小町が案内した店は少し小洒落た洋食店だった。……何つーか、あんまり男子に向いてない店だな。
店に入り席に座る。
てか座る場所が熊谷と照屋の間なのは止めて欲しかった。普通隣は慣れている小町か日浦にするべきだろうが
「小町はナポリタンにします!皆さんは決めましたか?」
「私はハヤシライスにしよっかな。茜は?」
「私は海老グラタンにします!」
「じゃあ私は……ホワイトシチューで。比企谷先輩は?」
「俺はハンバーグランチでいいや」
「ほいさっさー。すみませーん!」
小町が店員を呼んで注文するのを見ながら水を飲む。
店員が去って行った所で小町が俺達3人を見てくる。
「じゃあ早速ボーダーの話、お願いします!」
「お願いします!」
小町と日浦は目を輝かして聞いてくる。話したいのは山々だが……
「話すのはいいけど私も比企谷も文香もまだ訓練生だから余り話すことはないよ?」
そう、俺達はまだ訓練生だ。防衛任務にも参加してないどころか、チームにすら入れない人間だ。そこまで話す事はないだろう。
「うーん。じゃあ訓練ってどんな事をやってるんですか?」
「訓練?訓練は全部で4つあって近界民と戦う戦闘訓練、複雑な建物を突破する地形踏破訓練、近界民に見つからない様に行動する隠密行動訓練、標的を探知して追跡する探知追跡訓練よ」
「あのー、最後の探知追跡訓練は何の為にやるんですか?」
日浦が聞いてくる。まあこれは詳しく説明しないと無理だろう。
「探知追跡訓練はレーダーの使い方を学ぶ訓練だ。それで敵はどっちにどのくらいの距離にいるかを学ぶ為にある」
あれは初めは下手くそだったからな。上位だったのは完全に運が良かったからだし。
「他にもボーダー隊員同士が戦って腕を上げる個人ランク戦もあるわ」
まあ照屋の言う通りアレも訓練の1つだろう。どちらかと言えば娯楽に近い感じがするけど立派な訓練だ。
「ボーダー隊員同士が?!面白そう!!」
小町が楽しそうにそう言ってくる。まあアレは楽しいからな。俺もかなり気に入っている。
「じゃあ3人の中で誰が1番強いんですか?」
日浦がそう聞くと同時に熊谷と照屋は俺を見てくる。
「比企谷(先輩)」
「え?お兄ちゃんが1番強いの?」
「まあね。今日戦ったら2勝8敗でボロ負けだったし。文香は?」
「昨日20本勝負をして7勝13敗でした」
「八幡さん強いですね!今期で1番強いんですか?」
「いや。1番は俺じゃない。歌川と菊地原って2人が2トップだ」
あいつらはガチで強かった。歌川がC級にいた時には計20本勝負をしたが戦績は6勝14敗だったし、菊地原ともそんぐらいだった。
てか菊地原とはやりたくない。あいつかなり嫌味ったらしい。歌川と同じく風間さんの部下になったみたいだが礼儀正しい歌川の爪の垢を煎じて飲んでろ。
「なるほど……ところで八幡さん達はBに上がったらチームに入ったりするんですか?」
チームね。正直考えていない。一応何人か正隊員の人にはスカウト的な意味で声をかけられたが保留にした。
理由としては俺がコミュ症なのもあるが、俺自身チームを組むとしたら心から信頼出来る人と組みたい。だから会って間もない人からの誘いに即答するのは無理だった。
「俺は余り考えてない。2人は?」
「私も深くは考えてないね。今はB級に上がる事が最優先だし」
「そうですね。何度か声をかけられましたけど決めてはないですね」
へぇ、照屋も声をかけられたんだ。まあ照屋は強くて美人だしな。声をかけたい気持ちはわかる。
俺なんて金髪でいかにも不良って見た目をした諏訪さんに話しかけられた時はてっきりカツアゲかと思ってビビったし。まあその後に面倒見のいい人って知ったけど。
すると小町が予想外の事を言ってきた。
「だったらお兄ちゃん達3人で組むのはダメなの?」
小町がそう言ってきたので俺達は顔を見合わせる。
俺が熊谷と照屋と組むだと?これは完全に予想外だ。
「へぇ……まあ確かに比企谷や文香と組むのも悪くないね」
「そうですね。私は楽しそうだと思います。比企谷先輩はどうですか?」
いきなり聞かれたので内心ビビる。しかし答えないと変に思われるので慌てて口を開ける。
「あー、まあ確かに強いチームにはなるかもな」
割と強いチームにはなると思うが……美少女2人と同じチームなんて俺の胃が持たない。てか間違いなく男子の隊員に嫉妬で殺される気がする。
それに……俺なんかといても楽しくないだろうし。
そんな事を考えていると頼んだ料理が来た。いかん、ネガティヴな考えは止めよう。周りの空気を悪くするのは申し訳ないし。
全員に飯が行き渡ったので全員が自然と口を開ける。
「「「「「いただきます」」」」」
とりあえず今は食事を楽しもう。
そう思いながらフォークを手に取った。
肉を口にした瞬間、肉汁が俺の口内を蹂躙する。
(何だよコレ。肉汁もさる事ながらソースの味付けも良い。これで千円以下ってお得過ぎだろ)
更に付け合わせのサラダも口にするが玉ねぎの風味のドレッシングが刺激的で美味い。他の4人の料理も美味そうだし、また食べに来よう。
……ん?
