ワイルド&ワンダラー   作:鷹雪

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正しい事

 ファー・ハーバーの港にある桟橋の上に立つ。

 地平線にはまだ朝日は顔をのぞかせてはいないものの、その予兆のようなものが見えている。そしてそこにむかった船が地平線に消えるのを確認したのはつい、昨日の事ではなかったか。

 探偵はポケットから相棒が置いていってくれた貴重な煙草を取り出すとそれに火をつけ、煙を吐き出させる――。

 

(しばらくはまたひとりか)

 

 ここに残ると決めたのは自分だが、機械であっても感情というものはあるものらしい。

 胸のあたりでとらえようのない巨大な不安のようなものがのたうつように動くのを感じつつ、それに押しつぶされようとする小さな自分を感じている。ま、このくらいは当然だろう。

 今のこの状況では、あのアカディアの秘密を探るということは不可能だ――この島で探偵は、無力な存在でしかない。

 

 そしてそれは以前も経験したことだった。

 

 

 寝泊まりに納屋を借りているロングフェローとは。夜もだいぶ更けた頃に彼の家を共に出た。

 老人は眠りが浅いのがつらいのさ、彼は寂しそうにそう口にした。だからいつも朝が来る前にこの暗い道をひとりで歩いて港に向かっているのだそうだ。

 

「あの騒ぎの時、あんたはあそこにいたんじゃなかったか?」

「運がなかったのさ。あの日はキャップが残っていて、つい”朝までコース”を楽しんでやろうとしてね。残り物には、福はなかったらしい」

「そりゃ、災難だったな」

「ああ、まったくだ。ヒドイ騒ぎだったから、酔いなんて吹き飛んでしまって。仕方なく飲みなおしていたら――あんたらがやってきた」

 

 やはりこの老人もまた、彼に惹かれるものを感じてしまったらしい。

 

「若いのは本土に戻っちまったんだな」

「彼はあっちでも人気者でね。仕事が残ってる。それに必要はないと言ったんだが。娘の両親にも、一応は報告してやりたいと言うしな」

「そうだったか」

「ああ……それに、友人に助けを求めるそうだ」

「ほう」

「島に住む、お前さん方には数人でも嫌がられるかもしれんが。レオは頼れる面白い友人も多い」

「そりゃ結構なことではあるが、うちの納屋に入り切れる人数だといいが」

「なに、それなら大丈夫だ」

 

 正義と騒ぎの新聞記者パイパー、最後のミニッツメンのガービー。

 ミュータントのストロングにグッドネイバー市長、元ガンナーの傭兵に、コンバットゾーンのチャンピオン。

 そして――。

 

「にぎやかで騒がしい連中だが、いい連中だ。あんたもきっと気にいるはずだ」

「フン、それはどうかね」

 

 その彼とは港町の入口で別れた。

 当初の――いつもの予定通り、彼は今日も酒場で一日を過ごすのだろう。

 

 朝日が昇った後は、探偵は静かに港町の中を歩いて回ってみる。

 住人達はこの小さな場所でも、なんとか日常生活を過ごそうと努力しているが。島を覆う霧のように、彼らの未来は暗く。隠すつもりもないのだろうが、普通に絶望が誰の顔からものぞかせていた。

 

 ただ、面白かったのは、ここでは人造人間に対しての不快感や憎悪をはっきりとはぶつけてこないことだろうか。

 とはいえその絶望はあの頃のダイアモンドシティとは違うようにも思う。全く同じってことは、ないのだ。

 

 誰を探していたということも、なにか仕事を探していたわけでもなかったが。

 そんな風にブラブラとしていると、あのキャプテン・アヴェリーがあらわれて。探偵を探していた、と言われた。

 まだこちらが何も言っていないというのに、だ……でもいいとっかかりになるかもしれないし、助かるな。

 

「仕事があるなら、引き受けてもいい。で、なにをすればいい?」

「こっちへ。ついてきて」

 

 彼女はそれだけ告げると、こちらを再び門のそばにある彼女の仕事場へと連れていこうとしていた――。

 

 

==========

 

 

 ファー・ハーバーから船でひとり戻った私に、ナカノ夫婦は恐怖に顔を引きつらせ。「あの娘は何処だ?」を叫びだされた時は、ニックの忠告を聞かなかった自分を恨みたい気持ちになった。

