やはり俺が入隊するのはまちがっている。   作:ユンケ

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比企谷八幡は同年代の正隊員とランク戦をする(後編)

 

 

 

 

ベイルアウト用のマットに叩きつけられた俺は起き上がる。

 

(……何だったんだ今のは?)

 

俺の思考はさっきの戦闘で埋め尽くされていた。あれは確かに躱していた。にもかかわらず首が飛んだ。……どんなタネがあるんだ?

 

『先ずは1本貰ったぜ』

 

米屋から通信が入ってくる。ヤバいな……何とかしないと5本とも何も出来ないで終わる。

 

何としてもトリックを見抜いてみせる。

 

 

そう思いながら次のステージに転送させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転送されるとまた正面に米屋がいて槍を構えている。

 

 

さて……さっきはリスキーな手段を取ったが今はする気はない。何せあの槍の正体を知らないといけないからな。

 

そう思っていると今回は米屋から突っ込んでくる。それに対して俺もスコーピオンを構える。

 

距離が5メートルを切った所で米屋が槍を向けてくる。そして……

 

 

 

 

 

 

再び俺の首を狙って突いてきた。

 

(……やっぱり来たな。でも対策は出来てる)

 

 

「シールド」

 

俺は首の近くに集中シールドを展開する。これならどうだ?

 

そう思いながら槍を見た。

 

 

 

 

 

 

 

すると槍の穂先の形が変わりシールドを避けて俺の首を貫いた。

 

それによって俺の体にヒビが入る。これで俺の2敗は決定した。だが……

 

 

(槍の特徴はわかった。なら戦いようがあるな)

 

 

幸い奴の槍に対して有利なトリガーは入れてるからいけるかもしれん。

 

そう思いながら俺は光に包まれてベイルアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マットに叩きつけられた俺は次の試合の為に作戦を練る。

 

おそらく奴の槍が変化するのは穂先だけだ。いくら何でも柄とかから出るとは思えん。そして槍を突いたなら隙だらけの筈だ。1発避ければ俺が有利になる。

 

そう思っていると次のステージに転送される。

 

 

 

 

 

 

 

ステージに転送された。次こそは勝つ。

 

俺は米屋が視界に入ると同時に突っ込んだ。それに対して米屋は再び槍を構えて突いてくる。狙いは先の2戦と同じように首だ。

 

狙いはわかった。対策はある。この一瞬が勝負だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(テレポーター)

 

 

俺は槍が首にぶつかる瞬間にテレポーターを発動した。飛んだ先はほんの1メートル斜め前。つまり米屋の直ぐ近くだ。

 

瞬間移動したと同時に俺はスコーピオンを出して米屋に振るう。狙いはもちろん首だ。

 

しかしマスタークラスだけあって米屋は槍を引いてスコーピオンを防御する。

 

俺が槍の柄をぶった斬ろうと力を込めていると米屋が話しかけてくる。

 

「なるほどな。テレポーターで俺の幻踊の攻撃範囲から逃げたってわけか」

 

幻踊って言うトリガー……聞いた事ないな。俺がBに上がってから出来たヤツか。

 

まあそれは置いとく。でも今はチャンスだ。槍の欠点は長いから狭い所や密着された状態とは相性が悪い筈だ。

 

それに対してスコーピオンはそんな場所でもガンガン使えるから距離を詰めたら有利だ。

 

(……このまま密着したまま倒し切る)

 

方針を決めた俺は肘から枝刃を出して米屋の首を狙う。

 

「おっと」

 

米屋は首を動かして避ける。やっぱり身のこなしも一流だな。だったら……

 

 

「ハウンド」

 

威力重視のサブのハウンドをぶっ放す。

 

対して米屋はシールドを展開して防ぐが隙が出来た。

 

再び枝刃を使って腹からスコーピオンを出して米屋の脇腹を削る。

 

「おっ、やるな」

 

「そいつはどうも。このまま押し切る」

 

そう言ってスコーピオンを再度振るう。密着してれば負けはない筈だ。

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

「悪いな。近寄られた場合の対策は出来てんだよ」

 

米屋がそう言うと槍の柄の部分の長さが短くなり普通の弧月と同じくらいの長さの槍となった。

 

