ワイルド&ワンダラー   作:鷹雪
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オーバーキルズ Ⅱ (Akira)

 夜、戻ってきて――というか。

 実際の話、出会ってから初めてだと思うが。上機嫌なゲイジの舌は止まることなく動き続けた。

 隠せない笑みに顔を歪めているのも、どうやら今夜のガントレットでのショーが痛く感じ入ったからだと何度も口にしていた。

 それでもまだ足りないと思ったか。ついには「俺はあのクソッタレのガントレットを始めて心の底から楽しめた」とまで褒めたたえてきた。

 

――そうかい

 

 だからといってこちらの返事もそれに合わせて喜ぶ気分にもならなかった。

 それがまた、なにやらクールだと。もうこうなると、バカらしくなってくるね。

 

「『総支配人は凄い』、それはもう何度も聞いた。ゲイジ」

「ああ、そうだな。何度も言った。そしてそれはあんたのことだ」

「そうだ。満足したか?」

「ああ……いや、まだだ。もっと言わせてくれ、この感動は忘れられそうにない」

「もう黙れよ。こっちはさすがに疲れてるんだ」

 

 正確に、それはもうゲイジにこの部屋から出て行けという意味だったが。まだ何か言い足りないらしい。動く気配すら見せない。

 ここで僕が癇癪を爆発させれば簡単に従わせることは出来ただろうが。レイダーの流儀に慣れていると相手に思われるのも困るので、別の方法をとることにする。

 

「それぞれのボス達の反応はどうだった?」

「まったく問題はないさ、だってそうだろ?あんたの実力を改めて知った。ただそれだけだ」

「こっちは直接は顔を見てないんだ。ちゃんと報告しろ、俺の役に立つのならな」

「ああ、そうだったな――メイソンに続いて自分達のところからも馬鹿が転がり出てきたとあって、ニシャもマグズも顔色を変えていたんだが。あんたがあんまりにもあっさり見事に終わらせるから、すぐに会場を後にしていたよ。パックスは――」

「それはいい。メイソンも似たようなものだったんだろ」

「無口ではあったな。いや、それはいつものことか」

 

 本来であれば自分たちが背負わされるはずだった面倒ごとを僕が解決したことで、連中は別の意味で今は焦りを感じているはずだ。

 明日からは自分の存在価値をこちらにアピールしようと、色々と別の考えを持っていることだろう。そこにキンジョウ達が関係するものがあれば、良いのだが。

 

「それとグッドネイバーのハンコック市長だ、ボス」

「ああ。彼はどうだった?」

「楽しんでいるようだった……すまない、試合後に近づく機会がなかったんだ。だが十分なアピールはできたはずだ、あんたは自信を持ってくれ」

「そんなことは気にしちゃいない。俺が気にするのは、彼にこちらを友人だと認めさせることだ。伝説の悪党が相手なんだぞ、このチャンスは逃せない」

「ああ、わかるよ。でも――」

 

 それ以上ゲイジが言葉を吐き出させないよう。僕はにわかに殺気立ってにらみつけることで黙らせる。どうせ「このまま殺してしまってもいいだろ?」とでもいうつもりだったのだろう。

 この場所にいるレイダー・ボスの手綱さばきを知るためにも、そばにいるゲイジからそんな考えは許さないことを徹底させねばならない。皆を危険にさらさせはしない。

 

「ここが俺の王国として、連邦に興味があったとしても。今はグッドネイバーは必要ない、ゲイジ」

「――俺はただ、もっと柔軟な考え方もあるんじゃないか、と思ったんだ」

「ハンコックを殺ることが柔軟?ハッ!笑わせるな、こんな荒野でグールの死体を作ってどうする。

 グッドネイバーがそれで手元に転がり込んでくるわけじゃない。あの辺りでいつもハンコックにいいようにやられている連中が喜ぶだけだ。貧乏くじなんだよ!」

「まぁ、そういう考え方もあるよな」

「あのグールは賢いし、話ができる。ならするさ」

「それがあんたの望みなら、ボス」

「ゲイジ、ゲイジ!それじゃ困る。お前も賢くやってもらえないなら、俺がここに戻って見回した時。不貞腐れた数日間は間違ってないってことになっちまう」

 

 どういう意味だ?ゲイジの顔にそう書かれていた。

 

