スマート・アレックとはでしゃばりとか、うぬぼれの強く利口ぶった人のことを言う。らしい(?)
キジマは報告を最後まで聞く前に自分でも気づかずに立ち上がっていた。
そして――。
目の前に立ち。意味不明な言葉と、意味のない死体を放り出してきた無能の首を胴体から文字通り――無造作に己の腕だけでもぎ取ってやった。
真っ白になっていた自分の中に、目の前の新鮮な肉塊とそこから血があふれ出るのを見て。そこで自分が激怒しているのだと遅れて理解する。確かにショックではあった、こんなことになるとは。
「コンドウ、すまない」
「……失望したぞ、キジマ。」
「こんなはずではなかった。こんな――」
「こいつ。ターゲットは将軍、ガービー本人だと言った」
「暗殺者が狙うべきターゲットすら認識できない状態だったとは――」
思わなかった。そう言いそうになって慌てて飲み込む。
再び怒りを感じるが、すでに報いを受けるべき相手は殺してしまった。残骸に当たり散らしてもどうにもならないことだ。
”小さな宝物”の内部で、キンジョウ、観察者と違い。
コンドウ、キジマらが現在団結しているのは、たまたまそれぞれの都合があって。妥協できるというそれだけのことにすぎない。
互いを家族、兄弟などと口にはしても。それは世間一般に使われる言葉とはやはり違うのだ。
「コンドウ?」
「――これまでだ、キジマ」
「コンドウ!?」
「この話は忘れてもらおう。お前とは手を切る」
「貴様は……どうするつもりだ?」
「それこそ貴様には関係のない話だ」
そういうとコンドウもまた、顔を真っ青にして。しかしさすがに感情を制御しているのだろう部屋から出て行ってしまった。その背中にキジマは声をかけることは出来なかった。
――集まりで会おう
そう兄弟として声をかけても良かったのではと思うが。
それができない。
――計画、計画はどうするか?
脳裏に一瞬だけ、暗殺者たちに至急手を引かせるようにメッセージを送るべきとの考えが浮かぶが。すぐにそれは消える。
彼等にはすでに高額のキャップで仕事を引き受けさせている。それを返せ、とも言っても聞かないであろうし、そのまま噛みつかせた方がいいか。
自分の考えを固めると、出ていったコンドウのこれからが少し気になった。
暗殺者をキジマに頼ったことで、コンドウはこの計画から離れようと思えば簡単にできるし。素知らぬ顔で次に顔を合わせた時にでも、このキジマを兄弟の先頭に立って非難する側に立つことが出来る。
しかし、あの男の性質からしてそんな予防線を張ろうとしてのこのような計画を考えたとは思えない。
一体、何を考えている?
==========
――ボストン公共図書館、地下鉄コプリ―駅
ホームを走る私は”予定”通りのコースを走り抜けざま、地上に地雷をひとつ落としていく。
前方のもっとも奥まった柱の陰からはガービーの「将軍!」という声が上がる。相変わらず心配性なことだ。
自分でも驚くほど活力に満ちた私を、背後から飛んでくるレーザーや銃弾はとらえることはできない。
私は床を滑って勢いよく柱の蔭へと入り込んだ。
「ストロング、もう少しだ」
「ウウゥ」
「将軍。あんたどんな体をしているんだ?スーパーミュータントが必死で食らいついていたぞ」
呆れたガービーの声に、背後を見やるとミュータントドッグと並んだスーパーミュータントが「マテ、ニンゲン!」と叫んでまだ走っている最中であった。
予定のポイントまで、あと2秒――。
「来るぞっ!」
私は声を出すと、柱に背中を預けるようにして再び隠れる。
次の瞬間。
スーパーミュータントらの足元にあった地雷が反応し、ホームを横切るように設置して全てへと爆発が連鎖していく。
私とガービーの手によって、地下駅を占拠していたミュータントはアッサリと掃討した。
まぁ、私に言わせればそもそも数が少ないのだから当然の結果だと思ったが。まぁ、それをわざわざ口に出して誇る話でもないだろう。
ガービーの話によると、いつからとはわからないが。トリニティ・タワーにいたスーパーミュータント達はダイアモンドシティへの足掛かりとして。ここに手をのばしていたらしい、とのことだった。
しかし、それが事実だとすると。ここにあった戦力ではあまりにも――。
「ストロング、どうした?」
