戦闘民族サイヤ人の王子こそが最強であるべきなのだ!   作:ズラゴッグ

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・前回のあらすじ
 辺境惑星へ送り込まれたターブルは頭を強打したことで並行世界の未来の知識を得て、抑え込まれていたサイヤ人の本能もまた目覚める。
 惑星を飛び出したターブルは突如襲撃してきたツフル人ベビーを倒し、一路地球へと向かうのであった。




其の2 AGE739:侵入!サイヤ人

 地球へ向けて出発したターブルはコールドスリープによって長期の睡眠状態に入っていた。

 その睡眠状態の中でターブルは夢を見ていた。夢の内容は例の“知識”にある出来事の追体験というべきもの。

 孫悟空や孫悟飯、クリリンやピッコロにベジータ、トランクス――彼らZ戦士達の視点を目まぐるしく変え、数々の戦いが映像として伝えられる。地球を中心とした激戦は、時にナメック星や様々な星々を巡ることさえあった。

 さらに魔人ブウとの戦いから後になると、枝分かれした違う歴史の記憶までもがターブルの頭に流れ込んできた。破壊神や復活したフリーザが現れた世界、ベビーや超17号や邪悪龍が現れた世界、そして大猿を率いたピッコロ大魔王にネオピッコロが現れた世界……。

 

(――これらは何者による知識なんだ? そしてボクに何を伝えようとしているのか?)

 

 そんなターブルの問いかけにも、答えとなる知識も記憶も流されることはなかった。

 

 一方、ターブルへと流されるのは知識や記憶の映像だけではなかった。

 宇宙船ポッドによる自動学習機能も働いて、ターブルに様々な惑星についての情報や基本的な戦い方などのサイヤ人としての常識を与えていった。

 学習機能にインプットされた内容はベジータ王による温情で通常のサイヤ人よりも数段高度な教育だったが、ツフル人かフリーザ軍の科学力は幼子にも正しく知識を植えつけた。

 

 そして、それらはターブルに自らの生きる指針を決めさせるには十分なものだった。

 知識を得た瞬間から本能的に決めた地球行きとおぼろげに浮かんでいた自らの生き方が、サイヤ人として目覚めていくにつれて確固たる形になったのだ。

 

(知識によって様々な強さを見せられ、夢想したボクの理想形は――。ボクが至るべき高み、強さ、その姿は――!)

 

 金と赤と青の輝きが強さのイメージとして次々と浮かびあがり、やがてそれらが混ざりあって1つの強さの『答え』が導き出された頃……。これまでに無かった知識の奔流がターブルの頭に流れ込んできた。

 

(これは、何だ……!? まるで今までのものとは違う……!?)

 

 流れてくるのはそれまでと違い、とぎれとぎれな映像に断片的な声のみで、そして今までに見たことのないものだった。これこそが、ターブルに知識を与えた者の記憶なのだろうか。

 

 『究極神龍(シェンロン)! 世界を……世界を元に戻してくれ!』

 

 現れた映像は、ぼろぼろになった天界に浮かぶ赤い神龍と1人の見知らぬサイヤ人の青年の姿。

 この声は青年のものだろうか? 世界を元に戻すとはいったいどういう意味なのか?

 

 『神龍! 最強の武道大会を開いてくれ!』

 

 映像はとぎれて切り替わり、今度はこれまで出てきたことのない場所にいる神龍と少年達へと場面が変わる。そして少年の願いを受けた神龍によって、時空が混ざり合った世界が生まれる。

 ならば彼らが、青年の言った世界を元に戻さなければならない元凶なのだろうか?

 

 これらの記憶から分かるのは、今流れているモノがこれまで見てきた世界とはまた別の世界の出来事だろうことだ。

 “ドラゴンボールの世界”と認識している異世界の者達とは、おそらくは彼らの誰かに違いない。

 だが、それならば何故、どちらもの映像が流れてきているのか。2つの異世界は同一のものなのか? サイヤ人の少年ピニッジとサイヤ人の青年が同一人物なのか?

 

 1つの謎に答えらしきものが導き出されると同時に新たな謎が浮かびあがってくる。

 おそらくはこの世界に彼らの身に起きたものと同様の出来事は起きないのだろう。

 ならば、ターブルに彼らの知識が流れた理由は、原因は何なのだろうか?

