銀時と真選組の三人が海鳴市に戻って来てから数日が経過。
「フェイトォォォォ!! アリシアァァァァァ!!」
ようやく海鳴市へと降り立ったプレシアは出迎えに来てくれた娘たちを見つけるやいなや、案の定と言うか予想通りと言うか速攻で駆け寄り抱きしめる。
「ごめ゛ん゛な゛ざい゛!! ぶだり゛ども゛!! ま゛だぜで!!」
感極まったのか、プレシアは目からも鼻からも水分を垂れ流し、娘たちの頬に自身の頬を高速で擦り付ける。それはもう摩擦熱で火が出そうなくらい。
アリシアは母親に久々に会えて嬉しそうなのか顔を綻ばせ、母の愛情表現に成れてないフェイトは過剰なスキンシップに少し困惑していた。
海鳴市の海道沿い道でそんな母娘の様子を見ていた他の面々の内、銀時は気だるそうな眼差しを向けながら冷めた声を漏らす。
「アレが素のプレシアなんだよな……。なんか、今更ながらあの親バカっぷり見てるとスゲー複雑な感情が生まれるな……」
「っていうかなんでいつも降ろす場所、此処なんでしょうか? 無印の名シーンスポットだからですかね?」
銀時の隣に立つ新八が、何もない時はとりあえずここみたいな感じでアースラの転送場所となった海沿いの道を見渡しながら軽く疑問を口にする。
母の過剰なスキンシップに困惑するフェイトをなんとも言えない眼差しで見つめるクロノは、腕を組みながら銀時たちへと近づき、口を開く。
「まぁ、ここは人通り少なくて丁度いいから」
そして、海が見える道が選ばれる理由は、雑な理由だった。
*
そんなこんなで、地球の海鳴市へとやって来たプレシアとリニス。
無論、まだまだ色々と落ち着くワケではない。
まず問題なのは地球へと移り住むことになったテスタロッサ一家なのだが。
「えッ? まだ数週間くらい引っ越しに時間かかんの?」
と銀時が少し意外そうな声を漏らし、プレシアは言葉を返す。
「まぁ、多く見積もっての期間ね。たぶん何もなく順調に進めば、もっと早く新しい家に移り住んでフェイトとアリシアをなのはちゃんと同じ学校に入学させることが出来ると思うわ」
「まぁ、引っ越しに掛かる期間としては割と妥当な感じですね」
と新八が言うと、銀時は腕を組んで眉を顰める。
「一週間以上もミッドで色々準備してたんじゃねェの?」
「地球に移り住む為の手続きをね。次は新しい家やらこっちで住む為に必要なもろもろを処理していかなきゃならないわ」
プレシアの説明を聞いて、銀時は身振り手振りで表現しながら話す。
「魔法の引っ越しってよ、こうパパっと終わるもんじゃねェの? 大量の荷物は旅行バックに詰め込んだり、おめェの魔王場の出入り口をなのはの町の家の扉に繋いだり、お手頃な感じで引っ越しできねェの?」
「できない」
プレシアはバッサリ切り捨て、新八はツッコミ入れる。
「ハリポタとジブリの魔法感がごっちゃになってません?」
「そ こ で」
と言って話しに割り込むのは、プレシアと一緒に海鳴市に降り立っていたリンディ提督。彼女はニッコリとした笑顔で両手を合わせながら告げる。
「テスタロッサ一家の方々には当面の間、私たちの家に住んでもらおうと思うんです」
「「…………はッ?」」
リンディの言葉に銀時と新八は一瞬ポカーンとした表情になり、すぐに銀時が疑問を問いかける。
「いや、お前らなのはの地元に家持ってねェだろ?」
「つまりアースラがお家ってことネ」
と言う神楽の言葉を聞いて、銀時は口元を右手で覆う。
「……えッ? なに? これからプレシアは新しい家が見つかるまでアースラに住まわせんの? 職場がお家ですってか? うっわ、やっべー……管理局員って根っこまで社畜精神しみ込んでんの?」
