ワイルド&ワンダラー   作:鷹雪
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Without it! (Akira)

 バレリー・バーストウは自分の才能に疑問を持ったことはない。

 この苦痛に満ちた、停滞を続けた200年以上を耐え抜いた今であっても。それは変わらない。

 

 そんな彼女の記憶には、あのフレーズが今も思い浮かぶ。

 

『Vault-TEC提供、未来のテクノロジーを今に』

『Valt-TECはもはや、アメリカの選択――その枠を超えた存在となりました。我々の手にある優れた科学力は、アメリカ社会の隅々にまでいきわたり。もはや”我々”の存在は、皆さんとは切り離せないほど密着しています。これは――事実なのです』

 

 あの言葉、あの自信は決して嘘ではないのだ。

 

 トラブルから長く乱雑にぶちまけられただけのゴミの山はすでに今はなく。

 いくつかの部屋は存在し、その中には研究施設のようなものも確認している。

 

(誕生するのだ。ようやく、私のVaultが。私の未来が)

 

 輝かしいものがすぐそばまで来ていることを感じている。

 だが、同時に不安もある――。

 

 

 仕事を始めることはできる、用意が整えばすぐにだって。

 だが、パ―トナーはまだ肝心の監督官の部屋を用意できていないのだという。もどかしいが――しかし、すでに別の部屋はこうして用意されているのだ。その時は来る、その時までは――耐えなくてはならない。

 

「あと少しなのよ。あと、少し……。もうすぐなのよ、大丈夫」

 

 常に書類には目を通してきたし、自分が管理するVaultシェルターの完成予想図は脳裏に完璧に思い浮かべることだって出来る。

 現実は残念なことにこじんまりとしたものとなってしまったが――ゴミ捨て場が200年続いたことに比べれば、遥かにマシ。

 

 

==========

 

 

 Vault88は徐々にではあるが、一日ごとに目に見えてはっきりとその姿は完成へと進んでいることがわかるようになってきた。

 だが、これはアキラの力と言うより。Vault-TECの持つ本来の技術力が非常にすぐれたものであることを証明していた。そういうことなのだろう。

 

 今は公共用の部屋については、ほぼ完成しており。

 キュリーはこの洞窟の調査の傍ら、診療室と水栽培施設の間をこの数日は忙しく行き来していた。

 だからそこに珍しい客人が訪れていると知って、少し驚く。

 

「ハンコック市長?これは珍しいのです。なにか、求めているものがあるのですか?」

「コンベアの上を流れてくる資材のチェックにもさすがに飽きてきてね。で、ここの見学でもしてみようかと。

 ここが、あんたの新しい研究室ってやつか」

「それは構いませんが、ひとつ訂正を。ここは水栽培室と入口にあったように、私の研究室ではありません」

「ほう、違うのかい」

「はい。でも、とても感慨深い場所ではあります。

 

 ご存知ですか?

 

 彼と初めて出会った場所、Vault81でも。あそこではDr.ペンスキーが地上に頼ることなくても食料を確保するために。色々な研究がなされていました」

「そうだったか。だが、確かコベナントの例の所でも。お前達は似たようなことをやっていなかったか?」

「あれは少し違います。私達は失われた生薬のかわりになるものを研究していました。食料ではなく、医学のためにやっていたのです」

「……ま、専門家にとっちゃ。大きな違いがあるんだ、ってことはわかったよ」

 

 ハンコックの記憶では、この部屋はそこそこに大きな倉庫くらいはあったように思ったが。

 今は鉄の棚が2列に8つ置かれただけで、透明なプラスチックの管や配線ものたくっていて。スペースは一杯になっているように見える。

 

「ってことは、だ。この棚にある水の入ったケースに浮かんでいるのは――?」

「ゴートとスイカを試しています。実がなるまで、私達がここにいることはないでしょうけど――」

「そうか。収穫はできないか、残念だったな」

「いえ、それでも良いのです。これも私の実績のひとつになりますし、それも彼と一緒に出来たことですから。できれば、おいしくできてくれれば。なおいいのです」

「……あんた、本当にいい娘さんなんだな」

 

 優しい目をして、そう素直に思ったことを口にしたハンコックに対し。なぜであろうか、キュリーの顔は逆に曇ってしまった。少しの沈黙の後で、思い切ったように顔を上げて口を開く。

 

