戦闘民族サイヤ人の王子こそが最強であるべきなのだ!   作:ズラゴッグ

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 時は現代よりもほんのちょっと後で、これから語られる昔々からの物語の終わりから少し先……。
 これは、語られることのないだろう戦いの話。


※ 予定している本編の最終回よりも少しだけ後にあたる話です。
  読み飛ばしても次話以降には特に影響ありません。




DB+1話 すこし未来の最終決戦

 東の銀河の外れにある辺境の無人惑星。

 地球の約10倍の大きさを持つその星は、生命こそ存在しないものの大気や気温や重力のどれもが地球とよく似た環境を有している。

 いわば、その星系における地球ともいうべき星であろうか。

 

 そんな無人惑星に今、暗黒魔術により生み出されたワームホールが開かれようとしていた。

 ワームホールは時空を超えて戦士を転移させるための術式で、これまでも時空や並行世界を超えて様々な戦士達が召喚されている。

 そして、今回のワームホールから召喚されてきたのもまた超戦士。

 現れたのは、黒衣を身に纏った孫悟空……いや、“孫悟空と同じ姿をした者”だった。

 

 目を閉じ、腕組みをしたまま転移してきた“黒い悟空”だが、ワームホールが消えると目を開き、しきりに周囲を見渡していた。

 

「『時の指輪』が指し示すままに飛んではみたものの、ここはいったい……?」

 

「この星のことか? 東の銀河の、無人の惑星だよ」

 

 “黒い悟空”がふと呟いた、独り言のはずの疑問に思いがけず答えが返ってくる。

 下方からかけられたその返答の声に彼が目を向けると、どこか見覚えのある風貌の男が立っていた。

 

「……ベジータ? いや、違うな……、お前は何者だ?」

 

「ベジータの弟のターブルだ。兄さんと似ているだろう?」

 

「そのターブルが私に何の用件だ? ……ああ、それは違うか。私が時の指輪によって、戯れにこの場所に現れただけか。お前が知りうるわけがなかったな」

 

 “黒い悟空”が右手の人差し指にはめた指輪をなぞる。それは現在と任意の未来との往来を可能とする『時の指輪』という神具。その力で彼は以前にも時空の歪みを渡る経験をしており、今回の転移もそれと同様のケースと推測していた。

 それ故にターブルが時空の歪みに関係していたとしても、彼について知るわけがないと断じることができたのだ。

 

「そうでもないさ。オレはお前がこの場所に現れるだろうと、ここで待ち構えていたんだ」

 

「なんだと……?」

 

 ターブルの思いがけない言葉に“黒い悟空”は訝しげに片方の眉を吊り上げる。

 

「なんでも、お前は魔族の召喚術に偶然引っかかって、この世界へ転移してきたらしい。そしてオレは、ワームホールから召喚されてくるヤツを抑えるためにやってきた戦士だ」

 

「魔族の召喚にワームホール……ふっ、なるほどな。ありえん話ではない。だが、それならそれで構わん。人間が言う偶然も宇宙の真理に照らせば、神の業を世界が望んだということだ。そして、人間も魔族も神の裁きの前では等しく同じ」

 

「神の業に神の裁き、か……」

 

 転移の理由を知らされても大きな驚きを見せるどころか“黒い悟空”は余裕の笑みさえ浮かべている。彼からしてみれば、現れる場所でなく人物について特定していたのなら話は違っていた、という笑みなのだが……。

 その様子と彼の言葉にターブルは目つきを鋭く変え、さらに核心へと触れた。

 

「お前は、孫悟空じゃないな?」

 

「いいや、私は孫悟空さ……」

 

 ターブルの指摘を一蹴し、“黒い悟空”は言葉を続ける。

 

「お前は私をここで待ち受けていたらしいが、生憎と私は忙しいのだ……。この世界が私を導いた以上、私の尊き救いをこの時代の全ての人間どもに与えねばならんからな」

 

 “黒い悟空”が金色のオーラに表面を覆われた黒いエネルギー弾をその手に掲げ、小さな無数のそれに分けて飛び散らせる。

 

「死ねぇっ! サイヤ人っ!!」

 

「ちっ!」

 

 ターブルは舌打ちをするとその場を動かずに気をいれた。

 その髪は金色へと変わり逆立ちを鋭くし、身体を包む気のオーラも同様に金色に輝き、スパークを帯びる。(スーパー)サイヤ人――いや超サイヤ人を超えた超サイヤ人、いわゆる超サイヤ人(ツー)へと変身したターブルは迫りくる無数のエネルギー弾を両手で次々と弾き飛ばしていった。

 

「ほう、超サイヤ人……。この程度の攻撃は捌けるか。流石はベジータの弟、戦闘民族サイヤ人だな」

 