「音、驚イタダケ。デモ ストロング、ナゼカ動ケナカッタ。ドウシテ!?」
「驚いたんじゃないかな」
「ストロング 恐レナイ。ソンナコトハナイ」
真面目なのだろうが、ガービーがそんな会話に参加してくる。
「隠れておけ、そう言っただろう。体を乗り出すからだ」
「デモ 人間。オマエノ作戦 面倒。タダ タタキツブセバイイ」
「それであいつらは俺達にやられたんじゃないか。こっちの被害はナシ。見てなかったのか?」
「ソンナコト ワカッテル。オマエ キライ。ストロング 馬鹿ダト思ッテルンダロウ?」
「――意見を述べただけだ。馬鹿にはしていない」
どうやらストロングはガービーが真面目でお堅いことが気に入らないようだ。スーパーミュータントの流儀を素直に聞かないことに不満があるらしい。ガービーはそう思われる理由がわからずに困っているようだ。
凸凹すぎる会話はなんとも微笑ましいものがある。
「楽しい会話はそのくらいにして。ストロング、この駅に戦力が残っていないか確認してきてくれ。ガービーは私と一緒に、図書館の入り口を見に行こう」
「ワカッタ」「了解だ、将軍」
ニックの話を裏付けしつつ、彼が生きていると考える旧世界の犯罪王を見つけ出すこと。
前者はニック自身の調査記録があるので、それほど苦労はしないだろうが。後者は彼をしても届かなかった捜索を素人探偵でもできるのか、という問題があった。
「まずはニック自身の調査を再確認。そこから情報を洗い出していく」
「探偵が分からなかったことを。兵士である俺やアンタがどうにかできると思うのか?」
「難しいかな?」
「――なぁ、こんなことを言っちゃなんだが。アキラの協力は得られないのか?彼なら、そういうのを得意そうだろう」
「無理だよ。そう本人にも断られている」
嘘だった。
もし、私が協力を求めれば彼はそれに応じてはくれるだろうが。
私はここでニックの調査をしながら、同時にアキラの――私の若い友人の情報も何かないか。それを調べようと企んでいる。
アキラが私の知らないところで大きなトラブルに見舞われたと知った時からずっと考えていたことがあった。
なぜ、200年後のこの時代に彼は狙われるようなことになったのか――それは同時に、私もかつての時代に隣人として彼の顔を見たことがないという事実にもつながっていく。
――アキラは本当に、私と同じく200年前からの生存者であるのだろうか?
このことをはっきりさせておきたかった。
地下鉄からの階段を上ると、そこには図書館への扉があって閉じられていた。
ガービーはさっそく調べると、インターコムからこちらに声がかけられた。
『ボストン公共図書館へようこそ。当館は現在緊急閉館中となっております。残念ですが、またのお越しをお待ちしております』
「将軍、これは?」
「システムがまだ生きていたんだ。ロックダウンされているということは、中には普通には入れないってことでもある。なるほど、スーパーミュータントが地下にいるわけだ」
「なにか方法はないのか?」
「鍵穴があるなら、ピッキングできるんだが……これは鍵のない電子錠だな」
「アナログでは太刀打ちできないか」
「……どうかな、試してみよう」
私は再びターミナルを操作すると、先ほどと同じく電子音が案内を入れてきた。
そこに私はマイクに顔を近づけて会話を試みる。
「ここのスタッフだ。中に入るにはどうしたらいい?」
『職員と予約のある方のみ入館可能となります。それ以外の方はロック解除後、通常営業時間内にお越しください』
「わかった、ID番号は何桁だ?ちょっと忘れてしまってね」
『6桁となります。これでいいですか?』
「ああ――それじゃ、確認してもらおうか」
となりでガービーが「大丈夫か?」という仕草と顔で、こちらに問いかけてきている。
この手の民間システムは、軍事用と違っていきなり警告なしに攻撃などはしてこないはずだが。本当の職員ではないから、必要なID番号なんて私が知っているはずがない。
だが――。
「ええと、そうだな……123456、これでどうだい?」
『――。』
「コンピューター?」
『図書館へようこそ、ヒルデンブランド市長。素敵な滞在を、ですが只今メンテナンス中につき、万全のサービスは期待できません。ご了承ください』
「ああ、わかってるよ。わざわざ、ありがとう」