「お前は俺の片腕になれると、そう考えているんだろうが。それならもっと”柔軟な思考”ってやつができないと困る。

 例えば、そう。俺のそばにもうひとり有能な奴を加えるとか」

「なんだよ。いきなり俺をお払い箱にするって話か?」

「そんなことは言わないさ。ただな、俺がお前以外の奴が便利だと考えたとしよう。その時、お前がそのことを理解できるのかってのが正直わからない。

 つまりな?お前は退屈な女みたいに、俺の女房面を始めて新しい関係がうまれることに邪魔を始めるんじゃないかって不安だ」

「おいおい、まさか。俺の嫉妬を疑ってるのか?」

「もちろん疑う。だからハンコックのことは俺が決めた。お前にそれをやってもらう」

「そういうことなら、わかった。ちゃんとやるさ」

「まずは話をして、商売の糸口があるか探ってみろ。強引に契約を取らなくてもいい。それでどうだ?」

 

 問いかけると、ゲイジはまたいつもの茫洋とした落ち着きを取り戻し、間を置かずに答える。

 

「そんなことでいいなら簡単だ。ふん、よし。

 オペレーターズに、マグズにそれをやらせよう。それでいいか、ボス?」

「オペレーターズか――」

「ボスがグッドネイバーとのビジネスが望みなら、彼女に任せたほうがいい。きっと会話も弾むはず」

「ならそれでいい。あと、俺はこの件に関わるつもりはないからな」

「なんだ。どうしてだ?」

 

 力いっぱいの悪い笑みってやつをやりながら、僕はわざとゆっくりゲイジに答えを返す。

 

「お前がそれを俺に言うのか?あいつらに与えるヌカ・ワールドを解放しなくちゃならない。それが俺の仕事じゃないのか?こっちは忙しい」

 

 そう言うと「疲れた、もう寝る。出ていけ」と言ってゲイジを部屋から追い出す。

 

「ああ、ボス。最後に一言」

「なんだよ」

「最終ステージの控室、あれは見事だった。俺は感動したよ」

「……そうか、寝る。出てけ、邪魔だ」

「ああ、わかった。今日はゆっくり疲れをとってくれ、オヤスミ」

 

 それでようやくひとりになることができた。

 フィズトップマウンテンの頂上から、カウンターに入ってヌカ・コーラを手に取り。キャップをはずすとそのまま一気に飲み干してみせた。喉を滑り落ちていく液体の辛みが焼けつくような痛みをそのまま胃の中まで続くのも構わずに。

 

――クソがっ!!

 

 思わずカッとなり、そのまま空の瓶を窓の外に向かって力一杯に放り投げ。新たなヌカ・コーラを2本カウンターの上に置く。

 

「ガクテンソク、いるな?」

「ハイ」

 

 ステルス装置を解除する音と部屋の隅にアサルトロンが出現する。

 

「申し訳ありません。あの男に始末しているのを気付かれてしまいました」

「――お前にミスはなかったはずだ。お前はエイダの戦闘データも思考パターンも厳選して組み込んだ。違うさ、奴の方が上手だった」

「このミスは私がやったことです。あなたを失望させてしまいました」

 

 2本目を半分まで空にする頃には、ようやく怒りの塊も腹の底で徐々に分解していった。冷静に考えてみたら、このくらいで動揺することはなかったことに気が付いたのだ。完璧、とはいかないものさ。

 そういうことなんだ。

 

「お前に失望なんかしてない、ミスもないよ。お互いに切り替えよう、このことは忘れるんだ。次に進めるために」

「わかりました」

「他の連中はどうしてる?」

「皆さんは宿に帰られました。

 ここの監視もついてますので、今夜は大丈夫だろうとのことです。ローグスは外で待機、指示があればいつでも突入し。レイダーを皆殺しに出来ます」

「エイダからは?」

「どうやらミニッツメンの力が必要とのことで、レオに会いに行くとメッセージが送られてきてます。どうしますか?」

「あのハゲ、ミニッツメンに借りを作る気か?まぁ、彼女がそうするときめたのなら放っておこう。返信はしなくていい」

「はい」

「それと実は、この周辺の地形はローグスに偵察を頼む」

「わかりました。どのようにしましょう?」

「危険は冒さなくていい、戦闘はなるべく回避するんだ。危険なエリアとの境界線を把握したいだけだからね。でも時間はないぞ、出来るか?」

「明朝まで、ということですね」

「そうだ」

「わかりました――部隊に指示を出しました。私も今から向かいます」

「ガクテンソク。ここで挨拶だ、おやすみ」

「――そうでした。これはミスです。おやすみなさい、マスター。明朝にお会いしましょう」

 