……マズイ。あの長さなら密着してもあんまり意味がない。

 

舌打ちをしていると米屋は後ろに跳んでガンガン突きを放ってくる。狙いはさっきまでとは違って首を狙わずに体のあらゆる場所を突いてくる。

 

紙一重で避けているが奴の幻踊のせいで少しずつ色々な箇所からトリオンが漏れる。このままじゃヤバい……

 

(仕方ない。博打をはるか)

 

そう決心した俺はダメージ覚悟で米屋に突っ込む。

 

すると米屋はさっきまでの細かい突きを止めて鋭い一撃を放ってくる。狙いは……心臓部だな。

 

(……これは避けられないな。だったら……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

避ける必要はない。

 

俺はシールドを展開しないで速度を速める。米屋は一瞬ギョッとした表情を見せてくる。どうやら俺の考えがわかったようだな。

 

それと同時に米屋の槍は俺の体に突き刺さる。それによって腹にヒビが入るのを理解した。

 

しかし俺はそれを無視して更に突き進む。

 

どうせ避けれないんだ。だったら避けないで道連れだ。

 

「ハウンド」

 

俺はそう呟いて米屋の顔面目掛けてハウンドをぶっ放した。それと同時に米屋はシールドを展開してハウンドを防ぐが問題ない。

 

これで米屋は槍とシールドを展開しているからトリガーを使えない。対して俺はシールドを使ってないからスコーピオンを使える。間に合え……!

 

俺はシールドにハウンドが当たると同時にスコーピオンを脇腹目掛けて振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし脇腹に当たる直前に動きが止まってしまった。

 

(……間に合わなかったか)

 

自分の腹を見ると槍が刺さった場所には大きな穴が開いていた。どうやら米屋に攻撃が届く前に俺の戦闘体の限界が来たようだ。

 

(……まあ道連れ狙う前から大分ダメージくらってたからな。仕方ない)

 

ため息を吐きながら光に包まれてベイルアウトした。これで3敗目か。

 

 

 

 

 

3度マットに叩きつけられて息を吐く。これで負けは決まったが諦めるつもりはない。

 

息を吐いてステージに転送される。次こそは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3分後……

 

4度マットに叩きつけられる。これで0ー4だ。後一戦。

 

(……ヤバいな。単純に強い)

 

4戦目は再度距離を詰める事が出来て攻撃したが致命傷になるダメージは与える事が出来なかった。そして俺の隙が出来たら大量の突きを放ってトリオンを削ってジリ貧になった所で首を突いてきた。

 

これがマスタークラスの実力か。はっきり言って勝てるビジョンが全く見えない。

 

でも全敗は嫌だ。何としても最後に一勝してみせる。

 

とはいえ真っ向から挑んでも負けるだけだ。相手の予想を上回る攻撃で倒すべきだ。

 

(……オプショントリガーはグラスホッパーとテレポーター。グラスホッパーによる撹乱は今の俺の実力じゃ無理だ。テレポーターは槍回避以外では余り役に立たない)

 

うーむ。倒すための一手が見つからん。てか槍を回避すんのが難しいって……ん?

 

(……槍を回避すんのが難しい?だったら……)

 

槍と勝負する必要ないじゃん。てか何で格上相手と斬り合ってたんだ?そんな必要ないだろ?

 

そんな事を考えながら転送される。さあ、最後の一戦だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転送されたのでスコーピオンを出して前を見る。米屋はいつも通り飄々とした表情をしながらも構えを取っていて隙が見当たらない。

 

とにかく幻踊によって細かくトリオンを削ってくるのが一番厄介だ。近距離戦による細かい突きを対処する方法は出来ている。

 

行くか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘開始と同時に俺は米屋に背を向けて全力疾走をする。

 

「……は?!」

 

米屋が驚いた声を出したのを確認すると同時にレーダーを見ると俺を追いかけてくる。

 

それを確認すると同時に俺はグラスホッパーを起動して距離を更に開ける。何度も何度もグラスホッパーを起動して遂に米屋との距離は30メートルくらいになった。

 

 

それと同時に俺は米屋の方を向き両手からトリオンキューブを出した。

 

「ハウンド」

 

そう言ってメインとサブのハウンドを放つ。

 

それに対して米屋は両防御して防ぐ。ここまでは予想通りだ。更に………

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハウンド」

 