「あのっ、せっかくなのでいいですかっ」

「んん?」

「えっとです、知りたいことがありまして。彼の――」

「ああ、やめておけ。あんたが知っても意味がないことだぞ、それは」

 

 ハンコックはキュリーの質問を予想し、あっさりと断ろうとするが。

 あきらめられないのだろう。彼女はじっとグールの顔を正面から黙って見つめ続けていた。

 

「……といっても、聞きそうにない顔だな。頑固なんだな」

「ごめんなさい。彼にもそういわれることがあります。キュリーは頑固だって」

「ファーレンハイト、あいつの前の女の話だろ?」

「はい、グッドネイバーでは噂を聞いてしまった事があって」

「ん、そうか。だがな、アンタに話してもいいが。約束してくれ、こいつは――あいつらの真似だけは絶対にやってくれるなってな」

「?」

 

 ハンコックは疲れたというように、手近にあったパイプ椅子に座ると「長くなる、あんたもそうしろ」と言ってキュリーにも同じようにすることをすすめた。

 

「半年か……とにかく、ある日のことさ。グッドネイバーに馬鹿がやって来た、少なくとも最初はそうだった」

「それが彼――アキラの事ですね?」

「メンタスで中毒起こしている状態なのに、よりにもよって俺の酒場で殺しの仕事を引き受けた。普通ならそんな街に舞い上がって中毒おこす馬鹿にそんな依頼はしないように言ってあった。当然だろう?

 

 だが、なぜかチャーリーの野郎は破格の値段でそいつを出してしまった。

 さらに困ったことに、それをアイツは見事に一晩で4か所。やってのけてみせた。とんでもないルーキーが出たもんだと、あの夜は大騒ぎになったね」

「……」

「ああ、そうだ。そこにあいつ、ファーレンハイトもいた。

 アンタが耳にしたっていう噂はほとんど間違ってない。それくらいあいつはイカレタことを平然とやってのけた。

 

 そう、仕事を終えて戻ってきたアイツは。よりにもよってファーレンハイトを口説いた」

「とても、熱烈だったと――」

 

 キュリーの耐えるような言葉をハンコックは鼻で笑った。

 

「そんなわけがあるかい。

 あいつはラリッて呂律も回らなかったさ。だけどそれがよくなかった。ファーレンハイトが気に入ってしまったんだ」

「やっぱり――」

「噂ってのは調子よく続けるために下品なものが混ざるものだよ、お嬢さん。

 

 事実を言えば、ファーレンハイトはひどいことをした。

 酩酊状態のあいつをホテルに連れ込んで、さらに多くの薬物をぶち込んでから。あいつに跨った」

「それが『少年は歓喜と恐怖に泣き叫んで、大人になった』の部分ですか?」

「まぁな。でも事実は誘拐、監禁、暴行が行われたという話だ。

 でも、それがあいつを救ったのかもしれないな」

「?」

 

 ハンコックはあの夜の事をよく覚えている。

 ホテルの方角から、あまり聞かない若者の悲鳴交じりの絶叫がしばらく聞こえ。それがファーレンハイトと相手が噂のルーキーだと知り。

 呆れと興味から、そいつの仕事のやり方を自分の目で確認しに行った時の衝撃――。

 

――殺すか?その小僧は

 

 そこで見たのは小さなデスクローによって八つ裂きにされ、獣にかじられ放り出された肉塊と。申し訳程度に使われた、ピストル弾でつくられた穴のある恐怖に顔を歪ませて死んでいる男たちの姿だった。

 

 ルーキーでこれなら、育ったらどうなる?

 芽が出るうちに暗殺者でも送って、とっとと処分してしまおうか。

 

 太陽が地平線から昇る間は、ずっとそんなことを考えていた。

 でも、結局はそうしなかった――。

 

「呆れたよ、本当に。何を馬鹿なことをやってるんだってな。

 

 恐れられる市長の相棒が、若い男を連れ込んで連日ホテルにしけこんで乱痴気騒ぎしてるんだぞ?それをみんなが知っている。

 というより、迷惑していたんだ」

「そうなのですか?」

「相棒は出てこなくなって、仕事のすべてを俺が仕切らなくちゃならなくなったし。

 あいつらを泊めたホテルじゃあの客を何とかしてくれ、奴等のいる階に人が入れられないと文句も言われた。俺の部下はあいつの男運がひどいのをしっていたから、新しいのが若いと聞いて動揺してたな。

