転生したら戦闘力5のオッサン以上にモブだった件 作:大岡 ひじき
悟空さんとミランクスさんが離れた場所で会話をしている最中、皆さんはその様子を遠くから伺い、アタシは缶のゴミを回収していました。
人の来ない岩山地帯とはいえ、いやむしろだからこそ、人の出したゴミは持ち帰らなくてはいけませんよね。
決してかつて戦闘力3のゴミと言われたが故にゴミという言葉に反応している訳ではありません。
大型の野生動物が食べ物と間違えて、飲み込んじゃったら死んじゃいます。
そうですそれだけです。
モブのアタシにはそれ以外する事もありません。
クリリンさんに連れられて結構な距離を飛んで来たので、多分もう1人じゃヘリまで戻れませんし。
その間にあちらで超サイヤ人同士の交流(物理)もあったもののすぐ終了して、おそらく今は未来の話をしているものと思われます。
あ、こっち見た。
それからまもなくミランクスさんが飛び立って、悟空さんがこちらに戻って来ました。
皆さんが悟空さんに駆け寄って説明を求めると、困ったような顔をした悟空さんに代わって、話が全部聞こえていたらしいピッコロさんが、ミランクスさんの正体だけ伏せて説明してくれています。
彼が未来から来た事。3年後に現れる人造人間。
悟空さんの死。皆さんの死。
その説明が終わった頃、悟飯さんが何かに気付いてみんなで上空を見上げると、タイムマシンと思われる乗り物が、飛び立ったと思ったらフッと消えました。
「オ…オレは修行をするぞ…」
「オレも…」
天津飯さんとクリリンさんが、呆然となりながら呟くのが聞こえました。
更に一通りの会話が交わされ、最初にベジータが、次に天津飯さんと餃子さんが、その場から飛び立って行きました。
悟空さんがピッコロさんを修行に誘い、クリリンさんとヤムチャさんにも声をかけましたが、2人は自分のペースで修行すると言って誘いを断ってます。
そんな事言ってるからパワーインフレに置いてかれるんですよ。
モブに言われたくないだろうけど。
あ…そういえば。
「ちょ、ちょっと待ってください悟空さん!!」
飛び立とうとしていた悟空さんを呼び止め、思わずアタシはその袖を掴みました。
ヘリに無理矢理乗せられた時は散々ごねましたが、悟空さんに今日会えたのは考えてみればラッキーです。
連絡事項を伝えておきましょう。
「おい、いきなり引っ張んなよマリン」
「ご、ごめんなさい」
体制を崩した悟空さんの顔が一瞬近くなり、アタシは慌てて手を離します。
「さっきのお話を聞いていて、気付いた事があるんですが…」
と一応前置きしてから、例のウィルスについての説明を。
悟空さんのお家のある地域の山は翼竜の生息地に入ってますから、いくらワクチンの数が足りないとはいっても、可能な限り優先的にまわしてもらえる筈です。
念の為こっちでも根回しはしておきますから、帰ったら近くの医療機関にかかって、できるだけ早くワクチンを接種してくださいと、笑って流されないよう真剣にお願いしました。
飲めば治るお薬がちゃんとあるにしても、苦しい思いをしないで済めば、それに越したことはありませんからね。
「…てー事は、やっぱあいつの言ってたマリン博士って、おめえの事だったんだな」
「…はい?」
…いま何か不穏な雰囲気を感じたのは気のせいなんでしょうか。
ひょっとしてミランクスさんのいる時空にも、アタシの存在はあったって事?
え、だったらなんで?
未来のアタシの存在が、転生者である今のアタシと同一人物であるのなら、ミランクスさんが来なかった時点で、悟空さんが死んじゃう未来が予測できてた筈なのに、何故それを阻止できなかったんですか?
ミランクスさんが歴史を変えた時点でこの先の未来が分岐したにしても、少なくともこの時点までは同じ軌道上にあった筈で…あーもう、タイムパラドックスとかパラレルワールドの話はいつだってこんがらがるんですけど!
とにかくアタシが居たって事は、少なくともあちらの世界でのこの時点で、既にワクチンはできていた筈で、悟空さんが死んじゃう事が判っていながら、アタシがそれを無理矢理にでも接種させない筈がないのです。
それでもやっぱり悟空さんがその病気で死んじゃうって事は、何らかの理由でワクチンの接種が間に合わなかったか、ワクチンが効かなかったかのどちらか…?
え、嘘やだ怖い。怖いです。どうしよう。
「お、おいマリン、でぇ丈夫か?顔真っ青だぞ!
まさかもう病気になっちまったんじゃねえだろうな?
ほら!これ飲めよ!」
「いや違いますから!
てゆーかそれは悟空さんのお薬でしょう!?」
「いや、これはおめえの分だ。
オラの分は、もう一個別にある。
さっきまでは、あいつの言ってたのが本当におめえなのかわかんなかったけど、間違いねえみてえだから渡しとくな」
「は?アタシの分?それってどういう…」
「…孫。貴様は悟飯を連れて家に戻っていろ。
こいつへの説明もオレがする。
貴様では余計な事まで言いそうだ」
「おう!頼むぜピッコロ!」
「ピッコロさん、また後で。
それじゃあ皆さん、また3年後に!」
「じゃあな!ブルマ、丈夫な赤んぼ産めよ!」
「え?」
…アタシが混乱しているうちに、悟空さんと悟飯さんはお家に向かって飛び立ちました。
悟空さん帰ってきて、チチさん喜ぶだろうな〜。
でもその後怒られるんだっけ。
悟飯さんを修行させることについて。
ぼーっとしつつ2人が飛び去った方向をただ眺めていたら、
「悪いがこいつを連れていくぞ」
というピッコロさんの声が後ろから聞こえ、次の瞬間アタシは無駄にデカい緑のイケメンに腰を抱かれ、空を飛んでいました。
「え…うわ、ぎゃ───!!
やめてくださいしんでしまいます!!
(今までで一番)速い!!高い!!怖い────!!!!」
「やかましい!わめくな!
静かにせんと首の骨をへし折るぞ!!」
「…すいません」
なんかもう高所恐怖症になりそうです。
…熟考する必要がありそうです。
この更に先の未来で、悟空さんが出会う破壊神ビルス様は「時間に干渉する事は重罪」と仰ってました。
罪になるって事はつまり、少なくとも干渉は可能って事なんです。
実際に過去に戻ってそれをやったミランクスさんがそれを証明してます。
なら、アタシのケースはどうなんでしょう。
アタシは転生者でこの先の未来は知っていますが、基本的にはこの時間軸の人間です。
アタシが知ってる未来を、知った上で故意に改変したら、それも時間への干渉って事になるんでしょうか?
ミランクスさんは多分文句なく、その罪に該当します。
アタシも…やはり同じなんでしょうか?
ビルス様が知れば、あっさり破壊されちゃうんでしょうか?
仮にそうだとしても、アタシにそれが可能ならば、やっぱりアタシは孫悟空さんを助けたい。
このすぐ先の、できればその先にも待つ死の運命から。
例えそれが罪であったとしても。
未来を、運命を………変えたい。
未来『だが断る』
運命『お前じゃない』