ガチャリと錠が落ちる音がして、扉は綺麗に左右へと開いていった。
「成功だ、ガービー」
「あんたにはいつも驚かされるよ、将軍」
「うん?」
「これであんたは、かつては市長であったと証明したわけか」
「やめてくれ。どうせ使わないからと、適当な番号にしているんじゃないかと。そう思っただけさ」
「悪いがね、将軍。事実は俺の目の前でおこったことが全てさ」
ガービーはにやにやと笑っている。どうやらからかっているつもりらしい。
勝手に言ってくれ。私はその言葉には沈黙で返し、遅れて確認を終えたばかりのストロングにこっちだと声をかけた。
==========
建物に入ると、ガービーは隣で息をのんだことを私は知った。
だが、私の口から洩れたのは、ため息だけ。
かつての世界では、ここはこの国最古の知の集積所として人々に愛され。そして誇るべき国の遺産であり、守るべき多くの価値あるものがあったというのに。
妻と子と、いつかは訪れたいと思ったありし日のこの場所は。もっと輝いていたはずだが、もう瓦礫と変わらぬものになろうとしていた。
建物の壁際のくぼみには、不格好な廃材で作られた”新たな壁”が構築され。
目を向ければ階段のあらゆるところに、激しく争った事実を知らせる弾痕のようなものが確認される。崩壊した世界の爪痕はここにもしっかりと残されているのだ。
ストロングは退屈そうに鼻を鳴らした。
「誰モイナイ 敵モイナイ。ストロング 退屈スル」
「――ああ、えっと。将軍、それでどうする?」
「ストロングはこの場所に本当に誰もいないのか、確認。ガービーは、現在の状況がどうなっているのか。警備システムを探して確認してくれ」
「わかった。それで、あんたは調べ物をってことだな?」
「そういうこと」
ありがたいことに図書館の電源はまだ生きていて、ターミナルもまだ多くが稼働できる状態でそこに残されていた。私はその一つを前に座ると、さっそくニックの調べたデータの検証に入る。
エディー・ウィンター、大悪党なのは間違いない。
自身だけではなく、他のギャング団とも手を組んでの殺人事件の追及を逃れたのは見事な手際であったようだ。検察も警察も、負けを認めてメディアの前で憎々し気な表情でたびたび彼の名前をだしている。
実際、彼のかかわる犯罪は雑なようでいて、結果はいつも同じだった。
検事は提示する証拠の中にエディーの影を嗅ぎ取っても、証人たちは誰も彼の名前を法廷で口にすることはなく。勇気ある一握りの人々は、そこに立つまで生きていることが出来なかった――。
あの頃の私にとってはそれは、ただの新聞記事のひとつでしかない出来事であったが。こうしてニックの目を通してこれらの一連の騒ぎを見直してみると。
当時の警察や検事局、そしてマスコミはどうにもできない相手を前に手をこまねいている状況に苛立ち。互いにそれを非難しあっているような、ひどい状況であったのだろうと推察された。
(犯罪のたびに、エディーは自身の口でその後に起こる事件。その前に起きた事件に自分が関与していたような口ぶりで、ホロテープとして残していた?変わった奴だな)
自己掲示欲がどうしようもなく大きな男、ということだろうか?
しかしその割に、警察や検察などを平然と煙に巻いている。これは――なにかおかしくはないだろうか?
軍事作戦において最も気にしなくてはいけないのは、自分たちの情報を敵に悟らせない、知られない、そういうことが大事だ。これは基本なのだ。
それを考えると、エディーのこの一連の大物として君臨する中での事件では。
彼の存在はあまりにも目立ちすぎていて、なのにまったくボロを出すことがないというのは確かにそれを目にする他人にしてみたら悪魔的にも感じるだろう。
しかし、私はそんなことを信じはしない。
チェスを知っているだろう?
戦い方には戦略と戦術が必要だが。現実に当てはめるとここにはさらに敵と駒の配置までが重要になってくる。
つまり、ゲームはいつも最初から始まるわけではないから。時には別の誰かが動かしていた駒をそのまま自分が引き継いで最後まで進めたり。ゲーム自体を始めようにも、自分の向かい側に座るはずの敵の姿がなくて、ゲームが進まない。
戦場とは、私の知る世界はそういうことばかりが起こっていた。
ではこのエディーはどうなのか?