 ステルス装置が作動し、何かの気配が自分から離れていくのを横目で見ると。僕は最後のヌカ・コーラをやっつけにかかる。

 

「待てよ。こんなに飲んで、眠れるものかね?」

 

 口に出してしまうと、続いて先ほどのガクテンソクを真似して「これは自分のミスです」と言いそうになる。アキラは少年のようにフフンと笑うと、ちびりちびりと瓶の中の液体をなめるようにして楽しんだ。

 

 

==========

 

 

 オーバーボスによるガントレットの復活ショーの威力は十二分なものであったはずだった。

 しかし翌日にはそんなもの。ヌカ・ワールドは早くもすっかり忘れ去る。

 

 ひとつはゲイジがハンコックに対し、ビジネスを持ち掛けるための供応役としてオペレーターズを指名したことと。

 オーバーボスが朝方にひとり、ヌカ・ワールドのエリアに向けて歩いていくのをディサイプルズのレイダー達がたまたま見送ったことで、いよいよエリア分割の話が近いことを肌で感じることができたから。

 

――あの野郎

 

 ニシャ、マグズ、そしてメイソンは表立っては平然とした風を装ってはいたが。内心では少なからずアキラに対し、憎悪を感じていたことだろう。

 

 オーバーボスが派手に動き続けたことで部下の心は沸き立っているのに、そこにきてゲイジを通してグッドネイバーとの商売をもちかけてみろという。それは言ってみれば、浮かれた部下がバカをしないように”今度はちゃんと自制させておけ”という各レイダーのボスたちに向けたメッセージに他ならない。

 それはつまりニシャとマグズには、メイソンのとばっちりをまたまた被ったと考える話だった。

 

 ゲイジはマグズに会いに来ると、最初の打ち合わせだと言った。

 マグズの言葉は短く、簡潔なものだった。

 

「わかった。オーバーボスを満足させてあげる。オペレーターズに一切を任せてくれればね」

「ああ、そりゃボスも喜ぶだろうがね。彼は、俺にもそれを手伝うように言ったんだ、マグズ」

「それならばなおのこと、任せてもらいたいわね。こちらの仕事に横から口を出されるのは迷惑よ」

 

 マグズはゲイジからも少なくない距離を保とうと図る。彼女は薄々、メイソンの(というより、彼がオーバーボスを試す形だったが)次にアキラはマグズを試されているのだと考えた。

 

 すると会談と警備には完璧が必要だし、それまでにニシャとメイソンが黙ってオペレーターズの準備を横目でニヤニヤするだけですませるなんて考えられない。

 ここはゲイジに自分に張り付かれるより、他の連中が余計なことをしないように監視してもらったほうがよっぽど助かるというもの。

 

 それでも準備には数日を必要とした。

 難しいことではなかったはずなのだが、案の定。ほとんどすべてに関し、問題が発生したのだ。

 

 予算として渡したキャップを持ち逃げしようとした馬鹿や。警備計画を盗み聞きし、会談当日に襲撃しようとした唐変木。こんな忙しい時にパックスの下っ端ともめて決闘騒ぎを起こそうとしたアホ。

 でもこのくらいなら可愛いものだった。

 

 問題は、会談に必要と思われる物資を求めた部下の多くが消えたこと。

 何が起きているのかは考えるまでもないが。そんなことになった原因の大半はディサイプルズやパックスが関係していたはずである。

 少なくともマグズたちはそう信じていたが。ここは黙って、自慢の弟まで繰り出すことで同じ間違いから回避し。準備を一つずつ進めた。

 

 

 

 約束の日の昼頃、いつも連れ歩くマクレディと名乗る傭兵とハンコックは店の中へと入ってきた。

 相変わらず1週間近くここに居るのに、この市長はなにが楽しいのやら陽気に鼻歌を歌い、軽やかな足取りであった。

 

「店のオーナーが目を見張る美人というのは、良いものだ。食事の時間が楽しみでしょうがなかった」

「ええ、そうかもね。今日は招待に応じてくれて感謝――」

「俺達は別にアンタのご機嫌うかがいをしているわけじゃないぞ、ハンコック市長」

 