「お前が名乗った孫悟空もその1人だろう? さっきからのお前の言いぶりを聞いてると、まるでお前はサイヤ人ではないみたいだ」

 

「そうだな。確かにこの身体は戦闘民族サイヤ人の、最強の戦士のものだ。……どうやらお前は私を偽物だと思ってるらしいが、これを見てもそう言えるかな?」

 

 “黒い悟空”が手を開いた状態で両手首を合わせて前方に突き出し、そのまま右腰の横へと両手を動かす。ターブルも知る亀仙流の奥技、かめはめ波の構えだ。

 

「こいつ、相当なパワーを込めて……!」

 

「少しぐらいは相手をしてやってもよかったが、我が高みに相対するには悲しいかな非力。私と戦うステージに上がるには、お前は前座にすら値せん!」

 

 その身を包むオーラと同じ、どす黒い色のかめはめ波が放たれる。

 “黒い悟空”の気功術は極めて優れており、溜めの時間が短いにも関わらず、そのかめはめ波には十分なパワーが込められていた。

 黒いかめはめ波が己めがけて迫る中で、ターブルもその出力に冷や汗と苦笑いを浮かべる。

 

「確かにこいつは天才だ。一面をみれば、オレの知る孫悟空以上かもしれん……」

 

 ――だが。

 

 そんな否定の言葉と共にターブルは一段、ギアを入れ替える。

 頭髪は逆立ちを緩めつつ赤みがかった色へと変わり、筋肉量が減って細まった身体を赤色の炎のようなオーラが纏いつく。そしてその気はそれまでとはまったく異なった、純粋で高次元なもの……すなわち“神の領域”へと至る。

 超サイヤ人と並んで伝説と謳われるサイヤ人の神、超サイヤ人(ゴッド)がここに顕現する。

 

「はぁぁぁぁ……! づぉりゃぁぁぁ!!」

 

「蹴りあげた!? なるほど、その姿……お前もベジータのように神の気を纏ったか。よかろう、お前を我が偉業の前座に認めてやる」

 

 超サイヤ人神となったターブルを前にしても“黒い悟空”は余裕の表情を崩すことはなかった。そしてターブルもそれを当然だろうと冷静に受け止めていた。

 “黒い悟空”からは本気を出している気配はまるで見られないし、ターブルが知る悟空に至っては超サイヤ人に変身できるのだ。それも、数段階も上の姿に。

 いまだお互いに力を隠しており、その隠した力の差がこの戦いの勝敗を分けるのだ。

 

「こいつは超サイヤ人ゴッドって、サイヤ人の神の姿なんだが……今の口ぶりだと、兄さんが同様のものをお前に見せてるらしいな」

 

「くっくっくっ……様子見だったようだな、お互いに。だがお前がその姿を出してくるのなら、それも終わりということか」

 

「小競り合いからなぶり殺しまでの戦闘のどれもがサイヤ人の常だからな。お遊びが過ぎるのは種族としての(さが)かもな」

 

 孫悟空が特に好む、全力での真剣勝負の前の探り合いにして準備運動。それは戦い好きのサイヤ人の本質とも取れる、時に欠点にもなるものだ。

 孫悟空と同じ姿を持つ“黒い悟空”もその言葉に納得する。

 

「……とはいえ、トランクスはそうでもなかっただろう?」

 

「たしかに、トランクスはつまらんヤツだったな。……そうか、あいつはお前の甥にあたったな」

 

 2人の関係性に、そう挑発を続けようとして“黒い悟空”ははたと気が付いた。何故、ターブルは自分がトランクスを知っていることを把握しているのか。

 初めて驚愕の表情を浮かべてターブルを見やる“黒い悟空”に、彼は笑みを深めて続けた。

 

「そう驚くなよ、ゴクウ・ブラック。いや……第10宇宙の界王ザマスって言うべきか?」

 

「貴様、どういうことだ……!? 答えろっ!!」

 

 激しく動揺し、それ以上に苛立ちを募らせた“黒い悟空”――いや、界王ザマス――はエネルギー弾を連射する。ターブルは舞空術を駆使して高速で飛び去ることで、ザマスとの距離を稼ぎながらそれらを躱していく。

 だが、既にかなりの距離が取られていたにも関わらずターブルの背後に突如としてザマスが現れる。そのありえない現象にターブルは既視感を感じていた。瞬間移動だ。

 ザマスは()()()()によって孫悟空の肉体を手に入れており、彼の技のほぼ全てを使うことができるのだった。

 

「くらえぃっ!!」

 

「うぎゃっ!!」

 

 ザマスの回し蹴りがターブルの背面に浴びせられ、大地めがけて蹴り飛ばされる。さらに、それまでの比じゃない出力のエネルギー波がターブルの背後に追い打ちで撃ち込まれる。ターブルはそのまま受け身を取ることもできずに大地に叩きつけられた。