 

 それなのに笑い話にして盛り上がったのは、酒場のチャーリーとその客ぐらいか」

「どんな、女性だったのですか?」

「やっかいな一流の悪党さ。そして、それが問題だった」

「???」

 

 このままいっそ全てを話してしまうか?少し悩む。

 

「あいつは、アンタとは違う意味で頭があった。

 そして悪党が好きだった。どこにでもいるわけじゃない、変わった奴がな。だけど恋人というより、相棒を必要にしていた。だからだろうな、いつもうまくいかない」

「うまく、いかない?」

「なぁ?確かあいつが消えた時、レールロードはあいつを切り捨てたんだろ?」

「はい、ディーコンはそう私達に言いました」

「レールロードの変人共がそう決断したのも納得だ。そしてそうなった原因はな、あいつら――ファーレンハイトのせいでもあったんだ」

「え?」

 

 やはり、知らなかったか。

 

「あの時、ボストンコモンがひどく騒がしいことになった。

 その全てがアキラのせいではなかったが、あきらかにその多くが。あいつが歩き回った結果によるものだった」

「ああ、そういえば!

 私もエイダとよく話してましたね。なんでだろうって」

「ファーレンハイト、俺の元相棒は惚れた男にそういうことをさせる女だったのさ。

 自分と言う存在を相手に焼きつけて、自分から離れられなくする。

 アキラの奴、あの頃のグッドネイバーに近づきたくはないが。離れたくもないって心境の中にとらわれていたんだろう」

「そんなに、ですか?」

「あんたがそれを羨んじゃダメだぜ。俺は悪い例として、話しているんだからな」

 

 本当に、あんなのは何度も起こってもらってはこちらもたまったもんじゃない。

 

「あ、でも。アキラが誘拐された時、グッドネイバーの彼女の元に知らせに行きました。エイダです、私ではありませんでした」

「ほう」

「彼女は聞いても何も反応はなく。追い返されてしまったと」

「そりゃそうだろうさ。とっくに知ってたんだよ。だから驚くこともなかったし、自分の計画だけを進めていた。あんたらに興味もわかなかったのさ」

「――信じられません」

「俺はその証拠を見ているからな。いや、見なくて良かったと思うぜ。あれは、寒気が走ったね」

 

 彼女の葬式で遺品を整理してわかった事だった。

 アキラが離れていってからずっと、その行動を逐一調べ続けていたのだ。

 壁には大きな地図。そこに貼られた付箋には日時と目撃情報が記され、そこから次の行動予測が何本もの線となって引かれていた。

 

 そしてある時期から、それはボッビの動きへと移っていっている。

 

「自分を攫った連中の事、あいつはあんたには話してるのかい?」

「少しだけ。でも、よくわからないのです。断片出来な情報しか――」

「あの懐いているレオにも言ってないらしいからな、気にするなよ」

「……はい」

「そう答えられる、あんたがいいんだ。ファーレンハイトとは、そこが違う」

「えっ」

「さっき計画、と言っただろ?」

「はい」

「あいつは、元相棒はわかっていたのさ。こんな結末もあるってことをな。あいつも、狂ってたんだ」

 

 そうだ、そうなのだ。

 ファーレンハイトはボッビに興味はなかった。

 なのにあんな緊張を前にしてお互いが対峙する舞台を用意したのは、偶然が入り込む余地のないあらゆる状況を想定できるから。そしてきっと、あの結末は彼女にとっては悪いものではなかっただろうということ。

 

 ハンコックにはそれが想像できた。

 ボッビを前にあの場所にいる自分にうろたえ、ファーレンハイトの勧告に従い。目の前のボッビを撃ち殺し、見上げて「これで俺の命は保証してくれるんだろうな?」と。

 

 そうアキラに問いかけられたら、あの女は失望と怒りでその通りだと答えるだろうか?