「ブラック職ここに極まりネ」
そして銀髪と赤毛は口元抑えながらひそひそ喋り出す。
「おい神楽。あいつらにまともに会話すんじゃねェぞ。下手したら奴らの奴隷根性を伝播させられ、そのまま洗脳させられるかもしれねェ」
「わかったネ。奴らの半径十メートル以内には近づかないようにするアル」
「ひそひそ話しているつもりかもしれないが、ばっちり聞こえてるぞ」
と腕を組むクロノはツッコミ入れ、銀時と神楽にジト目を向けながら呆れ気味の声で言う。
「母さんのセリフから妙な勘違いをしているようだが、僕らはこれから地球――つまりなのはの住む海鳴市に住居を構えるんだ」
「えッ? なに? お前らミッドからなのはんとこに移住すんの? そんなに海鳴市気に入ったの? Iターンすんの?」
意外そうな声を銀時は漏らし、神楽はクロノたちに同情に視線を向けながら悲しそうに口元を抑える。
「そんなに仕事に疲れたアルか? だから田舎に移り住んで都会の喧騒から離れようと……」
すると、アリサはすずかへとさり気に聞く。
「私たちの町って、そんなに田舎だっけ?」
「ど、どうなんだろ……。魔法の世界の人たちにとっては地球って田舎なのかな?」
すずかは少々困り気味に答える。
銀時はなのはの肩に手を置く。
「おいなのは、良かったな。お前の地元は魔法世界の住人から見ても魅力的に映るようだぜ。地元を代表してお礼言ってやんな」
「は、はい」
なのはは反射的に返事をし、クロノへと頭を下げる。
「クロノくん、リンディさん。海鳴市を気に入ってくれてありがとうございます。それと、海鳴市は良いところなので」
「う、うん、そうじゃなくて……」
なのはの素直な反応と他の面々の妙な勘違いに、クロノは困惑しながら説明しだす。
「クリミナルなどの案件も考慮した結果、地球に長期間住む方が良いと思ったんだ。ようは、捜査をする為の仮拠点を構えるってことだ。それで、今日にはもう住めるよう荷物以外の準備などは済んでいるから、フェイトたちには本格的に住む新しい家が見つかるまでの間は住んでもらおうって話になったんだ。まぁ、一応言っておくが局員たちの拠点となる住居も手配してるからな?」
「充分な広さがあるので、プレシアさんたちが一緒に住むには十分かと。それに、何かと忙しいでしょうから、少なからず手助けをできると思ったので」
とリンディが付け足した言葉を聞いて、銀時は片眉を上げる。
「マジかよ。つまりなに? お前ら仕事にかこつけてなのはの地元で骨休めしようってか? 市民の税金搾り取った金でバカンスしようってか? 仕事忘れてバカーンになろうってか?」
「マジでか? 職権乱用&横領案件アルな」
そして神楽も便乗して若干軽蔑の眼差し。
「あんたらなにがなんでも僕らをこき下ろしたらしいな」
あーだーこ難癖付けてくる毒舌凸凹コンビに対して、クロノは青筋を浮かべる。
銀時は腕を組んで眉を顰める。
「おいおいマジかよあの執務官様。身近に別嬪の姉ちゃんもいる上に、更に成り行きで美少女姉妹も侍らせてんじゃん。フェイトとアリシアの住居提供と言うお題目の元、姉妹丼頂こうってか? ついでにプレシアもセットメニューに加えて親子丼もちゃっかり頂こうってか?」
銀時の言葉を聞いてブチっと頬に血管を浮かべるクロノ。
いつの間にかプレシアの抱擁が終わっていたテスタロッサ姉妹は銀時の近くにやってきており、彼の言葉を聞いて反応する。
「しまいどん? おやこどん?」
「なになに? これから親子丼食べられるの?」
