魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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第八十一話:酒は飲んでも飲まれるな

 ミッドチルダ中央区画。

 時刻は夜となり、クラナガンのネオン街を色鮮やかな光が彩る。その一角に点在するダイニングバー。

 そこでは木造りのテーブルを挟んで酒飲みたちの雑談や談笑する声が響く。店が盛況であることを示すようにどの席も客で埋まっていた。

 その中でもひと際が甲高い声が。

 

「「「カンパーイ!!」」」

 

 ビールのジョッキを景気よくカキン! と当て、大人三人がゴクゴクとアルコールを摂取する。

 

「「ブハーッ!!」」

 

 ジョッキに入ったビールを半分ほど飲み干して気持ちよさそうに感嘆を漏らす三人のうちの二人。

 

「いやァ~、マジでここのビールキンキンに冷えててうめェな!!」

 

 白い着物を半分はだけた状態で着た銀髪の侍――坂田銀時。彼はビールのジョッキ片手に頬を赤く火照らせながら、気分良さそうに大きな声を出す。

 

「そう言ってもらえれて良かったぜ。紹介した甲斐があったってもんだ」

 

 銀時の向かいの席に座るグレーの髪の男性――ゲンヤ・ナカジマは、ジョッキを机の上に置いて嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「私も初めて来た店ではあるが、これなら今後とも利用したいものだ」

 

 銀時の左隣の席に座る紺色のスラックスに、白いワイシャツを着込んだ紫髪の男性――ジェイス・スカリッテ。彼もまた、銀時同様にゲンヤ一押しのダイニングバーに満足してか褒めだす。

 

「いやまったくだよな! つまみもうめェし!」

 

 銀時はスカリッテの言葉に同調しつつ『鳥の串焼き』をパクリと食べ、またビールをグイッと一飲み。そしてジョッキの中身がなくなったので、腕を上げる。

 

「すんませ~ん! ビールおかわりお願いしま~す!!」

「では私もいただこう」

「あッ、俺も頼むぜ!」

 

 スカリッテとゲンヤも便乗。

 

 ビールのおかわりを聞いた厨房の店員は元気な声で「わかりましたー!! ビール三つですね!」と返事をしてから、ジョッキにビールを注ぎ、銀時たちが座る席へとすぐさま持っていく。

 空になったジョッキを持っていく前に銀時はつまみの追加注文をする。

 

「そんじゃ追加で鳥の唐揚げとえだまめとトロトロ半熟ゆで卵お願い」

「では私は鶏胸肉のソテーを頂こう」

「じゃあ俺はオツマミキャベツ」

 

 そしてまた銀時に続いてスカリッテとゲンヤも注文。

 

「はい!  鳥の唐揚げとえだまめとトロトロ半熟ゆで卵に鶏胸肉のソテーにオツマミキャベスですね! ありがとうございます!」

 

 店員は景気よく返事をした後に、ハンディを打ってから厨房へと足早に戻っていく。

 厨房に向かう店員の背中を見てから銀時たちはまたビールをグイッと飲む。

 

「…………」

 

 酒を豪勢に飲む男三人の姿を半眼で見るのはプレシア・テスタロッサ。彼女はウーロンハイが入ったグラスを握りながら口を開く。

 

「……ねぇ、リニス。なんで私がメンドーな書類や手続きと格闘している間に、あの銀髪は見知らぬ人間とバカみたいに酒飲んでるのかしらね?」

「アハハ……」

 

 皮肉交じりに話しかけるプレシアの右隣に座るリニスは、オレンジジュースが入ったグラスを手に持ちながら苦笑する。

 

 銀時とリニスがナカジマ一家という家族を助けた後どうなったのか。

 

 簡単に要約すると――騒ぎに駆け付けた局員の聴取を受けた後、ゲンヤが娘を助けたお礼がしたいと言う話になった。

 話していくうちに銀時が酒をよく飲む人物だと知ったゲンヤ。彼一押しの居酒屋ならぬダイニングバーで夕食と酒を奢ると提案。銀時即了承。

 

 そんなこんなで日が落ちる頃になってリニスと銀時の元に戻ってきたプレシアも折角なので同席することになったと言うワケである。ちなみにちょっと離れている間に問題や事件に関わってしまった銀時にプレシアは若干呆れてしまった。

 

「しっかしわりィな。奢ってもらってよ」

 

 と銀時。

 

「わりぃとか言ってる割にさっき遠慮なく注文したわよね?」

 

 お礼としての食事とはいえ、なんの気負いもなく平然と注文する銀髪に、プレシアはジト目でツッコム。

 ゲンヤはなんでもないといった顔で手を横に振る。

 

「いいっていいって。あんたんとこの連れと使い魔のお陰で娘に怪我がなくて済んだんだ。晩飯をご馳走するくらいしなきゃ、申し訳なくて仕方ねぇ」

「しっかし、こうも良い店だと俺の故郷にあったらなーって思うわホント」

 

 多くの居酒屋に通うらしい銀時としても、満足しているようだ。ゲンヤの紹介したダイニングバーは低価格の割に酒の味は悪くなく、つまみも料理も美味い。そして店員の気も良い。彼の言う通り、良い店なのは確かである。

 

「紹介してくれてマジサンキューな。もしまたミッド来たら利用させてもらうわ」

 

 正直であろう感想を口にする銀時。

 

「あぁ、私としても今後とも利用させてもらおう」

 