私の目から見ると、エディーのこの派手なパフォーマンハスはあまりにも出来過ぎているとしか言いようがない。
あらゆる状況であっても、オールラウンドに力を適切に発揮してみせ。戦えば常に100戦を100勝しているということになる。
そんなことは可能だと?いいや、不可能だ。
「では、どうやってそれを証明する?」
調べられる過去のデータとニックの調査だけでは、やはりこの大悪党のイメージは、私の中では今もぼやけたままなのだ。
これをはっきりとしたものとするためには――。
「それではミスター市長殿。あなたの出番ということだ」
思わぬ港運から、私は先ほどかつてのボストン市長のIDを知ることが出来た。
彼のような権力者には、本人が望めば手にすることが出来るちょっとした特典があることを私は軍で学んできた。それを生かすなら、まさに今のこの状況がふさわしいだろう――。
コンピューターは素直に私に200年前の市長のデータを呼び出してきてくれた。
ということは、今もあのマサチューセッツ州議事堂は生きているということらしい。そこに行くことなく、私はなにか新しい情報がないか調べてみる。
(うん?特別捜査班の解散、”冬の終わり作戦”は終了。冬――ウィンター、か)
「司法省が中心となって、それぞれからスタッフを招集していた、だって?これかな」
残念ながらこのチームの捜査資料の閲覧は、市長でも許されていなかった。
しかしそういうことなら、どうしたらいい?
作業をいったんは中止し、視線を周囲へと泳がせる。
ニックの調査の裏はとれたが、必要なのはこの先の情報だ。アキラであれば、ここからさらに多くの情報をターミナルにしゃべらせることは出来ただろうが――。
(アキラ、か)
私は急に冷静になる。
ニックや私に謎があるように、アキラ――あの若者にも大きな謎が存在する。
彼はあのVault111で私と共に同じく200年前から眠っていたのか?ならば、私の記憶の中にあるサンクチュアリにいた住人の中に彼を見た記憶がないのは何故なのか?
そして200年後のこの世界で、彼を誘拐しようとしたおかしな連中がいるらしい。そいつらはなぜ、アキラを狙う?彼のなにを知っている?
「検索、と。市民、イガラシ……アキラ。市民カード発行は、いつかな?」
過去の記憶のない彼でも、自分の名前と年齢だけはなぜか覚えていた。しかしこれで調べれば、彼のそれらの情報が正しかったと証明されるはず。
返信はピッという音声と共に画面に表示された。
私はそれを読み、体をこわばらせて息をのむ――画面には文字のみ。
――NO DATA
と、それだけが表示されていた。
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巷ではその週もまた、連邦は荒れた天気になるだろうと噂されていたが。
ボストンは黒々とした雲が強風によって恐ろしげな模様を空に作りつつ、太陽を決してのぞかせはしなかったものの。それを見上げる地上には風が一切なく、昼間であっても夜の如く蒼暗さと静寂が。まるでボストンという町が沈黙しているかのようであった。
国立図書館前の大通りの上で寝そべっていたカールの耳がひらひらと動いた後、すっくとおもむろに立ち上がる。
その顔と体はボストンコモンにむけられ、一点を集中して見つめているように見える。
犬の持つ超感覚――しかしカールはそれをさらに数倍の精度をほこるものが、確かに何かに反応を示していたのだ。
「お昼寝はもういいのですか?大丈夫ですよ、パピーちゃん。今頃はもう、皆さんはこの中で忙しくしているだけなのです」
「……」
レオの頼れる相棒、カールにそうやって話しかけるのは。かつては忠実なMr.ハンディとよばれるロボットだったコズワース。
しかし今の彼は、その面影はどこにもない――。
セントリーボットの三脚には似ても似つかぬ、巨大なカニの手を思わせる武骨な四脚。
かつてはそこに2つの目があった、アサルトロンの腕の先には重装備の火器がそなえつけられていたが。巧妙に背中に体に隠れるようにして偽装されたロボブレイン・アーム。つまり四つの手。
かろうじてかつての姿を残すのは、Mr.ハンディのボディとひとつ目であるが。それとて戦闘のそれに変更され、以前の姿を知っていたとしても教えてもらわなくてはそれと気がつかないほど。変わり果てた姿となっていた。
なぜ、コズワースはこんな姿になってしまったのか?