妹は首を傾げ、姉は目を輝かせる。
銀時の言葉を聞いて神楽はフェイトとアリシアの肩にガシっと手を置く。
「二人共!! あいつと一緒に住むのは考え直すアル!!」
神楽はビシッとクロノへと指を突き付ける。
「あいつはきっとフェイトとアリシア、それにプレシアもセットで頂こうと画策しているに違いないアル!! 薄い本おじさん枠は考えることが違うネ!!」
銀時と神楽の凄まじく失礼な物言いに対し、クロノは青筋浮かべながら拳を握りしめる。
「いい加減にしないと名誉棄損で捕まえるぞお前ら……!」
普段のキャラがどっかに行きそうになってるクロノを見て、慌てて新八がフォローしだす。
「と、とにかく!! これでフェイトちゃんもアリシアちゃんもプレシアさんもこれからこのまま海鳴市にずっと住んでいけるってことですよね!! 長期間離れ離れにならず、いつでもなのはちゃんたちと気軽に会えるって言う、嬉しいお知らせなんですよね!!」
なのはは「あッ!!」と嬉しそうに声を漏らし、フェイトとアリシアへと近づく。そして二人の手を取りギュッと握る。
「フェイトちゃん! アリシアちゃん! これからも一緒にいられるね!」
ニコリと笑顔を浮かべながら手を握るなのはに対し、姉妹はそれぞれ反応を示す。
妹は薄っすらと笑みを浮かべ「うん……」と頷き、姉は満面の笑みを浮かべ「うん!」と元気よく頷く。
銀時はボソリと告げる。
「気軽に会える距離になるかどうか分かんねェけどな」
「うッ……!」
銀時の言葉で少し不安そうに汗を流すなのは。
そこで新八がフォローを兼ねて聞く。
「リンディさんたちが住む場所ってなのはちゃんの家から近いんですか」
「なのはさんのお宅の近くに手頃な良いマンションがありましたので」
リンディの言葉を聞いてホッと胸を撫でおろすなのは。
するとなのはに対し、アリサは「良かったわね」と言い、すずかは「これからもフェイトちゃんと一緒だよ」と声を掛け、なのは「うん」と笑顔を浮かべて応えている。
そして、
「――っと言うワケで」
リンディがパン! と手を合わせて叩き、それから場所は変わって、リンディたち管理局員とテスタロッサ一家が当分の間住むであろうファミリー向け中高層マンション前。
「〝みなさん〟にはこの荷物を部屋まで運んでもらいます」
笑顔のリンディがバスガイドのように裏返した掌を向けてご紹介するのは、大量に積みあがった引っ越し用の荷物。
「「「「「…………」」」」」
そして目の前の大量の荷物を見て無表情になるのは、万事屋三人、真選組の土方と近藤と沖田、柳生家の東城、元御庭番の全蔵の八人。
「……いやなにが、っと言うワケなんだよ」
いの一番に口を開いた銀時は、冷めた声で尋ねる。
「俺らに引っ越しの荷物運べってか?」
「はい。五階までお願いします」
しれっと告げるリンディの言葉を聞いて、銀時は不満そうに言葉を返す。
「いやざけんなよ。なにが五階までお願いしますだ。オメーらの荷物だろ。オメーらで運べ。つうか業者に頼め」
「経費を削減できるところは削減しようと思ってな。ちょうど人手あるし」
とクロノは告げる。
「いややらねェからな? 俺らボランティアじゃねェんだよ。お前母親と似て意外と図々しいとこあんな」
すると、真選組の二人が呆れ気味の声を出す。
「呼ばれてわざわざ来てみたらまさかの荷物運びかよ……」
「わーメンドクセ……」
土方は乗り気になれないと言わんばかりにタバコの煙を吐き、沖田なんかはやる気ゼロと言わんばかりに腕をだらんと垂らす。