 

――いや、「もちろんだ」と答えるのだろう。そして、そんな男はいなかったのだと忘れることが出来る。

 

 本当に悲しい話だ。

 狂ったように愛しているくせに、お互いが悪党であるからと銃口を向け。そして片方だけが倒れていく――そんなシナリオが選べてしまった。そしてきっとそんな最期でもきっとあの女は満足したであろうことに、ハンコックはやりきれないのだ。

 

 ファーレンハイトにアキラ、2人を自分の隣に置けたなら。

 きっと自分にはもっと別の……。

 

「あんたでいいんだ、お嬢さん。アキラの奴は支えてやれ。狂った愛は、あいつもおかしくさせるだけ。だから、そういうのは知らなくていいんだ」

「はい、市長。それで――」

「なんだ?」

「その、彼女の。ファーレンハイトさんのその考えを、彼は?」

「どうだろう、知らなくてもいいさ。いや、知らないほうがいい。あんただって、忘れるべきだ」

 

 わずかに数カ月、だがそれをすでに懐かしいことにして話している自分がだんだんと嫌になってくる。

 ハンコックは話を切り上げようと「休憩時間は終わりにするか」そうつぶやくと、部屋を出ていった。

 

 

==========

 

 

 ”小さな宝物”、その一員であるコンドウは丘の上に立って空を見上げていた。

 どうやら誰かと待ち合わせをしているらしい。

 

 というのも、しばらくするとそこに彼らの個人用移動浮遊装置が姿を見せ。彼の兄弟――キジマとよばれている人物が、いつものように少し怒っているような。肩を怒らせつつ、コンドウに近づいてきた。

 

「時間通りだ、キジマ」

「当然だ。それよりなぜこんなところへ呼び出したんだ?」

 

 空を見ていたコンドウは視線を落とすと、今度は下に広がる林を顎で指す。

 

「――アレだ、下を見てみろ。わかるか?」

「なめるな……コンテナ。周りに人が居る。多いな、23人といったところか」

「ほう、さすがだな。その通りだ」

「あれは例の取引か?」

「そうだ」

 

 例の、とはなにかを2人は口にしなかったが。

 確かに林の中に見えるオレンジ色の古いコンテナの周囲には人が集まっている。というより、対峙しているようにも見える。

 

 片方はレイダーの格好を、そしてもう片方はミニッツメン。

 だがおかしなことに両者とも手に武器を抱えてはいるが、別に戦う様子は見えない。というよりも、話し合っているように見える。

 

 そういえば巷では最近、レイダーと取引をするミニッツメン達がいるという噂が流れていたが……。

 

「クロダの仕掛けだ。あれがどうした?」

「お前もサカモトと同じか。こういうのはな、一度でいいから自分の目で確認しておいた方がいい」

「そういうものか。俺にはワカラン」

「――ヌカ・ワールドの話だ。お前はそれで呼んだ」

 

 唐突に話が変わった。

 

「ああ、それで?」

「アキラは本当に帰還すると思うか」

「ゲイジは戻って来て、ボスたちをそうやってなだめている」

「ミニッツメンに肩を入れている以上、無視はできないか」

 

 ゲイジがいきなりアキラはミニッツメンにいただの言うことはないだろう。

 それは彼が手にした重要なカードである。それをきるなら最高の瞬間まで、ギャンブラーでなくたってそうする。

 

「そうだな。そのはずだ」

「ここだけの話にしてくれ。でなければ、オマエに用はない」

「いいだろう」

 

 互いの言葉は調子よく飛び出してくるが。

 どうやら悩むとか、戸惑うといったものは彼等には無縁であるらしい。

 

「キジマ、暗殺者を放つ。そう言ったらお前は乗るか?」

「驚いたぞ!」

「そうだろう」

「わかっていると思うが。アキラへは手出しは許さない、それが貴様とサカモトが俺達に望んでいたことじゃなかったか?」

「勿論、その通り。相手はアキラではない」

「ほう」

「サカモトとの約束は果たす。だが、アキラをこのまま連邦で放しておくこと。それを許すつもりはない」

「ふむ、ということは俺が暗殺者となれという意味ではないということだな」

「そうだ。お前が動けばアキラが気がつくかもしれん。藪蛇となっては時間も戦力も無駄になる。

 だから別の暗殺者たちに依頼する。だからお前の力が必要だった」

「確かに――俺ならばこの連邦の殺し屋達の情報をもっている。奴等と話もできるだろう。俺達の存在は間違ってもアキラに悟られずに」

 

 キジマの脳裏にはすでにリストが作られ始めている。

 キャップとターゲットにしか興味はなく。依頼人の名前は決して口に出すことはないであろう奴等。

 

