ワイルド&ワンダラー   作:鷹雪
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修正が間に合わずに投稿されてしまってました。おかげで余計に手間がかかった。
次回は年内のどこか、とだけ。


アカディアの人造人間 (LEO)

 船の中で仮眠をとっていた私の体が、波ではなく。

 誰かによって揺さぶられた。

 

「もうすぐだ、レオ」

「わかった、ニック」

 

 午前3時を過ぎ、太陽はまだ一面に広がる海の地平線に姿を見せてはいない。

 そして不思議なことに海の風は案外に生暖かいものの、それが私には誰かの舌となって肌をなめているようで少し不快に感じる。

 

「大きいな」

「小さい島だという話だったが」

 

 左手にはファーハーバーと呼ばれている島が闇の中でもわかる大きさで、すぐそこに存在していた。この海上から陸地の様子が見えないのは、島を覆いつくそうかという不思議と濃い霧のせいだろうか。

 

 ケンジ・ナカノの船の制御盤に、目的地到着まであと3分と表示される。

 すると岸辺に停泊している船が見え始め、ニックは前方を見つめながら「あれだ」とつぶやいた。前方にはこんな時間でも、繁華街のように明るく霧の中から海を照らし続けている。そんな不思議な港町が見えてきていた――。

 

 

==========

 

 

「ここに外からのよそ者は必要ない、出て行ってもらおうか」

 

 港に入り、船から桟橋へと降りたところで。家の方から走ってきた複数人の男たちは銃を手にし、私たちを桟橋の先へは行かせまいとがなり立てられてしまった。

 騒ぎは起こしたくないので、こちらはそんなことはされたくはなかったのだが――。

 

「そこまでだよ、アレン!」

「くそっ、来ちまったか――」

「若い連中をそろえて、訪問者を威嚇するなんて。こんな時だっていうのに、まさか酔っているんじゃないだろうね?」

「アヴェリー!こいつらは本土人だ。あいつらはここへ揉め事を持ち込んでくる」

「馬鹿なことを言ってるんじゃないよ。銃をおろして、どこの田舎者だってんだい」

「だが――」

「引っ込んでな!こっちが話をするよ」

 

 どうやら話が分かる人もいたようだ。

 私とニックは顔を見合わせ、肩をすくめみせるも安堵した。

 

「すまないね。今日はちょっと――悪い時にアンタたちは来ちまったんだよ。だからアレンや若い奴等のバカは許してやって欲しい」

「大丈夫だ。少し驚きはしたが、こっちも御覧の通りこんな顔だしな。そう悪い歓迎ではなかったと思う」

「それならいいんだけどね。それで、迷子なのかい?

 ここを訪れる人は……あまりいないんだ。それもこんな夜中にね。だから訪問の理由を聞かせてもらってもいいかい?」

「たかりも助けも、俺達にはもう必要じゃないからな。本土人、帰れ――」

「アレン!アンタはあっちへ行っておきな、そいつらも連れてね」

 

 アヴェリーという女性に追い払われて、男たちはようやく桟橋から去っていく。

 

「若いのは、あんな風に波止場は自分のものだとでも勘違いしてるのも居てね。武器を持って、よそ者を脅かすことに意味なんてないのに、それがわかってないんだよ」

「漁師の気質ってやつだろ?しょうがないよな、ああいうのは」

「悪いね、最近は――本当に色々あったんだ。それでこの港も少し、ピリピリしているかもしれない」

「厳しい時代だ。問題は何処も山積みってわけだな」

「そうだよ。その問題が増える――トラブルはこっちも歓迎したりはしない。アレンじゃないが、あんた達は実際のところどうなんだい?」

「カスミという若い女性がここに向かったという情報を掴んだんだ。私達は彼女の家族にやとわれ、ここまで探しに来た」

「ああ、本土人の若い娘だろ?それなら確かにここに来たわよ」

「――よかった。娘は島に来る途中で沈没していた、なんてケンジに報告はしないですんだようだぞ、相棒」

「その娘なら、人造人間の避難所へ向かったわ」

 

 出てきた言葉の異質さに、今度こそ私とニックは揃って驚いた。

 人造人間、避難所。それがここの土地の人間達も知っているということか?

