工業地区の西のブロックにて2人の男がぶつかりあって爆音や爆風が辺りに巻き起こっていた。
比企谷八幡と二宮匡貴。
ボーダー最速の男とボーダー最強の射手の戦いは実にシンプルだった。
「ハウンド」
二宮がそう呟くと同時に両手からキューブが現れて、数十分割されて放たれる。
対して……
「グラスホッパー」
八幡がそう呟くとジャンプ台が現れて、それを踏む事で大きく跳びハウンドの有効半径から逃れる。
そんなやり取りが2分続いていた。
(ヤベェな……単純に強い)
二宮さんのハウンドをグラスホッパーで逃れながらそう呟く。二宮さんと鉢合わせして戦闘が始まってから2分経過している。
今のところ俺にしろ二宮さんにしろ互いに1発も攻撃を受けていない。偶に俺が放つハウンドは簡単に防がれ、二宮さんの放つ射撃はグラスホッパーで逃れている。
それだけ聞けば互角に思えるかもしれないだろう。事実俺も現時点では互角だと思っている。
しかし……
(この均衡は遠くない時間に崩れるだろう……俺に不利な方向で)
理由は簡単。二宮さんの攻撃が徐々に鋭くなってきているからだ。最初の内は余裕で回避出来ていたが、俺の動きを先読みしてグラスホッパーで跳んだ先の方向に攻撃してくるのだ。今のところは当たる直前に副トリガーのグラスホッパーを利用して回避しているが、暫くすればそれすらも読んで攻めてくるだろう。
そこまで考えた時だった。
「メテオラ」
二宮さんはそう呟いて新たなキューブを出して2分割すると、上……俺の真上左右にある工場に向けて放つ。
一直線に向かったメテオラは工場に当たると同時に大爆発が生じて、工場の設備が雨のように降ってくる。
「ちっ……!」
生き埋めとなったらマズいのでグラスホッパーを使って瓦礫の及ばない地面に着地する。
しかしそれと同時に弾丸が上空から俺を取り囲むかのように襲いかかってくる。軌道は真っ直ぐでないのでハウンドだろう。さっきのメテオラによる瓦礫は俺を安全地帯に誘導する為のものか……!
(テレポーター……!)
即座に副トリガーのテレポーターを起動してアステロイドと思える弾丸から逃げる。
これで安全、そう思いながら跳んだ先には……
「終わりだ」
周囲にキューブを浮かばせて放つ二宮さんが居た。その事から俺は察した。さっきのメテオラによる瓦礫攻撃もハウンドによる包囲攻撃も、この一撃の為の布石である事を。
こちらに向かって飛んでくるアステロイドを見ながらも俺は落ち着いている。こうなる事は試合前から予測をしていたからだ。
(テレポーターはインターバルがあるから無理。グラスホッパーは今から使ってもアステロイドから逃れられない……仕方ない。こんなに早く使うのは嫌だがアレを使うか)
そう思いながら俺は地面に手を置き……
「エスクード……!」
そう叫ぶ。同時に俺と二宮さん及びアステロイドの間に巨大なバリケードが生まれる。
少ししてからバリケードの向こう側から轟音が聞こえるが、バリケードが破壊される気配はない。
エスクードは地面からバリケードを生み出し身を守るトリガーで、防御力ならシールドを遥かに上回っている。まあシールドと違って透明じゃないので相手の姿が見えないし、消費トリオンも多いので余り人気のないトリガーだけど。
安堵の息を吐きながらグラスホッパーを使ってエスクードの後ろから出る。エスクードは強力だが、自分の視界を遮る欠点もあるからな。長時間相手を見れないのは危険だ。
二宮さんが壊していない建物の壁に張り付くと二宮さんが不機嫌そうな表情で俺を見ていた。
「まさかエスクードを入れてるとはな。今ので確信した。お前……俺に勝つ気ないだろ?」
それに対する俺の問いは……
「ありませんね」
即答する。俺は今回二宮さんを倒すつもりは毛頭ない。自分の持てる力全てを使っての足止め、文香や辻の所に行かせない事が俺の目的だ。
二宮さんの対策としては『3人がかりで二宮さんを叩く』とか『二宮さんをスルーして速攻で他の連中を獲りに行く』などあるが、どちらも現実的ではない。
前者の作戦の場合二宮さんを倒すことは可能かもしれないが他の二宮隊の3人で背中を晒して危険だし、後者の作戦の場合二宮さんをフリーにするということだ。もしも二宮さんがバッグワームを使って奇襲をしてきたらなす術もなくやられてしまうし。
そこで俺は『機動力の高い俺自身が全てを賭けて二宮さんを足止めして、他の2人が点を取る』作戦を立案した。二宮さんを足止め出来るとしたら桁違いの防御力を持つ人間か高い機動力を持つ人間だ。
文香と辻はバランスタイプであって機動力は俺に比べたら劣っているので、二宮さん相手にそこまで時間は稼げないだろう。
よって俺が二宮さんの相手になり、仮にもしも俺が負けても文香と辻が頑張れば二宮隊が相手でも勝てる可能性がある。
(その為にトリガーの構成も変えたんだよなぁ……)
しかも二宮さんと邂逅する前に1点取っているから今の所最高の状況となっているのだ。今回のランク戦は俺がどれだけ二宮さんを足止め出来るかも勝負の鍵になっていると思う。俺が負けた瞬間、二宮さんはフリーになるという事を意味する。
レーダーを見ると、文香は香取と鶴見、辻は犬飼先輩と三浦と三つ巴状態となっている。今の所拮抗しているようだが、二宮さんが介入した瞬間二宮隊が一気に有利になるだろう。一応俺がやられたら逃げろと指示を出したが簡単には逃げれないだろうし。
(まあそれはやられたら考えよう。今は二宮さんに集中しないといけないし)
そう考えながら二宮さんを見る。
「って、訳で二宮さんは暫く俺と付き合って貰いますよ。チームメイトを助けに行きたかったらお好きにどうぞ」
「良く言うな。行こうとした瞬間後ろから奇襲をしてくるのが丸分かりだ馬鹿。だから……」
二宮さんは不機嫌そうにそう言いながら自身の周囲にキューブを浮かばせて……
「お前を倒してから安全に行かせて貰おう」
大量に分割して俺に放ってきた。さあて、第二ラウンドの開幕だ……!
