魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第293話 (2) 第五章 (2) エピローグ② 魔理沙の軌跡(終)魔理沙が忘れた記憶 時間の超越者魔理沙の選択

――時の回廊――

 瞬間移動が終わり、時の回廊に到着する。

 

『わぁ、綺麗な場所!』

「この先が真っ暗なのは、“今日”が宇宙最後の日だからなの?」

「察しがいいな、その通りだぜ」

 

 ユリは時間軸上の外側に広がる四季折々の季節を見て感嘆の言葉を述べていて、霊夢は未来方向上の景色を指さしていた。

 

「霊夢、ユリ。あっちにでかい時計塔が見えるだろ。今度はあのてっぺんに飛ぶぜ」

 

 そう言って私は再び瞬間移動を行い、始まりの時計塔の屋上に到着。

 

「もう手を放してもいいぜ」

『おぉ~高い! 絶景絶景!』

「ユリ、景色を見るのは後にしなさい」

『うん!』

 

 ユリは屋上の端に駆けていき、四季折々の景色を貫く時間軸を見下ろしながらはしゃいでいたが、霊夢にたしなめられてすぐに戻ってきた。

 私達は中心に佇んでいる女神咲夜の元へと歩いていく。

 

「よう、咲夜」

「いらっしゃい、魔理沙」

『この人が時の神様……! 本当に咲夜さんなんだ! こんにちは!』

「ふふ、こんにちは。幻想郷の“私”が世話になっているわね」

 

 咲夜は笑みをたたえている。

 

「咲夜、今日私が来た理由についてだが、もう視てるか?」

「ええ。先ほど観測したわ」

「なら話は早い。結論から言おう。咲夜、お前の歴史改変で私を普通の魔法使いに戻した上で、私が行った歴史改変を時の神の“私”が行った事に置換する事は可能か?」

「……ふふ、面白い事を考え付くわね」

「えっ、どういうこと?」

 

 笑みを深める咲夜に対して疑問符を浮かべる霊夢に、私は説明していく。

 

「霊夢。お前の主観時間で西暦215X年10月1日に、時の回廊で女神咲夜から聞いた話を覚えているか? 私が第二宇宙から帰って来た時だ」

「えっと、確か魔理沙が、第二宇宙で時の神様になった魔理沙によって時間の超越者になったって話よね?」

「そうだ。私はメビウスの輪を解消する為に時間の超越者になり、あの日から今まで幾つもの歴史改変を行ってきた。この私の行動を第二宇宙の時の神の“私”に代わりにやってもらい、私は時間の超越者として活動した時の記憶と力を捨てる。最終的には他のみんなと同じように、時の流れに沿った人生を歩もうと思ったんだ」

 

 回りくどい言い方をしているが、ようは普通の魔理沙に戻るだけだ。

 私の望みは霊夢の幸福と幻想郷の存続なので、全てを達成した今、時間移動の力に未練は無い。今までの私は働きすぎた訳だし、姉さんみたいに幻想郷の中で自由に生きていきたい。

 

「でも、第二宇宙の魔理沙って、今の魔理沙よりも更に未来の魔理沙なんでしょ? そんな事が可能なの?」

「勿論普通なら無理だ。因果が変われば、歴史も変わる。……ふむ、そうだな。霊夢の知る範囲で答えるなら、西暦200X年の霊夢の自殺を防ぎ、西暦300X年まで幻想郷が成立する道を開き、霊夢と姉さんが妖怪になった歴史改変は、私じゃなければ絶対に無理だ」

 

 思い返してみれば、あの頃は歴史改変についてよく分かっておらず、全て手探りだった。何度も何度も失敗を繰り返しながら望む歴史にたどり着こうと、必死にあがいていた。私を支えてくれた人間や妖怪には感謝しかない。

 

「だがここで“第二宇宙の魔理沙”というのが活きてくる。彼女はな、厳密には私の未来の姿ではなくて、私が死んだ後に第二宇宙に復活した存在なんだよ。言い換えるなら、私の転生先だ」