 そしてスカリッテもまたうんうんと頷きながら銀時の意見に同意を示す。

 

「…………」

 

 仲良さげに銀時やゲンヤと酒を飲むスカリッテに、ジト目向けるプレシア。

 

 同席し、脱いだ紺色のスーツの上着を椅子の背もたれに掛け、和気あいあいと酒を飲むこの紫髪の男。銀時とリニスが助けたゲンヤと違い、『まったくの赤の他人』なのである。

 じゃあそもそもなんでこの人、銀髪たちと同席して酒飲んでの? と疑問が出てくるのだが、簡単に説明するこうなる。

 

『隣の席に座っていたスカリッテと連れの一人がいつの間にか相席して、そのまま一緒に酒飲んでいる』というワケ。

 プレシアさんは今の状況を脳内で簡単にまとめてみたが、理解ができずに頭を抑える。

 

 実のところ、最初は銀時、ゲンヤ、リニス、そしてプレシアの四人で酒を飲みながら夕食の席に付いていた。だが、隣の席で連れの女性と飲んでいたスカリッテがコップに入ったグラスの底をガン!! と机に叩き付けた挙句、

 

『ホント……なんなんだろうね……彼らは……。ああしろこうしろと指示ておきながら……ああでもないこうでもないと文句ばかり……。挙句の果てには言うこと聞かないと出資カットするとか……』

 

 ぐちぐち何か文句を垂れはじめ、

 

『私は彼らの奴隷じゃないんだぁぁぁぁあああああ!!』

 

 シャウトして泣き崩れる始末。

 そして連れの女性に慰められているスカリッテに、

 

『わかるぜぇ、上司の強引な命令ってのは聞かされただけでも胃に穴が開きそうになるもんな』

 

 となぜが共感しているゲンヤが肩をポンと叩いて慰める。

 すると次に、

 

『まったくだ。お偉い連中ってのは下で懸命に働いてる奴らの事を何もわかっちゃいねェ』

 

 努力のどの字からほど遠く、誰の下にも付いてない銀時(おとこ)が分かったような口ぶりで慰め、肩をポンと叩く。

 

『ありがとう……。誰だか知らないが、気持ちが楽になったよ……』

 

 そして知らない男二人を受け入れるスカリッテ。とまぁ、意気投合してんだかしてないんだか分からんまま飲みニケーション始めた三人。そしてさっきまで泣き上戸だったスカリッテも今では酒飲み仲間。

 だが、謎の男の気分は時折沈みだすようで、

 

「私もね、こうやって好きな店で好きな酒を飲むように好きな研究をしたいんだよ。でもお金がさ……」

「いいっていいって」

 

 と言って、銀時は左隣に座るスカリッテの左肩をポンポンと叩く。

 

「今は飲もう。飲んでとにかく飲み明かして嫌な事なんてぜぇ~んぶ忘れよう。な?」

「そうだそうだ!」

 

 ジョッキを片手にゲンヤも続く。

 

「仕事のこと、嫌なこと、怖い嫁のことは忘れて飲み明かそう! そんで明日も頑張ろう!!」

「うん……」

 

 時折ダウナーモードにスカリッテがなるので、すかさず銀時やゲンヤが励まし、更に酒をゴクゴク飲む。頼んだつまみはテキトーに残して、とにかく酒を飲む。そりゃもう飲む。そんな感じだ。

 あまり酒を飲むイメージに見えない知的で怪しげな雰囲気を持つスカリッテ。彼はまたジョッキに入ったビールで喉を潤し、顔を赤くさせながら告げる。

 

「いやまったく。他人とこうやって騒ぎながら酒を飲み合うのは初めての経験だよ」

「へェ~、友達いねェんだな」

 

 さらっと失礼極まりない銀時の発言に、スカリッテはいささかも顔をしかめることなく「残念ながらね」と大人な対応を返す。

 スカリッテの言葉を聞いてからゲンヤが満足げに口元を吊り上げる。

 

「そうか。まぁ、一人で飲む酒も良いが、他人と飲む酒はってのもまた良いもんだぜ」

 

 するとゴクゴクとビールを飲んだ銀時もジョッキを見つめながら口を開く。

 

「あァ。酒の席ってのは腹に溜まった鬱憤をまき散らし、終わった後は腹に溜まったモンを路上にまき散らす。良いもんだ」

「いや、全然良くないわね。むしろ最悪ね」

 

 食事の席でナチュラルにきたねぇ連想させる銀時に、プレシアはツッコミ入れる。

 銀時は枝豆が盛られた小皿を手に取る。

 

「ほれ、枝豆やるから元気だしな。俺の奢りだ」

「いや、奢られてるのあんたでしょ」

 

 人から奢られたツマミをさも自分の物のように差し出す銀時に、プレシアは呆れ声。

 

「ならお礼に私からはコレを渡そう」

 

 銀時から枝豆受け取ったスカリッテはポケットに手を入れる。

 

「タラリラッタラ~。猫語翻訳機『にゃんじゃこりゃぁ』(ダミ声)」

 

 スカリッテがポケットから取り出したのは、なんと言うか猫の顔をデフォルメして作られたたまごっちみたいなヤツだった。口の部分には文字を表示するであろう四角いディスプレイが付いている。

 

「スカえもォ~ん。それはどんな道具なのォ?(裏声)」

 