だが真選組の長だけは反応が違く、ガシっと拳を握る。
「良いではないか二人共! フェイトちゃんやアリシアちゃんやプレシア殿ため!! ここは一つ、テスタロッサ一家の為に一肌脱ごうではないか!!」
「近藤さん。明日の飯も食えるかどうかって立場の俺らが、他人に一々節介を焼いてる場合じゃねェと思うんだが……」
と呆れ気味に言う土方。
「まぁそもそも、私たちの荷物は微々たるものだけど」
プレシアの言葉を聞いて土方はため息を吐く。
「それじゃあほとんどハラオウン一家のためじゃねェか」
「公僕の為とかやる気起きねー……」
と沖田。
「いや俺らも公僕だからな?」
と土方は軽くツッコム。
次に東城が「まったく」と言って腕を組みながら不満そうに告げる。
「私の主だった責務は若のお世話と護衛。今は若の為に海鳴市のロフトとソープをチェックするのに忙しいと言うのに」
「それしてあんたの若になんのメリットがあるんですか?」
と新八はツッコミ入れる。
次に全蔵が「やれやれ」と言って呆れた様子で告げる。
「俺は忍であって運び屋じゃねェんだぞ。今の俺はイボ痔が気になって、なにも手がつかない状態なんだぜ」
「それ忍びとなんの関係があんだよ!! ただの持病じゃん!! つうかそんなに気になるならさっさと手術しろイボ痔!!」
またツッコム新八。
そして銀時は「つうわけだ」と言って、踵を返す。
「俺らは自分らの面倒みんので精一杯だからオメーらの面倒はオメーらでみろや」
男手として呼ばれた面々はそのまま帰ろうした時、リンディがニコリとした笑顔で言う。
「もちろん。お手伝いの際にはちゃんとお礼は支払いますので」
「ちなみにどんくらい支払ってくれますかな? 提督殿」
と銀時が訊く。いつの間にかリンディの元に寄っている銀時、土方、東城、全蔵。
銀時の問に対してリンディは電卓を使いながら答える。
「これくらいならどうでしょう」
「おッ、結構色付いてんじゃ。提督殿分かってる~」
と銀時が言い、更に土方、東城、全蔵も口々に告げる。
「まぁ、荷物運びも体を鍛えるにはちょうど良いしな。日ごろの鍛錬も兼ねてやってやろう」
「若の為、金の為、ソープの為。この東城、身を粉にして働きましょう」
「安心しな。俺は忍だ。荷を運ぶのには自信がある」
金をチラつかされて簡単に掌返す四人を見て、新八と神楽と沖田はジト目向ける。
アリサは冷めた目で金にがめつい大人たちを見ながら、クロノへと近づく。
「って言うか、普通に引っ越しの業者の人たちに頼んだ方が良かったんじゃない?」
アリサの疑問に対し、クロノは苦笑しながら言う。
「まぁ、この世界に来て無銭の彼らに気を使ってのことさ。当分の生活を工面しようとしても嫌がるだろうからって」
「あー、金にはうるさそうな割に他人に無償で貰うのとか嫌がりそうよね。特に銀時とか土方とか」
とアリサは納得したように言葉を漏らし、なのはは苦笑いしながら告げる。
「銀さんなんか『管理局に貸しを作るのは嫌だ』って言いそうだもんね」
「あー、言いそうだよね」
すずかはうんうんと頷く。
フェイトは中高層マンションを見上げながら、どことなく嬉しそうな表情を浮かべだす。
静かに頬を綻ばせる妹の顔を見て、アリシアはニヤリとした笑みを浮かべる。
「あ~、フェイト。なのはちゃん家の近くに住めて、すぐになのはちゃんに会えるから嬉しんでしょ?」
「ッ……!」
姉の言葉が図星で気恥ずかしくなったのか、頬を赤く染めて下を向くフェイト。
アリシアはフェイトをちょこっとからかってから腰に手を当て、
「まッ、私も嬉しいんだけどね!」