 

「じっ、人造人間の避難所だって?」

「ええ、アカディアよ。でもそこに行きたいならオールド・ロングフェローに案内を頼まないと――」

 

 明け方の港町に、危険を伝えるサイレンがその時鳴り響いた。

 

 

 町の出口、すなわち門の上につながる階段の途中から鳴り響くサイレンに負けじと女性がこちらにむかって叫んでいた。

 

「キャプテン!こっち、急いで!」

 

 アヴェリーに続いて、私もニックもそこにいたが。

 彼女はいきなりこちらに振り向くと

 

「この場所も昔は大きな観光地だったというけど、今はそんな面影はないわ。いつだって町は危険にさらされている」

「なにか、トラブルかい?」

「探偵なんだよね?町を守るのに手を貸してくれないかい?」

「私達が?」

「マリナーの声は聞いただろ?力を貸してくれないなら、きっとあんた達にだってひどいことがおきると思う」

「わかった」

 

 ニックではなく、今度は私が即答した。

 そして背中の2丁のライフルの重さを思い出す。

 さっそく実践に使えるのか、楽しみだ――。

 

 門の上に立つと、さきほどのアレンの他にもマリナー、アヴェリーなど。武器を持った男女が緊張した顔でそこから霧の向こうの闇をうかがっていた。

 

「状況の説明を」

「アンタ、誰だい?」

「彼等にも説明をしてあげて、マリナー」

「――船の資材をとりにいった連中だよ。夜が来ちまって、てっきり明日の朝までどこかで身を隠していると思ってたのに。

 こんな時間なのに港に戻ってきちまいやがったんだ。あっちで何かあったんだろうとは思うけど、馬鹿なことを」

 

 援護と救助だな。

 カスタム・ラジウムライフルを取り出し。素早く弾倉を入れて装填する。

 

 スコープをのぞくと、確かに闇の中をこの港に続く直線コースを5人ほどが走ってコチラに向かってきているのがうかがえた。

 

「本当にあいつら、戻ってきたのか?見間違いじゃ?」

「これは訓練じゃないんだよ!」

「何事だよ」

「全員なにも見逃すなよ!」

 

 となりで改造サブマシンガンを構えたニックが呟いた。

 

「遠くで唸り声が聞こえたぞ」

「動物?」

「これまで聞いたことのない声だった」

「……敵の攻撃だ。すぐに来る」

 

 私は冷静だ、むしろ興奮を抑えようとすらしている。

 ケロッグを殺した時のあの感覚が、はっきりと今もこの体の中から感じることが出来ている。

 

 闇の中から人が次々と町の光の前へ、門の前へと駆け込んできた。

 先頭の男が半狂乱になって叫んでいる。

 

「門だ!おーい、帰ったぞ。戻ったんだ、開けてくれ!」

「みんな持ち場を離れるんじゃないよ!見逃したら、あたしらは終わりだよっ」

「クソっ、こっちはケガ人がいるんだぞ。開けろ、門を開けろ!」

 

 悲鳴交じりの助けを求める声が門の前から上がり続けるが。

 門の上の人々は動かない、そしてかわらずに銃を構えて闇の中を見つめている。

 必死の形相で逃げてきた彼等には悪いが、追われてここまで来たというならすぐには助けることは出来ない。

 

 それは厳しい現実を乗り越えてきた人達の生き残るための考え方だった。

 

「みんな!集まるんだよ、足元に気を付けて。この下にうっかり落ちたら救助は出来ないかもしれない」

「救助は出来ないだって!?このっ、ファーハーバーのクソども。冷血漢めっ!……仕方ない、お互いで身を守れ。俺達もここで戦うぞ」

「霧を見て!何かがこっちに向かっているはずだよ」

 

 闇の中、土の中から飛び出してくるそれを私は見た。

 

――ガルパーだ!

 

 誰の声かは知らないが。

 そこにいる誰よりも早く、私のライフルは45口径弾を吐き出す炎を見せた。

 

 

==========

 

 

 それはさながら攻城戦に巻き込まれた探偵といったらいいのか。

 射撃が一斉に始まると、それに俺達も参加しなくちゃいけなくなる。とはいえ、こっちは探偵。戦闘は得意ってワケじゃない。

 

 レオはその辺はたいしたもので、リズミカルにパパパン、パパパンと繰り返し。興奮と悲鳴の上がるこの場では逆に冷静に目の前の状況に対して対応していた。

 

 地雷原を突破してきた黒い影質はそんな彼の射線の上で足をよろめかせると、その場に次々と突っ伏していく。

 これなら大丈夫じゃないか?そんな軽口でもと思ったが、相棒はすでに違うものを見ているようだった。

 

「突破される、まずいぞ。ちゃんと狙うんだ!射線を集中させろ!」

 

 彼は弾倉を交換させながら、周囲に声をかけるが。島民たちは必至なのか、それとも彼の声が恐怖と興奮に支配されて聞こえていないのか。

 ガルパーとよばれた不気味な物体のひとつが門の前まで迫って来ると。そこに逃げ込んでどうすることもできなくなっていた連中に突っ込んでいく。

 

