やはり俺が入隊するのはまちがっている。   作:ユンケ

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比企谷八幡は同期のメンバーと交流する(後編)

ブースから出ると歌川遼がいたのは驚いた。まさかいるとはな……さっきまでいなかったから帰ったのかと思ったぜ。

 

そう思っていると後ろから声をかけられる。

 

「比企谷先輩、ありがとうございました」

 

照屋が後ろからやってきた。歌川も気になるが礼を返さないとな。

 

「おう。楽しかったぜ」

 

これは本心だ。照屋との戦いはかなり気分が高揚した。

 

すると照屋は笑顔を見せてくる。

 

「私も悔しかったですけど楽しかったです。またやりましょうね」

 

まあ向こうも楽しんだなら良いか。

 

「わかったよ。またやろうぜ」

 

「はい。……ところであそこにいるのは歌川君ですよね?」

 

「多分な」

 

「さっきから比企谷先輩を見ていますよね?」

 

そうなんだよなー。さっきから視線を感じるし。

 

「まあとりあえず熊谷達の所にいるし挨拶くらいするべきじゃね?」

 

「そうですね。行きましょう」

 

とりあえず照屋と一緒に熊谷達の所に行く。

 

「比企谷に照屋ちゃんもお疲れ」

 

「凄い試合でしたよ」

 

熊谷と巴が労いの言葉をかけてくる。

 

「サンキュー」

 

「ありがとうございます。ところで歌川君は……」

 

そう言って照屋は歌川を見るのでそれにつられて見ると会釈をしてくる。

 

「あ、そうそう!歌川君なんだけど比企谷と戦いたいんだって。比企谷、元々やるつもりだったんだしやりなよ」

 

熊谷がそう言うと歌川が頭を下げてくる。

 

「初めまして歌川遼です。比企谷先輩、俺とランク戦をしてくれませんか?」

 

こいつもマジで礼儀正しいな。とりあえずこちらも返さないとな。

 

「比企谷八幡だ。こちらこそよろしく。それとランク戦なら受ける」

 

「本当ですか?ありがとうございます」

 

どのみち戦うつもりだったんだ。仮入隊組の実力も見ておきたい。

 

「じゃあ今からやるか?」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

歌川はそう言ってブースに入るので俺も続こうとする。

 

「比企谷先輩」

 

「何だ照屋」

 

「頑張ってくださいね」

 

そう言って笑顔を見せてくる。その顔には含むものがなく俺には眩しすぎた。

 

「……あ、ああ」

 

顔を背けとりあえず了承の意を示しながらブースに入る。

 

 

 

 

ブースに入った俺はパネルを見て102室を探すと『102号室 スコーピオン 3318』と表示されていた。

 

……俺の倍に近いじゃねーか。マジで勝てるのか?

 

まあ賽は投げられた。やるしかない。てか照屋にあんな笑顔をされて頑張らないのは違う気がする。

 

 

そう思うと同時に体が光に包まれる。

 

 

光が消えるとそこは川の近くの土手にいた。これはさっき巴とやったステージか。

 

そう思っていると前方に歌川が現れてスコーピオンを構える。

 

今日までランク戦でスコーピオン使いとは戦ったが最高で2005ポイントの相手だった。そいつには勝ったが目の前にいる相手はそいつより遥かに強いだろう。気を引き締めていこう。

 

 

俺は一度深呼吸をして歌川に突っ込む。それに対して歌川も俺に突っ込む。

 

高速で接近した俺達はスコーピオンをぶつけ合う。それと同時にスコーピオンは弾かれるので再びスコーピオンを構え……?!

 

(……速い!)

 

見ると歌川は既に攻撃態勢に入って斬りかかってくる。俺は咄嗟にスコーピオンを横にして受けるがスコーピオンは受け太刀に弱いので呆気なく割れて、歌川のスコーピオンは俺の肩を削る。

 

それによってトリオンが漏れていると思うがそれを確認しないで俺は歌川の腹に蹴りを叩き込む。こいつを相手に余所見は厳禁だ。

 

若干歌川の体勢を崩したので俺は歌川に突っ込みスコーピオンを振るう。すると歌川はほんの少しだけ体をずらす。

 

それによって俺のスコーピオンは歌川の脇腹を削った。しかし俺は喜びを感じない。寧ろ恐怖を感じた。

 

 

 

さっきの歌川の回避は俺の攻撃を完璧に避けることより多少ダメージを受けても体勢を整えるのを優先したのだろう。

 

現に歌川は既に完璧な体勢でスコーピオンを振るっている。

 

対して俺はスコーピオンを振るったばかりで体勢が悪い。俺は奴の狙いと思える右腕にスコーピオンを纏わせる。気休めにしかならないが仕方ない。

 

 

 

 

 

しかし俺の予想は外れた。

 

何と歌川は攻撃の途中でスコーピオンの軌道を変えて左腕を狙った。

 

(……マズイ!)