「おい熊谷。ちょっと動くな」
「え?……ん」
俺はそう言って熊谷の頬の近くに付いてあるルーを拭き取る。流石に女子がそれはマズイからな。
「よし……取れた」
「あ、ありがとう。でも恥ずかしいから次からはいきなりやらないで」
熊谷が若干顔を赤くしながらそう言ってくる。
「あ、いやすまん。いつも小町にやる癖が出た」
「お兄ちゃんったら……小町はともかく女の子にいきなりやるのはダメだよ?」
「悪かったって。次からは気をつける」
謝りながら食事を再開する。そう思っているといきなり頬に何かが当たったので顔を上げると小町が俺の頬に触れていた。
「ソース付いてるよ」
そう言って小町はソースを舐める。そして俺に笑顔を見せてくる。
「今の小町的にポイント高くない?」
……アホか?
俺がそう思っていると事情を知っている日浦は苦笑いをしていて、熊谷と照屋は頭に疑問符を浮かべていた。
てか前から思っていたが小町のポイントって何なんだ?貯まると何が起こるんだ?スーパーで全品半額になるのか?何それ素敵。
そんなバカな事を考えながらも食事は進んでいった。
食べる事、15分……
「「「「「ごちそうさまでした」」」」」
全員でごちそうさまの挨拶をして立ち上がり会計を済ませる。
会計を済ませ外に出ると雪が降っていた。その上、風が吹いていてクソ寒い。
「さ、寒いですぅ……は、早く帰りましょう」
日浦はそう言ってくるが同感だ。早く帰るべきだ。
「俺と日浦は家から近いがお前らは近いのか?」
「私は新弓手町駅に近くて歩いて5分くらいだよ」
「私は三門市蓮之辺の境界あたりですから……歩いて30分くらいですね」
マジかよ?今は8時半だから帰りは9時かよ。悪い事した。全員そこまで遠くない場所にし飯屋にしときゃ良かったな。
「小町、先帰ってろ。俺ちょっと照屋送ってくわ」
「え?!それは先輩に申し訳ないですよ!!」
「うん。わかった。しっかり送ってあげてね」
照屋が遠慮すると同時に小町が俺の顔を見て言ってくる。
「小町から指令がきたから気にすんな。熊谷はここまでで良いか?」
「うん、ありがとう。それよりしっかり文香を送りなさいよ」
そう言って背中を叩いてくる。痛ぇな。でも熱の籠った良い一撃だ。
「つー事で行くぞ」
そう言って照屋を見ると申し訳なさそうに頭を下げてくる。
「……じゃあお言葉に甘えてもいいですか?」
「はいよ。んじゃ小町、また後で」
小町が頷いたのを確認して歩き出した。
雪が降る中、照屋と2人で歩く。俺達の着ているコートにも雪が付着する。
「本当に迷惑をかけてしまって申し訳ありません」
既に3回は謝られている。
「だから気にすんなって。てかもし送らなかったら小町にしばかれてるだろうし」
あの妹の事だ。間違いなく怒るだろうし。
「は、はい」
未だに申し訳なさそうな表情をしているが本当に気にしていない。てか寒そうに震えながら謝ってくるのちょっと可愛いな。
「にしても久々に降るな」
「そうですね。今週一杯降るようですけど……」
「まあ今は学校少ないから良いけど入試本番当日には降らないで欲しいな」
「その時には微力ながら晴れるように祈りますよ」
そう言って笑顔を見せてくる。やっぱり照屋の場合笑顔が似合ってるから申し訳なさそうな顔はしないで欲しい。
「ありがとな。じゃあよろしく頼む」
「はい。……あ!ここが私の家です」
そう言って見るとかなりデカいお屋敷だった。デカいな!星輪に通ってるからお嬢様なのは知っているがまさかここまでとは……
「んじゃ俺は帰る。またな」
「あ、待ってください。先輩も体が冷えてると思うのでうちで少し休んでいきませんか?」
待て。俺はともかく他の男子は間違いなく勘違いするぞ?
気持ちは嬉しいが断らないと。照屋の両親が俺を娘に纏わりつく悪い虫と勘違いされたらヤバイし。
「あー、気持ちは嬉しいが遠慮しとく。ここで休んだら帰りが更に遅くなる」
「……あっ。確かにそうですね」
どうやら照屋も納得したようだ。良かった良かった。
そう思っていると照屋が近寄ってきた。そして……
「じゃあ……せめてこれを……」
そう言って照屋は自分の首に巻いてあるマフラーを俺の首に巻いてきた。
俺がその行動に驚いていると笑顔を見せてくる。
「これで少しは暖かくなったと思います。送ってくれてありがとうございました」
そう言って頭を下げてくる。こんな高級そうなマフラーを借りるのは申し訳ないが照屋の性格からして返すのは却下するだろう。知り合ってから結構頑固なのは知ってるし。
……ここは素直に感謝しよう。
「ありがとな。明後日の合同訓練の時に返す」
「わかりました。その時にまた会いましょう」
「ああ。じゃあまたな」
「はい。お休みなさい」
「お休み」
照屋が自分の屋敷に入ったのを確認して俺も歩き出す。
借りたマフラーは凄く暖かく、雪の降っているにもかかわらず不思議と寒さを感じなかった。
俺はその事を不思議に思いながら家に帰った。