 悲鳴が上がり、大量の人間の血が門を汚した。

 

「一匹抜けてきたぞ、撃ち殺せ!」

「馬鹿野郎!こっちに銃を向けるんじゃねぇぞ!」

 

 男たちは怒鳴りあって、下手をしたら門の上と下で銃口を向けあいかねない勢いだ。

 

「ニック!飛び降りろ、下は任せる」

「なに!?」

「すぐだ、新手が来ている」

 

 言われてしまったらしょうがない。

 ひどいことになったとボヤキながら俺は門の下に飛び降りると、そこで首のない哀れな男を丸のみにしようとしているそいつの背中に向け、サブマシンガンの引き金を引いた。

 

 ぬめる体表に泡のように穴が開きはじめると、そこから一気にすべてが火を噴いた。

 だが、呆れたことにそいつはまだ飲み込むことをやめようとはしていない。

 

「いい加減にしろよ。どれだけ空腹なんだ」

 

 

 

 ニックが私の指示に従って飛び降りるのを確認した。

 とりあえず下はそれで何とかなるはずだ。そして私は、これ以上あれらを門の側に近づけさせてはならない。

 

「コイツをいきなり使うことになるとはっ」

 

 カスタム・ラジウムライフルは悪くないが。今回の相手は体が大きな生物の群れだ。それを押しとどめるならもっと、もっと――。

 

 背中から振り回すようにして構えるまでを一挙動でおこなう。

 同時に左腕のピップボーイにV.A.T.S.を起動させた。これで闇の中であっても、敵の位置と数を把握できる。

 

 轟音が響き渡った――。

 

 撃ち下ろされるような軌道で放たれた50口径弾は続けて迫っていた2頭のガルパーを貫通し、ついでに吹き飛ばして地面に転がした。

 ガルパーとかいうおかしなやつはそれが最後。しかし、今度ば別の何かの群れがその背後から迫って来ていた。

 

「これはいい、な」

 

 ストックに細工された反動吸収装置は、これまでになく機能している。

 セミオートとはいえ、狙いをつけて発射までに数秒の間隔が必要なこのライフルで。発砲の衝撃による肉体への強烈なダメージを、ほとんど殺すことに成功していることを理解する。

 

「はは、はははっ」

 

 素晴らしい威力だ、でも使いどころは考えた方がいいだろう。深夜の襲撃者達は結局、この異様なライフルが弾倉をひとつ消費したあたりであきらめてくれたらしい。

 門に近づけなかったというガルパー達を、人間のかわりに食い散らかしては満足したようだ。

 霧の中で、港から離れていこうとする影たちを見送ると私はようやくライフルのトリガーから指をはなすことが出来た……。

 

 

 マリナーが「もう大丈夫、門を開けてあげて」の言葉で、ようやく逃げてきた人たちは町に入ることを許された。

 門の前では2人が殺され、ひとりは食われかけてしまった。ニックはそれでも助けに来てくれたことを彼らの仲間からは感謝され、少し困っているようだった。

 

「やれやれ、到着からこの騒ぎか」

「とりあえずキャプテン・アヴェリーと話して。その……アカディアか。案内人という人を紹介してもらおう」

「そうだな。さっさと仕事を終らせた方がいいみたいだ」

「――さっきは見事な救助だったね、ニック」

「よしてくれ。俺の柄じゃない、それにあんたがいなけりゃ。あの連中は全員助からなかったろうよ」

 

 ようやく感謝の輪から解放されたニックを私は迎え、互いの健闘を称えあった。

 だが、そうだ。このファーハーバーは到着からこうして、とにかくトラブルの塊でしかなかったのだ。

 

 

===========

 

 

 ファーハーバーに朝が来た。

 夜明けの騒ぎからはまだ、数時間しかたっていないというのに。私たちはなぜか山登りに勤しんでいる。

 そして山頂にある、いつかみた天文台を思い出させる建築物を指さすと私達の案内人は言った。

 

「あそこが目的地だ。到着したぞ」

 

 オールド・ロングフェロー。

 到着の騒ぎの後、アヴェリーからも感謝をもらい。

 案内人である彼に紹介してもらえた。どうやら彼も騒ぎの時にあの場所にもいたらしく。冷静に対処しようとするレオを見て、密かに感心していたらしい。

 

 アヴェリーの話では頑固で偏屈な老人ということだったが。あっさりとこちらの願いを聞き入れて人造人間達の避難所とやらまで案内するのを了承してくれた。

 