 

そう思うものの一足遅かった。

 

俺の左腕は肘から先を斬り落とされてしまった。それによって大量のトリオンが漏れている事がわかってしまう。

 

歌川は追撃とばかりにスコーピオンを振るってくる。スコーピオンの軌道から察するに今度は俺の胸や腹を狙うだろう。

 

 

 

 

 

そうはさせない。

 

俺は右手首から先にスコーピオンを纏わせて全力で歌川のスコーピオンを殴りつける。

 

それによって歌川のスコーピオンは破壊されて、俺のスコーピオンの拳は表面の一部が剥ぎ取られて本当の右手の一部が見えた。

 

しかし俺のスコーピオンは全て破壊された訳ではないのでまだ使える。

 

逃さんとばかりに拳を振るうも歌川は既に拳の攻撃範囲から逃げていた。

 

 

一旦仕切り直しだ。しかし俺が圧倒的不利だ。

 

俺は左腕の肘から先を失い肩からもトリオンが漏れている。対して歌川は脇腹からトリオンが漏れているだけだ。俺がスコーピオンを使っていて正解だった。これがもし弧月やレイガストだったら歌川の剣速に追いつけずになす術もなく負けているだろう。

 

(……しかし俺の不利には変わりはない。マジでどうしよう?)

 

マジで強い。こいつ下手したら弱いB級より強いんじゃね?てか何でそんな奴が俺に挑むんだよ?

 

まあそれは置いとこう。とりあえず策は……

 

(やっぱり真っ向勝負じゃ勝てないし相手の意表を突くしかないな)

 

そう決定づけると同時に攻めの構えを取る。スコーピオンは守りに入ったら負けだ。相手の意表を突くにしろ攻めの中で突くしかない。

 

見ると歌川も構えを取っているので腹をくくるしかない。

 

 

俺と歌川は再度突っ込んだ。それによって再びスコーピオンがぶつかり合う。そして再びスコーピオンが弾かれる。

 

普通に攻めたらさっきのように歌川の方が早いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

だから俺は普通に攻めない。

 

俺は左足にスコーピオンを纏わせて歌川目掛けて蹴りを放つ。普通に体勢を立て直してからスコーピオンを振るうよりこっちの方が早い。

 

 

 

 

しかし再び予想外の展開が襲いかかる。

 

何と歌川はとっくに体勢を立て直していてスコーピオンを振るってくる。

 

マジかよ?予想以上に早すぎる……!!足なら俺の方が早いと思ったのに…!

 

 

しかも足を突き出していているから完全に無防備だ。歌川もそれをわかっているのかスコーピオンの軌道を変えて足を狙ってくる。

 

(マズイ。足を落とされたら間違いなく負ける…!)

 

 

俺は急いで足に纏ったスコーピオンを解除して腕にスコーピオンを出す。間に合えよ……!

 

歌川は足からスコーピオンが消えたのを確認したのか顔を上げてくる。

 

 

 

それと同時に俺はスコーピオンを歌川の顔面目掛けて投げつける。

 

俺が投げると同時に歌川は足を狙うのを止めてスコーピオンを振り上げて投げたスコーピオンを弾いた。

 

こんなので倒せるとは思っていない。本命は……

 

それと同時に俺は歌川との距離を詰める。そして……

 

 

 

 

 

 

俺は歌川の腹に拳を叩き込む。

 

「……ぐっ!」

 

向こうは体勢を立て直すと思っていたのだろう。呻き声を上げて体勢を崩す。もう体勢を立て直すつもりはない。持久戦になったらこっちが負けるので短期決戦をするつもりだ。

 

体勢を崩した歌川に追撃をかけるべく右手にスコーピオンを持ち歌川との距離を詰める。狙いは一撃で勝負が決まる首だ。

 

俺はスコーピオンで歌川の首目掛けて袈裟斬りを放つ。決まってくれよ……!