 マグズの全身に冷たい汗が吹き出し、思わず弟に対し「ウィル!?」と非難する声までみっともなくも上げてしまう。

 

「面白い冗談だな。楽しい時間を始める前から不愉快なものにしたがる奴がいるのか」

「俺は――」

「やめなっ!……すまない、ハンコック市長。この弟はちょっと……あんたの伝説にナーバスになってるだけなの」

「ああ、わかるぜ。なんせこの俺でもそうなる時があるんだ。若いお前たちが今がそんな時だってことはちゃんと理解したさ。続けようか」

「ありがとう――それでは席に案内するわ」

 

 オペレーターズのボス、マグスは。弟のウィリアム、そして友人の と共にダイアモンドシティで育ち。グッドネイバーで名をあげた。

 とはいっても当時の彼女たちはまだまだ小物もいいところで、市長にプレイヤーとして認められるほどの仕事はしていなかったが――。

 

「それじゃ飯を心の底から楽しむ前に――おい、マクレディ。俺の可愛い子ちゃんたちはどうしてる?」

「……何度も言ったが、俺の任務はあんたの護衛なんだよ。市長、女のことなんかしったこっちゃない」

「おいおい!そりゃ困った。ここはグッドネイバーじゃなく、レイダーの町なんだぞ?

 俺と一緒にいないで、あれほどの上玉をここの連中が放っておくわけがないだろう?まったく、なんて頭の固い奴なんだ」

「繰り返すが。俺の仕事じゃないんだよ、市長」

「この野郎!――」

 

 ハンコックがついに怒りの声を上げようとする辺りで、マグズは「ちょっと落ち着いて」といいながら会話に入る。

 

「ハンコック市長、心配はいらない。私たちのオーバーボスがあなたを客人と決めた。

 その女性達は客人の連れってことでしょ、このヌカ・ワールドにオーバーボスに逆らって馬鹿をやろうとする奴はいないわ。彼女たちならきっと無事よ」

「ああ、その通りだといんだがな。そうじゃない現実ってやつを俺はたっぷり味わってきた。マヌケな部下のおかげでな」

「そんな不愉快なことにはならない。連邦を知る悪党なら、グッドネイバーの伝説に敬意を抱かない奴はいないわよ」

 

 マグズはそう言ってにこやかに笑うことで安心させたが。視線が動く一瞬、ハンコックの背後に立つ警備のひとりをにらみつけた。

 にらまれた相手は視線に気が付き。すぐに無表情のまま部屋の外へと出ていく。

 

 うっかりしていたわけではないが、ハンコックにこちらに集中させるためにも。

 連れの女たちに何かがあった、などとやられるわけにはいかない。出ていった男は、すぐに部下を連れて女たちの護衛にむかうはず――。

 

「それじゃ、メニューの発表の前に言わせて。ハンコック、このオペレーターズはレイダーではあるけれど。ここをちゃんと店として機能させられるだけの腕を持つシェフたちも用意しているわ。だから、料理の腕に関してはきっと満足してもらえるはず」

「ほう、そりゃ楽しみだ」

「それじゃ、初めて――」

 

 このマグズにしては珍しく、今日のこの席にいつも通りのアーマー姿で来たことを後悔していた。

 女性の体のラインがしっかりと出る。真っ赤なドレスでも着てくればよかった、とまで考えてさえいた。

 

 今日のこの席には、オーバーボスだけでなく。ゲイジの姿もない。

 マグズの言葉を”信用して”一切を任されている。

 

 そのせいなのだろうが、ハンコックの興味はイマイチここにいるマグズには感じていないようだし。それがこの会談を難しいものにしようとしていることにここにきてようやく気が付いたのだ。

 終わる前に何らかの条件に触れられなければ、失敗しましたではすまされない。

 

 それにしても意外なスタートであった。 

 難航する準備にも駆り出され、いつもよりやや不機嫌な弟がまさかあんなことを口にするとは思わなかった。たいして重要とは考えていなかったが、どうも彼はガントレットの一件でオペレーターズに恥をかかせたのだと不満を持っていたようだ。

 

 それについても解決しなくてはいけないが……とにかく今は、この会談でどこまで話を進められるのかに集中せねばならない。

 

 