 ザマスは大地にうつ伏せの状態でめり込んだターブルの側に降り立ち、問い詰める。

 

「お前に死ぬまでの時間を引き延ばすチャンスをやろう。お前は何故この私のことを知っている? トランクスにでも聞いたのか?」

 

 ターブルがゴクウブラックことザマスについて知りうるとすれば、それはザマス達と戦っていたトランクスや悟空達から聞いた可能性だ。だが時の指輪から感じられる反応では、この時代は一度ザマスも飛んだ悟空達の時代よりも前の時代らしい。ならば、何らかの手段でザマスが知るよりもさらに未来のトランクス達と接触して、その際にザマスについて聞いたとでもいうのか?

 ここに現れるまでのザマスはもう1人の自分自身と組んで悟空やベジータを倒し、2人を過去へ逃がしたトランクスへとどめを刺さんと追っていた。まさか、最強にして不死身の自分達があの後、3人のサイヤ人に敗北したとでもいうのか?

 考えれば考えるだけ、ザマスは焦燥に駆り立てられた。

 

「トランクスだな。奴から何を聞いた!?」

 

「う、ぐぐ……。いいや、トランクスから聞いてもいないし、悟空やベジータ兄さんからも同じだ」

 

「ならば何故だ! 答えろ!!」

 

「はぁ、はぁ……。そう怒るなよ、別にお前らの末路がどうなるかなんてオレは知らないんだ。お前が将来、誰かに倒されるとか知ってたら、こんなになってまでここで止めないだろ?」

 

 その言葉に、先によぎった不安と焦りが解けたザマスは一気に冷静になる。仰向けになり、よろよろと起き上がろうとするターブルを腕組みして見下ろしながら待つ程度には余裕を取り戻していた。

 

「もう一度聞こう。お前は何故、私のことを知っている?」

 

「その前に一言だけ言っておくが、ここはお前の知る世界とはまた別の並行世界だ。悟空はお前のことを知らないし、未来からトランクスも来てはいない。そしてオレは、ここにゲートが発生するって話を聞いたから来たまでだ」

 

「なに?」

 

 時の指輪は1つの世界に1個が対応する形で存在する。全部で6個の指輪をザマスは持っているが、それらをつけ変えることで並行世界の時間をも超えられるのだ。

 そのことをザマスは知っていたため、ワームホールと時の指輪が影響しあうことで並行世界の時間を移動させたのだろうと推察することができた。

 

「さっきも言ったように、お前がここに現れたのは事故だし……ついでに言えば、呼び出した魔族とやらももういないらしい。かといって、お前が放置できるようなヤツじゃないからオレが抑えにやってきた……っていうわけだ」

 

「話が読めんな。お前はそれをどうやって知った? 別の並行世界にいる私のこともそうだ。肝心なことをお前ははぐらかしてるな?」

 

「さあな。……さてと、おかげで休憩は十分取れた。ここからは仕切り直しだ。言っておくが、さっきまでのはオレの全力じゃない。同じようにはいかんぞ」

 

 再びターブルの気のオーラが赤く激しく変わる。さきほど変身が解けた超サイヤ人神の姿だ。その神の気によってザマスに受けた背中の傷は塞がっており、ダメージもいくらか癒えているらしい。

 

「無駄なことを……。ならばあっさり殺すか、半殺しにして残りを吐かせるか。いたぶりながらじっくりと考えさせてもらおう!!」

 

 ザマスが大地を蹴ってターブルへと詰め寄り、気の刃を右手に纏いながら振りかぶる。迎え撃つターブルは左右にフットワークを利かせてザマスの連続攻撃を巧みに避けていく。

 

「我が刃が恐ろしいか。だが、逃がさん!」

 

 一旦、気の刃を消したザマスは後ろに飛び下がり、金と黒の入り混じったエネルギー波を放つ。それを上空へ飛ぶことで躱すターブル。

 

「チッ、小賢しい!」

 

 ダメージの回復を狙っていると判断したザマスも追撃して気を放出させながら空へと舞い上がる。再び射程距離へと迫らんとしたザマスが右手に気の刃を纏うと、それを恐れてかターブルはさらに気を爆発させてザマスに背を向けないまま後方へ退いて距離を取る。

 それを見たザマスは人差し指と中指の二本を額に触れさせる。ターブルが飛び去ったさらに後方に瞬間移動して現れるザマス。

 

「臆病者め、逃げても無駄だっ!!」

 

「どうかな!?」

 

 ザマスがエネルギー弾を急停止しようとするターブルの背中へと叩きつける。だが、同時にターブルが振り向かないまま背後へと放った気の刃の一撃がカウンターでザマスの左肩を貫いた。

 

「うぐっ!!」

 