と言って、胸を張ってふんと告げる。
そんな娘たちの様子を見ていた母は、顎に手を当てながら真剣な表情で告げる。
「ここ、引っ越し先の第一候補にしようから?」
「あんたどんだけ娘第一なんですか?」
新居の取り決めも娘第一のプレシアに、新八は若干気圧されてしまう。
プレシアの言葉を聞いたフェイトはふと思いついたように言葉を口にする。
「もし仮住まいじゃなくて、ここに本当に住むことになったらクロノとはお隣さんになるんだ」
「おいおい、それはヤベーんじゃねェの?」
フェイトの言葉に反応して、沖田がポケット手を入れながら語る。
「つまり、クロノはいつでもフェイトとアリシアを毒牙に掛けられる薄い本みてェな状況に――」
「だぁぁもぉぉ!! うっせぇんだよ!! ブレイズキャンぶつけんぞ!!」
ブチ切れるクロノ執務官。
このままだとマジで魔法をぶっ放しそうなクロノを見て新八は慌てて声を出す。
「と、とにかく!! ひ、引っ越し頑張りましょう!! おー!!」
そんなこんなでハラオウン親子+αの仮住まいの為の引っ越し作業が行われることになった。
まぁ、もちろん手伝ってる連中が連中だけに色々と問題が起きるワケで。
まず近藤が気合とばかりに、
「よし! 汗まみれになりそうだ! 上は脱いでいこう!」
「いや、うちで洗濯して良いんで脱がないでください」
とクロノが告げる。
次に東城が、
「近藤殿!! 汗を心配するのであれば上だけではなく下も脱がなくては!!」
「なるほど!!」
「だから脱がんで良い!!」
とクロノがツッコミ入れる。
荷物を運んでいた銀時が何個か運ぶうちに愚痴り始める。
「ハァ……メンドクサ。つうかよ、なんか持たずに楽して運ぶ方法ねェの?」
「台車探して来ましょうか?」
と新八が言うと、すかさず東城が話しかける。
「いえ、台車よりももっと楽に荷を運ぶ方法があります」
「えッ? なにそれ?」
と銀時が訊けば、東城は真剣な表情で言い放つ。
「ローションです!!」
「新八、台車」
「はい」
自信満々にアホなこと言う東城を無視して、銀時は新八に台車を頼む。
東城はすぐに待ったを掛ける。
「お待ち下され!! ローションを舐めないでいただきたい!!」
「舐めねェよ。つうか舐めたくもねェし舐めるモンでもねェ」
と銀時はバッサリ切り捨てるが、東城は食って掛かる。
「世の中には舐めれるローションもあるんですぞ!!」
「知らねェよんなどうでもいいローション豆知識。つうかローション使って荷物をどうやって運ぶんだよ」
「良いですかな銀時殿? ローションは摩擦を限りなくゼロにできます。つまり、地面に荷を置いたまま滑りを利用して楽に荷を運べるのです!! しかも荷を傷める心配なし!! 驚きましたかな?」
「んな頭の悪いアイデアをドヤ顔で披露するお前にビックリだわ。アホなネタ言って滑ってねェでさっさと荷物運べ」
「ローションだけに滑るということですかな?」
「黙れロン毛ローション。そして死ね」
「ならば!! ローションの有用性、この東城がしかとお見せしましょう!!」
と言う事で東城は荷物から部屋までローションの道を作ろうと、地面にローションを撒き始める。
銀時はローションを無駄なことに使う東城を白い目で見ながら、たぶん口出しても無駄だと思って別のことを訊く。
「つうかよ、お前なんで九兵衛を連れてこなかったんだよ」
「刀より重たい物を持ったことのない若に、引っ越しの荷運びなどさせるワケには参りません」
と東城はローションを地面に撒きながら答える。