「阿求と阿音みたいな関係って事?」

「そうだ。元々の彼女は、最初の歴史で私が霊夢の自殺を防ぐことが出来ずにタイムトラベラーになれなかった存在から来ている。つまり、私はどのような過程を辿っても、死んだ後は時間の神として働く運命だとも言える」

「……なんだか大変そうだわ。魔理沙はそれでいいの?」

「時の神の“私”は、自分が“霧雨魔理沙”である事を強く望んでいたし、私自身、未練無く人生の終着点を迎えられたのなら、時間の神になっても構わないと思っている。誤解されたかもしれないが、別に私は自殺願望がある訳では無いからな」

 

 私は死んだ事が無いので、転生した時にどんな気持ちを抱くか分からないが、阿求と阿音、時間の神の咲夜と“私”を見る限り、転生後の人生を謳歌しているように思える。それはきっと、自分の人生に満足しているからだろう。

 

「話を戻すぜ。時の神の“私”は死を経た事で、西暦1993年から現在まで続く時間の連続性――私という因果が切れた。それでも彼女は霧雨魔理沙なので、私がこれまで行ってきた歴史改変を私の立場に成り代わって行うことが出来る。同じ姿、同じ魂を持つ存在だからこそ、この矛盾が成立するんだ」

 

 この説明だと、姉さんもその資格があるように思えるけれど、姉さんと私の根源は同じなので、同じ時代に同時に存在する事は出来ても、歴史改変は実行できない。相互に影響を及ぼしてしまうからだ。

 

「私は女神咲夜に時間の超越者にならなかった歴史へと改変してもらうことで、時間の超越者としての力と記憶を消す。具体的には西暦215X年10月1日時点の私まで戻る事になるだろうな」

「改変前の歴史でアプト星に出発した日ね。でも、どうして女神咲夜にやってもらう必要があるの?」

「自分自身に歴史改変を施そうとすると、どうしても改変前と改変後の記憶が残っちゃうんだ。だが他人にやってもらうことで、歴史改変が実行された日に記憶の引継ぎが起きるように調整できる。この場合だと西暦100溝年の12月31日に発生するから、まあ充分先の話になるわけだ」

 

 不思議な事に、改変前の記憶の復活はどれだけ長期間であろうと、脳に障害が及ぶことなく一瞬で定着する。最初は戸惑うだろうが、すぐに慣れるだろう。

 

「これで以前の私――タイムトラベラーの霧雨魔理沙が出来上がる。その後に、私はタイムトラベラーも辞めて、姉さんと同じ普通の魔法使いに戻るつもりだぜ」

 

 何故こんな段階を踏む必要があるのかと思うかもしれないが、いきなりタイムトラベルの力まで捨ててしまうと、西暦200X年7月20日~西暦215X年10月1日の期間に起きた歴史改変の整合性が取れなくなってしまうからだ。

 加えて、タイムトラベラーだった頃の私の努力を無かった事にはしたくない。この頃の経験が今の私を形作っているのだから。

 

「……以上が計画の全容だ」

「魔理沙……」

『ねえ魔理ちゃん、私が生まれる時代まで生きてくれるよね?』

「……率直に言って、厳しいだろうな」

『そんな……』

 

 普通の魔法使いに戻った場合、恐らく記憶の引継ぎが発生する西暦100溝年の12月31日に到達する前に高確率で死んでいるだろう。種族としての魔法使いは、魔力と知的探求心を失わない限り生き続けられるが、幻想郷という狭い世界の中では限界がある。

 姉さんも、アリスも、パチュリーも、長い長い人生の果てに魔法の研究に限界を迎え、知的探求心を失って命を落としてしまった。言うなれば、この瞬間が魔法使いの寿命とも言える。

 

「悪いな、ユリ。分かってくれとは言わないが、納得してくれ」

『…………』

 

 ユリは悲し気な顔で俯いてしまった。どうせ歴史改変が起きたら私の事は忘れているだろうが、それでも心苦しいものがある。

 私は彼女から逃げるように女神咲夜に向き直り、訊ねる。

 