 私は必死の思いで繰り返し「落ち着いて」と頼むと、彼らがそうするまでじっと耐えなくてはならなかった。

 

「あ……」

「……」

「その、すまない。とりみだしてしまって――」

「……」

「わかった。あっちでなにがあったのかを話してくれ。これ以上はもう、あんたを困らせたりはしない」

「……ではまずお伝えしたい、良い情報と悪い情報と」

「う、ううっ」

「娘さん、カスミは生きてました。直接本人にも会えましたし、あなた達が心配していることもきちんと伝えることができましたよ」

「ああっ!よかったっ」

 

 2人は安堵すると、寄り掛かっていた机だけではたりないのか。一度はしゃがみこもうとして、すぐに立ち上がってきた。

 

「彼女は両親がそんなことを考えているとは思わなかったと言ってました。そして探偵までよこすとは、とも」

「それじゃ、それじゃ……なんであんただけここに戻って来ているんだ!?」

「――今のが良い情報です。次が悪い方」

「ああ!」

「彼女はすでに人造人間達のコミュニティに入ってました。大切な仲間として受け入られていて、本人はそのことに満足していて。彼等との生活を満喫しているのだ、とも」

「まさか!そんな馬鹿な!洗脳されてるんだぞ!」

「嘘ではありません。本当は彼女に直接、ホロテープでメッセージでもと願ったのですが。彼女はそれを『自分には関係のない人たちだから』と言って了承してくれませんでした」

「カスミ――なんてことだっ」

「戻るつもりはないと断言しましたが、考え直しても良い、という言質は引き出せました。今は、これだけです」

「これだけ?これだけとはなんだ!?すぐに娘を助け出してきてくれ」

 

 ここからが私の――出番と言うことだな、ニック?

 ベレー帽をとり、目を伏せ、わざとらしく深くため息を吐いてみせた。当然、相手は驚く。

 

「私が戻ったのには理由があります。娘さんの意志は聞いた、その上で今度はあなた方の考えを聞かせて欲しいと思いまして」

「私達?どういうことだ?」

「ナカノさん、娘さんは死んだということにしてはどうです?彼女は人造人間だった、彼らがそうしてしまったのだ、と」

「あんた!なんてことを妻の前で!」

 

 当然だが彼らは激怒する。

 だが、殴りかかってはまだこない。

 

「賢い娘さんでした。計画はしっかりと立てられていて、ここを出たら一直線に目的地までたどり着いていた。人造人間達は彼女の話を聞いたうえで、仲間として迎え入れた。わかりますか?」

「え?」

「もうカスミは自分を人造人間として生きていこうと決めてしまったのです。強引に連れ出せば、人造人間達は仲間を襲われたと考えて攻撃してきますよ。そうなったらカスミは?最悪の場合、あなた方家族は新しい仲間に殺される可能性も出てくるし。そうなってしまったらカスミは戻る場所を両方で失うことになる」

 

 アキラに聞かされたレールロードと人造人間の話を聞いたことで。

 直接目にしたあのアカディアなら、このくらいのことは平然とやるのではないかと考えていた。

 

 ニックも私も、親の強情のせいで哀れな娘を誕生させるような結末は見たくはない。

 

「――それは」

「ニックも私もそんなことは望んでいませんし。第一その方法ではだれもあの島から生きて脱出などできないでしょう。それよりも、戻ってきたとしてどうするのですか?」

「どうする、とは?」

「彼女はこの家に自分の居場所はないと感じ。別の場所ですでに数カ月の間にちゃんとした自分の居場所を作ってしまっている。

 今のままでは同じことの繰り返しです。彼女も自分の人生をあなた達におかしくされたくはないと、戻っても。やはりまた飛び出していってしまうでしょう」

「……そういうことか、探偵さん。私達も学べと言うことか?生活を変えろ、と」

「簡単なことではありませんが、説得はニックが残って続けてますし。きっとですが、彼女をここに帰らせるチャンスはあるかもしれない。私もここでの用を終らせたら、戻るつもりでいます」

「あの子が戻って来た時、私達がそれを引き留めるようにしておけ、と?」

「重要なことは、彼女が再び自分の生き方について決断するのはそれが最後だということです。

 そんなことになったら彼女がここに戻ることはない、そんなことを考えないような家が、家族が必要です。それは理解して下さい」

 