「いやお前、箸より重たい物を持ったことが無い的に言うけどな、刀がどんだけ重いか知ってる? アレ野球バット並みかそれ以上だぞ。それぶんぶん振り回すお前の若がどんだけ力持ちか分かってる?」
「そもそも、若が居ないと文句を付けるのであれば、全蔵殿のお連れのくノ一殿も居ないではありませんか」
「知らん。あのイボ痔忍者に聞いたらあいつは他にやることがあんだとよ。あのドMはガキ共にも悪影響だし、俺も絡まれたくねェから別に気にしねェけど」
「ならば若が居なくても問題ないではありませんか」
「いや、その言い方だとお前の若はあの変態くノ一と同列って扱いになるけど、良いの?」
銀時はローションを撒く東城から視線を移し、引っ越しの荷物を持っていく上の階を見上げ、頭をボリボリと掻く。
「つうかよ、勝手に付いて来たなのはたちだって自主的に引っ越し手伝ってんだぜ。まぁ、持っていくのは軽めのモンで、後は部屋に荷物置いたりとかだが。やっぱあいつらと仲良さげな九兵衛のやつが今日呼ばれなかったの知ったら、仲間外れされたみたいな気分になるんじゃねェの?」
「銀時殿!!」
東城はガバっと後ろを振り返りながら声を荒げる。どうやら自分の失態に気が付いたのか、と銀時は思ったのだが。
「若にローション仲間になれと申しますか!!」
「誰もんなこと言ってねェよ! ローションと仲良いのはお前だけだろ!」
見当違いな方向に思考を働かせた東城に銀時はツッコミ入れる。
だが東城の暴走は止まらない。
「若をローション広がるこの地に呼んでローションプレイさせようとはなんとエロ――破廉恥な!!」
と東城は顔を真っ赤にしながら怒鳴る。
「だからんなこと言ってねェよ!! つうかその破廉恥な液体まき散らしてんおめェだろうが!!」
「とにかく!! 若のような純情可憐な存在をローションでヌメヌメにしようなどとなんと背徳的――不健全な!!」
東城は鼻の下を伸ばしながら拳を握りしめて熱く語る。
「いやおめェが一番不健全だろ!! 若でなに妄想した!? ぜってェ嫌らしい妄想で頭いっぱいにしたよな!?」
「だがしかし!!」
東城はなぜか悔しそうに拳を震わせながら熱く吠える。
「今、若は翠屋でミニスカメイドとして頑張っている!! そんな若をお呼びしてローションでヌメヌメにするなど、この柳生四天王筆頭東城歩!! 超見てみたい!!」
「お前九兵衛のお付き今日でもう止めろ!! つうかあいつがバベルの塔生やしたい理由って主にオメーが気持ち悪いせいじゃねェの!?」
銀時が東城の願望にツッコミ入れていると、荷物を取りに来たクロノがローションロードを踏んですっ転ぶ。
それを見た銀時と東城は「あッ」と声を漏らし、クロノは反射的に口から声を漏らす。
「いったぁぁ!? ……って、なんだコレ!? デカいナメクジでも通ったのか!?」
ローションの道を見てビックリ仰天するクロノに、銀時が東城を指さしながら告げる。
「この柳生家のローションバカが作ったバカロードだよ」
「なにやってるんだ東城ぉ!!」
すぐさま怒鳴り声を上げるクロノは東城に近づく。
「いますぐその液体を片付けろ!! 滑って危ない!!」
だが、東城は腕を組みながらまるで通販番組のように説明を始める。
「なにを言いますクロノ殿。このローションさへあれば台車いらず。荷を地面で滑らせながら運ぶことができるのです」
「荷物がべちゃべちゃになるだろうが!! 普通に台車で充分だ!! あと危ない!!」
「ならば、これから部屋に行ってワックスの代わりにローションを撒くのはどうでしょう?」