「やるか?」

「やろう、それで誰を狙う」

「お互いが受け持つ、そういうことにする」

「ということは、複数」

「2人だ」

「なるほど」

「ひとりは、グッドネイバー市長。ジョン・ハンコック」

「おおっ」

 

 これは大物だった。

 しかし――。

 

「それは囮だな。違うか?」

「ふふふ、そうだな。ハンコックは他にも暗殺者に狙われても倒せなかった男だ。

 お前や観測者ならまだしも、今の連邦であの男を手にかけられるような奴は多くはいないだろう」

「そうかもな。で、本命は?」

「キジマ。まず最初に言っておく。こちらは俺に譲ってもらう、これは俺の持ちかけた話だしな」

「ふむ、しょうがないな。で、誰だ?」

 

 今度はコンドウもすぐには口を開かなかった。

 一瞬、間を置いて。その相手の名前を口にする。

 

「フランク・J・パターソン Jr。現在のミニッツメンの将軍であり、B.O.S.ではナイトをやっている」

 

 キジマの顔にはてなマークが浮かび上がる。

 その名前はどこかで聞いたことがあった。確か、誰であったか?

 

「そして奴は同時に、自分はつい最近。Vault111からやってきた生存者であるといっているらしい」

 

 

==========

 

 

 その日もパワーアーマーを腐汁まみれにして戻ってきたマクレディとケイト。

 バーストゥの抱えたデータから、このトンネルは巨大であるとは聞いてはいたものの。連日にパワーアーマーを着こんで出撃しても、いまだに最果ての場所には近づいていないのか。ちっとも終わりが見えてこない。

 

 別にそんなつもりはなかったと言っていたが。あのマクレディがアーマーに算出させた座標によると、すでに自分たちは地下にいながらにして北にあるボストンに迫っているらしい。

 

 だが、それがケイトの闘争心に火をつけた。

 

 持ち込んだ張本人がここでも用意したパワーアーマーステーションに戻って来ると、そこには珍しくキュリーが2人の帰りを迎えてくれた。

 

「お疲れさまでした。無事なようで、よかったで――ケイト!?」

「あー、たっぷり驚いてもらえよ。俺、お先に」

「マクレディ!?これはっ、彼女はっ」

「なーにそんなに慌てちゃってるのよ、このカワイコちゃんわ」

 

 驚愕するキュリーの横を疲れた顔のマクレディが通り過ぎていき。そしてケイトはパワーアーマーから降りて、腰に手をやり仁王立ちである。

 そんな彼女は、なぜかパワーアーマーから下着姿で出てきていた。あのキュリーが驚くのも納得である。

 

「そんな姿で洞窟へ!?危険ですっ」

「どうして?コイツ、分厚いからなんとかなってるよ」

「それでもっ。そんな恰好は……いけませんっ」

「ふふふ、ナニそれ。照れてるの?可愛いなァ」

 

 ケイトはそう言って、ほとんど裸である自分の皮膚に鼻を近づけて匂いを嗅ぎ。嫌なものを感じ取ったのか顔をしかめ、珍しく上機嫌なまま浴室へとそのまま歩いていってしまった。

 

 残されてしまったキュリーは頬を赤らめて慌ててその後を追っていく――。

 

 

 作りかけのVault内で放送が入り、仲間たちは第2医務室へと向かった。

 

「なんだ、マクレディ。背中を丸めて元気がないな。どうした?疲れたか?」

「気にスルナ、市長」

「はははっ、こいつ。歯の治療させられるんじゃって、ビビってんの」

「ちょっ!?お前な、そういうの言うなよなっ」

「虫歯の治療ですか?嫌なのですか?」

「冗談じゃねぇよ。あのボスが笑顔で、拳くらいあるドリルを俺の口の中に突っ込むって言うんだぞ?それのどこが治療だ」

「男でも、なれれば突っ込まれるのはそう悪いもんじゃないっていうじゃない?」

「えっ?」

「そういうのはチャンプ、相手によるってもんさ。まぁ、お前ら若いから気が合うから、そういう関係ってこともあるか」

「やめろ、やめろっ」

 

 Vaultの長い廊下をそうやってにぎやかに歩いている。

 