「ぐ、ぅっ! なにっ……!? ターブル、貴様ぁ……っ!!」

 

「瞬間移動は厄介だが、そうそう同じ手は食わんぞ。それにお前が使う気の刃だって、初めて見るわけじゃないんだ。サウザーってヤツが得意にしてた技だ」

 

 出し抜かれた己の迂闊さにザマスは顔を歪めた。格下と侮ってはいたが、まさかこれほどの傷をつけられるとは思ってもいなかった。しかも、自らが得意とする気の刃と酷似した技を使われての屈辱は、それまで行っていた“遊び”を終わらせるに充分だった。

 

「そんなに地獄を見たいなら、お見せしようじゃないか……私の超サイヤ人ロゼを!!」

 

 ザマスの髪の色が白みがかったピンクに変わり、黒紫にピンクが合わさったオーラが輝き、全身を包み込む。その姿は色合いと禍々しさこそ異なるが、超サイヤ人に酷似していた。

 そして感じられるパワーもそれまでより一段と強くなり、また、超サイヤ人神のように気の質のレベルが数段上がっていた。

 

「お前の与えた痛みがオレをさらに強くする……。その褒美に、この美しい超サイヤ人ロゼの姿でお前の命を終わらせてやろう」

 

 ザマスがターブルに貫かれた自身の左肩に手を向けて近付ける。神の気による治療かその傷はみるみる内に消えていき、ターブルからはもはやダメージは完全に癒えたように見えた。

 

「さあかかってこい。神の慈悲として、一撃だけお前がオレに攻撃を加えることを許してやろう」

 

「圧倒的に強くなったんだろうが、余裕ぶりやがって……。なら、お言葉に甘えて入れさせてもらうぞ。渾身の一撃をな!!」

 

 ターブルは全身のパワーを右手に集中させ、燃え上がるような炎の気で円盤を作り出す。

 

「気円斬!!」

 

 かけ声のままに円盤状の気によるカッターをザマスめがけて投げつける。気円斬の切断力は相当な実力差のある格上の相手にも通用する、極めて優秀な技だ。ザマスでも直撃すればただでは済むわけがない。そして、驕ったザマスは攻撃を受けると宣言した。

 ならば……。

 

「ふふん……なるほど、そういう手で来るか」

 

 気円斬が目の前に迫りくる状況でも、ザマスは余裕の態度で動きを見せない。そして気円斬がザマスの服を掠めそうな位置まで届き、いかにザマスとてここから躱すのは不可能と思われた刹那。それまで見せたものよりもはるかに強力な黒紫の気の刃がザマスの右腕に発せられ、同時にその姿が掻き消える。

 

「受けよ、神烈斬!!」

 

「おぅっ! うぎぎ……ぐあああっ!!」

 

 3度目の瞬間移動。ザマスの姿が消えたと同時に、ターブルの左肩を背後から深々と気の刃が貫いていた。

 苦悶の表情のターブルは宣言を反故にした背後のザマスへと顔を向け、睨みつける。

 

「ぐうぅぅっ……! 元は神様だってのに、ずいぶんと汚ぇ真似するじゃないか……」

 

「汚い? 神が人間との約束を守ってやる義理などあるものか。もっとも、くだらん技で悪あがきをしなければ受けてやってもよかったがな」

 

 ターブルの言葉を平然といなしたザマスは苦しげな彼の表情を見ると満足げに気の刃を縮め、己の手刀でターブルの肩をえぐる。

 

「うぎゃぁあああああ!!」

 

「神の魂とサイヤ人の強靭な肉体が1つになることで至った唯一無二の高みがこのオレだ。その尊さと美しさを垣間見ながら、無様に死んでいくがいい」

 

「は、はは……相当な切れ味だ。それ以上に、お前の嫌な気がオレの身体に響いてきやがる」

 

「苦しめ。その苦しみの声が神への懺悔となり、オレの怒りを鎮めるのだ」

 

「う、ぐぐ……だ、だがタイマンと思いこんだのは、お前の怠慢だったな」

 

「なに?」

 

「ダジャレだよ。き、北の界王様と聞いてたが、ずいぶんとリアクションが違うな」

 

「当然だ。オレはもはや界王神にして破壊神であり、唯一の絶対神。もはや他の神々とも次元が違うのだ。それよりも、今の言葉は冗談……、っ!? なんだ、貴様は!?」

 

 ――直前まで、ザマスはその存在に気付くことができなかった。

 その者はこれまでどこに隠れていたのか、ザマスに一切を気取らせることなく戦場近くに潜み続けていた。そして、ザマスと彼が貫いているターブルを挟んだその反対側に突然現れ、瞬く間に彼の指から時の指輪を奪い取ったのだ。

 

「な、なんだとっ!? 貴様、オレの時の指輪を……!!」

 