「いやなにがどうでしょうだ!! ダメに決まってるだろ!! そんな滑りやすいヌルヌルした液体を新居に撒くとかどんな嫌がらせだ!!」
「私的にはヌルヌルではなくヌメヌメの方が響きがエロくてローションぽいと思うのですが」
「いやそんなどうでもいい事言及されてもこっちが困る!! つうかなんで撒く!!」
「ワックスよりももっと滑って楽しいと思います」
「理由が稚拙過ぎるだろ!! 真面目にやれ!!」
「私は至って真面目です。真面目に若をローションまみれに――」
「真面目ならなおのこと悪いだろ!!」
などと東城とクロノが問答をしている時、神楽が鼻歌謳いながら荷物を取りに来てすってんころりん。
銀時、クロノ、東城はそれを見て「あッ」と声を漏らし、
「うォらァ!! 誰の仕業だァァァァ!!」
神楽はすぐさま憤慨し、立ち上がる。銀時とクロノが「アイツ」と言って東城を指さす。
神楽はギロリと目を吊り上げて鋭くし、東城へと駆け出す。
「こんなとこにヌルヌルの液体を撒いてんじゃねェェェェェ!!」
「神楽殿!! ヌルヌルではなくヌメルゴォォォオオオオオオオオオ!!」
神楽の鉄拳を腹に受けて東城はきりもみ回転しながらぶっ飛び、ローション道へと落下。糸目はそのままローション塗れになるのだった。
そんなこんなで作業は進んでいく。
横に長いソファを持った神楽が玄関に荷物を入れようとするが、上手くソファがドアに通せずにガンガンとソファがドアの引っかかってしまう。
業を煮やした神楽が銀時へ声を掛ける。
「銀ちゃ~ん。めんどくさいからドアの端をソファでぶち破って入り口広げても良いアルか?」
「いいぞ」
「良いわけないだろ!! いきなり新居を壊すな!!」
とクロノがツッコミ、銀時が神楽に告げる。
「つうわけだ。ソファを折っちまう方が早い」
「わかったアル」
「そっちもダメだ!! 新品を廃品にするな!!」
とクロノが怒鳴りながら待ったを掛ける。
次に全蔵が棚の近くでしゃがんで何かを見ていることにアルフ(元々居た)とエイミィが気付く。
そしてアルフが不思議そうに声を掛ける。
「おい、前髪垂れぞう。どうした? そんなとこで固まって」
「ん? 実はな――って、誰が前髪垂れぞうだ!! お前ほとんど俺と初対面の癖して随分失礼なあだ名付けやがるな!!」
全蔵はガバっと振り向きながら怒鳴り声を上げ、アルフは平然とした顔で告げる。
「いや、あんたの名前をよく知らなくて銀時に聞いたら前髪垂れぞうって呼んでやれって聞いたから」
「あんにゃろォ!! テキトーな事吹込みやがって!! たしかに俺の前髪は垂れちゃいるが!!」
と全蔵は青筋浮かべながら拳を握りしめていると、アルフは言葉を掛ける。
「もしくは『イボ痔マン』か『変態イボ痔たれぞう』ってあだ名でも良いって聞いたけど、さすがにそんな下品な言葉何度も口にするの嫌だから前髪垂れぞうにした」
「んな小学生の悪口みてェなあだ名で呼ばれんの俺も嫌だわ!! たしかにイボ痔だけど!! つうか最後に至ってはイボ痔垂れてるみてェじゃねェか!! そこまで重症じゃねェよ!!」
憤慨する全蔵だったがため息を吐いてすぐに落ち着きを取り戻し、腕を組みながら告げる。
「俺は服部全蔵。まぁ、苗字でも名前でもどっちでも良い」
「あたしとしちゃ、ぶっちゃけあんた変態だから変態前髪でも良いと思ってんだけど」
「お前マジでぶっちゃけるな!? 確かに第一印象は最悪だった!! 前髪も垂れてる!! イボ痔だ!! それでも名前か苗字で呼んで!! 俺こっちの世界の連中に速攻で変態ってイメージ持たれたくねェから!! マジで!! お願い!!」