「人造人間達には、どうやって接触したらいいのかな?」

「接触だって?その必要はない。アカディアはもう、ずっと俺達の事を見ていたさ。あいつらに話があるというなら、あんた達はただ中に入っていけばいい」

 

 ここまでの道に監視システムがあったということか。

 

「騒ぎの後だというのに、無理を言って案内を引き受けてもらって感謝している。ロングフェロー」

「気にしなさんな。あんたの言葉を借りれば俺達は戦友ってやつだろう。また助けが必要なら、俺の家は教えたろ?会いに来ればいいさ」

「それは――」

「ファー・ハーバーのすぐ外にある小屋だ。俺の家、俺の土地でもある。装備を整えたり、休息や泥酔するのにはもってこいの場所になるはずだ」

「わかった。必ず会いに行くよ」

「何か強いのを持ってくるのを忘れないでくれよ。それも分け合える量が十分なやつをな」

「わかった――もう、帰るのかい?なにがあるのか、見ていくつもりは?」

「んんむ、そうだな。イヤ、今日は先に帰らせてもらう。道は覚えているだろ?迷子になんてならないでくれよ、若いの」

「わかった。それじゃ、また」

 

 握手を交わすと、彼はそのまま背を向けて港の方角へと戻っていってしまった。

 

「どうやらここでも新しい老人を篭絡してみせたようだなぁ」

「なんだい、ニック」

「いや、お前さんは気持ちのいい男だからさ。それに老いぼれた男を熱くさせるものを持ってる。ふん、これは俺の嫉妬かね?」

「――仕事だ、相棒」

「ふむ」

 

 2人でアカディアとやらの中へ扉を開けて入っていく。

 まぁ、余裕があったのはそこまでの話だった――。

 

 

 

 ドームまで続く通路に人影はなく、だが確かにこちらは見られていたらしい。

 館内放送ではない。それでも廊下の奥からこちらへと呼びかけてくる声があった。

 

「どうぞそのまま、奥まで進んでください。心配はいりません。

 まずは話をしましょう。きっと私たちは理解しあえると思うのです」

 

 私はニックを見て頷くと、銃に手をかけることなく。自然体のままに声に従って導かれていく。

 

 正直、人造人間をこの島の人間がなぜ受け入れているのかも不思議ではあったが。案内をしてくれたロングフェロー老人の話でも、間違いなくアカディアは敵ではないという認識でいることが分かった。

 そして私たちの仕事はカスミを連れ戻すことであって、B.O.S.の偵察部隊をきどることではない――。彼らにしてみたら、こんな場所は存在すること自体が許されないと判断されるはずだ。

 

「ようこそ、あなた方を歓迎します。このアカディアは清浄であり、理解と平和にあふれる場所として存在しています。

 あなたがアカディアにいる間、人造人間達が危害を加えることはありません。もちろんそちらがそうしてくれている限りは、という条件で」

「あんたは?」

「私ですか?ははは、最初にこの場所へとたどり着くために山を登った。老いた人造人間というだけですよ。

 

 ええ、これは冗談です――わかってます。プラスチックの皮膚、体のあちこちから生え出ているチューブ。あなたから見ればそれらはきっと気味が悪いものでしかないのでしょう。

 

 ですが、好きでこちらもそうしているわけではないのです。この姿には理由があって、それをどうか理解してください」

「そうだね、わかった」

「では改めて訪問の理由を教えてください。正直に話していただければ手を貸してあげましょう」

 

 たぶんニックと会っていなかったら、あの見た目も明らかな人造人間を相手にこれほど冷静には会話は続けていられなかったのではないかと思う。

 会話は冷静に、でもしっかりと明確さを保って交互にキャッチボールされていた。

 

「女性を探しに来たんだ。名前はカスミ・ナカノ。両親は彼女が誘拐されたと主張し、こちらは依頼を受けて捜査している」

「本当ですか?それが事実だというなら感心します。

 あなたのように他人のために見知らぬ土地を旅するような勇敢な人は、この時代にめったにいません」

「彼女はここに?」

「はい、カスミはここにいます。もちろん無事ですし、会いたいというならそうしてくれても構いません。ただし――」

 

 ほら、来たぞ。

 

「それならまず私の問いに答えてください。彼女は、カスミは人造人間だと思いますか?」

「――答える必要を感じない、どうでもいい質問だね」

「その通りだ。お前がこっちの話をまともに聞くつもりがないというなら、俺達もお前に答える気はない」

 

 不機嫌そうなニックの声が上がる。

 視線をうつした相手は、なぜかいきなり動揺を見せた。

 

「――待ってください、あなたは!?」

「ああ、こっちもそれを聞きたかった。『お前こそいったい何者だ?』その顔と独立した人格をもった人造人間はひとりしか知らないし。そしてそれはいつだって鏡の中にしかいなかった」

「ニック、あなたが……どうして……」

「つまらん演技はよせ。俺の相棒に何を企んでいる?そもそも、こっちはお前に会った事は一度もない」

 

 それはアカディアの代表であり。

 ニックと共にインスティチュートで生み出された、第一世代の人造人間プロトタイプ。DIMA(ディーマ)との貴重な対面のシーンであった。

 

 

 危険な武器を持っているわけでもない機械同士の対面で、これほど緊張を感じさせる場面はあっただろうか?