八幡と二宮の第二ラウンドが始まる頃、ステージの中央付近で起こっている女同士の三つ巴にも動きが生じた。
「はあっ!」
文香が掛け声と共に旋空を起動しながら弧月を横に振るう。
「ちっ……!」
「……」
対する2人ーーー香取葉子と鶴見留美はグラスホッパーを起動してジャンプする事で回避をする。2人が跳んだ事で旋空によってリーチが伸びた弧月の一撃は2人に当たらずに、軌道上にあった工場のタンクをぶった斬った。
文香が弧月を振り切ると同時に香取がグラスホッパーで近付きスコーピオンを振るってくるので、弧月を起こしてスコーピオンを受け止める。同時に香取がスコーピオンを持っていない手ーーー拳銃を持った左手を照屋に向ける。
否、向けようとした。
「……っ!」
「来た……!」
その直前に少し離れた場所にいた鶴見が2人を纏めて倒すつもりなのか、スコーピオンを2つ繋げてリーチを伸ばす大技『マンティス』を使ってきたので、文香と香取は弾かれるようにバックステップをする。
と、同時にさっきまで2人がいた場所の地面には鞭の様な一撃が叩き込まれ穴を生み出した。
(マンティス……影浦先輩のそれに比べたらキレがないけど、それでも充分な破壊力。それに私と香取さんを纏めて倒そうとする貪欲さ……)
文香は純粋に恐ろしいと思った。鶴見とスタイルが似ている隊長と常日頃から戦っている為、攻撃を見切る事は可能だが、半年もしたら見切れなくなるだろうと考えている。
(これが続いていたら香取さんに集中出来ない……!だからと言って鶴見さんに集中したら香取さんに刺される。だったら……!)
文香はそこまで考えるや否や手からキューブを生み出し……
「メテオラ!」
主トリガーのメテオラを威力重視で鶴見ーーーより正確に言うと鶴見の足元に向けて放つ。対する鶴見は大きく後ろへ跳ぶ。アステロイドならともかく、爆風による広範囲の攻撃が可能なメテオラを避ける場合大きく距離を取る必要がある故だろう。
放ったメテオラが爆発すると同時に文香は地面を蹴って、近くの工場の壁に飛び移り、そこから壁を蹴って向かい側にある工場の壁に飛び移る。
これを繰り返しながらメテオラを鶴見の周囲に向けて放ち、目眩しをする。同時に香取がグラスホッパーを使ってこっちに向かってくる。
「(三上先輩!工場の屋上にて香取さんを先に叩きます!鶴見さんが屋上に到着しそうになったら報告を!)」
『了解』
内部通信でそう頼むと三上から了承が来たのでダメ出しとばかりにメテオラを放つ。今回は爆風の規模を高めて。
ドドドドドッ
文香が屋上に到達すると同時に放たれたメテオラが生み出した爆風によって鶴見の姿は完全に見えなくなった。
(これなら爆風の中にいる鶴見さんは『爆風から出た所を叩いてくる』と警戒して無理に攻めてこないはず……!その隙に……!)