――その頃。

 

 ヌカ・ワールドのエリアのひとつ。サファリアドベンチャーの住人、シート―は日課の2回目の巡回の真っ最中。

 

 このシート―はただの人間だが、共に暮らしている家族のゴリラたちがここ数日落ち着かない。そして彼らと同じ理由なのだろうか。このサファリアドベンチャーを我が物顔で徘徊するゲータークローという、デスクローに似た怪物たちも妙に殺気立っているようだった。

 そのせいでシート―は家族の安全のため、こうして油断なく自分たちの家の周りに何者も近付けさせないよう目を光らせている。

 

 するとおかしなもので、シート―の感覚も彼らに同調でもしたらしい。皮膚に感じる脅威の存在がどこにいるのか、なんとなく感じられるようになってしまったのだ。

 それはドライロック・ガルチ。

 このサファリアドベンチャーの隣のエリアからだった――。

 

 

 安全を確認すると、シート―は家族の無事がしばらくの間は確かであると安堵しつつ。すぐに家族の待つ家に――檻に戻ることをためらった。今日も、だ。

 

 時間が過ぎていく中で、この落ち着きのない重圧は本当にあのドライロック・ガルチからなのだろうかという疑問が彼の中で強い誘惑を持ち始めている。自分が感じる不安の正体を確かめたいという思いと、しかしその間に家族に危険がないとはいえないという現状認識がぶつかりあっているのだ。

 

 彼の家族は決して非力ではないが。ゲータークローの恐ろしい爪と顎は、彼と彼の家族たちの血肉を容易にかみ砕くし、引き裂くことだってできる。

 だからサファリアドベンチャーの門から外の世界を睨みつけるだけ――それだけでなんとか気持ちを落ち着けようとしていた。

 それがこの日のように裏目に出ることもある。

 

 シート―が運というものを信じているなら、きっとこの日は最悪なのだと舌打ちしたことだろう。

 正体不明の脅威から感じる重圧に苛立ちを隠せないサファリアドベンチャーの住人たちが、この瞬間にその場所でばったりとお互いの顔をみてしまったのだ。

 

 デスクローと違い、ワニのような恐ろしい顎ももっているゲータークローが。ウェイストランドではバラモンと呼ばれる双頭の牛の姿はしているものの。ただひとつ、その頭に生えた角が、彼らの獰猛さと闘争心を感じ取ることができなければ、命はない。バラミラフという、亜種。

 そしてサファリアドベンチャーで家族と平和に暮らすことだけを願うただひとりの人間、シート―。

 

 日ごろから互いを敵と認識する彼らは、怒りの方向を上げると当然のように対決が始まった。

 ゲータークローはその体格と鋭い牙や口に相手の身体を捕らえんと容赦なく振り回し。バラミラフは距離を撮ろうとして近付けさせず、少しでも隙があると見るやチャージを仕掛け。己の角をねじ込んで皮膚をひねり裂いてやろうとたくらみ。

 シート―はスーパー・スレッジを手に、どちらの攻撃も見逃すまいと攻撃のチャンスを待っている。

 

 空気を切り裂く音は絶えることはなく。踏みしめる大地はその激しさを伝えて鳴動している。

 怒り、苦痛、それらが混じる咆哮は。ヌカ・ワールドを取り巻いている荒野を吹く強風にも負けてはいない。

 

 見るだけで恐怖を感じる人もいるであろう、その人外の対決だが。

 それでもいつかは決着がつくのだ。

 

 この中の誰かが血を流し、膝をつき。弱った姿を見せた時がその合図となる。

 それこそが自然の摂理、適者生存の原理。そしてこの瞬間までは、最初に誰が脱落するのかわかるはずもなかった。

 

――その姿はまさに影。

 

 荒野から入ってくる強風に砂埃が舞い続け、ヌカ・ワールド園内を見渡すことを許さない。たとえ太陽が高くにあったとしても、だ。

 それでも強風は勢いを失うのか静寂を生み、その中から聞こえる不快な音で接近を伝えている。

 

 輝く眼光はレッドランプ、大地を歩むその動きは皆が違い。園内であっても荒野と変わらず、危険極まりないというのに誰も無言で、恐れることなく突き進む。

 機械の駆動音を響かせる集団の先頭に立つのは――。

 