「ご苦労様だ、パトローラーくん! そいつは間違いなく届けてくれよ!」

 

 ターブルはそう叫びながら、自身を貫くザマスの右手を掴んで離させまいとする。その隙に指輪を持った『パトローラー』は空間転移のゲートを開き、それを通っていずこかへと姿を消した。

 

「逃げられると思うか! 瞬間移動で別の星だろうと別の宇宙だろうと、どこまでも追いかけてやるぞ!!」

 

 ザマスはターブルを蹴り落として右手を強引に引き抜き、そのまま2本指を額につけて瞬間移動の体勢に入る。そうして、逃げたパトローラーの気を探索するが、その気は残滓さえもどこにも見当たらなかった。

 

「馬鹿なっ、気が感じられないだと!? 気を消したか……いや、あの消える瞬間まで奴の気はあった。どこに逃げようと、現れた先にあったはずの気を必ず探れるはずだ! まるでこの世界からそのまま消え去ったかのような……まさか!?」

 

「そう慌てるなよ、ザマス。種明かしならオレがちゃんとしてやる」

 

 その言葉にザマスが目を向ければ、地面へと叩き落としたターブルが仙豆を食べ、体力と怪我を回復させていた。全快したターブルは貫かれた肩を何度か回した後、ザマスと同じ高さまで浮かび上がってくる。

 

「お前がムキになって気の刃でオレをえぐってくるタイミングを計るのに苦労したぞ。あれで下手に切り裂かれたら死にかねないしな」

 

「あの時、オレの肩を気の刃で貫いたのはこれを狙ってか……。人間風情が神を謀るとは、楽に死ねると思うなよ……!」

 

 そのやり取りでザマスは察した。ターブルはザマスの油断を誘って指輪を奪うため、あえて先の攻撃を受けたのだ。ザマスとターブルには明確な実力差があり、さらにターブルには手を抜いた様子は見られなかったことから、どうやら回復手段ありきの捨身の作戦だったらしい。

 

「ずいぶんと小賢しい真似をしてくれるじゃないか……。ところで、さっきのヤツは何者だ? 答えないとは言わさんぞ」

 

「さっきのは時間の流れを守る、未来のタイムパトローラーだ。それで、戻った先はいつかの未来のどこかの宇宙だ。お前が得意げにしていた気の探索能力で探したところで、見つかるわけがないのさ」

 

「タイムパトローラーだと……!? だ、誰の許しを得て、時間を守るなどと分不相応な真似を……!!」

 

「未来の話だからな。そんなこと、オレに聞かれても知るわけがないだろ」

 

 ザマスの額に青筋が幾筋も走る。

 

(時間とは宇宙の摂理そのもの。それに触れることは神のみが許された特権だ。そ、それを人間風情が触れるだけでなく我が物にして管理せんとするなどと、なんたる驕り昂ぶり……! あ、挙句の果てに界王神のみが持つことを許される時の指輪を強奪するなど、もはや神への冒涜にして反逆行為……!! 12ある宇宙の過去・現在・未来でも最も罪深き愚者よ、宇宙を汚す大罪人どもよ。この絶対神ザマスが裁いて、この世からもあの世からも完全に消滅させてくれる!!)

 

 ザマスは怒りにわなわなと震えた。孫悟空に対してよりもトランクスに対してよりも、目の前のターブルへよりも、これまで対峙した何者よりも。タイムパトロールという組織とそれに組する連中へと、その怒りを向けていた。

 

「……そうか、全てが繋がったぞ。お前がオレのことを知っていたのも、そのタイムパトロールとやらの仕業か。そして貴様ら人間の野望は成就し、オレという神から時間という宇宙の秩序を奪うことに成功した」

 

「そういうことだ」

 

「ふ、ふふ……ははははは! オレの正義を志半ばで潰えさせ、これで勝ったという顔をしているな。だがそれが勘違いだというのだ、愚かな人間どもよ。まだ、何も終わっちゃあいないのさ」

 

「勘違いだと? お前はもう時を超えることも元の時間に帰ることもできないはずだ」

 

「この時代には、オレもゴワスも時の指輪もドラゴンボールも存在する。ならば、再度同じことを繰り返せばいいだけだ」

 

「本物の孫悟空もいるし、この宇宙の界王神様も健在だぞ?」

 

「だからどうした? この最強の肉体を持つオレの前には、邪魔者がどれだけ存在したところで意味をなすものか。この時代の孫悟空を倒し、さらなる力を得て存在する神々を全て片づけるまで」

 

 ザマスは元の世界で行った所業を、もう一度この世界で繰り返そうとしていた。

 この世界に存在するザマスを『同志』に迎え、自分達以外の全ての神々を殺して唯一の神となり、界王神ゴワスが持つ時の指輪を奪う。さらに自分と同じ肉体を持つ孫悟空を殺し、そして全宇宙の人間を殺しつくして世界を浄化しようというのだ。