 

 答えの出ない謎に思考が堂々巡りを始めた頃、ターブルを起こさんとコールドスリープ解除の報せが船内に鳴り響いた。

 

 

* * * * *

 

 

 辺境惑星からターブルが出発して約1年が過ぎた頃、ようやく彼を乗せた宇宙船ポッドは地球へと到着しようとしていた。

 降下ポイントは地球の東部エリア、東の都からやや西の地点。そこにターブルの宇宙船ポッドは飛来した。

 

(頼むぞ、安全な場所に落ちてくれ……!)

 

 ターブルの願いが通じたのか、宇宙船ポッドは人気のない荒野に落下して半径10mほどのクレーターを作る。すぐにターブルは宇宙船を降りて上空へと浮かび、周囲を見渡す。どうやら運良く人が住んでいるような地域は避けられたらしい。ターブルは安堵の息をついた。

 サイヤ人ら惑星戦士が乗る宇宙船には種類がいくつかあるが、ターブルの乗っているような1人乗りタイプの丸形ポッドは『アタックボール』の異名を持ち、対象惑星への攻撃兵器としての一面を持っている。その性質上、降下自体が惑星への攻撃を兼ねており、特殊な着陸施設がない限りはどうしても周囲に被害が出てしまうのだ。

 地球の詳細な地図も無く、細かい落下地点の修正なども出来ないため、ターブルも星への降下については運頼みにせざるを得なかった。

 もっとも、そのことには到着間際まで気付いておらず、それからの数分間、被害が出ないかとヒヤヒヤしていたのだが。

 

「ここが地球……なるほど、情報通りのいい星だな」

 

 気を取り直して地球を見渡せば、荒野の向こうには緑に溢れた大地や山々が広がっていた。

 文明レベルこそ低くて資源もろくに無いが、食料は豊富で外敵に狙われにくい平和な星。地球は居住するにはうってつけの星だった。

 

(この星を狙うようなヤツはサイヤ人どころかそこらの惑星戦士を探してもいるまい。……ああ、違うな。カカロット、いや孫悟空がとっくに到着しているんだったよな)

 

 孫悟空は惑星ベジータが滅びる直前に地球へと送り込まれており、距離から考えても既に地球に到着しているはずだ。フリーザの侵略直前、悟空の父・バーダックの帰還とすれ違うように赤子の彼は飛ばされたのだから。

 ……そのはずなのだが、悟空が2歳か3歳の頃にバーダックによってフリーザの侵略前に逃がされたという情報も同時に頭によぎったため、正直自信はないのだが。

 

(まあ、それはいいさ。そんなことより、さっそく行動開始といこうじゃないか)

 

 ターブルが地球を住処と定めた理由の1つに地球独自の武術や気功術を学ぶという目的があるのだが、その前にとりあえず目先の問題をいくつか片づけなければならない。

 まずターブルが考えたのは宇宙船ポッドをどうするかという問題だったが、実はこれについてはアテがあった。

 この星には『ホイポイカプセル』という、物質を粒子状に変換して収納する便利な道具があり、それを使えば宇宙船ポッドを小さなカプセルに入れて持ち運ぶこともできるのだ。文明レベルが高くない地球にしては例外的に高度な発明品であり、ターブルとしてもどうしても欲しい道具だ。

 だが、それにはホイポイカプセルを購入する現地のお金が必要となる。

 ついでに、お金がかかるだろう問題がもう1つある。現在、身に着けている戦闘ジャケットのままではどこへ行くにも目立ってしまうので、出来るだけ早めに地球の服を調達する必要があった。

 

「サイヤ人の流儀からすれば、ここは略奪なんだろうが……そういうわけにもいくまい。仕方ない、働いて稼ぐとするか」

 

 渋々ながらターブルはそう決断した。彼が子供であることを除けば、至極当然の判断だ。

 だが、実はこれは戦闘以外ではあまり働かないサイヤ人の戦士としては極めて珍しい考え方だったりする。

 温厚な性格のサイヤ人戦士も珍しいが、まともに地道な労働で賃金を稼ごうとするサイヤ人戦士ともなると、もはや異端の存在といって過言ではないのだ。

 今のターブルはかつて以上にサイヤ人としては異端の存在となりつつあった。

 

(さて、宇宙船ポッドをこのままにしておくわけにもいかんが、お金を得るには人の居る場所まで行かんとどうにもならんな)

 

 宇宙船ポッドを降下地点のクレーターごと土で埋めて隠した後、ターブルは最寄りの街である東の都へと向かった。

 ホイポイカプセルの購入費用を働いて稼ぐことに決めたターブルだが、その前にカプセルの値段や種類についての下調べが必要と考え、カプセルを買える街へと向かうことにしたのだ。