もう一回両攻撃ハウンドを放つ。

 

すると米屋はまたシールドを2枚展開して防ぐ。まだまだ……

 

 

 

 

「ハウンド」

 

俺はとにかくこれを繰り返す。

 

米屋が回りこもうとしたらグラスホッパーでその方向に進んでハウンドを撃ち、建物を盾にしようとしたら後ろに跳んで遮蔽物のない場所に立ってハウンドを撃つ。

 

俺が撃ったハウンドを米屋は両防御で全て防いでいるが表情には若干に疲れと苛立ちが見えている。

 

(……そうだ。もっと疲れて怒れ)

 

俺が今やっているのは挑発だ。マトモに戦っても勝てないのでとにかく冷静さを奪うのが最優先だ。向こうが純粋な攻撃手で射撃トリガーを入れてないようで良かった。入れてたら対策を出来ていたかもしれん。

 

 

そう思いながら再度ハウンドの両攻撃をしようとした時だった。

 

 

 

米屋はシールドを1枚しか展開しないで槍を構え突進してきた。

 

それによって何発かハウンドは当たるが多少ダメージを与えるだけで米屋を止めるには至らない。

 

だがそれでいい。ハウンドははっきり言って囮だ。

 

俺はメインのハウンドをしまってスコーピオンを展開して米屋に突っ込んだ。

 

それと同時に左手からトリオンキューブを出す。今度は弾速重視に調整する。

 

 

 

 

「ハウンド」

 

俺はそう呟いてハウンドを放つ。左右から米屋を挟み込むように。

 

すると米屋は足の速度を速めた。どうやらハウンドに挟み込まれる前に突っ切る算段なんだろう。槍を鋭い突きをする構えになってるし。

 

それと同時に俺もスコーピオンを構えながら更に距離を詰める。米屋との距離は約5メートル。

 

 

すると米屋が槍を思い切り引いて突きの準備をする。あの引き方からしておそらく一撃で仕留めるつもりなのだろう。

 

そして米屋は槍を突き出してきた。今までとは違う圧倒的な速度の一突き。対して俺は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……テレポーター)

 

テレポーターを使って米屋の懐に飛んだ。

 

米屋は俺を見て驚いた表情をしているがもう遅い。

 

 

 

 

 

俺は持っていたスコーピオンを横振りして米屋が腹を真っ二つにした。

 

米屋は自分の腹を見ながら光に包まれてベイルアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

『5本勝負終了 勝者 米屋陽介』

 

最後は勝てたが。結局のところ真っ向勝負じゃ1本も取れなかったか……

 

俺の実力はマスタークラスにはまだまだ遠いな。

そう思いながら俺も光に包まれた。

 

 

 

アナウンスを聞いてブースに戻り息を吐く。手を見ると数字は5253と少し増えていた。若村に勝って米屋に負けたからプラスに働いたのか?

 

そう思っていると米屋から通信が入る。

 

 

『最後の1本は良いやり方だったな。まんまとハメられたぜ』

 

「まあな。お前絶対に一突きで倒すつもりだっただろ?」

 

『まあなー。時間かけたらハウンドが鬱陶しいだろうし』

 

 

そう。今回の狙いはまさにそれだ。

 

距離を取ってとにかく相手に当てやすいハウンドを相手が苛立つまで撃ち込み、相手に短期決戦を強いらせるのが俺の戦術だ。

 

真っ向勝負、特に沢山の突きでこられたら勝てないので一撃必殺の攻撃に絞らせる必要があった。沢山の突き技は相手のトリオンを削るのを重視する技で倒すのに特化した技じゃないから倒すのに時間がかかるだろう。

 

ハウンド連発という苛立つ攻撃を何度もされたら勝負に時間をかけるする奴はいないだろう。

 

そして一撃必殺の突き技ならテレポーターを使えば回避出来るし、動作が大きい突き技を放っている間は反撃されないだろう。

 

 

結果は予想通り、苛立って短期決戦のつもりで動作が大きい突き技を放った米屋はスコーピオンによる強襲に対処出来なかった。

 

 

「でも次やったら効かないだろうな」

 