 私はそれだけ言い残すと、ナカノ邸を出た。

 こっちだって暇ではない。次はニックの借りを返すため、エディー・ウィンターを探さないといけない。

 

(そうだ、アキラにも力を貸してもらえないだろうか)

 

 連邦の中ならば、互いのピップボーイを通じてメッセージをやり取りできることになっていた。

 画面のリストに新たに加わった”Mail”へと合わせると、向こうからこちらへいくつかのメッセージがすでに送られてきていた。

 

「ん?――Vault88見つけた、だって?」

 

 地図でその座標を確認すると、ボストンからさらに下がった場所にあるらしい。

 彼も私も、同じVault居住者だがおちつかないものだな。片方は連邦の外の島へ、そしてもうひとりは新しいVaultへ。

 

 広大なはずの連邦を狭くしている自分達に苦い笑みを浮かべる私は、メッセージを見て予定を変更し。シグナル・グレネードを砂浜の上へと投げつけた。

 

 

=========

 

 

 元気で口やかましい、そんなパイパー姐さんでも落ち込むことはある。

 彼女は今、自分が落ち込んでいるだけでなく。そこでも、うじうじとしている自分がどうしていいのか、わからないでいる。

 可愛い妹にまで励まされ、ひどい激励も受けたことが余計に自分は重症なのだとわかってしまう。

 

 こんなことは初めてだが、実はこんな状態になった経験がないってことではない。

 

 前回は――その時のことは思い出したくもないし、誰かに話したくなるようなものでもない話しだが。

 どうしようもなく抑えられない怒りが。あの時の彼女を押しつぶすことなく、小さな体であっても戦わせ、勝つことが出来たのだと思っている。

 

――そう、思っていた。

 

 

 新しい記事を求め、久しぶりにダイアモンドシティを離れたパイパーは。

 気ままに北上する中で、気になる人々の姿を目にしてしまった。

 

 巡回中と思われる若いミニッツメン達と、彼らに何かを必死で訴えているらしい父と娘の親子。

 困っていたクリントとシャーリーを、パイパーは助けてしまった。

 どうやら久しぶりの平和に飽きたわけでもないだろうが、若く経験の乏しいミニッツメン達は思い込みと過剰な正義感から。この親子を、大人が子供を攫ってきたのだと信じて疑わなかったようだ。

 

「大変だったね」

「ああ――ありがとう、あんたには感謝してもしきれないよ。もう、駄目じゃないかと思い始めていた」

「いや、でも……相手はミニッツメンだったじゃない」

「そうだ。恐ろしい連中だよ、クインシーで仲間を裏切り、虐殺に加担した連中がここでまた勢いを取り戻してきているんだから」

「――うーん。それは昔の、だよ。今の彼らは、出直したんだ」

「悪いがそれを信じる気にはなれない。彼らは私達を一度裏切ったんだ。また、裏切らないと誰が言い切れるっていうんだい」

 

 パイパーはそれ以上は、声を上げなかった。

 クリントのような人の言葉は、そう間違ってはいない。確かにミニッツメンは自ら破滅した。彼らのような存在は必要であったのに。

 共に戦った仲間を裏切り、守るべき人々の反対側に立ち。略奪者として、その両方を血祭りにあげた、それは事実だ。

 

 だから新生ミニッツメンを、連邦の全員が全員。称賛の声を上げているわけではないことも理解しないといけない。

 あのダイアモンドシティであっても、町のためにすでに戦闘を繰り返してくれた新生ミニッツメンを疑う声は小さくはないのだ。

 

 

 だが新生ミニッツメンは違う。パイパーは知っている。

 彼らを率いるガービーは善人だし。なにより彼が、レオがきっと――。

 

「パパ!私達、ワンちゃんを飼うべきだと思うの。おっきくて毛だらけで、怖くて悪い人は追い返すけど。夜は私の隣で寝てくれて、暖かくしてくれるようなワンちゃん!」

「ああ、それはいい考えだね、シャーリー。じゃあ犬を飼うか、確かそういう商売をしている人が連邦にもいたんじゃないかな」

 

 目の前で繰り広げられる親子の会話を聞いて、パイパーは胸がきゅっと締め付けられる。

 シャーリーという娘にあの頃のナットの面影を見てしまったようで、彼女がもうこんな会話をあの父とすることもなかったのだということを思い出してしまったか――。

 

 

==========

 

 

 訪問者が儀礼的に父の死を知らせて立ち去ったが、小さなパイパーはその知らせを聞いて茫然とするしかできなかった。

 何が起こったのか、ちゃんと理解できなかったのだ。だってあの父が!