「感謝するわ。あいつ邪魔だったから。暫くは来ないだろうし、その間にアンタを倒させて貰うわよ」
目の前にいる敵を倒す。そう思いながら文香は正面に立つ香取を見据える。どうやら香取も鶴見を邪魔だと思っていた様だ。
文香は息を吐いて突撃銃を出す。対する香取は不愉快そうに銃を見る。
「それは食らわないわ。あんたのその銃……徹甲弾を入れてるでしょ?」
「そうです」
文香が頷いた。
徹甲弾とは高い貫通力を持つ弾丸で、アステロイドとアステロイドを2つ合わせて作れる弾丸だ。合成弾は2つの弾を組み合わせる事で完成する強力な弾丸。
強力だがもちろん欠点はある。作る間は戦闘が出来ない上に時間がかかるので使う人間は余り居ない。
しかし文香は銃手。既に銃型トリガーに徹甲トリガーを設定しているので引き金を引くだけで直ぐに放つ事が出来る。
もちろんその場合も欠点がある。普通の銃型トリガーは2種類の弾丸を使えるが、合成弾を設定した銃は合成弾しか撃てなくなる。今回の文香の場合、普段は突撃銃にアステロイドとハウンドを入れているが、突撃銃に徹甲弾を入れた以上ハウンドを使う事が出来ないのだ。
元々二宮と相対した時に備えて用意したのだが、予想以上の破壊力で香取にダメージを与える事が出来たのだ。
文香の返事を聞いた香取は……
「ムカつく……!」
忌々しそうな表情をしながら文香の方に向かってくる。対する文香は迎撃するべく突撃銃を構えて発砲する。
しかしダメージを受けることで合成弾を威力を経験したからか、香取はグラスホッパーを使って左右に跳ぶことで合成弾を回避する。回避しながらも文香との距離を詰めてくる。
対する文香は落ち着いている。戦いは常に冷静でなければならない事は基本だからだ。
(落ち着いて。八幡先輩との訓練通りにやれば良いんだから)
グラスホッパーを使った攻撃手との戦い方は嫌という程経験している。だからどう動けば良いのかは熟知している。
文香は落ち着いたまま射撃を続けて香取の動きを注視する。相手の動きを先読みする為に。
香取との距離が5メートルまで縮まった時に文香は動いた。
「はあっ!」
掛け声と共に弧月を振りかぶり、香取目掛けて投げつける。投げられた弧月はブンブン回って香取に向かっていく。
「ちっ……!」
対する香取は舌打ちをしながらスコーピオンを使って跳ね上げる。剣同士の斬り合いならともかく、手から離れて投げられただけの弧月ならスコーピオンでも対処出来ると思ったのだろう。
香取が投げた弧月を跳ね上がるのを見た文香は、香取の右手が上がりきるのと同時に……
「やぁっ!」
手に持っていた突撃銃をフリスビーの要領で香取の顔面目掛けて投げつけた。
「はぁっ?!」
これには香取も予想外だったようで驚きを露わにする。それを見た文香は内心喜ぶ。
文香は愛する隊長とよく模擬戦をやっているが、その内何本かは八幡の予想外の行動に呆気に取られ、その隙を突かれて負けている。その度に八幡は、
「相手の予想外の行動を取れば大抵の相手は呆気に取られて隙が出来る」と言うので、文香自身もそれを重く受け止めた。
そして今回、銃を投げるという普通ならあり得ない光景を見た香取は案の定呆気に取られている。
そんな隙を照屋か逃す筈もなく……
「そこっ!」
先程香取が弾き飛ばし宙を舞う弧月を取り、香取の足目掛けて振るう。
結果……
「あぐっ」
銃が香取の顔面に当たり、弧月が香取の両足を斬り落とした。顔面に銃をぶつけられた挙句、足を失った香取はなす術なく地面に転がり落ちる。
このまま放置しても香取はベイルアウトして比企谷隊の得点になるが……
『文香ちゃん!爆風が消えて鶴見さんがこっちに来るよ!』
どうやら早めに仕留めないといけないようだ。文香は息を吐いて弧月を構えて一言。
「ごめんね」
そう言って旋空を起動して香取の頭を吹き飛ばした。状況を理解した香取は忌々しそうな表情をしながらも、そのまま光に包まれて空へと飛んで行った。
(これで比企谷隊は2点目……今の所は順調だけど……)
「………」
文香が前を見ると、下から鶴見が昇ってきた。レーダーを見ると他2箇所で行われている戦いは拮抗しているので文香にとってもここが正念場だ。ここで文香が勝てば文香は必然的にフリーとなり、違い場所にいる辻に加勢出来るし。
しかし鶴見が勝った場合、その逆で鶴見が犬飼に加勢出来る。それは鶴見も理解しているようで先程よりも強い目で見ている。
(強敵だけど負ける訳にはいかない。八幡先輩をA級に連れて行く為にも……!)
文香はそう思いながら弧月を構えて切っ先を鶴見に向ける。対する鶴見も迎え撃つ為に両手にスコーピオンを出して突っ込んだ。
女子2人の戦いはファイナルラウンドに入ったのだった。
現在の得点
香取隊 0得点 2アウト
二宮隊 0得点 0アウト
比企谷隊 2得点 0アウト
トリガー構成
比企谷八幡
主トリガー
ハウンド
グラスホッパー
シールド
???
副トリガー
テレポーター
グラスホッパー
バッグワーム
エスクード
照屋文香
主トリガー
弧月
旋空
シールド
メテオラ
副トリガー
突撃銃:ギムレット
突撃銃:ギムレット
シールド
バッグワーム