 あの輝く太陽すら、その姿を明らかにすることを許さない男。

 その名はシルバー・シュラウド。アキラが使い分ける仮面のひとつであった。

 

 

==========

 

 

 アキラが――即ちシュラウドと彼のローグスがサファリアドベンチャーの入り口に到着するなり、騒ぎの全てが終わってしまった。

 

 ゲータークローとシート―の間に横から滑り込むように割って入るシュラウドは、手にした燃える一刀を振り抜き。硬い皮膚と分厚い肉で守られているはずの体を切り裂いて見せた。

 

 ローグスは彼らに標的を変えてチャージしようと突っ込むバラミラフに全力攻撃を仕掛け、闘争心の塊は走りながらバラバラにされ。地面の上に肉の塊として飛び散るように転がった。

 シート―は集中を切らすことなくゲータークローを仕留めたものの、騒ぎが収まると自分の前に立つ集団に茫然としている自分にようやく気が付く。

 

「シート―。シート―は見た。お前達、シート―を助けてくれた」

「……」

「違うのか?でもシート―はもう戦いたくない。お前に助けてもらったからだ、どうだ?」

「シート―、それが君の名前?なんだか話し方が変わってる。大丈夫なのかい?」

「すまない、シート―。あまり誰かと話したりはしない。家族がそうだから、得意じゃない」

「なるほどね、理解したよ。戦いたくないというのは、僕も同感だ。先ほど見せてもらったけど、君は強いんだね」

 

 アキラは先ほどゲータークローを始めて見たばかりだが。それがデスクローよりも決して劣ったものではないことはすぐに理解した。

 並の人間ならば、ミュータントやデスクローの前にハンマーがあるからとそれをしごいて立ち向かったりはしない。ましてやその巣窟の入り口で戦おうなんて。

 だからこそ、シート―の強さを称賛したが。しかしそれ以上のものも言葉に込めたつもりでいた。

 

「君とは気が合いそうだ、シート―」

「そうか?そうだと嬉しい。友達は歓迎だ」

 

 人の世界に、外の世界に触れていないことはここまで彼と話してみて。その朴訥とした人柄に触れたことで理解できたが。

 シルバー・シュラウドとなって目の前に立つ男にここまで普通に接してくるのは珍しい。まぁ、シート―自身もまるでコミックの世界から飛び出してきたかのような恰好を――まるでグロッグ・ザ・バーバリアンのような姿で堂々としているわけだが。

 

「シート―、家族とここに住んでいる。家族は危険、シート―がこうして守ってる」

「それは凄いね」

「友達、頼みがある。シート―、ここを変える方法を持っている。でもシート―、弱くてひとりではできない。手伝ってほしい」

「――それはまた急な話だね」

 

 僕はなんだか楽しくなってきていた。

 これじゃコミックそのままじゃないか!アン・ストッパブル発動にはシルバー・シュラウドにバーバリアン、あとはミステリーの女王が必要か?

 

 実をいえばドライロック・ガルチの掃除でうんざりしていたのは事実。

 どうせあそこはレイダー共に”一旦は”くれてやらなきゃならないし、アフターケアが万全でなくてもいいだろうとも思う。

 それにこっちのほうが何やら面白いことになりそうだ。

 

「よし、相棒。それじゃ一緒にやろう。もう、僕らを止めることはできないさ」

「相棒?シート―、嬉しい。ありがとう、友達」

 

 握手の文化を彼が知っているのかわからなかったが、僕が片手を差し出すと。シート―はそれを両手で包むようにして握り返してきてくれた。

 いいだろう、今日はここからヒーローの時間だ。

 このバーバリアンと共に太陽を嫌った影となり、このサファリアドベンチャーに平穏を取り戻そうじゃないか!