コズワースがレオを伴い、再びコベナントへと来訪した時。
そこには彼のために残された物資はすでになく、アキラは困惑と焦りの表情で彼らを迎えていた。コベナントの資源は当然だが有限であり、その時点でアキラは多くのロボット達とベルチバードの計画が動いていたのだからむしろこれは当然の事だともいえる。
――あきらめなくていいのです
肩を落としたコズワースに助けを申し出たのは、驚いたことにエイダであった。
メカニストとの対決を睨み、エイダの改造分の資源はすでに確保されていたのだが。エイダはこれのいくつかをコズワースにゆずることを申し出たのだ。
――彼の願いは、私自身もよく理解できるものでしたから
それが原因で、エイダの改造は延期となり(武装以外はアサルトロンのまま)。
コズワースは譲られたパーツと武器を装着して、このように生まれ変わってみせたのである……。
そのコズワースは、甲殻類を思わせる四脚の動きでカールの隣まで来ると
「ご主人様たちなら大丈夫です。確かに爆発音がして驚きはしましたけれど。私のセンサーによれば、建物の中に入ったのは間違いありませんから。留守番の私達はただ、待っていればいいのですよ」
「……」
「――ええ、そうですよね。こんなことになるなんて心外ではありますが。
ですが、この体は大きするし。手にした火器が強力すぎると、崩れかけた建造物の中に入ることを止められてしまうなんて。これはまさに誤算というものです」
「……フンッ」
カールはこのロボットの嘆きをまったく相手にしていなかった。
だから「何を言っていやがる」とばかりに鼻を鳴らす。そして再び感覚を研ぎ澄ます。
この強く、賢い犬はレオの思惑をちゃんと理解していたのだ。
レオ達が中で調べもモノをしている間、外でコズワースと一緒に周囲を警戒すること。
だが、今のカールにはわかる。
この場所に向かって急速に近づいて来ようとしている集団が複数あるということを。
カールは頭を下げて今度はその場でグルグルと回り始める。これは犬なりの悩みと、決断する前の迷いからくる行動であった。
この3つの集団を一頭と一機だけで迎撃するのは無茶であるし。中にいるレオ達に警告を出すにしても、図書館に籠城するか。もしくは決して悪天候ではないこの町の中で追撃を覚悟の退却戦を演じるか。
レオと共に修羅場を潜り抜けてきたカールの――犬の勘が、そのどれもが悪いものだと結論をだしてきている。
その時、この犬の脳裏に輝く”ひらめき”が雲の向こうから降りてきた!
==========
ガービーはひとり、苦労して警備室に入り込むとそこに残された過去ログからおおよその事情を察することが出来た。
どうやらここの機能はそれほど深刻なダメージはなかったらしく。大破壊の後も長く、ここに務めていた人々は残っていたようだ。
しかしそれにも限界が来て、この場所を守るための警備システムとロボットを残して全滅してしまう。
「まさに聖櫃、というやつなのかもな」
そう口にするガービーの目の前に置かれた大容量記憶媒体の中には、ここに収められていた膨大な図書の内容をあますところなく記録したものが入っている。
最後の瞬間まで、使命と情熱に突き動かされて完成されたそれの価値をガービーは理解できないが。
これが彼らがどうしても残したかったのだという必死さは、理解できた。
「ここにそのまま置いてはおけない。だが、どうしたものか――なにか方法を考えないと、な」
言いながら、肩にかけたバッグの中にそれを詰め込んでいく。
警備室を出た帰り、中庭では噴水の水で遊んでいたストロングを回収すると、ガービーは顔色の悪いレオの元へと戻ってくる。
「どうだい、将軍?2時間くらいたったかな」
「――あ、ああ。そっちは?」
「問題ない。警備システムは生きているが、入口から行儀よく入ってきた我々のことはちゃんと認識しているみたいだった。このまま鍵をかけて立ち去れば、またしばらくここは静かになるはずさ」
「そうか」
調査の方はうまくいっていないのだろうか?