 

 

 

しかし俺の願望は叶わず歌川はそれをギリギリで回避する。こうなると隙だらけなのは俺だ。

 

歌川は即座に左手からスコーピオンを出して俺の右手首から先を斬り落とす。これで両手を失ったがまだ戦える。

 

歌川は反撃はしたものの体勢は崩れたままだ。今なら完全に崩せる。

 

俺は手首を失った両腕で歌川の腹を押す。

 

「……何をっ…?!」

 

歌川は驚く中、俺に押し倒される。地面に倒れた状態なら逃げられないだろう。

 

「もう逃さねぇぞ歌川」

 

俺はそう言って好戦的な笑みを浮かべる。

 

……ん?何か今脳内で「キマシタワー!!」って聞こえて悪寒がしたような……いや、気のせいだろう。

 

そう判断して俺は右手首からスコーピオンを出して歌川の首目掛けて突きを放つ。

 

(……勝った!)

 

内心喜び突きを放ちながら歌川の顔を見た瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腹に衝撃が走り俺の体の動きが止まった。……え?何で?

 

 

腹を見るとスコーピオンが突き刺さっていた。

 

歌川を見ると歌川の腹からスコーピオンが出ていて俺の腹に伸びていた。

 

今までのダメージに加えて、腹へのダメージで俺のトリオン体は限界になっていたようだ。

 

「……俺の負けだよチクショウ」

 

俺が捨て台詞を吐くと同時に俺の体は光に包まれた。

 

 

『個人ランク戦終了。1-0 勝者 歌川遼』

 

光に包まれているとそんなアナウンスが耳に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が無くなると同時にベッドに叩きつけられる。なるほどな、今日初めてランク戦で負けたが負けるとこうなるのか。

 

息を吐きながらブースを出ると照屋達がこっちにやって来た。

 

「比企谷先輩、惜しかったですね」

 

「負けたけど良い勝負だったわよ」

 

「はい。かっこ良かったです」

 

上から巴、熊谷、照屋がそう言って俺を褒めてくるが今まで碌に褒められた事のない俺からしたら正直信じられない。

 

「そうでもねーよ。俺の戦い方なんて女子の腹に蹴りを入れたり、相手の意表を突くばかりの小癪な戦い方だよ」

 

俺がそう返すと熊谷は真面目な表情を浮かべながら口を開ける。

 

「私はそんな事ないと思う。私は歌川君と戦った時余りの実力差に最後らへんは半分諦めたけど、あんたは最後まで諦めずに戦っていて凄いと思ったよ」

 

はっきりと俺の意見を否定してきて呆気にとられてしまう。

 

「そうですね。俺も最後の方はどっちが勝つかって夢中になって見てましたよ」

 

更に巴も言ってきて言葉を返せない。

 

「私もそう思います。比企谷先輩が入隊した理由を知っている私からすれば、本気で強くなって夢を叶えたいという強い意志を感じて凄くかっこ良いと思いました」

 

照屋の言葉がトドメとなり俺の胸の中では感情が溢れ出てくる。しかしそれが本当か限らないので表には出さない。

 

 

「……じゃあ俺は今の戦い方でも良いのか?」

 

確認の為につい質問をしてしまうあたり疑り深いな。

 

内心自嘲している中3人は口を開ける。

 

「「「もちろん」」」

 

そう返されて絶句してしまった。

 

この3人は間違いなく本気でそう思っているだろう。

 

今まで小学校や中学校で否定され続け、マトモに肯定された事ない俺にとっては3人にそう言って貰えて本当に嬉しい。マジで泣きそうだ。

 

俺は何とか堪えて口を開ける。

 

「……その、何だ、あ、ありがとな」

 

しどろもどろだが礼を言わずにはいられなかった。3人には感謝しかない。

 

「「「どういたしまして」」」

 

3人が笑顔でそう言ってくるので俺も笑ってしまう。こいつらに会えて本当に良かった。

 

そう思っているとブースから歌川も出てきて頭を下げてくる。

 

「比企谷先輩、ありがとうございました」

 

そこに含むものはない。多分こいつも純粋なのだろう。なら俺も気にしないでいいだろう。

 

「ああ。こっちこそありがとな。……ただ、次は負けないからな」

 

俺がそう言うと歌川は一瞬キョトンとしてから笑ってくる。

 

「いえ、次も勝ってみせます」

 

歌川がそう返すと他の3人も笑い出す。俺もそれにつられて笑ってしまう。

 

 

 

 

 

元々は家計の為に入隊したボーダー。入隊当初は金さえ貰えれば後はどうでもいいと思っていたが……

 

 

(……俺がこんな風に笑えるなんてな。正直言ってボーダーに入って良かった)

 

 

 

 

そう思いながら俺は4人を見てまた笑ってしまった。

 

腹は減っているが不思議と胸は満たされていて気分が良かった。


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