 

(地球の街か……どんなものか楽しみだな。この服装だと目立つだろうし、地球人とのファーストコンタクトもあるかもしれない)

 

 実のところ、1年ぶりの目覚めと平和な地へと逃れてきた自由にターブルは浮かれていた。彼もまだ小さな子供である。地球の文化や地球での出会いに胸を膨らませていたのだ。

 だが、ここからがこの日のターブルにとって災難の連続だった。

 東の都へ舞空術でそのまま入るや否や、ターブルめがけて彼の下方向から次々と何かが飛んできたのだ。

 

「な、なんだ!? 地球人の攻撃か!?」

 

 ターブルの周囲に飛んできた複数の物体が次々に爆発する。その1つを爆発前に空中で掴んだものの、突然の出来事に驚いたターブルは慌てて舞空術を解いて、真下の道路へと降り立った。

 

「攻撃……いや、違うな。なんだ、こいつはただの花火か」

 

 掴んだそれをよく見ると、飛んできた物体の正体はロケット花火だった。どうやらすぐ近くにある公園から飛ばされたものらしい。

 ターブルめがけて飛んできたのはどうやら偶然で、間が悪かったらしい。

 

(偶然とはいえ、こんな危なっかしいモノをぶつけやがって。サイヤ人の王子ともあろう者が、ほんのちょっとだがビビったじゃないか……!)

 

 実は無茶苦茶ビビらされたことへの怒りに任せて、文句の一言でも言ってやろうかと公園へ向かおうとしたターブルだが、それは思わぬ形で遮られた。

 

「こらー、そこの()()()少年! 待ちなさーい!」

 

 降り立った場所が車道の範囲内だったことから、近くに居合わせた婦人警官が走ってきたのだ。呼び止めた言葉は『飛行』と『非行』をかけたのだろう。どうやら地球人はギャグのセンスはあまり無いらしい。

 どうあれ地球へ来て早々に警官と揉めるのは面倒だしよろしくないと、ターブルは呼び声に従って立ち止まった。

 

「いーい、ボク? 道路に急に飛び降りたりしたら危ないでしょ。人によってはトラックに轢かれて死んでしまうこともあるのよ。それに、空を飛んでてもキーンって走ってても、スピードは守らないとダメよ? パトカーを撥ねちゃうことだってあるんだから」

 

 どこからツッコミを入れればいいか分からない注意だったが、一応の言い分は正しい……はずだ。キーンと走った覚えはないのだが、きっとこの婦警には覚えがあるのだろう。

 ならば、人に向けて花火をあげるのはいいのかと言おうかとも思ったが、どうやら彼女はターブルを見つけて急いで走ってきたらしく、彼めがけて飛んできた花火について気付いていないらしい。

 それについて伝えると余計に話が長くなりそうだし、そうなるのは面白くないと考え直し、ターブルは素直に頷いておくことにした。

 

「降りてきたり、歩くのは歩道にするのよ。そして車が走ってる道路を通る時には横断歩道を渡るの。分かった?」

 

「はーい!」

 

「よーし、いい子ね。エライエライ! じゃ、お巡りさん行くからね! バイちゃ!」

 

「バイちゃ!」

 

 ターブルの頭を優しく撫でて婦警は去っていった。そしてそれを笑顔で手を振って見送ったターブルだが、彼女の姿が見えなくなると怒りを露わにした。

 

(くっそ~、余計な時間を食わされた! それもこれもロケット花火をぶつけてきたヤツのせいだ! 何がバイちゃだ、ここはペンギン村じゃないんだぞ~!!)

 

 地球へ来て早々にギャグキャラに落とされそうになっている現状にターブルは恐れを抱いた。

 兄・ベジータは最低でも10年以上はかかったというのに、自分は数時間も経たないうちにこのザマとは想定外もいいところだ。

 おそらく今の時期の地球は平和ボケしやすいのだろう。ほんの1話……いや1年前には殺し合いをしていたとは思えない状態だ。

 

(とにかく、ロケット花火だ! あれを放ったふてぶてしいヤローに一言言わんと、サイヤ人として先には進めん!!)