 

 

==========

 

 

 バラモンが引いている牛車の上から、商人は卑しい笑みを浮かべて護衛兼押しかけの客人たちに向けてたのしそうに言う。「見えてきましたよ」と。

 すると一斉に5人の男女が、遠くに見えてきたヌカ・ワールドへと視線を向けた。

 

 マスクやヘルメットなどで表情を見せないものもいるが、彼らはコンドウらが放った3流の暗殺者たちである。とはいっても、彼らへの評価を正確に聞かせたことはないから。彼らはこの依頼を自分のキャリアアップのチャンスだと考えていた。

 

 伝説のグール、グッドネイバー市長。ハンコックの暗殺。

 

 普通の暗殺者なら、そんなことは不可能だと鼻で笑うことで逃げようとするものだが。今のハンコックは彼の城ともいえるグッドネイバーを離れ、それどころか遠く連邦の辺境に存在するレイダーたちの奇妙な遊園地を訪れていると聞かされると、気分もだいぶ変わってくるらしい。

 

 完璧な仕事にする必要から、出し抜くことなく組むことを条件に出されているが。

 彼らにしたら依頼人のそんな要求を聞くよりも、もっと重要なことがある。 

 

(グッドネイバーにさえいなけりゃ、あのハンコックだって)

 

 自分達と同程度のレベルの先人たちは全て返り討ちにあったが、今回はチームを組んでの暗殺だ。少なくともハンコックの息の根を止めるまでは、仲間でいてやっていいだろう。そう考えている。

 悲しいことに、彼らはそう考えていたのである――。

 

 

 ここでオーバーボスとやらを演じているアキラには近づけず。

 ハンコックはレイダーのボスに招待されたと聞くと、キュリーとケイトはいきなり自分たちが放り出されてしまったのだと感じて困惑した。

 市長の情婦という役回りを与えられてはいるが、あいつらとちがって常にそれを演じ続けることはケイト達には苦痛であった。

 

(ま、羽を伸ばしてもいいよね)

 

 レイダーのマーケットなら時間つぶしくらいはできるだろう。

 

「外出、ですか」

「大丈夫よ。馬鹿はやらない、時間つぶしするだけ。どう、キュリー?」

「誘ってくれてありがとうございいます。でも、今回はやめておきます。少し疲れてて――」

 

 確かにキュリーの顔色は良くはなかった。

 例のアキラのバカ騒ぎで、彼を信じていたとは言ったが。

 あの瞬間はアキラを殺そうと舌なめずりするアホ共がさっさと死んでくれときっと願わずにはいられなかったのだろう。

 

 その上、不安を抱いても近くとも会えない立場が。彼女の感情を激しく揺さぶり、それを制御するのに体調を崩すまいと苦労している様子だった。

 

 ヌカ・タウンUSAにあるヌカ・タウン・マーケットは、レイダー達の手で運営されているというだけで。

 そこにある品物や商人たちの活気だった様子は、バンカーヒルやダイアモンドシティで見かける光景とそれほど違いはない。少なくともケイトの目から見たら、そうだ。

 とはいえ、そこはレイダー。明らかにヤバイ商品でも、堂々と店先に並べて値札をつけている。

 

 だが時間が過ぎるにつれ、ケイトの不満は徐々に大きくなっていく。

 これまではハンコックやキュリーがいたから楽しめたのだと、ひとりになってようやく理解してしまったからだ。

 

 彼女は自分を知っている。それほど気さくで陽気な人柄ではないのだ、と。

 

 それにひとりでいるのも我慢できなくなってくるのだ。

 この世界、レイダーが支配するヌカ・ワールドとかいうクソが鼻につく。

 

 ここには自己中心的な思考をもつ、キャップ好きや、サイコパスの見本市みたいなものだ。黙っていても、聞こえてくる会話は不愉快なだけ。

 だんだんとこの外出がストレスをためようとしていることにケイトは気が付いた。

 

(あたしの馬鹿。いや、わかってたけどさ)

 

 短い間ではあるが、レオ、ハンコック、アキラ、ガービーといった男たちと友人になることができた。

 あいつらは自分が見てきた男たちは明らかに何かが違っていた。なにより、生き方からしてまったく別の生命体と表現してもいいくらい別物だった。

 

 それがきっかけは偶然だったが。思えばあのトミーが配慮してくれたおかげで共に行動するようになり。今の自分がいる。

 

 暗黒街のボスの情婦、そんなふざけた役目を最低だと吐き捨ててはいるが。実際の話、そんな女に自分はなれないことはわかっている。馬鹿なのだ、それだけなのだ。ここに居るレイダー達と自分はそれほど変わらない。

 

 不機嫌になってそんなことを考えるようになると、続いて気分が滅入って。あの眠れぬ夜の事なんかまで思い出してしまう。

 ますます自己嫌悪に陥っていく。悪いループに入りかけてる、わかってるが。キュリーのところに戻る前にはなんとかしないと。

 