 悪乗りしだす銀時に、スカリッテは『にゃんじゃこりゃぁ』を銀髪の顔の前に差し出しながら説明を始める。

 

「コレは猫の言葉を翻訳してくれる装置なのさ~(ダミ声)」

「うわァ~すごォ~い。じゃあ早速使ってみるね~(裏声)」

 

 銀時はスカリッテからにゃじゃこりゃぁを受け取り、プレシアの右隣に座るリニスへと体を向ける。

 

「おいリニス。なんか喋ってみろ。きっとお前の気持ちを理解できるはずだ」

「えッ? ……いや、その、私元々喋れるんですけど?」

 

 するとピピッと言う電信音がにゃじゃこりゃぁから聞こえ、小さなディスプレイに文字が表示される。

 

『発情期です』

 

 見当違いな文字が表示され、銀時は真顔で言いだす。

 

「お前の気持ちはよく分かった。じゃあ、帰ったら寝る前に鎮めておくか?」

「とりあえずその機械とあなたの頭が壊れているのはよくわかりました」

 

 リニスが冷たい言葉を返せば、またピピという電信音が鳴り、

 

『交尾しましょう』

 

 と言う一文がディスプレイに出るのでリニスは青筋浮かべる。

 

「それ……壊してもいいですか?」

 

 スカリッテはにゃんじゅこりゃぁの性能を横から見ながら「ふむ、やはり遊びで作っただけに出来はいまいちだね」と言って顎に手を当てている。

 

「人を怒らせるという点では中々の秀作ですよ」

 

 少々怒りを垣間見せ、ピクピクと眉を動かすリニス。

 プレシアはくだらない応酬を両耳で聞きながら、はぁ~、とため息を漏らし、ウーロンハイをちびちびと飲む。

 

「すみません。ドクターがご迷惑を」

 

 プレシアの向かいの席に座る、ウェーブがかった薄紫の長髪をした少々目つきが鋭い十代後半くらいの女性が、頭を下げる。

 青いスカートに腕の上部が青い白いスーツを着込んだ彼女はスカリエッティの連れで名前を『ウーノ』というらしい。

 

 プレシアとしてはファミリーネームを名乗らなかったのが少し気になったが、ただ酒の席で一緒になった人物なので特に追及はしていない。

 ウーノは少々申し訳なさそうな表情で弁明する。

 

「ドクターはあまり過度な飲酒をする方ではないので、ここまで悪酔いするとは……」

「別に気にしてないわ」

 

 プレシアは首を横に振った時、ジョッキを持った銀時が肩に腕を乗せてくる。

 

「おいおいプレシアよォ~、オメーも最近色々大変な目にあってストレス溜まってんだろ? 今日はパァ~っと飲んで気持ちスッキリさせようぜ」

 

 チラリと視線を向ければ銀時の顔はさきほどよりも赤くなり、彼がどんだけ酔っているか如実に表している。

 プレシアは冷静に言葉を返す。

 

「明日に響くから私はそれほど飲むつもりはないの。あなただけ頭パァ~になってればいいでしょ」

「誰の頭が天パァだコラ。俺の頭はいつかサラサラセフィロスフェァにだな――」

「はいはい分かったから。勝手に飲んでて」

 

 もうなんか相手するのもめんどうなので、プレシアは銀時(酔っ払い)の顔面に掌当てて無理やり押し返す。

 プレシアと銀時の話を聞いていたであろうウーノは、野菜ジュースが入ったコップを握りながら小首を傾げる。

 

「ドクターと同じく、ご多忙なのですか?」

「まぁ……なんというか……色々あって大変だったのよ。それだけ」

 

 そう言って少し顔を逸らし、またちびりと酒を飲むと同時につい思い出す。ジュエルシード事件のことを。

 娘を取り返し、自由を手に入れたプレシアとしてはもう思い出しくはなかったが、考えずにはいられない。捕えられ、時空管理局本局に護送されたクリミナルたちが今後どうなるのかを……。

 

 

 

 管理局本部。

 ソファや飲み物が備え付けられた休憩室では、

 

「プレシアさん……やっぱりー……怒るよね?」

 

 ソファに座って冷や汗を流すエイミィ。紙コップをギュッと握りしめる手は、手汗でダラダラ。

 彼女の隣に座るクロノも汗をダラダラ流す。

 

「あぁ、たぶん……鬼のようにな……」

 

 エイミィとクロノに対面する位置に座るリンディは、深くため息を漏らす。

 

「……それに、もちろんなのはさんたちもショックを受けるでしょうし……」

「江戸の連中、特に銀時や沖田からは小言も苦言もめちゃくちゃ言われそうだ……」

 

 クロノは垂れ下がった頭を抱え、漏らすように告げる。

 

「まさか……トランスたちが〝脱走する〟なんて……」

 

 そう、実は時の庭園で捕まえたはずのトランスとパラサイトと博士。この三者はアースラの拘置室で監禁し、本局に移送することには成功したのだ。

 もちろん、逃走用の道具を持ってないか入念に身体検査は行った。パラサイトはそもそも昆虫のような本体に隠せるモノなどないだろうが。

 

 安全と分かった後は、早いうちに人外たちの特異な肉体の検査をしたかった。が、さすがにアースラで何か起こされるかもしれないという危険を考えて、設備と防備が十分に用意された本局で本格的な肉体の検査を始める予定であったのだ。

 