「で、どうだ? 私に協力してくれるか?」

「構わないわよ」

「随分あっさりと答えたな。てっきり断られるものだと思ってたんだが」

「私自身もね、魔理沙には感謝しているのよ。私が変えられなかった幻想郷の歴史を変えて、お嬢様は幸福になったわ。他にもね、本来は観測不可能だった第一宇宙の外側――第二宇宙の観測のとっかかりとなった功績も大きいの。やはり、私の見る目は間違えていなかったわ」

「そういうものなのか」

「貴女も時の神になれば分かるわ」

 

 女神咲夜は慈愛の笑みを浮かべていた。

 

「後は時の神の“私”なんだが……。咲夜、彼女に連絡はつくか?」

「もう話はついているわ。『ちゃんとお前の代わりを務めてやるから、存分に第二の人生を楽しんで来い』と言っていたわ」

「そうか。じゃあ早速頼むぜ」

「ふふ、焦らないの。歴史改変は貴女の歴史が確定してからよ」

「なに? ……ああ、そういうことか」

 

 私は霊夢を見る。

 

「霊夢は貴女の人生に一番大きな影響を与えている人物。彼女を元の時代に帰した後に、改めて私の元に来なさい」

「分かった。最後に一つ聞かせてくれ。私が自分の未来について決定を下しても、まだ未来が観測出来ない事について、お前は何か知っているのか?」

 

 西暦215X年11月1日の私は、未来が不明瞭な事について戸惑っていたが、それは今のこの時代の私が未来を定めていなかったからだと思っていた。

 だがこの現象は今もなお続いている。霊夢が元の時代に帰ってからどのように歴史が変化するのか、時の回廊にいても掴めない。

 

「そうね。私から言えることは、まだ今の魔理沙が知るべきタイミングでは無いわ。いずれ時が来たら、その理由も分かるでしょう」

「なるほどな」

 

 女神咲夜がそう言うのならそうなんだろう。彼女の言動には必ず意味があるからな。

 

「よし、じゃあ霊夢。お前を元の時代に戻すぞ」

『待って! 私も霊夢ちゃんと一緒に行かせて! まだ霊夢ちゃんの時代で知り合った人達とお別れできてないの!』

「しょうがないな。ただし明後日になったらちゃんと帰ってくるんだぞ?」

『分かってるって!』

 

 私は霊夢とユリの足元に、西暦215X年11月1日午前7時40分の博麗神社の私の目の前に繋がるタイムジャンプ魔法陣を構築する。そしていざ送り出そうとした時、ずっと考え込んでいた霊夢が口を開いた。

 

「……ねえ、魔理沙」

「なんだ?」

「私決めたわ。魔理沙が寂しくならないくらい、もっと長生きするって。そうしたら、こんな悲しい事をしなくても済むでしょ?」

「……あぁ」

 

 私の観測する歴史には、霊夢がこの時代まで生きる可能性が無いので、こんな濁した返事しか出来ない。

 しかし、私が観測できていない不明瞭な未来の中で、もしかしたらそんな未来があるのかもしれない。そんな淡い希望を抱いても罰は当たらないだろう。

 

『霊夢ちゃん、私も応援するよ。私の時代で、霊夢ちゃんと魔理ちゃんと過ごせたら、とっても嬉しいもん』

「ふふ、ありがと」

「それじゃ、タイムジャンプするぜ~」

 

(そういう訳で過去の私よ。これが私の選択だ。“今日”に辿り着けるように頼むぜ。くれぐれも霊夢を悲しませるんじゃないぞ?)