 

「……なるほどな。たしかに同じことを繰り返されかねないわけか」

 

「そしてその暁には、タイムパトロールなどという大罪を犯した愚か者どもにも神罰を下さねばな」

 

「だが、そいつは不可能な話だ。お前はここで消されるんだ、このオレの手で」

 

 ターブルは兄・ベジータによく似た態度でザマスに啖呵を切る。その言葉を受けたザマスは嘲笑した。

 

「ははははは! 体力を回復したぐらいでずいぶん大口を叩くものだな。超サイヤ人ロゼのオレの強さを今しがた思い知っただろうが。お前に勝ち目など、万に一つもありはしないぞ」

 

「ザマス……神の魂にサイヤ人の肉体を持つお前は、あくまで人間のサイヤ人が神の気を纏おうと届かない神のステージにあるのだろう。しかも、戦いを経るごとに何かを掴んで強さを上げるサイヤ人以上の天才戦士だというのがさらに厄介だ。そんなお前が超サイヤ人の力まで操れば、その強さはたしかに完璧に近いのだろうな」

 

「ふっ、オレのことをよく調べたらしいな……見事な研究ぶりだ。ならば分かっているのだろう? お前が隠してるだろう、ベジータや孫悟空と同じ超サイヤ人の姿になったところで今のオレには遠く及ばんことを」

 

 ザマスはターブルが超サイヤ人神のさらに上の変身、超サイヤ人神超サイヤ人という奥の手を隠しているとみていた。そしてそれを計算に入れてなお、自分の足元にも及ばない程の力の差があるとこれまでの戦いから読んでいた。

 

「なら、オレのとっておきの変身を見せてやろう。お前がどうやっても真似することのできない、超サイヤ人の真の高みを見せてやる!」

 

 ターブルが掌にエネルギーの球を浮かべる。特に強い力は感じられないが、通常の気功弾とは種類の異なるものだった。

 

「こいつはパワーボールだ。一部のサイヤ人だけが作れる代物でな……悟空には無理でも、お前なら作れるかもしれんがな」

 

「だからどうした。そんなもので何ができる?」

 

「こうするのさ。……弾けて、混ざれ!!」

 

 パワーボールを天高く投げると、上空で弾けて酸素と混ざりあい、巨大な球体と変わる。それはまるで、数多の惑星の空に浮かぶ満月のような球……。

 そう、ターブルのパワーボールは人工の満月を作り出すためのものだった。

 

「満月……? まさかとは思うが、この期に及んで大猿にでもなるというのか!」

 

「お前の身体には尻尾が無いからな。いくら真似ようとしたって、こいつは真似られないぜ?」

 

「ふざけるな! お前が大猿になろうとオレには何の脅威にもならん。悪あがきにしても情けないぞ!」

 

「お前は神のままだからサイヤ人の本質まで掴めやしない。だから今からオレが見せる力にはどうやっても辿りつけんのだ! はああああぁ……っ!!!」

 

 パワーボールによって作り出された満月からのブルーツ波をターブルが吸収し、その気が一気に膨らみながら変化する。だがその姿は大猿に変身するわけではなく、等身大のまま黄金の輝きに包まれる。

 

「バカな……大猿ではないのか……!?」

 

「大猿の力を取り込んだ超サイヤ人の最強形態、超サイヤ人(フォー)! そして!」

 

 変化した気の質がクリアになり凝縮され、さらにそれまで以上に膨大な量に増加していく。

 輝きの中から現れたその外見も、それまでのものとは大きく変化していた。赤みがかった長い黒髪に赤い体毛が覆う身体は、超サイヤ人神とは異なり通常時より一回りは大きくなっており筋骨隆々としている。

 それはザマスが知る超サイヤ人神超サイヤ人こと超サイヤ人ブルーともまったく違う姿だった。

 

「これが、超サイヤ人4ゴッド!!!」

 

 超サイヤ人4(ゴッド)

 それは超サイヤ人神と超サイヤ人4という別方向にある進化の到達点を掛け合わせた、サイヤ人最強の最終形態である。

 赤いオーラに青いスパークを纏った凄まじいパワーと、不意の攻撃さえも難なく弾き返すだろう強靭な肉体を誇り、超サイヤ人ブルー以上に気を穏やかに精密に扱えて、超サイヤ人4以上に強大で激しい力を持つという。

 その威容はそれまで圧倒的優位にあったはずの超サイヤ人ロゼのザマスをも狼狽させるものだった。

 

「な……にっ……!?」

 

「この姿を名付けて、超サイヤ人4ゴッド。理屈でいえばお前が知っている超サイヤ人ブルーと同じようなものだな。当然、掛け合わせる力の分だけ違いはあるがな」

 