 そしてようやく本局の拘置室まで護送し終え、肉体の検査に入る段階。

 

 だがしかし、いざ本局の拘置室に三人を入れた途端だった。力なく、大人しい様子の三人を監視していた映像が、まるで壊れたかのように乱れだす。

 クロノが連絡を受けた頃には、三人の姿は跡形もなく消えていた。

 

 そこからもうてんやわんや。

 

 レティ・ロウラン提督からの話すら後回しで、逃げた人外二名と人間(?)一人の行方を必死に捜索。

 だが、本当に手掛かり一つも掴めないまま一日が過ぎ去る結果になってしまった。

 本局に潜んでいる可能性もあって、今の本局内部は警戒態勢中。

 

 どうやってカメラを機能不全にしたのか? なんで三人は逃げられたのか? 分からないことだらけ。

 本当に謎だけを残した、管理局として不甲斐ない結果だけが残ってしまったのだ。

 

 そして最後に、プレシアを少なからず知っている局員三人は、大魔導師がどんだけ怒り狂うか分からず、深いため息を漏らす。

 もちろん、江戸の連中の何人かも中々にメンドクサイ反応をしてきそうではあるが。

 

 ただ今回の件は、決してクロノたちの落ち度ではない。とはいえ、管理局員として来るべき批判(バッシング)は受ける所存なのだ。

 プレシアの怒りや銀時たちの毒舌などはもとより受け止めるつもりでいる。

 ただそれはそれ、これはこれ。誰だって、火山が噴火したり、豪速球が飛んでくるとわかったら身構えるモノだ。

 プレシアの憤怒はメンドクサイくらいヤベーだろうし、銀時&沖田の口撃もメンドクサイくらいキツイだろう。

 色々なメンタルダメージは覚悟せねばならないのである。

 

 

 

 ――っと言うワケで、ホテルに帰ったプレシアに、通信で一通りトランスとパラサイトと博士が逃げたことを説明したクロノ。

 そしてプレシアさんの反応は、

 

「そう……仕方ないわ……残念だけど……」

 

 割と冷静だった。

 

『お、おう……』

 

 通信先の映像で、戸惑いの表情を浮かべるクロノに、プレシアは冷静な声で告げる。

 

「さすがに、管理局でも対応しきれないような超技術を持った相手を逃がすな、って子供じみたいな癇癪を起すつもりないわ」

『そ、そうか……』

 

 プレシアの返しが予想外だったらしく、クロノは相当に戸惑ったまま。

 息を口から漏らしつつ、プレシアは言う。

 

「……あなた達が十分対処してくれてることはわかってるし、無遠慮にバッシングするつもりはないから安心して」

『わ、わかった……。不甲斐ない結果になってまって、本当に申し訳ない……』

 

 そこまで言って、通信終了の区切りを付けるクロノ。すると後ろから、

 

『ね、ねぇねぇ……ぷ、プレシアさんブチ切れてなかった?』

 

 と言うエイミィの声が聞こえてくる途中で、クロノは通信を切る。

 そしてクロノの通信が切れると、

 

「んんんんなぁぁあああああああああ!!」

 

 プレシアは表情を豹変させ、怒りの声を漏らしながらホテルのベッドに顔を埋めつつ、右の拳でバンバンバンバン!! と高速で連続ベッド叩き。

 魔法をぶっ放して大暴れしたかったが、さすがに我慢した。

 

 リニスはあんまりにもプレシアの激情が流れ込んでくるので、報告を受けた後に怒ったりショックを受ける暇すらなく、若干青い顔をしていた。

 そしてプレシアは内心、こう決意した……。

 

 ――あいつら今度会ったら殺傷設定でぶっ殺すッッッ!! 

 

 

 そして、プレシアに殺気をぶつけられている、当の二人はと言うと……。

 

 場所は海鳴市の郊外の森林。

 木々が無造作に立ち並び、草花が生い茂る森の中では三人の男女が話し合っていた。

 

「あぁ~……しんど……。早く終わんねェかなコレ……」

 

 短い黒い短髪に黒いTシャツと青いジーンズという、ラフな格好の男であり人外――パラサイト。借り物の体で木へと寄りかかり、空を見上げる。両手はだらんと垂れ下がり、顔からは如実にメンドクサイと言う感情が露になっていた。

 

「我慢しなさい。あと数カ月の辛抱よ」

 

 と言ってパラサイトとたしなめるのは、木に背中を預けて寄りかかる白く長い髪の少女――トランス。ノースリーブに膝まで丈がある白いワンピースを一着身に着ける彼女は右手で携帯をカチカチ弄っている。

 

 これから会う人物とやらと連絡しているようだが、誰と会うかはパラサイトは聞かされていない。

 パラサイトは、チラリとトランスを見ていると、右肩に手をポンと置かれた。反射的に視線を向ければ、

 

「あと、数か月――がんばりましょう」

 

 真顔で拳をグッと握る白衣を羽織った人物、博士がいた。

 

「…………」

 

 励まされても気分が晴れないパラサイトは空を見上げ、

 

 ――あぁ、クソ……。

 

 物思いにふける。

 するとまたパンパンと肩を叩かれ顔を向ければ、

 

「あと、数か月――がんばりましょう」

 

 同じセリフを同じポーズで博士が言う。

 

「いや、別に聞こえてなかったワケじゃねーから」

 