 

 しかしそんな自分の横顔を張り飛ばされたようなショックを受けることになる。

 最悪の情報を扉の向こうで耳にしたナットが。あの勝気で元気の塊みたいな彼女が、悲しみに震えながら姉である自分に問いかけてきた。

 

「お父さん、死んじゃったの?誰が、殺したの?」

「—―っ!?」

 

 多分、それが全ての始まりだったような気がする。

 湧き上がる怒りは、正義のそれであり。自分の声を周りに聞かせるためなら、どんな手だってやってやろうと決めていた。

 

 主の戻らぬ父の部屋へはいると、父が「お前達のために、念のため置いておくからな」と告げてあった10ミリピストルを取り出してきた。

 復讐、そんなものは望んでいなかった。

 そのかわり犯した罪から決して誰も逃がすまいとだけ考えていた。

 

 父親を失ったばかりの哀れな娘を演じながら居留地の中を歩き回り。そうやってたった一日だけで、パイパーは父を殺した男の名前を手にすることが出来た。

 夜、足は棒のようになり。くだらない演技に疲れ切ってはいたものの、パイパーの顔はどこか満足している風であった。

 食欲がないとごねる妹をテーブルにつかせ、缶詰を開けてそれを空にすると。姉は妹に、知りえたすべての情報を語って聞かせてやる。

 

 自分たちの父親がどれほど卑劣な奴に殺されたのか。

 

 悲しいし、悔しいことだらけであったけど。幼い姉妹の目に、もう涙が浮かぶことはなかった。

 幼い妹もこの姉がどれほどの思いを抱えて飛び出していき、たった一日で真実に到達してみせたのか。姉と同じく聡明であるがゆえに理解していたのだろう。

 

「どうするの、お姉ちゃん?」

「なかったことにはしない。必ず、やったことの償いをさせてやるんだ。私達で!」

 

 ライト姉妹は、そういって固く誓った。

 彼女たちの父親は、辺境に住む名もない民兵にすぎない。「レイダーに仕事をさせず。マイアラークを便所から叩き出す」それが仕事なんだと娘たちに聞かせていた。

 

 彼女達も、父と同じことをする運命を選んだ。

 だがそのやり方は、少しばかり違ってはいたけれど――。

 

 

 夜、パイパーは珍しく野宿もこの2人につきあうことにした。

 といっても、明日には別の道を歩くことになるのは確認した。そうでなければ、一緒にはいられないとクリントの方からそう言ってきたのだ。

 この父親は愛する娘を守るために、この世界にあるすべてに疑いの目を向けずにはいられないのだろう。

 

「――ずっと旅を?」

「ああ、キャップが足りなくなると。バンカーヒルやグッドネイバーで仕事を。小さな居住地には、近づきたくないんだ」

「面白いですね、それ」

「そういうんじゃないんだよ……あの娘に、そろそろ旅をやめて落ち着きたいなんて言われたくないんだ」

 

 そうすれば自分と同じような年代の子供と遊びたい。毎日を2人で怯えながら連邦を歩くこともなく、ベットで横になれる。

 そんなことを娘が口にするのが恐いんだと言っていた。

 

「なにか、理由が?」

「安全、平和。全部嘘なんだ、ああいうのはね。

 協力なんて上っ面な言葉で他人に要求するだけして、責任だのなんだの口にして。なにもできないようなのが集まってできる場所だ!