 ディーマは冷静を取り戻したか、すぐに声をあげる。

 

「ニック、あなたも。どうか私にチャンスをください、このひどく混乱した状況の説明を私なら出来ると思います」

「本気か?ニックの事を本当に知っていると?」

「やめるんだ、レオ。彼の話に耳を傾ける必要はない」

「私が知っていることは隠さずにお話します。嘘は言いません、その判断もあなた方が下してください」

 

 そしてディーマはインスティチュートでの出来事を語り始めた。

 

 彼らは第一世代に人格や感情を持たせるために作り出されたプロトタイプ。

 インスティチュートは彼らにそれぞれが別のやり方で人格を持たせようとし、さらに行動までも操作可能かどうかも試行していたのだそうだ。

 

 ディーマはこの時、自分の人格をゼロから形成することを求められた。

 ビルド アンド スクラップ。実験と呼ばれたそれは何度も繰り返された。それは当時のニックにたいしても同じだったのだと言った。

 

 ニックにはディーマと違い、別の人格が丸ごと全部刷り込まれたそうだ。何度も目覚めては刷り込みに失敗して苦しむニックの姿をディーマは見ていることしかできなかったのだと申し訳なさそうに言った。

 そうした経験から、ディーマはニックを自分の兄弟だと認識するようになったらしい。確かに言葉の節々から、そのような気持ちを察することが出来た。

 

「私達は研究室にいました。神経プロセスを解析するためだといって、頭の中を弄り回されたのです。

 それは事あるごとに続けられました。何日も、何カ月も。行動を制限され、こちらがあいつらに抵抗することは許されなかった。

 

 その後――外に出ました。インスティチュートは自分たちの秘密が明らかにされないよう。

 私の中にもフェイルセーフ装置を取り付けていて、私はそこでもまた全てを奪われてしまったのです」

「インスティチュートの場所は、あんたもわからない?」

「ええ、ニックもそうだったはずです。あいつらはそういうことを平気でするような人間達でした。

 ですが……私はそれについては満足していたのを覚えています。私はようやく自由を手にすることが出来た――そう思えたのです」

 

 確かにそれは彼にとっては喜びであるかもしれないが、私にとってはそうではない。連邦にも転がっているかもしれない奇跡をここでも期待したかったが。それはここにも落ちてはいなかったということなのだろう。

 

「お前の言葉は信用できない。兄弟などと言うな。お前のことは記憶にない」」

「それが間違いなのです。

 ニック、プロトタイプであることはすでに説明しましたね。同時に私達の記憶の容量にはどうにもならない限界があります。これのせいで――」

「もういい、これ以上は聞きたくない」

「ニック――」

「だが、ディーマ。確かにお前とは話し合うことが色々とあるようだ……だが、それは今じゃない」

「そうだね、ニック。ここに来た本題に戻そう、ディーマ。カスミの事だ」

 

 ディーマはそれでもじっとニックの顔を見つめていたが、諦めたのだろうか。

 「わかりました――」そう口にすると、話題を変えることに同意を示した――。

 

 

==========

 

 

 夕刻――太陽が霧の向こうにある地平線に沈むのを、私とニックは重い空気を感じながら煙草の煙をくゆらせていた。

 ファーハーバーに到着から、とにかく長く、そして忙しくて目まぐるしいばかりの一日であった。

 正直、頭の整理をつけるだけでも数日は必要な情報の海に翻弄され、私達は今まさに溺れかけてようとしている。

 

 アカディアのバーボンを片手にオールド・ロングフェローの小屋を訪れ、今夜の寝泊まりを許されたものの。

 どうしていいのか、さっぱり思いつかない状況の中にこの探偵達はあった。

 

「とにかく彼女は――カスミ・ナカノは生きていた。それは喜ぶべきことだ、レオ」

「ああ、そうだね」

 

 ディーマは約束を守り、会見の後でカスミとの面会を許してくれた。

 彼女はアカディアに自分の意志で来たのだと――元気な本人からは直接言葉も貰うことが出来た。

 