 天然な博士にツッコミ入れ、再び空を見上げつつ、ここ最近の事を思い起こす。

 ここ最近はろくでもないことばかりだ。

 バカバカしい茶番劇させられるは、大魔導師と呼ばれるババアに電撃浴びせられそうになるは、あげくは管理局に捕まるわ、とにかくイライラさせる要素満載だった。

 そして最近では……。

 

 

 なんとか管理局の拘留室から脱出し、海鳴市付近の森林を歩くパラサイト、トランス、博士。

 歩く途中で、パラサイトは苛立ちを隠しきれずに、愚痴を零す。

 

「あァ~……クソ! 俺らまで捕まった挙句、まさかあの〝移動方法〟を管理局の本部で使うことなるなんてよォ……!」

「体の中に隠してたジャマーで映像記録系の機械も魔法もダメにしたから、移動方法は見られてないでしょ」

 

 トランスの言葉を聞いて、パラサイトはジロリと鋭い視線を向ける。

 

「万が一記録されてたらどうすんだよ? アレがバレんのはさすがにヤベーんじゃねーか?」

「映ったってさして問題ないはずよ。わかりっこないわ」

「そうですね。映像だけでは、原理や方法について解析される心配はないでしょう」

 

 と博士が言うと、トランスがやれやれと肩をすくめる。

 

「とは言え、プレシアを甘く見過ぎたわね……まさか、捕まっちゃうなんてね……」

 

 呑気な相方に、パラサイトは語気を強めつつ文句を吐き出す。

 

「俺なんか虫みたいに籠に入れられたんだぞ!」

「実際虫みたいな見た目だし良いじゃない」

「あんだと!」

 

 そうこう言い合ってるうちに、森の奥に存在する洋館までたどり着いた三人。

 三人を出迎えたのは現在自分たちに指示を送り出す二人。

 

 一人は――すすけた黄土色の少しボロ着いたローブで体全体を覆い、フードを目深に被った人物。

 もう一人は、黒いスーツを着込んだ男。

 

 ローブの人物が立つのは、広い玄関ホールの正面にある大きな階段の踊り場。

 ローブは、壁に備え付けられたステンドグラスから差し込む薄い太陽の光を背に浴びながら、ゆっくりと段差を下り始める。

 

「映像を確認したが……失敗したそうだな」

 

 男か女か判別できない歪んだ声からは、冷徹でありながら静かな苛立ちや怒りがなんとなくではあるものの感じ取れる。

 

 ――やべェな……さすがに……。

 

 パラサイトは下唇に歯を当て、目を細めながら汗を流す。

 

「貴様ら……少々爪が甘すぎるのではないか?」

 

 一歩一歩、赤い絨毯を踏みしめるローブの人物。フードの奥から聞こえる歪んだ声は、徐々に怒気の色が強くなりだしている。

 声を聞き、さすがに何か言わないとマズイ、とパラサイトは思い、視線を彷徨わせてから口を開く。

 

「じょ、序盤は上手くいってたんだぜ? ま、まァ……終盤は色々と誤算が……」

「誤算が起きたくらいで、長年の計画を破綻させるほど貴様らは無能なのか? 折角のデバイスを失い、博士まで管理局にみすみす捕まえさせるような失態を犯すほど」

 

 階段から玄関ホールの床まで下りたローブの人物の言葉を聞いて、パラサイトは少し顔を逸らしながら言葉を濁す。

 

「い、いやまァ……俺たちも頑張ったワケで――」

 

 だが、ガシッ!! とパラサイトの首は指先が鋭利に尖った黒い手によって締め上げられ、言葉は途中で中断させられてしまう。

 

「ッ!!」

 

 口から息を出すことを封じられたパラサイトの首を握りしめるのは、さきほどまで階段の一段目前に居たすすけたローブの人物。

 一瞬にしてパラサイトの元まで肉薄したローブの人物は、首を右手で締め上げ、足を地面から離させている。

 

「下らん言い訳はいい。あらゆる物事は結果が全てを決める。満足な結果を出せん貴様らには……」

 

 ローブの人物は背中に黒い大きな三角形の魔法陣を展開させる。すると魔法陣からは、まるで穴から這い出るように何本もの黒い蛇のような影が出現しだす。

 黒い蛇たちは赤く光る眼をパラサイトへと向けている。

 

「――仕置きが必要か?」

 

 黒い蛇たちが口を開き、すべての口がパラサイトの頭へとゆっくり近づく。

 その光景を見たトランスは無表情のまま、瞬く間に両手の爪を一瞬で鋭く伸ばして構えを取った時だった。

 

「――そこまで」

 

 低く、そしてゆったりとした男性の声が階段の方から聞こえてくる。

 パラサイト耳に入った声。トランスはチラリとだけ視線を階段へと向け、ローブの人物は顔を後ろへ向ける事すらしない。

 

 パラサイトの視線が踊り場の先に繋がるT字の階段――両階段へと向けば、ゆったりとした足取りで、スーツの男が歩く。

 

「結果が全てという言葉には私も賛成だ」

 

 一歩一歩、黒い革靴の足音を小さく響かせながら階段を下りる男は、黒いスーツを着込み赤いネクタイを締めた黒髪をオールバックにした出で立ち。

 

「だが……彼らを痛めつけたからと言って、これから十分な結果が得られると言うワケでもあるまい」

 