 そんな歪んだところで、娘の成長を見守りたくはない」

 

 あきらめ、怒り、憎しみ――クリントは傷つけられた過去へのそうした深い負の感情が隠せないまま吐き出されてきた。

 

 彼が言うことも理解できる。寄り添って生まれる小さな居住地は大抵はなにもないものだ。そしてそれを補おうと必ず無理をするようになる。この脆弱な共同体の隣にはいつだって崩壊が出番を待っているのだ。

 

 それがたとえ上手くいったとしても、あそこで上手くやっている連中がいると噂はあっという間に連邦に広がっていき。レイダーなどが必死の思いで手にした成果だけを奪いにやってきてしまう。

 そうやってさらにひどいことをぶちまけて、立ち去っていってしまう。

 

「奥さんの、事ですか?」

「すまないが、あの子の前でその話をするつもりはないんだ。助けてもらったアンタでも、それだけは」

 

 クリントがそう固い声で断言すると、たき火の向こうで寝袋に入っていたシャーリーの小さな声が聞こえてきた。

 

「パパ……ママに会いたいよ」

「そうだなシャーリー。俺もだ」

 

 パイパーは自分の頭を地面に叩きつけたくなる衝動に駆られる。

 これが覗き屋パイパーと言われる所以だ。こんなところで、こんな人たち相手にしてまでも自分は――。

 

 

==========

 

 

 その後もパイパーは横になったが、眠ることが出来なかった。

 親子の話を聞いたせいだろうか、いつしか自分たちの。ライト姉妹のたどってきた道に思いをはせる自分がいた。

 

 

 しばらくして居住地の代表は、パイパーをひとりよびだした。

 部屋に向かえると、お互いが向き合う。彼はこの少女を子供ではなく、人間として扱っていた。なぜなら、そうしなくて行けない理由があったから――。

 

 

「”彼”については、もう聞いたね?パイパー」

「はい」

「短期間で、見事な調査をしたものだ……今更だが、君には感心している」

「ありがとうございます」

「賢いキミからしてみれば、私はさぞかしちっぽけな居住地でふんぞりかえっている、無能な代表だと思っているんだろうね。君の話を『子供のたわごと』だって。真面目に話も聞けない奴だと」

「……」

「わかってもらわなくてもいい。だが、理解はしてもらわないといけない」

「?」

「ひとつ、問題があることが分かった。君と、君の妹の事だ。パイパー」

 

 大きな背中を丸め、落ち着きなく指を動かし。少女に向けられた目には憐れみと同情、そして冷酷な光が浮かんでは消えていく。

 彼の良心と、別の物が次々と顔をのぞかせては消えている。

 

「お父さんの事件で、皆が不安になっていたのは知っていたね?私は、これを恐れていたんだ」

 

 パイパーは正しいことを、正義を求めただけだった。

 だが、たったそれだけでも。この小さな居住地では状況を悪化させるきっかけとなってしまう。

 

「今ではもう、ここを守る人たちがいなくなってしまった。代わりの人を探しているが、今のところあてはない」

「はい」

「お父さんの事件は解決した。娘の君の力のおかげだ。君は正しい形で、仇を取ったわけだ。褒め称えるべきだろうと思う、まずはこれを最初に受け取って欲しい」

 

 そういうと机の上にキャップの詰まった袋をどさりと乱暴に放り出してきた。

 その音に驚いてパイパーはびくりと体を震わすが、代表の大男はそんな少女の様子に気にかけることはなかった。

 

「2.500キャップある。大金だよ、彼が君の父親を始末をふくめてレイダーと取引して手にしたものだそうだ」

「い、いりません」

「いや、これは君の物だ。君にはなんとしてもこれを受け取って、帰ってもらう」

「……どういうことですか?私達、なにかしましたか?」

「――私はこれでも皆の代表を務めているんだ。もちろん、本来ならば君達の事も」

「それじゃ、なんで」

「ここに入ってくれる、新しい兵士が見つける前に君達姉妹にはここから出て行ってもらいたいんだ」

「!?」

「残るという選択肢はない。無理にそうしたいというなら構わないが、あの家は出てもらうし、居住地の離れに自分たちで新しく家を用意してもらう。そして当然だが、そうなったら我々は君達と隣人として付き合うつもりもない」

「どうしてっ、どうしてそんなことを!?」

「パイパー……」

「私がっ、子供が大人の話を聞かないで悪い奴を追い出したから!それで罰しようって、そういうことっ」

 

 代表は頑なであったが、しかし悲しげな表情で首を横に振った。

 

