぬ土地で、いきなり誰かに驚かされるのは嫌いなんだ」

「そうだな。だがこういう場合、まず飛び込んでみないと状況はわからないものだ。そうじゃないか?」

「……あんたが白馬の王子様が必要だった理由、すっかり忘れていたよ」

「なに、今度は大丈夫さ。あんたもいるんだしな」

 

 結局私もニックのこの言葉に従うことにする。

 不安そうなナカノ夫妻に見送られ、私とニックは夜の連邦の海へと軽快なエンジン音を響かせて走り出す。




(設定)
・殺人事件
原作のクエスト「The Disappearing Act」のこと。
この話ではニックが一人で解決した。


・ボブロフ兄弟からまた依頼が
ダイアモンドシティラジオのDJ、マジで死んでほしいわー。そういう話である。

・カスタム・ラジウムライフル
45口径弾を使用する、レジェだりーは「氷結の」。
原作と違ってこれは伸縮式のストックを使っている。また電子装置も使われるので、エネルギーセルも別途必要となっている。

・対物ライフル
冗談で用意した設定だったが、先日マジでAK50の存在が明らかにされたのはご存じだろうか。
世界は広いなー。

AK47(カスタムライフル)を強引に50口径弾に対応しただけ。優位性とかコチラも全くない。
セミオートだが、連射はとりあえずは可能。でもやっても当たらんし。今のレオでも体を壊すことになると思われる。


・シルバー・サブマシンガン
原作をやってるとわかるが、シルバー・シュラウドの武器。なぜか衣装と一緒に、本物も手に入れることが出来る。

ちなみにニックがダイアモンドシティの家に置いてきたこれは。
若いミニッツメン達の目を楽しませており。家人の趣味ということで、わざわざ収納用のディスプレイが設置され。その中に収められて今も鎮座している。
ダイアモンドシティに来てもやることのない彼らの、数少ない楽しみのひとつ。

レジェンダリーは「発火性の」がどちらにもついている。


・軍用のベレー帽
映画「ランボー」とMGSといえば、これだろう。
原作でも探偵のぼろコート、パイロットサングラス、軍用ベレーを身に着けると・・・「大佐!」とかいいたくなる。割とマジで。


・ファー・ハーバー
ということで、ようやくファーハーバー編が開始となります。

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