 後ろで腕を組み、薄く笑みをたたえるスーツの男の言葉を聞いて、フードの人物は冷徹に告げる。

 

上代(かみしろ)統護(とうご)。映像を確認した貴様が一番、今回の実績のなさに腹を立てているのではないか? 戦闘の実績はたかだか執務官一人に軽傷を負わせる程度。あげくの果てには捕縛されてからの帰還。こいつらの無能を目の当たりしてなお、私の判断は間違いだと?」

「ふむ……。君の判断は(もっと)もだ」

 

 黒いスーツの男――上代(かみしろ)統護(とうご)は一階まで下り立ち、ローブの人物に近付きながら言葉を発する。

 

「だが、我々にとって彼女らは知恵を使える貴重な人手であり能力を持っている。この程度の失態で、腹を立てずともよかろう」

 

 上代は金色の瞳をローブの人物へと向けながら、より一層不敵に笑みを浮かべる。

 

「なにより、フェイト・テスタロッサは多少なりとも苦しめられた。つまり、〝君の復讐〟の仕事を彼女らはしっかりと遂行した事になる。ならば、そこは評価すべき点であり、必要な人材だとわかるはずだ」

 

 そこまで上代の言葉を聞いてやっとローブの人物は後ろへと振り返り、少しの逡巡の後にパラサイトの首を放し、黒い魔法陣と共に黒い蛇を消し去る。

 地面に足を下ろしたパラサイトは首を右手で撫でながら、ローブの人物を睨み付けつつ後ろへと下がる。

 

「フンッ……」

 

 苛立ち気味に鼻を鳴らしてから、フードの人物は少し荒い足取りで上代の横を通り過ぎて行く。

階段を上り、その先に続く部屋へと戻っていく姿を上代は横目で確認する。やがて、首を撫でるパラサイトと既に臨戦態勢を解いたトランスへと視線を向けた。

 

 パラサイトは首を撫でながら舌打ちを漏らし、目を細めながら上代へと言葉を投げつける。

 

「てっきり、アンタなら俺らをアイツに処分させると思ったんだがな」

 

 上代は少し小馬鹿にしたように、フッと笑みを浮かべる。

 

「どうだろうなぁ、奴ではお前らを痛めつけるくらいしかできんだろう。まぁ、私なら――」

 

 上代は冷たい感情を瞳から覗かせる。

 

「――処分も視野がいれるが」

 

 ニヤリと口元を吊り上げる上代を見て、トランスは視線を斜め下に向けながら言う。

 

「……じゃあ、私たちはお払い箱ってこと?」

「いや、お前たちを処分すると、今後に支障をきたすリスクの方が大きい。重大な〝裏切りと不利益〟さへもたらさなければ、〝戦闘能力が低く〟ても処分など視野には入れんさ」

「嫌味たっぷりだな、おい」

 

 パラサイトはぶっきらぼうに返事し、上代は視線を細める。

 

「しかし、博士の傀儡も使えないものだな。まさかあれだけ投入して、ああも簡単に倒されてしまうとはな」

「それだけ、彼らの戦闘力は凄まじいかった、という事でしょう」

 

 博士の言葉に上代はやれやれと首を横に振る。

 

「フフ……まー、そう言う事にしておこう」

 

 上代の小馬鹿にするような薄い笑いを聞いて、パラサイトは顔を少しだけ逸らす。

 

「そんだけ嫌味言うなら、あんたの〝手駒〟でも寄越してくれれば、結果はもう少し変わったかもな」

「残念だが、アレらをあの場面で使うのは少々惜しと思ってな。いやはや、見積もりが少し甘かったようだ」

「……そうだな」

「我々は我々の仕事を続けよう。本番はこれからだ」

 

 上代の言葉にパラサイトは「あぁ……」と短く超えれば、スーツの男はねっとりした視線を向けてからまた後ろに腕を組んで階段へと歩いて行く。

 パラサイトは去って行く上代統護――自分たちに指示を出すもう一人の男の後ろを姿を、トランスと共に鋭く見つめ続けるのだった。

 

 

 この後、古びた洋館から森へとやって来たパラサイト、トランス、博士。

 

 上代と言う男の顔を思い出すだけでイライラするのを抑え、パラサイトは歯ぎしりする。

 自分たちはいつまでこんな面倒な綱渡りしなければいけないのかと思い、空を見上げていた人外は思わずため息を出しながら顔を落とす。

 やがて顔の向きを、今なお携帯を弄っているトランスへと変え、おもむろに口を開く。

 

「なぁ――」

「…………」

 

 トランスがジロリと視線を向けるので、パラサイトは途中で言葉を止めて、はいはいと内心で愚痴を零しながらトランスへと『念通』を送る。

 

【これでいいか?】

【あんま下手な事は口に出さないで。これからが大勝負なのよ?】

 

 トランスのいさめるような思念が送られてくるので、パラサイトははいはい分かってますと、言葉をテキトーに返す。

 魔法で言うところの念話に近いことができる『念通』と言う能力。この二人特有の能力だ。

 しかもこの能力、

 

【そうですね、我々の計画の為にも我慢の時でしょう】

 

 本来この念通が使えない博士とも、頭の中で会話ができてしまうのだ。

 仕掛けは簡単。トランスやパラサイトのどちらかの〝体の一部〟に触れてさへいれば、この念通を行う事ができる。

 更に、相手の魔力の発現の有無や種類なども瞬時に察知することができてしまう。相手の体に触れる事が条件ではあるが。

 髪の毛一本一本を器用に操ることのできるトランスにとってはかなり相性が良い能力なのである。

 