「説得は、あんたでも無理か?」

「彼女の考えは聞いただろ、ニック」

「ああ、『問題が解決するとわかるまでは、帰るつもりはない』だったか」

「……これは仮定の話だ。乱暴だとはわかっているが、彼女を無理やりにあそこから連れ出すというのはどうだ?」

「レオ、あんたの口から誘拐なんて言葉が出るのは驚きだが。それはいい考えとは思わんよ、そうだろ?」

「ディーマは許さない、か」

「それに彼女は自分の意志でここに来た。納得しないなら、きっとまたここへ戻ろうとするに違いない」

「――そうだね」

 

 カスミは我々と話をすると同時に、困ったことに新たな依頼を受けるように求めてきた。

 報酬は「自分の下した決断をもう一度考え直す」ことなのだそうだ。

 

「いったい何の話をしている、カスミ?」

「ちゃんと聞いてほしいの。ここは何か、変。つまりアカディアは言われているような、避難所なんかじゃない」

「なに?」

「知ってしまったから、ずっと調査してるの。これが解決しないなら、ここから動くつもりもないわ」

「待ってくれ、このアカディアの何が問題なんだ?」

「あのディーマはここにある巨大な装置と繋がっているの。記憶とか、そういうデータを移してる。

 私もあれの修理を頼まれて――つい好奇心がわいたのよ。だって、100年分の人生経験が入っているっていうから」

「続けてくれ」

「そしたらおかしなものを見つけた。

 ディーマが作っていたデータよ、いくつかあった。

 それはひどい内容だった。ファー・ハーバーの港を占領するとか、島で核攻撃を行うとか。それによる予想される死者数とか」

「なに?」

「ディーマは何かを隠していて、仲間である人造人間達をここに迎えているのかも。それとか、島を丸ごと消滅させてしまうような計画とかね」

「島を消滅って――」

 

 ナカノ夫妻がこの娘に手を焼いたというのも何となく想像できて来た。

 これは――ブッ飛んでいるのは間違いない。支離滅裂とまでは言わないが、彼女が今、自分が口にしていることは。自分を受け入れてくれた集団が悪の組織だと弾劾するものだということを、果たして本当にわかっているのだろうか?

 

 ニックも私も困惑するしかなかった。

 それが彼女を慌てさせてしまったのかもしれない。

 

「あなた達は探偵なんでしょ?色々探したり、答えを導いたりする仕事。だから私も探しに来た」

「ああ、確かにそうだが。できることはなさそうだ」

「そんなことは言わないで。そうだ!それなら……」

 

 苦い笑みがニックの少女への感想の全てなのだろう。

 

「『もし解決してくれたら、戻ることを考えてもいい』と来たか。まったく」

「彼女の母親は、確か娘は大人になったと言っていたんだが」

「そしてここへはまずは飛び込もうと言ったのは俺だったが。レオ、あんたの言った通りになってきちまったな」

「これは彼女が言うほど簡単なことじゃないぞ、ニック」

「争うことなくあのアカディアを捜査する、か。そうだな、簡単な話じゃない」

 

 カスミの事を口にしているが、気がつくと私達は同じく別の事について悩んでいるのだということに気がつくことになる。このまま黙って、時が過ぎるのを待つのもいいが。それは避けては通れないものだと、お互いが分かっていた。

 

「ディーマの事だ、ニック」

「わかってるさ」

「本当に彼は兄弟だと?」

「レオ、そもそもその疑問からしておかしいじゃないか。俺もアイツも人造人間なんだぞ、同じ生産ラインにあったからって。それが身内であることの証になるのか?」

「むこうはそう考えてるようだ。本当に何も覚えていないのか、ニック?」

「わからない……プロトタイプの取扱説明書はついていなかったんだ。記憶できる容量は多くないとか、その辺もさっぱりだ」

「――ああ、そうだな」

「とにかくあいつに言われたことでこっちは頭が一杯だ。あれは――ショックだった」

「わかるよ。どう考えていいのやら……」

「混乱させられている」

「ああ」

「……ずっと考えていたことがあった。俺はあの、インスティチュートにとってはただのゴミでしかなかったんだって。

 それなのに俺をあそこから出したいと思った誰かがいて、脱出する手助けまでしてくれたなんて――」

「だがニック、その証拠は何処にもない」

「ふむ、それなんだがな。レオ、俺はカスミの依頼はいいチャンスなのかもと思えてきたよ」

「本気か!?」

「ディーマの話では、奴は再出発を胸にあそこに行ってアカディアを作ったという話だった。カスミの求める情報を頼りに、その話も本当かどうか探ることが出来るかもしれない」