 

 私はここまでの出来事を映像として過去の自分――西暦215X年11月1日午前7時29分の私――に送った後、タイムジャンプを発動。二人を西暦215X年11月1日午前7時40分の博麗神社に送り出していった。

 

 

 

 

 ――西暦215X年11月1日午前7時29分――

 

 

 

 ――幻想郷、博麗神社――

 

 

 

「……ふむ」

 

 未来の私から記録が送られてきた私は、唸り声を上げながら空を見上げる。

 

(それが未来の私の選択なんだな)

 

 今の歴史が無かった事になる覚悟をしていたので少々驚いた。

 色々と思うところはあるが、彼女の置かれた立場を考慮すると、改変前と改変後の二つの歴史の良い所を取ったベストな選択に思える。目立って反対する理由も見当たらない。

 

(しかし、未来の私が霊夢が死んだ後にああなってしまうとはな)

 

 確かに、霊夢の“完璧な死”についてちゃんと考えたことは無かった。私がそれを無意識的に避けていたのだとしたら、仕方の無い事だといえる。現に今の私も、未来の私の回想で登場した霊夢の死について完全な観測ができない。未来の私ほどでは無いが気分が悪くなるし、霞がかかってしまったかように思考が鈍くなる。

 私は頭を振って思考を切り替える。

 

(私は時間の超越者になった事に後悔しているのか? ……いや、違うか。きっと未来の私は、疲れてしまったんだな)

 

 要因としては地球時代からの友人――特に親しかった霊夢と姉さんが寿命を迎えているのが大きいのだろう。だがこればかりは自然の摂理なので、乗り越えていくしかないだろう。そもそも人間時代よりも遥かに長命なのに、高望みしすぎだ。

 

(それに女神咲夜も私の未来について何か隠してそうだな)

 

 明らかに怪しいが、今の私も、西暦100溝年の私も、女神咲夜に全幅の信頼を寄せている事に変わりはない。まあいずれ分かるらしいし、その時まで待てばいいか。

 そんな事を考えている間にも時刻は午前7時40分になる。私の目の前でタイムジャンプ魔法陣が展開し、小さな光と共に霊夢とユリが現れた。

 

「よう、おかえり」

「ただいま」

『うん……』

 

 霊夢とユリは博麗神社の縁側に座る。出発前に比べると明らかにテンションが低くなっているな。

 

「お前達が行った未来で起きた事については、既にその時代の私から情報は送られてきている。未来の私の為にありがとな、霊夢」

「私はただ話を聞くことしかできなかったわ。魔理沙があんなに辛い思いをしていたなんて、知らなかった……」

「お前が負い目を感じる必要は無い。未来の私も言っていたが、好きでやった事なんだから」

「そうは言っても、知ってしまったからには見過ごせないわ。魔理沙の為にも、もっと長生きするわ」

「……いいのか?」

「もちろんよ。とは言っても、全然方法が思いつかないけれどね」

『霊夢ちゃん。私の時代まで生きていた妖怪の皆さんに、長生きの秘訣を聞いてみるのはどうかな?』

「試してみる価値はありそうね。……魔理沙はこれからどうするの?」

「当初想定していた予定から変更はしない。あの未来に辿り着くように、歴史を作っていくつもりだ」

 

 それが未来の私の望みだからな。

 

「直近の予定としては、千絵を11月3日の正午に過去へ戻すし、ユリも同じ時刻に未来に帰ってもらう」

 

 私が促した先には、境内の奥で封印結界の修業を続ける千絵と、陰陽球を浮かべて霊力操作の練習を行っている杏子がいる。二人は修行に集中していた為、霊夢とユリが時間移動した事に気づいていない。

 

「そうだったわね……。未来の話が衝撃的過ぎて忘れかけていたわ」

『私が千絵ちゃんと杏子ちゃんの修業を見てくるから、霊夢ちゃんは行ってもいいよ?』

「ならお願いね。ひとまず私は永遠亭に行ってくるわ」

 

 霊夢は立ち上がり、ふわりと空を飛んで永遠亭に飛んでいき、ユリも席を立って千絵と杏子の元へと歩いていく。

 さて、この決断がどんな変化を及ぼすのか。ふふ、これからの人生が楽しみになってきたぜ。




今回の話で時系列が西暦215X年11月1日の魔理沙に戻るので、一旦第五章 (2) エピローグと続く話は終わりとなります。
第五章 (2) エピローグ③については、現在の魔理沙(西暦215X年11月1日の魔理沙)が西暦100溝年の魔理沙になった後に描写します。

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