 少しばかし考えてから、パラサイトは携帯を弄ったまま頭の中に声を送る。

 

【アイツの俺に対する心象は大分悪いのは態度で分かる。下手すると俺は切り捨てられるかもしれねェ。もう時期も時期だ。こんなクソみてェな仕事さっさとやめて――】

【ダメ】

 

 念通で発した言葉をバッサリと遮るトランスの言葉を聞いて、パラサイトは少々焦りを感じながら頭を掻く。そして頭の中にトランスの言葉が送られてくる。

 

【当初の予定通り動く。私を信じなさい】

 

 念通でトランスの言葉を受け、パラサイトは静かにため息を吐いてわかった……、と思念を送るのだった。

 すると、トランスが何かに反応したようにクイッと顔を上げ、視線をチラリと体重を預けている後ろの木へと向ける

 そして木の後ろ側から、

 

「よォ、待ったか」

 

 男の声が聞こえてくる。木の幹にスッポリ体が隠れて見えないが、声音からして間違いなく男の声だ。

 トランスは木に背中を預けながら口を開く。

 

「いえ、きっかり五分前よ。不潔そうなのに意外に几帳面よね、あなた」

「お前、人に物頼む割にひでェ物言いだな……」

 

 木に隠れた相手はツッコミ入れる。

 姿が確認できない男。トランスが携帯で呼んだ相手だ。

 姿を見せずに話すのは、パラサイトとしてはなんか若干イラつくが、相手の癖みたいなものらしいからそこは特に口出す気はない。

 男は軽い口調で話しかける。

 

「それで、俺は今のところ計画通りに動けばいいのか?」

「えェ、お願い。それと、コレ」

 

 と言ってトランスが長髪に指を突っ込んで取り出したのは、トランプのようなメタリックな物体。周りをカバーのように覆うのは武骨な鉄で、表と裏はともに滑らかそうな白。

 トランスはソレを左手の親指と人差し指に挟みながら、木の後ろに隠れる人間に見せつける。

 

「そいつは?」

 

 と男が問いかければ、博士が答える。

 

「『夜天の魔導書』を分析するための端末です」

 

 博士の言葉に、男は真剣みのある声を出す。

 

「……一つ訊きてーんだが――〝ふけ〟付いてねェよな?」

「失礼ね! 清き乙女に向かって!!」

 

 とトランスは怒鳴り声を出す。

 男は呆れ気味の声を出す。

 

「清きって、お前のどこが清いんだよ。つうか、管理局に捕まってる間はノーバスタイムだったんじゃねーのか?」

「美少女にフケなど発生しない!!」

「つまりまだ体洗ってねーってことじゃねーか!! (きた)ねーな!!」

「文句はいいから、はい受け取る」

 

 トランスは左手を横に伸ばして、カード型端末を差し出す。

 

「たく、しゃーねーなァ」

 

 嫌々そうな声を出しながら、男は木の陰から腕を伸ばす。紺色に近いであろう袖と手甲がパラサイトの目に映った。

 カード型端末はトランスの手から、男の手へと渡る。

 

「……それで? コイツをどうすればいい?」

 

 男の問いかけに、博士は言葉を返す。

 

「やり方は至って簡単で、本を開いてどこかのページに置いてください。自動でくっ付くので」

「最低でもどのくらいは挟んでおくんだ?」

「まー、最低でも数分。理想としてはバレずに長時間はページに潜り込まされておきたいですね。リアルタイムで分析と解析をしたいので」

「……頃合いは?」

「機会があればいつでも」

「承った――って言いてェところだが、問題がある」

「なんでしょうか?」

 

 男は頭をボリボリと掻く仕草を見せながら、メンドーそうに話す。

 

「……ザッと方法を考えたんだが、基本的に本は家の中か、八神はやてか騎士連中が肌身離さず持ってるかのどちらかだ。連中になんかしらのアクシデントでも起こらねェ限り、外でバレずに仕事すんのは現実的じゃねェ。寝静まった夜を狙うのが最善って事になっちまう」

「なら夜狙えばいいだろ」

 

 そうパラサイトが言うが、木の陰に隠れた男はふぅ、と息を吐き反論する。

 

「だが、夜狙うにしても、騎士共のデバイスって機械(からくり)がまず目を光らせてやがる。人間相手ならいくらでも目を誤魔化す手段はあるんだが、未知の機械(からくり)相手だと分が悪い」

 

 するとトランスは思い出したように、口元に指を当てる。

 

「あー、それにはやての家って夜は騎士たちが結界を張ってるんだっけ……」

「言っちゃなんだが、デバイスやら結界の探知やらに引っかからない方法を俺は持ってねェ」

「〝忍び〟の癖に情けないこと言うわねー」

 

 後頭部に腕を回したトランスが口を尖らせば、謎の男は不服そうに声を漏らす。

 

「あのな、忍びつったって透明人間じゃねーんだよ。異世界(こっち)機械(からくり)やら魔法だなんて超能力にまで対応しろなんて無茶ぶりされてる俺の気持ちにもなれ」

「なるほど……」

 

 説明を聞いて博士は顎に指を当ててつつ視線を逸らし、パラサイトは腕を組んで片眉を上げる。

 