どんな状況でも顔色一つ変えない男だと思っていたレオの様子がおかしい。こちらの質問に答えたくないみたいだった。
「それで、どうなってる?まだかかりそうなのかい?」
「えっ、なに?」
「ニックの調査。将軍、大丈夫か?なんだか様子がおかしいが、まずいことでも?」
「調査?――ああ、ああ。調査は、大丈夫さ。ほとんど終わった」
「そうなのか?それで、この後はどうする?」
「――ひとつ、寄るところが出来たようだ。次は新聞社に行かないと」
「新聞だって?」
「ザ・ボストンビューグル社だ。地図でも確認した」
差し出されたのは旧世界の地図であったが、レオによって印がつけられたそこの現在を、ガービーは脳裏で当てはめてみせる。
「ここも危険な場所だな。しかし、俺達ならきっと大丈夫だろう」
「本当なら、州議事堂跡やマサチューセッツ工科大にも行かないとダメかと思っていたんだが――さすがにすべてを回ってはいられない」
「ああ、わかるよ」
口ではそう言いいつつも。
レオの顔には、やはり悩みを払いきれないものがある。
「将軍、本当に大丈夫なのか?なんなら一旦、ダイアモンドシティからハングマンズ・アリーに戻った方がいいんじゃないか?」
「大丈夫だ」
「しかし将軍――」
ウウウゥゥゥーーーーー!
しつこく食い下がろうとしたガービーだったが、館内に鋭いサイレン音が鳴り響いてはそれどころではなかった。
レオもハッとした表情になると、眼前のターミナルに何事かと警備システムを呼び出しにかかった。
「ウルサイ。コレ、ウルサイゾ!」
「将軍!?」
「……侵入者警報が作動した。地上と地下、すべての出入り口から警告が出ている」
「どういうことだ、将軍」
「そもそも最高レベルの警戒で封印されていたが。私達が入ったことで、そのレベルが自動的に引き下げられてしまったんだ。この侵入者たちはそれを知ってか、一気にここを制圧しようとしている」
「それは、誰だと思う?」
「スーパーミュータントだ、間違いない。駅で戦闘があったことをしっていたんだ。うかつだった!」
会話している間にも、館内で静止していたターレットやロボット達が次々と復活し。あちこちで「警告、警告」と騒ぎながらも巡回を開始していた。
「入口はどれくらい持ちそうなんだ?」
「すぐに破られるさ。だから、ロボット達が大騒ぎしている」
「ニンゲン、戦イガ ハジマルノカ?」
「まだだ、ストロング」
「将軍?」
「緊急状態のせいで、今の警備システムはゲストと侵入者の見分けがつかないようだ。ガービー、こいつを使って私達が職員であると無理矢理に認めさせることが出来るか?」
「俺が?知っているだろう、機械は得意じゃない」
「私もさ……よし、しばらくは隠れて移動しよう」
机の横に立てかけていたライフルを手に取ると、私はようやく席を立って中腰で移動を開始する。
まずは中庭へ。そこで様子を見て仕掛けることになるだろう。
同時に私は不安を覚える。
こういう事態を想定して、外にはコズワースとカールを置いておいたはず。
彼らからの警告はなかったし、スーパーミュータントが彼らを騒がないようにしてみせたとも考えたくはないが――。
「ガービー、ストロング。静かに、見つかるなよ」
「ストロング 戦イタイ」
「負けたくないなら指示に従うんだ。前後をはさまれて、なにも出来ないまま死にたくはないだろう」
地上の入り口からわずかに遅れて、なにやら破壊音のような音がすると。
侵入者たちと防衛側の激しい交戦が始まるのを聞いた。
「将軍。これは間違いなくピンチだぞ」
「そうかもな。だが、これよりももっと悪い状況でも、私は生き残ることが出来たぞ」
それは励ましの言葉であったが。同時に事実でもある。
確かに、間違いなくこれは最悪の状況ではない。
私の手にはライフルがあり、そして共に戦う頼もしい仲間もまだいるのだから――。
(設定)
・ID番号
原作からこれである。気持ちはわかるが、それだけに複雑な気持ちにさせる
・4脚
4本足のロボットというと、パトレイバーのロードランナーとか。ラーダー?あれは6脚だったかな・・・・そんなイメージ。
・コズワース(新型)
エイダのパーツを分けてもらい。巨大な手足をくっつけた、オモシロ愉快な小型戦車化されている。
脚にはそれぞれパワーアーマーにも使われる噴射式火炎放射器が搭載。接近戦での必殺技として使用される。
胴体取り付けられた右腕にはガトリング(ストロングから頂いた品)、左腕にはミサイルランチャーが設置され。火力だけならはセントリーボット相手でも全く引けは取らない。
ただ、元がMr.ガッツィーとあってシステム面での不安があったが。これを補うために背面のトランクに、折り畳み式のアームと一緒にセントリーボットの頭部に使われるAIを組み込んでいる。
ただこれのせいで戦闘中、コズワースは第2の脳の影響を受ける羽目になり・・・。