「なんだ、これは……! なんと醜い変身……! そんなケダモノ同然の姿にこれほどまでの強い神の気など許されるわけ……っ、がぁっ!?」

 

 ザマスの言葉が途中で遮られる。いつの間にか眼前まで距離を詰めていたターブルがザマスの顔面を殴り飛ばしたのだ。

 ザマスはその動きに全く反応することができず、さらにターブルの手にはザマスが左耳につけていたはずの『ポタラ』――界王神の証である神具が握られていた。

 

「こいつになったオレに遊びはない……お前はもう終わりだぜ、ザマス」

 

 ターブルは小さな気のリングを4つ作りだし、吹き飛ばされているザマスめがけて投げた。それらはザマスの手足へとハマり、空中に固定する。

 さらに次の瞬間にはザマスの正面に現れたターブルが、黄金色に輝く気のオーラで彼を包み込む。それは凄まじい気のエネルギーによって、太陽に匹敵する熱量を閉じ込めたオーラのドームだ。

 

「瞬間移動で逃がしもせん。一撃で消す!!」

 

「なんだとっ…! オレを焼き尽くすつもりか!?」

 

「完全に消滅させるのさ」

 

「くっ!! こんなチャチな輪っかなど……っ! し、神烈斬で……!!」

 

 気の刃を気弾に変えて応じようとしたザマスの抵抗を許すまいと、ザマスを包む金色のオーラに青と赤の層が加わる。それにより、気のエネルギーと熱量が爆発的に増した。

 

「ぐ、ぐおあぁぁぁぁぁぁっっ!!?」

 

 神域に至った超サイヤ人の力に大猿のパワーまで加わった気がどんどん注ぎ込まれ、オーラのドームの密度が高まっていく。

 周辺の空間が歪むほどのエネルギーに、ドーム内部のザマスはもはや身じろぎさえ取れなくなっていた。

 

「ギャラクシーシャインエンドっ!!」

 

 そのかけ声を合図にオーラのドームが一気に凝縮される。

 仕掛けられたこの技の本領は気のエネルギーで相手を包み込んで焼くのではなく、包んだ気を圧縮して相手を潰すことにあった。

 三重にかけられた超高密度のエネルギーはザマスを圧し潰し、さらに分解していく。

 

「うぎゃあああぁっ……! オ、オレはぁ……! 宇宙でもっとも……強く、美し……ぃ……! こ、孤高の…頂…きっ……!! か……み……っ!!」

 

 断末魔の叫びを残して、ザマスは塵一つ残さずに消滅していく。孫悟空の肉体を手に入れて彼を超えようとした、堕ちた神の最期――。

 そんなザマスにターブルが向けた言葉は追い打ちであり、とどめだった。

 

「――言い忘れたがな、ザマス。お前は確かに強かったが、この世界の孫悟空はお前よりもさらに強いんだぜ。この超サイヤ人4ゴッドのオレでも、かなわなかったんだからな……」

 

 

 超サイヤ人4神の変身を解いたターブルはギャラクシーシャインエンドによるエネルギードームの消滅を見届けていた。

 既にザマスが完全に消滅していることは分かっていたが、彼の厄介さについて何度も忠告されており、万一のためだった。

 

(しかし、ちょっともったいないことをしたかな。ザマスにはまだ強くなりそうな余地があった)

 

 ターブルはザマスの戦い方や能力に関してとその危険性について、タイムパトロールを組織した“彼女”から事前に聞かされていた。

 たしかに底知れない強さの持ち主だったが、本来は不死身となったもう1人の自分との完璧な連携によって、さらに数段強かったのだという。

 その状態のザマス達と指輪やポタラの奪還など考えずに純粋に戦ってみたかったものだ、というのがターブルの偽らざる本音だ。

 

(それで最後にはポタラで合体させて……いや、流石にそいつは手に負えなくなるか)

 

 戦い好きのサイヤ人としては未練は残るが、ザマスは生かしておける相手ではなかったのだから仕方がない。

 タイムパトローラーに渡しそびれたポタラをどうしたものかという問題に頭を切り替え、近くに泊めていた宇宙船へと戻るターブルだった。

 

 

* * * * *

 

 

 エイジ852。

 ザマスから時の指輪を回収したタイムパトローラーは彼らの拠点・コントン都は時の巣へと帰還していた。

 

「お疲れさまでした。無事に時の指輪も回収できましたね」

 

「お疲れ様。ターブルがゴクウブラックは倒したし、転移元の世界のザマスも無事に封印されたわ」

 

 パトローラーにとって上司にあたる少女とパートナーにあたる青年の2人が出迎える。

 少女の方は時空の流れを守るタイムパトロール隊を組織した人物、時の界王神。一見すると少女のような見た目だが、7500万年の時を生きる古株の界王神である。

 そして青年の方はタイムパトロール隊の一員にして時の界王神の補佐をする、“どこかの未来の青年トランクス”だった。

 