「俺たちが使ってる妨害装置(ジャマー)を使えばいいだろ」

「はい、コレ」

 

 そう言ってトランスが長髪の中から取り出して見せつけるのは、ボール型の真っ白な装置。サイズは野球ボールより一回り大きいくらいだ。

 

「……もうちょっと小さめっつうか、軽めっつうか、携帯しやすいもんはねェのか? 身に着けられる装飾品みてェなの」

 

 男が指摘すれば、トランスは真剣な表情で言い放つ。

 

「お尻に仕舞えば、イケる!」

「イケねーよ! 死ぬわ!! お(しま)いだわ!! つうかお前まさか、それ尻に入れてねーよな!?」

 

 男が戦慄したような声でツッコミ、博士は顎に指を当てながら言う。

 

「なるほど、小型かつ軽量……。なおかつ、隠密(ステルス)機能を搭載した装飾品……。今後の為に開発しておいた方がいいかもしれませんね」

「おいおい、今から作んのか? 時間大丈夫か?」

 

 眉間に皺を寄せるパラサイトの疑問に対し、博士は視線を別の方向へと向けながら告げる。

 

「…………試作品完成に……数週間以内……ってところでしょうか」

「それくらいなまー、いいんじゃない? まだ切羽詰まるほど余裕ないワケじゃないんだし」

 

 とトランスが言う。

 

「わかった。それじゃあ、俺はその試作品とやら出来るまで待機だな」

 

 と言ってから、男は「それとよ」と言葉を繋ぐ。

 

「今回の件、小次郎の奴には任せねーのか? あいつも一応は忍びの端くれだぜ?」

 

 トランスは目を細める。

 

「小次郎からの推薦。あなたの方が忍びの腕は上だって。だから任せるの」

「そうかい」

「それに、あんたが捕まっても問題ないし」

「おい!」

 

 と謎の男はツッコミ入れ「たくなんだよ、俺ただの捨て駒かよ」と愚痴を零している。だが、やがて息を吐き出し、言う。

 

「……まぁ、しゃーねーか。とりあえず、きっちりと仕事はこなさせてもらうぜ」

 

 トランスは木から離れ、一言。

 

「それじゃ、お願い」

 

 もう男の言葉は返ってこなかった。パラサイトには分からないが、たぶんもう姿を消したのだろう。

 こちらへと歩いて来るトランスは右手を腰に当てつつ口を開く。

 

「それじゃ、私たちも私たちの為に働きますか」

「そうだな」「はい」

 

 そう言って、三人は森の奥へと消えていくのだった。

 

 

 トランスとパラサイトと博士が逃げたという情報は、プレシア以外の非管理局員たちにも伝わり始めていた。もちろん、情報伝達しているのはクロノたち。

 なのは、アリサ、すずか、新八、近藤、土方なんかはショックを受けたり、悔しそうな表情をしながらも、クロノ側を攻めたりしなかった。

 

 更になのはを筆頭に「残念だったね」「どんまい」「また捕まえれば良い」と励ましの言葉を送る。

 土方に至っては、敵の移動方法の厄介さに目を向けていた。

 

 八神家の面々もはやてが特に残念がり、ヴォルケンリッターは敵への警戒と分析に意識を向け始めていた。

 ちなみに、ヴィータと神楽は管理局に対する文句を垂れつつ、憤りを見せながら『もう一回ぶっ飛ばしてやる!』みたいな思考にシフトしている。

 

 残った約二名(銀時&沖田)は、

 

「なんだよー、それでも税金取ってんのかよー。税金泥棒の鬼の副長(笑)と同類と思われちまうぞー」

「エリート(笑)とはこのことだぜェ。このままだと、無能度が土方(笑)と同レベルになっちまうなァ」

 

 案の定毒舌を浴びせていた。

 

「おいちょっと待て? なんで俺も一緒にディスられてんの? つうか俺の方が罵倒されてね?」

 

 そして最後に、プレシアと同じくらいクリミナルの連中によくない感情を抱いているフェイトなんかは……。

 

「……うん、わかった。大変だったね」

 

 冷静な表情でクロノの報告を受け、あまつさへ気遣いさへしている。

 

「今後もクリミナル、特にトランスとパラサイトが地球に居るかもしれないって、頭の隅に置いておく」

『母親同様、冷静な対応をしてくれて、ありがたいよ。やっぱりプレシアと君は親子なんだね』

 

 通信先のクロノは、どことなく安堵と嬉しさが混ざった顔になる。

 

「うん。少し考えることがあるから、通信は切るね」

『あぁ、わかった。不甲斐ない結果になってすまない』

 

 クロノの通信が切れると、フェイトは一旦息を軽く吐き出してから、

 

「んんんなぁぁああああああああ!!」

 

 表情を豹変させ、怒りの声を漏らしながらなのはの家のふとんに顔を埋めつつ、右の拳でバンバンバンバン!! と高速で連続ふとん叩き。

 魔法をぶっ放して大暴れしたかったが、さすがに我慢した。

 

 アルフはあんまりにもフェイトの激情が流れ込んでくるので、報告を受けた後に怒ったりショックを受ける暇すらなく、若干青い顔をしていた。

 

 そしてフェイトは内心、こう決意した……

 

 ――あいつら今度会ったら殺傷設定でぶっ殺すッッッ!! 




第八十一話の質問コーナー:https://syosetu.org/novel/253452/91.html
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