あんなもん完全な初見殺しだ。一度負けた以上米屋もあの技に対して警戒心が強くなっただろうから動作が大きい突き技を多用しないだろう。

 

『まあ楽しかったぜ。お前もさっさとマスターに上がってこいよ。そしたらまたバトろうぜ!』

 

マスターか……。先は長いだろう。今回の戦いで身に染みたからな。

 

でもいつか絶対に辿り着いてやる。

 

「はいよ」

 

俺はそう一言返した。今回は負けたが次は負けるつもりはない。

 

 

そう返事して俺は次の対戦相手を探しだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから2時間経ち、ランク戦を切り上げた俺は防衛任務前の腹ごしらえをする為に一度本部から出た。

 

本部でも飯は食えるが何となく外で食いたくなったので外にした。

 

「さーて、食うとしたら……ラーメンだな。いやでもな……」

 

受験終わって暇だし前から行きたかった『お好み焼き かげうら』も行ってみたいな。あそこのお好み焼き安いから手軽に行けるし。

 

そんな事を考えている時だった。

 

 

 

 

「八幡さん!」

 

前から日浦が走ってやって来た。相変わらず元気な奴だな。

 

「よう。1人か?」

 

「はい!私は今日塾だったので終わってご飯を食べに行こうかと。八幡さんは?」

 

「俺は深夜から防衛任務あるから腹ごしらえ」

 

「じゃあ一緒に行きませんか?行きたいお店があるんですけど1人じゃ不安で……」

 

1人じゃ不安?女子が1人じゃ不安って事は牛丼屋とか焼肉屋か?

 

「別に構わないがどこの店だ?」

 

俺がそう言うと日浦が口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お好み焼き屋さんです!!」

 

 

俺の行く場所が決まった。

 

 

 

 

 

 

店に入ると結構な人数がいて騒ついている。案内された近くの席に座ってコートを脱ぐ。

 

「豚玉と海老玉で」

 

店員に注文して息を吐く。

 

「すみません。私が行きたい店にして貰って……」

 

「気にすんな。元々ラーメンかお好み焼きで悩んでたし。てか今日は小町は一緒じゃないのか?」

 

「小町ちゃんは食後も授業があるのでお弁当を持っていました」

 

ああ、そういや今日は夜遅くまで授業だったな。忘れてた。

 

「それにしても深夜に防衛任務があるって大変ですね」

 

「まあな。以前やったら朝が辛かった」

 

受験終わってたから良かったが授業ある日はキツい。高校になったら深夜に防衛任務入れないようにしよう。

 

 

そう思っていると頼んだ品が来たので鉄板の上に乗せて焼き始める。それによって時間が経つにつれて香ばしい匂いが鼻を刺激する。うん、やっぱりお好み焼きにして良かったな。

 

 

「ところで八幡さん、来週の日曜日は空いていますか?」

 

「来週の日曜日?ちょっと待て」

 

言われてボーダーから支給された端末を見てみる。来週の日曜日は……

 

「1日非番だ。何かあるのか?」

 

「はい。実はさっきくじ引きで遊園地のペアチケットが当たりましたので八幡さんと行きたいと」

 

「あん?俺より小町誘えよ」

 

友達と行くのはともかく友達の兄と行くのは違うだろ?

 

「小町ちゃんのクラスは日曜日テストがあるので断られたんです。そしたら小町ちゃんが「だったらお兄ちゃん貸すから2人で行って来なよ」って……」

 

あいつ……人を貸すとか言うなよ。

 

まあそれはともかく……

 

「わかったよ。週末は空けとく」

 

そう返すと笑顔を見せてくる。

 

「やったー!ありがとうございます!」

 

いやいや、俺なんかと行っても楽しくないと思うぞ?そこまで喜ぶ理由がわからん。

 

内心考えていると焼き色がついてきたのでひっくり返す。後3分もしないで食べれるだろう。

 

「じゃあ集合時間とかは適当に決めてくれ」

 

「はい!」

 

日浦が返事をしたのを確認してお好み焼きを見る。まあ遊園地なんて久しぶりだしゆっくりと平和に楽しむとするか。

 

 

そう思いながらお好み焼きをひっくり返してお互いの皿にのせて食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがこの時の俺は知らなかった。

 

 

遊園地でゆっくりと平和に過ごすことが出来ない事を。


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