 

 色々なものをない交ぜにした怒りを抱えてターブルはついに公園へと辿りつく。

 だが、そこにいたのはターブルの想像とは違って、少年と少女の2人だけだった。近くには打ち上げようとしているロケット花火が多数置かれている。

 

(ちょっと思ってたのと違うが、どうやらこいつらが犯人で間違いないらしいな……)

 

 直接はさっきの婦警だが、間接的には彼らの方が先に接触した相手。とんだ形での地球人とのファーストコンタクトだ。しかも、ターブル自身も子供とはいえ、子供が最初の接触対象とは思いもしなかった。

 

「お……」

「おーい! おめぇ達、危ないだろ!」

 

 ターブルの言葉を遮り、彼が発しようとしていたはずの言葉が別の方向から飛んできた。

 少年少女とターブルの3人が同時にその声の方を向けば、彼らよりもだいぶ年上らしき少年の姿があった。彼は自らを通りすがりの消防隊員を名乗った。

 

「おめぇ達、ちょっとした不注意が火事の元になるんだぞ! 花火をする時は3つのことに気をつけなきゃいけねぇ。大人と一緒にすること、燃えやすい物のない広い場所ですること、そして水の入ったバケツを用意することだ」

 

(えっと……こいつ、サイヤ人の子供じゃないよな? 下級戦士にいるタイプと似たような顔してるが……)

 

 サイヤ人の下級戦士によくいる顔立ちにそっくりだが、少年はどうやら間違いなく地球人の消防隊員らしい。

 花火を打ち上げた犯人の少年少女と一緒に何故かターブルまでが消防隊員の少年に説教され、ついでに防火の心得を説かれた。

 

「“あとで”より“いま”が大切 火の始末」

「消えたかな! 気になるあの火 もう一度」

「怖いのは“消したつもり”と“消えたはず”」

 

「よーし。おめぇ達、火遊びはもうするんじゃねぇぞ!」

 

 消防隊員は最後にそう注意すると去っていった。少年少女は意気消沈した表情で、そしてターブルは呆然としたまま、彼を見送っていた。

 ……まさか、地球で最初に学んだ常識が防火の標語になるとは想像だにしなかった。最初に学んだルールは“ルールがないということ”とはならなかったのである。

 たしかに例の知識にもサイヤ人の学習装置にも無い情報ではあったし、一般的にはタメになる心得でもある。

 ……宇宙でも有数の強戦士族たるサイヤ人でもなかったら、火事は脅威なのだから。

 

(色々な意味で醒めたな。思い返せば、ムキになることでもなかった。頭を冷やせてよかった)

 

 先程までの怒りや苛立ちがいつの間にか困惑で鎮火されていた。これも消防隊員の実力ならば恐るべしというべきか。

 そんなことを考えながらぼんやりと立ちつくしていると、少女が話しかけてきた。

 

「さっきはごめんなさい、巻き込んじゃって。私はチャオ、こっちの子は私の弟」

 

「ぼくはパオズ。さっきはごめんね。君の名前は?」

 

「あ、ああ。ボクはターブル」

 

「あなた、見慣れない格好ね。この町の人?」

 

「いや、この街にはホイポイカプセルを見に来たんだ。そのうち買うつもりで、いくらぐらいするか知りたいんだ。君ら、カプセルを売ってるお店の場所を知らない?」

 

「ふーん、でも僕達は知らないなぁ」

 

「近くにお巡りさんがいたから、お巡りさんに聞けば連れてってもらえるわよきっと」

 

 盲点だった。さきほど出会った金髪婦警にカプセルを売っている店まで案内してもらえばよかったのだ。文句を言おうと頭に血を上らせて考えもしなかった。

 

「さっきのお詫びにこのドラゴンケースをあげる。カプセル買ったらこれに入れておくと安心だよ」

 

「あ、ありがとう……」

 

 ロケット花火の件で怒られたお詫びにと、パオズがカプセル用のケースをくれた。

 

(ふふん、地球人も悪くないじゃないか……。うん、さっきのことは水に流そうじゃないか)

 

 ターブルは笑顔で手を振ってチャオとパオズの姉弟と別れ、公園を離れる。

 つい数分前までの怒りもどこ吹く風か、初めての地球人からの贈り物にあっさり心変わりをして上機嫌のターブルだった。

 なお、彼は後に至るまで気付くことはないが、ドラゴンケースは目薬入れである。

 

 

 チャオの助言に従ってさっきの金髪婦警を探してみれば、彼女はまだ近くにいたらしく、すぐに見つかった。

 

「車泥棒に空き巣に銀行強盗まで捕まえたのよ、すごいでしょ~?」

 