「皆のためにそう私が決断したんだ。

 いいかい、パイパー?私達はただ、君の話を無視しようとしたわけじゃないんだ。それが出来ない他の理由があった。

 君達のお父さんがいなくなって、その話はすぐに広まる。新しい護衛をしてくれる人が必要だが、それまでここの面倒を見てくれる人だって必要だったんだ」

「――それじゃ、私が悪いって事?」

「違う、そうじゃない。だが、君はやるべきことだと思って行動したのだろうし。我々も最後にそれを受け入れた。

 罪人は追放され、我々は前に進まないといけない」

「子供を追放することが、それだって言うんですか?」

「あいつの全てを取り上げて追放したんだ。あれの口は、この大金はここに残っていると騒ぐことになるだろう。そして私達は前以上に強い護衛を必要としている。

 だから我々は新しい住人を迎え入れる準備もしなくちゃならない」

「私達を追い出して?大金だけ持たせて……囮になれって」

「……君はあっという間にキャプテン・メイバ―ンの犯行を調べ上げた能力がある。それは、新しい人たちに不快な気持ちにさせる可能性がある。ここに残しておくわけにはいかないんだ。実際、君達を引き取ってもいいという家族はここにいなかったんだ」

 

 それは、代表から聞くまで知らなかったことだった。

 

「いつまでに、出ていけばいいんですか?」

「しばらくはいい。だが、話が決まれば。そうは言っていられなくなるだろう」

「随分と、あやふやなんですね」

「断言できることはある。その人たちはここに来た時、すくなくともライト家の娘たちに会うことはない。私はそうなるように、その時は動くつもりだ」

「だからそのまえに――わかりました」

「――賢いキミならきっとそう言ってくれると信じていたよ」

 

 子供のパイパーには、キャップの詰まった袋は重かった。

 そしてそれは父の命の値段であったのだと、あの代表はパイパーに告げたことでさらに忌々しくもあった。

 

(言われなくたって、こんな所。こっちから出て行ってやる!)

 

 翌日から持っていくもの以外の家具をパイパーは次々と処分していった。どうせ残して置いていったら、この居住地の奴等に好きにされてしまうものなのだ。

 それでも出ていくまでには数週間ほど必要だった。旅の商人と話をし、自分達を連れ歩いてくれそうな人物を選ばないといけなかったからだ。これは思った以上につらい時間となった。

 

 代表と話をしてから徐々に、隣人たちの声が子供である姉妹たちの耳にも入ってくるようになったからだ。

 

――口をつぐんでいればいいのに。あんな余計な事、小さいのにしっかりして。可愛げのない……

 

 自分たちは何も間違っていない、パイパーはそう思っている。

 ナットもそう父から教えられてきた。悪を許さず、正義を求めることに躊躇う理由はないのだ、と。

 それでも気にしていないわけではなかった。ダイアモンドシティでパブリック・オカレンシアを始め。数年後にその居住地がついに崩壊したと噂に聞いた時、パイパーは頑なでも悲しくこちらを思いやる目を向けてきたあの代表の事を思って胸を痛めたことがあった。

 

(ダメダメ、ちょっと感傷に浸りすぎてるぞ。パイパー!)

 

 パイパーは新生ミニッツメンが、レオがみせてくれる新しい居住地で暮らす人々の姿に感動したのを覚えている。

 サンクチュアリではすでに人々が平和に毎日を暮らしていた。

 失敗することもあったけれど、それでもほとんど完璧に居住地を生み出し続けている彼らの姿に希望はあるのだと胸躍らせたのは間違っていないはずなのだ。

 

 クリントやシャーリーだって、あれを見てくれさえすれば。

 考えを変えるかもしれない。

 

 

 だが、パイパーはそれを親子に口にすることはなかった。

 翌朝になると、お互いが別れを告げて別々の道を歩きはじめる。親子は2人、前だけを見て笑顔で歩き続けていくが。パイパーはそんな2人の後姿を、見えなくなるまで何度も振り返っては確認していた――。




(設定)
・クリントとシャーリー
原作でのランダムイベントで会うことが出来る2人。なにがあるわけではないが、会話は妙に明るいものばかりの上。時折混ざる、悲しげなものがなんともたまらない気分にさせる。

サバイバーは「俺の居住地に来ないか?」と、なぜ誘わないのか。それがまた、悲しかったりする。


・囮
「知ってるか?野郎に殺された漢の娘が、そのキャップを報奨金として与えられたって話だぜ?」
「へぇ、その餓鬼ども。まだ、そこにいるのかねぇ」

 みたいなことを、きっとレイダー達はするようになるのだろう。

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