「ドミグラの残したワームホールもあれが最後だし、これで今回の件は解決ね。時の指輪もこっちで巻物の方を修正すれば大丈夫よ」

 

 時の界王神は時の指輪を受け取ると、巻物を1つ取り出した。時を司る巻物『終わりと始まりの書』は歴史の改変により分裂する。時の指輪と同種かつ、より細分化されたものだ。その巻物は、宇宙の時の流れを管理する時の界王神がまとめることにより修正される。

 

「この分だと時の指輪は巻物の修正で、たぶん別の指輪と1つになるわね……」

 

「それはいったい……」

 

「最初から、無かったことになるのよ。ゴクウブラックになったザマスに世界が荒らされるなんて出来事は起きなかったってね」

 

「そ、それって……よかったんですか、時の界王神様?」

 

 歴史の改変を防ぎ、正しい歴史の流れへと導くのがタイムパトロール隊であり、時の界王神だ。

 その職務からすれば、正しい歴史……すなわち、ゴクウブラックがワームホールに巻き込まれなかった歴史の流れに戻すものと思われた。

 だが――。

 

「仕方ないでしょ! じゃあ、トランクスは自分の世界が1つ消滅するって未来でもいいワケ!?」

 

「えっ!? い、いえ、それは……!」

 

「今回は特別よ。候補とはいえ、界王神が時間の流れを乱す重罪を犯してさらに人間を滅ぼそうなんて、前代未聞だしね。私の権限で、歴史を大きく修復せざるをえないわ」

 

 時の界王神によって時の指輪による干渉から解き放たれて修正された歴史は、ザマスの暴走そのものを消した。

 悟空と出会うこともその存在について知ることもなく、指輪について教えられるのも1000年単位で遅らされた界王ザマスは、いずれ正しい界王神として第10宇宙を統治するだろう。

 彼を選んだ界王神ゴワスの期待通りに。

 

「でも、ザマスは何であんなことを……」

 

 ザマスの所業も彼が迎えるはずだった末路も知るタイムパトローラーがふと疑問を挟む。パトローラーにはザマスが何故ああいう凶行に及んだのか理解ができなかったのだ。

 

「……ザマスは生真面目すぎたのよ。清濁の矛盾を抱えるのが人間で、それを見守る界王神はどこかでその矛盾を飲み込まなければいけない。あの子はそのことに耐えられなかったのでしょうね」

 

 元々のザマスは正義感が強すぎるほどに強い界王だった。だからこそ、過ちを繰り返す人間や見守るだけの自分達に失望し……そして人間が神を超えるケースを知ってしまい絶望し、ついには凶行に走ったのだ。

 

「なら、またザマスが同じような事件を起こす可能性も……?」

 

「大丈夫よ、時間があれば人も神も変わる。ザマスだって、もっと経験を積んで年齢を重ねれば、いずれは人間を理解できるようになるわ。……案外ザマスも年をとったら、あのお爺ちゃんみたいなテキトーな界王神になるかもしれないわよ?」

 

 時の界王神は、木陰でエッチな本を読みふける老界王神を指し示す。

 この宇宙における15代前の界王神であるその老人は、タイムパトロール隊の組織化を手伝った人物でもある。

 根は真面目だがスケベで偏屈な老界王神の人柄については、パトローラーもトランクスもよく知っていた。

 

「あ、ははは……。さすがに、ああなったザマスは想像つきませんね……」

 

「なんじゃい、おまえら。ワシが真剣に読書にふけっておるのに、何をこっちを見て笑っとるんじゃー!」

 

 

 

 ――こうして、エイジ850に現れた魔神の置き土産ともいうべきワームホール事件も最後の1つが片付き、12の宇宙と複数の並行世界を巻き込んだ時空犯罪もここに解決した。

 1つの世界の消滅は未然に防がれ、そしてコントン都にも平和な1日が戻ってきた。

 そして――。

 

(やはり、オレが起こした歴史改変も世界を消滅させる危険をはらんでいた。あのドミグラやトワ達のそれと同じように。だから、オレは……!)

 

 自らの未来に降りかかったかもしれない破滅の可能性にトランクスはタイムパトローラーとしての使命をあらたにする。この宇宙で最初に歴史改変をした償いのため……そして、そうまでして守ろうとした世界とそこに住む人々のため。

 ドラゴンボールの歴史はこれからも守られていくだろう。トランクス達、タイムパトロール隊がいるかぎり……。

 




時の界王神「ゼノバース本編での未来トランクス編の扱い次第じゃ、むしろ今回の話が修正されて消えちゃうけどね?」
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