 婦警の自慢を話半分に聞き流し、彼女にカプセルを買おうと店を探してると事情を話すと、カプセルを売っている店まで一緒に連れて行ってもらうこととなった。どうやら先に知り合っていたことは無駄ではなかったらしい。

 

「ここがカプセルショップよ。車が入るサイズって言ってたわよね……。だったら、この辺のものじゃないかしら」

 

 ターブルは漠然とカプセルの値段について当たりをつけていた。

 ホイポイカプセルの相場は不明だが、必要なのは空のカプセルだ。そこまでの金額になるとは考えにくい。彼の有り余る戦闘力で1日か2日ほど力仕事で日銭を稼げば、それで問題ないはずだ。

 そう思っていたのだが……。

 

「ご、5万ゼニーだとぉ!? い、いったい何日間働いたらいいんだ……!?」

 

 ターブルはその値段を見て愕然とした。5万ゼニーとは日本円にすれば7万5千円である。

 後に兄・ベジータの会社になるであろうカプセルコーポレーションの商品が、よもや今の彼を苦しめることになろうとは。

 天を仰げば、空には見下した笑顔を浮かべる兄の姿が思い浮かび、ターブルの胸の内にちょっと激しい怒りがこみ上げた。

 

(……今のこの感覚は覚えておこう。いつか伝説の超サイヤ人になる時のために)

 

 これもきっと後に役立つはずだ。出会った婦警も姉弟も、今日という日はそうだったのだから。

 そう思い込むことで怒りを鎮めるターブルだった。

 

 

* * * * *

 

 

 ――時はやや遡り、東の都の隣国にある王城へと舞台は移る。

 

 その城の奥深くに位置する玉座の間は、その名から連想される華やかさとはかけ離れた異様な空間だった。

 玉座の間は高い天井に太い柱が立ち並んだ広い空間だが、そこには豪華なシャンデリアが飾られることもなく、石造りの床には真っ赤な絨毯が敷かれていることもない。唯一、出入り口の扉両側の壁に国の紋章が入った赤い布がかけられているぐらいか。

 さらに室内にも門前にも衛兵や近衛の1人さえおらず、灯りも消えていることで窓もない部屋は薄い闇に包み込まれている。

 

 そんな薄闇に静まり返った室内で1人、玉座の手前でうずくまっている男の姿があった。

 その男は城の主でありこの国を治める王だったが、かつては携えていただろう威厳も風格も既に消え、今や見る影もなかった。

 

「お、おおおぉっ……ぐぐっ、ぐぅう……」

 

 苦しげに呻き声をあげる王の様子を見てのことか、閉ざされた出入り口の扉に影が浮かびあがり、そこから声が響いた。

 

《――苦しいか、王よ?》

 

「う、うぅぅ……! く、苦しいぃ、助けてくれぇ~……!」

 

 王が呻き、影にすがる様に声をあげる。影はその王の様子に、楽しげに続けた。

 

《王よ、苦しいか? 我らに助けを乞うか?》

 

「た、助けてくれぇ……! このままではワシは死んでしまうぅぅ……っ!」

 

《ならば我が意に従え。以前もそれでお前はいい目をみただろう? さあ今一度、我らに忠誠を捧げるのだ》

 

 影の正体が悪魔であることを王はとうに悟っていた。

 かつて、一度だけ王は誘惑に乗ってしまい、その際に王は莫大な富と力を得ていた。――その時にその時に分かってしまったのだ。

 そして、王は今、自分を苦しめているものが()()()()であることも薄々ながら気が付いていた。

 だから理解していた。ここでこの誘いに屈してはならないことを、ここで屈しても何の解決にもならないことを。

 

「な、何をすればいい……。今度は、何をぉぉぉ……!」

 

 それでも。理解していてもなお、悪魔に植え付けられた呪いは深く、苦しみは耐え難かった。

 

《国中を挙げて探すのだ。世界に散りばめられし7つの宝珠、神の龍を喚びだせし秘宝……ドラゴンボールを!》

 

「ド、ドラゴンボール……! ドラゴンボールを、ドラゴンボールを我が前に捧げるのだぁ~~!!」

 

 そうして、ついにその正体を知りつつも王は悪魔の奸計に屈してしまった。

 狡猾な悪魔によって踊らされる王と国が、世界をも揺るがしかねない事態を巻き起こそうとしていた。

 




 ホイポイカプセルを買うためにターブルが向かった先で、新たな出会いと戦いが待つ?
 次回は『謎の軍団とD.B.』だ。
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