 気が付くと、ケイトは自分がいつの間にかマーケットの外に飛び出していたことに気が付いた。

 周囲を確認して自分がどこにいるのかと考えていると。背後をバラモンを引いたレイダーが通り過ぎたが、そいつのバラモンの後ろにはつながれている奴隷たちがゾロゾロト列をなして歩いており。ケイトはわざとそれから目をそらす。

 

(嫌なものを見た。やっぱり帰ろう、最悪)

 

 そう思うと同時に、いきなり「ん?」と大きな疑問が湧き上がると好奇心を思いきり突き飛ばして見せた。

 ケイトは背中越しに顔色を変えて振り向くと、そこにはバラモンに惹かれた奴隷たちの列が。彼らの背中が見えた。その中の何人かは、新しく”外の世界"から来たのだろう。ぼろではない服装をしていた。

 

「――っ!?」

 

 疑惑が確信に変わった。

 ケイトの両目はカッと見開かれ、驚きのあまり思わず腰から力が抜けるかと思った。震えていたのだ。

 続いて周囲に人がいないか確認したのは助けを求めようとしての事だったが。すぐに冷静さを取り戻すと、やる気もなくボウと掃き掃除をしている奴隷を見つけ。「ちょっとあんた!」とケイトの地声で呼び止めると、相手が怯えているのも構わずに「聞きたいことがある」と問い詰めていく。

 

「な、なにか?」

「今のあれ。奴隷達、あれはなに?」

「なに?……なにって奴隷だよ。ここじゃ珍しくもない」

「そうじゃなくて!そうじゃ――ここのマーケットじゃ人は売ってなかったでしょ?」

「ああ、そういう意味かい。そりゃそうだよ、あれはパックスのビジネスなのさ」

「パックス?ここのレイダーよね?」

「そ、そうだよ。おかしな格好をしている連中がいるだろ?あれがそうだ、あいつらは誘拐で身代金をとった後、奴隷として売るんだよ。そのために自分達も奴隷商をやっているのさ」

「そう!クソッタレねっ」

「えっ!?」

「いいの!ありがと」

 

 先ほどまでの鬱々とした思考は綺麗さっぱり吹き飛んでしまっている。

 そのかわりにこの事態に自分がどう動きべきなのか、どうすれば一番良い結果になるのか必死で頭の中を動かそうとする。

 馬鹿だから名案がなど浮かんでこないが。これが空っぽなら、カラカラとむなしい音でもするのだろうか?

 

(アキラの奴には近づけない。ハンコック?駄目、レイダーとまだ一緒のはず。キュリーは?あの娘を連れ出して、あたしはなにをやらせようってのよ)

 

 何とかしなくちゃならないが。何とかするなら自分がやるしかないのだと、そう思えてくる。

 レイダー達の前だが、自分の頭を掻きむしりたくもなる。なんでこうなった?いや、どうしてそんなことになる?

 

「何をやってんのよ、パイパー。敏腕記者だって、自分で言ってなかったっけ?」

 

 そう、パイパー・ライトだ。

 こんな時代にあっても、ダイアモンドシティから正義の声を上げていくことを自らの使命と考える戦う報道記者。

 

 その彼女は、先ほどケイトの背後を歩く奴隷たちの中に混ざり。

 いつもは輝くその聡明さは抜け落ちたボロボロの姿で、言われるがままに歩いていたのであった。




(設定)
・シート―
ヌカ・ワールド内のエリアに居住する野生児である。
まさにターザンのように不思議な運命を経て、そこで家族と共に暮らしていた。

このエピソードは彼のクエストにほぼそって進めている。


・家族
シート―を育てた優しいゴリラたちのこと。
どうやらゴリラにもかかわらず、グール化している設定らしい。


・アン・ストッパブル
シュラウドら複数の有名ヒーローが結集して活躍すると思われる連載誌。
ジャスティスリーグ、アベンジャーズの類である。

アキラはどうやらあの宇宙の一件で、思わず妄想してしまったようだ。


・奴隷
パックスとは群れを意味する。そして野生の獣と同じように、獲物を追って捕らえることをよしてしているようだ。
そのせいなのか、彼らはアジトで野生動物を飼いならし。捕らえた人間はとりあえず商品として扱うということにしているらしい。

ただ、3に登場していたパラダイスフォールズと違い。片手間でやっているという印象がある。


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