 

 どうやら探偵は次第にだが、困難と危険が伴う任務にやる気をみせ。動き出し始めているようだと感じた。

 

「それなら素人探偵が言えることはなにもないよ。あんたが言うなら、きっとなにかが見つかるのかも」

「俺が言うなら、か」

「ニック?なにか――」

「いや、すまない。あんたは悪くないんだ。ただな……」

 

 珍しいことにニックは煙草を握りつぶすと、何かを決断したかのように私の方へと向く。

 

「俺の話もあるんだ。俺の記憶にあるのは、部屋の中にいたって事。それがある日、世界ががらりと変わっていた」

 

 それはあのディーマが口にしたことに近い、もうひとつのプロトタイプの記憶。ニックの記憶についてのものだった。

 

「ディーマの言った通り、俺は自由になった。素晴らしい新世界、そこに立っていた」

「ああ」

「だがな、それだけじゃないんだ。俺が探偵なんかをやっているのは、別にトレンチコートを着て看板を出しているからってワケじゃない。この姿は話を聞いてほしい人が安心すると思うからやっていることだ」

「……」

「俺は自分のなりたい人間になりたいと思っていた。そして、それは俺の周りにいる皆のおかげて叶ったと思っている」

「そうだね」

「だがそうなりたい切っ掛けは確かにあるんだ。ディーマの話がそれを証明した。

 レオ、俺のこの記憶も人格も。すべて戦前の警官のものだとわかっていた。彼はそういう実験に自ら志願したのさ。彼の脳はスキャンされてデータとなり。それが俺の頭にある記憶回路にコピーされている」

「誰かの記憶がコピーされていたこと、わかっていたんだな」

「当然だ。そもそもこのニック・バレンタイン。この名前ですら彼のものだった、俺のものは何もない」

「待った!戦前ってことは、あんたの記憶の持ち主は元々は私と同世代だったというのか?」

「ああ、俺がアンタに肩入れする理由。それもなんとなくわかってきたんじゃないか?」

 

 確かに人造人間と言うには、妙に義理堅い奴だと思ったことはチラリと何度かあった。

 だが、それも彼の言葉を理解すれば納得がいく。ニックもまた、かつてのディーマのように私に対して何か思うものがあったということなのだろう。

 

「だからわかった、俺はただの機械だ。人のふりをしているだけの」

「おい、なんてことを言うんだ!」

「いや、いいんだ。これは事実だ、目をそらしてもしょうがない。

 俺の記憶はニック――彼の記憶だ。200年以上前にいた警官の記憶。事件、仲間、家族、捜査の仕方やマスコミの使い方。俺が探偵、ニック・バレンタインをやっていられる理由は。そんな彼の記憶と経験があるからだ」

 

 重い言葉が次から次へと飛び出してきた。

 人間と同じような思考と人格があることが、全てが機械で出来ている自分にあわないのだと思っているというのか。私がここで口を出しても、彼のこの思いは変えられるようなものではきっとないのだろう。

 

「誤解はしないでくれ。彼には、ニックには恩を感じている。彼のおかげで、俺は”生かされて”いるんだと思ってる」

「そんな、生かされているだなんて――」

「運が良かったというしかない。誠実で、勘も鋭く、優秀で偉大な警官だった。

 そんな彼のおかげでダイアモンドシティで俺はうまくやっていられたんだ。ニックのおかげだ」

「……辛いな」

「ああ、だがどうすることもできない。俺は自分の人生が欲しいと思うことはある。だけど、他人の名を名乗り。他人の人生を背負っていかなきゃならない。それが俺の宿命って奴なのかもしれないな」

「宿命、か」

「そうだ。そしてようやく決心がついたよ」

 

 ニックの声から悩ましい音がいきなり消えた。

 

「レオ、ひとつあんたの力を貸してもらいたいんだ」

「なんだい、ニック?」

「今、俺が話したように。ニックには恩がある。いや、借りと言った方が正しいのかな。とても返せるとは思えない、大きな大きな借りだよ」

「ああ、それで?」

「だがそんな俺でも、彼が死んで200年以上も過ぎてしまったが。まだやれることがひとつだけ残っている、それをあんたにも手伝ってもらえないだろうか?」

「話を聞かせてくれ」

「エディー・ウィンター。罪のない多くの人を傷つけた、大昔の大悪党。ニックとは因縁の深い相手だった」

「それが?」

「ひどく入り組んだ話なもんで、結論から先に言わせてもらう。そのエディーを殺したい」

 

 軽い偏頭痛を感じる――。

 今日はプロトタイプの人造人間達に悩まされるという日だったか。

 カレンダーは見ない主義だが、きっとそうしっかりと予定が書きこまれていたに違いない。

 