全蔵を少しジト目で見ながらアルフは頷く。アルフの横にいたエイミィは問いかける。
「それで、全蔵さんは何をしてたんですか? 棚がどこかおかしかったですか?」
「いや、蜘蛛が居たのに気付いてな。もう隙間に入っちまって確認できねェが」
「ええ!? 新居にもう虫が!?」
とエイミィが驚きの声を上げ、いつの間にか現れた近藤が「なにィ!!」と言いながらデカい声を出す。
「ならば今すぐバル〇ンを焚かなければ!!」
「いきなり新居にバ〇サン焚くな。しかも引っ越しの最中だぞ」
近藤に付いて来た土方が冷静にツッコム。
「いや殺さんで良い。蜘蛛は基本的には益虫だからな。悪い害虫を食ってくれたりするぞ」
と全蔵は冷静に語る。
「だがいきなり新居に蜘蛛の巣を張られるってのも頂けない話だな」
と土方が言うと、次にいつの間にか部屋へと入ってきていた銀時が腕を組みながら告げる。
「つうかよ、アルフ。オメーの体がノミまみれだから蜘蛛沸いたんじゃねェの?」
「えッ!? い、いやいやいや!! あ、あたしちゃんと毎日風呂入ってるから!! き、基本人型の時の方が多いし!!」
「強めに否定する割に声が震えてんぞ」
すると銀時の姿を確認した全蔵は「つうかテメェ!」と食って掛かる。
「なにも知らない使い魔に、なに人様の嘘吹き込んでんだ!! 俺がこの町でイボ痔で前髪垂れた変態って噂が流れやがったらどうするつもりだ!!」
「ほぼ事実じゃねェか!! オメーは前髪垂れてて、イボ痔でたれ痔の変態忍者だろうが!!」
「たれ痔でもねェし変態でもねェ!! 変態は猿飛だけで充分だ!! 俺はあいつと違ってノーマルだ!!」
そして銀時と全蔵の口論と並行するように、
「だ、大丈夫!! あ、あたしの毛並みは綺麗でノミなんていないから!! ま、毎日風呂入ってるから!! そ、その辺の飼い犬共とは違って清潔感を心掛けている!! ふぇ、フェイトと一緒に寝ても大丈夫!! そ、外で寝かされたりなんかしない!! うん!!」
アルフは両手で頭を抱えながら不安と戦い、
「バル〇ンがダメならばバルタンを!!」
「宇宙忍者呼んでどうすんだよ。つうか虫を増やしてどうする」
「ならばバルサ〇でバルタンを退治するんだ!!」
「目的変わってんぞおい」
近藤と土方は無駄な問答をし続ける。
そんな場面を見ていたエイミィは頬を掻きながら苦笑し、思う。
これ、一日で引っ越し終わるかな? と。
*
そんなこんなで途中途中で色々と小さな問題は生じたものの、なんとかこうにか引っ越しは無事に済むのだった。
ちなみに引っ越しが終わってひと段落した時に、なのはがある疑問を投げかけた。
「クロノくん。クロノくんて、当分海鳴市に住むなら私たちの学校に転校したりするの?」
「いや、しないよ。執務官としての仕事だってあるんだし。必要じゃなければ、君たちの学校に行く事はないと思うよ」
「じゃあ、クロノくんは私たちと一緒のクラスでお勉強ってことはないんだね」
と少し残念そうに言うすずかの言葉を聞いて、クロノは困惑する。
「……えッ? うん? えッ?」
「そう言えばクロノって、私たちと同い年? それとも一つか二つくらい歳が違う?」
アリサの質問を聞いて、やっとなのはたちが『ある勘違い』をしていたことを理解したクロノは達観した顔で言葉を漏らす。
「アハハ……あー……うん……なるほど……」
今になって、身長のお陰でなのはたちが自分を同い年くらいの男の子だと勘違いしていたと知って、結構凹んだクロノ執務官(14歳)であった。