 当初の予定(完成しない計画)から比べると、あまりにも小さいVaultと呼ぶそれは。

 ラウンジなど床があるだけで、壁の向こう側がまる見えであったとしても。すでに公用の施設――つまり食堂、警備室、水栽培施設、工作室、機関室、倉庫、バザールーム、トレーニングルーム、教室、浴室――は長い廊下と連結していて、人がいればすぐにでも動くことができる状態にあった。

 

 

 その中でもなぜか警備室と医務室は2つも用意され、なんでそんな必要があるのか。

 彼らはいまいちその理由が思いつかなかった……この時までは。

 

 

 第2医務室では、部屋に据え付けられた2つの長椅子の間にアキラが立って仲間を待っていた。

 彼は皆の姿を確認すると、まずはマクレディ達の報告を促した。

 

「今日もクソまみれになった。すげー不愉快だった」

「ストリップ馬鹿と一緒に穴倉を散歩して来たぜ。でも、まだ道は続いてる。マジで嫌になるな」

「――そうか、わかった。ご苦労さま、もういいよ」

 

 アキラは軽くねぎらうが、ケイトがそれに眉をひそめて声を上げる。

 

「はっ!?なにそれ、もうやらなくていいってこと?冗談じゃないわよ、こうなったら意地でも全部見て回ってやろうじゃないって決めてるのにさ」

「お前が、をつけてくれ。俺は違う、俺はもういいや」

「ちょっと!あんなフェラルの巣に女をひとりで行かせるっていうの?」

「そこまで!もう、いいんだ。時間切れってだけだ、ケイトも今回はあきらめてもらう」

 

 ハンコックの口元に笑みが浮かぶ。

 

「てっきりここが完成するまでいるのかと思ったが。もう、いいのか?」

「必要なものは用意した。約束は果たしている、完ぺきではないけど」

「あのアホグール、自分の部屋の――ナントカいうのはまだかって。こっちの顔を見るたびに聞いてくるの、ムカつくんだけど」

「ああ、それは俺も言われたな。知ラネって毎回答えてたけど」

「監督室です。彼女の自室でもありますね」

 

 まぜっかえす他と違い、ハンコックは先を聞きたそうだった。

 

「そいつはお前がわざと後回しにしてたやつだったよな?彼女は俺達が立ち去ることに同意したのか?」

「さっき話をした。明日から取り掛かると言ったら喜んでた」

「本当は?」

「本当に取り掛かるさ。ただ、組み上げなんかはロボットに任せようと思う」

「――それが本当にいい考えだと思うのか?」

 

 僕は顔を上げ、両手を開いてわからないとジェスチャーを見せた。

 

「だけどさ。さすがにこれ以上は待たせておけないし。あの様子じゃ、出来たらさっそくなにかをやらかしそうで。こっちが真面目に作業している横で大騒ぎなんてされてもね。そんなのにつきあいたくないし」

「だから立ち去る前に。檻には骨付きの肉を投げ入れてから、ということか」

 

 バーストゥは涙こそ流さなかったが、それを聞いただけですっかり心奪われてしまったらしい。

 こちらの話など聞こえていないように上の空になってしまった。

 

「とりあえず資材を用意して、3日後にはここを出る」

 

 それぞれが返事を帰してくる。

 だが、僕は別にこんなことを知らせるためだけにわざわざここに彼らを呼んだわけではなかった。

 

「で、ここからが本題だ」

『?』

「実はここに来てもらったのは、皆に頼みがあったからだ」

 

 なぜかここまで話すと、マクレディがさっと腰を引いて「俺は嫌だからなっ!」と大声を上げた。

 もちろんそれを無視して僕は自分の言葉を続ける。あいつ、話しも終わってないというのに何が一体嫌なんだ?

 

「ヌカ・ワールドに行く前に。今回やっておきたいことがあるんだ」

「なんですか、アキラ?」

「髪を、髪型を変えたい」

「なんだよ、そりゃ。適当に何とかしろよ――」

「ついでに顔も」

「っ!?」「おおっと、これはこれは」「ええっ!?」

 

 そう、そうなのだ。

 この第2医務室と言うのはつまりは床屋であり、整形外科でもある。

 そして僕はこの場所の最初の利用者となるのだ――。




(設定)
・Dr.ペンスキー
Vault81の肥料持ってきて博士。
でもバグなのかどうか知らないが、いつの間にか持って行っても受け取ってくれなくなる。

・整形
ガチガチの東洋人が、店から出たら白人に!が出来る世界。
ま、どうなるかはまた次回。


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