「混乱させたか?」

「ディーマよりもひどく、ね」

「わかった、説明するよ――。

 これはニックを調査していてわかった事だった。奴は当時のニックの手を逃れて地下に潜ったが。その前に放射能施設へ多額の投資を行っていたのを彼は見逃していた。そして今ならその理由は、想像がつかないか?」

「まさかニック……?」

「妄想と言われても仕方がないが、確信があるんだ。奴はまだ生きている。200年前、世界が終わるまずその前に。奴は新世界の扉を真っ先に開いたに違いないって」

「グールになった、と」

「有り難いことに奴はそこにまだ閉じこもっているようだ。地上に這い出てきて、悪の時代を再び自分が。そうとはなっていない」

「だから殺す?」

「決着をつけてやりたいんだ、ニックのために」

 

 私はこの時、素人探偵なりになにかニックがまだ隠していることがあるような気がした。

 それを聞くまでは、いくら彼の頼みでも簡単には応じられないとも思った。

 

「あんたが執着する理由がそれだけとは思えない。第一、グールになったというならフェラル・グールだったかもしれないんだ。あれはもう、生きているとは言えないんじゃないか?」

「――これはただの復讐って話じゃないんだ、レオ。

 ニックの記憶が、正義は行われるべきだったと思ってた。俺もそう思ってるが、これが間違いではないという確信がこれまで持つことが出来なかった。

 だがらそれをアンタに決めて欲しい。あんたが支持してくれるなら、俺の考えは間違いがなかったのだと自信が持てる」

「私が?」

「聞いてくれ、確かに大昔の話だ。娘がいた――可愛らしい少女だ。素晴らしい未来があって、希望もあったはずだった。

 だが奪われた、エディーがそうした。奴にはそうする理由があったというだけで、彼女はそんなひどいことがされなきゃいけない理由なんてちっともなかったのに」

「もういい、そこまでだ」

「レオ?」

「やろう、ニック。エディーが本当にまだ生きていて、奴の大昔の過去を裁くというなら。

 その権利があるとすればもう、あの時代の記憶がある私と君くらいしかいないだろう。それに理由はもう、十分にあると思う」

 

 人造人間の表情に、あんなものがあるのかと私は想像したこともなかった。

 彼の顔は歪むというよりも、もっとこう――味わい深いものが浮かんで、時が止まったのか。それとも動力が停止してしまったかのような、静寂をもたらせてみせた。

 

 ひいては返す波の音だけが何度も耳に聞こえる。

 太陽がついに沈んで、ファー・ハーバーにあの明かりが煌々と照らされるのがわかってくると。

 

「ありがとう」

 

 ただ一言。

 それは小さく、そして声が割れたかのように雑音がまざってあったが。

 私は確かにその言葉は聞こえていた。それは最初で最後の、涙を流せない探偵の思いのこもった一言だったように思う。




(設定)
・ファー・ハーバー
島に到着するとまずここを訪れる、この島で最後の人の住める居住地である。
元々はマリナーという女性が管理していた船のドックであったらしいのだが、島の環境が厳しくなっていった結果。ここに人が集まってきてしまったらしい。

それもあって原作でもマリナーはこの場所を「船」と呼んでいる。


・アレン
島のトラブル、その1。
港では武器屋を営んでいるが、たびたび問題を起こす困った奴。だが意外なことに商売人としてはキッチリと仕事をしてくれる。

警戒心が異常に強く、排他的に過ぎていて、過激で暴力的な結論を振りかざすことから、空回りしていると思われているようだ。
 どうやら自分をリーダーと認められたいという野心があるようで、それらしい理屈をこねてはいるものの。根本的な解決などまったく考えていないことが話しているとよくわかる。


・DIMA=ディーマ
島のトラブル、その2.
100年ほど前に島に来て、アカディアを作ったらしい。

平和を愛する善良な存在であることは間違いないが、会話がいちいち宗教家臭くって苛立つこともあるかもしれない。
アカディアとアカディアのある島の環境には心を痛めていて、ファー・ハーバーが霧に飲み込まれないよう除去装置などを無償て提供している。


・カスミ・ナカノ
ナカノ夫妻の娘だが、自分を人造人間だと考えてアカディアを目指してしまった。
原作では彼女が本当はどちらかなのか?というのも謎としてあるのだが、ぶっちゃけてしまうといきなり撃ち殺してしまえば真実はわかってしまう。もちろん任務は失敗するけどね。

この話ではその話はとくにやるつもりがないので、人間といきなり断定してしまう。


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